経営改革・IT化事例

経営改革・IT化事例
【事例概要】

1.事例報告者
事例題名 経営改革と戦略ITの刷新(J001)
事例報告者 前川 寿住 ITC認定番号 0001362001C
事例キーワード 〔業種〕環境用品、エコロジー用品製造
〔業務〕基幹業務&支援業務(会計、物流、生産、販売、購買、人事)
〔IT〕Webベースの総合システム

2.事例企業概要
事例企業・団体名 株式会社******* 企業概要調査時点 2002年7月
URL http://www.******.co.jp/
代表者 代表取締役社長 ** *** 業種・業態 製造業・環境美化用品
創業 昭和初期 会社設立 昭和30年代半ば
資本金 9000万円 年商 100億円 従業員数 310名
本社所在地 本社:大阪市
東京本社:千葉県
事業所 営業所:全国主要都市8ヶ所
工場:関西、関東に3ヶ所
物流センター:関西、関東に2ヶ所
業界特性  消耗品的要素と単品受注生産が大部分を占めるために、売上の大幅な増減が発生しにくい商品であり、大手企業の参入の脅威も少ない業界
競合他社  事例企業は、業界においては上位に位置づけられている。
リード文  ある企業が株式公開を目標に業務の標準化と情報装備の高度化を進めていたが、うまくいかなかった。 途中でバトンタッチされた経験豊かなコンサルタントがどのように進めていったか・・・・・・。

3.コーディネート内容概略
関与経緯 監査法人経由で業務改革とIT導入コンサルティングを依頼された。
事例対象期間
(執筆時点)
平成13年8月~平成14年3月(平成14年3月執筆)
事例分野 □経営戦略  □IT戦略  ■経営戦略+IT戦略
事例範囲 ■基礎調査
■経営戦略策定  ■戦略情報化企画  ■情報化資源調達
□情報システム開発・テスト・導入  □運用サービス・デリバリー
留意したこと 組織のあり方(組織構造改革と主要ポストへの人事)
主な成果 【途中段階での実績】
・人員削減 :正社員14名、準社員9名
・経費削減 :9000万円/年
・その他効果:
①物流の改善で、顧客への配送リードタイムが平均2日短縮
②出荷管理が簡素化され、営業事務効率化が実現
③経理の集中管理で日時決算の実現に大きく近づいた
パッケージソフト情報 独自開発

【事例詳細】
 株式会社A社様(以下、(株)A社と敬称等を略す)は昭和2年の創業で、環境美化用品の製造販売会社として現在業界上位の企業である。 関西と関東に本社機能と工場を持ち、北海道から九州まで営業拠点を配置して日本全国をカバーしている。 顧客満足度を上げるために「当日受注の当日出荷」を合言葉に、きめ細かいサービスを提供している。 (株)A社は、株式公開を目標に1999年4月より業務の標準化と統合化情報システムの導入を図っていたが、 プロジェクト全体に遅れが発生していた。2001年8月監査法人経由で業務改革とIT導入のコンサルティングを依頼したいとの申し入れがあり、 (株)A社のホームページや帝国データバンクの情報等で事前の調査を行い、また販売店で(株)A社の商品を自分自身の目で確かめてから訪問した。 現状を調査した上でないと責任を持って引き受けることは出来ないと思い、先方の役員に会った際に、基礎調査を行った後、 それ以降をお引き受けできるか判断したい旨を伝え了承を得た。(図表1、図表2)
また、先方の役員との会談により下記情報を得るとともに依頼内容の確認を行った。(図表3)
・創業以来健全経営をモットーに慎重な経営方針で今日まで躍進してきたが、電子取引や電子政府が出来上がる
 今日に至っては、情報での武装化は絶対必要不可欠との認識から企業統合化情報システム導入を図り、株式公開
 のための業務や規定などの整備を同時に進行させる。
・取扱商品は、清掃用品(ハンドモップからロボットまで)、マット、灰皿、人工芝、傘立て、スノコ及びベンチなど幅広く
 約2000アイテムある。

図表1 事前調査の内容
事業ドメイン ・環境用品(事業用70%、家庭用30%)
商品マーケット ・官公庁、学校、工場、ビルメンテナンス会社等
・業界においては上位に位置付けられている
組織 ・研究開発、営業、製造、物流、総務、経理
財務分析 ・年商100億円、経常利益7%、保有資産十分
本社各部門 ・研究開発、営業、生産管理、総務、経理
工場(関西) ・2ヶ所(金属加工、樹脂加工、繊維加工)
物流センター ・関西物流センターにて輸配送は外部委託
東京本社各部門 ・営業、生産管理、総務、経理
東京工場 ・1ヶ所(樹脂加工、繊維加工)
東京物流センター ・関東物流センターにて輸配送は外部委託
営業所 ・全国主要都市8ヶ所

図表2 (株)A社の商品例

図表3 依頼範囲と内容
■経営と業務改革の支援
・経営管理機能の確立
・業務管理機能の確立
■株式公開に必要な業務整備と情報システムの導入
・販売・生産・物流などの基幹業務整備と情報システムの導入
・本支店会計の廃止(財務会計システムの構築)と支店在庫の廃止(物流センター直送)
■規程・業務マニュアルの作成
・役員規定、人事規定、経理規定等規定の整備
■基幹業務マニュアル、支援業務マニュアルの整備

(基礎調査内容および課題の把握)
 関西・関東両拠点を中心に生産・販売の実態を把握すること、関西・関東の文化の違いによる弊害等を把握することを基礎調査の目標においた。 最初の訪問において「礼節の行き届いた従業員が多く活気のある企業」という第一印象を受けた。会長、社長、専務を含む全役員と面接し、 経営者の捕らえている経営課題や今後の展望をヒアリングした。 経営陣は大阪本社で商品研究開発を担当する会長、東京本社で営業統括を担当する社長と人事・財務など企業管理全体を担当する専務がオーナー的位置づけで、 その他各業務を担当する役員で構成されていた。 その後、営業、研究開発、生産管理(購買兼務)、総務人事と財務部、製造現場、物流、支店営業所などの調査を行った。 販売は本社(大阪)・東京本社、製造は全工場、物流は全物流センターを調査した。 基礎調査で図表4に示す課題が明らかになり、図表5の改善すべき主なポイントをCIO(企業内の情報戦略を統括する役員)の役割を担っている財務担当取締役に報告した。

図表4 基礎調査報告内容
経営計画が売上、経費、商品開発の範囲に留まっている。中長期的な計画が無く、 組織間の課題の把握や数値的把握が弱いために改革の実施に向けて施策案が出てこない。
組織が大阪本社と東京本部に大きく分かれ、管理の統一性がなく、マーケットへの施策も東西で独自に行っており、情報交換も不十分な状況である。
生産計画担当者が購買を兼務しているため、材料ロスや外注管理が甘い。標準原価の設定が行われていないため、各個人の原価意識が薄い。
物流業務は関西のみ情報システムが導入されており、関東は手作業である。東西で管理者の意識が異なり、管理体制の統一が当面の課題となっている。
販売は東西に部長職を置き、関東以北は支店展開で営業している。一方関西以西については九州を除いて本社営業でまかなっており、 地方顧客への訪問が十分に出来ていない。販売計画については役員を含めて経験と感と度胸だけで行い、マーケティング戦略意識が薄い。
研究開発は会長の管理下にあり、社長以下が口出しが出来ない状況にある。開発商品のニーズ調査・分析やマーケットリサーチも行われていない。
製造の金属加工は大阪で一括して行っている。樹脂成型やその他の材料関連は外注に依存し、アセンブリメーカーの形態を取っている。 受注の多くは既存商品のアレンジが多く、受注の都度簡略的な手法で図面作成を行っているため、製造現場の負担が大きく、 品質管理も困難な状況が見受けられる。
財務管理は本支店会計を行っているが廃止の方向で着手されており、各支店の要員削減に向かって動き出している。 財務部門は管理レベルが高く評価できる。人事管理は責任者を入れて2名の体制であり、人事労務等規定やその他の規定の見直しが急がれていた。

図表5 基礎調査結果に基づく分析、改善ポイント
全般的に計画性が低く、経営戦略から戦術企画、運営(実行)、管理のプロセスの確立が急務であり、 PDCA(Plan:計画,Do:実施,Check&Action:評価及び是正処置)サイクルの概念を導入すべきである。
■経営課題
経営戦略が明確でない
業務レベルの計画性が低い
組織体系に無理がある
管理機能が曖昧
■改善すべき主なポイント
基幹業務:
購買部門の独立による製造原価の改革
生産管理業務にITを導入し、製造全般の改善のインフラとすべき
関東の物流業務に関西で使用しているITを導入して物流業務の東西統一を行い、総合(東西)在庫管理でマルチ物流を実現し在庫ロスの削減を図る
営業本部の下に販売企画の専任担当者を配置し、マーケット調査、商品企画、顧客の管理の高度化、計画的な販売活動の実施手法を確立を行わせる。
支援業務:
会社全般の規定の明文化と運用方法の確立

基礎調査は、これ以降の本格的なコンサルティングを実施していく際に、 相手の言葉にまどわされることなく的確なアドバイスをするために必要不可欠と私は考えている。

(プロジェクト目標の設定と推進体制)
 (株)A社は各種規定が古く、現在の社会状況に合わなくなっている部分があることから各種管理体系に曖昧な部分が多く見受けられた。 経営改革を実現できる新しい業務の仕組みを構築すると同時に各種規定の改定を行う必要があり、以下の目標とミッションを設定することを提案し、採用された。
■目標 株式公開のために
■ミッション 経営戦略を見直し、現業業務の改善のために効率的な業務の仕組みを策定し、戦略的に情報を活用する仕組みを構築する。
  担当役員と協議して、プロジェクトの進め方を図表6のようにした。進め方のポイントは
企業全体の意思疎通を良くし、経営改革の方向性を明らかにするため、まず経営者のビジョンを明確にする。
「経営環境分析」として「A社の強み、弱み、機会、脅威」を現場担当者と共に検討し、それにもとづいて課題の洗出しを行う。
その後、「個別改革実施企画」として、どの程度の品質で役務を提供するかのサービスレベル目標設定、それを達成するための課題抽出、 各職務を見直して再整理した業務モデルの作成、それらに優先順位をつけて段階的に実施する3フェーズアクションプラン1)の作成、 達成状況把握のための測定指標の選定を行う。
これらの後、情報戦略企画を行い、段階的に情報システムの調達・導入を計画する。

第2フェーズ(90日) 第3フェーズ(8ヶ月) 第4フェーズ(3ヶ月)
①プロジェクト編成
②経営環境分析の実施
③個別改革実施企画
④情報戦略企画
⑤効果目標
①個別プロジェクト立ち上げ
②個別プロジェクト計画
③プロジェクト実施
④モニタリング・コントロール
⑤完了
効果測定
第二次投資プロジェクト策定
図表6 進め方

 プロジェクト推進体制は、全社あげての取り組みを明示するため、8名の全役員と40名の主要な現業スタッフで構成する全社参画型とした。 また、オーナー企業の特性として、オーナー自身が参加しなければ意思決定が遅れ、ひいてはプロジェクト全体の進行に影響を与えたり、 目的が十分に理解されなかったりすることを防ぐためにオーナーである会長が責任を持つ体制とした。 全社参画型で経営改革を通して業務手順等を再構築することにより、 現場の人たちが経営のPDCAサイクルの構造や自己の職務の位置づけを理解して職務意識が向上することを狙った。 また、プロジェクトに遅れが発生しそうな場合でも、オーナーの決断で合宿等を開催して、全員が集まり集中して短時間で出来うることを想定した。(図表7)

CIO:財務担当取締役、プロジェクトコアメンバー:取締役営業部長、取締役製造部長、姫路物流課長、生産管理課長
図表7 プロジェクト推進体制

(経営環境分析から個別改革実施企画まで)
 経営環境分析は、役員が経営環境を分析し、現業スタッフが現業業務の環境分析を行う分担にし、分析結果の発表を合同で行う方式で実施した。 また、個別改革実施企画(販売、製造等の仕事の大きな機能ごとに改革実施の企画)は、主要成功要因ごとに要員計画、コスト見積、実施スケジュール、 効果予測を企画書にまとめ、オーナーの承認を得た後に実施することとした。

図表8 現業業務の環境分析の一コマ

 分析・検討作業はメンバー間のコミュニケーションの効率性と指導の効率性を考え、 プロジェクトメンバー全員が朝9:00から深夜の22:00まで討議と作業を行う合宿形態で行った。 合宿は経営環境分析から情報戦略企画まで計7回に及んだ。経験上予想はしていたが、役員による経営環境分析の初期では、 各役員が種々の問題点を様々な思いで語るため、方向付けに苦心した。また、現業スタッフによる現業業務の環境分析で行った現行業務の分析では、 各部門に業務フロー等を含む業務内容記述書を書いていただき、それを皆で分析したが、 営業部門が提出したものは普段バラエティーにとんだ形で業務を遂行しているためか、品質が悪く、後で分析するのに苦労した。 第1回合宿の深夜11時にようやく当日の成果物の発表が終わった後、 社長が「経営環境分析を1日かけて実施した結果、わが社がどのような状態にあり、今後何をしなければならないのかが見え始めました。 このような手法があることを初めて知り、これまで3年間出来なかった改革が今回のご指導で"これなら出来る"と確信をもてました。」と語り、 指導の甲斐を実感しました。
 経営環境分析の結果、主流商品は1品仕様に近い多品種少量生産品であるため、大手企業の参入が困難な状況であり、また同業他社との競合も少ない。 しかし、中国等東南アジア圏からの低価格品の輸入増大や営業企画力・生産技術の早期強化の必要性を考えると、 将来は合併などを通してシェアーを確保することが今後の課題として上がった。 経営環境分析結果にもとづき、プロジェクト参画者総意での主要成功要因を導き、以下のアクションプランを策定した。

主要成功要因
・新商品開発で家庭用と業務用の分野を確保
・販売力の強化で売上の増加を図る
・人材の育成で組織強化を図る
・IT化を図る
アクションプラン
物流改善 関西・関東共通の物流情報システムの構築でタイムリーな出荷体制を整備するとともに在庫管理を強化する。
組織改革 経営企画室を新設し、計画に基づく経営を行い経営の強化を図る。購買部門を独立し、原価管理を強化する。 開発部門を強化し、顧客ニーズに合った商品開発を短時間で開発する。
生産改革 仕様変更を含めたタイムリーな生産管理機能の確立。
販売改革 関西関東ともに、販売企画に基づく戦略的販売を行う。
経営改革 IT導入により製造・販売・在庫の基礎情報を正確に早く収集・分析して早期対策が取れる体制を整備することで経営基盤の強化を図る。

図表9 経営環境分析での強み、弱み、機会、脅威分析の一部

(情報戦略企画)
 情報システムは、オフィスコンピュータ上で販売管理、購買管理、会計の各システムが稼動している。導入後約5年が経過していた。 各情報システムは単独でシステム化されていたために連携がなく、 総合的な情報が必要になるごとに担当者各自がコンピュータから出力された情報をもとにEXCEL(表計算ソフト)等を利用して、 集計・加工している状況であった。コンピュータネットワークは、本社(大阪)、東京本社、各工場、各営業所が接続されていたが、 メールシステムはそのネットワークとは別に独立して構築されていた。経営環境分析から個別改革実施企画までを行い、それのIT面での実施計画として、 情報化改善企画を行った。
 情報化改善企画では経営改革を推進するために、「情報の活用を全社的に拡大し、分析・計画・実行・モニタリング仕組みを確立すること」を目標とした。 また、情報システム構築の優先順序を下記のように定めた。
 ①最優先(第3フェーズ第1弾)
  ・会計システムの全社統合
  ・関東の物流業務への情報システム導入
 ②第2優先(第3フェーズ第2弾)
  ・販売、生産、購買、在庫の総合機能を構築
 ③それ以降(第4フェーズ)
  ・経営戦略情報化機能の構築(経営的モニタリング機能の集約)

 情報化改善企画で行った次期情報システムの概要検討には全国から関係者メンバーが集まり、短時間で集中して検討作業を行った。 その中で共有すべき情報の管理構造の設計(データベースの基本設計に当たる)や画面・帳票デザインの作成を行ったが、種々のアイデアや意見が出て、 結果的に徹夜で行うことになった。
 情報化もその一つであるが、改革すべき課題が多い上に、全体の改革に足並みを揃えて情報化の改善がなされなければ効果は得られない。 今回の場合、生産、販売、購買、物流の改革に時間と労力が必要なため、改革の効果が早期に見え、 かつ短期間で行える会計システムの全社統合と関東の物流業務に情報システムを導入することで東西物流業務の統一を図り、 サービスレベルを上げることを最優先した。会計の統一化により支店会計要員の削減を行い、物流システムを統一することで即納体制の確立と在庫削減が狙いである。 第4フェーズで生産・販売・物流の基幹業務の計画及び実績チェック支援機能を強化し、成果が明確に判る仕組み作りを行う計画である。

(情報化の実施)
 情報システムの構築はRFP(ベンダーへの提案依頼書の発行)を行い、4社より提案と見積りを受けた。 検討して2社に絞り込んだ上で経営者が出席する提案趣旨説明会を開催し、その後最終決定を行い、構築を開始した。

図表10 今回の進め方

【用語解説】
  用語 解説
3フェーズアクションプラン 3phase action plan 目的を達成するために段階的に進めることをいい、良い作物を得るためには「土を耕し」「土を肥やし」「種を植え」「収穫」 というように一度に完成できない場合などの手続き踏む手順や、段階的に育てていく場合などの順序を3段階で考えたもの。

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