情報戦略を語る――――― ~ 売り込む店から頼まれる店へ インターネットは商売方法を変える ~
世の中が便利になる一方で、季節の風物詩が次々と姿を消していく。日本の夏の必需品だった「蚊帳」もしかり。ところが、忘れ去られたはずの蚊帳が、今、あるWebサイトで加速度的に売上を伸ばしている。そのサイトとは静岡県磐田市の寝具店・菊屋の三島治社長が運営する「安眠・com」。自称「今にもつぶれそうな田舎町のふとん屋のオヤジ」だった三島社長がITコーディネータとともにインターネットで見つけたものは、小売店の新しいあり方だった。 ――今、なぜ「蚊帳」を? 三島(敬称略) 1996年から地元の「いわたねっと」にホームページを開き、ネットで枕の販売を行っていますが、お客さんとの交流の中で「蚊帳はないか」という声をいただいたのです。 ふとん屋である私の使命は皆様に安全で快適な睡眠をお届けすることです。殺虫剤を使わずに快適に眠れる蚊帳は、虫除けという実利だけでなく四季を通して安眠を提供できる。エアコンの普及とともに家庭から姿を消しましたが、環境への意識の高まりとともに、見直されています。 ――早くからWebを活用されていますが、ITに関心があったのですか。 三島 いえいえ。同級生で今はITコーディネータでもある友人に勧められて始めました。今でも毎日朝の4時から店のシャッターを開ける9時までパソコンと格闘しています。当初、家内には「座ってばかりいないでふとんを売りに出なさい」と叱られましたね......。しかしとにかくこれに賭けようと必死でした。 ――店舗の経営がかなり厳しくなっていたのでしょうか。 三島 駅前の小売店が次々と郊外型店舗に移り、人通りが減って来店客数も落ちていきました。新聞折込チラシ、DM、FAXに工夫をこらしたり、戸別訪問したりと努力を重ねましたが売れないのです。ですから、もう、藁をもつかむ思いでした。 店舗売上は全盛時の半分以下まで落ち込みましたが、おかげさまでWebサイト「安眠・com」の売上が倍増を続け、総売上は5年前の1.5倍になりました。閑散とした商店街で商売の「蚊帳の外」にいた私は、インターネットというネットを張ることで「蚊帳の中」に入ることができたのです。 ――なぜ、ここまで販売を伸ばせたのでしょうか。 三島 インターネットは双方向ですからお客さんとコミュニケーションができます。 例えば、蚊帳は五面体の形をしていますが、ある日切羽詰まった様子のお客さんから「六面体の蚊帳を至急作ってもらえないか」と頼まれました。子どもがムカデにかまれないよう底のある蚊帳が欲しいというのです。そんな商品はどこにもないので、自分で作ってしまった。するとこのムカデ用蚊帳が売れる。こうして蚊帳への要望や思ってもみなかった使い方がお客さんから寄せられるにつけ、商売が広がっていったのです。 今までは「買ってください」と頼んでばかりいたのに今度は「売ってくれ、助けてくれ」と言われるのですからこんなにありがたいことはありません。インターネットの世界は強い思いをもって臨めば人が集まって花開く――そういうものだと感じています。 |
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