施工実績の共有からスタートした建設業の生き残り策
淘汰の事態をどう生き抜くか―IT活用の長期ビジョンを立てたい 「この先公共工事が減るのは自明。当然淘汰される会社が出てくるが、うちは何がなんでも生き残る。そのためには一歩でも二歩でも先に行かなければ」――穏やかな表情とは対照的に、日栄建設の小山内守常務は強い決意を口にした。 土木工事を事業の主体とする北海道札幌市の日栄建設は、受注の100%が公共工事。北海道開発局、北海道、札幌市が主な取引先だ。公共事業では、電子入札や電子納品が進んでおり、この部分のIT化は早々と整備。その他にも無線LANの導入や通信用専用線の導入、Webサーバー・メールサーバーや現場の写真を蓄積するサーバーの設置と、同業他社の中では一歩進んだIT導入を行ってきた。 ところが、小山内常務は「ITは取り入れてきたが、その時々の課題に個別に対処したものであり、長期ビジョンに欠けていた」と述懐する。そして将来を考え、総合的なIT化を模索したが、個々のシステムベンダーでは相談相手にならなかった。そんな小山内常務の「ぼやっとした思い」を明確なビジョンに変える手助けをしたのがITコーディネータの赤羽幸雄氏である。 ITコーディネータとともに工事実績やノウハウの共有化へ 赤羽氏が運営する協同組合は2004年2月にITSSP事業として建設業を対象にした経営者研修会を実施。研修会に参加した小山内常務はITコーディネータの中立性や考え方に共鳴し、札幌中小企業支援センターの専門家派遣制度を利用して長期ビジョンに基づく情報化に歩み出した。 日栄建設の強みは技術力。近年は施工会社が工事の技術提案を行う「VE提案型」工事が増加していることもあり、安定した技術力を発揮できれば他社との差別化がはかれる。それには「今まで担当者が個々に持っていたノウハウをきちっと系統だてて蓄積し共有していく」(小山内常務)ことが必要だ。そこで、過去の工事実績をデータベース化し社内で共有することが計画された。類似工事の内容を参照することで、経験の浅い担当者でもノウハウを習得し適切な工法を選択できるというわけだ。 工事実績の蓄積は、赤字工事を出さないという面でも効果があるという。道路工事一つとっても、土質や立地によって施工の原価は変化する。従来、こうした判断は担当者の経験や勘によるところが大きく、利益を圧迫することもあった。過去の工事実績を参照できれば、経験だけに寄らずに実勢に近い原価が把握できるようになる。 技術力の底上げと適正な原価管理――これまで現場担当者が個々にパソコンに記録していた工事実績の情報を全社で共有することで、二つの課題を克服しようというのだ。 取引先を含めたネットワーク化が最終目標 システム構築にあたり、ITC赤羽氏が最初に提案したのは通信環境の整備だった。本社は128kの専用線、営業所と工事現場からは電話回線によるダイヤルアップ接続を行っていたが、「OCN Bフレッツ」(100Mbpsと高速な光ファイバーによるインターネット接続)をメインにしたブロードバンド回線に切り替え、各拠点をセキュリティにすぐれたVPNで結んだ。 この理由について赤羽氏は「当初から通信インフラの整備を第一ステップと考えていました。作業現場や営業所からリアルタイムでデータを参照するには相応の環境が必要です。IT化にあたり通信インフラは意外に見過ごされがちですが、正しく整備すればランニングコストがかなり圧縮されます」と説明する。建設業では電子納品に対応するため現場から画像を送信することも多く、ブロードバンドは作業効率を上げる点でも大きなメリットがある。2004年7月の切り替えからまだ2ヶ月だが、月次の通信コストはおよそ40%削減できたそうだ。 このブロードバンド環境をベースにいよいよデータベースシステムの構築がスタート。本システムは、「札幌市中小建設業経営IT化促進モデル事業」の認定を受け、ソフトウェアやサーバー等のシステム導入費500万円のうち200万円に補助金が支給されることになった。 システム完成予定の2005年春が待たれるところだが、日栄建設の情報化にはまだ次のステップがあるという。それは「協力会社も含めてネットワーク化し情報化を進めること」(赤羽氏)。建設業はつねに協力会社との協業でプロジェクトが進むので、発注や請求など、工事部門の情報が共有できると効率化がさらに前進する。こちらの動きも楽しみなところだ。
<ITコーディネータを活用してどうでしたか?> 「建設業の業界特性を理解していただきありがたい」 建設業は特殊な事業があり、業界を知らないコンサルタントやベンダーにはなかなか細部まで理解していただけません。そのような状況で、建設業に強いITコーディネータは本当に助かります。また、中立な立場なのでベンダーの意向に左右されないところが良いと思います。 我々建設業では、営業が苦労して受注した仕事について、最小限のリスク・適正原価で工事をすることが求められます。今回ITCのアドバイスを受けて構築したシステムで経験値の共有が進めば、弊社の大きな強みになっていくと思います。(小山内守常務取締役 談) |
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