業務改革事例

ITコーディネータ活用記 自治体編 茨城県牛久市



茨城県牛久市
人口 76840人
面積 58.89平方キロメートル
    (平成18年2月現在)
牛久市プロフィール 茨城県の南部に位置し、東京から50km。都心への通勤圏で成田空港にも近いといった立地条件に恵まれ、ベットタウンとして発展してきた。
  市役所では「うるおいと したしみのもてる くらしやすい 市民主体のまちづくり」をスローガンに行政サービスを提供中。

茨城県牛久市では平成16年からIT調達コストの適正化を目指す一施策としてITコーディネータを活用。初年度の各課IT関連予算を8300万円、平成17年度から向こう6年間の基幹システム費用を4億5000万円削減するなど大きな効果を上げ、市の財政健全化への取り組みに貢献している。

「ITシステム費用、今後6年間で4億5000万円削減」――平成17年7月、茨城県牛久市は情報システムにかかる経費の大幅削減を発表した。平成17年度における同市の歳入150億円と比較すると数値の重みがよくわかる。この成果に、ITコーディネータが貢献している。

このシステムは適切か、価格は適切か

茨城県牛久市では、民間企業出身の池辺勝幸市長の就任後、財政の健全化と適正な市民サービス提供を柱に改革を進めている。年間10億円の経費削減を目標に掲げており、歳出の一定割合を占める情報システム費用も例外ではなかった。
池辺市長は「このシステムは本当に適切なのか」と正面から疑問を呈した。また、昭和55年から自己運用してきたメインフレームの基幹システムが、老朽化や行政需要の多様化に対応するため見直し時期を迎えたそこで平成15年秋に情報処理システムの再構築プロジェクトを立ち上げ、「システムの適正度については外部の専門家の意見を聞く」との方針が出された。
同市が専門家の派遣を求めたのは県内ITベンダーの常磐システムエンジニアリング。同社に勤務するITコーディネータ(ITC)吉田忠晴氏はユーザー企業内でメインフレームシステムをクライアント・サーバー型に再構築した経験を持つ。その視点とITCスキルが市役所内の情報システムで活かせるとの判断もあった。平成16年3月から吉田氏は牛久市役所での活動を開始する。
市役所内には基幹システムの他に、各課ごとに稼働させている情報システムがある。こちらにも見直すべきコストが随所にあった。例えばパソコンをレンタルからリースに変えるだけでも費用削減ができる。
   
 牛久市市民生活部情報政策課
   三村 義典 課長
   
   情報政策課
   山根 学 主任
ソフトウェアライセンスや保守方法の検討も同様。また各課ごとにバラバラに発注ていた地図情報関係のシステムをとめて発注してコストを削減するなど、吉田氏は次々と結果を出していった。こうした積み重ねで、平成16年度だけで各課IT関連予算は8300万円の削減をみた。
しかし、予算削減となれば、課側も慎重になる。「これまでつきあってきたITベンダーさんが手を引いてしまうのではないかという心配も上がってきました。トップの決断だから、まずやってみて欲しいと説明しました」と牛久市情報政策課の三村義典課長は説明する。
池辺市長は、吉田氏の採用後、「情報システムに関する予算はすべてITC吉田氏の監理承認を受けてから提出することを決定。これまでの慣習を大きく変えた。

パッケージソフト活用へ 初の入札を実行

牛久市から授与された感謝状を手に。
常磐システムエンジニアリング代表取締役岸根 満氏(右)
取締役吉田 忠晴氏(中央)
澁谷 和貴
池辺市長の強いリーダーシップでこの方式は徐々に根付き始める。
そしていよいよ基幹システムの再構築時期がきた。
検討の結果、維持コストが大きい旧システムを中止しクライアント・サーバー型への移行を選択した。同課の山根学主任は「パッケージソフトの採用を決め、5社のデモを見てそのうちの3社で入札を行った。吉田さんにはかつての経験を踏まえたアドバイスをもらった」と当時を振り返る。
入札方式をとったことも功を奏し、旧システムを使い続けた場合に比べ冒頭に挙げた大幅なコストダウンが実現したのである。
ITC吉田氏は、2年間の仕事を次のように整理した。「最終的なねらいは市民の皆様の税負担の軽減。まず効果のあるところから手をつけ、信頼を得てからシステム再構築に入ったのもよかったと思う」
牛久市の成果を聞き、常磐システムエンジニアリングはつくば市からも依頼を受ける。さらに、周辺の自治体も興味を示しているという。
民間の経営感覚で適正なシステムを見極めようとした牛久市の取り組みが、自治体におけるITCの活動領域をまた一つ拡大した。
 
 
<活動の足跡>

平成15年11月
庁内に「情報処理システムの再構築」プロジェクトが立ち上がる。
平成16年3月
牛久市にてITコーディネータ活動開始
市長の財政再建という目標に沿って、IT調達コストの適正化に向け活動を開始した
・パソコンをレンタルからリースに切替
・オペレータ費用見直し
・財務系ソフト料及び保守の見直し平成16年4月
IT予算執行改革
毎月予算執行前にITCが監理し承認した後に市長決済をもらうように改革
平成16年9月
更なるコスト削減を目指して、基幹システムを汎用機からオープン(パッケージ)へ検討開始
平成16年10月
平成17年度IT予算書の監理
平成17年3月
牛久市長より感謝状授与
平成17年7月
牛久市「経費削減・6年で4億5000万円」をプレスリリース

<池辺勝幸・牛久市長に聞く>
市政にとってのITコーディネータとは?


――新体制作りの中でIT費用に着目されたのはなぜでしょう。
池辺市長 歳入が150億円の時代にシステム費用が何億円もかかっている。普通、経営的に見てありえない。旧体制の縦割りでバラバラに進んでいた弊害も含めて、これでは倒産する会社の体質だと。
――「ITコーディネータの監理がない見積は見ない」と断言されたそうですね。
池辺市長 市のシステムそのものが適切か、価格の「値ごろ感」はどうか、それがわからないまま何千万円もする見積書に私は判を押しません。「隣の市でやっているから」では理由にならないでしょう。吉田さんを信頼して全部任せ、適正さについてアドバイスをもらうということです。
――ルールを徹底するには抵抗もあったのでは。
池辺市長 初めは理解されませんでしたね。既存の価値観を否定するのですから、ただ専門家を入れただけではうまくいきません。トップが、その方の意見を100%認めると徹底することです。
――成果をどう見ていらっしゃいますか。
池辺市長 職員の意識は変わってきました。事前に調査をしたり、見方が客観的になってきましたね。吉田さんには感謝しています。
  ITシステムは市民サービスのためのインフラであり道具。構築に命を賭けるのではなく使い切れる道具なのかどうかを見極めることが大切です。そうした目を持つITコーディネータなら採用する自治体も多いと思います。
  行政サービスを低下させずに適正な情報システムを運用する。市政も企業経営も根底の考え方は同じです。



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