顧客対応力強化 ~ 「知恵」のデータベース化で業務効率アップと顧客開拓 ~
顧客が求めるスピードにどう対応するか? 「厳しい競争に勝ち抜くためのキーワードは〝スピード〟」――昭和電機の柏木武久社長の経営方針は明確だ。同社は各種工業機械に組み込む電動送風機や集じん機など、風力機械のトップメーカー。地場産業中心と言われる業界にあって全国10ヶ所に営業所を持ち、精力的に事業を展開している。 低価格競争を避けるための策として柏木社長が着目したのは「最近の顧客はどんどん気が短くなっている」ということだった。問合せ対応も、納期も、常に最短時間を求められる。しかし逆に他社に真似できないスピード力を持てれば、大きな差別化要因になる。こうして掲げられた「最適スピードの実現」という目標をクリアするためのツールがITであった。 ITコーディネータと顧客の気持を知る仕組みを考案 ![]() 顧客へのスピード対応という視点から浮き彫りになった第一の課題は、顧客からの技術的な問い合わせに対する応答の速度だった。特注品の依頼や各種機械への組み込みの可否など、技術部門に聞かないと答えられない専門的な質問も多々ある。その都度確認をとるため時間がかかり、また応対する技術部門側の作業が滞る一因ともなっていたのだ。 「それならば頻度の高い質問と回答内容をまとめ、営業部門がいつでも参照できるようにしたらどうか」――このような発想から2002年7月、新しい仕組みである「is工房(イズコウボウ)」が創り出されたのだった。 「i s 」は「いろいろ・そうだん」の頭文字からの命名だ。過去にやり取りされたQ &A をデータベースに整理し、営業部門の各種相談窓口として使えるようにしたものである。社内からこのデータベースにアクセスすれば、よくある質問への回答が得られるほか、過去の対応状況もつかめるというわけだ。 「is工房」の構築にあたっては、栗山氏らが社内から収集した質問内容を21のカテゴリーに分類、キーワードでも検索できるようにした。そして、まだデータベース化されていない質問には専任の担当者を2名配置して追加対応していった結果、社員から「(このデータベースは)業務に役立つ」との評価を得るようになっていった。同時に、利用者も当初の営業部門だけでなく技術部門へと拡大していった。 営業ノウハウの蓄積で顧客への回答品質が向上。そして次のステップへ... ITCの森下勉氏が「社内には共に成長していく「共育」という風土があるが、これに合ったシステム」というとおり、is工房は昭和電機の社員がノウハウを共有・活用するための基地として機能し始めたのである。 導入後は営業担当者の回答がスピーディになったのはもちろん、正しい知識を吸収できることで「顧客への回答の品質が向上した」(柏木社長)という効果も表れた。 しかし、「is工房」のプロジェクトはここが終点ではない。当初から「顧客のつぶやき、ささやき」(柏木社長)を聞く、つまり潜在ニーズをくみ上げる計画の第一ステップであった。 「まずは営業担当者の質問の蓄積で顧客の状況を把握することから始めたが、その回りには流通・販売企業、その先にはまだ顔の見えていない顧客がいる」(ITC岩佐修二氏)という認識のもと、運用が軌道に載った2003年8月、流通業者にこのデータベースを公開。そして同年12月には、風力機器の質問に答える一般向けW e b サイト「風力(カゼ)のi s 工房」をオープンしたのである。 つまりこのデータベースは第一ステップ:社内、第二ステップ:流通・販売関連、第三ステップ:一般向けという3 つの段階が計画されており、第三ステップとなるこのWebサイト「風力のis工房」は、新規顧客からの「昭和電機への入口」としての期待がかかっているのである。 「風力のis工房」では「is工房」のQ&Aから情報をアレンジして約100件を公開。「アース付きのダクトホースを接続するには」といった具体的な「Q」が並ぶ。これ以外の質問もWebから依頼できるほか、会員登録すると過去の質問内容が一覧できる「マイページ」というサービスまで利用可能だ。 Web公開のねらいについて、柏木社長は「Webは世界に対して公開するもの。時間はかかるだろうが送風機なら昭和電機、というブランド力を上げたい」と語る。専門情報の開示により顧客の「今すぐ知りたい」という要望を満たし、かつ「専門性に優れた頼れる会社」という信頼感を得ようというのだ。また寄せられる質問一つ一つが商品開発のヒントでもある。栗山氏は「このサイトに直接の購買機能は設けていないが、問い合わせにすぐ対応していくことで受注を獲得できる確率は高い」と期待をかけている。 「風力のis工房」を入口に新規顧客を獲得する―それが昭和電機の次のチャレンジだ。
<ITコーディネータを活用してどうでしたか?> 「改革スケジュールが明確になり、過剰投資も回避」 他社に先駆けて早くからコンピューターを活用してきたが、社内の人間のみでシステム化を行うのは難しい部分もあった。弊社は各分野の専門家に広く意見を求めるようにしており、ITについてはITコーディネータの協力を得ることにした。 「顧客のつぶやき、ささやきを聞きたい」という経営戦略を具体化すべく、明確な目標設定とスケジュール管理がなされたことが、計画通り「風力のis工房」をスタートできた要因になった。また、経営方針をシステムに「翻訳」してもらうことで、ベンダーとの折衝が楽になり過剰投資を防ぐことができた。これもITC活用の大きな成果といえる。 (昭和電機経営陣の談) |
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