最新活動事例

ITコーディネータ座談会
~経営者の思いを受けとめられるITCが企業の力を引き出す~



中小企業がIT導入を検討する際に、その支援をする専門家がいる。3年前に資格制度化されたITコーディネータ(ITC)だ。彼らは本当に企業のIT化を支援してくれるのか、また、ITCの活動は広がっているのか――。関東、中国、中部で精力的に活動している3氏に集まっていただき、座談会形式で話を聞いた。

[出席者・右から]
田中 渉 氏
PA情報システム代表取締役
(神奈川県相模原市)
河野 亘 氏
河野経営情報化研究所所長
(広島県広島市)
水口 和美 氏
ARU代表取締役 (愛知県名古屋市)



  ――これまで中小企業の経営改革、IT革命にITCの方々が少なからず貢献しています。しかし一方で、ITCの存在を知らない企業もまだまだ多数あります。そこでまず、どうすればITCに出会えるのか、皆さんがマッチングの機会をどう作っているかを教えてください。 ITコーディネータ紹介

田中 私は、個人ベースで企業のIT支援を手がけることが多いのですが、これまでの出会いを振り返ると、異業種交流会、経営者研修、紹介、商工会議所の支援、金融機関との連携、成熟度診断などでした。その中で一番多いのは異業種交流会、次が金融機関との連携で、これで半数以上を占めています。
 組織的な動きでは、東京・多摩地区のITコーディネータ多摩協議会で、マッチングの場を整えようと、経済産業省が進めているIT経営応援隊の核となる拠点作りに着手し始めました。

河野 中国地区は、経済産業局がIT支援に熱心なおかげもあって、自治体や銀行などと連携したマッチングが効果を上げています。
 例えば、経済産業局が牽引役となって、地域の各種金融機関との連携に着手しました。
 その過程で、広島銀行が独自にIT支援サービスを展開しようとしていることがわかったので、他に先駆けて広島銀行とITC組合の共同マッチング事業を2004年春からスタートしました。これは、同行の取引先企業からのIT支援依頼に対して、組合がITCをアサインし、商談がまとまったら〝三者契約〟を結び、組合が銀行に紹介手数料を払うという仕組みです。

水口 中部地区の特徴は、情報処理技術者育成のための研修機関である名古屋ソフトウェアセンターと密接に連携している点が一番に挙げられます。NPO法人のITC中部は、「NSC―ITCC」として同センターのコンサル事業の運営を支援する形になっています。ITCにとっては、認知度の高い同センターのブランドを利用することでマッチングの機会を多く作れます。
 企業とのマッチングについては、やはり金融機関との連携――当地区では中小企業金融公庫との連携で大きな成果を上げています。


コスト負担に必ず応える質の高さを維持できるか

  ――企業とのつながりが深い金融機関などとの連携がマッチングに高い効果を上げているということですね。では、「ITCは何をしてくれるのか」「コストはどのくらいかかるのか」といった、企業にとって一番気になる点についてはいかがですか。 ITコーディネータ紹介

田中 名称に「IT」と付いていますが、実際には経営面のコンサルティングから入ることが多く、そこからシステム導入・運用まで幅広くサポートしています。

水口 中部地区では、コンサルティングと合わせて、幹部研修や経営者研修も提供しています。研修機関と連携している強みの1つですね。

田中 費用面では、ITC個人が企業と契約する場合で、1回の訪問につき10万円が一般的です。ただ、中小企業がコンサルティング料という名目でぱっと払えるかというと、厳しいところでもありますね。

河野 実は、あるNPO団体と金融機関との提携で取り入れられた手法は、「一回目のヒアリングは無料にして、二回目からは公的なアドバイザー制度などを使えるかどうかも検討して話を進める」というものです。これは、企業側のコスト負担に配慮したこともありますが、もう1つ、ITC個々のスキル差から〝一律いくら〟と決めにくい面もあったからです。

水口 逆に「無料だったら来なくて結構」という社長もいます。つまり、ITCに質の高さを求めているということです。また、具体的な支援内容によって〝総額いくら〟という形で契約を結ぶことも結構あります。こうした例からすると、企業側も「経営改革やIT活用を実現するためにはコストがかかる」ことを認識しているわけですから、ITCとしては対価に見合った効果をきちんと提供しなければなりません。

優れたITCは社長とコミュニケーションできる

  ――「ITC個々のスキル差」という話がありましたが、ITCに求められる要件は何だとお考えですか。 ITコーディネータ紹介

田中 私は、実際のビジネスで必要な知識やスキルもさることながら、もっと基本的な部分の〝コミュニケーション力〟が非常に重要だと思っています。社長というのは個性の強い方が多いですからね。

河野 相談内容にしても「とにかく革新してほしい」「とにかく任せる」といったようなことが結構ありますよね。しかし、これに対してITCプロセスの説明から入ってしまうと、すれ違いが生まれてしまいます。社長も自社の課題を感じていて相談してきているわけですから、その気持ちを汲み取らなければだめです。

水口 ITC自身が、〝商売〟というものを知ることも大事です。業務知識ではなく、〝社長業の感覚〟です。これを養うには経験を積むしかないのですが、中小企業を経営する感覚が分かってくると、突飛な質問や相談でも受けとめやすくなり、それに対する提案にも同意を得やすくなります。

  ――すると、いかに実践経験を積むか、どうスキルアップを図るかといった仕組み作りも重要ですね。

水口 そうですね。NSC―ITCCでは1つの施策として、コンサルティングの経験がないITC向けに「インターン制度」を設けました。また、コンサルティングなどの業務フォーマットを蓄積し、会員で共有化することも進めています。

田中 インターンの仕組みは、私も個人的に行っています。若い人に場慣れしてもらいたいと思い、ITC多摩協議会のメーリングリストを使って、個々の案件ごとに一緒に仕事をしてくれる「サブ」「インターン」を募集しています。

河野 中国地域では「アドバイザリー委員会」という組織を組合の中に作りました。新人ITCが、ひとまず企業を訪問して話を聞いてきたら、委員会で全面的にバックアップするという仕組みです。

実践力に理論を加えれば企業の真の力を高められる

  ――今後、ITCの活動を地域に広げていくうえでポイントになりそうなことは何ですか。

水口 ベンダーやSI業者との連携が、ITCの仕事において1つのポイントになっていくとみています。
 ITシステムを導入する場合、一番最初のシステム要件定義に結構お金がかかっていますが、このコストは、導入企業側のITレベルによって左右されます。ですから、ITCがきちんとコンサルティングして支援すれば、システム導入コストは安くなるはずなんです。ITCのコンサルティング費用を合算しても、トータルの導入コストを抑えられれば、お客さんにとっても非常に大きなメリットになります。5000万円かかるシステムを4000万円にできるなら、トータルのコンサル料が500万円だとしても高くないはずです。
 こうしたやり方は、経営面の分析が得意ではないベンダーやSI会社の負荷を軽減することにもなります。実際、この点に気付いて「コンサルティングに入ってほしい」と依頼してくるベンダーもあります。

田中 私もベンダーと組んで仕事をする機会がありますが、「非常に助かる」と喜ばれますね。ただ、ITCには〝中立性〟が求められているという面もあるので、その点は気を付けています。

  ――最後に、中小企業経営者の方々へ、ITCを有効活用するための提案、意見をいただけますか。

田中 私が言うのもおこがましいですが、ITによる経営革新の前に〝経営の基本〟、今の時代に必要な経営の基本を勉強していただきたいと思っています。かつての良い時代の経営は通用しなくなっています。きちんと計数管理をしなければ、今の時代は乗り切れません。これを理解してもらえれば、「だからITが必要なのか」と気付くはずです。

河野 私は、「実践なき理論は空虚である。理論なき実践は無謀である」という言葉を名刺に刷り込んでいます。企業を経営されている方は、すばらしい実践力を持っていると思います。ここにITCが提供する理論を加えれば、無謀でも空虚でもない企業としての真の力が向上するということです。

水口 実は、私は以前、ITベンチャーの社長でした。その後、ITCのケース研修を受けたのですが、「こんなマネジメントの仕組みがあるのか。今まで誰も教えてくれなかったじゃないか」と正直びっくりしました。そして、「これは皆に教えてあげなきゃいけない」と心底思い、結局ITCを本業にしてしまいました。そのくらい、この仕組みは本当にいい。元中小企業の経営者が言うのですから間違いありません。


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