経営改革・IT化事例

経営改革・IT化事例
【事例概要】

1.事例報告者
事例題名 中小建設業SWOT・BSCによる重要経営課題の策定
事例報告者 藤原末吉
吉田東良
ITC認定番号 0005412001C
0006472001C
事例キーワード 〔業種〕総合建設業
経営戦略策定 SWOT クロス SWOT BSC

2.事例企業概要
事例企業・団体名 株式会社********* 企業概要調査時点 2004年 6月
URL http://www.********.JP/
代表者 代表取締役社長****** 業種・業態 総合建設業
創業 昭和21年11月 会社設立 昭和33年 7月
資本金 9400万円 年商 32億円 従業員数 45人
本社所在地 近畿
事業所
業界特性 公共事業の減少 営業利益率の低下
競合他社
リード文 公共事業の減少、競争激化による営業利益率の低下を余儀なくされる建設業界にあって、
どのように 生き残り策(経営課題)を決定するか、またIT活用をどのように勧めていけばいいのか、・・・・・

3.コーディネート内容概略
関与経緯 平成14年度の経営者研修に参加ののち、平成16年度のITSSP
(計画書策定コンサルティング事業)事業に参加。
事例対象期間
(執筆時点)
2004年6月 ~ 2004年9月 (2004年11月1日)
事例分野 ■経営戦略  □IT戦略  □経営戦略+IT戦略
事例範囲 ■基礎調査
■経営戦略策定  □戦略情報化企画  □情報化資源調達
□情報システム開発・テスト・導入  □運用サービス・デリバリー
留意したこと 実現性の高い経営課題の策定
主な成果 ・重要経営課題の策定
・重要経営課題のアクションプランの策定
・情報化アクションプランの策定
パッケージソフト情報  

【事例詳細】
 株式会社Z社は昭和21年の創業で、以来地域に根付いた企業を目指し、地域NO1の地元工務店として、お客様から信頼を得ている総合建設業である。 これまで、時代の先進技術で大型公共建築から、商業、産業、医療といった広範な建築工事を手掛けてきた(図表1を参照)。 また、企画・開発、コンサルティングから新築・アフターメンテナンスまで、幅広い範囲でお客様の満足に応えている。
 平成11年度に社会福祉法人を設立し、これまで特別養護老人ホームを運営するなど、新規事業を通じた社会貢献にも積極的であり、また平成13年には、 ISOの認証を取得し、都市基盤整備公団から優良施行業者として表彰を受けるなど、経営状態は良好である。
 しかし、この数年間は公共工事の減少及び民間工事の競争激化から、完工高の減少及び営業利益率の低下を余儀なくされ、将来に向けた経営戦略の立案、 とりわけ実現性があり効果の高い経営課題とそのアクションプランの策定が求められる状況であった。平成16年度のITSSP事業を通して、その実現を図ることとなった。

 図表1 作品例

事務所・店舗

工場・研究所

医療・福祉施設

特別養護老人ホーム

公共施設

土木工事

 図表2 基礎調査の内容
 経営理念 ・真のお客様満足を生み出す企業となる
・地域に根付いた企業となる
・高齢化社会に対応できる新たな建設業を医療・福祉をキーワードに創り上げる
 経営目標 定性目標
・地域NO.1地域を広げる
・新しい分野を3年間で強固なものにする
定量目標
・完工高    50億円
・付加価値額 10億円
・経常利益    5億円

 【基礎調査】
 計画書策定コンサルティング事業に先立ち、IT成熟度診断を実施した。IT成熟度診断は、1)経営基盤に関する ビジネス競争力、2)情報化基盤に関するビジネス競争力、3)業務プロセスに関するビジネス競争力、の3つの分野に おける現状の成熟度を診断し、目指す経営目標を達成する上で、将来必要となる成熟度を定めようとするものである。
 今回の成熟度診断を通して、Z社の現状の成熟度は、3分野とも成熟度レベル2(6段階評価)であり、経営目標を達成 するには、成熟度レベル3に上げるとともに、経営目標をより詳細化するための経営戦略策定の必要性が明確になった。 図表2は、その時把握した経営理念・経営目標である。

 【計画書策定コンサルティング事業の目的と実施スケジュール】
目的: 計画書策定コンサルティング事業(以下、プロジェクトと称す)の第一の目的は、その策定プロセスを 通し
て経営戦略を策定することである。なかでも経営戦略の具体的内容となる、重要経営課題とその アク
ションプランを策定
することである。次に、情報化に関して、重要経営課題を考慮した上 での、情報化の
方向性を示すことが第二の木定となる。
 実施スケジュール:以下は、その実施スケジュールである。

 図表3 プロジェクト実施スケジュール
1日目 経営環境分析(SWOT分析)
2日目 経営課題の抽出(クロスSWOT分析)
3日目 重要経営課題の策定
4日目 重要経営課題のアクションプランの策定(その1)
5日目 情報化の現状把握
6日目 重要経営課題アクションプランの策定(その2)
7日目 情報化課題の抽出、情報化課題の策定
8日目 IT化実施計画書


 【プロジェクトの推進体制】
プロジェクトの推進体制は、社長をリーダーとし、各部門の長をプロジェクトメンバーに選定した。
 

図表4 プロジェクト推進体制

 【経営環境分析】
 経営環境の分析は、SWOT分析手法によって実施。
プロジェクトメンバーが一同に会し、カードを使いながら、自社の内部環境の強み(Strengths)と 弱み(Weaknesses)、外部環境の機会(Opportunities)と脅威(Threats)を列挙した。各自が作成した強み、 弱み、機会、脅威のカード毎に、同じ内容のカードを集約するとともに分析を加えながら、いくつかの内容にまとめあげた。
 尚、SWOTの洗い出しは、プロジェクトメンバー以外の全従業員に対しても作成を求め、提出されたその内容も参考資料とした。
 SWOT分析実施にあたり、カードの書き方(1枚のカードに1件を書く、体言止めでなく主語と述語で書く、抽象的な表現をしない、 事実を書く)やKJ法に基づくカードを利用したグループ討議の進め方(カードのグルーピング方法、他者を批判しない等)を理解して、 企業が独自で実施できるよう指導に留意した。例えば、SWOTの洗い出しの視点(経営資源やBSCの視点)やカードの集約方法について、 "強み"に関して手本を示し、後は企業側の担当者をリーダとして実施する方法を採用した。
 最初のうちは少し戸惑いがみられたが、徐々に慣れてこられるので、こうした方法をとることにより、企業側のリーダ養成にも貢献することができたものと思われる。
 
 図表5 SWOT分析結果 
好影響 悪影響
内部環境 強み(Strengths)

1)財務的基盤が強い
2)地域に密着した信頼性の高い優良顧客
3)信頼できる協力会社が多い
4)社内LAN構築によるコミュニケーション
5)福祉、医療関係のノウハウが高い
6)アフターサービスがしっかりしている
7)官公庁の工事に強い
弱み(Weaknesses)

1)設計企画力が弱い
2)新規の顧客営業力を発揮するシステム
 ができていない
3)戦略的管理会計システムができていない
4)既存顧客に対する顧客管理システムができていない
5)一般地主に対する浸透が不足している
6)資料の一元化が遅れている
外部環境 機会(Opportunities)

1)同業者の数が減っている
2)元請の選別化の時代に入っている
3)リフォーム、リニューアル需要の増大
4)高齢化による住宅ニーズの変化が大
5)医療業界、製薬業界の構造変化
6)銀行による強者企業の支援強化
7)企業効率化による生産工場統合の増大
脅威(Threats)

1)公共工事、賃貸マンションの需要の減少
2)顧客企業のコストダウン要求の増大
3)JV、電子入札などの営業方法多様化に
 よる競争激化
4)元請との関係性がドライになっている
5)投資環境の低迷

 【経営課題の抽出(クロスSWOT分析)】
経営課題の抽出は、前出のSWOT分析によって得られた結果のS,W,O,Tをクロスに 分析することにより、作業を行った。

 図表6 クロスSWOT分析結果
機会(O) 脅威(T)
強み(S) 機会と強みを生かしたビジネスチャンス

リフォーム、リニューアル市場への多様な展開
銀行タイアップによる新商品開発と新事業の推進
アフフターフォローが十分でない同業他社への営業
ノウハウを生かした高齢者住宅の提案
騒音対策事業による営業活動の展開
協力会社の発掘と維持
強みを活用して脅威に対応する

福祉医療関連への営業推進
アフターサービス(リフォーム)の充実による新規開拓
インターネット活用による新商品の提供
優良顧客に対する収益性アップの訴求提案
信頼性向上による優良顧客紹介の増加
弱み(W) 機会を生かすための弱み克服課題

設計企画を含む協力会社とのコラボレーション
提案ツール開発による宣伝力強化
既存顧客維持の為のコミュニケーション強化
若手人材教育の強化による営業の展開
銀行を通じた営業活動の強化
 

 【重要経営課題の策定】
 抽出された十数個の経営課題は、重要度、効果性、実現可能性、経営資源の制約等から、テーマを 絞り込む必要がある。クロスSWOT分析により抽出された経営課題を、BSC(バランススコアカード)の 学習と成長、業務プロセス、顧客、財務の4つの視点で因果関係を考慮しながら、経営課題の関連図を作成 した。
 経営課題の関連図の役割は、戦略のストーリー性を明らかにするものであるが、今回の作業を通して、 因果関係を成立させるうえで不足する部分については、必要な経営課題を追加した(図表7の経営課題のうち、 *がついた経営課題 )。
 重要経営課題の策定は、上記の因果関係を成立させた後、プロジェクトメンバー各自が重要経営課題と思うものを 5つ選択し、得点の高い順から以下の7項目を策定した。

1. 既存顧客とのコミュニケーション
2. 提案ツールの開発
3. 協力業者とのコラボレーション
4. 商品知識充実
5. 工事監理システムの充実
6. 管理会計充実
7. 社員教育

 図表7 BSCを応用した経営課題の因果関係


 【重要経営課題アクションプランの策定】
 重要経営課題のアクションプランの策定に関しては、まず実施する担当責任者を割り当てることから 開始した。担当責任者は、その重要経営課題を実施する観点からさらに内容へとブレークダウンし、方法・ 手段を明確化した上で、プロジェクト会議で自分の考えを発表した。その考えに対して他のプロジェクト メンバーが意見を出し合い、修正しながらアクションプランの精緻化を図った。このようなやり方で全ての 重要経営課題のアクションプランの策定を行った。
 その一例を下記に示す。

 図表8 重要経営課題アクションプランの策定例
重要経営課題 内  容 方法・手段 実施時期 責 任 者
商品知識の充実 新製品、価格、仕様などの情報を全社員からテーマを設定して収集する。 「今月の~」と電子掲示板に掲示し、情報提供を呼びかける。    設計積算担当
収集した情報を管理する責任者を決め発言する。 収集した情報分類をファイリングし、社内LANに公開する。   
第3者との情報の共有化
ホームページに社外情報をリンクし社外に公開する。   


 【後続プロセスの進め方】
 プロジェクトの以降のプロセスは,情報化の現状把握、情報化課題の抽出、情報化課題の策定、情報化 アクションプランの策定である。
 情報化課題の抽出に関しては、二つの視点からその課題を抽出をした。最初の視点は情報化の現状である。 情報化の現状把握から、問題点を分析することにより課題抽出を行った。二つめの視点は今回策定した重要 経営課題である。重要経営課題を実現する上での情報化課題の抽出を行った。このようにして抽出された情報 化課題Nひとつひとつに対して、プロジェクト会議にて検討を加えながら、情報化課題を策定していった。
情報化のアクションプランの策定については、重要経営課題のアクションプランの策定と同じ方法で策定を行った。

 【プロジェクトの総括】
 今回のプロジェクトの狙いは、その策定プロセスを通して経営戦略を策定することであり、実現性の高い経営課題の 策定とそのアクションプランを策定することであった。プロジェクトの実施回数は8回と比較的短期間のプロジェクトで あったが、当初の目的を概ね果たすことができた。
 実現性の高い経営課題ということは、アクションプランに裏打ちされていなければならないが、今回のプロジェクトを 通して、重要経営課題の一つである"協力業者とのコラボレーション"は、アクションプランが作成されなかった。 これは、Z社の成熟度と協力業者(専門工事業者)の成熟度がコラボレーションを可能とするレベルまで達していなかったためと 思われる。このように、アクションプランの作成は、経営課題の実現性を担保するうえで、極めて重要な作業であると改めて認識 することができたことは、ITコーディネータにとっても有益であった。
 一方、プロジェクトメンバー側も、「社長を交えたプロジェクト会議で、このように自分の意見を自由に出して発言する機会を 持てたことは有益であった」という意見が大半であり、自分の意見が考慮されるプロジェクト会議は、経営への参加意欲を高める ものとなった。
 メンバーは、今回のプロジェクトを通して他部門の状況を正確に認識することができ、また外部の経営環境の把握を通じて 、経営情報を共有することができた。今後は、これらを共通の土台として、重要経営課題のアクションプランを実行することとなった。
 情報化に関して言えば、社内LAN、一人一台のインターネット環境、グループウェアの導入等、インフラはかなりの程度進んでいる。 しかし、利用状況をみると、その活用度合いは不十分である。
 IT化実施計画は、こうした点を踏まえた結果、情報化に関する新たな投資は行わず、当面は、各自のITリテラシーの向上をはかりながら、 現状の情報資産の有効活用の徹底を図っていくことを施策とする。そうした段階を経た後、2010年CALSE/ECへの対応に向けて 、顧客情報、原価情報、工程情報の統合及びすべての情報の電子化を見当していく方向性が確認された。

 【用語解説】
用 語 略  用 語
BSC
バランス・スコアカード
Balanced Scorecard ハーバード大学のロバート・キャプラン教授が提唱した、従来の財務の視点のみにかたよることのない 新しい経営評価指標を概念的にまとめた経営手法である。経営指標を下記の4つの視点にまとめている。

財務の視点:株主にどのように対処すべきか。
顧客の視点:顧客の要件にどう対処するか。
業務プロセスの視点:社内プロセスはどうすべきか。
学習と成長の視点:変化と革新にどう対処すべきか。

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