連載 ITコーディネータ活用記 <実録 京都室町・矢代仁の経営改革>
経営を分析するにあたり、まず呉服業界の経営環境を把握するところより始めました。 呉服業界の市場規模は1970年代初頭を境に落ち込み現在はピーク時の5%程度にまで減少しています。この数字はまさに呉服という日本の伝統産業が危機的状況に陥っていることを如実に表しています。 その原因を考察してみますと、呉服業界は消費者の嗜好がカジュアル化していくなか高級高額品志向の冠婚葬祭、成人式に代表される式典行事向けのフォーマルシーンに焦点を絞った商品戦略に特化してきました。その結果、展示会販売など業界内での競争も激化し消費者への視点を軽視してきたことで、消費者の生活の中から着物を着るシーンが少なくなっていきました。 新規顧客を創出する努力をせず、既存顧客市場の業界内での奪い合いになってしまったのです。呉服業界の委託販売慣習が経営状況の悪化に拍車をかけた そのことに合わせて、低迷の原因を呉服業界の異常な流通在庫量に見ることができます。市場の最盛期でも呉服業界の流通在庫は、エンドユーザーの消費量の3倍はあったといわれています。その在庫の負担は流通過程で均等に負担されておらず、製造元、卸、販売先という通常の流れのなかで卸問屋と言われる問屋がすべての流通在庫を負担してきました。 これは呉服業界の取引の慣習である委託販売に起因しています。業界大手の財務分析を行う限り、いまだこの滞留する過大流通在庫を克服するには至っていません。緻密なSWOT分析が社長と社員の心をひとつにする このような業界特性を前提とし、矢代仁様における環境分析を全社レベルでのSWOT分析にて行いました。これにより在庫の問題が抽出されるであろうこと、そして矢代仁様個別の問題ではなく呉服業界として長年抱える問題ですから容易に克服できる課題ではないと仮説を立てました。 実際の結果を見てみますと、社長のトップマネジメントによるSWOT分析では「着物離れ」と「在庫過多」の問題をしっかりと捉えておられました。そして社員によるSWOT分析結果は同じ結果が出たのに加え、経営改革のメッセージとも言える内容もいただきました。いわば、社員から会社への、改革へ向けた熱いメッセージがSWOT分析の中に要望として発露しました。SWOT分析のまとめを通じてこの会社は変われること、そして在庫過多の問題などの経営課題についても会社全体で乗り越えていけることを確信しました。 在庫圧縮の施策にはバランススコアカードの視点も取り入れました。学習と成長の視点では「社員スタッフ知識強化と人材育成」と「基幹システムの再構築」から内部プロセスの視点へつなげ「在庫管理強化による売れ筋商品の品揃え戦略の確立」と「製品加工連携事業体の形成」の実行を重要成功要因として設定しました。 現在は、基幹システム再構築のためのRFPの作成と並行し在庫圧縮に向けた経営改革も矢代仁様とともに進めております。 (ITC―METRO京都 間宮達二) ◆SWOT分析とは 企業の内部・外部の環境を分析するための手法。内部環境として自社の強み(strength)、弱み(weakness)、外部環境については自社を取り巻く機会(opportunity)、脅威(threat)という4つの側面から分析する。
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