経営改革・IT化事例

経営改革・IT化事例
【事例概要】

1.事例報告者
事例題名 総合建設業における戦略情報化企画コーディネート 事例(J006)
事例報告者 普家 浩文 ITC認定番号 0007182001C
事例キーワード 〔業種〕総合建設業
〔業務〕土木工事管理
〔IT〕グループウェア

2.事例企業概要
事例企業・団体名 美保テクノス株式会社 企業概要調査時点 2001年12月
URL http://www.miho.co.jp/
代表者 野津 一成 社長 業種・業態 総合建設業
創業 1958年 会社設立 1958年
資本金 10,000万円 年商 84億円 従業員数 140人
本社所在地 鳥取県米子市
事業所 事業所は県内各所(工事現場等)
グループ会社14社(美保テクノス株式会社を含む)
業界特性  公共工事は、数量・金額ともに減少傾向にある。一方で、 地域特性として平成13年の鳥取県西部地震の影響でその修復・復旧工事が平成14年度一杯まで特需として存在する。
競合他社 県内随一の総合建設業社
リード文  美保テクノス株式会社は、設立後45年間土木建設業を営み、現在では地元の最有力総合建設業社に成長している。 美保テクノス株式会社からは、「現行グループウェアの活用についての相談」という依頼内容であった。 しかし、実際に訪問し、ヒアリングを行って、最終的には「土木事業全領域の今後のIT化戦略の提案」を行うに至り、 本ケースはIT導入段階を経過し経営成果を実感出来ない企業のIT戦略再構築の事例と云えるものである。

3.コーディネート内容概略
関与経緯 中国経済産業局事業一環で、ITに関する専門家派遣(6日間)において、美保テクノスより依頼があった。
事例対象期間
(執筆時点)
2001年12月 ~2002年3月(執筆時点2003年1月20日)
事例分野 □経営戦略  □IT戦略  ■経営戦略+IT戦略
事例範囲 □基礎調査
■経営戦略策定  ■戦略情報化企画  □情報化資源調達
□情報システム開発・テスト・導入  □運用サービス・デリバリー
留意したこと ・派遣事業として、最高の成果を残すため、経営系と情報系の2名のITコーディネータで支援を実施した。
・企業側の要望が、グループウェアの活用という比較的平易な案件であるが、 過去の経験からグループウェアの活用に悩む企業は戦略の無いまま導入しているケースが多い。 このため、当該企業の問題の本質を捉え、根本課題から解決できるよう留意した。
主な成果 グループウェア導入に力を注いでいた企業の情報化の方針と体制を、経営戦略に基づく戦略情報化推進へと変化させた点
パッケージソフト情報 グループウェア(ノーツ)

【事例詳細】
1. 事例総論
 美保テクノス株式会社(以下、美保テクノスと記述)は、設立後45年間土木建設業を営み、現在では地元の最有力総合建設業社に成長している。 ITに関する専門家を派遣(6日間)するという中国経済産業局事業の一環で、「現行グループウェアの活用についての相談」という依頼を美保テクノスから受けた。 美保テクノスを訪問し、事前ヒアリングを行った結果、「土木事業全領域の今後のIT化戦略の提案」を行うに至った。
 本ケースはIT導入段階を経過し経営成果を実感出来ない企業のIT戦略再構築の事例であった。
 当該企業は蓄積された土木施工技術をベースに公共事業主体の安定した経営で地域の優良企業としての知名度も高い。 また、ISO規定に則った経営計画・目標管理を運用しており順調な経営状態であった。 しかしながら、グループウェア改善のためのヒアリングを実施する中で、収益力や業務スピードに改善余地が見え、 また、経営計画と情報戦略の連動性がないことなどが明らかとなった。 そこで改めて経営戦略や課題に立ち戻って情報化戦略を明確にする事とし、内部外部環境の情報収集を行ってSWOT分析を実施し、 特に近い将来の電子入札化や公共事業の縮減など外部環境の脅威に対して、今後の重点課題(CSF)とそれを支援するIT戦略を再構築し、 CSFを実現するために経営計画の見直しを行うこととした。
 従って、当該企業支援の最大の成果は、「グループウェア導入に注力を注いでいた企業の情報化の方針と体制を、 経営戦略に基づく戦略情報化推進へと変化させた点」である。
 また、今回の事例からITコーディネータが経営とIT化の橋渡しを成功させる秘訣として以下の事を挙げたい。
 まず、成功のためにITコーディネータが考慮すべき点は次の3点である。
  (1) 最初に支援ストーリー(コンサルテングの進め方)を作る
  (2) 経営トップだけでなく現場の声も聞く
  (3) 他社事例を提供する
 一方、成功のために受け入れ企業がなすべき点は次の3点である。
  (1) 担当者任せにしない
  (2) 有望な中堅、若年層を積極的に参加させる
  (3) 要請のあった資料は提供する

2. 事例企業の現状
・経営理念:
  お客様第一主義、地域貢献の経営に徹する
  技術の向上を優先に考える経営に徹する
  風通しの良い明るい職場作りの経営に徹する
  社員の幸福と機会均等を実現する経営に徹する
・事業構成:土木工事50%、建築工事40%、住宅建設10%
・ISO等取得状況:ISO9002認証取得、ISO14001審査登録
・IT化の現状
 -社内LAN(本社1台/人)
 -経理系基幹システム
 -Notesによるグループウェア('98~);
  社内eメール、会議室予約、顧客管理データ、ISO書式集、各種掲示板、休暇申請、部門別計画書、
  営業日報、クレーム情報
・IT関連運用費:2百万円弱/月(除社内人件費)
・戦略の整備状況:
 -経営戦略;
  全社の「年度経営計画方針書」を作成後、各部ごとに「部門方針実施計画書」を整備
  主に重点課題をベースに計画立案
 -情報戦略;
  明確なものは存在せず

3.ITCの支援ストーリー
 以上のような事例企業の現状を受け、2名のITCで打合せを行って、 今回のITC派遣事業は5日間(半日)の企業訪問であることを前提にどこまでを成果とするかを決める必要があった。 そこで、当初の企業側要望はグループウェアの改善であるので、まず経営課題上の位置づけと経営課題解決を図る上で、 グループウェアとして何ができればよいのかを最初に把握する事とした。事前ヒアリングの結果では、経営計画書は目標管理として機能しているので、 経営計画書が明確な経営戦略に基づくものかを把握し、経営戦略を前提にしたグループウェアの改善提案とすることを一旦今回の成果とした。
 しかし、本格的なヒアリングに入って明確な経営戦略が存在しないこと、あるいは様々な経営課題が浮かび上がってきたことから、 経営戦略レベルの検討を行った上で情報化戦略およびグループウェア改善提案を最終成果とすることにした。
 勿論、当初の企業側の診断要望を修正することに対しては企業側の理解と合意が必要で、対応責任者と話し合って納得をして頂き方向変換を行った。 この納得がスムーズに得られたことが今回事例の成功のキーポイントであったように思う。 一つは対応責任者が企業の経営メンバーであったことに加えて、経営戦略見直しの思いもあったことが要因としてあるが、 ITCの説明に耳を傾け受け入れてみる経営者の懐の深さも忘れてならない成功の鍵であった。
 その上で支援の方向性を以下のように定め訪問5回のスケジュール具体化の検討を行った。



 診断企業である美保テクノスは、14社の美保グループを形成しておりその中核企業である。 またこの美保テクノスの中で中核事業は土木事業であり事業の50%を構成し、企業とグループに最も影響を及ぼす。 従って、美保テクノスの土木事業部のIT化展開を行うことで、美保テクノス自身とグループ企業にIT化インパクトと波及をしていこう、 というのが企業側の想いでもあった。以下に美保テクノスの組織概要を示すが、この土木事業を統括している担当常務が今回の対応責任者である。



 スケジュールを具体化するに当たって、
  ・5回の訪問のヒアリングと討議には必ず担当常務(対応責任者)に出席して頂く
  ・訪問回数が少ないのでITCから事前にヒャリングの項目を提示し資料を準備して頂く
  ・各回ITCより宿題を提示し次回に提案して頂く(可能な限り事前にメールして頂く)
  ・現場の責任者、第一線担当者の意見も聞く
  ・最終報告案は事前に提示し担当常務との十分なすり合わせを行う
  ・最終報告会には社長を初め経営メンバーに出席して頂きデイスカッションを行う
 以上を留意して以下のようなスケジュールを具体化した。



4.経営課題と解決の方向性
4.1 当該企業の抱える課題:ヒアリングと受領資料分析より
  ・経営計画が単年度の策定(年度間の関連性が低い)。
  ・経営計画で具体的な実行プログラムが明確にされていない。
  ・積算見積時点では実行予算見積していない。
  ・Notesの共有情報には殆ど検索されないものもある。
  ・システム投資の費用対効果は事前検討されていない。
  ・施工報告書で蓄積された情報を有効活用したい。
  ・粗利目標はこれまでの実績ベースであり根拠に乏しい。
  ・重点施策から重点課題への分解は部門長の想いであり、裏付け情報に乏しい。
  ・計画目標の指標や目標に曖昧なものがある。
  ・重点課題を実施しても重点施策が実現できないなど構造に不備がある。
  ・工程表などは各自がExcelなどで自由に作成しており非効率的な運営がされている。

4.2 当該企業のSWOT分析
 我々は、当該企業にSWOTの抽出を依頼し、その結果と、ヒアリング結果などを踏まえてSWOTを次のように整理した。


4.3 当該企業の重点課題と解決の方向性
 以上のヒアリング、SWOT分析などを踏まえ、当部門の外部環境の見通しはまことに厳しく、技術、コスト、工期、品質そしてこれらの管理能力、 全ての面で業界のトップクラスを目指して、以下のような事業体質の転換が焦眉の急であることを提言した。


 以上の重要課題と改善方向を、バランススコアカードの手法により重要成功要因に対するアクションプランと、 その達成目標を整理したものが図表5の経営戦略マップである。 なお、図表中、具体的な数値目標は、企業の機密上の問題があるため○○のように表現しているので留意して欲しい。



 以上のような提言を最終報告書(A4-20ページ)として、社長をはじめ役員などの列席のもと発表を行った。 当該企業では、これを受けて翌14年度から提言内容を実行し、特にノーツにおいては、 これまでより相当充実した活用が行えているとのコメントを頂いている。

5. 事例企業のコメント
 支援終了から約半年たったITCカンファレンスにて本案件を発表した。 その場に、ユーザ企業から責任者である大野木常務取締役に参加いただき、以下のような評価を得た。
 「上司と現場、あるいは現場間の情報共有にはグループウェアが有効ではないかと考えていたものの、どうすればうまくいくか分らなかった。 ITCと業務分析や戦略立案を進める過程で、組織階層を減らしてフラットにし、グループウェアで支援する体制を作ればよいと確信が芽生えた。」
 また、当企業では、支援終了後見直した情報化戦略に基づき、グループウェアを使った情報共有データベースの要件を洗い出し、この要件をもとに、 グループ内システム子会社に開発を依頼している。さらに、人的側面についても、4月に新年度が始まると組織改革を実施し、所長職をなくし、 課長職も人数を大幅に削減しているとのことであった。

6.まとめとITCとしての気付き
6.1 まとめ
 (1) 当企業は経営戦略からの前提なしにIT化を進められていた事例であった。
 (2) 当企業にはシステムサポート子会社があり、システム開発はその子会社が実施すればよい。
 (3) 当企業にとって、今回の専門家派遣の意義は次のようであった。
  ・経営課題解決の実施手順が理解できた
  ・経営課題解決に必要な業務改革(経営改革)とIT化が明確となった
  ・IT化戦略の必要性が明確になった
  ・参加した社員のモチベーション向上に繋がった。
 (4) 経営状態が順調に見える時に経営改革を全社レベルで一気に進めるのはリスクもあり不安を招きやすい。
  今回のように、全社に対し最も影響度の高い中核事業部門でまず実施し、成功事例を作り、次のステップで
  全社に横展開するやり方が、企業の納得を得やすく近道と云える。その場合、全社横展開を前提にした業務
  改革とシステム作りが重要である。

6.2 気付き
 (1) 経営とITの橋渡しによって、今回のような改善提案の巾と奥行きを拡大できる。
 (2) 経営戦略検討のないIT化戦略アドバイスは困難である。
   (経営戦略検討から進め、IT化戦略をアドバイスする必要がある)
 (3) 当企業のような経営成熟度ではSWOT分析から参画型でおこなうことが有効である。

【用語解説】
  用語 解説
積算見積   公共工事において、積算資料をベースにかかる必要を積み上げ、見積もったもの
実行予算   実際の工事を行うに当り、実際にかかる費用を積み上げたもの
ノーツ NOTES 世界的に普及しているのロータス社のグループウェアパッケージソフト名

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