業務改革事例

情報が流れる土壌を作り 顧客を喜ばせる企画提案へ



株式会社エルムため楽器
代表取締役社長 寺田 良紀氏(写真中央)
   統括本部長 江幡 一馬氏(写真左)
      担当者 大道 幸子氏(写真右)
本社 北海道札幌市中央区南8条西17丁目3-10
室蘭、釧路などに合計7拠点を持つ
設立 1974年
従業員 107名(講師数 約400名)
URL http://www.elm-t.co.jp/
事業内容


楽器や関連製品の販売、音楽教室の経営及び音楽興行の企画斡旋、英語教室の運営など。
YAMAHAの特約店。
 今春、札幌に200人規模のホールや教室を備えた店舗を完成予定。様々な企画を用意して地域の人々が音楽を通じで集い、寛げる場を提供するとのことだ。


4万人の顧客データをもっと活かせないか?

 音楽のある生活は、子どもを健全に成長させ、人々の心を豊かにする――北海道札幌市のエルムため楽器は、音楽で地域社会への貢献を目指す企業。YAMAHAの特約店として北海道内に80の音楽教室と7つの販売拠点を持つ。事業の幅は広く、楽器販売、調律等のメンテナンス、英語教室、企画催事なども手がけており、総顧客数は4万人ほどになる。
 多店舗展開と多数の顧客。業態上の特徴は、同時にエルムため楽器の経営課題でもあった。
100名ほどの従業員を指揮する寺田良紀社長は、一人一人ともっと情報交換をしたいと考えていた。方針を正しく伝えたいし、逆に顧客と直に接している担当者の意見も聞きたい。また、顧客情報が事業ごとにバラバラに管理されているため顧客の動きを十分に把握できない悩みもあった。「一人のお客様が楽器購入者でもあり教室の生徒でもあるとわかれば、趣向に合ったコンサート企画も提案できる。もっとトータルに情報がわかるようにしたい」―この思いが、ITの活用へと向かわせた。

ITCの提案で、社員全員が現状分析を行う!

 寺田社長は同じ札幌地区でIT化に成功した食品会社の例を参考に、2003年に札幌商工会議所が開催したITSSP事業の経営者研修会に参加する。その際、「社内で実践する際に中心となる人間が最初から関わった方がよい」と、実務担当者の大道幸子氏も同席させたが、この判断が後の導入をスムーズに進めるポイントにもなった。
 4日間の研修会が終了すると引続き計画書策定コンサルティングのプログラムを受け、ITコーディネータの寺中武裕氏らと情報化の企画を煮詰めていった。
 寺中氏が重視したのはSWOT分析。強み・弱み・機会・脅威の4項目で会社の現状を捉える手法だ。今回ユニークだったのは関係者だけでなく「せっかくの機会なので全社員に書いてもらった」(寺中氏)こと。反応は予想以上で、各拠点から続々と分析表が戻ってきた。各社員の思いは寺田社長のそれと大きなズレもなく、進むべき方向性を再確認することができた。また、自分の頭で考え自分の言葉で表現することは、主体性を高める意味でも良い機会になった。
 方向性を定めたら、後は実行あるのみ。実務担当の大道氏が方向性を把握していることもあって、着々と作業が進んでいく。まずはグループウェアを使った情報共有、その次はバラバラになっていたデータベースを統合して顧客サービスを充実させること、と行動計画を立てた。
 グループウェアについては、サーバー管理が不要なASPサービスを利用。各拠点間はすでにブロードバンドでVPN接続されていたので導入は容易だった。グループウェアというとスケジュール管理などが思い浮かぶが、同社は、掲示板機能に着目した。社員が意見や提言、報告を書き込むと上司や別の拠点の社員がコメントやアドバイスを書き込むといった使い方だ。効果はどうだったのだろうか?
 経営管理を統括する江幡一馬氏は「最初は心配したが思った以上。発言の少なかった社員が積極的に書き込むのを見て、新たな発見をすることもあります」と笑顔を見せる。寺田社長が毎朝目を通し必要な書き込みには返事を書くという徹底した運用も功を奏し、社内には「情報共有」がしっかりと根付いてきた。

情報共有の成功を受けて、顧客データベース構築へ

  そして、今取り組んでいるのが顧客データベースの構築だ。
エルムため楽器の顧客データは提携先のYAMAHAのシステムを利用する関係上、音楽教室、販売など項目ごとにデータベースが分かれている。これを顧客ごとに横断的に見られるようにし、自社との関わり方を掴もうというものだ。
 この4月からは個人情報保護法が完全施行される。多くの顧客情報を持つ同社にとって「顧客情報が散在しているのは良い状況ではなかった。一元管理されアクセス権の設定もできるので、導入タイミングとしてもピッタリだった」(寺中氏)。
 ITSSPへの参加から1年半。意見の取りまとめやサポートに奔走してきた大道さんは「いろいろなことを勉強しながらやってきましたが、皆の思いが理想に向かって着実に進んでいることはすばらしい」と目を輝かせる。若手社員が経営改革のプロセスを体験したことは、同社にとって大きな財産となるに違いない。
 寺田社長はデータベースが完成したら、全員で意見を出し合い、使い道を工夫してどんどん活用していきたいと言う。社員が自分で考え発言できる土壌ができた今、顧客を喜ばせる企画が次々と上がってくるに違いない。


ITコーディネータ紹介

 東芝情報システム(http://www.tjsys.co.jp)に勤務。ITSSP事業など北海道ITコーディネータ協議会のIT支援活動に積極的に参加している。
 エルムため楽器のIT化では、アクションプランの作成(何をどの順番で実行していくか)がポイントになった。当初の議論では、データベースを先に構築しようという意見も出たが、寺中氏はデータを活用するにはディスカッションのできる土壌が必要と、情報共有の基盤づくりを優先。この判断が無理のないステップとなり、良い結果を生みつつある。

北海道ITコーディネータ協議会
               http://www.itc-hokkaido.org/

寺中 武裕 氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

  ITSSP事業に参加した時は課題をこなすので精一杯でしたが、われわれの気づかないことを発見でき、有意義でした。ITSSPでは寺中さん以外にも数人のITコーディネータの方がサポートしてくださいました。それぞれの専門分野を活かした指摘、他業界との比較による助言など、様々なことを学べたと思います。ITCの助言を受け、アクションプランの一番目を「情報共有」に決めたのは正解でした。社員一人ひとりが会社の将来を考え意見を出しあう土壌ができたので、今後のデータベース活用もスムーズに進められそうです。
(担当者談)



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