ホームページから始まる「おもてなし」 個人旅行客に選ばれる旅館を目指して
団体旅行から個人旅行へ、旅行の形態は大きく転換してきた。これは宿泊業を営む側から言えば、いかに集客(販売促進)を行うか、サービスコンセプトと販促手腕を問われる時代になったということだ。 鳥取県米子市皆生温泉の老舗和風旅館「海色・湯の宿 松月」(以下松月)は、業界の変化が進む平成11年に旅館を改装し、新たなスタート地点に立っていた。 女将の福元サチ子氏のモットーは「お客様の顔を直接見ることができる規模での旅館経営」。そのため客室は19室とあえて小規模に抑えた。価格を下げて客数を増やすより、満足していただけるサービスの提供を指向。集客においても大手エージェントに頼らず、直接予約の増加を目指した。 個人客からダイレクトに予約を受ける販促手段として、常務の福元隆司氏はWebに目をつける。 「7年ほど前に予約機能を持ったページを作ったところ毎月の予約件数が伸びてきました。これを見て、将来に期待を持ちました」 福元常務は独学でWeb作成技術を習得し、サイトの内容を次々と充実させていく。現在では、年間予約件数の4割弱がWeb経由で入るようになった。新聞や雑誌に広告を出せば100万円単位のお金が出ていく。それに比べWebは費用対効果の高いメディアだと言う。 しかし、旅館がWebを作ればどこでも宿泊客が増えるわけではない。松月の場合、旅館のサービス方針とWebをどう結びつけたのだろうか。 サービスを Webでイメージ化 個人客をターゲットにするなら、夫婦・カップル、女性客に好かれる要素が欲しい。とくに、良いものにはお金を惜しまない若い女性が興味を持てば、友達と、恋人と、家族と...と宿泊シーンが広がるはず。松月では、予約制の貸切風呂、アロマセラピーやタラソテラピー(美容マッサージ)が受けられるスパ施設のオープンなど、館内で楽しめるサービスメニューを用意した。 その他にも、松月には日本海を臨む絶好のロケーション、旬の味覚を取り入れた創作和食などのアピールポイントがあり、これらを画像をふんだんに用いてWebで紹介した。まず、顧客に満足してもらえる独自サービスを持ち、それをWebという媒体で伝えようという戦略である。 宿泊先の詳しい情報を得ることで、顧客は泊まるまでのプロセスを楽しめる。「どこか温泉に行く」ではなく「皆生温泉の松月でリフレッシュする」と旅のイメージが具体的に描け、宿泊への期待感が高まるのだ。 そして、来館して心のこもったサービスを受ければ、また新たな印象が追加される。満足度が高ければリピートにもつながるだろう。 「情報提供から始まるおもてなし」――松月のWeb活用は、お客様を心からもてなそうという明確なサービスコンセプトの上に成り立っているのだ。 当館をIT経営教科書に紹介した、ITコーディネータの上田治城氏はこう評価している。 「インターネットの活用と宿泊サービスという経営品質は車の両輪。ITツールと人がうまく融合しているところが松月さんのすばらしさだと思います」
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