1.戦略・ビジョンレベルの目標:製造業としての生き残り。
(図表1の一番上の部分) |
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第1の「選択」は、製造業の生き残りの条件は、顧客満足にあるとし、その「顧客」とは誰かを決めなおしたということである。当事例では、7割の売上を占める自動車の部品加工(売上拡大を目指す)をやめ、
アルミ事業に特化する(従業員一人当たりの利益率の増加を目指す)という大きな選択をした。これは大変勇気の要る選択であり、多くの製造業では夢を見ることはあっても、実行することは中々できないものである。
経営者は何故このような大きな選択をすることができたのか?このヒントは下位のレベルの意思決定にある。
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2.戦術レベルの目標:人間的な創造性のある仕事をしたい。
(図表1の中間から上) |
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ここでの「選択」は大量受注をやめ(ファーストロット)、特注・単品モノに特化するというものである。製造業を囲む環境は、従来よりも大変厳しいものとなっている。(当事例は1999年時点のものであるが、
参考までに2001年度版の経営課題を付記しておいた<参考4>)単純なルーティン作業は人件費の安い外国に奪われ、取引先の値下げ要求は限界を超えている。事例にも述べられているように、
利益が3%~8%では到底食べていくことはできない。「人間的な創造性のある仕事」は単にロマンを追い求めているだけではなく、差別要因である。これは製造業には「NC(数値制御)旋盤」、「マシニングセンター」、
「ロボット」<参考5>が多品種少量生産の大きな武器であり、「知的生産性を向上させることによって、大きな利益を生む。」という構造があることが経営者の意思決定に大きな追い風となったとも言えよう。 |
3.戦術・オペレーションレベルの目標:人間的な創造性のある仕事をしたい。 |
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またこの目標はオペレーションレベルにおいては、「展開・学習すべきコンピテンシー」<参考6>の「選択」という見方をすることもできる。
コンピテンシーとは、「目的を達成するための必要な能力」を定義したもので、特に人材の評価指標として使われるものであるが、ここの場合では「同じものを繰り返し安く作る能力」と「違ったものを常に新しく作る能力」と考えて見たい。(図表2)
左の場合ポジティブ(好ましい)スパイラル(らせん的繰り返し)と関連していると言え、右の場合ネガティブ(好ましくない)スパイラルと関連していると言える。経営者は自社に必要とされるコアの能力の方向性を伸ばすことが重要であることも、この事例から読み取れる部分である。
この考え方を応用する際の注意として、その企業のおかれている経営環境によっては、ポジティブスパイラルは正反対の方針になることもある。常に市場との相対的なポジションを確認することが重要である。
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4.オペレーションレベルの目標:プロセスノウハウの創造。
(図表1の左下の部分) |
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さらに加工デザイニング領域においても、経営者は大きな決断をしている。
ものづくりの能力は経験をつんだ個人に依存するという考え方が伝統的な製造業にはある。これは「暗黙知」と言われるように、数値化や文書化ができない領域であると言われていた。「免許皆伝虎の巻」には技の名前しか書いてないといわれる所以である。
この領域を企業において共有するために、「仕事を細分化する」という手法を使い、ヒトとコンピュータの役割を明確に分けるということを行った。その結果一つ一つの資源要素は名称がつけられ、数値化がされ、このマスターデータの変化の様子を記録することによって、
結果的に人間の行う不定形の作業を記録することに成功したのである。このデータは「同じ作業を再現する」ことと「類似の作業のテンプレートとして再利用する」ことに使われ、ヒトが行うことはあくまで創造作業である。とすることができる。
ここでは職人という名のブラックボックス(内部工程が見えない)をやめ、データ化というオープンボックス(内部工程が見える)にするという「選択」がなされている。 |