業務改革事例

2010.07.01
中小企業支援センターでITコーディネータが活躍
~ 三重県産業支援センター ~



財団法人
三重県産業支援センター

三重県産業支援センター・
サブマネージャー
ITコーディネータ
水谷哲也氏

所在地 〒514-0004
三重県津市栄町1丁目891三重県合同ビル内
創業  
従業員数  
URL http://www.miesc.or.jp/
事業内容 「新産業振興」「技術支援」「情報支援」「経営支援」を始め9 つのチーム編成で事業を進める。情報支援チームは本文中に挙げたほか情報提供、人材育成など、また経営支援チームは小規模企業向け融資、ISO 取得、経営革新などの支援を行っている。

情報支援チーム059-228-7299
経営支援チーム059-228-3172

中小企業支援センターとは?

 中小企業経営者が経営上の問題を気軽に相談できる公的施設の中核となるのが都道府県等の中小企業支援センターである。
 中小企業支援センターの主な業務は経営課題解決のための相談およびサポートであり、「ここにくれば問題解決の糸口が見つかる」というワンストップ型のサービスを目指している。経営、技術等の専門家を配置し、政府関係機関や商工会議所と連携するなど情報力が高いのも特徴だ。ただ、名称は地域ごとに異なっており必ずしも「○○県中小企業支援センター」とは言わないないので注意したい(県ごとの詳細は、http://j-net21.jasmec.go.jp/link/top.htmlへ)。
 このような都道府県等中小企業支援センターの中でも情報化推進を積極的にサポートしているセンターの一つが三重県産業支援センターである。
 三重県産業支援センターは津駅から歩いて10分ほどの三重県合同ビル5階にある。館内には各種パンフレットが置かれ、資料の閲覧や会計ソフトの体験利用も可能。気軽に相談ができそうな明るい雰囲気である。
 同センターの特徴の一つは、経営相談の専門家であるプロジェクトマネージャーのほかに、ITコーディネータの資格を有する人材を配置していることだ。現在、ITCの水谷哲也氏が、サブマネージャーとして活動中である。

経営相談からECサイト構築まで幅広くサポート

 本センターが行っている情報化推進に関する事業のうち、代表的なものは以下の三つ。
①窓口相談事業
 文字通り経営に関するあらゆる相談に応じ、資金繰りや補助金などのアドバイスも行う。水谷氏によると「ITに限らず各種経営相談に応じている」とのことで、第一窓口として分野を限定しない柔軟な対応に努めている。実際、経営者がIT相談にやってきたものの、よく話を聞いてみるとむしろ経営上の改善が急務と判断されるなどというケースもあるという。
②専門家の派遣事業
 IT、小売商業などに関する問題解決のための専門家紹介派遣であり、費用の3分の2が国および県から補助される。「専門化」としてITコーディネータを派遣することも多い。水谷氏は、派遣希望企業にヒヤリングを行い、適切な人材を選ぶこともサポートしている。
③電子商取引支援事業
 これは同センターならではの事業だ。「人口が減少していく中で現在の売上を維持していくために、インターネットによる電子商取引(EC)は今からやっておくべきこと」(水谷氏)との認識で、平成14、15年度にはECに取り組む企業に10万円の補助金を出し、講習会などで指導を行ってきた(補助金は終了)。また、Web上のショッピングモール「バーチャルショップみえ」を立ち上げ、県内企業が手軽にECにトライできる環境を整えた。今後はプレゼント企画などでアクセス数を伸ばすこと、店舗数を現在の2倍に増やすことが目標とのことだ。
 三重県はCATVが県内をカバーしており、ブロードバンド環境の先進県でもある。こうしたインフラを活かし、ITを活用した経営革新を支援していく方針だ。水谷氏は「商売上手の方はセンターもITも使い上手。なんでも気軽に相談してほしい」と経営者の積極的な利用を呼びかけている。
 本県では、ITCの「経営とITの両方がわかる人材」という強みを活かし、中小企業支援センターに求められる「ワンストップ型サービス」の実現を後押ししている。こうした中小企業支援センターにおけるITコーディネータの活躍例は、今後ますます増加していくことが予想される。



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2010.07.01
IT導入の最適化
~ 自治体のシステム調達コストを1億円削減 ~



福山市プロフィール
福山市市長室情報政策課
小畠 泰造 課長

福山市市長室情報政策課
徳永 典子 次長
所在地人口 407,456人
予算規模 2,874億円
市職員数 :4,015人(2003年4月現在)
URL  
2003年に沼隈郡内海町、芦品郡新市町と合併。


ベンダーの1社独占体制への疑問

 行政のIT化においても、企業と同様コストを意識した最適なシステム導入が必要――。広島県の東部に位置する福山市は、市民の期待に答えるべく、ムダのない情報化に取組む先駆的な自治体の一つである。
 1992年からメインフレームを中心とした電算処理システムを構築してきた福山市は、職員を5年以内のサイクルで人事異動させていることもあり、専門のシステムエンジニアを配置しにくい状況にあった。
 一方、ベンダーは1社独占体制であるため競争原理が働きにくく、議会から「システム改造やメンテナンスにかかる費用がベンダーの言いなりではないか」という指摘も出ていた。
そこで、「民間に学べ」と白羽の矢を立てたのがITコーディネータだったのである。
 「今や、自治体もコストを下げつつ同レベルの市民サービスを維持することが求められる時代。それにはITを使うしかない。行政にITの専門家はいないから、専門知識を有する民間の方にアドバイスをいただくのが得策と判断した」――福山市市長室の小畠泰造情報政策課長はITコーディネータ採用の経緯をこのように説明する。
 2000年、まずは民間SIの管理職OBを嘱託職員として採用し、2001年からは、同市出身で独立系のITコーディネータとして活躍する中山章氏がコンサルティングを行うこととなった。

情報化資源調達にITCが威力を発揮

 中山氏が担当する主な業務は、各部課の業務システム導入/更新における提案依頼書(RFP)の作成や業者提案総合評価の支援、また、メインフレームのメンテナンス・改良に際しての見積り評価など。今すぐ対応が必要な局面ばかりだ。
 システムエンジニアの経験が豊富な中山氏は、ベンダーから提出された見積りをプログラムの内容に踏み込んで検討。「行政では企業の場合以上に客観性や透明性が求められる」と、緻密な仕事を続けた。この結果、2003年の市町村合併時には、当初予定されていたシステム統合コストを約1億円も削減。見事に市の要求に応えた。
 この他にも、同課次長の徳永典子氏が「日々のシステム運用管理部分もご指導いただいており、頼りにしています」と話すとおり、今や市の情報化においてなくてはならない存在となっている。
 約10年間におよぶ福山市の歩みを整理すると下記のようになる。
・1992年度
メインフレームを中心としたレガシーシステムでバックオフィスの電算処理を行う。
ベンダー一社に任せる問題や自治体にSEの専門家がいない問題が...
・2000年度
民間SI出身の管理者を非常勤嘱託職員として採用
・2001年度
中山章氏を非常勤嘱託職員として採用。週1日、支援を受ける
・2002年度
市町村合併に伴い業務が増大。契約を業務委託に変更し、週2日程度、合併に関わる見積評価、プロジェクト管理を主体に支援を受ける
・2003年度
業務委託を継続、現在に至る

 この福山市の成功は、中国経済産業局が市とITコーディネータの交流会を実施するなど、他の自治体の導入を促す波及効果も生んだ。
 現在、中山氏の立場は嘱託から業務委託に切り替わっているが、小畠課長は「市の職員として我々の指南役になってもらいたいほど」と信頼を寄せている。 福山市では、今後ITコーディネータの増員も考えており、さらなる協働体制による低コストな行政サービスを目指していくとのことである。

コラム 中国経済産業局が市町とITCの交流会を開催

中国経済産業局産業部情報政策課は2003年8月、中国地域ITコーディネータ連絡会(ITC中国)との共催で、自治体・ITコーディネータ交流会を実施した。
 これは福山市の成功を他の自治体にも紹介し、ITコーディネータ(ITC)活用を希望する自治体とITCとの出会いの場を提供しようというものだ。
 産業部情報政策課の岡崎修一係長は、まず自治体ニーズ調査を実施。「回答があった自治体のうち、約50%が交流会に興味を示した」のを受けて、交流会の実現に踏み切ったそうだ。
 当日は中国地域15市町(鳥取市、倉敷市、岡山県久世町、山口市、福山市、三原市、新見市、府中市、竹原市、三次市、庄原市、東広島市、呉市、広島県江田島町、広島県海田町)の18名の担当者と、ITC中国(代表幹事、鳥取県幹事、岡山県幹事、広島県幹事、山口県幹事、および、各県ITC)の19名が参加。福山市と同じくITCを活用中の三原市の事例も紹介された。
 交流会は「ITCへの報酬はいくらか」といった実際的な部分にまで話がおよび、すでに3市ほどでITCの導入が検討されているという。
 末崎豊情報政策課長は「地域に密着したITCの活動を頼もしく思う。ただ、市町村は全国で3000あまりしかない。ITCには地方自治体での実績をベースに、最終的には地域の中小企業の活性化を支援してほしい」と、ITCへの期待を語っている。


ITコーディネータ紹介

 システムエンジニアの豊富な経験を元に、独立系のITコーディネータとして活躍。2001年から福山市の情報化を支援し、現在は業務委託契約を結んでいる。同市では、特に情報化資源調達部分を担当。民間企業以上に透明性が要求されるなか、責任感あふれる仕事振りで情報化コスト削減やシステム運用改善に大きく貢献し市民の期待に応えている。
 「福山市にはITコーディネータへのご理解、またITCプロセスの実践の場を提供していただき感謝している」とその姿勢は謙虚だ。

中山 章 氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

 提案されたシステムが適正価格なのかどうか、工数も含めてチェックするのは大変なこと。専門家がいない自治体内で対応するには限界がありました。情報化資源調達に市場原理をとり入れコスト削減する過程において、ITCによる詳細な調査や見積り評価は大きな力となりました。責任感をもって緻密な仕事をしていただいていることに感謝しています。1億円のコスト削減ができ市民の期待にもこたえられたと思います。
(福山市小畠泰造課長 談)



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2010.07.01
情報戦略を語る―――――
~ 売り込む店から頼まれる店へ  インターネットは商売方法を変える ~



有限会社菊屋
有限会社菊屋代表取締役
三島 治 氏
(写真左)
ITコーディネータ
古山 正樹 氏(写真右)
本社所在地 静岡県磐田市ジュビロード243
創業  
従業員数  
URL http://www.anmin.com 
事業内容 寝具の販売,蚊帳の製造販売。三島社長は日本睡眠環境学会に所属しており、安眠空間創造に関する研究も行っている。


 世の中が便利になる一方で、季節の風物詩が次々と姿を消していく。日本の夏の必需品だった「蚊帳」もしかり。ところが、忘れ去られたはずの蚊帳が、今、あるWebサイトで加速度的に売上を伸ばしている。そのサイトとは静岡県磐田市の寝具店・菊屋の三島治社長が運営する「安眠・com」。自称「今にもつぶれそうな田舎町のふとん屋のオヤジ」だった三島社長がITコーディネータとともにインターネットで見つけたものは、小売店の新しいあり方だった。

――今、なぜ「蚊帳」を?

三島(敬称略) 1996年から地元の「いわたねっと」にホームページを開き、ネットで枕の販売を行っていますが、お客さんとの交流の中で「蚊帳はないか」という声をいただいたのです。
 ふとん屋である私の使命は皆様に安全で快適な睡眠をお届けすることです。殺虫剤を使わずに快適に眠れる蚊帳は、虫除けという実利だけでなく四季を通して安眠を提供できる。エアコンの普及とともに家庭から姿を消しましたが、環境への意識の高まりとともに、見直されています。

――早くからWebを活用されていますが、ITに関心があったのですか。

三島 いえいえ。同級生で今はITコーディネータでもある友人に勧められて始めました。今でも毎日朝の4時から店のシャッターを開ける9時までパソコンと格闘しています。当初、家内には「座ってばかりいないでふとんを売りに出なさい」と叱られましたね......。しかしとにかくこれに賭けようと必死でした。

――店舗の経営がかなり厳しくなっていたのでしょうか。

三島 駅前の小売店が次々と郊外型店舗に移り、人通りが減って来店客数も落ちていきました。新聞折込チラシ、DM、FAXに工夫をこらしたり、戸別訪問したりと努力を重ねましたが売れないのです。ですから、もう、藁をもつかむ思いでした。
 店舗売上は全盛時の半分以下まで落ち込みましたが、おかげさまでWebサイト「安眠・com」の売上が倍増を続け、総売上は5年前の1.5倍になりました。閑散とした商店街で商売の「蚊帳の外」にいた私は、インターネットというネットを張ることで「蚊帳の中」に入ることができたのです。

――なぜ、ここまで販売を伸ばせたのでしょうか。

三島 インターネットは双方向ですからお客さんとコミュニケーションができます。
 例えば、蚊帳は五面体の形をしていますが、ある日切羽詰まった様子のお客さんから「六面体の蚊帳を至急作ってもらえないか」と頼まれました。子どもがムカデにかまれないよう底のある蚊帳が欲しいというのです。そんな商品はどこにもないので、自分で作ってしまった。するとこのムカデ用蚊帳が売れる。こうして蚊帳への要望や思ってもみなかった使い方がお客さんから寄せられるにつけ、商売が広がっていったのです。
 今までは「買ってください」と頼んでばかりいたのに今度は「売ってくれ、助けてくれ」と言われるのですからこんなにありがたいことはありません。インターネットの世界は強い思いをもって臨めば人が集まって花開く――そういうものだと感じています。



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2010.07.01
受発注業務の改革
~ ローコスト経営への大転換で危機を脱出 ~



千葉セルコ
小売主催の食品ボランタリーチェーン本部会社。加工食品、菓子類、日用雑貨類等を取り扱う。現在の加盟店は8社13店舗。

能勢勝美本部長
本社 千葉県千葉市中央区出州港14-35
従業員 4名
業種 卸売業
URL  
   


売上半減。このままでは会社が危ない!

「46億円くらいあった売上が加盟店の脱退などもあり半分に下がったのです。解散するなら財産のある今のうちだと言う人もいるくらい、大きな危機に直面しました」――今から10年ほど前、食品ボランタリーチェーン(独立小売店が主体となり任意に形成したチェーン)を営む株式会社千葉セルコ(千葉県千葉市)が迎えた経営危機を本部長の能勢勝美氏はこう述懐する。
 立て直しには思いきった決断が必要と考えた同社は千葉県・千葉市に相談をもちかけ専門家の派遣を受けることにしたが、一つだけ条件を出した。それは「企業実態に合わせたコンサルティングができる、現場に明るいコンサルタントを」ということだった。過去に依頼したコンサルタントは「大企業で成功した手法を教科書的に押しつけてくるだけ」で思うような結果が得られなかったからだ。そこで千葉県の産業振興センターからITコーディネータ(ITC)小林勇治氏が派遣され同社の再建を担当、派遣任期の切れた翌年からは民間ベースでのコンサルティングを行うことになる。

システムのみならず加盟店との良好な関係づくりまで-ITCのノウハウが隅々で生きる

 小林氏はじっくりと時間をかけ現状を分析、経営改革の計画を立案していく。そして、コンサルティング開始から3年後の1998年に行った本格的な情報システム改革以降、利益は上昇を続ける。加盟店への還元を含めた貢献利益は、IT投資開始時を100とすると3年間で200以上に向上、数字にして2000万円以上をはじき出した。売上はほぼ横ばいだったから、大幅なコスト削減がなされたことになる。
 では、このようなコスト削減を導いた改革の中味とは何だろうか。
 現在、8企業13店舗が加盟するチェーンであるにもかかわらず、同社のオフィスに足を踏み入れると電話がほとんど鳴らないことに気付く。これは、EOS(電子発注システム)がフル稼働しており、徹底した省力化がなされているからだ。
 第一の改革ポイントであるEOSシステムの再構築では、手作業が伴う業務を極力自動化した。例えば通常と価格が異なる特売品もこのシステムで及えるようにして、本部で7日かかっていた発注作業を0.5日に短縮した。またシステムに原価チェック機能を盛り込むことで加盟店側の発注―買掛―照合という一連の作業を削減するなど、徹底した省力化を実現したのである。買掛照合にかかる時間も、9日から0.5日へと激減した。
 発注業務に関しては、システム化のみならず仕入原価の引き下げにも取り組んだ。①不当に高い仕入原価を排除すべく、外部の原価情報を入手しそれを基準に交渉する、②別の交渉相手に話がもれないよう防音性に優れた商談ルームを設けるなど、データに裏付けられた「強気」の商談を進めたのだ。この結果、仕入原価は3.6%~7%の削減を見ることになる。  そしてもう一つのポイントは加盟店との良好な関係づくりだ。
 なぜなら、加盟店といえども少しでも安値を求めて他社に発注するケースも多く、本部との関係がなかなか安定しないという不安があったからである。
 ITC小林氏は、取引額の多い加盟店に特売商品を優先的に回すなど、セルコとの安定的取引が加盟店に有利となる仕組みを提案した。店舗側はセルコとの取引にメリットを感じ、他社への浮気を控えるようになったほか、頻繁に価格交渉を行うことから解放され「いかに売るか」に専念できるようになったという。
 小林氏が「ITの導入だけでなく商慣習にまで踏み込んでこそ真の成果が出る」と指摘する通り、このような商売手法の転換も成功の一要因となっている。

大きな投資も「十分元がとれた」

 チェーン全体での業務効率の大幅アップ、仕入コスト削減、加盟店との良好な関係づくり、さらには物流センターのアウトソーシングなどを含め、IT化と業務改善との調和の取れた組み合せがローコスト経営を実現した千葉セルコ。
 とはいえシステム導入時の投資は約2000万円にのぼり、その年は営業赤字にもなった。しかし、これが良かったのか悪かったのかは結果が示す通り。「十分元が取れた」と能勢部長の満足度は極めて高い。
 大がかりなシステム改善や導入には出費が伴い一時的に業績が下がる場合もあるが、目標をもってこの時期を乗り切ることが成功へのポイントと言えそうだ。
 小林氏は「従業員のマインドが整ってこそ本当の成果が出る。決意したらやりきることが大切」とアドバイスする。いずれにしても数年後に結果が出る大きな投資を行う場合は、信頼できるアドバイザーとの二人三脚が不可欠になるだろう。
 能勢本部長は「小さな会社でもここまでできるということがわかった」と現在の心境を語る。この成果を土台に、次はPOSと連動した棚割り改善による加盟店の販売拡大に取組むとのことだ。



ITコーディネータ紹介

 ITコーディネータ制度の発足前から経営とITの両方がわかるコンサルタントとして活躍、20年にわたる豊富な経験と実績を持つ。効果を定量的に出せなければ顧客は満足しないとの方針に基づき、コンサルティングの期待効果をあらかじめ明示している。成果を上げるためには、マインドウェア、ヒューマンウェア、コミュニケーションウェア、ソフトウェア、ハードウェアの5つの視点でのバランスのとれたレベルアップが必要と、独自の「MiCoSH (ミーコッシュ)革命」という理論を作り上げた。口調は厳しいが、経験に基づいたノウハウと成功まであきらめることなく経営者を牽引する力が経営者の信用を得ている。

小林 勇治 氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

「数値で結果を出してもらえるのがなにより」
 以前、頼んだコンサルタントは教科書通りの話をするだけで、我々の企業実態に現状に合いませんでした。今回は事前に数字による成果を予測いただき、また、結果もその通りになるので大変信頼しています。我々が5つしか解決方法を知らないところに6つ目を提案してくれるのがコンサルタント活用の良さだと思います。
(千葉セルコ 能勢勝美本部長談)



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2010.07.01
顧客対応力強化
~ 「知恵」のデータベース化で業務効率アップと顧客開拓 ~



昭和電機株式会社
代表取締役社長
柏木 武久 氏

営業推進グループ長
栗山 隆史 氏
本 社 大阪府大東市新田北町1番25号
創 業 1950年
社員数 147名
URL http://www.showadenki.co.jp/
事業内容 電動送風機を中核に、ファン・ブロア、集じん機、業務用環境機器など、風力技術に関する総合メーカー。日本全国に営業拠点を配置している。

Web で風力に関するQ&Aを公開
「風力(カゼ)のis工房」
http://www.is-kobo.com/


顧客が求めるスピードにどう対応するか?

「厳しい競争に勝ち抜くためのキーワードは〝スピード〟」――昭和電機の柏木武久社長の経営方針は明確だ。同社は各種工業機械に組み込む電動送風機や集じん機など、風力機械のトップメーカー。地場産業中心と言われる業界にあって全国10ヶ所に営業所を持ち、精力的に事業を展開している。
 低価格競争を避けるための策として柏木社長が着目したのは「最近の顧客はどんどん気が短くなっている」ということだった。問合せ対応も、納期も、常に最短時間を求められる。しかし逆に他社に真似できないスピード力を持てれば、大きな差別化要因になる。こうして掲げられた「最適スピードの実現」という目標をクリアするためのツールがITであった。

ITコーディネータと顧客の気持を知る仕組みを考案

 同社は大阪府でもいち早くコンピューターを導入したIT活用先進企業であるが、2001年の制度開始後早々にITコーディネータ(ITC)を採用したITC活用先進企業でもある。コンサルティング担当となった岩佐修二氏と森下勉氏は、営業推進グループ長の栗山隆史氏を現場リーダーとしたプロジェクトチームとディスカッションを重ね、目標の設定とプランづくりを進めた。
 顧客へのスピード対応という視点から浮き彫りになった第一の課題は、顧客からの技術的な問い合わせに対する応答の速度だった。特注品の依頼や各種機械への組み込みの可否など、技術部門に聞かないと答えられない専門的な質問も多々ある。その都度確認をとるため時間がかかり、また応対する技術部門側の作業が滞る一因ともなっていたのだ。
 「それならば頻度の高い質問と回答内容をまとめ、営業部門がいつでも参照できるようにしたらどうか」――このような発想から2002年7月、新しい仕組みである「is工房(イズコウボウ)」が創り出されたのだった。
 「i s 」は「いろいろ・そうだん」の頭文字からの命名だ。過去にやり取りされたQ &A をデータベースに整理し、営業部門の各種相談窓口として使えるようにしたものである。社内からこのデータベースにアクセスすれば、よくある質問への回答が得られるほか、過去の対応状況もつかめるというわけだ。
 「is工房」の構築にあたっては、栗山氏らが社内から収集した質問内容を21のカテゴリーに分類、キーワードでも検索できるようにした。そして、まだデータベース化されていない質問には専任の担当者を2名配置して追加対応していった結果、社員から「(このデータベースは)業務に役立つ」との評価を得るようになっていった。同時に、利用者も当初の営業部門だけでなく技術部門へと拡大していった。

営業ノウハウの蓄積で顧客への回答品質が向上。そして次のステップへ...

 ITCの森下勉氏が「社内には共に成長していく「共育」という風土があるが、これに合ったシステム」というとおり、is工房は昭和電機の社員がノウハウを共有・活用するための基地として機能し始めたのである。
 導入後は営業担当者の回答がスピーディになったのはもちろん、正しい知識を吸収できることで「顧客への回答の品質が向上した」(柏木社長)という効果も表れた。
 しかし、「is工房」のプロジェクトはここが終点ではない。当初から「顧客のつぶやき、ささやき」(柏木社長)を聞く、つまり潜在ニーズをくみ上げる計画の第一ステップであった。
 「まずは営業担当者の質問の蓄積で顧客の状況を把握することから始めたが、その回りには流通・販売企業、その先にはまだ顔の見えていない顧客がいる」(ITC岩佐修二氏)という認識のもと、運用が軌道に載った2003年8月、流通業者にこのデータベースを公開。そして同年12月には、風力機器の質問に答える一般向けW e b サイト「風力(カゼ)のi s 工房」をオープンしたのである。
 つまりこのデータベースは第一ステップ:社内、第二ステップ:流通・販売関連、第三ステップ:一般向けという3 つの段階が計画されており、第三ステップとなるこのWebサイト「風力のis工房」は、新規顧客からの「昭和電機への入口」としての期待がかかっているのである。
 「風力のis工房」では「is工房」のQ&Aから情報をアレンジして約100件を公開。「アース付きのダクトホースを接続するには」といった具体的な「Q」が並ぶ。これ以外の質問もWebから依頼できるほか、会員登録すると過去の質問内容が一覧できる「マイページ」というサービスまで利用可能だ。
 Web公開のねらいについて、柏木社長は「Webは世界に対して公開するもの。時間はかかるだろうが送風機なら昭和電機、というブランド力を上げたい」と語る。専門情報の開示により顧客の「今すぐ知りたい」という要望を満たし、かつ「専門性に優れた頼れる会社」という信頼感を得ようというのだ。また寄せられる質問一つ一つが商品開発のヒントでもある。栗山氏は「このサイトに直接の購買機能は設けていないが、問い合わせにすぐ対応していくことで受注を獲得できる確率は高い」と期待をかけている。
 「風力のis工房」を入口に新規顧客を獲得する―それが昭和電機の次のチャレンジだ。


ITコーディネータ紹介

 2001年から昭和電機のコンサルティングを担当。3ヶ月かけてじっくりとディスカッションを行い経営戦略を明確にした。今回の「風力のis工房」は当初からの明確な目標設定とスケジュール管理による成果である。
 昭和電機は以前からITの導入に積極的であったが、栗山氏は「ITコーディネータの活用でベンダーとの折衝が楽になった。経営方針を明確に翻訳してもらえるので過剰投資を防ぐことができた」とその活動を評価している。

岩佐 修二 氏

森下 勉 氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

「改革スケジュールが明確になり、過剰投資も回避」

 他社に先駆けて早くからコンピューターを活用してきたが、社内の人間のみでシステム化を行うのは難しい部分もあった。弊社は各分野の専門家に広く意見を求めるようにしており、ITについてはITコーディネータの協力を得ることにした。
 「顧客のつぶやき、ささやきを聞きたい」という経営戦略を具体化すべく、明確な目標設定とスケジュール管理がなされたことが、計画通り「風力のis工房」をスタートできた要因になった。また、経営方針をシステムに「翻訳」してもらうことで、ベンダーとの折衝が楽になり過剰投資を防ぐことができた。これもITC活用の大きな成果といえる。
(昭和電機経営陣の談)



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2010.07.01
営業方針を転換
~ Webで年間3000万円の新規受注 ~



東海バネ工業株式会社
代表取締役社長
渡辺 良機 氏

WebマーケティングGr.
リーダー
渡辺 秀治 氏
本 社 大阪市福島区鷺洲3丁目7-27
創 業 1944年
社員数 70名
URL http://www.tokaibane.com
事業内容
金属バネの設計・製造・販売
コイルバネ、皿バネ、板バネ、竹の子バネ等、大型から小型までフルオーダーメイドでの生産体制をとる
一般的な皿バネ ばねのキャラクター
「ばねっと君」


高い技術力とIT活用で安定収益。しかし、新規受注は増えない...

 板厚0.33ミリ・外径3ミリの皿バネと聞いて、どんなものか想像できるだろうか?
 これは2004年に打ち上げられる赤外線天文観測衛星の望遠鏡に使われる皿の形をした超極小バネ。「どんなバネでも1個から創る」高い技術力をもつ東海バネ工業(大阪府大阪市)が、国立大学の研究プロジェクトに納品した製品だ。
 宇宙を舞台にした国家プロジェクトと同社がコラボレーションをするきっかけとなったのは、Webサイトだった。
東海バネ工業は30数年にわたり優良納税法人の認定を受けるなど安定した経営を続けている企業だ。廉価な規格品ではなく他社に真似できない技術を売るという性質上、「新規顧客開拓より既存顧客の満足度アップ」「大幅な売上増よりは原価削減」に力を入れてきた。ここ数年売上は横ばいではあったものの、たゆまぬ業務改革とITの活用で利益を上げてきた。

ITコーディネータからの「思わぬ指摘」

ところが2002年7月、西岡IT塾で出会った佐伯祐司氏、岡田修一氏という2名のITコーディネータ(ITC)から思わぬ指摘を受けることとなる。それは在庫削減や新規顧客開拓など、戦略上あえて目をつぶってきた事柄を「課題」ととらえ、新しいアクションを起こそうというものだった。さらなる経営革新のスタートに伴い「売上増を目指し新市場を開拓する。その手段としてWebを使う」という実行プランが作られた。
 しかし経費倒れの懸念から消極的だった新規顧客開拓が、本当にWebでできるのか? 疑問の声も上がったが、Webマーケティングを実践中である佐伯氏の体験談を聞き、渡辺良機社長、夏目直一取締役らの経営陣は決意を固める。専任の担当者を置きWebを戦略的に活用する方針を打ち出した。同年10月のことである。
 この決断からわずか1年。東海バネ工業はWebを入り口に名古屋大学、東京工業大学大学院をはじめとする研究機関、高級服飾ブランドなどから合計100件以上、金額にして3千万円の新規受注を獲得した。今まではたどり着くことができなかった技術者や企業へと、Webが橋渡しをしたのである。

集客上げる工夫と丁寧な応対で「欲しい人にバネが届いた!」

 では、成果を上げられた理由はどこにあるのか。
 責任者に任命された渡辺秀治WebマーケティングGr.リーダーがまず手がけたのは、Webサイトのリニューアルだった。「受注に結びつける」というサイトの目的を明確にするため、問い合せ入口のボタンをWebトップページに配置。過去の納入事例や製品特徴、社員の執筆による「ばねの話」など、技術的な情報を積極的に発信したほか、定期的な更新も心がけた。
 つまり、バネについての専門的でかつ親切な情報を見せることで、バネを求める人々を集めようというのだ。技術が売り物の会社にとって、技術情報の開示には葛藤がつきものだが、経営陣は「Webでいくからには情報を積極的に見せよう」と「タブー破り」に踏み切った。ITC岡田氏は「方向を定めたら徹底する経営陣の実行力は同社の強み」と、この決断を評価している。
 さらに、集客力を上げる方策として、来訪者がどんなルートをたどってきたのかを分析(アクセスログ分析)。「バネ」や「ばね」という用語で検索してきた人が多いとわかると、この画面に広告を出すなど対応を進めた。現在、検索サイト「Google」の関連キーワード検索では同社のサイトが常に上位に表示されるようになっている。
 この工夫が効を奏し、来訪者は急増。渡辺リーダーは「Webの可能性は予想以上に大きい。工夫するほど結果が出るのでそれも励みになった」と、この1 年を振り返る。
 ただ、Webサイトはあくまでも問い合せの「窓口」にすぎない。問い合せ客を顧客にするかどうかはその後の社員の対応力にかかっている。ここで奮闘をみせたのが、WebマーケティングGr.の真鍋正次氏だ。真鍋氏は日々送られてくる様々な問い合せメールに、常に「スピーディな応対」を心がけた。技術的な問い合せはすぐ現場に確認をとり、誠意ある文面で回答する姿勢は、受注獲得への強いアシストとなった。
 ITC佐伯氏は「Webは文章によるコミュニケーションの場でもある。その意味で適材適所の人員配置も成功のポイントだった」と指摘している。
今回の成果について夏目取締役は、「すぐれた製品の特徴が、その技術を必要とする人に明確に届いたこと。また、手段はWebでも、やっていることはコミュニケーションととらえたのが良かったのではないか」と分析する。

Webという大きな武器を手にした東海バネ工業が次に目指すのは「世界を相手にした取引」。"バネのふるさと"といわれるドイツにオリジナルバネを納品する日もそう遠くはなさそうだ。


ITコーディネータ紹介

 経営系の佐伯氏と情報系の岡田氏は担当分野も性格も対照的なコンビ。夏目取締役が「ITCのアドバイスがなければWebに着目することはなかっただろう」という通り、IT活用に長けた同社をさらに前進させるコンサルティングを行っている。また、外部アドバイザーが入ることで「やるべきことが明確になりスケジュールが守られ」(真鍋氏)、会議が常に建設的に進められるようになったという。
 Web活用については約300万円の投資で大きな成果を上げ、投資効果の点でも注目を集めている。その他、在庫削減、情報共有化の面でも成果が見られている。

佐伯 祐司 氏

岡田 修一 氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

「ITコーディネータの客観的な分析なくしてこの成果は上がらなかった」
 これまでもITの活用についてはできる限りのことをしてきたので、今までタブーだったことを「課題」として指摘された際には戸惑いもあった。しかし、その客観的な指摘がもう一度経営方針を見直す契機になった。
 特にWebによる情報公開や積極的な新規顧客開拓は、ITCのアドバイスがなければ実行できなかったと思う。社外アドバイザーの存在は、運用段階においても定期的な進捗確認やサポートが社員の刺激になり、担当者の潜在能力を引き出すことにつながった。
 2名のITCをお願いしているが、それぞれ専門分野も性格も対象的であり、より多面的にサポートをしていただいている。
(東海バネ工業経営陣の談)




 インタビュー 映像

■東海バネ工業社長 渡辺 良機 氏に聴く!
  Webマーケティングを進めたきっかけは?
  今回の成果についての感想
  ITCの印象と今後について
  今後の展望は?

■Webマーケティング担当 渡辺 秀治 氏に聴く!
  Webマーケティングの成果とコツは?
  HPのPR方法は?
  今後の展開は?

■ITコーディネータ 佐伯 祐司 氏に聴く!
  改革のすすめ方は?
  改革を促す手段は?
  東海バネ工業はどういう会社だった?

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東海バネ工業社長 渡辺 良機 氏に聴く!

Webマーケティングを進めたきっかけは?

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今回の成果についての感想

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ITCの印象と今後について

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今後の展望は?

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Webマーケティング担当 渡辺 秀治 氏に聴く!

Webマーケティングの成果とコツは?

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HPのPR方法は?

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今後の展開は?

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ITコーディネータ 佐伯 祐司 氏に聴く!

改革のすすめ方は?

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改革を促す手段は?

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東海バネ工業はどういう会社だった?

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2010.07.01
システム調達の監理を支援
~ 最適化によるコスト削減に早くも成果 ~



長野県プロフィール
長野県企画局情報政策課課長       
阿部 精一氏(写真中央)
主任企画員  米沢 義孝氏(写真右)
主任  和田 和美氏(写真左)
人口 220万人
面積 13500Km2
長野県庁 長野市大字南長野字幅下692-2
電話:026-232-0111
URL http://www.pref.nagano.jp/


長野県では2003年から情報化調達の監理業務をITコーディネータに委託。調達の各プロセスで助言を依頼し、県庁内の情報化を円滑に進めている。


  田中康夫氏の知事就任で大胆な改革が進む長野県。県庁に足を踏み入れると職員が笑顔で挨拶。県内の空気同様、来館者を迎え入れる庁内はさわやかさに溢れている。
 財政難が叫ばれる地方自治体だが、長野県も例外ではない。2003年2月に財政改革プログラムを策定し、県庁全体で財政の見直しを行っているところだ。IT活用においては事務職員が担当している業務をIT化で効率化できないか、そして稼働中のホストコンピュータシステムが本当に最小の経費で最大の効果を出しているかとの見直しを進めるなかで、特に情報化調達(基本要求書の策定から運用まで)部分の適正化が課題とされた。そこで、この部分への外部専門家の活用に踏みきったのである。
 庁内情報化を所轄する企画局情報政策課は、専門家として、まずITコーディネータに白羽の矢を立てた。長野県ITコーディネータ協議会・代表幹事の荒井綏氏に相談をもちかけ、同ITC組織のメンバーである村田茂之氏、宮下重美氏、関信一氏の4名に、システム調達監理の業務を委託することにした。

調達面での最適化を目指す

 荒井氏らが平成15年度に監理を担当したのは県庁各担当部署および県機関内の情報システムで、新規開発および改修が5件、システムの保守・維持が8件の合計13件。
 委託業務内容について、長野県企画局情報政策課の米沢義孝主任企画員は「大きな案件を優先に、調達プロセスにおける〈基本要求書作成〉〈システム仕様書作成・設計額積算〉〈システム開発〉〈開発完成〉〈運用開始・保守管理〉の各段階で助言をいただきますが、案件によっては5つの段階のうちから一部を選択して委託するケースもあります」と説明する。担当職員が作成した基本要求書やシステム設計書を評価したり、仕様や積算の妥当性を検証するのが主な役割だ。

<業務プロセスと委託内容>

 基本要求書作成  ← 評価
  ↓
 仕様書作成・設計額積算  ← 評価
  ↓
 入札
  ↓
 システム開発  ← 進捗管理・評価
  ↓
 開発完成  ← 審査・評価
  ↓
 運用開始・保守管理  ← 保守管理・経費評価


 例えば税務課の税務電算システム改修では、税制改正にともなうシステム変更にあたり改修設計の積算チェックを行った。また、新規開発である電子入札システムは要求書・仕様書作成の段階から関わり、「現在はシステム開発段階で基本設計を完成させようとしている。運用はデータセンターの活用を検討中で、低コストかつ安全な運用を計画中」(担当の村田氏)とのことである。

発注価格11%減そして庁内活性化も

  これまでの成果について、長野県企画局情報政策課の阿部精一課長は、「15年度事業の平均で、当初予定より11%の発注価格減が実現しました」と評価する。とくに積算の場面で「一律計算ではなくサンプルチェックするなど、詳細を見てもらった」(米沢氏)ことがコスト削減につながったそうだ。ITC荒井氏は「既存システムの改修率についても、すべて一律にするのではなく、個別のモジュールごとに改修が必要なのかどうか調査した。その結果過大な見積りが発見されたこともある」という。
 さらに、数値部分以外の効果も現れた。阿部課長は、「IT化のちょっとした問題にも相談にのっていただけるという実利的な面をはじめ、既存のシステム運用でもチェックを怠らないITCの姿勢を見ることで、職員の意識改革もできたと思う」と指摘する。第三者の客観的な視点が入ることで、システム内容に関して発注者・受注者の相互理解も深まったそうだ。
 平成16年度は5つの案件が予定されている。長野県ITC協議会では、個々の案件に全力をつくす傍ら、県の情報化推進への積極的な提言、さらには県内市町村への展開も行っていくとのことである。ITCの中立性を活かし、より良い住民サービスが実現されることを期待したい。


ITコーディネータ紹介

 関氏が担当した情報政策課の統合型GISでは、「基本要求書や設計書等のワンポイントアドバイスが中心だが、GIS関係は不法投棄が通報できるシステムなど住民にも役立つものになると思う」という。また宮下氏は「県の限られた経営資源のなかで行政サービス向上、業務効率化、住民の行政参画などに向け、情報化を有効に機能させるよう、戦略化、システム(体系)化、標準化、組織化の4Sの観点から支援していきたい」とのことだ。
村田茂之氏             荒井綏氏(代表幹事)    
           宮下重美氏            関信一氏

        長野県ITコーディネータ協議会
       http://www.m-shinano.com/itc-nagano/


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

「ベンダー色がないので中立性が求められる自治体に合っている」

 県としては、ITコーディネータに限らず幅広く専門家を求めて行く方針だが、今回のITCへの依頼では、適正な情報化が行われているかどうかを中立に監理していただけたと思う。信頼度が高く、安心して仕事を任せることができる。
 発注価格が平均11%減というコスト削減効果、またITCの活動を見る中で、職員の意識改革が進むなど、具体的な成果を得ることができた。


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2010.07.01
ITコーディネータを活用し経営者研修会を開催
~ 東京都港区 ~



港区プロフィール
人口 約16万人
区長 武井雅昭
港区役所 港区芝公園1-5-25
電話:03-3578-2111
URL http://www.city.minato.tokyo.jp/
事業内容 地域企業の活性化を目指し、自治体では経営者の育成・指導を行っている。東京都港区では、経営者研修会のアドバイザーにITコーディネータを採用、地域企業の経営力強化に向けたサービスを始めた。


教材・研修にITCのノウハウを提供

 自治体でも経営者を支援するサービスが増えているが、東京都港区では、2004年の5月・6月に経営者を対象にした研修会を開催した。
 名称は「みなと人材育成塾 後継者育成研修」。区内で様々な事業を営む経営者8名が参加。業務のない土曜日の丸1日を使って、3回にわたり経営革新事例の研究やIT活用の意義を学びつつ、自社の経営分析を行い情報化アクションプラン(行動計画)を立案するというものだ。
 この研修会にITコーディネータが活用されたが、自治体が単独で行う同種の研修におけるITC採用は、初の試みである。
 研修の実行にあたり、港区はITCが作成した教材を利用するとともに数名のITCをインストラクターとして活用した。研修当日は教材開発に携わったITCの川内晟宏氏をはじめ、同席したITCがアドバイスを送った。

経営分析手法に評価

 最終日には各経営者がアクションプランを持ちより、プレゼンテーションを実施。発表内容には各企業の現状分析や研修の成果が反映され、IT活用を含めた意欲的な取り組みが提示されていた。
 本研修会を企画した港区区民生活部商工課商工振興係の宮本裕介氏は「しっかりしたアクションプランが出され、一定の成果が出たと思う。経営を考える上でITは不可欠。区職員にITCがいたこともあって、ITCの良さを知り、今回、一緒にやらせていただいた」と話している。
 終了後の参加者の反応は、「経営の見直しをしようと参加したが、もやもやしていた問題点を言葉にできるようになった」「経営戦略を立てる手法が勉強になった。中味が非常に濃い」「他業界の現状を具体的なケースで勉強できた」など、概ね好評だった。特に経営分析の手法に評価が高く、ITコーディネータプロセスの有効性を感じさせた。



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2010.07.01
在庫管理改革から経営改革へ
~ 適正なベンダー選びが高品質システムのカギ ~



株式会社武田
代表取締役社長
駒田 健治 氏

取締役 経理部長
坂下 健 氏
本社 大阪府東大阪市横枕西86
設立 1962年
従業員 89名
業種 美容・理容用品総合卸業
理容・美容サロンで扱う様々なアイテム約3万点を全国の卸業者に対し大卸している。
ポリシーは「心の豊かさを大切に」。昨今の値下げ競争に巻きこまれず健全経営を続けている。


どうする!? 3万アイテムの在庫管理

 理容室や美容室にある「もの」を思い浮かべて欲しい。薬剤・化粧品、ハサミやブラシ、ヘアピンまで、店舗内ではたくさんの消耗品や道具が使われている。これら、理美容サロンで扱う3万アイテムを全国の卸業者に大卸しているのが、大阪府東大阪市に本社を構える武田である。
 同種の大卸は全国で50社ほどだが、その先の理美容サロンは約32万軒。うち7割近くが一人で経営している小規模店舗だ。対サロン卸業者も小規模企業が多く存在しているため、パソコンを入れてオンライン取引を行うといったIT化はあまり進んでいない。
 ところが、最近は一部の企業でIT化の動きがあり、システムを連動できないかという要望が出るようになったという。
 さらに、「最近は皆、在庫を嫌うので発注が少量・多品種・多回数になってきた」と武田の駒田健治社長は説明する。これに対応するため、省力化して社内コストを抑える必要が出てきたのだ。
 一方、取締役経理部長の坂下健氏は「アイテムが3万もあると帳簿上の在庫と実在庫がずれることがありお客様にご迷惑をかけることもあった。さらに経理の立場では資料がすぐ手に入らず経営分析を迅速に行えない」との問題を感じていたという。

どのコンサルタントに聞けばよいのか?

 物流から見直しをしようと考えた同社は、物流系のコンサルタントに意見を求める。一定のアドバイスは受けられたものの、システム化に向けてITベンダー(システム会社)に提案を依頼すると、ベンダーは物流コンサルタントとは違う意見を言う。
 ――いったいだれのアドバイスを聞けばよいのか...。
 悩んだ同社が白羽の矢を立てたのがITコーディネータだった。「コンサルタントとベンダーの話が一致せず困っていたところ、UFJ銀行からITコーディネータの存在を紹介されたのです」と坂下氏は述懐する。早速、中小企業基盤整備機構(当時は中小企業総合事業団)のIT推進アドバイザー派遣制度に申し込み、ITコーディネータの川端一輝氏にベンダー選定のアドバイスを依頼することにした。
 依頼を受けた川端氏は、いきなりベンダー選定の助言するのではなく、選定基準の元となる「会社の経営課題」の整理を提案した。15名ほどの関係社員にも参加してもらい、①現状はどうなのか<である>を共有、そして②達成したい目標<べき>を共有。これを③行動プランである<する>に整理し、武田が求めるシステムをまとめた「システム提案要求書(RFP)」に結実させていった。
 この過程において、駒田社長は「ベテラン社員は商品台帳が頭に入っているくらい業務に精通しているがゆえに、システム導入には抵抗が起きやすい。私は『将来を考えて決めたことだ、疑うな』と宣言し、わだかまりが残らないようにした」と留意点を指摘する。
 今では年齢の高いベテラン社員もやる気をもって取り組んでいるそうだ。

ベンダー選びがスムーズに システム化に弾み

 ベンダーの選定に関しては、作成したRFPに基づき各社から具体的な提案を出してもらうという方式を取った。関係者がその内容を子細に検討し、2004年5月末、13社の中から1社が選び出された。
 選定にあたっては、
・自分たちが書いたRFPをきちんと理解し、武田のためのシステムを作ってくれるかどうか
・将来予定されている社外とのシステム連携が可能か・きちんとしたサポートが継続的に行われるか
・ベンダー内にITコーディネータもしくは同等の能力をもつ人材がいるか
などについて、関係者が各ベンダーから出された提案書をそれぞれ吟味。皆の評価はおおむね一致したそうだ。これは経営課題やシステム要求内容が共有され、選定基準が明確にされた証とも言えるだろう。
 坂下氏は「過去、オフコン時代にどんどん担当者が変わってレベルが低下した苦い経験がある。レベルの高いSEが継続してサポートしてくれることは欠かせない条件だった」と説明している。
 また、ITコーディネータについては、「ビルの建設に例えるなら、ベンダーは建設会社、ITコーディネータは設計士のようなものと言える。第三者に客観的なアドバイスを求めるのは効果が高い。そのためのお金は惜しんではいけない」(駒田社長)と満足度も高いようだ。
 ITコーディネータの川端氏は、「武田さんの特にすばらしいところは、システム化にあたり駒田社長が強力なリーダーシップを持ち方針がトップダウンで伝わる一方、実現に向けては担当社員が参加意欲をもって取り組み、ボトムアップで進んでいる点です。非常によい方向でプロジェクトが進行していると見ています」と分析する。
 ベンダー選定が終了し、2004年夏からはいよいよシステム構築が始まった。
 でも駒田社長には少しだけ気になることがある。それはIT化は便利だが、均一化して個性がなくなったり心が乾いたりしないかということだ。しかし、これまでも社員が豊かな心で仕事ができるよう、様々な工夫をしてきた同社のこと。また新しい「豊かさ」を生み出していくに違いない。


ITコーディネータ紹介

  ITCインストラクターとして、ITコーディネータの育成にも努める川端氏は、大阪の企業を中心に各地でコンサルティング活動を行っているITコーディネータ。改革においては、担当社員の参加を促し、主役となる従業員の意欲をうまくシステムへ昇華させている。
 株式会社武田の依頼内容は「ベンダーから上がった提案書の評価軸を教えてほしい」というものだったが、評価できるITとは経営課題を解決するはずでだという方針のもと、現状認識と経営課題の把握からスタートすることを提案した。

ITC-Labo
川端 一輝 氏
URL:http://www.itc-labo.com


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

「わが社のために働いてくれるシステムが見出せた」

 IT化の必要に迫られ情報収集を行ってきたものの、自社にはどんなシステムが最適なのかが見えてこなかった。ベンダーに直接相談すると特定の製品・方式を勧められがちなので、中立な立場で我々が実現したいシステムを後押ししてくれるITコーディネータは、まさに求めていたコンサルタントだった。
 選定基準を明確にして最適なベンダーを選び出せたことに加え、経営分析やRFP作成の過程で社員が「武田の構想」を共有できたことも大きな効果だと思う。
 今回選定したベンダーはITコーディネータがプロジェクトを推進しているそうなので、システムの仕上りに期待している。
(武田 経営陣の談)



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2010.07.01
情報戦略を語る―――――
~半信半疑のスタートが在庫20%削減へ 支援制度は知らないと損をする~


             ★ 2003年中小企業総合事業団理事長賞受賞 ★

フジ矢株式会社
フジ矢
代表取締役
野﨑 恭伸 氏
本社所在地 大阪府東大阪市松原2-6-32
従業員数 60人
URL http://www.fujiya-kk.com
事業内容 ペンチ、ニッパ、ラジオペンチ、電動ニッパ等の企画・製造・販売


▲プロをうならせるフジ矢のペンチ


 約3年前、生産管理システムの構築で経営改革に取り組んだフジ矢は、ペンチ・ニッパの国内トップメーカー。様々な公的支援制度を上手に活用し、ITコーディネータとともに改革を進めた同社は、見事、在庫削減によるキャッシュフローの改善に成功した。また、この結果が評価され2003年12月、中小企業総合事業団の理事長賞を受賞。
 3年間の歩みについて、野﨑社長にお話を伺った。


――2003年3月に販売予測データを元に見込み生産を行う生産管理システムが完成しました。
   1年後、成果はいかがですか。

野﨑(敬称略) 数字で見ると売上は7%ほどのアップ、在庫は20%の削減です。借り入れが減ってキャッシュフローが大幅に改善されました。一時、受注が集中した時期には欠品もありましたがおおむね見込みと販売実績が合ってきています。

――商品アイテム数が多いため、従来の商品を一時にまとめて作る方式では大量の在庫を抱える
   リスクがあったわけですね。

野﨑 今は、営業が責任をもって販売予測を出し、それに基づいてどの製品をいつ製造するかの指示が現場に届きます。営業はあるものを売るだけでなく販売戦略を立てる役割を担うようになりました。システム化によっていろいろなデータが入手可能となったのも大きいですね。代理店ごとの売れ筋、地域ごとの売上などを分析して営業に活用しています。

――大掛かりなシステムですから稼働前はご苦労もあったのではないですか。

野﨑 得意先名とか商品単価とかマスターの入力は大変でしたね。完成前は私も毎日夜中の1時、2時まで一緒にデータ入力を行いました。会社の基幹となるシステムですから、自分も中味を知っておきたいとも思いましたし...。
 このシステムは、ITコーディネータ・川端一輝先生のご助言を受け、経営分析から順にプロセスを経て構築したものですが、現場の担当者が使用するため、入力画面をできるだけ減らすなどの工夫もしました。結果、業務に即し、使いやすく出来あがったと思います。

――今回の改革のきっかけはどこにあったのですか?

野﨑 2001年の秋にITSSP事業に参加して、経営分析などの指導を受けたのがきっかけです。はじめは半信半疑でしたが、進めているうちに、「これは良い、せっかくだからもう少しやってみるか」と...。
 その頃はまだIT化は考えておらず、中期経営計画を立案していく過程で生産管理システムの構築がクローズアップされていました。そして平成14年度のIT活用型経営革新モデル事業で補助金をいただけることになったので、一気にシステム化まで行いました。
 また、経営分析の段階から現場の社員が参加したことで社員自身の意識改革が進み、社内が活性化したのも大きな収穫でした。

――補助金の額はどのくらいですか。

野﨑 システムの総額が3000万円なのでその半額の1500万円です。補助金自体もありがたいし、提出する企画書を作成するプロセスで得たものも多かった。また、ITコーディネータのコンサルティングを受ける際にIT推進アドバイザー派遣制度を利用し、派遣費用の3分の2を補助していただきました。こういった制度は知らないと損ですね。企業経営者の方々に是非お勧めしたいと思います。

――今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか。

野﨑 システムは得られたデータを元にした営業効果が見えて初めて貢献が可視化できるといえます。その点では、まさにこれから「どう使うか」にかかっているでしょう。
 生産・業務系システムが完成したので、今度はWeb活用にも積極的に取り組んでみたい。弊社のペンチ製造技術を広くアピールすることや、オーダーメイドによるペンチの直販なども構想しています。



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2010.07.01
受注生産から受注組立生産への転換を図る



株式会社シンクロン
経営企画室室長 :税所 慎一郎氏(写真左)
    営業部長 :石川 忠司氏(写真右)
     課長代理:小又 徹明氏(写真中央)
所在地 東京都品川区南大井3-2-6
代表取締役社長 田中茂徳
従業員数 264名
URL http://www.shincron.co.jp
事業内容


▲山形県鶴岡市の工場
真空薄膜形成装置メーカーとして50年の歴史を持つ。光学薄膜装置分野における日本のトップ企業。光学薄膜、真空蒸着、スパッタリング技術等、研究開発から販売までを手がける。
 本社の他に、技術開発センター、工場(写真)を所有、上海、台中にも支社がある。


ものづくりの仕組みを変えないと「勝てない」

「日報を義務付けているが本当に知りたい細部の情報が記載されない」こう嘆く経営者は多い。情報を集める仕組みを作っても提供者である社員が使いこなさなくては求める効果は得られない。
 この課題をクリアし、価値ある営業日報を運用しているのが東京都品川区の真空薄膜形成装置メーカー、シンクロンである。シンクロンでは、10名ほどの営業担当者が、光学機器メーカー等を訪問するごとに日報を記載する。その提出率は70%というから驚きだ。「引合案件内容」「受注確度(受注の見込み度)」「競合情報」そして「市場動向」等々、30数項目からなる日報データは、生産計画立案の貴重な資料となっている。
 シンクロンでは、なぜ営業日報の記載が定着したのだろうか。導入時に反発はなかったのだろうか?「猛烈な反発がありましたよ。以前は手書きの日報すらなかったのですから」と、営業部部長の石川忠司氏は振り返る。導入を決めたからには「報告を口頭で申告しても受けつけない」と方針を徹底し、根気良く習慣化を推進したという。しかし、成功の秘訣はそれだけではなかった。
 2001年秋、シンクロンを取り巻く競合環境は厳しさを増してきていた。その頃の様子を経営企画室の税所慎一郎室長はこう説明する。「ものづくりの仕組みを変えないと勝てないという経営判断が下った。個別受注生産から受注組立生産へ転換を図らないと我々が生きていく道はないと、悲痛な面持ちでいました」仕組みを変えるに伴い情報システムの入れ替えも必要となり、ERP(経営資源統合システム)の導入を検討した。

ERPの導入効果を出すためにITコーディネータが勧めたこと

 ところが、コンサルティングを依頼していたITコーディネータの矢村弘道氏は、ERP導入前にすべきことがあると「待った」をかけた。「生産計画を立てるなら、経営計画、営業側の販売計画が必要だ。まずは営業情報の収集を定着させてはどうか」。
 こうした議論の末、営業情報を客観的に集めるツールとして企画されたのが営業日報だった。つまり、シンクロンの営業日報は、「販売計画を立てて生産計画につなげる」という明確な使命を担って導入された、「使われるための日報」だ。漠然と「情報共有しよう」と入れたものとは、真剣さが違う。自分の入力した情報が販売計画書となり、生産計画に使われる。データの集計を見れば、案件の進捗も売上目標に対する達成度もわかる。「書いたからには見返りがある」(石川部長)ことで、担当者の当事者意識は大きくなっていった。
もう一つの成功要因は、矢村氏のアドバイスを受けて、システムづくりに取り組んだ経営企画室課長代理・小又徹明氏の努力にある。本システムは専用の営業支援ソフトではなく、データベースソフト「Access」で小又氏が作り上げたものだ。営業担当者が入力する画面は使い慣れている表計算ソフト「EXCEL」で作成し、各担当者が送信した日報をAccessに置き換えるという方法をとっている。
 小又氏はもともと営業部の所属で日報を書く側だったため「どちらかというと否定的な立場だった」という。しかし、販売計画を立てるために個別の情報が必要だと理解すると、どんな情報を集めればよいか、どうしたら皆が記入しやすくなるか、試行錯誤を重ねた。「担当者にヒヤリングをして様子を聞いたり、入力が楽になる方法を探しだしたり、記入項目については皆の意見を聞きながら必要なものをその都度追加していきました」(小又氏)との話からも、奮闘の様子が目に浮かぶ。

営業状況の正確な共有に加え、情報収集の価値を社員が自覚

 2002年4月の導入から2年半が経過し、現在では、Accessに蓄積されたデータを集計して瞬時に分析資料が手に入るまでになった。期待された役割を十分果たしている。
 さらに本システムは別の面での効果も生んだ。それは、毎回営業日報の項目に報告を書くことで、「営業担当者に、単に売るだけでなく情報を取ってくる仕事が自覚された」(石川部長)こと。市場の動きを掴み、販売戦略を立てるという方針が、個々の担当者に浸透し始めたのだ。情報を集められる社員は、経営方針の具現者になる――シンクロンの営業日報からは、こんな法則が見えてくる。
 担当の小又氏はこの結果に満足することなく、日報提出率のさらなる向上やデータメンテナンスルールの構築に取り組んでいる。「まだ課題も多い」とその姿勢は謙虚だ。


ITコーディネータ紹介

 コンサルティング会社に所属し、経営改革、業務改革、現場改革、システム実現支援などの総合的なコンサルティング活動を実施。当初は「ERPを導入したい」という相談だったが、ERP導入の前段階として、販売計画を立てるための営業日報の仕組みづくりを提案した。
 シンクロンとは、中期的な視野をもって改革のプロセスを共に歩んでいる。

日本ビジネスクリエイト  http://www.jbc-con.co.jp

矢村 弘道 氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

  営業日報導入にあたってはSFAソフトの導入も検討しましたが、「チェックマークで入力するのでは顧客と交渉している様子は伝わらない」と汎用ソフトの活用を勧めていただきました。自分の言葉で書き込むことが情報収集や要点整理の訓練にもなり、良かったと思っています。
 日報の稼働後も、入力項目の設定などにアドバイスをいただき、どんな情報を取るべきなのか、気付く点が多くありました。
(税所慎一郎室長 談)



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2010.07.01
インターネットの戦略的活用で 顧客との新しい接点を開く



株式会社フロンティアハウス
代表取締役社長
佐藤 勝彦 氏
所在地 神奈川県横浜市神奈川区二ツ谷町10-8
イースト・ガーデン1F
設 立 平成11年
従業員数 5名
URL http://www.frontier-house.co.jp
事業内容 JR線東神奈川駅近くに店舗を構える。横浜地区を中心に、関東地方の不動産の売・賃貸仲介、管理を行う。また、資産運用の企画や土地有効活用のコンサルティング分野に力を発揮。今後は物件の管理業務にも力を入れていく予定。

明るく見やすいホームページ。
中央にあるのが自社物件の賃貸情報


顧客が要請するインターネット対応

 一般消費者向けのビジネスをしている企業にとって、顧客の変化は決して見逃してはいけない要素だ。「インターネットを活用することを探求しなければ」――不動産業を営む神奈川県横浜市フロンティアハウスの佐藤勝彦社長がこう考えたのも、顧客の動きが変わってきたからだ。
 賃貸物件を探す顧客といえば、住みたい町の駅に行き、駅前の不動産を訪ねるのが一般的。しかし、最近、特に若年層は「インターネットで条件を入れて検索し、物件を絞ってから不動産店舗を訪れる」(佐藤社長)ようになってきた。首都圏の賃貸物件は7割が単身者向けワンルーム、そして毎年何十万人という若者が引っ越してくる事情を踏まえれば、こうした「ネット族」への対応は不可欠なのである。大手の不動産情報サイトに登録はしているものの、もっと戦略的にインターネットを活用するべきではないか? と考えた。

ITコーディネータが提案した小規模企業のネットワーク活用とは?

  解決策を求めた佐藤社長は、ITコーディネータの活用でネット販売に成功した横浜市伊勢佐木町の時計店の話を聞き、ITCに関心を持つ。そこで経済産業省が推進するITSSP事業の参加を入口に、ITコーディネータの助言を受けながらネットワークの活用を進めていくことにした。
 担当ITCの小杉史郎氏は、定期的なITの勉強会を実施しIT活用のスキルをアップしていく一方で、ホームページの立ち上げ、その前段階としてインターネット環境の整備を提案する。
 同社はすでにインターネット接続は行っていたものの、特定のパソコンをISDN回線につないでいたため、速度が遅くトラブルも多かった。そこで社内のパソコンをLANで接続し、インターネット接続には光ファイバーを導入。どのパソコンからも高速にインターネット接続ができるようにした。
 同時に、代表用1つしかなかったメールアドレスを社員ごとに所有。サーバーの自社運用は負担になるので、NTTコミュニケーションズのホスティングサービス「メール&ウェブ」を使って、アウトソーシングした。
 不動産業では、登記簿謄本や路線価評価などを調べる機会が多い。こうした情報はインターネットでも公開されているため、常時接続が実現してからは、社内のパソコンから簡単に調べられるようになったそうだ。またメールで顧客とコミュニケーションを取る機会も増えた。佐藤社長は「ネット環境を整えたことによる業務効率の改善は大きい」とその効果を実感している。

成約は増加基調、でも大事なのはその先

  ホームページに関しては、まず三つの用途からスタートした。
 一つ目は会社紹介。二つ目は物件オーナーへの実績紹介。三つ目は自社物件賃貸の詳細情報である。
 一般賃貸物件の情報が優先されていないのは不思議な気もするが、これは、不動産業の場合、利用者はまず大手の不動産ポータルサイトに行き、そこから各会社の紹介にやってくるケースが多いという特性によるものだ。細かい物件を一つずつアップする手間を考えると、目的を絞った方が効率的だからだ。
 ホームページ開設後は検索エンジンのページを経由して訪問する顧客も増えており、成約数も増加傾向にある。佐藤社長によると、「必ずしもネットで成約しなくとも、これをきっかけに人間関係を構築できれば、次の物件をご紹介できる可能性も広がる」と、ホームページは顧客との新しい出会いの場と位置付けている。
 顧客の特性を鑑みたネット活用は順調な動きを見せているが、一方で、ネット社会への危惧もある。佐藤社長は「対面や電話のように五感を駆使できないのはさびしい。メールのドライさは、日本の将来を考えると少々心配もあります」と言う。
 ネットの気軽さを人と人とのホットなつながりにどう結びつけるか。これはフロンティアハウス一社の課題ではなく、多くの企業が抱える共通の課題でもある。

ITコーディネータ紹介

 独立系のITコーディネータとして神奈川地域を中心に活躍。2003年のITSSP「計画書策定コンサルティング」で佐藤社長と出会い、ホームページ作成を核にしたIT化を支援。ネットワーク化に加え、賃貸管理ソフト導入や表計算ソフト活用による業務効率化もサポートする。
  ITSSP終了後は個別契約を結び、週に1回、訪問・相談を行っている。

横浜ITサポート http://www.y-its.jp/

小杉 史郎 氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

  IT投資は必要ですが、一気に導入するのは金銭的に負担が増すので、ステップを踏んだIT化計画を立てていただきました。インターネットの有効活用と同時に業務でのソフトウェア活用も進め、営業結果などの数値把握がかなりスピーディになりました。
 小杉さんはわからないことを電話で問い合せてもすぐ返事をくださるなど、大変丁寧に指導していただいています。さらに目に見える成果を出せるよう、我々も努力していと思っています。

(佐藤勝彦社長 談)



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2010.07.01
情報が流れる土壌を作り 顧客を喜ばせる企画提案へ



株式会社エルムため楽器
代表取締役社長 寺田 良紀氏(写真中央)
   統括本部長 江幡 一馬氏(写真左)
      担当者 大道 幸子氏(写真右)
本社 北海道札幌市中央区南8条西17丁目3-10
室蘭、釧路などに合計7拠点を持つ
設立 1974年
従業員 107名(講師数 約400名)
URL http://www.elm-t.co.jp/
事業内容


楽器や関連製品の販売、音楽教室の経営及び音楽興行の企画斡旋、英語教室の運営など。
YAMAHAの特約店。
 今春、札幌に200人規模のホールや教室を備えた店舗を完成予定。様々な企画を用意して地域の人々が音楽を通じで集い、寛げる場を提供するとのことだ。


4万人の顧客データをもっと活かせないか?

 音楽のある生活は、子どもを健全に成長させ、人々の心を豊かにする――北海道札幌市のエルムため楽器は、音楽で地域社会への貢献を目指す企業。YAMAHAの特約店として北海道内に80の音楽教室と7つの販売拠点を持つ。事業の幅は広く、楽器販売、調律等のメンテナンス、英語教室、企画催事なども手がけており、総顧客数は4万人ほどになる。
 多店舗展開と多数の顧客。業態上の特徴は、同時にエルムため楽器の経営課題でもあった。
100名ほどの従業員を指揮する寺田良紀社長は、一人一人ともっと情報交換をしたいと考えていた。方針を正しく伝えたいし、逆に顧客と直に接している担当者の意見も聞きたい。また、顧客情報が事業ごとにバラバラに管理されているため顧客の動きを十分に把握できない悩みもあった。「一人のお客様が楽器購入者でもあり教室の生徒でもあるとわかれば、趣向に合ったコンサート企画も提案できる。もっとトータルに情報がわかるようにしたい」―この思いが、ITの活用へと向かわせた。

ITCの提案で、社員全員が現状分析を行う!

 寺田社長は同じ札幌地区でIT化に成功した食品会社の例を参考に、2003年に札幌商工会議所が開催したITSSP事業の経営者研修会に参加する。その際、「社内で実践する際に中心となる人間が最初から関わった方がよい」と、実務担当者の大道幸子氏も同席させたが、この判断が後の導入をスムーズに進めるポイントにもなった。
 4日間の研修会が終了すると引続き計画書策定コンサルティングのプログラムを受け、ITコーディネータの寺中武裕氏らと情報化の企画を煮詰めていった。
 寺中氏が重視したのはSWOT分析。強み・弱み・機会・脅威の4項目で会社の現状を捉える手法だ。今回ユニークだったのは関係者だけでなく「せっかくの機会なので全社員に書いてもらった」(寺中氏)こと。反応は予想以上で、各拠点から続々と分析表が戻ってきた。各社員の思いは寺田社長のそれと大きなズレもなく、進むべき方向性を再確認することができた。また、自分の頭で考え自分の言葉で表現することは、主体性を高める意味でも良い機会になった。
 方向性を定めたら、後は実行あるのみ。実務担当の大道氏が方向性を把握していることもあって、着々と作業が進んでいく。まずはグループウェアを使った情報共有、その次はバラバラになっていたデータベースを統合して顧客サービスを充実させること、と行動計画を立てた。
 グループウェアについては、サーバー管理が不要なASPサービスを利用。各拠点間はすでにブロードバンドでVPN接続されていたので導入は容易だった。グループウェアというとスケジュール管理などが思い浮かぶが、同社は、掲示板機能に着目した。社員が意見や提言、報告を書き込むと上司や別の拠点の社員がコメントやアドバイスを書き込むといった使い方だ。効果はどうだったのだろうか?
 経営管理を統括する江幡一馬氏は「最初は心配したが思った以上。発言の少なかった社員が積極的に書き込むのを見て、新たな発見をすることもあります」と笑顔を見せる。寺田社長が毎朝目を通し必要な書き込みには返事を書くという徹底した運用も功を奏し、社内には「情報共有」がしっかりと根付いてきた。

情報共有の成功を受けて、顧客データベース構築へ

  そして、今取り組んでいるのが顧客データベースの構築だ。
エルムため楽器の顧客データは提携先のYAMAHAのシステムを利用する関係上、音楽教室、販売など項目ごとにデータベースが分かれている。これを顧客ごとに横断的に見られるようにし、自社との関わり方を掴もうというものだ。
 この4月からは個人情報保護法が完全施行される。多くの顧客情報を持つ同社にとって「顧客情報が散在しているのは良い状況ではなかった。一元管理されアクセス権の設定もできるので、導入タイミングとしてもピッタリだった」(寺中氏)。
 ITSSPへの参加から1年半。意見の取りまとめやサポートに奔走してきた大道さんは「いろいろなことを勉強しながらやってきましたが、皆の思いが理想に向かって着実に進んでいることはすばらしい」と目を輝かせる。若手社員が経営改革のプロセスを体験したことは、同社にとって大きな財産となるに違いない。
 寺田社長はデータベースが完成したら、全員で意見を出し合い、使い道を工夫してどんどん活用していきたいと言う。社員が自分で考え発言できる土壌ができた今、顧客を喜ばせる企画が次々と上がってくるに違いない。


ITコーディネータ紹介

 東芝情報システム(http://www.tjsys.co.jp)に勤務。ITSSP事業など北海道ITコーディネータ協議会のIT支援活動に積極的に参加している。
 エルムため楽器のIT化では、アクションプランの作成(何をどの順番で実行していくか)がポイントになった。当初の議論では、データベースを先に構築しようという意見も出たが、寺中氏はデータを活用するにはディスカッションのできる土壌が必要と、情報共有の基盤づくりを優先。この判断が無理のないステップとなり、良い結果を生みつつある。

北海道ITコーディネータ協議会
               http://www.itc-hokkaido.org/

寺中 武裕 氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

  ITSSP事業に参加した時は課題をこなすので精一杯でしたが、われわれの気づかないことを発見でき、有意義でした。ITSSPでは寺中さん以外にも数人のITコーディネータの方がサポートしてくださいました。それぞれの専門分野を活かした指摘、他業界との比較による助言など、様々なことを学べたと思います。ITCの助言を受け、アクションプランの一番目を「情報共有」に決めたのは正解でした。社員一人ひとりが会社の将来を考え意見を出しあう土壌ができたので、今後のデータベース活用もスムーズに進められそうです。
(担当者談)



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2010.07.01
「町工場」に組織力をつける! まずはプロセスの可視化から



北光金属株式会社
代表取締役社長
斉藤 宏通氏

営業部マネジャー
高富 強氏
所在地 〒353-0001
埼玉県志木市上宗岡3-10-1
設立 1968年
従業員数 90名(グループ計120名)
事業内容 福島県岩代町に福島工場、岩手県に関連会社・中通貴金属工業株式会社事業内容:電気接点用の貴金属材料・貴金属クラッド材、ロウ付け材料、特殊加工品の製造


2代目社長が直面した「町工場」の課題

 「この会社は父が35年前に創業しました。田んぼを買い取り整地をして中古の機械を集めて......一から会社を立ち上げるのは、それは大変な苦労だったと思います」
 埼玉県志木市、宅地化が進む地域の一角に本社と工場をもつ北光金属の斎藤宏通社長は、1999年に二代目社長に就任した。創業社長は「ものづくりへのロマンあふれる人」。その姿は誰にも真似できないパワーを放ち、別格の存在であった。社長を慕う腕の良い職人、トップダウンですべてを決定してきた社風。そこには日本の製造業に典型的な、しかし、独自に形成された風土があった。
 北光金属は電気製品のスイッチなどで用いられる電気接点用の貴金属を用いたクラッド材料を中心に、金属接合用のロウ付け材料、特殊加工を手がけている。例えば携帯電話には1ミリ~2ミリのスイッチ用金属が使われており、1kgの製品で5万台分の携帯電話部品ができるそうだ。主要プレス会社を含め150社の取引先がある。

「風土改革」にITを手段として使う

 会社は順調に業績を伸ばし社員数も増えた。すると成長の原動力であった風土は良い面ばかりを見せなくなる。
 「職人さんに職位をつけたが管理業務になじめない。社員の管理能力を向上して組織として動けるようにしなければ」――投資を受けている中小企業投資育成のアドバイスもあり、斎藤社長は「第二創業期」を強く意識する。組織力を強化して「町工場」を超えようというものだ。
 これまでは仕事がすべてトップダウンで進んでいたため社員は「待ち」の体勢になりがちだった。品質管理が徹底しなかったり、納期が正確に回答できないなどの問題も発生していた。営業職でIT化推進リーダーでもある高富強マネジャーは「今の時代、納期の要求は厳しくなっています。しかし、生産計画が不明瞭なので工場に一つ一つ聞かないとわからない。自分で把握してお客様に回答できないのが問題になっていた」と説明する。  斎藤社長はまず現場改善の5S活動や品質管理の導入に着手、外部研修へ積極的に参加しながら改革に取り組んだ。ただ、いくら座学で勉強しても、会社に戻るとそれを実践できない。「風土を変えなくては...」。斎藤社長は風土改革の必要性を強く実感するに至った。
 個別企業ごとの風土に合わせて指導してもらえる中小企業基盤整備機構(旧中小企業総合事業団)の専門家派遣を利用して5S・人事制度改革・品質改革を実行。
 そしていよいよITを活用した経営改革の時機を迎える。まずは勉強と、システムに詳しい高富氏がITSSP事業の経営者研修会に参加。そこでITコーディネータの田中渉氏に出会い、引き続き計画書策定コンサルティングを受ける。その後は個別契約を結び生産管理・在庫管理システムの構築へと動き出した。田中氏とともに経営分析から順に会社の現状を見つめていくことで、斎藤社長は「私自身、システムありきの発想だったが、ITは経営課題を解決する手段であることを教わった」。

ITCとともに生産のプロセスを「見える」ように

 本システムでは、受注確定の情報を元に生産計画が自動計算され、材料の計算や生産指示書の作成が行われる。作業進捗や必要原材料、製品在庫を一目瞭然にし、「曖昧さをなくすことで経営効率を上げる」というものだ。ただ、金属加工では材料が複数の金属から成る合金であったり、長さがさまざまであったりと、個数で数えられない要素がある。そのため、一般の生産管理システムに比べ難しい点もあるという。今回はさらに最も安い材料の組み合せが計算できるよう線形計算の導入にチャレンジ。「誰にでも全体が見えることを目指した欲張ったシステム」(ITC田中氏)なのだそうだ。
 一連のプロセスを経て、社内には風土改革の兆候が表れ始めた。「管理職の社員に『仕組みを作ってそれを守って管理していくんだ』、という意識の変化が見えてきた」(斎藤社長)のである。同社と歩んで2年になるITC田中氏は、「これを機会に経営計画の立案や社内の意識改革を実行することが大切。それをお手伝いできるのはうれしいこと」と、斎藤社長の気概を頼もしく見つめる。
 今回のIT化は、北光金属の飛躍の契機になりそうだ。


ITコーディネータ紹介

 対応した田中渉氏は、独立系ITコーディネータとして東京・神奈川・埼玉の多摩地区を中心に活動。常時10社ほどのコンサルティング先を持つ。現在、北光金属とは個別契約を結んでコンサルティングを行っている。
 今回のシステムでは材料の最適配合という難しい要件があったが、ITCのネットワークを活かして同分野に経験を持つITコーディネータの吉沢正文氏にサポートを依頼。吉沢氏の専門性とのコラボレーションで、線形計算を組み込んだ高度なシステムの構築を実現した。


ITコーディネータ多摩協議会
有限会社PA情報システム
http://www.infoconveni.co.jp/ 田中 渉 氏

情報システム
コンサルタント
吉沢 正文 氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

  弊社は創業者のポリシーから外部の専門家には否定的な社風もありました。しかし、実際にコンサルティングに入っていただいたところ、客観的に見ていただきつつ、評論家ではなく会社に踏み込んで分析していただけるので大変ありがたいと思っています。私が何を質問しても、まず黙って話を聞いてくださるので、安心して話ができます。IT活用型経営革新モデル事業に採択されたのも、ITコーディネータのコンサルティングを受けてこその結果と思います。
(斉藤社長談)



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2010.07.01
改革3年で売り上げ10億増 現場担当者が成長を牽引



栃井建設工業株式会社
代表取締役社長 栃井 清 氏(写真左)
  常務取締役 渡邊 浩 氏(写真右)
所在地 岐阜県岐阜市富沢町36-9
設立 昭和37年
従業員 25名
URL http://www.totii.co.jp/
事業内容 住宅建設、リフォーム、ハウスメーカーからの受注のほか、オリジナル住宅建設、不動産取引、建築設計などを行う。テレビCMや新聞折込チラシなど販促・宣伝にも工夫をしており、特に「建築のプロの目からみた情報発信」ツールである「かわら版」は好評。


ISO9001取得への取り組み契機に売上が上昇

 14億円(平成12年度)→17.7億円→22.7億円→24.3億円(平成15年度)。平成13年度に経営強化5ヵ年計画を立て「5年後に売上20億円」を目指した栃井建設工業は、早くも目標額をクリアし、その額は右肩上がりだ。
 栃井建設工業(岐阜県岐阜市)の中核事業は住宅建築。ハウスメーカーからの受注が多いものの、最近は独自商品として無垢材を使用したDM外断熱構法の住宅建築や近隣地域を対象としたリフォーム業も手がけている。
 地域に根を下ろす社員25人ほどの工務店。同社が大きく飛躍している理由はどこにあるのだろうか。
 話は5年ほど前にさかのぼる。
 ――「中小企業でも経営方針書を作って計画的に経営をしなければ」。 社外の研修会やセミナーに積極的に足を運んでいた栃井清社長は、さまざまな刺激を受ける中でISO9001(品質マネジメント)の取得およびこれを契機とした経営計画の立案を構想する。

主役は社員。人材育成を優先に

  特徴の一つが社員全員参加の会議だ。そこでは一人ひとりが会社の競争環境や今後の戦略を考え、個人目標や部門目標を立案する。それらは文書として残され、全員で共有――分厚いファイルには、技能向上目標や建設業の環境分析、今後の市場予測など、個々の社員の自立的な思考の跡が記されていた。ここまで考え記述できる力を全員が持っているのには驚きを覚える。
 長期ビジョンと目の前の目標が明確化されたことで、社員の意識は高まっていく。
 その一方、資格取得の奨励、また「プラス思考」「コーチング」など能力開発を目的としたセミナーに参加させるなど、人材育成にも意欲的に投資。「同業他社や同規模の会社に比べ優れていると思います。私も含め社員としても"やったぞ"という自信が持てるのではないでしょうか」とISO取得の品質マネジメント管理責任者であり、5ヵ年計画のプロジェクトリーダーでもある渡邊浩常務取締役は胸を張る。
 同社の経営方針は、第一に「人」を重視しているようだ。では栃井社長が人材育成に着眼したのはなぜなのか。
 「受注を増やす一番の方法は、施主さんに満足感と感動を得ていただくこと。お客様と接点を持つのは現場の担当者ですから、担当者の評価=会社の評価なのです」(栃井社長) 現場の評価が高ければ会社の信用が上がり必然的に受注も増えていく。したがって社員の能力開発は売上増の最重要項目と位置づけられたのであった。
 社長のねらいどおり、請負元であるハウスメーカーからの評価は最高ランク。年間を通しての受注量が増えてきた。

ITコーディネータの支援で、取り組みを「見える化」

  しかし、この取り組みは当初からスムーズに進んだわけではなかった。 初めはトップダウンで経営方針書を徹底させようと試みたが、社員側に「やらされ感」が出て効果はいまひとつ。
 ISO取得の指導でコンサルティングを受けていた社団法人中部産業連盟(中産連)のITコーディネータ・本多貴治氏のアドバイスもあり、翌年以降は社員自らが考え参加する現在の方式に切り替えた。栃井社長の考えが社員各自に見える形になるように、本多氏は「栃井社長の思いを聞き取り、言語に置き換えてストーリー化」。その上で個人の役割や評価基準を明確な形に「見える化」したのだった。
 組織風土や人づくりの動きと並行して、ハウスメーカーからの請負事業にとどまらず直接個人ユーザーを対象にすべく、オリジナルの「オール無垢の家」の提案販売も展開。展示場でのアピール効果も上がりこちらの契約も伸びてきた。
 経営方針の明確化と社員の意欲向上、そして新規商品の開発―これが売上急上昇の要因となったのである。

顧客への図面提供にCAD活用も

  本多氏のアドバイスを受け、同社はIT活用にも積極的に動き出す。パソコンは一人1台導入し、実行予算管理データ及び工程表・施工図などを共有。また、お客様に提供する図面及び見積作成用にCADも活用中だ。
 栃井社長は「パソコンよりアナログのほうが使いやすいと思っていたが、使い出してみるとやっぱりパソコンには勝てない」と笑みを見せる。きれいな図面を提供できるうえ、保存、変更、修正が容易だから、顧客にも喜ばれているという。
 住宅という各家庭のプライバシーを扱っていることもあり、平成17年度は個人情報保護法対策も兼ねて顧客データベース構築など情報管理に力を入れていきたいとのことだ。
 ITのさらなる活用が進めば、売上上昇とともに利益率の向上も期待できそうだ。


ITコーディネータ紹介

 中産連の主任コンサルタントを勤める。
 ISO 取得のためのコンサルタントとして平成11年から栃井建設工業を支援。その後も継続してアドバイスを行い人材育成やIT 活用も含め業務改善を推進している。バランススコアカードを利用しながら戦略を行動に結びつけ、栃井社長の意向を具体化した。
 同社との契約は1年単位。契約更新時には「次年度は栃井建設工業にどんな支援をするか」を具体的に提案し、目標を共有したうえでコンサルティングを行っている。

社団法人中部産業連盟  http://www.chusanren.or.jp/

本多 貴治 氏



<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

  当初、ISO に取り組むためにコンサルティングをお願いしたときは、何もわからずついていった状態でしたが、弊社に即した方法で無駄なくやってくださいました。杓子定規でなく、状況に合わせてアドバイスしてくださるので机上の空論に陥らない。トラックに乗って現場担当者に付いて回るなど、弊社の業務を理解することに尽力してくださいました。
(栃井清代表取締役社長、渡邊浩常務取締役談)



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2010.07.01
現状分析から方針が見えた!取引先を巻き込み在庫削減へ



睦産業株式会社
代表取締役社長
湯川 耕一郎 氏
所在地 広島県呉市海岸4丁目14番27号
創業 昭和2年
従業員数 18人
URL http://www.kurenet.ne.jp/users/mutsumi/
事業内容 自動車の物流梱包資材(ポリエチレン)の日配業務(卸売)。ポリプロピレン・塩化ビニル製品の特注加工販売


コンピュータを十分活用できない...

 「ここですべての取り組みが決まったと言っても過言ではありません。会社の指針ができ、58年間の歴史の中で一番中身のある年にできたと思います」
 IT活用による経営革新の歩みを振り返る睦産業・湯川耕一郎社長の口調が一瞬強みを帯びた。改革プロセスのある地点を境に「大きく変わった」のだという。
 湯川社長は過去2、3回、コンピューターを使った原価管理や売上管理にトライした経験を持つ。しかし十分な活用はできず成果は「納品書や請求書を発行する程度」(湯川社長)。苦い思いをしていた。
 睦産業が拠点とする広島県呉市は、地域の団体やITコーディネータグループが活発に活動し、相互連携を深めながら企業のIT活用を支援している。平成14年、湯川社長は、中小企業家同友会の縁で社団法人中国地域ニュービジネス協議会(NBC)が主催するITSSP事業(経済産業省推進の戦略的IT化支援プロジェクト)に参加する機会を得た。ITコーディネータによる研修会や個別コンサルティングを体験するなかで、変革の機会をつかんだのだった。

最低限のデータを把握できるようにしたい

 同社の事業の柱は大手自動車メーカー・マツダグループへの梱包資材の流通、そして塩化ビニル・ポリプロピレン製の特注文具製造の二つ。湯川社長は特に流通分野において、仕入れや売上のデータを正しく把握したいと考えていた。
 現在は6社の委託製造会社を相手に600種類の商品を取り扱っている。背景には「金融機関と普通に話をするには、最低限のデータを持たないといけない」(湯川社長)現実もあったのだ。
 担当ITコーディネータとなった溝下博氏が最初に取り組んだのは「社長の思いを整理し、業務フローを明らかにすること」だった。経営課題が明確になるにつれ方針のアウトラインも描けるようになってきた、これなら社員に方向性を明示できる。 「なるほど。そうか」――冒頭に紹介した湯川社長の転機は、IT化の前のこの段階に訪れたのだった。 並行して社内の情報管理をスムーズにするツールとして、販売管理ソフト「商奉行」と在庫管理ソフト「蔵奉行」を導入。基本的な数値を入手できる環境を整えた。

取引先6社の在庫をWebで把握する!

 そして平成16年からは、第二ステップとして委託生産先企業と商品在庫などの情報を共有するシステム作りに着手した。
 同社では、在庫保有数を委託製造先の裁量に任せる商習慣をとっている。取引先企業側では睦産業の出荷情報がリアルタイムにはわからないから、過剰在庫や在庫不足も起こりうる。経営状況を正しく捉えるためには取引先の在庫数を睦産業側でも把握しておきたい。取引先―社外―と連携するにはどうしたらよいのだろうか。
 溝下氏からバトンを受けてIT化の第二ステップを担当したITコーディネータの古家後啓太氏、石川敬三氏は「睦産業の納品情報、生産指示がダイレクトに委託先に伝わり、逆に委託生産先の出荷情報が把握できるよう取引先との間をネットワークでつなぐ」ことを提案。取引先の導入負担をできるだけ減らす方法としてWeb技術を採用した。
 具体的にはWebサーバーに在庫や出荷情報のデータベースを置く。各社がインターネットを経由してサーバーにアクセスし、Webブラウザーからデータ入力や閲覧を行うという仕組みだ。汎用性のある方式だから今後取引先が増加しても適宜対応できる利点もある。
 システム導入の同意を得るため湯川社長とITC石川氏は取引先を何度か訪問し説明を重ねた。その結果、6社全ての参加が実現した。
 費用はコンサルティング費を含めて約700万円。湯川社長は「たくさんの方に関わっていただいたことを考えると安かった」という。取引先とネットワークを組むような大掛かりな取り組みは、こうした機会がなければ難しかったかもしれない。  「このシステムで6社の取引先とどのような商習慣が作れるか、どれだけ価値を生み出せるかがわれわれに試される」と湯川社長は決意も新ただ。掲げた目標「3年後に売上2倍、在庫半減」の実現を、地域のサポーターたちは楽しみにしていることだろう。


ITコーディネータ紹介

 睦産業のIT化支援は中国・四国地区のITコーディネータ組織であるITC中四国倶楽部のITコーディネータがさまざまな形で関わり、持ち味を生かしたコンサルティングを展開している。
 同倶楽部は平成14年度から中国地域ニュービジネス協議会(NBC)と連携してITSSP事業を開催。事務局を務める古家後啓太氏(写真右)が地域企業への参加呼びかけを含め全体のコーディネートを担当し、睦産業についても当初から継続的にアドバイスを送っている。
 IT化の具体的な支援に関しては、経営課題の整理から基幹業務系のパッケージ導入までを溝下氏が、取引先との仕入れ情報共有など現在進行中のシステムを石川氏が担当している。

ITC中四国倶楽部(http://www5e.biglobe.ne.jp/~itcchush/)
溝下 博 氏 石川 敬三 氏 古家後 啓太 氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

  会社の課題を整理して指針ができたことがまず何よりの収穫でした。
 複数のITコーディネータにコンサルティングをしていただいていますが、それぞれの専門分野に基づいた指摘を受けられるので参考になります。情報の可視化など、理解しているが実行できていない観点を提示してもらえるのがありがたい。
(湯川耕一郎社長談)



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2010.07.01
卸売が司令塔になり生産指示 100円印鑑で利益を出す!



有限会社クリーク
代表取締役
谷川英二 氏

本社所在地 大阪府大阪市都島区都島本通2-9-18
従業員数 7 名
設立 平成13 年
URL http://www.k-creek.com
事業内容 印鑑小間物等日用雑貨の卸売。
100 円ショップへの印鑑販売で売上を伸ばす。
個人・法人向け印鑑・名刺のオーダー販売にも力を入れている


 クリークのネームペン「エバ(EVA)」。

 先がペンになっており、2役をこなす。
 これも100円で販売されている。


「印鑑を100円で売る」着眼点がユーザーをつかむ

「そんなビジネスは成り立たないのでは?」との心配をよそに急成長した100円ショップ。店舗では雑貨や食品に混じって印鑑さえも100円で販売されている。印鑑は姓別に一つ一つ商品が異なり、その数なんと5000種類だ。こんな「超多品種超小ロット商品」を100円で売って、利益が出るとは想像し難い。
  「北海道の店舗と電話でやり取りしていたら、電話代だけで利益が飛びますよ」――100円印鑑を全国の100円ショップに卸しているクリーク(大阪府大阪市)の谷川英二社長はそう言って笑う。
  「印鑑は高い」との思いから100円印鑑を企画したところ、市場は予想以上の反応を見せた。100円ショップには次々と印鑑販売用の什器が配置され、取り扱い店舗は今や約3000店、1日1万本以上が売れているという。誰もが尻込みする「非常識」に挑んだことで消費者に支持され、販売数量を増やすことに成功したのだ。

15000アイテムの煩雑な売上管理をどうするか
 ただ、この1万本の内訳は細分化されていることに注意しなければならない。例えば「佐藤」「高橋」など多い姓の印鑑はまとまった数の売上もあるが、売上が少ない姓もある。さらに印鑑自体にもボールペンつきなど3種類のアイテムがあり、商品リストは15000に及ぶ。売上や在庫管理の煩雑さは想像に難くない。
  しかし、谷川社長は「皆が面倒と思うことを引き受ければ誰からも必要とされる企業になる」と考え、自ら売上データの管理を手がけることにした。自社に販売管理データベースを構築して販売分析報告や生産指示が出せるようにし、欠品や納期遅れの防止に努めた。つまり情報集積によって販売店や製造工場への情報司令塔になることを指向したのである。
  そこに不可欠なのはITだった。

ITCとともにWebベースのシステムを構築 取引先へのリアルタイム発注が実現

 当初は、データベースソフト「Access」を使って店舗からの発注情報を管理していたが、データ量が増えた場合の稼働状態、利用者への操作教育、バージョンアップの作業量などで課題を抱え始めた。
  そこで、考案したのが「特別なスキルなく使え、誰でも世界中どこにいても仕事ができる方法であるインターネット。いわゆるWebベースのアプリケーションを作ること」だった。ブロードバンドでインターネットにつなげばデータ通信料は定額。距離が遠くてもOKだ。また、今、インターネットを当たり前のように使っている子どもたちが社会人になればWebを使ったビジネスはさらに増大するとの思いもあったという。
  新システムの構築にあたり、谷川社長はITコーディネータによる助言を検討。銀行の紹介で知った、中小企業基盤整備機構が実施しているIT推進アドバイス事業の制度を使い、ITC大塚有希子氏に約8ヶ月間、コンサルティングを依頼した。
  大塚氏が特に注力したのはシステムの客観的な評価の面だ。谷川社長は、「色々なアドバイスをいただいて順序だったシステム化を進められたうえ、一人ではできない正当な評価・検証を受けられたのは有意義だった」と振り返る。
  本システムでは、各販売店からメールやFAXで届いた注文情報をデータベースに登録、このデータを元に出荷指示や補充用商品の製造発注を自動的に行う。クリークに商品を納入する製造元は、Webブラウザーでこうした情報をリアルタイムに把握でき、ムダのない生産計画を立てることができる。発注面においても、店舗側のインターネット設備が充実すれば、いつでも自動発注に移行できる体制だ。
  生産から販売までの情報を卸売が管理して商品の流れを制御――これが「情報の司令塔」を目指したクリークのシステムなのである。
  大塚氏は「取引先からもWebで情報が見えるようにするという思い切りが、インパクトのあるシステムを実現した」と評価する。
  そして、本システムには業務の効率化以外にもう一つ狙いがある。蓄積されたデータを分析して、店舗別や日付別の売上データはもちろん、姓別・地域別の印鑑売上などをはじき出すことだ。谷川社長は印鑑販売の様々なデータを資料に店舗経営者への提案や商品ラインアップのアドバイスを行い、取引先との信頼関係を深めて行きたいと考えている。
  人が面倒に思うことをビジネスチャンスにする――クリークにはビジネス創造の原点が見える。

ITコーディネータ紹介

 財務・人事に精通し、その強みを活かして経営改革及び情報化支援を進めている。企業研修や大学等教育機関での講演経験も豊富。関西を拠点にした7人のプロコンサルティンググループ「007コンサルティング」のメンバーでもある。
 クリークのコンサルティングにおいては、「谷川社長のビジネスモデルが非常に明確であったため、それを明文化し、形にすることに注力しました」と言う。RFP(システム提案依頼書)の作成やベンダーの選定などに携わり、谷川社長の相談役として活躍した。

大塚有希子
FPサポート 安達社会保険労務士事務所
http://www.fp-s.co.jp


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

システムの全体像は自分でイメージしましたが、進めていく際に自分だけでは一人よがりになってしまう。第三者の目で全体的なバランスや完成イメージを見ていただくのはとても大事です。大塚さんには引き続き法人取引を拡大する事業に関してアドバイスをいただいています。(谷川社長談)


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2010.07.01
売れているのに儲からない?ネットショップで取引先を転換



株式会社グルメミートワールド
代表取締役
田村 幸雄 氏
所在地 栃木県今市市土沢2002-2
創業 大正12 年
従業員数 9名
URL http://www.gourmet-meat.com/
事業内容 食肉販売業。鴨、鹿、イノシシ、野禽類、家禽類、ジビエといった特殊食肉を取り扱う。主な取引先は、栃木県北地域のホテル・レストラン、また、インターネットにより全国のレストラン、個人に販売中。

安定取引はあるものの支払い条件が厳しい...

「安く仕入れてどんどん売る。儲かるはずなのですが、売るほど に運転資金が厳しくなりまして...」今から5年ほど前、栃木県今市市で特殊肉販売業を営むグルメミートワールドの田村幸雄社長は、取引慣習による資金繰りの問題に頭を悩ませていた。世界的な観光地日光、鬼怒川・川治温泉をはじめとする栃木県北部では、土地柄、鹿、鴨、イノシシ、ジビエなど、猟師の扱う「山の幸」が名物の一つとして好まれている。近隣に有名観光地を持つ地の利を活かし、同社はホテルやレストランへの特殊食肉販売を手がけてきた。取り扱い種類の豊富さと品質で、取引先からは高い信頼を得ていた。ところが観光地のホテルには支払いを納品の3ヵ月後や半年後とするところが少なくない。その結果売掛金が増え、なかなか余力が持てない状況が続いた。折りしも地元地銀の経営悪化が喧伝されており、田村社長は「新しい方向を見出し、地元だけに頼らないビジネスを立ち上げなければ」と焦りを覚えていた。

Webサイトで通販! ノウハウ学びに大阪へも

食肉業界のマーケットを分析してみると、特殊肉、いわゆるグルメミートを一般に販売している店はほとんどない。一般食肉に手を広げず、グルメミートに特化して個人客や小規模レストランに販売すれば、独自のポジションを得られるに違いない。「全国を相手に、グルメミートを通販する」――これが同社の目指す方向と決まった。では全国の潜在顧客に自社の存在をどうやって伝えればよいだろうか。田村社長が選んだのはインターネットのWebサイトだった。「DMを1回出したら200万、300万円はかかってしまう。しかしインターネットなら少ない資金で案内が出せる。自分の働きかけに対して顧客の反応が見えやすい点もメリットだった」。だが、当時周囲にはインターネット通販に成功した企業はなく、具体的なイメージが描けない。それなら「売っている人」に学ぼうと、大阪産業創造館が主催するネットショップ支援の講座に申し込み、栃木から大阪まで何度も足を運んで勉強したという。

会員数が6000名を突破 売上の半分がネット経由に

通販を目指した同社はWebに販売機能(ショッピングカート機能)を持たせた。会員登録をした顧客は自分専用のサイトが表示され、欲しい商品を選択し24時間いつでも購入の申し込みができる。当日の15時までに受け付けた商品は同日中に全国に発送し、「迅速さ」にも心がけた。試行錯誤でサイトの改良を続けるにつれ、会員数は6200人に達し、売上も上昇。昨年は約1億円、今年は2億円近くがネットの売上となった。その結果、支払い条件が厳しい企業との取引に必ずしもこだわらなくてすむようになった。現在では総売上の50%以上がWebサイトによるものとなっている。では、同社の成功要因はどこにあったのだろうか。
本年4月から同社のコンサルティングに携わっているITコーディネータの福沢繁氏は、「マーケティングが徹底していることが第一要因。自社サイトに訪れる人のことを研究している」と分析する。検索エンジンでヒット率を上げる対策や懸賞サイトを活用してメールマガジン読者を増やすなどの定石を踏まえつつ、田村社長は「インターネットは商品を買う人より調べ物をしている人が圧倒的に多い」ことに着目。Webサイトには、グルメミートの詳細情報や調理法の紹介、購入顧客の感想などを掲載していった。 さらに、2004年11月からはショッピングカートと社内のデータベースを連携させ、一人の顧客の受注から発送までの流れをスムーズにするとともに、顧客の購買データをマーケティングに利用することも検討しているとのことだ。
現在、ネット担当者2人、発送や伝票発行などの担当者2人で年間2億円の注文をさばいている。「少数精鋭の会社がビジネスを拡大するのはインターネットでなければできない」と言う田村社長は、数年間を振り返り、このような感想を述べる。「私はホームページの作り方もデータベースも全然わからないアナログ人間ですが、そういう人の方が逆に道具の使い方が見えてくる。顧客との関わりの深さは小売店舗以上ともいえますから、インターネットはアナログ。そしてITはアナログなんだと思います」

グルメミートワールドのWebサイト。
会員になると自分用のページで商品の発注を行うことができる。無償配布されているネット通販対応ソフトOSコマースを使って、顧客からの注文情報と社内データベースを連携させるようにした。

マーケティング視点からWeb活用に取り組んだ田村幸雄社長。「顧客の問い合せにすぐ対応でき、また固定客から常に厳しい目で商品を点検してもらえるインターネットは、通常の小売店舗販売より、むしろ信頼関係を深められる」と言う。


グルメミートワールドのWebサイト内はお客様の声をはじめ、食材別レシピなど、特殊肉に関する情報が盛りだくさん。「グルメミートならグルメミートワールドのサイト」へと結びつく充実した構成である。

URL : http://www.gourmet-meat.com/

ITコーディネータ紹介

栃木県内唯一のITコーディネータ事務所として、経営支援、IT活用支援を展開。栃木県の中小企業家同友会で田村社長と出会い、Web活用の次の課題である社内体制の強化、とくに受注から発送に関わる取引データの活用や在庫管理等を中心にコンサルティングを展開している。

ITC福沢オフィス
福沢 繁 氏

<ITコーディネータを活用してどうでしたか>

これからはマーケティングだけでなくバックヤードにも力を注ぎたいと思っていた。ITCに入ってもらいバランススコアカードやSWOT分析などを実施し、戦略的に見えてきた部分が多い。さらに掘り下げていろいろなアイディアを創出していきたい(田村社長談)

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2010.07.01
業界の一歩先行くIT活用・印刷業
目標は印刷業界の地域ナンバーワン 工程の数値化でさらなる業務改善を




文化印刷株式会社
所在地 福岡県北九州市小倉北区井堀3-18-16
設立 昭和44年
従業員数 110名
売上高 19億円(平成17年6月期)
事業内容 総合印刷業。特に販売促進用印刷物(新聞折込チラシ、パンフレット・カタログ、会社案内など多種)に強く、広告代理店との取引が多い。両面8 色刷オフセット輪転機を始め、最新鋭の印刷機を積極的に導入している。
URL http://www.bunkanet.co.jp/
    金重健社長(写真左)と金重博巨常務


経営者研修会に臨む70歳の経営者

今から約2年前。福岡県、北九州商工会議所主催のITSSP事業・経営者研修会(現在はIT経営応援隊事業)の会場に、熱心な質問を投げかける70歳になる経営者がいた。福岡県北九州市に本社を置く総合印刷会社・文化印刷の金重健社長である。
数日間にわたる研修会を終えた金重社長は「勉強は実行に移してこそ意味がある」と、講師を務めたITコーディネータ(ITC)の荒添美穂氏にコンサルティングを依頼。早速ITを活用した社内改革への歩みをスタートさせた。
IT活用への探究心と素早い決断。社長の年齢や、昨今の印刷業界の厳しさを考えれば、「意外」な印象を受ける...。

厳しい印刷業界でいかに商機をつかむか
文化印刷は商業印刷、とくに新聞折込チラシやパンフレットなど販促用品の印刷を主軸に据える。
「世の中が不景気になっても販促品への投資は減らない。むしろ伸びていきます。ただし差別化には設備投資が必要です」と金重社長は説明する。
同社は写真の色補正を始めとした印刷技術の確かさに加え、オフセット輪転機など高性能印刷機を積極的に導入して生産力と価格競争力を高めた。現在は福岡県および近隣を商圏にする広告代理店を主要取引先とし、売上げを年々伸ばしている。
多角化や不動産投資に手を広げず、印刷ビジネスにおける企業価値を一貫して追求した結果、業界の逆風に負けない文化印刷が創り上げられた。
情報収集を怠らない金重社長は、会社のさらなる成長を目指しITの活用にも関心を抱く。
「政府は盛んにIT化に取り組んでいる。印刷業でリーダー的な存在になるには一歩先を見ないといけない。これからはITの時代だから無関心ではいられないと思った」
印刷業は価格競争が厳しく、急ぎの依頼や変更要請が日常茶飯時という典型的な受注型産業だ。
ITC荒添氏は当時の同社の課題を次のように分析する。「突発的な依頼への対応に追われがちなので、どうしても売上至上主義になりやすい。効率化を図りつつ、利益率などを正しく把握する仕組みが必要だった」

ITCとともに意識改革、そして作業工程の数値化へ

そこで、文化印刷のIT化では、ワークフローおよび基幹業務管理システム、そしてWebベースの情報共有システムの構築を目指すこととした。作業工程をデータ化して現状を正しく把握し、問題点を数値的に解明しようというものだ。
見積内容や実績などの取引データ、また作業工程や日報といった業務状況がデータベース化され、それぞれの状態を正しく把握できるようにする。
荒添氏はシステムを具体化する前に社内に経営改善会議プロジェクトを立ち上げ、まず社員一人ひとりが業務効率を上げるにはどうしたらよいかを考える場を設けて「ムダ追放コンテスト」などを実施し、意識改革の土壌を育てることに重点を置いた。
同社の金重博巨常務が「印刷業ではマッキントッシュの導入でコンピューターは身近ではあるものの、それは生産機としての扱い。その見方を進化させたい」と語るように、業務を改革するうえでは、社員が目的を自覚するステップが必要なのである。
システム導入の結果、生産プロセスにおいては連絡ミスや重複作業が激減、残業時間も50%ほど削減された。原価管理面では、赤字受注を防ぐ取り組みがなされるなど、意識改革と合わせた効果が見られている。
同社の取り組みを見ていると、「強い会社ほどチャレンジを続けますます強くなる」という思いを抱く。伸びる会社には相応の理由と努力があるのだ。
「コンピューターの操作はわからないが決断は社長の役目」という金重社長は、「なぜ、前に進むのですか?」という質問にこう答えた。
「社長に鞭打つ人はいない。鞭打つのは会社を大きく育てようという夢。夢が一つずつ実現していく喜びが前向きに勉強していこうという意欲になっています」

ITコーディネータ紹介

コンサルティング会社を経営し、経営支援や人材育成などに携わるほか、ITコーディネータ・ITコンサルタントによる組織イー・ケィ・エィ (EKA)の役員を務める。福岡を中心に活躍中。
文化印刷の金重社長とは北九州商工会議所の経営者研修会で出会い、継続的なコンサルティングの依頼を受ける。

イー・ケィ・エィ
URL:http://www.eka.or.jp/
有限会社インテリジェント・パーク
http://www.int-park.jp

イー・ケィ・エィ 副代表
有限会社インテリジェント・パーク
代表取締役
荒添美穂氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

スムーズにIT 化へ踏み切れたのは荒添先生に出会ったことが大きな力になっている。IT活用型経営革新モデル事業の補助金なども教えていただき、また無事採択を受けることもできた。自分の会社に必要なIT導入ができるITコーディネータを他の経営者の皆様にも薦めたいと思います」(金重社長談)

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2010.07.01
拠点間の情報共有とコスト削減
スポーツ施設間の連絡をスムーズに IP電話活用で通話料も無料!




財団法人 札幌市スポーツ振興事業団
所在地 北海道札幌市中央区中島公園1-5 札幌市中島体育センター内
設立 昭和59年4月
URL http://www.sspc.or.jp/
事業内容 市内26 スポーツ施設の管理・運営、学校体育施設開放事業、札幌マラソン大会、札幌国際スキーマラソン大会など、各種スポーツイベントならびにスポーツ教室の開催。
    札幌市中島体育センター 札幌市スポーツ振興事業団
総務課係長・前淳一氏(写真右)、市川靖教氏

26ある拠点。時間と距離の壁をどう越える?

拠点間の連絡方法改善に取り組んだのは札幌市の財団法人札幌市スポーツ振興事業団。SIPフォンとグループウェアを26拠点に導入した。「SIPフォン」とはまだ耳慣れない言葉だが、SIPという通信方式を使ったIP電話システムのこと。ここではパソコンのネットワーク上で、付加価値の高い内線電話機能を利用できるシステムと捉えておけばよいだろう。
同財団は、札幌市営の体育館、プール、スケート場などスポーツ施設の管理を担うほか、学校体育施設の開放事業やスポーツイベントなども手がける。施設は市内全域に広がり、開館時間が長いこともあって職員の勤務はシフト制だ。
各施設との連絡手段は1週間に1回の文書連絡便と電話が中心だったが、文書の場合は伝達にタイムラグが生じたり、見落としてしまったりなど、スムーズに行かない面もあったという。同財団総務課の前淳一係長は、「各施設との電話のやり取りが多い一方、職員は少ない人数をローテーションで回しているので職員間で顔を合わせられない日も多い。もっと効率的な連絡手段があれば、という思いはありました」と振り返る。
IT通信ソリューションベンダー・インフォネットに勤務し、ITコーディネータ(ITC)の資格を持つ佐々木身智子氏がSIPフォンの活用を提案したのは、ちょうど良いタイミングだった。提案を受けた同財団は、2003年冬にはインフォネットからの導入を決定。この取り組みで成果を上げるための組織内プロジェクトを立ち上げた。

提案を受けたSIPフォン。使いこなすためにプロジェクトを立ち上げる

新しいシステムを導入するにあたり、どの企業・組織でも課題となるのが、「ほんとうに使いこなして成果を出せるのか」という活用面だ。これには各従業員が使う習慣を持てるよう、早い時期に具体的な利用メリットを感じられることが大切だ。
ITC佐々木氏は「業務課題をお聞きして導入メリットは確信しました。あとは各現場の方がどのように使ってくださるかが焦点になるため、各施設のご担当者によるプロジェクトを立ち上げていただきました」と説明する。
現場で実際にどのような業務を行っているのか、どのような情報があると便利なのかを洗い出し、1年近くかけて検討した。SIPフォンに関しては、他社のシステムを見学したり、デモ環境を作って体感したりということもあったそうだ。
そして、「最初は仕事の用途に限定せず、何でも使って良いことにして、慣れてもらいました」(前氏)と、詳細ルールを決めすぎず、職員自身が使い方を考案できる運営方法を選択した。

電話も一人1台に。通話料を気にせず打ち合せ

では、導入後の様子はどうなのだろうか。事務局のオフィス内は、共用の外線電話がグループに1台程度。新しく導入したSIPフォンは各職員用のパソコンにヘッドセットを接続して使う。パソコンは一人1台支給されているので、施設間では職員一人ずつが1対1でダイレクトに通話できるようになった。
システムプロジェクトの時期にはプール施設に勤務していたという総務課の市川靖教氏は言う。「1対1で確実にメッセージが送れるので便利になりました。電話だけでなくメッセージパット(文字メッセージを送る仕組み)があり、電話で話しにくいようなときもコミュニケーションが取れます」
前氏は、「在席か不在かの状況(プレゼンス)が大まかにわかるので、不在時に電話をかけて取り次ぎを頼むといったことが減りました」と感想を述べる。ただ、プレゼンスはちょっと席を離れているといった細かい動きまではわからないので、今後の課題でもあるとのことだ。
また、SIPフォンの導入で拠点間の通話はすべて内線扱いになり、通話料を気にせず話せるところも大きなメリットだという。
企業でも、業種によっては、電話機は一人1台ないけれどパソコンは一人1台あるというケースがあるだろう。佐々木氏は「交換機ベースの電話機を一人1台購入するのは高価でも、SIPフォンは今使っているパソコンに数千円足せば一人1台電話が持てる。こうした費用面でもメリットも大きい」と指摘する。
札幌市スポーツ振興事業団では、SIPフォンと同時に導入したグループウェアの活用によって文書連絡も大半がデジタル化された。両者の相乗効果もあり、拠点間の連絡はスピードアップし、確実性を増すこととなった。
今後はさらにスムーズな情報伝達と業務の効率化をはかり、市民サービスの向上に努めたいとのことである。


ITコーディネータ紹介

ITコーディネータの地域組織・北海道I Tコーディネータ協議会に所属している。IT ベンダーに属する立場でITコーディネータのスキルを活かし、企業の経営課題を踏まえたシステム提案および導入に寄与している。
本財団のSIPフォン導入に関しては、利用メンバーによるプロジェクトチームを立ち上げ「どうしたら利用が進むか、使ってもらうために必要なツールは何か」について実際の状況を見ながら提案を行ってきた。
自社の商材をただ「売る」のではなく、導入企業のメリットや効果を想定し、そこへの適切な道筋を支援するという佐々木氏の動きは、IT 企業内におけるITコーディネータの存在意義を大きく感じさせるものである。

URL:http://www.infornet.co.jp

インフォネット株式会社 執行役
佐々木身智子氏


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2010.07.01
顧客データ活用に挑む 新潟県三条市 製造・販売業 スノーピークの場合
顧客の声は製品作りの原点 データで商品開発力を刺激する!




株式会社スノーピーク
所在地 新潟県三条市三貫958
代表取締役社長 山井 太
創業 昭和33年
従業員数 49名
URL http://www.snowpeak.co.jp/
事業内容 アウトドア用品、フィッシング用品の製造・販売。ハイエンド市場をターゲットとする。全国に直営店舗を持ち、ダイレクト販売も行っている。
    スノーピーク 管理部 マネージャー 
平野和治

日々集まる情報を横断的に見られないか
新潟発の全国区――アウトドアおよびフィッシング用品を製造・販売するスノーピークは、ハイエンドユーザーの心をつかむ高い商品力が強みだ。「自らもユーザーという立場で考える」姿勢を創業以来貫き、他社に先駆けて先進的な取り組みを行う社風を持つ。顧客と共にキャンプを行うなど全国に出向き、その声に耳を傾けている。
スノーピークの山井太社長は地域の経営者交流会等に積極的に参加し、ITを活用した経営改革への意識も高い。
3年ほど前、ちょうど従来のオフコンシステムがリプレース時期を迎える。「ユーザーの声に応え続けるには社内の意識も変えていかねばならない」と、この機会に抜本的なシステムの見直しおよび社内改革を決意した。
新システムでは生産や販売の情報を一元管理できるようERPの導入を検討。加えて、顧客の声をデータとして蓄積する「ナレッジシステム」を企画した。システム担当者である同社管理部システム課マネージャーの平野和治氏は、その背景を次のように説明する。
「普段、会社に届くお客様の声は、電話、メール、営業担当者からなどいくつか経路があり、対応する部署も違う。これを横断的に把握して次の商品に活かせないかと考えた」
商品に対する評価、クレーム、感想、ちょっとした発言も含め、あらゆる顧客の声をデータベース化して、社員が自在に活用できるようにしようというものだ。顧客の視点を大切にする同社らしい着眼点である。
ただ、ERPとナレッジシステムの導入となればかなり大掛かりなIT化だ。「従業員それぞれがこれまでの業務のやり方を全否定し、あるべき姿を考えていかなくてはならない」(平野氏)。しかし、それを社内だけで推進しきれるだろうか...。。

改革実行に必要な第三者の力 ITC活用へ

平野氏は改革を実行する過程には、客観的な目を持つ第三者の力が必要と判断した。地域で情報化コンサルティング事業を展開するITスクエアにシステム化のコンサルティングを依頼。同社のITコーディネータ青木龍雄氏が情報化企画の整理やITベンダーへのシステム構築依頼書の作成などを担当した。
こうした確実な体制づくりと地元ITベンダーの奮闘が相まって、平成16年春には新システムが完成。
同社では、いかに有益な情報があっても素早くアクセスできなければ活用されないと考え、必要な社内情報にアクセスするための窓口(EIP‥企業ポータル)を設けた。機能ごとにソフトを立ち上げなくとも、すべて同じ画面から使える。

商品ごとの課題が見え、従業員の意識高まる

この工夫や、山井社長が従業員の日報に頻繁にコメントを返すなどの効果もあり、日々、たくさんの顧客の声が蓄積されるようになった。
「ケースがついていたら良い」「ここが変わったらもっと使いやすい」といった営業担当者が耳にした顧客の感想も、メールや電話のデータと合わせて一つのデータベースに蓄積される。このデータは商品別でも情報の入手場所(メール、イベント会場など)の切り口でも見ることができ、今まで気づかなかった商品の改良点を見つけることにも役立っているそうだ。
クレームも、もちろん全社員の目に留まる。「これまで品質は商品管理部門が見るものという意識があったが、全員が良いものを作って良いサービスをしていこうと日々考えられるようになった」と平野氏はシステム活用後の変化を説明する。
しかしスノーピークでは、顧客の声を聞き意見を製品に反映させればそれで良しとしているわけではない。平野氏が「ニーズはお客様が出すのではなくわれわれが掘り起こすもの」と指摘するように、ナレッジシステムは新商品の開発における作り手のインスピレーションを刺激し、仮説・立案を行うための道具と位置づけられている。
顧客は、自分が「欲しい」と意識している商品だけでなく「それなら欲しい」と言いたくなる商品提案を待っている。データはそうした企画力をさらに磨くためにあるのだ。


ITコーディネータ紹介
株式会社ITスクエア
ITスクエア 取締役
和泉寿郎 氏(左)
システムコンサルタント
青木龍雄 氏(右)
http://www.itsquare.co.jp/
地域企業を対象に情報化のコンサルティングを推進する企業に勤務。財団法人にいがた産業創造機構の専門家派遣制度を入口に、同社の情報化を支援している。従業員50名ほどの企業がERPを導入するのは県内でも珍しいケース。山井社長の方針を理解し、平野氏が描くシステムイメージを具体的な形に落とし、ITベンダーに対するシステム構築依頼書の作成を行った。また、スノーピークのプロジェクトチームに対し公平な目でアドバイスをするなど、社内調整的な面にも力を注いだ。


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2010.07.01
ITコーディネータ活用記 自治体編 茨城県牛久市



茨城県牛久市
人口 76840人
面積 58.89平方キロメートル
    (平成18年2月現在)
牛久市プロフィール 茨城県の南部に位置し、東京から50km。都心への通勤圏で成田空港にも近いといった立地条件に恵まれ、ベットタウンとして発展してきた。
  市役所では「うるおいと したしみのもてる くらしやすい 市民主体のまちづくり」をスローガンに行政サービスを提供中。

茨城県牛久市では平成16年からIT調達コストの適正化を目指す一施策としてITコーディネータを活用。初年度の各課IT関連予算を8300万円、平成17年度から向こう6年間の基幹システム費用を4億5000万円削減するなど大きな効果を上げ、市の財政健全化への取り組みに貢献している。

「ITシステム費用、今後6年間で4億5000万円削減」――平成17年7月、茨城県牛久市は情報システムにかかる経費の大幅削減を発表した。平成17年度における同市の歳入150億円と比較すると数値の重みがよくわかる。この成果に、ITコーディネータが貢献している。

このシステムは適切か、価格は適切か

茨城県牛久市では、民間企業出身の池辺勝幸市長の就任後、財政の健全化と適正な市民サービス提供を柱に改革を進めている。年間10億円の経費削減を目標に掲げており、歳出の一定割合を占める情報システム費用も例外ではなかった。
池辺市長は「このシステムは本当に適切なのか」と正面から疑問を呈した。また、昭和55年から自己運用してきたメインフレームの基幹システムが、老朽化や行政需要の多様化に対応するため見直し時期を迎えたそこで平成15年秋に情報処理システムの再構築プロジェクトを立ち上げ、「システムの適正度については外部の専門家の意見を聞く」との方針が出された。
同市が専門家の派遣を求めたのは県内ITベンダーの常磐システムエンジニアリング。同社に勤務するITコーディネータ(ITC)吉田忠晴氏はユーザー企業内でメインフレームシステムをクライアント・サーバー型に再構築した経験を持つ。その視点とITCスキルが市役所内の情報システムで活かせるとの判断もあった。平成16年3月から吉田氏は牛久市役所での活動を開始する。
市役所内には基幹システムの他に、各課ごとに稼働させている情報システムがある。こちらにも見直すべきコストが随所にあった。例えばパソコンをレンタルからリースに変えるだけでも費用削減ができる。
   
 牛久市市民生活部情報政策課
   三村 義典 課長
   
   情報政策課
   山根 学 主任
ソフトウェアライセンスや保守方法の検討も同様。また各課ごとにバラバラに発注ていた地図情報関係のシステムをとめて発注してコストを削減するなど、吉田氏は次々と結果を出していった。こうした積み重ねで、平成16年度だけで各課IT関連予算は8300万円の削減をみた。
しかし、予算削減となれば、課側も慎重になる。「これまでつきあってきたITベンダーさんが手を引いてしまうのではないかという心配も上がってきました。トップの決断だから、まずやってみて欲しいと説明しました」と牛久市情報政策課の三村義典課長は説明する。
池辺市長は、吉田氏の採用後、「情報システムに関する予算はすべてITC吉田氏の監理承認を受けてから提出することを決定。これまでの慣習を大きく変えた。

パッケージソフト活用へ 初の入札を実行

牛久市から授与された感謝状を手に。
常磐システムエンジニアリング代表取締役岸根 満氏(右)
取締役吉田 忠晴氏(中央)
澁谷 和貴
池辺市長の強いリーダーシップでこの方式は徐々に根付き始める。
そしていよいよ基幹システムの再構築時期がきた。
検討の結果、維持コストが大きい旧システムを中止しクライアント・サーバー型への移行を選択した。同課の山根学主任は「パッケージソフトの採用を決め、5社のデモを見てそのうちの3社で入札を行った。吉田さんにはかつての経験を踏まえたアドバイスをもらった」と当時を振り返る。
入札方式をとったことも功を奏し、旧システムを使い続けた場合に比べ冒頭に挙げた大幅なコストダウンが実現したのである。
ITC吉田氏は、2年間の仕事を次のように整理した。「最終的なねらいは市民の皆様の税負担の軽減。まず効果のあるところから手をつけ、信頼を得てからシステム再構築に入ったのもよかったと思う」
牛久市の成果を聞き、常磐システムエンジニアリングはつくば市からも依頼を受ける。さらに、周辺の自治体も興味を示しているという。
民間の経営感覚で適正なシステムを見極めようとした牛久市の取り組みが、自治体におけるITCの活動領域をまた一つ拡大した。
 
 
<活動の足跡>

平成15年11月
庁内に「情報処理システムの再構築」プロジェクトが立ち上がる。
平成16年3月
牛久市にてITコーディネータ活動開始
市長の財政再建という目標に沿って、IT調達コストの適正化に向け活動を開始した
・パソコンをレンタルからリースに切替
・オペレータ費用見直し
・財務系ソフト料及び保守の見直し平成16年4月
IT予算執行改革
毎月予算執行前にITCが監理し承認した後に市長決済をもらうように改革
平成16年9月
更なるコスト削減を目指して、基幹システムを汎用機からオープン(パッケージ)へ検討開始
平成16年10月
平成17年度IT予算書の監理
平成17年3月
牛久市長より感謝状授与
平成17年7月
牛久市「経費削減・6年で4億5000万円」をプレスリリース

<池辺勝幸・牛久市長に聞く>
市政にとってのITコーディネータとは?


――新体制作りの中でIT費用に着目されたのはなぜでしょう。
池辺市長 歳入が150億円の時代にシステム費用が何億円もかかっている。普通、経営的に見てありえない。旧体制の縦割りでバラバラに進んでいた弊害も含めて、これでは倒産する会社の体質だと。
――「ITコーディネータの監理がない見積は見ない」と断言されたそうですね。
池辺市長 市のシステムそのものが適切か、価格の「値ごろ感」はどうか、それがわからないまま何千万円もする見積書に私は判を押しません。「隣の市でやっているから」では理由にならないでしょう。吉田さんを信頼して全部任せ、適正さについてアドバイスをもらうということです。
――ルールを徹底するには抵抗もあったのでは。
池辺市長 初めは理解されませんでしたね。既存の価値観を否定するのですから、ただ専門家を入れただけではうまくいきません。トップが、その方の意見を100%認めると徹底することです。
――成果をどう見ていらっしゃいますか。
池辺市長 職員の意識は変わってきました。事前に調査をしたり、見方が客観的になってきましたね。吉田さんには感謝しています。
  ITシステムは市民サービスのためのインフラであり道具。構築に命を賭けるのではなく使い切れる道具なのかどうかを見極めることが大切です。そうした目を持つITコーディネータなら採用する自治体も多いと思います。
  行政サービスを低下させずに適正な情報システムを運用する。市政も企業経営も根底の考え方は同じです。



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2010.07.01
受発注データベースシステムの構築
香川県・和惣菜製造 アオヤマ




株式会社アオヤマ
所在地 香川県高松市香川町大野2446  
代表取締役社長 青山重俊 氏
  12 年ほど前に、核家族化の流れから和惣菜に着目。試行錯誤の結果現在のスタイルを生み出した。和惣菜は炊く部分がポイント。したがって「うちは逆三角形で一番上がパートさん。僕は一番下」と言い切る。
創業 昭和58 年
従業員 9社員26 名、パート90 名
代表 代表取締役社長 青山重俊
事業内容 お惣菜製造卸 和惣菜、サラダを合わせて100 種類以上製造。すべて本社のある高松の工場で手作りしている。味と製造現場を見て取引を決断するスーパーが相次いでいる。鍋から直接盛り付けするため、衛生面に優れ日持ちが良いのも特徴。
URL http://www.cookpick.com
     
     
     
↑2㎏単位でコトコト煮込む家庭の味
和惣菜市場に新風吹き込む
 


手作りならではの評判と事務処理の課題

「どうぞ」と薦められてカボチャの煮つけを口にする。「これは家庭の味、いや、家庭の味以上...」――製造工程見学は、途中から「お いしい、おいしい」の連発となった。 香川県高松市の和惣菜製造・アオヤマは惣菜製造を始めて12年。試行錯誤を繰り返しつつ、ここ5年間は毎年1億円ずつ売上を伸ばしてきた。
  急成長の理由は、食べればわかるその「味」。和惣菜・サラダ100種類以上、毎日2万パックをスーパー等に出荷し、工場の稼働率は限界点に近づきつつあるほどだ。
  アオヤマの惣菜はなぜ「おいしい」のか。青山重俊社長の種明かしはこうだ。「添加物を使わず、瀬戸内のいりこだしで手作業で調理します。それも、2㎏単位でね」
  家庭での作り方に近いから「おふくろの味」が出るというわけだが、業務用なら100㎏の大きな鍋もあるのにいかにも効率が悪い。事実、1つの鍋で作れる惣菜は20パック程度だという。
  「2㎏単位以上では味が均一にしみこまないのです。でも人件費と経費を考えると割に合いません。スーパーの方が見学に来社されると、皆さん驚かれます」青山社長は豪快に笑う。儲からないと言いつつ、大きな鍋で大量生産する気はないのだ。
  アオヤマは他社の惣菜とは一線を画す製法を選び市場での地位を確保してきた。しかしその分、経営面ではできる限りの生産性向上とコスト削減が求められる。
  前者について青山社長は「会社の利益はパート従業員が出す」と位置づけ、提言やアイデアを積極的に取り入れる一方、福利厚生面にも注力。90名ほどいる女性パート従業員のモチベーションは非常に高く、味と生産性の両面でアオヤマを支える存在となっている。
  後者については、経験値を駆使して受注予測を立て無駄のない材料発注に努めてきたが、取引先数が増えるにつれ、手作業では追いつかなくなってきた。年間の受注データは150万件にも及ぶのだ。
  また、スーパーからの電子自動発注を受ける仕組みは持っていたものの、取引先のシステムが変わるたびに高額の変更費用がかかるため、業務システムの整備が急務となっていた。


地域ベンダーの経営者でもあるITCに相談を持ちかける

社内にはITに詳しい人材がいないこともあり、青山社長は地元のIT会社社長で、ITコーディネータの資格を持つ長尾和彦氏に相談を持ちかけた。
  取引先の中には、納品の2日前になってから正式な発注数を知らせる会社もあるので、惣菜ごとの受注予測を立て、あらかじめ原材料を準備しておくしかない。したがって新しい情報システムには、各社からの電子発注データを取り込みつつ、蓄積されたデータを様々に活用できることが求められた。
  長尾氏は条件を満たすシステム化を検討する過程で、ある点に留意した。同社では手作業なりに事務作業を工夫し、その方法が習慣化している。システム化に伴いここに大きな変更をするかどうか。
  「形の決まったシステムを導入して人の動きを変えてしまうのは社長の思いとは相違する。そこでデータベースを一元管理して、そこから業務ごとに必要な機能を取り出す形を考案しました」
  アオヤマが年々成長を続けていることを踏まえ、今後の規模拡大に対応できることも考慮した。
  具体的には、受注データをデータベース「SQL Server」を使ってサーバーに保存。経営情報、材料調達、製造・出荷管理それぞれの業務に応じて必要なデータを表計算ソフト「エクセル」に落として活用する形態にした。取引先の都合による受注形態の変更もよくあるが、最近の変更例では、他社では対応に50万~80万円かけたのに対し、同社は10万円程度で済んだという。

数値が目に見え、予測が立てられる「感動」

新しい情報システムが出来上がると、受注予測、材料計算、売上予測など各種数値が目に見えるようになった。青山社長は「新しい世界を見ました。とくに感心したのは日々の売上から1ヶ月の売上予測が出ること。足りないときにすぐ対策が立てられますから」とデータを持つ意義を実感している。
  長尾氏は併せて社員に数値の見方や活用法をアドバイスした。会社の数値に触れることで社員のやる気や勉強への意欲がさらに上がったのもうれしい効果だという。
  利益を生むのは人―アオヤマはともすれば忘れがちな「基本」を今日も忠実に実行している。


ITコーディネータ紹介

香川県で戦略的情報化のコンサルティング、情報システム構築を行っている。アオヤマへは週に12 時間ずつ訪問する形態をとり、社内でシステム構築や社員へのアドバイスなどを行っている。
  アオヤマの今後については、「会社の規模拡大に応じてシステムを評価していくことになるでしょう。さらに便利にしていくべき点やセキュリティ面の対策など、まだ課題はあります」と、アオヤマの成長を視野に入れた計画を立てている。

有限会社エイド
http://www.aid.nu/

有限会社エイド
代表取締役
長尾和彦 氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>
長尾さんにはシステムを作る面に加えデータをどう活用するかの指導も受けました。長尾さんがいらっしゃると社員が興味を持ち、一生懸命パソコンに向かって勉強するようになりました。
  私自身はコンピューターに興味がないので全面的信頼してお任せています。私は何でも思いつきでやるが、長尾さんは計画を立てて練るタイプ。正確が正反対なところもバランスが取れて良いのではないかと思います。
(青山社長談)

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2010.07.01
インターネット時代の新ビジネスモデル
石川県金沢市 中古自動車部品販売業 会宝産業
(平成18年度IT経営百選最優秀賞受賞)




会宝産業株式会社
所在地 石川県金沢市東蚊爪町1 丁目25  
代表取締役   近藤典彦 氏
創業 昭和44 年
従業員 48 名
事業内容 ・自動車中古部品輸出販売
・自動車リサイクル事業
・中古自動車の買取、販売
URL http://www.kaiho.co.jp/
     
     
     


国内外で異なる中古車部品の価値がビジネスチャンスに

 日本の常識は世界の非常識。石川県金沢市・会宝産業のビジネスは「地球規模での発想」が基点だ。
 中古車の解体業から中古車部品販売事業を生み出した近藤典彦社長は、販売に手間を要する中古自動車部品が、海外では飛ぶように売れることを知る。
 というのも、中古自動車の査定額が走行7年で0円になるのは日本だけの事情。同じ車も海外に行けば「現役」なのだ。さらに日本車の中古部品は日本車からしか取れない事情もあり、海外の業者は「宝」を求めて日本に買い付けにやって来る。
 「一つあたりの単価は安いが、これなら確実に売れる」と、近藤社長は輸出事業に着目する。

インターネット時代を迎え自らが商社機能を 

 当初は商社に仲介を頼んでいたが、マージンが大きく、また値決めも満足がいくものではなかった。しかし幸運なことに、インターネット時代の到来とともに、オープンに情報をやり取りできる環境が整備されてきた。言葉の問題さえクリアできれば、自社で商社機能を果たせそうだ。
 解体業の同業者は輸出を躊躇している。ならば、輸出に特化すれば差別化にもつながる。
 こうして新戦略に踏みきり、現在は58カ国との取引実績を持つまでになった。さらに、ロシア、モンゴルなど10拠点のエージェントと契約し部品ストック用拠点も置いている。近隣諸国へはこの拠点から部品が配送されていくのだ。英語、ロシア語、中国語が堪能な社員を雇用し、語学の壁も取りはらった。
 一方、国内においては約30社の解体事業者とNPO法人RUM(リ・ユース・モータリゼーション)アライアンスを形成。自動車リサイクル事業の標準化を目指しつつ、ネットワークによってスケールメリットを出し、互いのビジネスチャンスを増やそうというものだ。近藤社長は「これからは競争よりも協調で利益を出す時代」と見通しており、連携によるコスト削減も競争力強化のカギを握ると考えている。
 そして、世界規模での物流を支えるには「情報」が欠かせない。物理的なモノの動きをデータとして把握し、調達も販売もさらに円滑に進めたい。例えば、イギリスで倉庫の中に必要な部品の在庫がなかった場合、もし近くのギリシャに在庫があるとわかれば、日本からコンテナで送られてくる部品を待たずに拠点間の移送で調達ができる。顧客への商品提供はスピーディになる。
 そこで、会宝産業が、海外拠点の在庫、販売、仕入れなどのデータを集めて海外エージェント(販売側)と国内アライアンス企業(調 達側)に公開すること、情報を通じて商社の機能を強化することが同社の次のステップとなった。

ITコーディネータのアドバイスを受け電子商取引システム構築へ

 近藤社長が温めていた構想はITコーディネータ横屋俊一氏の協力で具体的なシステムとして実現する。今回は企業間のデータ共有であることから、Webをベースにしたシステム(名称KRAシステム)を開発。会宝産業のサーバーにデータを集約し、在庫や販売を一元管理する。海外エージェントやアライアンス企業は、インターネットを経由してこの情報にアクセスする仕組みだ。
 会宝産業側では、データの分析によって、例えば国内2社の解体中古車を合わせてロシア向け、ギリシャ向けなど輸出コンテナのアレンジができるようになるという。データがまた新たなビジネスチャンスをもたらせば、商社としての存在感はゆるぎないものになるだろう。
 次期システムでは、部品の電子商取引ができる仕組みを考案中だ。これが実現すれば、まさに地球規模のリサイクルネットワークが動きだす。誰も手を付けていない領域に果敢に挑む近藤社長は、自らの位置づけを次のように言う。
 「社名の会宝は、皆が宝に会える会社であること、そして開放されていることを象徴しています。自動車メーカーが動脈であるならわれわれは静脈産業。このポジションで新しい仕事を生み出していきたい」
 解体業から新たな資源を作りだす会社へ――一つのビジネスが磨かれる背景には、企画発想力と行動力がある。


ITコーディネータ紹介

 石川、福井を中心に活動を展開。
 ITSSP 事業(現在のIT 経営応援隊)の経営者研修会を縁に会宝産業をサポート。本システムは2004 年のIT 活用型経営革新モデル事業にも採択された。
 近藤社長が構想する「商社機能の確立」に向け、取引先との情報ネットワークを作り在庫や販売情報を共有する仕組みの構築を目指した。まずはバランススコアカードを利用するなど、同社の課題を整理し戦略を立案するところからスタート。
 システム構築の段階では、IT ベンダーへの窓口となる情報システム担当の桜井茂宏氏へ、近藤社長の構想やシステムを導入する意図を伝え、過不足ないシステム作りをサポートした
株式会社ナレッジ21
http://www.knowledge21.jp

株式会社
ナレッジ21
代表取締役
横屋俊一 氏


<ITコーディネータを活用していかがでしたか?>
 良いシステムにするには経営者の発想や構想をITベンダーに理解してもらう必要があります。しかし私の言い方で伝えてもエンジニアには伝わらない。横屋さんは翻訳、それも単に右から左にではなく咀嚼して伝えるという役割を果たしてくれました。
 ただ、専門家といえども、私が相手を少しでも疑ったら深い話はできなかったでしょう。今回うまくいったのは横屋さんと信頼関係が築けたからだと思います。(近藤社長 談)

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2010.07.01
多店舗展開時のコスト削減とサービス強化
沖縄県沖縄市 保険調剤薬局経営 薬正堂
(平成18年度IT経営百選優秀賞受賞)




有限会社 薬正堂
所在地 沖縄県沖縄市知花6丁目25番地12号  
代表取締役社長
宮里敏行 氏
創業 昭和59年7月
従業員 134名 名
事業内容 保険調剤薬局「すこやか薬局」・介護保険事業。ドライブスルー薬局などの新しい試みも行っている
URL http://www.sukoyaka.cc/
     
     
     


地域のかかりつけ薬局を目指し薬剤師のスキルを向上

沖縄県内からIT経営百選優秀賞に選ばれた薬正堂は、「すこやか薬局」の名称で県内19箇所に調剤薬局を展開。
 平成17年度のIT経営応援隊事業である経営者研修会、IT成熟度診断などに参加、ITコーディネータの平良弘氏らの協力も受けつつ、各薬局店舗の在庫を統一管理するシステムを運用中だ。
 すこやか薬局は、「地域のかかりつけ薬局」を目指し、専門意識の高い薬剤師によるていねいな薬事相談、待ち時間を快適に過ごしてもらうための配慮、患者の心を明るくする元気な応対など、様々な面でサービス強化に努めている。
 沖縄県は医薬分業率が70%近くに達しており、全国的にも高いレベルにきている。医療法の改正で、今後、調剤薬局は医療提供機関として位置づけられることになる。業界はドラッグストア系の大型店舗との二極分化が進むと言われている。一方で医療費抑制策を受け、調剤薬局の売上は頭打ちとの予測があり、特色を出せない小売薬局は厳しい時代を迎える。
 この環境変化に対し、宮里敏行社長は、スケールメリットによるコスト削減、そして専門性と質の高いサービスで顧客からの信頼を獲得しようと考えた。  前者を実現するIT活用の一つが、19店舗をネットワークで結んだ在庫管理・自動発注システムである。

キャッシュフロー改善は不要在庫削減から

「一店舗あたり約千種類の医薬品を扱いますが、各店舗でそれぞれ在庫を持つと、かなりの量になります。これを一箇所で統一管理することにしました」
 宮里社長の狙いは各店舗ごとではなく全店の合計値で適正在庫を持ち、発注を集約して会社全体の在庫量を減らすことにある。これはキャッシュフローの改善にもつながる。
 2ヶ月分あった在庫が、今では2週間分程度まで圧縮。今後は、ジェネリック薬品(成分が同じで値段を抑えた医薬品)の普及で取り扱い点数の増加は避けられない。こうした段階になればさらにシステムを導入した効果も出てくることであろう。また、自動発注によってオペレーションコストも下げることができた。

IT経営応援隊を機にITコーディネータからアドバイスも

 本システムは宮里社長の双子の兄が経営するITベンダーと二人三脚で構築した。この企業が沖縄IT経営応援隊の活動に参加し交流を深める中で、平良氏の客観的なアドバイスを受けることになったのだそうだ。
 平良氏は「ご兄弟であるということでITベンダーがCIO的な役割を担っていると考え、ITコーディネータとしては、ベンダー側へのアドバイスも積極的に行いました」という。
 一方、宮里社長は「IT経営応援隊への参加でITを活用した効率化やサービスの充実は避けて通れないと実感しました。ただ、医療分野はIT化が進まないので医療費が高いといわれるくらい、情報化が遅れていますから、そこが課題でもあります」と感想を述べている。  医療分野でのIT利活用推進は同社のもう一つのテーマ「専門性の高い充実したサービス」にも関連してくる。
 その一例として、すこやか薬局では、顧客からの相談を受ける専用の携帯電話を用意し、「移動コールセンター」のように、担当の薬剤師が交代で24時間電話相談に応じている。特に小児科などでは不安感から救急病院に駆け込む例も多く見られるが、薬剤師の的確なサポートがあれば救急医療の混雑も多少は緩和される。薬剤師の仕事は、患者にも病院にも影響を及ぼすのだ。
 今後の展望について、宮里社長は、「医療機関と情報連携できるようなITの使い方が求められるでしょう。医療機関からも推薦される薬局として医療提供施設の役割を果たしていきたい」と語った。


ITコーディネータ紹介

 沖縄県で企業のIT利活用を支援するITコーディネータ。電子自治体及び統合型GISの構築・推進には定評がある。
 IT経営応援隊の活動を通じ、薬正堂のシステム活用を支援。システムはすでに構築・稼働されていたが、並行して経営戦略を整理し、運用面でのアドバイスを行った。「状況に合わせて情報提供を行い、会社の成熟度を一段階上げるお手伝いをしている」とのことだ。折に触れ情報提供を行う交流スタイルによって長期的な関係性が構築できそうだ。

株式会社インフォ・スタッフ
http://www.info-sf.co.jp/

株式会社
インフォ・スタッフ
代表取締役
平良弘 氏


<ITコーディネータを活用していかがでしたか?>
 平良さんの持つ、発想を実際にコーディネートして実現する力に感動を覚えました。システム屋さんではなく経営のことをよくわかっていただき、事業を発展させるためのITの使い方を提案してもらえました。
(宮里社長 談)

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2010.07.01
ビジネスの価値と新しいワークスタイルで人材を惹きつける
茨城県つくば市 婦人メーカー モネット(モーハウス)
(平成18年度IT経営百選最優秀賞受賞)




モネット有限会社
所在地 茨城県つくば市山中480-38
創業 平成14年
従業員 45名(社員4名)
事業内容 授乳服販売。東京・青山の店舗販売、全国の産婦人科での販売・カタログ販売・ネット販売を行う
URL http://www.mo-house.net/
     
    茨城県つくば市のモネットは授乳服のメーカー
(ブランド名は「モーハウス」)。
「授乳服? 男には関係ない」と思わないでいただきたい。
同社のあり方には、男性には気づきにくい
経営のヒントが詰まっている。
代表
光畑由佳 氏
   


自分が得た解放感を皆に伝えたい

 授乳服とは、授乳がスムーズにできるよう工夫された服。見た目は一般の服と変わらないが、これを着れば赤ちゃんを連れて外に出た女性が、周りに気兼ねなく母乳をあげられる。
 光畑由佳社長が公共の場で授乳をした体験から、開発・販売に踏み切ったのだという。
 商品の販売を始めて10年、会社組織にしてから5年が経ち、現在はWebサイトと紙のパンフレットを併用した通信販売で3万人の顧客を獲得している。
 2005年に東京・青山にアンテナショップも開店した。
 しかし光畑社長は、「これを商売にしたいという意識はなかった」のだと言う。
  「授乳服を着ることで、子どもがいる方の生活が180度変わる。母乳期は外出をせず我慢することが当たり前とされていたが、それはストレスでないわけはない」
  光畑社長は、「子供のために」と家に閉じこもる女性たちの意識改革に努め、授乳服を着て豊かな子育てライフを目指すことに仕事の重点を置いた。
 授乳の様子を見せる「授乳ショー」などのイベントを開催する一方、豊富な人脈を活かして助産師をはじめとする専門家の応援も得る。
 こうした取り組みに伴い共感は徐々に広がっていく。最近では、夫から妻へのプレゼントの需要も増え、母親の育児のつらい部分を理解しないと言われていた男性にも変化が見え始めている。


子連れ就業を可能にしたら、優秀な女性が集まった

 モーハウスのビジネスは、それ自体がライフスタイルの変化、つまり社会貢献に結びつくものであり、この方針に賛同して同社の活動に多くの女性が参加するようになった。
 販売者―消費者の関係というより、「自分らしいライフスタイル」の確立を目指す子育て女性の仲間という意識が強い。それがモーハウスの商品力とブランド力につながっている。
 モーハウスの従業員は全員女性。大半が授乳経験者であるため、経験が商品企画に生かされる。さらにオフィスに赤ちゃんを連れてくる「子連れ就業」が認められているほか、在宅での勤務やパートタイム勤務など、多様な働き方を受容している。
 託児所があるならともかく、職場に子どもがいるというのは「固い頭」では想像しえないが、ここではごく普通の風景だ。このユニークな制度で同社は強みを得ることになる。
 「小さい企業は人員の確保が難しいにもかかわらず、優秀な方を採用しやすくなった。子連れ出勤などの多様性がなければ実現できなかったと思います」(光畑社長)
 採用時は企画・発想力や的確なアクションが起こせる能力を重視するそうだが、従業員の中には、国家公務員第一種職の経験者もいるとのことだ。
 仕事自体が社会的な意義を持ち仲間を幸せにできる。自分の実感や経験が生かせ、子どもと一緒の生活リズムを保ちながら能力を発揮できる。
 そうした仕事・職場が意欲ある女性を惹きつけるのであろう。


チーム制で仕事をシェア、ITで情報共有

 ただ現実には、子どもの病気などで出勤の安定度は低くならざるを得ない。
 そのため光畑社長は、仕事はチーム制でシェアし、情報共有を重視。
 社員のスケジュール管理、社員同士の連絡にはメーリングリストを利用するなど、ITを積極的に活用している。
 「こうあらねばならない」という社会通念にとらわれず、現実や実感に誠実に発想することで、より良い方向が浮かび上がってきた。
 知らず知らずのうちに「会社とは、経営とはこうでなければいけない」と思い込みがちだが、経営者の感性がその突破口にもなるのだ。


ITコーディネータ紹介

 茨城県つくば市、土浦市などを中心にコンサルティング活動を行っている。
 平成16年6月つくば市商工会の相談会でモネットの光畑社長と出会い、翌年から社員の業務改善に関する相談、ITSSP 経営者研修、茨城県専門家派遣事業のコンサルティングを行う中で同社の独自性を知り、IT 経営百選への推薦につながった。
 モネットの経営の特徴は「起業の動機」と「方策の展開」にあるという。お母さんを諸々の束縛から解放したいという社長の思いが、日本における授乳服の発売につながり、更には子連れ就業、全国各地でのモーハウスサークル結成へと発展している。
 これらの方策が人を引き寄せ、顧客あるいは支援者となった人に満足を提供している。
 限界の見えたマスプロ・マスマーケティングから脱却する「個客」指向のユニークなビジネスモデルだと評価している。

ITコーディネータ茨城
http://www.itc-ibaraki.com

ITコーディネータ

堀越眞哉 氏
星データ企画



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2010.07.01
高齢者が安心して地域で暮らすために徹底した教育で信頼勝ち取る
山口県周南市 電気通信サービス業 周南マリコム
(平成18年度IT経営百選最優秀賞受賞)




周南マリコム株式会社
所在地 山口県周南市入船町2-3 MARICOMビル  
創業 平成元年
従業員 52名
事業内容 緊急通報・生活サポートシステム『さすがの早助(サスケ)』の運営(90%が自治体)、国際港湾無線局『徳山・下松湾ポートラジオ局』の運営(業務受託)、電気通信事業及び管理業務(工事)など
URL http://www.maricom.co.jp/
     
    「今日はどうしましたか」「練習のためにボタンを押してみてください」オペレーターのゆったりと優しい声がフロアに響く。パソコンの画面には電話相手である高齢者の名前や生活状況、通院先や過去のコンタクト履歴などが表示されている。
山口県周南市・周南マリコムの4Fにあるコールセンターだ。
登録者は山口県を中心に27市町村9000世帯に及んでいる(サービスの契約は自治体が結ぶことが多い)。
    代表取締役社長
堀 信明 氏
システム事業部
有馬秀和 氏
   
    センター責任者の防川初美氏 サスケシステムの中核、
オペレーションセンター


仕組みはIT売りはオペレーター

 同社が提供するサービス「さすがの早助(以下文中サスケ)」は電話回線を利用した緊急通報・生活サポートサービス。
 契約者の家庭に緊急通報ボタンを置き、ボタンを押すと社内で待機しているオペレーターにつながるというものだ。
 相手の状況によりタクシー・救急車の手配や近親者への連絡なども代行する。
 特徴的なのは、急病などの緊急時でなくとも24時間365日オペレーターと話ができること。
 「夜遅くなって急に誰かと話したいという場合でももちろん対応いたします。
 逆に私どもから定期的に電話をかけ、機器に慣れていただくようにもしています」
 センターの責任者防川初美氏は、サスケの仕組みをこう説明する。サスケでは、加入時に看護師が1件1件聞き取り調査に出向くなど、人的な対応を重視しており、そこが好評を博する理由となっている。
 同社のオペレーターには、新しい形態で地域の役に立つ仕事に生きがいを感じる看護師や保健師、介護福祉士なども在籍し、意欲的で多様な人材がそのまま強みとなっている。
 しかし、同社は従業員50名ほどの企業。きめ細かいサービスの質を保てる理由は何なのか。
 「電話のやり取りではオペレーターの能力が問われます。したがって新人には3ヶ月、の後も毎月の研修を実施してレベルアップを図り、傾聴できるオペレーターを育てています」
周南マリコムの堀信明社長は、本事業の中核は「教育研修」だという。お年寄りを「助けてあげる」のではなく、それぞれの人生に敬意を払い傾聴することがその本質だ。
 スキルが高ければ顧客から喜ばれる。それが従業員の自信とやりがいアップにもつながる。
 こうした好循環が生まれているのだろう。


入退出を映像で記録個人情報保護法を徹底

 一方で、これだけの個人情報を扱うとなると、セキュリティ、特に保有する情報の管理が欠かせない。周南マリコムでは、この点を徹底している。
 システム事業部の有馬秀和氏は、「プライバシーマークを取得して適切な運用管理に努めています。
 まずは外部からの不正アクセス、次に内部からの情報漏えいに気を使います」と説明する。
 システム上では、データをクライアントパソコンから取り出せないようにしているほか、フロア入口にカメラを設置し入退出者を画像で記録したり、サーバールームへの入室可能者を制限(ICカードで管理)するなどである。
 最近では、新規事業として、離れて暮らす家族などが高齢な両親の生活状況を静かに見守れる新しいシステムを考案。
 家電製品の利用状況を毎日レポートして家族の携帯電話やパソコンで見られるように連絡するという「生活見守りサービス」である。
 本システムは携帯電話の無線ネットワークを使って情報を収集、そしてサーバーから自動的に情報を配信する仕組みであり、各種技術やITの力が取り入れられた商品だ。
 豊かな発想をベースに技術とITと人を適材適所に活用-それが周南マリコムの強さである。


チーム制で仕事をシェア、ITで情報共有

 ただ現実には、子どもの病気などで出勤の安定度は低くならざるを得ない。
 そのため光畑社長は、仕事はチーム制でシェアし、情報共有を重視。
 社員のスケジュール管理、社員同士の連絡にはメーリングリストを利用するなど、ITを積極的に活用している。
 「こうあらねばならない」という社会通念にとらわれず、現実や実感に誠実に発想することで、より良い方向が浮かび上がってきた。
 知らず知らずのうちに「会社とは、経営とはこうでなければいけない」と思い込みがちだが、経営者の感性がその突破口にもなるのだ。


ITコーディネータ紹介

 山口県を中心に、Webシステムの構築やコンサルティング事業を展開。ITコーディネータやまぐち協同組合では、IT経営応援隊の経営者研修会をはじめ、地域企業の戦略的IT 活用推進に関わる取り組みを進めている。
 周南マリコムの堀社長とは10年にわたり交流を深めており、経営者研修会に参加してもらったこともあるそうだ。
 堀社長は「様々な事柄についてアドバイスをいただいている。IT経営百選に応募し入選できたのも谷口さんのおかげ」と言う。
 谷口氏は、周南マリコムの今後について、「地元から事業を広げてきたこと、社員をきちんと教育し自社で設備を所有していることは大きな強み。今後は堀社長のパワーで牽引してきた会社から、社員の力を出し合いさらに大きな事業展開のできる会社に成長してほしい」と期待をかける。

ITコーディネータやまぐち協同組合
http://www.siy.co.jp/itc/

ITコーディネータ

谷口 修 氏
ITコーディネータ
やまぐち協同組合



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2010.07.01
「IT を売る側の中小企業」として経営改革を実行
長崎県・オフィス機器販売業 イシマル
(平成18年度IT経営百選最優秀賞受賞)




株式会社 イシマル
所在地 長崎県長崎市田中町587-1
創業 昭和48年
従業員 188名
事業内容 事務用品・OA機器・オフィス家具の販売。インターネットデータセンター・保守サービス業務・インテリア企画設計施工
URL http://www.ishimaru.ne.jp
   
    代表取締役社長
石丸 利行 氏
本社社屋
   
    常務取締役
高橋憲一氏
財務・企画本部・
企画室マネージャ
後田友久氏
セミナーの様子




 ITを購入する際、販売会社が信頼できるパートナーであるかどうかは導入成果を左右する大切なポイントだ。
 IT経営百選最優秀賞受賞企業には、「ITベンダーである中小企業」として経営改革に積極的な企業も選ばれている。その1社が長崎県長崎市のイシマルである。
 同社は文具店の老舗・石丸文行堂商事部門を独立させて発足。石丸利行社長は、「文具はそろばん、電卓、コンピューター(OA)と進化してきました。お客様の課題を時代に合った道具で解決するのがイシマルの努めです」と経営方針を説明する。
 伝統が持つ地域からの信頼は同社のビジネスをバックアップしてきたが、「21世紀に生き続ける企業であるには〝変わること.が必要」(石丸社長)と、改革を意識。社員全員に会社に対する率直な意見を求め、幹部社員が合宿をして徹底的に検討した。
 その様子を高橋憲一常務は「我々自身の自己批判も含め本気で議論を重ね、ビジョンのベース作りをしました」と振り返る。
 社内のコミュニケーションを深め、また教育にも積極的に投資。そうした自社の経営改革に役立ったのがITだった。
 同社では、日報やスケジュールなど、グループウェアを使って様々な情報を共有。石丸社長は「グループウェアはボトムアップではなく経営者が判断して入れる道具ですね。掲示板機能を使って載せた情報などは一瞬で社内に浸透するわけですから」と効果を実感している。
 またテレビ会議システムによって支店の社員とも密な連絡がとれ、セミナーや研修も同時に行えるようになった。テレビ会議が適する業務と適さない業務の違いも身をもって体験しているという。

顧客企業にITの良さを伝えたい

 自らがITを使って効果を確かめることが、顧客にIT活用を進める時に生きてくる。高橋常務は「ITは安くて便利になったものの、敷居が高い面もある。
 お客様に適した使い方を我々が一緒に考える姿勢を大切にしたい」と言う。
 そうした取り組みの一つとして、2006年11月にITコーディネータ木村玲美氏を講師に迎え顧客向けのIT活用経営セミナーを開催した。
 本セミナーは、ITコーディネータとの協業を目指す大手ベンダーの紹介により実現。木村氏が講師となり福岡で開催された同主旨のセミナーを担当の後田友久マネージャーらが聴講。「木村さんの考え方に共感し、そこに当社ならではの内容を織り込んで自社のセミナーとした」という。
 当日は50名ほどの顧客企業経営者が集まり、道具としてITを使う有効性を理解してもらうとともに、イシマル自身への関心も喚起できたそうだ。
 「ITといっても使うのはやっぱり人。私共はお客様に〝オフィスウェア.を提供していると考えていますが、これはハードウェア、ソフトウェア、ユースウェアに『ハートウェア』を加えた総合体です」と石丸社長は言う。
 同社のような「利用者の視点」を持つITベンダーが増えれば、地域企業のIT利活用は、よりスムーズに推進されていくだろう。






ITコーディネータ紹介

 数々の支援事例を持つITコーディネータ。特にITを活用した販路開拓や、業務改善、社員教育、経営革新に実績がある。
 経営者の思いを傾聴することによって、経営上の本質的な課題を把握するよう心がけている。
 ITコーディネータの育成やITコーディネータが地域で根付く基盤づくりの活動などにも積極的に取り組む。
 今回は、大手ベンダーと地域ITコーディネータの協業プロジェクトを推進。地域のITベンダーがITコーディネータを活用しながら顧客視点に立ったサービスを提供するための体制づくりを目指している。
 イシマルの後田氏は「木村さんはお客様の状況、つまり地域の中小企業のことをよく知っている。同じ目線で話せるので方向を合わせやすく、またITありきでなく経営から入るスタイルが当社の目指す方向と一致する」と評価する。
 ITベンダーの経営サポートを通じて企業のIT化を支援することも、ITコーディネータに求められる大きな役割のうちの一つだ。

浜松総務部有限会社
http://www.soumubu.co.jp/

ITコーディネータ
産業カウンセラー
木村 玲美 氏
浜松総務部有限会社




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2010.07.01
新しい習慣を根付かせる
この工事は赤字?黒字?
原価把握が利益重視の経営を生んだ
富山県富山市・鉄筋工事業 旭鉄筋 の場合





旭鉄筋株式会社
所在地 富山県富山市水橋開発277-11
代表者 井本秀治氏
設立年 昭和45年
従業員 25名
事業内容 建設現場における鉄筋工事。
ビル、橋梁、高速道路の橋脚・橋梁などにとくに強い。
URL http://ww2.ctt.ne.jp/~asahi/index.htm
     
   
    代表取締役社長
井本秀治 氏


ビルや橋梁の基礎を作る鉄筋工事は、完成すると目には見えないものの、建物の強度を左右する重要工程。雷鳥大橋や立山大橋など、数々の公共工事で実績を持つのが富山県富山市の旭鉄筋である。

○IT化が遅れる業界事情
手作業では数値が追えない


 井本秀治社長が創業者の父を継いで2代目社長になったのは7年前。社員時代と仕事内容は大きく変わった。「現場に出ていた時の方が帰って飲むビールもおいしかったですね。人と話すのが苦手な自分が営業もするわけですから」
 当時、自己啓発のために参加した勉強会で知り合ったのがITコーディネータの吉田誠氏。同じ勉強会の仲間として交流を深めているうちに、悩みやITの使い方について相談する間柄になった。
 ちょうど吉田氏も独立して会社を興し、新米経営者として悪戦苦闘している最中。自身の経験やITコーディネータとして学んだことを実践に移す格好の相手でもあった。
 建設業の中でも専門工事業者は家族経営の企業が多く、ITの活用はあまり進んでいない業種だ。しかし井本社長は公共工事の減少や値下げ競争が加速することに危機感を持っていた。「もはやドンブリ勘定ではいけない。工事の採算ラインを把握しなければ。しかし、手書きで数値を集めるのは労力がかかりすぎる」
 各工事の原価管理をきちんと行いたい。この井本社長の思いがIT活用に足を踏み出させたのだった。
 相談を受けた吉田氏は、パソコンの表計算ソフトやシェアウェアソフトを使い、費用をかけずに実績データを蓄積する仕組みをつくる。しかし、工数や単価、原材料、外注費など工事実績の日報提出を指示された工事責任者の職長の側は、忙しい毎日の中で「余分な」業務はつい後回しにしがちだ。出し忘れたり、まとめて書くことによる記憶違いがあったりとなかなか正確なデータが集まらない。
 ITの仕組みを作っても、運用が社員に定着せず尻すぼみするのはよくあること。旭鉄筋も社長の思いとうらはらに何度か計画が頓挫しかかったが、吉田氏がその都度井本社長を激励した。井本社長があきらめずに導入理由を説明し続けた結果、2年の歳月を経て、工事当日夜の日報提出が習慣として根付き始めたのだった。

○根拠があるから交渉できる
赤字工事を回避


 以前は「人が遊んでいなければ(何か仕事をしていれば)会社は大丈夫」という程度の判断しかできなかったが、今は現場の職長も自分の担当工事の数値に敏感になってきたという。
 井本社長自身の大きな変化は、「数値的な根拠を持てたことで、赤字仕事を断れるようになった」ことだ。ゼネコンとの価格交渉においても、数字の根拠があれば話を理解してもらえる。むしろ、きちんと計数管理をしていることに驚かれる時もあるという。逆に「安ければそれで良い(質を下げても良い)」と考える発注元の仕事は無理して受けないという選択もできる。
 吉田氏は、「売上が上がると利益が上がるのが通常ですが、この業種は外注費が高く、外に出すと赤字になる場合もあります。利益重視の経営になってきたのは良い変化です」と分析している。
 今後、目指すのは「従業員が満足できる会社」。
 「この会社に来たら何だか楽しい、給料も同業者より良い。甘いと言われもしますが、そんな会社にしていきたい」
 業界特有の課題を一つ乗り越えた井本社長は、澄んだ目を輝かせて方針を語った。


ITコーディネータ紹介

 特定非営利活動法人ITコーディネータ富山の会長を務める。ITコーディネータとしてのコンサルティングビジネスを展開中。
 旭鉄筋へはパソコンのサポートや、外国籍従業員に対する事故防止目的の動画マニュアル作成(この取り組みは国土交通省の「下請業者の経営力・施工力の充実・強化促進モデル構築支援事業」に採択された)など、何でも相談・依頼される良好な関係だ。今後は、親密さを保ちつつもビジネスパートナーとして適正な距離感を促っていくことが、より良い二人三脚につながるであろう。
 井本社長は「なくてはならない存在」と評し、特に「モチベーションを上げてくれることが助かる」と言う。日報記載の習慣を定着できたのは、吉田氏の根気良いサポートによるところも大きい。

有限会社スリーコード
http://www.three-chords.com/
ITコーディネータ富山
http://www.itc-toyama.org/

ITコーディネータ

吉田 誠 氏
有限会社スリーコード
ITコーディネータ富山
会長



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2010.07.01
意識改革から始める経営改革
システムリニューアルをきっかけに社員が会社を変え始めた!
千葉県千葉市・漬物卸売業 千代田漬物 の場合




千代田漬物株式会社
所在地 千葉県千葉市美浜区高浜2-2-1 (千葉市中央卸売市場内)他に成田市に拠点を持つ
代表者 柿澤利行氏
創業 昭和50年
従業員 20名
事業内容 漬物の卸売り(卸売市場の店頭販売30%、県内約170店舗への外商70%)
URL http://www.chiyotsuke.co.jp/
     
   
      営業部部長
柿澤好徹氏
代表取締役社長
柿澤利行氏
 
   
    店頭での業務風景
   
    卸売市場の店舗 早朝の外商部の風景


 2006年3月1日午前5時。すでに活気を帯びている千葉市中央卸売市場内にある千代田漬物のオフィスで、新しい基幹業務システムが稼働を開始した。早朝から駆けつけ待機するITベンダーやITコーディネータ。慣れない動きに現場には黄色い声が飛び交い「戦争」状態に...。しかし、今回は「9年前」とは違う。1週間もすると新システムは社内に確実に定着していった。
 「9年前に販売管理システムを入れたときは、『これを使いなさい』と社員に押し付けてしまいました。ちょうど業績も下降線に入っていて、ボーナスも出ないのに機械にお金を払うのかと社員から猛反発を受けました」
 漬物卸売業・千代田漬物の柿澤利行社長は9年前の苦い経験をこう説明する。システム導入がきっかけとなり、当時30人いた社員の約半数が退職。会社は存続の危機に立たされた。
 なんとか苦境を乗り切り、システムのリニューアルを目指した千代田漬物は、アドバイザーの必要性を感じ千葉県産業振興センターからITコーディネータ鬼澤健八氏の紹介を受ける。
 柿澤社長の「今度は社員が主体となって作る」という構想を、鬼澤氏が後押ししていくこととなった。

○IT導入の会議なのに仕事の現状を話し合う!?

 6名からなる新しいプロジェクトは「改革円陣隊」(通称:改円隊)と名づけられた。「でもスタートは全然ITではなく、鬼澤さんの問いかけは皆さんはどんな仕事をしているのか、でした」とリーダーの柿澤好徹営業部長は説明する。参加メンバーが主役となり、会社の現状や強み弱み、どう変えていけばよいかを話し合う。鬼澤氏は考える材料(データ)を提供したり、会議を進行させる役割を担った。
 会議が軌道に乗り出すと、「うちはこんな会社なんだと見えてきた。主要な取引先はどこか、どう売っていくかを考えなければと気がついた」(柿澤部長)と、メンバーは徐々に当事者意識を高め、自ら改革の方向を考え始めたのだった。
 業務の見直しが進み、次はいよいよIT導入のステップへ。今回は、従来からの販売管理に加え、在庫管理と会計処理をシステム化したが、システム内容や費用、業務フローを勘案し、あえて手書きを残した部分もあったという。
 ITベンダーの選考も鬼澤氏の指導のもと社員自らが行った。新システムはパッケージソフトをカスタマイズなしに利用。パッケージソフトの標準的な業務フローに合わせることで、結果的に構築費用を抑えることができた。
 また、成田営業所との間はブロードバンドでVPN接続し、リアルタイムでデータを利用する体制を整えた。

次はデータを生かし、営業手法の改善へ

 導入後は、在庫管理が適正になり粗利益率が約1%アップ。一方で、社員には売上データを元に販売方式を工夫する動きも出てきたという。
 「得意先の売上アップに役立つ提案をしたい」「地元の土産店に外国産の漬物が並ぶ昨今、千葉県らしい地産の漬物も広めたい」。
 こうした柿澤社長の問題意識は改革プロジェクトを通じて社員と共有することができた。
 「景気が悪いとどうしてもマイナスの方に頭が動く。しかし、やることが見えれば活気が出てくる。これが経営者としては一番うれしい」と柿澤社長は力を込めた。鬼澤氏が「成功のカギはITではなく人」と指摘するように、千代田漬物はIT導入をきっかけに社員の力を伸ばすことに成功した。



ITコーディネータ紹介

 千葉県を中心に活動するITコーディネータ。中堅中小企業を中心に経営課題整理やIT活用支援、基幹系業務改善支援を得意とする。
 千代田漬物では合計40回におよぶ改円隊プロジェクトの会議を開催し、SWOT分析などを通じて会社の現状を整理。売上分析資料を用意したり、会議結果を文書に整理したりなどサポートを行いながら、メンバーが自ら考え討議できる場作りを進めた。現場を知るため、早朝から市場を訪れ、営業担当者の車に同乗して顧客を回ったこともあったそうだ。
 柿澤部長は、「鬼澤さんがまとめた会議資料を見て、たった2週間で私達以上にうちの会社を知ってくれた」と感じたそうだ。柿澤社長は「経営者はいつも一人で決断する立場。ブレーン役が果たせるITコーディネータの存在は大きい」と指摘する。
 鬼澤氏は現在も同社の経営支援を続けている。


ITコーディネータ
鬼澤 健八 氏
おにざわIT経営支援オフィス
(千葉IT経営支援LLP
事務局長)



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