
手作りならではの評判と事務処理の課題
「どうぞ」と薦められてカボチャの煮つけを口にする。「これは家庭の味、いや、家庭の味以上...」――製造工程見学は、途中から「お
いしい、おいしい」の連発となった。 香川県高松市の和惣菜製造・アオヤマは惣菜製造を始めて12年。試行錯誤を繰り返しつつ、ここ5年間は毎年1億円ずつ売上を伸ばしてきた。
急成長の理由は、食べればわかるその「味」。和惣菜・サラダ100種類以上、毎日2万パックをスーパー等に出荷し、工場の稼働率は限界点に近づきつつあるほどだ。
アオヤマの惣菜はなぜ「おいしい」のか。青山重俊社長の種明かしはこうだ。「添加物を使わず、瀬戸内のいりこだしで手作業で調理します。それも、2㎏単位でね」
家庭での作り方に近いから「おふくろの味」が出るというわけだが、業務用なら100㎏の大きな鍋もあるのにいかにも効率が悪い。事実、1つの鍋で作れる惣菜は20パック程度だという。
「2㎏単位以上では味が均一にしみこまないのです。でも人件費と経費を考えると割に合いません。スーパーの方が見学に来社されると、皆さん驚かれます」青山社長は豪快に笑う。儲からないと言いつつ、大きな鍋で大量生産する気はないのだ。
アオヤマは他社の惣菜とは一線を画す製法を選び市場での地位を確保してきた。しかしその分、経営面ではできる限りの生産性向上とコスト削減が求められる。
前者について青山社長は「会社の利益はパート従業員が出す」と位置づけ、提言やアイデアを積極的に取り入れる一方、福利厚生面にも注力。90名ほどいる女性パート従業員のモチベーションは非常に高く、味と生産性の両面でアオヤマを支える存在となっている。
後者については、経験値を駆使して受注予測を立て無駄のない材料発注に努めてきたが、取引先数が増えるにつれ、手作業では追いつかなくなってきた。年間の受注データは150万件にも及ぶのだ。
また、スーパーからの電子自動発注を受ける仕組みは持っていたものの、取引先のシステムが変わるたびに高額の変更費用がかかるため、業務システムの整備が急務となっていた。

地域ベンダーの経営者でもあるITCに相談を持ちかける
社内にはITに詳しい人材がいないこともあり、青山社長は地元のIT会社社長で、ITコーディネータの資格を持つ長尾和彦氏に相談を持ちかけた。
取引先の中には、納品の2日前になってから正式な発注数を知らせる会社もあるので、惣菜ごとの受注予測を立て、あらかじめ原材料を準備しておくしかない。したがって新しい情報システムには、各社からの電子発注データを取り込みつつ、蓄積されたデータを様々に活用できることが求められた。
長尾氏は条件を満たすシステム化を検討する過程で、ある点に留意した。同社では手作業なりに事務作業を工夫し、その方法が習慣化している。システム化に伴いここに大きな変更をするかどうか。
「形の決まったシステムを導入して人の動きを変えてしまうのは社長の思いとは相違する。そこでデータベースを一元管理して、そこから業務ごとに必要な機能を取り出す形を考案しました」
アオヤマが年々成長を続けていることを踏まえ、今後の規模拡大に対応できることも考慮した。
具体的には、受注データをデータベース「SQL Server」を使ってサーバーに保存。経営情報、材料調達、製造・出荷管理それぞれの業務に応じて必要なデータを表計算ソフト「エクセル」に落として活用する形態にした。取引先の都合による受注形態の変更もよくあるが、最近の変更例では、他社では対応に50万~80万円かけたのに対し、同社は10万円程度で済んだという。

数値が目に見え、予測が立てられる「感動」
新しい情報システムが出来上がると、受注予測、材料計算、売上予測など各種数値が目に見えるようになった。青山社長は「新しい世界を見ました。とくに感心したのは日々の売上から1ヶ月の売上予測が出ること。足りないときにすぐ対策が立てられますから」とデータを持つ意義を実感している。
長尾氏は併せて社員に数値の見方や活用法をアドバイスした。会社の数値に触れることで社員のやる気や勉強への意欲がさらに上がったのもうれしい効果だという。
利益を生むのは人―アオヤマはともすれば忘れがちな「基本」を今日も忠実に実行している。 |
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