
自分が得た解放感を皆に伝えたい
授乳服とは、授乳がスムーズにできるよう工夫された服。見た目は一般の服と変わらないが、これを着れば赤ちゃんを連れて外に出た女性が、周りに気兼ねなく母乳をあげられる。
光畑由佳社長が公共の場で授乳をした体験から、開発・販売に踏み切ったのだという。
商品の販売を始めて10年、会社組織にしてから5年が経ち、現在はWebサイトと紙のパンフレットを併用した通信販売で3万人の顧客を獲得している。
2005年に東京・青山にアンテナショップも開店した。
しかし光畑社長は、「これを商売にしたいという意識はなかった」のだと言う。
「授乳服を着ることで、子どもがいる方の生活が180度変わる。母乳期は外出をせず我慢することが当たり前とされていたが、それはストレスでないわけはない」
光畑社長は、「子供のために」と家に閉じこもる女性たちの意識改革に努め、授乳服を着て豊かな子育てライフを目指すことに仕事の重点を置いた。
授乳の様子を見せる「授乳ショー」などのイベントを開催する一方、豊富な人脈を活かして助産師をはじめとする専門家の応援も得る。
こうした取り組みに伴い共感は徐々に広がっていく。最近では、夫から妻へのプレゼントの需要も増え、母親の育児のつらい部分を理解しないと言われていた男性にも変化が見え始めている。

子連れ就業を可能にしたら、優秀な女性が集まった
モーハウスのビジネスは、それ自体がライフスタイルの変化、つまり社会貢献に結びつくものであり、この方針に賛同して同社の活動に多くの女性が参加するようになった。
販売者―消費者の関係というより、「自分らしいライフスタイル」の確立を目指す子育て女性の仲間という意識が強い。それがモーハウスの商品力とブランド力につながっている。
モーハウスの従業員は全員女性。大半が授乳経験者であるため、経験が商品企画に生かされる。さらにオフィスに赤ちゃんを連れてくる「子連れ就業」が認められているほか、在宅での勤務やパートタイム勤務など、多様な働き方を受容している。
託児所があるならともかく、職場に子どもがいるというのは「固い頭」では想像しえないが、ここではごく普通の風景だ。このユニークな制度で同社は強みを得ることになる。
「小さい企業は人員の確保が難しいにもかかわらず、優秀な方を採用しやすくなった。子連れ出勤などの多様性がなければ実現できなかったと思います」(光畑社長)
採用時は企画・発想力や的確なアクションが起こせる能力を重視するそうだが、従業員の中には、国家公務員第一種職の経験者もいるとのことだ。
仕事自体が社会的な意義を持ち仲間を幸せにできる。自分の実感や経験が生かせ、子どもと一緒の生活リズムを保ちながら能力を発揮できる。
そうした仕事・職場が意欲ある女性を惹きつけるのであろう。

チーム制で仕事をシェア、ITで情報共有
ただ現実には、子どもの病気などで出勤の安定度は低くならざるを得ない。
そのため光畑社長は、仕事はチーム制でシェアし、情報共有を重視。
社員のスケジュール管理、社員同士の連絡にはメーリングリストを利用するなど、ITを積極的に活用している。
「こうあらねばならない」という社会通念にとらわれず、現実や実感に誠実に発想することで、より良い方向が浮かび上がってきた。
知らず知らずのうちに「会社とは、経営とはこうでなければいけない」と思い込みがちだが、経営者の感性がその突破口にもなるのだ。
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