支援制度活用事例

一歩先行く組合のIT活用・建設鉄工協同組合
同業者間で「手の内」を明かす!? ブランド確立は結束力から




福井県建設鉄工協同組合
所在地 福井県福井市林町62-5
組織形態 同業種同志型組合
組合員数 78 社
設立 昭和41 年
代表理事 岡本征雄
業種等 建設用・建築用金属製品(主に鉄骨)製造に携わる企業の集まり。
特色 総務財務、共同受注、経営企画、技術広報、外国人雇用の5 つの委員会をもつ。事務所を所有していることもあり委員会活動が活発で組合企業間の意思疎通が図られている。


福井県建設鉄工協同組合の
IT化推進プロジェクトメンバー

写真右から順に、
副理事長・宮川隆治氏
(フクモク工業・社長)
理事・福岡武幸氏(福岡・社長)
事務局長・水野日出雄氏

IT活用 平成12 年には組合事務局にインターネットを導入。翌年からIT 化推進活動を展開、Eメールによる組合行事案内も開始した。平成17 年3 月現在の調査で、全組合員のうちインターネット接続率は83%。
URL http://www.fukui30000t.com/
一般公開している組合のホームページ「てっこつ一家3 万トン」組合各社の紹介機能も果たしている。

足の引っ張り合いより、総受注量アップを

インターネットの検索エンジンに「てっこつ一家」とキーワードを入れて検索すると、「てっこつ一家3万トン―全国に誇る月総生産3万トン」とキャッチフレーズがついたWebサイトにたどり着く。福井県建設鉄工協同組合のホームページだ。企業紹介が充実し、「鉄工」「組合」という言葉からイメージする堅さを感じさせない雰囲気は、本組合の活動状況そのままを映し出している。
同業者の組合は協調しつつもけん制し合う面がある。一つの意思を持って活動するのは簡単ではないはずだ。にもかかわらずWebサイトから伺えるように、福井県建設鉄工協同組合は、78社ある組合員企業が結束力をもって協力し合う体制を整えている。
2005年度はホームページの戦略的活用に加えて、組合内で企業の作業状況を公開し受発注を行うシステム「てっこつ一家求援隊」を開発。自社の生産量を上回る受注を受けた企業が、生産力に余裕を持つ企業を探し応援を求められるようにするマッチングツールだ。
応援を求めるなら、競合する近隣の同業者より、商圏が異なる企業に声をかける方が自然な気がする。同組合は、なぜ県内企業どうしの受発注システムを必要としたのだろうか。
「以前は県内の仕事だけだったが、現在は70%が県外の仕事になっている」
IT活用推進メンバーの一人である組合副理事長・宮川隆治氏の言葉にそのヒントがある。
建設鉄工とは、建築物の骨格となる鉄骨を加工し現場で建てること。建築物の根幹を支えるゆえ高い品質が求められ、取り扱う鉄骨のグレードによる工場認定制度が整備されている。「建設」と冠がついているが製造業としての色合いも強いのだ。
バブル期を過ぎると建築ブームも落ち着き、建設鉄工業界では倒産や廃業が増え出した。福井県内でも需要と供給のバランスがくずれ始める。
しかし、事態に直面した同組合の企業は、県内需要を奪い合うことをしなかった。首都圏など他県の取引先を開拓。そして協力して供給力を高め、より多くの受注を目指そうと考えたのだった。
組合理事の福岡武幸氏はこの様子を「一社のキャパシティを超えた仕事を依頼されても県内でまかなえる。こうすれば県内の総受注量は増え、個々の企業の工場稼働率も上がる。足の引っ張り合いではなく仲間作りで仕事を獲得している」と表現する。同業者が多いことを逆手に取ったうまい戦略だ。

同業者間での仕事情報の共有。電話、FAXでは限界が...

こうして仕事の受注状況に応じて、親しい同業者に電話やFAXで仕事の打診をすることが日常化した。もし親しい企業間だけでなく組合員78社にネットワークを広げられれば競争力はさらに増す。しかし、適切な方法はなかなか見つけられなかった。
2年ほど前、同組合の事務局長からこの悩みを聞いた福井県中小企業団体中央会の間宮務氏は、課題解決にはITの活用が有効と考え、ITSSP事業(現在のIT経営応援隊)やITコーディネータの存在を紹介。それがホームページ(受注量増)と組合内システム(供給量増)の二面からなるIT活用プロジェクトへと結実していった。
福岡理事は言う。「目標は、鉄骨を福井のブランドにすること。それには十分なキャパシティも条件となるので、二つのシステムが必要だった」
主旨はシステムのネーミングにも反映されている。同組合事務局長の水野日出雄氏によると「巨大なバーチャルカンパニーであることを示すために、そして現在の県内鉄骨生産量2万トンを3万トンに増やすことを目標として「てっこつ一家3万トン」とキャッチコピーをつけた」のだそうだ。

ITCのアドバイスでWebベースの企業間情報共有システムを構築

システムの構築にあたり、栃川昌文氏、橋脇典子氏の2名のITコーディネータがサポートを担当。栃川氏は、「第一回目の会議に参加して熱意の強さを感じた。要望を整理して使いこなせるシステム提案依頼書にまとめることを心がけた」と振り返る。
組合のWebサイトに関しては、各社それぞれの企業がインターネットを通じて簡単に更新できる方法を導入。受発注システムもWebベースで開発し、各社が仕事受注状況を入力してデータを蓄積する仕組みとした。
電話やFAXを使っていた時に比べ、より広い企業から即座に協力者を探しだせるようになった。
宮川副理事長は「手の内を明かすシステムですから、互いの信頼関係がなければできない。すでにそうした関係が成り立っているので実現できた」と分析するが、この点は企業内でシステムを導入する場合も同じだ。明確な目標設定と風土醸成がなされてこそ、ツールが生きてくるに違いない。
心配される点として挙げられるのは、78社がきちんとシステムを活用できるかどうかだが、同組合は、組合内のIT導入も早く、会員企業へのパソコン操作指導なども積極的に行ってきた。「福井の人間は新しもの好きだし、業務の性格上パソコンを使うことへの抵抗も少ない。今後はきちんと時間をかけてデータが集まる習慣を作っていきたい」(福岡理事)とのことだ。3万トンの鉄骨受注が実現する日は遠からず訪れるに違いない。

コラム ~地域を支えるIT化のプロデューサー~

福井県建設鉄工組合がWebを活用した受発注強化に取り組むきっかけを作ったのは、福井県中小企業団体中央会の間宮務振興課長とITコーディネータ(ITC)の先織久恒氏だ。
間宮氏は日ごろから地域の専門家との情報交換を行い、IT経営応援隊事業やITコーディネータなどの存在や意義も理解していた。
同組合の課題はIT化で解決できるとの判断で、ITC先織氏が理事長を務めるNPO法人・福井県情報化支援協会主催のITSSP事業(IT経営応援隊の前身)への参加を助言。ITCと組合とのマッチング、そしてIT化の実行をサポートした。
間宮氏は「課題を解決する手段として使えるならITを入れるべき。最後は意思決定に役立つかどうかが判断ポイントだと思う」と言う。
すでに県内の和紙協同組合へのIT化支援実績を持つ先織氏は、本事例では直接的な支援の立場ではなく、広く組合とITCとの関係強化を支えた。
「組合の活動で意識が高まれば、個々の企業がIT化に踏み出す契機にもなりうる」(先織氏)
ITC側のビジネスを発展させる意味でも、組合支援は重要ポイントになっているとのことだ。
地域のIT化推進には、こうしたキーパーソンの活躍が不可欠といえそうだ。


福井県中小企業団体中央会振興課
  課長 間宮務氏


NPO法人 福井県情報化支援協会
理事長 先織久恒氏

ITコーディネータ紹介

福井県で活躍するITコーディネータ。福井県のITCは、先織氏が先頭にたって基盤作りを行い、各ITCが場面に応じて持ち味を発揮するというコンビネーションに優れる。
組合のような組織体のコンサルティングでは、一般に意見のとりまとめが難しいといわれる。栃川氏と橋脇氏はプロジェクトメンバーの考えを言葉で整理し、仕上がりイメージを提示して合意を得ることに心がけた。ホームページ制作においては、組合企業に参加するメリットを理解してもらうことにも力を注いだという。
ITコーディネータ
NPO 法人 福井県情報化支援協会
URL:http://www.itc-fukui.jp/

有限会社ビジネスアイ
栃川昌文氏

有限会社ブリッジ
橋脇典子氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>
「物を作るには図面、設計書が必要ですが、ITもそのとおりだと感じます。ベンダーに依頼した後に大幅な変更が発生することもなくスムーズでした」(水野事務局長)
「本プロジェクトを仮に組合内だけで進めていたらいろいろな意見を整理しきれず、頓挫したかもしれません。専門知識はもちろん、人格的にも良いITコーディネータの方に担当していただき、満足しています」(宮川副理事長)

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