
26ある拠点。時間と距離の壁をどう越える?
拠点間の連絡方法改善に取り組んだのは札幌市の財団法人札幌市スポーツ振興事業団。SIPフォンとグループウェアを26拠点に導入した。「SIPフォン」とはまだ耳慣れない言葉だが、SIPという通信方式を使ったIP電話システムのこと。ここではパソコンのネットワーク上で、付加価値の高い内線電話機能を利用できるシステムと捉えておけばよいだろう。
同財団は、札幌市営の体育館、プール、スケート場などスポーツ施設の管理を担うほか、学校体育施設の開放事業やスポーツイベントなども手がける。施設は市内全域に広がり、開館時間が長いこともあって職員の勤務はシフト制だ。
各施設との連絡手段は1週間に1回の文書連絡便と電話が中心だったが、文書の場合は伝達にタイムラグが生じたり、見落としてしまったりなど、スムーズに行かない面もあったという。同財団総務課の前淳一係長は、「各施設との電話のやり取りが多い一方、職員は少ない人数をローテーションで回しているので職員間で顔を合わせられない日も多い。もっと効率的な連絡手段があれば、という思いはありました」と振り返る。
IT通信ソリューションベンダー・インフォネットに勤務し、ITコーディネータ(ITC)の資格を持つ佐々木身智子氏がSIPフォンの活用を提案したのは、ちょうど良いタイミングだった。提案を受けた同財団は、2003年冬にはインフォネットからの導入を決定。この取り組みで成果を上げるための組織内プロジェクトを立ち上げた。

提案を受けたSIPフォン。使いこなすためにプロジェクトを立ち上げる
新しいシステムを導入するにあたり、どの企業・組織でも課題となるのが、「ほんとうに使いこなして成果を出せるのか」という活用面だ。これには各従業員が使う習慣を持てるよう、早い時期に具体的な利用メリットを感じられることが大切だ。
ITC佐々木氏は「業務課題をお聞きして導入メリットは確信しました。あとは各現場の方がどのように使ってくださるかが焦点になるため、各施設のご担当者によるプロジェクトを立ち上げていただきました」と説明する。
現場で実際にどのような業務を行っているのか、どのような情報があると便利なのかを洗い出し、1年近くかけて検討した。SIPフォンに関しては、他社のシステムを見学したり、デモ環境を作って体感したりということもあったそうだ。
そして、「最初は仕事の用途に限定せず、何でも使って良いことにして、慣れてもらいました」(前氏)と、詳細ルールを決めすぎず、職員自身が使い方を考案できる運営方法を選択した。

電話も一人1台に。通話料を気にせず打ち合せ
では、導入後の様子はどうなのだろうか。事務局のオフィス内は、共用の外線電話がグループに1台程度。新しく導入したSIPフォンは各職員用のパソコンにヘッドセットを接続して使う。パソコンは一人1台支給されているので、施設間では職員一人ずつが1対1でダイレクトに通話できるようになった。
システムプロジェクトの時期にはプール施設に勤務していたという総務課の市川靖教氏は言う。「1対1で確実にメッセージが送れるので便利になりました。電話だけでなくメッセージパット(文字メッセージを送る仕組み)があり、電話で話しにくいようなときもコミュニケーションが取れます」
前氏は、「在席か不在かの状況(プレゼンス)が大まかにわかるので、不在時に電話をかけて取り次ぎを頼むといったことが減りました」と感想を述べる。ただ、プレゼンスはちょっと席を離れているといった細かい動きまではわからないので、今後の課題でもあるとのことだ。
また、SIPフォンの導入で拠点間の通話はすべて内線扱いになり、通話料を気にせず話せるところも大きなメリットだという。
企業でも、業種によっては、電話機は一人1台ないけれどパソコンは一人1台あるというケースがあるだろう。佐々木氏は「交換機ベースの電話機を一人1台購入するのは高価でも、SIPフォンは今使っているパソコンに数千円足せば一人1台電話が持てる。こうした費用面でもメリットも大きい」と指摘する。
札幌市スポーツ振興事業団では、SIPフォンと同時に導入したグループウェアの活用によって文書連絡も大半がデジタル化された。両者の相乗効果もあり、拠点間の連絡はスピードアップし、確実性を増すこととなった。
今後はさらにスムーズな情報伝達と業務の効率化をはかり、市民サービスの向上に努めたいとのことである。
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