
「社長って、何でも自分で思ったことを決断できるんだ、良い意味で好きにやっていいんだなと、前向きな面がどんどん見えてきました。初めは全責任があるというプレッシャーの方が大きくて...」
松浦製作所の松浦貴之社長は2005年秋に経営を受け継ぎ、まもなく1年。この数カ月に手ごたえを得たようだ。
試作機や特注機器に用いられる部品、大量生産ではなくオーダーメードによる一品ものの精密機械部品が同社の主事業。大量生産品が「安い」「早い」を求められるのを横目に、付加価値の高い仕事を確実にこなす経営にシフトしてきた。
数年前から社長になる心構えはできていたとはいえ、それまでは現場で工場長的にものづくりに携わっていた。「そろそろ経理面や経営の勉強をしなければと思っていた段階で、準備不足」(松浦社長)な状態で社長に就任。
責任の重さを感じ、何から手をつけようかと思案していたちょうどその頃、幸運なことにITコーディネータ(ITC)の支援を受ける機会を得た。第三者の客観的な眼を持つことで、新社長としての現状把握や経営方針策定が円滑に進み始めた。

「話すこと」からスタート
有効だったITCのサポート
松浦社長は、まず率直に自分の思いを話すことから始めた。
担当となったITコーディネータの小野敏夫氏は、SWOT分析(企業の現状を強み、弱み、機会、脅威の4つの視点で把握する分析手法)などを用いながら、「どこに経営課題があり、これから何を重点的に行っていけばよいかを一緒に考え整理し、社長ご自身が方向付けできるようにした」。ここで現状把握を行い、次の事業計画策定へつなげていこうというものだ。
具体的な事業計画の立案には、まず、会社の経営数値への理解が必要だ。そこで工作機械の稼働率なども考慮して、収支のシミュレーションを行った。
一方で、市場環境―対象となる顧客と顧客が求める技術―を検討し、松浦製作所の技術を、今後どのような方向に発展させていくべきか事業計画書としてまとめている。
こうしたプロセスによって、松浦社長は社長として数値で事業を捉える目を養い、また、今後、ものづくりで自社はどの分野を究めていくべきかが見えてきたという。

積極的なアピールと
社内コミュニケーションも
これらを踏まえて、松浦社長は「今後は微細加工に力を入れ、納品が自転車で行えるような会社を目指したい」と決意を新たにした。
同社は30ミクロン(100分の3ミリ)のドリルで部品に穴を開けることに成功。肉眼ではほとんど見えないミクロの世界であり、この技術は取引先の製品づくりに革新をもたらす。ただ、取引先はこれほど微細の穴が開くことを知らないケースも多いので、自らアピールし、新しい受注を獲得する姿勢が求められる。
「依頼を受けた仕事をきちんとこなしつつ、こうした技術を使った提案を積極的に行っていきたい」と次のアクションは明快だ。
そして経営方針について、松浦社長はもう一つ付け加えた。
「自分一人で技術を追求しても限界があります。皆で同じ方向を向いて進めるよう、社員とのコミュニケーションを重視していきたい」
卓越した技術とコミュニケーションが新体制の柱といえそうだ。
いずれ同社にも若い社員が入社してくることだろう。新しく醸成された風土によって、「ものづくりは奥深く、面白い」と目を輝かせられる社員が増えていくことを期待したい。
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