新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 
新年あけましておめでとうございます。会長の澁谷裕以(ひろゆき)です。今年もよろしくお願いいたします。
 
新春恒例の箱根駅伝では、東海大学が近年の王者青山学院大学を破って、駅伝史上最速のタイムで初優勝しました。今年は、天皇陛下の退位、新天皇の即位も予定され、ラグビーのワールドカップも初開催されるなど、新しい時代が幕を開けようとしているように思えます。
 
【正月の読書について】
今年の正月休みの読書に選んだのは、国立情報学研究所の新井紀子教授が書かれた『AI VS. 教科書が読めない子どもたち』です。新井先生は、「ロボットは東大に入れるかプロジェクト(東プロ)」をリードしてこられた方です。多くの識者が昨年のベスト書に推していた本ですが、確かに大変刺激に富んだ内容で、ITコーディネータの必読書の一つではないかと思います。
 
新井先生がおっしゃることはこうです。AIが人間を超えるという「シンギュラリティ」は起こりえない。東プロでは、AIの可能性と限界を探るために東大合格をひとつのターゲットとしてやってきて、偏差値はMARCH合格レベルの57.8まで成長してきている。しかし、いまのAIの力では偏差値65は超えられない。偏差値77の東大合格はとても無理。なぜならAIが理解できるのは、論理的に言えること、確率的に言えること、そして統計的に言えることの3つでしかないからだ。この3つだけでは、「私はあなたが好きだ」と「私はカレーライスが好きだ」との本質的な「意味」の違いを表現できない。それができない限り偏差値65の壁は超えられないし、シンギュラリティは起こりえない。
 
しかしながら、偏差値60弱というのは決して低い数字ではありませんし、AIが人間のかわりに出来る仕事が沢山あることは言うまでもありません。数々の研究機関が10〜20年後に多くの仕事がAIに代替されるだろうと予測しているとおりです。そこで、新井先生は、「ただの計算機に過ぎないAIに代替されることのない人間がどれくらいいるだろうか?」という問題意識をもっていろいろ調べるうちに、今の中高生は、数学が判るかどうかという前に、どうも問題文を正しく読めていないようだということに気づきます。詰め込み教育の弊害で、基礎的な読解力が著しく衰えていると。
 
例えば、「メジャーリーグの選手のうち28%はアメリカ合衆国以外の出身の選手であるが、その出身国を見ると、ドミニカ共和国が最も多くおよそ35%である。」という文章を読んで、ドミニカ共和国の割合が9.8%であると正しく読み取れる中学生はわずか12%、高校生でも28%という調査結果を見ると、確かに愕然とするものがあります。さらに衝撃的なのは、能力が中の上くらいまでの子が一番多く選んだ選択肢は、「アメリカ合衆国28%、ドミニカ共和国35%」というものです。おそらく「以外の」や「のうち」を読み飛ばしているか、その意味が判らないのでしょう。これはまさしくAIレベルの読解力だそうです。
 
詰め込み式記憶や、パターン通り作業をすることはAIが最も得意なこと。AIが最も苦手な読解力やコミュニケーション力で人間ならではの力が発揮できなければ、本当に多くの人がAIに淘汰される時代がやってくる。こういう危機感をもって新井先生は「リーディングスキルテスト」を開発し、中高生の読解力を正しく診断し、その不足を鍛えるための活動を始められています。
 
【ITコーディネータの仕事について】
さて、私たちITコーディネータは、「経営者と対話しながら、経営戦略のなかでITをどのように活用するかを経営者とともに考える(定款第3条)」という職務を負っています。ここには、まさしく論理・確率・統計だけで動いているAIではできないことが満載です。「対話」「戦略」「活用」「ともに考える」といったことは、AI時代にあって人間ならではの特筆すべき技能と言えるでしょう。
 
中小企業や小規模事業者が真に「ITを経営の力として」生産性を高め、発展することを支援する重要性は高まるばかりです。私たちは、その技能をフルに発揮してますます存在感を高めていかなくてはいけません。
 
【商流+金流EDI推進の年】
協会が長年にわたって取り組んで来て、2017年度には中小企業庁の委託を受けて実証実験をおこなった「中小企業共通EDI」に加えて、金融庁がリードして、全銀協が開発をおこなった「金融EDI(ZEDI)」が昨年12月にスタートしました。更にこの2つのEDIを融合した実証実験が現在行われていますので、今年は、商流と金流を融合した新たなEDIがクラウドサービス等で次々と提供される年となります。
 
中小企業の大半が製品の受注はファックスで受けていて、製造や在庫の管理も紙ベースであることが多い。これに加えて、代金の入金もこれまでの振込システムではそれが何の金かの区別がつかないので、売掛金の消し込みに膨大な労力を費やしている実態にあります。こういった業務プロセスを電子化することが、なんといっても中小企業の生産性向上の最初の大きな一歩だと思います。商流と金流のEDIが揃って実用化される今年は、歴史的な好機到来といえます。
 
今、協会は、商流と金流の両EDIを実装しているクラウドサービスベンダーと協業して、実際に中小企業でそれらを導入するうえでの実践的な技能を習得できるカリキュラムを策定しようとしています。EDIの推進には業務プロセスの整理が極めて重要でITCの出番ですが、さらにいくつかの具体的な製品を使いこなせるようなITCを輩出し、クラウドサービスベンダーと一緒に商流・金流のEDIを推進していきたいと考えています。
 
【「ITを経営の力とする経営者向け講座」の開発について】
「第2の創業計画」の一つの柱として開発に取り組んでいる「ITを経営の力とする経営者向け講座」も着々と完成に近づいています。経営者に興味をもっていただくために6単元からなる講座の最初はビジネスゲームです。慶應義塾大学大学院の力もお借りしながら、私自身もどっぷり浸かってゲームの開発を一緒に進めています。経営者に楽しみながら学んでいただくことのできるゲームとその他のカリキュラムが3月にはお披露目できると思います。ネットワーキングができた銀行からは、このカリキュラムの完成が楽しみだという声をいただいています。講師用の研修は4月頃から始めたいと思いますが、多くのITCの皆さんにこの研修を受けていただいて、銀行のお客様である経営者を集めた場での講師を、企業内ITCの方々にはTA(Teaching Assistant)を務めていただければ幸いです。戦略的な取り組みなので、多くのポイントを差し上げようと考えています。
 
【2019年に寄せる思い】
2019年は「第2の創業計画」の2年目の年です。2018年の前半は、会員制度の改定や評議員会の創設、理事会の構成変更など、改革の推進態勢を整えてきました。後半からは、殆どITCで構成される理事会を毎月開催して多くの課題について徹底的に論議を重ねています。評議員会からも多くの示唆とご支援をいただいています。新たなネットワーキングの開拓や上記のように「ITを経営の力とする経営者向け講座」の開発も進めてきています。
 
総じて2018年は仕込みの年であったと思いますが、2019年はその仕込みをITCの皆さんと一緒に華開かせる年にしたいと思います。幸い、全国で「第2の創業」に対する共感は少しずつ広がってきているように思います。正会員も本日時点で313名に達しました。皆の力を結集して、ITCの資格保有価値を高め、中小企業や小規模事業者の支援者として確たる存在になるように、今年も一歩一歩歩みを進めていきましょう。よろしくお願いいたします。
 
   
   

 

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