支援制度活用事例

栽培プロセスを消費者に伝える!
ミカン農家80戸がパソコンと格闘




株式会社地域法人無茶々園

情報化プロジェクトリーダー
宇都宮 広 氏
所在地 愛媛県西予市明浜町狩浜3-134
代表取締役社長 片山 元治
設立 1993年
従業員数 7名
URL http://www.muchachaen.com/
 
事業内容
無茶々園は、除草剤や化学肥料を使用せず、農薬をできるだけ使わない栽培方法で柑橘類の生産・販売する連合組織。このうち、加工・販売部門が株式会社となっている。
 取引の約3分の1が個人消費者への直接販売である。取り扱い品目は柑橘類(温州みかん、伊予柑、ポンカン、ネーブル、甘夏、河内晩柑、レモン等 )、加工品(ジュース、ゼリー、マーマレード、みかん酢等)、海産物、真珠、野菜など。ISO14001認証取得。


健康で安全な農作物作りを目指して

 愛媛県の県庁所在地松山から車で90分。野福トンネルを抜け段々畑を見ながら九十九折を下りると眼下には宇和海が光る。海と山に挟まれたリアス式海岸に立地する西予市明浜町は、南向きの斜面に恵まれミカン栽培の適地となっている。
 ここに、無茶々園という「意志を持った農家」の連合組織がある。
 無茶々園が取り組んでいるのは除草剤や化学肥料を使用せず、また農薬をできるだけ使わない柑橘類の栽培だ。農薬を多用して人と環境に負担を強いる農法を見直し、健康で安全な食べ物の生産を通してエコロジカルな町づくりを目指そうと、片山元治氏を代表者に30年ほど前にスタートした。現在の参加農家は約80戸。
 平成5年、ミカン以外の地域特産物も販売するため販売部門を独立させ「株式会社地域法人無茶々園」を設立した。
 最近では店頭で有機栽培の農作物を見かける機会が増えたが、価格が若干高めになることもあり、主な購入者は健康や環境に関心の高い人々だ。実際、同社の取引は約3分の1が個人の消費者への直接販売だという。

ミカンの「育ち」を伝え、消費者との関係を強化したい!

 無茶々園が出荷するミカンの箱の中には生産者名と農薬使用の有無などが記載されたメッセージが入っている。消費者は注文したミカンの「育ち」を理解し、作り手の存在を強く意識することになる。「誰によってどのように作られたミカンなのか」――同社は消費者との相互理解によって事業基盤を形成しているのだ。
 80軒の生産情報を適宜記録するとなるとIT化は避けて通れない。無茶々園ではISO取得への取り組みを契機に、2000年夏、各農家へのパソコン導入に踏み切る。しかし農業従事者は高齢化が進んでいる。
 無茶々園も最高齢者は75歳だ......。
 「マウスを上に動かして、というと腕を上に上げる人もいましたね」。
 無茶々園の事務局で情報化のプロジェクトリーダーを務める宇都宮広氏は導入時の奮闘の様子を振り返る。しかし、皆の努力の積み重ねにより、徐々にメール経由で在庫情報を集められるようになってきた。

システムをバージョンアップしたいが、どうすれば...

 システム活用が進むにつれ詳細情報の収集や2箇所の事務所での出荷情報共有への対応など、バージョンアップの必要性が出てきた。
 宇都宮氏は以前から交流があったえひめ産業振興財団産業情報センターに相談を持ちかける。同財団の関わる「愛媛県戦略的情報化連携支援事業」を利用してITコーディネータ田中知彦氏のコンサルティングを受けることにした。
 現場から出された様々な意見を元に、ITC田中氏は業務課題を整理しシステム要件を絞り込む。数回の議論の結果、新しいシステムでは、ミカンの生産プロセス情報を開示し、個人消費者を現在以上にサポートすることが第一目標とされた。
 各生産者が入力した畑作業の記録や出荷・在庫数情報をデータベースに保管。この数値を無茶々園事務局が行っている受注・販売と連動させ、生産から出荷までの詳細情報を一元管理する。消費者から注文があった際には生産者別の最新在庫数を参照し、出荷日などを即答できるようにするというものだ。
 また、日々蓄積される生産記録はミカンのトレーサビリティとして今後Webで公開していく予定である。

誰でも使えるWebを選び、ISDN回線でも使える工夫を

  情報を滞りなく集めるため、システムにはインターネットの技術が採用された。生産者はWebブラウザーから情報を入力、インターネットを経由して情報がサーバーに集積される仕組みだ。
 ITC田中氏は「汎用性のあるWebを活用することや入力量を減らすために画面から項目を選択できるようにするなど使いやすさを追求しました。また、誤入力の発生も考慮して事務局で入力情報を精査するプロセスも設けています」とシステムのポイントを説明する。
 残念なことに明浜町ではまだブロードバンドが使えない。田中氏はサーバー側にミドルウェアソフトを用いてISDN回線でも快適に使えるよう助言したそうだ。
 顧客との関係性を深めるためのシステムは稼働間近。しかし、無茶々園には本システムを使って実現したいことがもう一つある。
 宇都宮氏は「今はミカンだけでは食えない時代となっている。生産情報として開示する情報も大事だが、蓄積した農家個々の情報を経営にどう生かすのか。これからも明浜町で百姓を続けていくための経営分析データとして活用したい」と説明する。 目指すはこの土地で暮らし続けるために必要な農業経営の実行だ。
 明浜町ではITが人と自然の共存に貢献しようとしている。

ITコーディネータ紹介

 伊予銀行グループの株式会社アイ・シー・エスに勤務。平成15年から無茶々園のコンサルティングを担当中。
 当初、無茶々園はシステムの機能追加や設計仕様についてアドバイスを求めていたが、田中氏は一度しっかり経営課題分析を行うことを提案。このシステムを導入する意義や目的を共有し、方向性を明確にした。
 また、データを入力する農家の人々がそれほどパソコン操作に慣れていないことを鑑み、操作性や入力画面の設計には特に気を配った。

NPO法人 ITC愛媛
http://aspgw1.ehime-iinet.or.jp/itc/

田中 知彦 氏


支援機関にもITコーディネータが

 えひめ産業振興財団産業情報センターでは平成14年度からIT化支援員(ITに精通した離職者)が企業を訪問してアドバイスを行う独自の支援制度を実施、15年度からはより高度な支援が必要な企業にNPO法人ITC愛媛からITコーディネータを派遣する事業を行っている。無茶茶園は同制度を活用してIT化を進めた。同財団は、職員の西川昌祐氏がITコーディネータの資格を所有しており、愛媛県内のITコーディネータ組織との連携に強く、IT化の支援体制が整っている。

財団法人 えひめ産業振興財団
http://www.ehime-iinet.or.jp/
i・愛・えひめ
http://shop.ehime-iinet.or.jp/

西川 昌祐 主査

<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

  こちらはシステムを入れたいと希望しているのに「業務の問題点を言ってください」と言うのですから正直、驚きました。しかし、課題を整理していくうちに「最終的に何がしたいか」が明確になってきました。
 それまではどんな機能が欲しいかばかり考えていたのですがシステム化のポイントはそこではなく、目標点を定めてそこに向かうことだと気づきました。
 この制度を使って本当にトクしました。周囲にも活用を薦めたいと思います。
(無茶茶園・宇都宮広氏談)



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