支援制度活用事例

組合一丸で改革遂行
~ 「顧客の変化がわかる町」へ意識改革と契機を作る ~



湯沢町温泉旅館商業協同組合
所在地 新潟県南魚沼郡湯沢町
総合案内 http://www.yuzawaonsen.gr.jp/

新幹線で新潟駅から1時間、東京駅から90分。川端康成の小説「雪国」の舞台としても知られる町。
    湯沢町のIT化を推進する
湯沢ビューホテルいせん
井口智裕専務取締役
湯沢町温泉旅館
商業協同組合理事長
松泉閣花月 代表取締役
富井松一氏

18のスキー場を持ち、温泉、自然、各種スポーツ施設と年間を通じ豊富な観光メニューを有する。温泉旅館商業協同組合には町内15の温泉旅館が加入。


人気観光地に押し寄せる顧客構造変化の波

 東京駅から上越新幹線で90分弱。越後湯沢の大きな駅舎を出ると、目の前には山々を背景に温泉旅館や飲食店が連なる情緒ある街並みが広がる。ここ新潟県南魚沼郡湯沢町はスキーのメッカとしても知られる温泉地だ。
 都心からのアクセスが良く四季折々に観光ポイント持つ湯沢町は、全国各地でシャッター通り化する温泉街が増えつつある中、変わらぬにぎわいを続けている。しかし、旅館の経営者たちは、近年顧客構造が変化しているのを敏感に察知し、改革の必要性を感じていた。
「お客様の行動範囲が広がり、町をトータルで楽しむようになった。宿泊した旅館のサービスが良いだけでなく顧客の嗜好に町全体で応えることが求められている」――旅館「松泉閣花月」代表取締役で湯沢町温泉旅館商業協同組合理事長を務める富井松一氏は、その変化を旅の楽しみ方の転換ととらえる。
 顧客に何度も湯沢を訪れてもらうためには、宿泊した旅館のサービスがよかったというだけでは心もとない。これからは、店舗も観光名所も一体となった体制づくりが必要だ。富井氏は、湯沢のリピーターを増やすカギとなるのは複合型観光需要に対応できる「町全体のレベルアップ」だと認識し、地域全体で顧客を知る仕組みを作れないかと考えたのだった。

自ら学習し、ITの意義を体感

 そこで、2003年6月から半年間、組合が主体となりITSSP事業の経営者交流会を開催。「湯沢町の強みとはなんだろう」「ITの活用で顧客の姿をつかむことができるのではないか」など、忙しい仕事の合間をぬって集まった経営者が、ITコーディネータである坂下知司氏、岡田怜氏、水谷哲也氏らのサポートのもと、真剣な議論を戦わせた。他の観光地のIT化事例などを学んでいく過程で「顧客の年齢層や行動パターンなどを町全体で収集しその変化について行く」という計画案が作られ、大筋の合意が得られるまでになってきた。
 しかし、いざITの活用となるとそこには投資が伴う。実際、「成果の見えない段階でお金をかけることはできない」という意見も出た。組合員がITの意義を実感しなければこの計画を合意をもって進めることは難しい――そこで、意識改革への第一歩としてITCの坂下氏は「お金をかけずにIT活用を始め、小さくてもよいから成功を実感する。その上で次のステップに向かう」というプロセスを提案した。旅館業の要はなんといっても宿泊予約。まずはITを活用した予約増に焦点を絞り、Webからの予約を増やす仕組みを考えていった。
 Webでの宿泊予約というと旅行代理店各社が運営する宿泊予約サイトも重要な役割を演じているが、急な予約への対応や特徴ある部屋の販売には自社Webをもっと活用できると便利だ。そこで関係者は初期投資が不要な商用ネット予約サービス「RoomBank」に注目する。
 RoomBankは、空室在庫を複数の旅行代理店サイトと自社Webサイトで共有できる仕組み。ここに空室を登録しておけば、自社Webからでも加盟代理店のWebからでも顧客からの予約が入ると旅館側にメールで連絡が送られてくるというものだ。各旅館が任意にRoomBankに加入し、新たな予約システムを運用し始めた。
 組合におけるIT化のリーダー的存在である、湯沢ビューホテルいせんの井口智裕専務取締役は、「部屋数は少ないが特徴のある部屋などを自社Webで自由に売れるようになったのは大きい」と説明する。また利用料金が成約1名につき100円(自社Webで利用した場合)と投資額が低いこともメリットだという。

[湯沢町の計画]
第一ステップ...商用ネットの共同利用で「結果を出す」
第二ステップ...ネット予約の拡大展開
第三ステップ...顧客データベース整備のための計画書策定

顧客データベースの活用でさらに魅力ある町づくりへ

小さな成功が組合員の意欲向上を促し、次のステップへ

 新方式の採用から2ヶ月、予約件数は期待を上回り、これまでの月300件程度から月900件以上に大幅に増加した。わずか9万円程度の手数料で月1000万円の売上増を実現したことになる。RoomBankを利用中の旅館による予約受付ランキングでも、湯沢町の旅館は全国でも上位ランキングに顔を連ねた。
 少ない投資で目に見える効果を上げたことで、関係者はITの威力を目の当たりにする。今までWebを十分に活用していなかったことでこれだけのお客さんを逃していたことに気付き、この後、ほとんどの旅館がこの仕組みを利用するようになったそうだ。
 電話予約や旅行代理店経由の予約数に比べればまだ少ないものの、この成果は参加者がIT化の効果を実感し、さらなるIT活用を考えるきっかけになった。今後は、全旅館の空室状況が一覧できる仕組みや町全体の宿泊客の特性をつかむ仕組みなども考えていきたいという。
 一気に大掛かりな改革を行うのではなく、IT化の成果を実感し合意を得て次のステップへ。この第一ステップは確実に前進した。ITC岡田氏は「理事長が組合員に働きかけ、ベンダー主導ではなく利用者主導で進めてきた結果」と評価する。大きな成果は小さな成果から――第一歩を歩み出した湯沢町は、この実績を踏まえ、今後は町を上げての「顧客を知る仕組み」の構築に挑む。

*湯沢町の顧客データベースプロジェクトは平成16年度のIT活用型経営革新モデル事業に採択されました。


ITコーディネータ紹介

 ITコーディネータ実務研究会に属する坂下知司氏(写真中央)、岡田怜氏(写真右)、水谷哲也氏(写真左)は2003年6月スタートのITSSP事業経営者交流会から湯沢温泉のサポートを開始。組合という形態であるがゆえ、各経営者の意向がまとまりにくい危険性もあったが、坂下氏らは、現状分析の支援から始まって、1つ1つ組合員の合意を形成しながらIT化を推進している。



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