受注生産から受注組立生産への転換を図る
ものづくりの仕組みを変えないと「勝てない」 「日報を義務付けているが本当に知りたい細部の情報が記載されない」こう嘆く経営者は多い。情報を集める仕組みを作っても提供者である社員が使いこなさなくては求める効果は得られない。 この課題をクリアし、価値ある営業日報を運用しているのが東京都品川区の真空薄膜形成装置メーカー、シンクロンである。シンクロンでは、10名ほどの営業担当者が、光学機器メーカー等を訪問するごとに日報を記載する。その提出率は70%というから驚きだ。「引合案件内容」「受注確度(受注の見込み度)」「競合情報」そして「市場動向」等々、30数項目からなる日報データは、生産計画立案の貴重な資料となっている。 シンクロンでは、なぜ営業日報の記載が定着したのだろうか。導入時に反発はなかったのだろうか?「猛烈な反発がありましたよ。以前は手書きの日報すらなかったのですから」と、営業部部長の石川忠司氏は振り返る。導入を決めたからには「報告を口頭で申告しても受けつけない」と方針を徹底し、根気良く習慣化を推進したという。しかし、成功の秘訣はそれだけではなかった。 2001年秋、シンクロンを取り巻く競合環境は厳しさを増してきていた。その頃の様子を経営企画室の税所慎一郎室長はこう説明する。「ものづくりの仕組みを変えないと勝てないという経営判断が下った。個別受注生産から受注組立生産へ転換を図らないと我々が生きていく道はないと、悲痛な面持ちでいました」仕組みを変えるに伴い情報システムの入れ替えも必要となり、ERP(経営資源統合システム)の導入を検討した。 ERPの導入効果を出すためにITコーディネータが勧めたこと ところが、コンサルティングを依頼していたITコーディネータの矢村弘道氏は、ERP導入前にすべきことがあると「待った」をかけた。「生産計画を立てるなら、経営計画、営業側の販売計画が必要だ。まずは営業情報の収集を定着させてはどうか」。 こうした議論の末、営業情報を客観的に集めるツールとして企画されたのが営業日報だった。つまり、シンクロンの営業日報は、「販売計画を立てて生産計画につなげる」という明確な使命を担って導入された、「使われるための日報」だ。漠然と「情報共有しよう」と入れたものとは、真剣さが違う。自分の入力した情報が販売計画書となり、生産計画に使われる。データの集計を見れば、案件の進捗も売上目標に対する達成度もわかる。「書いたからには見返りがある」(石川部長)ことで、担当者の当事者意識は大きくなっていった。 もう一つの成功要因は、矢村氏のアドバイスを受けて、システムづくりに取り組んだ経営企画室課長代理・小又徹明氏の努力にある。本システムは専用の営業支援ソフトではなく、データベースソフト「Access」で小又氏が作り上げたものだ。営業担当者が入力する画面は使い慣れている表計算ソフト「EXCEL」で作成し、各担当者が送信した日報をAccessに置き換えるという方法をとっている。 小又氏はもともと営業部の所属で日報を書く側だったため「どちらかというと否定的な立場だった」という。しかし、販売計画を立てるために個別の情報が必要だと理解すると、どんな情報を集めればよいか、どうしたら皆が記入しやすくなるか、試行錯誤を重ねた。「担当者にヒヤリングをして様子を聞いたり、入力が楽になる方法を探しだしたり、記入項目については皆の意見を聞きながら必要なものをその都度追加していきました」(小又氏)との話からも、奮闘の様子が目に浮かぶ。 営業状況の正確な共有に加え、情報収集の価値を社員が自覚 2002年4月の導入から2年半が経過し、現在では、Accessに蓄積されたデータを集計して瞬時に分析資料が手に入るまでになった。期待された役割を十分果たしている。 さらに本システムは別の面での効果も生んだ。それは、毎回営業日報の項目に報告を書くことで、「営業担当者に、単に売るだけでなく情報を取ってくる仕事が自覚された」(石川部長)こと。市場の動きを掴み、販売戦略を立てるという方針が、個々の担当者に浸透し始めたのだ。情報を集められる社員は、経営方針の具現者になる――シンクロンの営業日報からは、こんな法則が見えてくる。 担当の小又氏はこの結果に満足することなく、日報提出率のさらなる向上やデータメンテナンスルールの構築に取り組んでいる。「まだ課題も多い」とその姿勢は謙虚だ。
<ITコーディネータを活用してどうでしたか?> 営業日報導入にあたってはSFAソフトの導入も検討しましたが、「チェックマークで入力するのでは顧客と交渉している様子は伝わらない」と汎用ソフトの活用を勧めていただきました。自分の言葉で書き込むことが情報収集や要点整理の訓練にもなり、良かったと思っています。 日報の稼働後も、入力項目の設定などにアドバイスをいただき、どんな情報を取るべきなのか、気付く点が多くありました。 (税所慎一郎室長 談) |