事例情報

2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
株式会社ダン 作成者:(有)岩田システムコンサルタント
      岩田 薫
ITC認定番号:0002052001C
作成年月日:2003年 2月 7日
 IT技術の進化の異常な速さが喧伝されているが、IT技術の恩恵を受けているあらゆる世界でも同様な現象が発生している。 インターネットの出現により、消費者は世界中の情報を瞬時に知りことができるようになったが、このために自分の欲しい商品を世界中から捜すことができ、 またいつでも、どこからでも手にはいるようになった。
 このような状況から、消費者ニーズはますます多様化、個性化し、需要は日々急テンポに変化する。 このため、商品のライフサイクルはあらゆる商品で短くなっており、その商品を供給している企業にとっては、大変に難しい時代が到来したと言える。
 少品種大量生産で生産技術力を向上させてきた日本企業にとっても、 市場動向が日々変化する状況での多品種少量生産に対応できなければ生き残ることも困難となってきた。
 欧米の先進企業は、そのことにいち早く気がつき、SCM(サプライチェーン・マネジメント)を導入し、顧客満足と企業価値を高めることに成功してきた。
 日本企業でもトヨタの「JIT」(注1)のように一部の企業は欧米以上に進んでいるが、多くの企業では漸く数年前からSCMを取り組み始めた段階である。
しかし、取り組んでいる企業が多い割に、明確な投資効果がでている企業が少ないことも事実である。 日経コンピュータ2002年5月6日号「SCM危機からの脱出」によればSCM導入過程に立ちはだかる3つの壁に多くの企業がぶつかっているのが実状である。
3つの壁とは、①社内や取引先からの協力を得る、②新しい業務のやり方を生産や営業などの現場の担当者に定着させる、③適正な在庫水準を見極める、である。
 ここに紹介する株式会社ダン(以下、(株)ダンと省略)は、靴下だけを扱う「靴下屋」というフランチャイズ・チェーンを経営する企業であるが、 欧米のマネではなく、自らの経営戦略を実現する手段として、独自のSCMを実現、成果を上げてきた企業である。

<SCMとは>
 現状、SCMに関する明確な定義は存在していないようであるが、一般的に言われている一例をここに提示する。
『企業の壁を越えた受注からキャッシュ回収までの調達、生産、販売、物流といった供給活動を1つのチェーンとして捉え、 そのチェーン上の活動の最適化を目指すことである』また、『その目的は、「スループット(=売上高-変動費)の最大化」と「運転資金の最小化」を同時に達成し、 「キャッシュフローの効率化を最大化」するという、経営のダイナミックな全体最適の実現にある』 (野村総合研究所:経営戦略としてのサプライチェーン・マネジメント 1998.7.17)
ここで最も重要なことは、「あくまで企業内の最適化として検討・実施されてきたビジネス・プロセスから、 企業の壁を越えたサプライヤー同士の全体最適としてのビジネス・プロセスを目指す」ということであり、ビジネス革命といっても過言では無かろう。

<欧米のSCM>
 欧米のSCMの基本は取引先の絞り込みによる選択と集中である。取引先の絞り込みは、 同一商品群を扱うベンダーの絞り込みだけでなく、メーカーから卸、小売へとつながる経路の中抜きをも意味している。
このため、徹底したベンチマーキング(注2)と効率化指標の設定、測定、評価によって取引先を絞り込むことがSCM構築ステップの中で最も大きな位置を占めている。 例えば、ウォルマートやJCペニーが始めているCPFR(注3)ではゴール値が定められており、これによって、取引先は評価されます。業績尺度の例としては、 ①小売での欠品率4%以内、②小売在庫回転日数5日、③売上予測の差異(精度)15%以下、等である。
この欧米スタイルのSCMを日本国内に持ち込めば、今まで日本経済を支えてきた中小企業の淘汰につながる恐れが強い。 現に、メーカーから小売業への直接取引によって、日本でも卸売業の中抜きによる淘汰が既に始まっている。 フランスから日本に上陸したカルフールはメーカーとの直接取引を原則としており、卸売業が排除され始めている。

<日本型SCM>
 一方、日本はどうなっているか。
従来、日本の製造業においては、製品メーカーを取り巻く中小企業群の存在が日本の強みといわれてきた。 中小企業が高度な技術を持ち、中小企業群、または地域としての協調体制がとられてきた。 トヨタのJITに代表されるように、系列の下請け企業がクッションとなり、少ない原料在庫で生産工程を稼働させる日本型のビジネスモデルも、 背景には系列による階層化された中小企業群の存在がある。
従って、欧米とは異なり、現在も日本経済の競争力維持の源泉である中小企業を含めたSCMの構築が不可欠であり、 中小企業が参画できる日本型ビジネスモデルが求められる。
「靴下屋」を経営する株式会社ダンのビジネスモデルは、まさにこの日本型SCMモデルの代表例といっても良い。

<衣料品業界の流通機構>
 (株)ダンのSCMを説明する前に、日本の衣料品業界の流通機構を説明する。基本的に、異常に長いリードタイムを背景に構築された流通機構となっており、 小売の発注に対しての納品率は他の食品や雑貨等と比較しても、段違いに悪い業界となっている。 (株)ダンでさえこの仕組みを作る前の納品率が30~40%に対して、現在でも80%のレベルである。
他の商品群ではとても考えられない納品率である。
さて、基本的な日本型衣料品流通機構は以下の通りである。
繊維商社やメーカーは半年前(夏物なら前年の冬)までに商品を企画、サンプル商品を生産して展示会や商談等を行い、小売業や卸等の予約を受ける。
予約の受注量から需要予測をおこなって生産ロットを決め、原料となる原糸を手当し、生産に入る。
シーズン(夏)の到来で夏物商品が小売に投入され、店舗での販売が開始される。
店舗販売が始まるとすぐに結果が表れてくる。小売業は、売れ行きの良い商品を補充するためにすぐに発注をかけてくる。 当然、売れ行きの良い商品は他の店舗でも売れるため、発注が集中、早いもの勝ちとなる。
繊維商社やメーカーは売れ行きの良い商品のみ追加生産したいが、元々生産ロットから割り出された売価であり、少ロットを同じ原価で生産することはできない。 また、中途半端な量での原料の手当も難しく、追加生産は不可能な状態が多い。
一方、売れ行きの悪い商品は、その後小売業からの補充発注がなく、メーカーや問屋、小売業で死に筋在庫となって残る。
このようなことを衣料品業界は戦前から続けてきた。QR(注4)と称して、発注から生産・納品までのリードタイムを大幅に短縮する試みも行われてきた。 一部のアパレルメーカーでは、小売業にまで進出し、QRを導入して成功しているが、顧客の好みの変化が激しいファッション衣料業界では未だに実現が難しい状況にある。 需要予測の難しさを最も経験している業界でもある。

<(株)ダンのSCMモデル>
 それでは、このような衣料品という特殊な業界にあって、(株)ダンは如何にSCMを構築したのか。日本の衣料品業界は安い工賃の中国製に押され、 タオル業界や、この靴下業界も繊維緊急輸入制限措置(セーフガード)(注5)の発動を求める動きすらある状況で、危機的状況にあると言ってよい。 その中で、(株)ダンは典型的な地場産業である奈良県の靴下メーカーの有効活用で、成功している。
(株)ダンのSCMモデルには、いくつかの特徴がある。
1) 価格の安い中国よりも、小回りの利く地元の地場産業がサプライヤーの中心。
ユニクロに代表されるように、衣料品は中国製が市場を席巻しており、日本の地場産業は壊滅状態になりつつある。 その中で、(株)ダンは小回りが利き、リードタイムの短い日本の地場産業を頼りにしている。 要は、1足当たりの単価は安くても、リスクの大きい製造ロットで仕入れず、単価は高くても、1足ずつ購入できて、リスクの少ない方を選択している。
顧客ニーズの多様化している今日においては、(株)ダンの手法は正解と考える。 ファッション衣料の場合、当年にヒットした商品でも翌年同じように売れる保証はなく、生産を押さえ過ぎれば欠品を起こし、 強気でいけば不良在庫を抱えることになる。
2) 需要予測よりもリードタイムの短縮を最優先している。
SCMは、需要予測の精度を上げることが重要であるが、リスクが少なく、最も効果的なのはできる限りリードタイムを短縮する事である。 実はリードタイムを短縮することは予測しなければならない期間を短縮することに繋がる。 予測期間が短いことは、そのまま予測の精度があがることを意味する。下手な統計モデルを利用することよりもSCMにおいては重要である。
3) 原糸メーカーから販売店に至るまで、すべて1足単位で物事を考える。
1足単位に物事を考えられる背景には、1足単位で供給できる物流システムが背景にある。コンビニエンス・ストアの要請から端を発して、 特に食品業界ではバラ品で発注・納品することが一般的になってきたが、カラー/サイズ別に供給しなければならない靴下業界において、 1足単位の仕組みを構築したことは賞賛に値する。
取引先に理解を求め、実現するまでにはトップを筆頭としたねばり強い交渉を丸川常務のお話から垣間見ることができる。

<(株)ダンSCMから学ぶこと>
 最後に、(株)ダンSCMから学んでいただきたいことを述べる。
1) お客様第一主義の徹底
日本には「お客様は神様です」という言葉があるが、真に顧客を中心に物事を考えている企業は以外に少ない。 その中で、(株)ダンの「お客様第一主義」は本物である。しかし、この「お客様第一主義」も1日にて実現し得たものではなく、 「社内の教育体制から物の考え方から全部変えました」とある。トップ以下、「経営理念の徹底」への執着を是非見習って欲しい。
2) 経営目標実現のための情報システム化
最近の情報システム化は高度なシステム機器やソフトウエアが出たので導入するといった、方法論ありきのシステム化が目立つ。 しかし、情報システムは経営戦略目標を実現するための道具に過ぎない。実現してくれるシステム機器が存在しなくても、戦略目標実現のために必要なら、 人海戦術でもおこなわねばならない。
(株)ダンは、POSの無い時代に人海戦術で単品の売上情報を収集している。 POSが発売されたから導入するのではなく、POSによってそれまで人海戦術でやっていた作業が代替でき、 より早く、確実に処理できるから導入したのである。
SCMでさえ、最初はサプライヤーに在庫状況を目で見せるところから出発している。いきなり、サプライヤーとのEDI(注6)を始めたわけではない。
(株)ダンの、経営戦略目標ありきの情報システム化のスタイルを中堅中小企業の経営者の方は理解していただきたい。
3) 人海戦術POSから出発したシステム化のステップ
(株)ダンは人海戦術POSから出発して、10数年かけて、現在のSCMにまで到達している。 この長年かけて築いてきたステップが情報システム化には必要である。
近年は変化の激しい時代で、そのような時代に10数年かけるような悠長なことはいっていられない。
しかし、システム導入は短期でも可能であるが、それを利用する人間の変革はシステムのようにはいかない。 短期でシステム化を実現する場合は、この点に充分に考慮すべきである。「転ばぬ先の杖」、この格言は情報システム化に関しても通用する。
自社の経営、及び情報成熟度を把握し、確実なステップを踏むことが求められる。
4) 中堅中小企業ならではの小回りの良さ
今、日本の中堅中小企業は安い人件費に支えられた中国の脅威に喘いでいる。タオル然り、野菜然りである。 このような状況下で中国と同じ土俵で相撲を取っても勝ち目は無い。では中国と同じ土俵しか無いのであろうか?いや、そんなことは無い。
(株)ダンの土俵は明らかに中国とは異なる。ユニクロとも異なる。
中国のいる土俵は、今まで日本が得意としてきた少品種大量生産の土俵である。しかし、顧客の需要は決してこの土俵だけでは無いはずである。 それを(株)ダンは証明している。(株)ダンが最近始めた、パソコンを利用して顧客一人一人に対応したソックスの販売が成功している。
過去の成功体験を捨て、時代に即した小回りの良さこそ、中堅中小企業の進むべき道ではなかろうか。

<最後に>
 今回、(株)ダン様の事例コメントを執筆するに当たり、この事例を読んで大変頼もしく思った。 まだまだ日本には元気な会社がいると。そのような会社の事例を参考として、中小中堅の企業経営者の方々は外国からの脅威や不景気に負けることなく、 頑張っていただきたい。


参考文献

(財)日本情報処理開発協会 企業間電子商取引推進機構
   「日本型SCMビジネスモデルならびに導入手法の構築」

日経コンピュータ2002年5月6日号
   「特集 SCM 危機からの脱出」

経済産業省
http://www.meti.go.jp/index.html


注1:JIT(Just In Time
 カンバン方式とも言う。トヨタ自動車が「必要なときに、必要なだけつくる」ことを基本理念として考案した独特の生産方式。 アメリカでは日本型生産方式として評価され、導入されている。

注2:ベンチマーキング(Benchmarking
 顧客価値を創造し業績を上げるため、業界内外の優れた業務方法(ベスト・プラクテイス)と自社の業務方法とを比較し、現行プロセスとのギャップを分析し、 自社に合ったベスト・プラクテイスを導入実現することにより、現行の業務プロセスを飛躍的に改善する体系的で前向きな経営改革手法。

注3: CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment)(日通総研)
 ウォルマートが中心となって進めている新しい製販協力の方法。
元はCFAR(Collaborative Forecast And Replenishment:シーファー)と呼ばれていたが、拡張され、現状ではこのようになった。
CFARはインターネットを利用して、小売業と製造業が協力しながら予測を行い、それに基づいて商品の補充を行おうとするものであったが、 CPFRではさらに商品企画、販促計画などのプランニングについても連携を強めようとしている。
 日通総研ホームページより(http://www.nittsu.co.jp/soken/keikon/dict/lgword.htm#CPFR)

注4:QR(Quick Response
 QRは、1980年代に米国で誕生した消費財企業における改革の考え方と方法論である。主にアパレル業界に適用される。
日本では、1990年代に国内繊維産業の構造改革を主導する繊維構造改善事業協会が組織され、産官協働でのQR活動が進展した。
QRでは、①効率的な品揃え、②効率的なプロモーション、③効率的な生産・調達、④取引ルールの透明化という4つの領域における改革機会を追求し、 消費者満足と収益力の強化をねらう。
上記の改革機会追求にあたっては、社内機能間はもとより、企業間とのコラボレーション(協働)を必要とする。 消費者の需要に牽引される高精度、高速・高回転のビジネスモデルをいかに築くかが焦点となる。
最近では、サプライチェーンマネジメントという言葉に置換されてはいるが、効率的な需要充足だけではなく、 効果的な需要創造との同時実現を追及する姿勢が大切である。
 日本能率協会ホームページより(http://www.jmac.co.jp/tch/mng_l_r.html)

注5:セーフガード(safe guard
 輸入品の急増が国内産業に壊滅的な打撃を与えることを回避するため、政府が一時的に輸入増にブレーキをかける制度のこと。 セーフガードは対象品目によって3つの種類に分かれており、ウルグアイ・ラウンド合意で関税化された「農産品」を対象とする"特別セーフガード"、 「繊維」を対象とする"繊維セーフガード"、「すべてのもの」を対象とする"一般セーフガード"。

注6:EDI(Electronic Data Interchange
受発注データなど、通常は伝票などに記入する商取引関係の情報を標準的な書式に統一して、電子的に交換する仕組み。
2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
(株)カヤバ 作成者:(株)事業開発推進機構
      土肥 建夫
ITC認定番号:0009732001C
作成年月日:2002年8月1日
1.業界概況と同社の特徴

(1)業界概況
 ① 系列・階層化した業界
 給油所は、系列・階層化が非常に進んだ石油業界に属する。石油精製・元売り企業を頂点に、系列特約店(→副特約店)→個別給油所という業界構造が形成されている。 給油所は、一般消費者と直面する業界の基盤を構成している。 (図表1.ガソリンの流通経路)

 ② 規制緩和の進展と業界再編の動き
 石油業界は、近時規制緩和の強い影響を受けている。昭和40年代後半のオイル・ショックや湾岸戦争もあって、従前、石油の安定供給に主眼が置かれていた。 だが近年では、慢性的な供給過剰や業界全体・給油所に係る規制緩和に伴って、業界再編が進んでいる。

 ③ 価格を中心とした過当競争
 規制緩和や業界再編に伴い、競争が一層熾烈化した。日本の給油所数は6万軒弱と、人口対比で欧米諸国の倍から3倍と格段に多い。
 給油所の取扱商品や販売施設に関する規制が緩和されたとは言え、基幹商品はガソリンで、商品面での差別化は難しい。結果、価格を中心にした過当競争が熾烈化する。 給油所数ではあまり変化が見られないが、体力の無い給油所が廃業を強いられたり、有力事業者の傘下に組み入れられたりしている。(図表2.給油所数の推移)

 ④ 系列制度の崩壊
 規制緩和に伴う他系列への移籍の自由化等は、系列制度を崩壊させた。給油所は基本的に低収益のところが多い。 従前元売りは、販売量や給油所の損益分岐点を考慮して事後に仕入れ代金の一部を戻し入れる「事後調整値引き」で給油所を支援してきたが、 近時はそれだけの余力がなくなってきている。
 転籍ルールによる縛りもなくなった個別給油所は、より有利な取引条件を求めて他系列に移籍したり、系列以外の業者や同系列業者から正規ルート以外で 供給される商品である、いわゆる"業転玉"を組み合わせた自主的な展開を指向したりせざるを得ない。系列制度の崩壊は、急速に進んでいる。

 ⑤ 収益多角化の指向と多彩な業態の誕生
 長年の過当競争状況、元売りによる支援レベルの低下で、給油所は従前の元売り支援に依存したものとは異なる、新たな事業構造を模索することが必要となっている。
 今回の事例のように自動車整備事業と組み合わせたり、コンビニ等を付帯したり、セルフ給油形式にしたりする例が、多くなってきている。

(2)同社の特徴
 ① 概 要
 ㈱カヤバの概要を見る。平成12年度の資本金は6,500万円、従業者数は30人、売上高は13億円で、新潟市善久に本社を置いている。
 昭和38年10月の創業で、現在社長を務めている萱場和彰氏は創業者の実子で2代目である。
 同社は昭和シェル石油の特約店である。今回取り上げる同社が基幹事業とする給油所の他、事業所や一般家庭を対象としたガソリン・灯油等の 石油製品の卸・小売、道路舗装用アスファルトの販売、情報化教育の4種の事業を展開している。

 ② 競争熾烈化に的確に対応し、経営多角化に注力
 同社でも、規制緩和に伴う競争熾烈化の下、安売り販売で給油量を増やし、仕入れ条件の改善を図る試みも行った。だが経営者は、価格競争の限界や危うさを、 的確に見極めていた。
 こうして給油所を軸に、急速に経営を多角化していく。まずは車検事業に取り組む。続いて給油や車検の際に得られる顧客情報を活用した、 きめ細やかなサービス・販促へと進んできた。

 ③ 「カーポータル~町の車の診療所~」をコンセプトに多彩な事業を統合
 同社は従前からの給油事業、車検事業に加えて、最近では塗装事業、修理・整備事業、洗車事業、保険事業を多角的に展開している。 たとえ関連した事業領域とはいえ、これだけの事業を展開するとなると、事業間の馴染みが悪くなったりして、問題が起きることもある。
 同社の場合、「カーポータル~町の車の診療所~」をコンセプトに掲げ、相互関係の整理・統合を図り、事業間の相乗効果の醸出に努めている。 やや言葉遊び的ではあるが、例えば車検は定期検診、塗装は整形外科、修理は美容整形とする等、社内外の誰もが個別事業をイメージし易くなっている。 (図表3.同社カーポータル事業の概要)

2.同社の情報化への取り組みに関して評価すべき点

(1)全社的経営の視点
 ① 顧客指向の時代潮流に適合した「人中心のサービス」への転換
 長期化する不況、デフレの進行等に伴って、製造から販売までの多くの業界で、顧客指向が高まっている。
 こうした中、同社でも、POSデータ・ミラーリングデータ・車検データ等の経営資源を評価・活用した。経営理念・戦略の主軸として「人中心のサービス」を掲げ、 従前、バラバラだったこれらのデータを、データベースによって統合、顧客指向を徹底しようとしている点は、大いに評価すべきである。

 ② 経営理念・戦略への位置付け
 「情報化は情報化」という、部分的な対応がなされることが多い。結果、関連部門や担当以外は、情報化の意義・必要性等への理解を欠き、 全社的に充分な効果を上げることが出来ないことがある。
 同社の場合、「人中心のサービス」という考え方を、多様な事業展開のテーマとして織り込んでいる。併せて給油事業の多角化を進める際にも、 「カーポータル~町の車の診療所~」という、誰でも理解し易いコンセプトを設定している。こうした経営理念・戦略への的確な位置付けや、 わかり易い形での全社への広報・浸透・社員の啓蒙が、好結果に繋がってきた。

 ③ マクロ的視点からの経費効果の検討
 今回の事例中、経費に係る効果の検討・見直しが触れられている。具体的には、対象層の選定や目的が曖昧なままの販促費を縮小し、 優良顧客へのきめ細やかな対応へと切り替えたことである。
 経費、特に販促費等、直接的な効果を定量的に測ることが難しい経費については、聖域化させ、縮小させられぬままにしてしまうことがある。 こうした領域に経営理念や戦略を軸に踏み込み、効率的な経費配分を実現している点は注目すべきである。

(2)積極的な情報収集、充分な検討・導入手続き
 ① 積極的な情報収集
 同社ではカーケア・ナビゲーション・システムを、経済産業省の補助金を活用し、開発している。こうした取り組みは、同社の積極的な情報収集の成果と言える。
 同社は、社長がITSSPの経営者交流会に参加している。補助金情報も、こうした機会に得られたものである。更に、ITコーディネータや専門コンサルタントからも、 様々な情報の収集に努めている。

 ② きちんとした要件定義と、背景にある「ソフトは有償」との考え方
 中小企業が情報化に取り組む場合一般的に、自社の経営資源や成熟度等に照らして、どの位の水準のシステムが必要か、 入力するための仕組みや出力される画面・帳票等は、どのようなものが良いか等の要件定義は軽視されがちである。ところが同社の場合、 ITコーディネータ等を含めた社内外の人材を毎回8人位、80時間程度も使い、経営課題や保有する経営資源を的確に踏まえた要件定義を行っている。 これによって、使い易い見積書、精算書、受注確認書、入力画面等の実現を図っている。
 厳しい経営環境下、情報化や経営全般の改善についても、より高次で専門的な知識・ノウハウが必要となる。こうした意味でも、ソフト部分にも充分な資金を投下し、 きちんと効果を測定しながら、高い投資対効果を得ていくという、同社の姿勢は評価し得る。

 ③ 専門コンサルタントによる充実した教育・研修
 システムは人材あってこそ、充分に機能する。同社の場合、人材の重要性や教育・研修の必要性を強く意識している。
 人材研修のため、自社の経営課題・システムに合った専門コンサルタントを参画させている。コンサルタント等を活用して、 顧客満足向上のための充実した研修が行われている。

(3)経営者の主体的・積極的な参加
 ① プロジェクト・オーナーとしての経営者の関与
 経営者自らがプロジェクト・オーナーとして積極的に関わって、経営理念・戦略を踏まえた取り組みとしての推進に努めている。

 ② 専従担当者の存在
 経営者だけでなく、専従の担当者の存在も重要である。専従担当者が専門的立場から関わると同時に、経営者が積極的に参画し全社的な見地に配慮することが、 プロジェクト推進上効果的である。

3.同社の課題

(1)全社的経営戦略再構築による、副次的事業領域との相乗効果醸出
 同社は事例で紹介されている給油から派生した自動車関連の事業の範囲内では、「カーポータル~町の車の診療所~」というコンセプトの下、 巧みな経営が推進出来ている。ところが同社はこれ以外にも、石油製品の卸・小売、道路舗装用アスファルトの販売、情報化教育等の事業領域を要している。
 同社が重要視している顧客指向を徹底すれば、これらの領域でも競争優位を確保するような経営が出来ると思われる。だが、円滑な推進のためには、 これら副次的事業領域までを包含した、全社的な経営戦略の再構築が期待される。そうした戦略の下、最適な経営資源の投入や事業展開があってこそ、 各領域・部門間での相乗効果の醸出・最大化が実現するものと思われる。

(2)新たな経営戦略に合わせた情報化戦略の再構築
 (1)のような全社的な経営戦略の再構築が行われた段階で、これを踏まえて情報化戦略も見直し・再構築を行っていくことが期待される。 ポイントとなるのは、カーポータルとそれ以外の事業領域とをどのように連携し、全社的な相乗効果を生み出していくかということと考える。

(3)継続的な環境変化の展望と主体的な対応
 同社の成功の大きな要因は、給油事業や車検事業に係る規制緩和という大きな事業環境の変化を早めに睨み、的確な対応を行ったということである。
 最近では、事業環境が変化する速度はこれまでにも増して著しく、規制緩和も一層進みつつある。こうした状況に鑑み、事業環境の変化を巧みに見極め、 給油事業の多角化を急いだように、今後についても的確な環境分析と主体的な対応を心掛けていくことが望まれている。


参考文献・ホームページ

日本エネルギー研究所ホームページ
  http://www.eneken.ieej.or.jp/

カヤバ(株)ホームページ
  http://www.kayaba.co.jp/

2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
シャボン玉石けん(株) 作成者:(株)事業開発推進機構
     土肥 健夫
ITC認定番号:0009732001C
作成年月日:2002年5月10日

1.業界概況と同社の特徴
(1)業界概況
 ① 比較的堅調も景気低迷の影響
 石けんは、民生用から工業用まで、非常に多彩な製品を擁し、国内消費高では8百億円規模の業界と言われている。民生用は生活必需品であり、景気低迷下でも消費が激減することはない。また工業用でも、用途が製造・加工・流通過程の一部を構成するものであることも多く、比較的需要の変動が少ない業界として知られていた。
 しかしバブル崩壊以来の長期的な景気低迷で、全体的な市場規模を縮小してきている。
(図表1.国内石けん消費高の推移)


 ② 製造技術・工程が比較的近似
 石けんは、主原料である各種油脂類を溶解・攪拌し、副次的な原料である香料等と混合し、最終製品としての形状に仕立てるという製造工程を有する。
 従って原材料や最終製品としての仕上げ方法に差異こそあれ、基本的な製造技術や製造工程については、比較的似通っている。
(図表2.参照)


 ③ 流通チャネルやブランド・イメージが競争力の鍵

 石けんは前述のような特性から、製造・販売する企業や製品自体の競争力は、以下2つの要因の影響を受ける。
 まずは、企業として有する川下過程の流通チャネル・販路の規模・強さである。他は特に民生用製品についていえることであるが、企業や製品自体が有するブランド・イメージや知名度の高さである。

 ④ 中小企業性

 石けんは、それほど高度な技術や高額な設備を必要とせずとも製造が可能である。従って、業界には中小企業が多い。
 平成12年の工業統計調査で該当する「化学工業」について、試みに中小企業基本法で中小企業の要件の一つに該当する「従業者数300人」を区切りに見てみる。
(図表3.参照)

 事業所数では実に96.3%を中小企業が占めている。但し出荷額等については、大手が規模の利益や販路の広さ・強さを生かして圧倒的優位にあり、300人未満の中小企業の出荷額等は52.0%に留まっている。中小企業の中には、大手製造・販売業の下請け的な役割を担っているものも多い。

 ⑤ 製品特性
 石けんについても様々な分類がある。ここでは、用途別に「浴用石けん」・「洗濯用石けん」・「粉末石けん」・「その他石けん(繊維用・工業用等)」の4種に区分して、概況を見る。
(図表4.石けんの用途別生産額の推移)

 生産額ベースでみると、浴用石けんが全体の8割以上と大半を占める。しかし時系列的にみると、浴用石けんも含め、全体的に生産額は頭打ち傾向にあり、生産額はここ10年間で4分の3の規模にまで縮小してきている。

 ⑥ 原材料確保・開発が課題
 石けんの主原料となる油脂類の内、比較的高比率を占めるパーム油脂については、大消費国の商社による買占めや、資源自体の絶対量の減少等もあって、原価の高騰が起きてきている。牛脂についても、BSE問題以降は、消費者の不安が強く、使用を手控える企業も多い。
 こうした課題に対応するため、各企業では油脂類の新たな調達ルートの確保や先買い等によって、原価の維持・引き下げに努めている。意欲的な企業の多くは、こうした対症療法的な対応に留まらず、積極的に新たな原材料の開発等に努めている。中小企業が複数で、公設試験研究機関や大学等を媒介に、共同して研究・開発を進めている例もある。

(2)同社の特徴
 ① 概 要
 シャボン玉石けん㈱の概要を見る。平成12年8月期の資本金は3億円、従業者数は121人、売上高は57億円で、北九州市若松区南ニ島に本社を置いている。
 昭和24年5月の創業で、現在社長を務めている森田光徳氏は創業者の実子で2代目である。
 同社は基幹企業であり、製造を主務とする「シャボン玉石けん㈱」、販売を担う「シャボン玉販売㈱」、通販に当たる「㈱シャボン玉本舗」、企画を担当する「(有)シャボン玉企画」の4社でグループを形成する。平成11年9月には、グループ4社でISO14001を認証取得している。

 ② 時代潮流を敏感に読み、隙間市場に参入
 同社は当初、合成洗剤の製造・販売業からスタートしている。昭和49年、販売先の一つであった国鉄から、合成洗剤で車両を洗浄すると腐食が早いため、天然素材産に切り替えるよう打診される。
 これを天然素材・環境指向・健康指向の萌芽と敏感に読み取った現社長が、当時主力であった合成洗剤から、無添加・天然素材のみの製品の製造へと、大胆に方向転換していく。そして社長自身の肌のトラブル・湿疹に効果があったという経験を医学的にも理論付けて、ブランド・製品浸透までの17年間にも及ぶ損失計上期を乗り越えて、以前では考えられなかった「無添加・天然素材」・「アトピー・湿疹対応」等の隙間市場を、本格的に開拓し成長していく。

 ③ 直販主体、通販や電子商取引への積極的対応
 石けん製造業は前述したように、広範で強力な販路の有無が業況に大きく影響する。同社の場合、「中小企業であったこと」や「隙間市場を狙っていたこと」もあって、販路に恵まれていたとは言えない。
 こうした状況を逆手にとって、同社は直販体制を重要視していく。昭和50年には、新たな戦略製品と期待しながら川下工程の流通チャネルの理解不足から充分な売上を確保することが難しかった無添加・天然素材の石けんの直販・販促等のためにも、通販等を担う(株)シャボン玉本舗を設立する。
 現在では、こうした体制が、電子商取引等を積極的に展開していく上でも役立っている。

2.同社の情報化への取り組みに関して評価すべき点
(1)当初からの目的イメージが段階的に明確化
 ① 売り上げの伸びへの効率的対応による機会損失・顧客不満足の回避
 同社では、無添加・天然素材の石けんの価値が市場に理解されるようになるにつれ、受注が急増する。ところが損失が累積していた状況ゆえ、従業者も限られ、迅速な顧客対応が不可能であった。
 同社では「限られた人員での効率的な事務処理」・「受注機会の損失、顧客不満足の回避」等の経営課題を的確に抽出し、そのための情報化という、明確な目的イメージが存在していた。

 ② 顧客管理の徹底
 同社では、単に受発注業務の効率向上に留まらず、顧客管理を徹底して重視している。従って、当初導入されたCTIシステムについても、"コンピュータと電話との統合"という狭隘な範囲での活用に留めず、得られた顧客データを積極的に次の展開につなげていこうとの考えがうかがえる。
 具体的には、得られた顧客データから顧客ごとの購買頻度を算出し、再購買が期待される顧客に対して電子メールを活用して販促を打って行く等である。

 ③ 電子商取引への展開
 同社では、隆盛となりつつある電子商取引についても、積極的に取り組んでいる。従来からの通販に比べればまだ規模は限られているようであるが、直販に注力してきた同社の従前の豊富な経験を生かすことで、今後高い成果を収めていくものと思われる。

 ④ 全社的な戦略的経営の推進
 同社では、単なる情報システム導入による業務効率化の範囲を超えて、戦略的経営を企図した取り組みを進めている。顧客管理の徹底や、得られた情報を活用した積極的な販促等は、その一環である。
 今後、きちんとした経営戦略の下、こうした取り組みが統合・整理された上で推進されれば、同社の一層の発展が期待される。

(2)充分な導入期間
 ① 試行錯誤

 同社では、平成3年頃に顧客からの受注への対応や業務煩雑化が問題となった。以降、平成8年前後のシステム導入発意まで、様々な対症療法的対応を行ってきている。
 こうした試行錯誤の経験が同社にとっての貴重な財産となり、"情報化=機器・システム導入"という短絡的な発想に留まらない、「経営と情報化との連動」を強く意識しての展開が図れたものと思われる。

 ② 準備期間の長さ

 同社では平成3年頃から平成8年前後までの数年間、試行錯誤しながらシステム導入を検討していた。通常、目の前の経営課題への対応を強いられることから、システム構築等のための期間は相当程度圧縮されがちである。
 ところが同社の場合、平成9年にCTIシステムの導入を決定するが、一年程度の充分な準備期間を掛けている。こうした準備期間が、経営課題への対応、利用者の意向の反映、ベンダーの実力発揮等に奏功したものと思われる。

(3)手作り型・不断の更新
 ① 手作り型
 同社では、システム導入を大手ベンダーに依頼している。しかしベンダーに任せ切るのではなく、新入社員からベテラン社員までがシステムへの意向・期待を表明し検討する等、全員参加の手作り型でシステムを構築している。
 こうした姿勢が、同社に利用し易いシステムをもたらすこととなっている。

 ② 不断のシステム更新
 同社では、当初段階で当時の経営課題に応える、単純な顧客対応システムとしてのCTIや受発注伝票の発行が可能な状況を作り上げている。
 同社はこの状況に甘んじず、ベンダーの協力を得てDM兼用伝票発行、電子商取引との連携へとシステムを更新・拡充してきている。こうした不断のシステム更新が、同社の成長を支えている。

(4)確認可能な効果
 ① 本来的な業務効率化の実現
 現在、同社への注文等のための顧客の電話は、一日当たり400件から多い時には600件にも上る。こうした多数の受注に、迅速・的確に応えられているということが、本来的な経営課題である業務効率化の実現という効果として確認することが出来る。
 同社では、業務が集中するお客様相談室等の販売部門について、最近では「残業0」を多数実現しているという。人件費削減面での効果も大きい。

 ② 社員の意識改革
 同社ではシステム導入と前後して、顧客対応・受注担当の社員に対して、「コールセンターのオペレータは全員が営業社員」という意識を徹底している。
 好業績や顧客からの良好な評価もあって、社員の意識改革は順調に進んでおり、モチベーションも高まっている。

3.同社の課題
(1)システム全体としての再編成
 ① 段階的なシステム更新

 同社では業務煩雑化への効率的な対応を端緒として、成長過程に応じた経営課題に則して、段階的にシステムを積み上げ的に更新・拡充してきた。
 これによって、経営状況に合ったシステムを維持してきている。反面で、各段階ごとのシステムの整合性等が、将来的に問題となる可能性もある。

 ② システム全体としての再編成
 こうした問題を顕在化させないため、システム全体としての整合性の全体的な見直し、必要に応じての再編成が期待される。

 ③ 前提としての全社的な情報化戦略の再構築
 システム全体としての整合性や再編成を行う前提・基準として、急成長による現在の経営規模・資源・体制・課題等を反映した、全社的な情報化戦略を再構築することが望まれる。

(2)戦略的情報活用
 ① 得られた情報の多面的な活用
 同社には、顧客データ・販売データ等、経営に有益な多彩なデータが蓄積されている。一例として顧客データでは、既に15万人前後の蓄積がなされている。

 ② 販売部門での活用

 蓄積されたデータは、一義的には販売部門で有効に活用される。この辺りについては、今後システムをアウトバウンド型にしていく上での課題となっている。

 ③ 販売部門以外の部門との緊密な連携
 同社の場合、得られた情報をさらに基幹業務である生産管理や、在庫管理・財務管理等のスタッフ業務に対して、販売によって得られた顧客の嗜好、売れ筋、要望・要改良点、的確な生産・在庫規模等の情報を、随時フィードバックしていくことが望まれる。
 これによって、単なる販売部門での効率化に留まらない、戦略的な情報活用型経営が実現する。
(3)コアコンピタンスの見極め
 ① 製造・企画の一層の強化
 同社のコアコンピタンスは、あくまでも「質の良い石けんの企画や製造」である。CTIシステムによる効率的で緊密な顧客対応は極めて重要であるが、同社の優良な製品があってこそ、その価値を最大限発揮し得るものである。

 ② アウトソーシングも検討
 CTIシステム等を通じて得られたデータの分析、システムや極端な場合にはコールセンターの維持・管理についても、費用対効果を確認し、アウトソーシングの是非を検討することが考えられる。

4.今後に向けて
(1)次段階への経営戦略の構築、KGI・KPIの設定
 ① 経営戦略の再構築
 同社は急速な発展に伴い、システム導入が問題となった当時と比較して、経営に関する状況も激変している。現在の状況を再評価し、新たな将来展望を行い、全社・全グループ的な経営戦略を再構築することが望まれる。
 特に既に着手している電子商取引や、CTIや販売の領域を超えたERP的な展開について、全社的な位置付けが期待されている。

 ② KGI・KPIの設定
 経営環境は非常に早いスピードで激変している。将来展望も難しい。だが同社では従前から時代潮流を見抜き、苦しみながらも柔軟に対応してきた。
 こうした経験を有する同社ゆえ、経営戦略立案時に的確なKGI・KPIを設定し、変化する状況とこれに対する自助努力を随時チェックすることで、現在の成長基調を維持していくことが望まれる。

(2)本格的なCRMへの展開
 ① 超CTI
 同社の展開は、現状狭い意味でのCTIを超えて、情報活用型顧客管理・販売管理の時限に達している。一方、時流は、生活者指向の重視が言われ、CRMのような緊密な顧客対応型経営が指向されている。
 こうした状況下、同社でもDWH・MDB等の組み合わせ・拡充によって、CTIからCRMへの発展を図っていくことが望ましい。特に、既に相当の会員数を擁する「友の会」等を基盤とした、プッシュ型・アウトバウンド型の販促については大きな可能性を有するものと思われる。

 ② 情報を利活用した、他事業者との共同事業
 得られた情報については、自社・グループ内での活用に留まらない。プライバシーの問題に配慮しつつ、同社・製品に係る各種モニターや調査の結果を、社内外の事業者の新製品開発・サービス改善等のための貴重な情報としてフィードバックしたり、共同で研究・開発を行う等、新たな展開も期待される。

(3)ERPの導入、販路とのネットワーク
 ① ERPの構築
 本格的な展開ということになれば、戦略的な情報活用型経営に資するようなERPの構築等が待たれる。投資対効果の点から厳密に検討してERPの導入ということになれば、販売だけでなく生産管理・在庫管理・財務管理等とのデータベース間連結を実現し、情報化の効果を最大化していくことが可能となろう。

 ② SCM的な展開
 売上規模・販路が一層の拡大をみせるようであれば、原材料納入業者・運送事業者・卸売り先等、流通チャネルを構成する他事業者との間で、SCM的なシステムを構築し、顧客対応の緊密化、経営効率の最大化を図っていくことも望ましい。







2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
(株)カナジュウ・コーポレーション 作成者:SCMシステムサービス(株)
     新野 昭夫
ITC認定番号:0004762001C
作成年月日:2002年4月30日
1.業界の概観
 カナジュウのコアビジネスであるプロパンガス販売はエネルギー供給の一端を担っている。エネルギー供給では電力業界、石油業界、都市ガス業界という大企業が占める業界と競合関係にある。一方プロパンガス販売業界は中小企業が大多数を占める。
 平成11年度版総合エネルギー統計によれば日本で使われるエネルギーの内天然ガスは12%を占めている。石油52%、石炭16%、原子力14%に次いで第四位である。(*1)
 ガスの販売量は図1に見られるように全体では伸びが著しいが主として工業用と商業用とがリード役であり、家庭用は横這い状態である。(*2)

 家庭用については市場が成熟状況にある上に都市ガス業界との競合にもさらされている。
更にエネルギー供給業界としては供給保証、需要開拓、保安確保の三要素が必須項目であり、中小業者といえども保安確保を疎かにはできない。業界全体の信用向上の為に日本LPガス連合会は料金適正化や保安向上に業界を挙げて取組んでおり、 日本LPガス団体協議会は平成9年7月に「LPガス産業行動憲章」を公布してプロパンガス販売業者のビジネスの規範としている。(*3)

2.カナジュウのビジネスの特色
 主要顧客層には個人の持ち家、借家を据え、きめ細かいサービスを行って来た。どちらかというと大量消費と共にディスカウント率の高い大企業法人向けよりも個人に重点が置かれ、例えばタクシー用プロパンのガスステーション営業などは行っていない。 営業地域の神奈川県西部及び町田は人口増加率、住宅増加率の全国平均に対して大きい地域であり、都市ガス業者との競合も厳しい地域でもある。
 カナジュウの営業目的は上記の会社紹介にある通りガス販売と密接な関係があり、ガス販売から派生するサービスを充実させるビジネスとなっている。「情報システムのソフトウェア、サービスの企画開発」はガス販売からはかなり離れた関係に見える。 ソフトウェアが営業目的となったのは、自社の経営ノウハウを公開してでも同業他社の経営向上を支援したいというトップの思いによるものである。電力・石油・都市ガス業界との競合にさらされているプロパンガス業界の信用向上は自社単独では不可能である為である。 基本的には自社で苦労して創造し、実践してきたビジネスモデルの結晶としてのソフトウェアである。ITツールとして広くガス販売業者に応用可能であり、顧客満足度向上と企業体質強化とを実現するソフトウェアである。東京都・神奈川県の同業社に導入されている。 各社では、各社の経営形態に合わせたチューニングがカナジュウとカナジュウ提携先ソフトハウスの手によって行われ使い勝手の良いツールとなっている。(*4)

3.カナジュウのITの展開
 カナジュウはアウトソーシングとIT活用によってガス販売関連のコアビジネスに経営資源を集中して少数精鋭の会社を経営している。バランススコアカードの各視点を切り口として見る場合、顧客の視点に最重点に置き、 外部の経営コンサルタントやITコンサルタントの智恵を活用して社内ビジネス・プロセス改革の視点から改革を実現し、学習と成長の視点では社員がコアビジネスに専念して時流に合った営業活動が行える態勢を築き上げている。
 IT化に当っては社内に情報システム専門家を置く代わりに社外のIT専門家をコンサルタントとして起用して、同時期に契約していた経営コンサルタントとも連携を取りながらPCによるIT化を進めた。
 カナジュウのIT化の歴史はオフコンによる基幹系システムの導入から始まった。その後、経営トップ自ら情報共有化をペーパーレスで実現したいという強い意思で、OA化のツールとして当時ワード・エクセルが使えて、 マウスによるドラッグができるMACを導入して先進的な社員の間で試行された。一方、経営者はインターネットの将来性に早くから着目して、ホームページを開設して、お客様に広く情報提供を行った。 その後ウィンドウズが広く世間的に普及したところで、ウィンドウズにPC環境を切り替えて、徹底的なペーパーレスを行い且つ社員の情報共有を進めている。又、お客様との情報の共有化はSFA(注1)の観点からCRM(注2)の構築の段階に入っている。 更には、前項で述べた通り自社の情報処理を実践した結果のノウハウの結晶であるソフトの外販に踏み切り、同業他社の経営向上にも寄与している。
 自社のビジネスモデルとも言うべきソフトウェア販売ができるのは経営のコアの部分について他人の真似できない絶対の自信もあってのことと推察される。 これは多分経営者と社員の間の情報共有や合意形成について学習と成長の視点に卓抜した優位性をもっているので社内ビジネス・プロセスの視点のノウハウを開示できるのだと考える。
 PC展開時期にITコンサルタントを外部へ依存するのに不便だと感じたのはIT専門家が何れかのメーカー或いはメーカー代理店に属していて中立的存在を求めることが困難であったことである。 トップがITコーディネータ制度の創設に当って関係機関に積極的に支援を惜しまなかったのはこの体験に基づくものと推察される。

4.将来の商品戦略
 カナジュウはガス販売のコアビジネスに経営資源を集中して今日を築き上げている。既にガス検針、ガス配送、など個別のビジネスユニットについて自社幹部をヘッドとする分社にアウトソーシングして、プロフィットセンターの独立性と意思決定の迅速性を高めており、 商品の形態が変化しても対応可能な体制を整えていると思える。ビジネスの担い手としては少数精鋭の社員が学習と成長の視点から見て絶えず専門知識を身につけて存在する。今後もガス販売にこだわりをもってビジネスを展開されるという前提で近未来に経済的優位性を確立しそうな商品について付言する。
・燃料電池
 エネルギー源としてのガスは単なる燃料から今や自動車会社始め産業界で激烈な開発競争を繰り広げている燃料電池原料の選択肢として焦点が当っている。家庭用の発電ユニットの技術が経済性優位を確立するのは自動車用より時期が遅れるといわれているが分散型発電装置としての決定打となる。 ガス需要量については電力にとって代わる分だけ、従来の量以上に増大する。(*5)
・GHP(ガスヒートポンプ)
 家庭用としては燃料電池に先行してGHP(ガスヒートポンプ)のシステムが経済優位性を確立して商品化して行くのかも知れない。(*6)
・天然ガスハイドレート
 場合によっては、日本が世界に先駆けて技術を完成させた天然ガスハイドレート製造及び運搬技術の応用によって、ガスをキーワードに最上流の原料調達(製造)過程から消費までの一貫体制を確立して行けるのではないだろうか。(*7)

5.参考資料
*1 日本のエネルギー事情 茨城県 総合エネルギー統計 図2-1
   
http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/seikan/gentai/chishiki/02ima/01.htm
*2 財団法人 日本エネルギー経済研究所 都市ガス需給統計
   
http://eneken.ieej.or.jp/statistics/index.html
*3 LPガス業界の軌跡をたどる20世紀物語 小売編
   
http://www.sekiyukagaku.co.jp/20thstory.htm
*4 中小企業ITフェア カナジュウ
   
http://www.h-wired.com/itfair/jiturei/page11.html
*5 燃料電池 (サイトの一例)
   
http://www.nissekigas.co.jp/fc/index.htm
*6 GHP(ガスヒートポンプ、ガス冷暖房) (サイトの一例)
   
http://www2.aisin.co.jp/life/ghp/
*7 三井造船2002/01/15ニュース 世界初天然ガスハイドレートペレット製造
   
http://www.mes.co.jp/news/20020115.html

注1:SFA(Sales Force Automation)
お客様との直接の接点である営業部門、および営業担当者の情報武装化のこと。最先端のIT(情報技術)を利用して営業生産性を大幅に向上させることが、その目的である。
従来の営業部門向けシステムとの違いは、単なる実績管理や顧客分析にとどまらず、他部門との連携も視野に入れた「営業活動全体」を支援することにある。
総合的な営業活動の強化により、顧客満足度(CS)および従業員満足度(ES)の向上を図り、それが売上・利益の拡大に結びつくのである。

注2:CRM(Customer Relationship Management)
顧客関係性のマネジメント:顧客に接するマーケティング、セールス、サービスの活動を、顧客戦略、インサイト(知恵)の下に統合的に活動・運用しようとするもの。
店舗、直接営業、代理店、電話、インターネットなど様々な販売チャネルを通じた顧客のコンタクト(接触)や取引の履歴情報を一元管理し、個々の顧客に最適な対応を実施することにより、顧客維持率を高めるという概念である。
2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
(株)ショウエイ 作成者:佐藤 晋治
ITC認定番号:0009062001C
作成年月日:2002年8月26日
1.はじめに
 右肩上がりの成長が止まり、企業には停滞感が広がっている。しかしそのような中においても成長発展している企業はある。 成長発展している企業に見られる特質は何であろうか?その問いかけに一定の解を与えているのがここに取り上げた(株)ショウエイ(以下当社と略称)の事例である。 当社の経営の特質は、常に市場環境の変化を先取りし、顧客ニーズを探索し、自社の強みを発揮できる領域を探索し、その領域で競合優位の条件を明確化し、 それを着実に実践していることである。そして今新しい事業への挑戦が行なわれている。

2.当社成長の要因
 図1に参考資料を元に当社の企業沿革をまとめた。縦軸に年代、横軸に法人形態、新規事業分野、事業形態、新製品、資本金、IT化、IT化目標を項目として取り上げた。 当社30年の歴史を概観し、優良企業として発展成長の要因を分析してみた。
 次の3つの成長要因を挙げることが出来る。
 ・新規事業開拓による挑戦
 ・主製品を中核に周辺開拓
 ・売れる仕掛け作りにITを積極活用
これらは統合化されて新規な事業ドメイン(注1)を形成し当社発展の源泉となった。つまり新規事業ドメインの開拓により成長してきたといえる。 以下、各項目についてみていく。



1)当社成長要因:新規事業開拓による成長
 当社の新規事業開拓を図2のように捉えることが出来る。



第一段階 下請け業
 下請け段階で板金、金属加工の技術をベースに事業を行なう。航空機、遊具、水処理などの機械及びプラントメーカが主要な顧客である。
第二段階 ろ過機メーカ(注2)
 ろ過機部品を中心にメーカとして自立、また水処理プラント工事事業を開始した。FRP(注3)製ろ過機と周辺の機械部品をベースに事業を行なう。 顧客は水処理機械、水処理プラントメーカである。
第三段階 プール・温泉施設工事業
 ろ過機メーカとしてまた施設工事のノウハウの蓄積からプール・温泉を企画から施工運営までトータルとしてコーディネートする。 顧客に旅館・ホテル、学校などの公共施設の施主が加わる。
第四段階 プール・温泉施設サービス業(温泉に関するトータルプロデュース)
 さらにコーディネートの経験から一般消費者向けのオリジナル露天風呂販売を開始した。顧客に一般消費者が加わる。 また、全国に設置した数千台のろ過装置をネットワークにより常時看視するサービスの提供を計画している。

2)当社成長要因:主製品を中核に周辺開拓
 創業以来、自社のコアとなる部分を中核にして事業を展開している。
中核製品を市場に出す上で必要な製品を開発して周辺を固めながら事業を拡大させてきた。すなわち、基幹技術から基幹ハード部品、装置、システム、 システムコンテンツの流れである。
 当社事業の揺籃期においては下請け・金属加工を通じて様々な企業との付き合いがあった。この段階では独自製品を保有しておらず もっぱら加工技術を軸としたものであった。"町工場からメーカーへ"の模索の段階で、自社技術を顧客ニーズに生かせる製品の絶えざる探索があった。 このような状況の中で"腐食しない軽い素材、FRPを使ったタンクの開発"のチャンスをつかんだ。これをきっかけにFRPろ過機シリーズ、 これらを元に環境ろ過装置、水処理ろ過装置を開発した。ろ過装置をベースに温泉・プール施設の工事を行い、その過程でFRPヘアキャッチ、多目的タンク、 EP製電動五方バルブ、耐熱耐食性熱交換器など水処理ろ過施設の基幹部品・機器を製品品目に加えている(図3参照)。
 ろ過装置段階を経てろ過システムの性格を強くする水処理施設建設のノウハウを生かして温泉システムなどのトータルコーディネートなどの コンサルテーションを事業に加えている。
 さらにリラクゼーションを提供するパッケージ型露天風呂販売へと事業を拡大させている。

3)当社成長要因:売れる仕掛け作りにITを積極活用
 IT活用能力が当社のコア・コンピタンス(注4)をなしている。特に販売する上での顧客への接近、競合優位形成に役立てている。
・中核製品のFRP製ろ過機の販売を支援する為の強力なツールとなっている・・・見積もりソフト。
・業態の変化に対応して業務システムを変革させる上でITを上手く活用している・・・提案システム、いつくしみ21。
・ITの可能性、特徴を元に新規業態を創出している・・・いつくしみ21、いつくしみ21CD。
・日常の業務の中に使いこなされ、絶えず改良が施され生きたソフトと成っている・・・見積もりソフト。
・明確な目的意識を持って自社にあった業務ソフトをつくっている。ITベンダーへの的確な仕様要求をおこなっている。
・ITベンダーを自社の有効な経営資源として戦力化している。

3.新しい事業ドメイン
 近年、当社の事業計数に大きな変化が見られる。図4に示す。又、事例で述べられている「いつくしみ21」が姿を現しつつある。 これは、当社が新規な事業領域へ歩を進めているものと捉えられる。すなわち、当社は顧客をメーカや旅館・ホテルの施主から一般消費者へと拡大させていること、 製品にCDコンテンツを加えたことにより、当社自身が温泉環境ろ過機というハードのメーカから「ハードとソフトを併せて提供する」温泉ソリューションサービス業の 性格を帯びてきている。

1)事業計数
 1990年10百万円の資本金は、2001年10月には70百万円と大幅に増加している。1997年25名の人員は、 2001年には74名とこれも大幅に増加している。新人の採用状況は、2002年6名と旺盛な採用を行なっている。又、文系への重点的な採用を行なっている。
 売上については1996年の売上7.8億円から2001年には11.45億円と年平均10%に近い伸びを確保している。 このようにヒト、カネなど経営資源の大幅な投入が見られる。一方、売上に関しては、着実な伸びのなかに人員比に見られるように厳しい面も伺われる。

2)いつくしみ21
 いつくしみ21は、一般消費者にインターネットを通じて露天風呂のパッケージを販売しようとするものである。新しい事業ドメインを (①顧客:一般消費者②顧客ニーズ:自宅で露天風呂を楽しみたい③コンピタンス:高性能循環ろ過装置、ホテル旅館で築いた温泉システムのノウハウ、IT活用能力) と捉えられる。ビジネスプロセスは当社HPによると①イメージ作り(インターネットで露天風呂の購入者が自分の好みの露天風呂選定し見積もりを行なう) ②現場打ち合わせ(設置の現場を下見し、造園・建築設計・建築設備の専門家による打合わせ)③依頼(メールによるやりとり) ④契約⑤施工⑥完成・引渡しというものである。また購入者が好みの露天風呂を楽しみながら設計ができるように「いつくしみ21CD」という 露天風呂創作シミュレーションCDをも併せて販売している。このCDは、露天風呂造りの解説書としてコンテンツそのものとしても楽しめる。

3)BtoCビジネスを推進する上でのポイント
 当社のようなハードメーカがインターネットを活用した一般消費者向けビジネスを展開する場合、留意すべきポイントは何であろうか。以下に若干の考察を加える。

①新規事業の収支ターゲットの明確化
 新規事業を企画する上でどのような事業においても収支ターゲットの明確化は当然のことである。しかし、インターネットを活用したBtoCビジネスにおいては、 インターネット環境の変化スピードが速いこと、一般消費者の顧客範囲を把握することの困難性から特にこのことを強調したい。 本事例の場合"露天風呂の愛好家"という顧客層に対して商品を拡販するのであるが、全国でどの程度の顧客が新規に見込めるか、 それによる収入(付加価値増)がいくら見込めるかが収入計画として明確化されなければならない。一方、顧客獲得の為の仕掛け作りに投資してよい金額が明確化される。 逆にこの投資額で新規顧客増がいくら見込めるか?収支的に勘定が合うか?この収支計算の過程で自ずから実行すべきターゲットが明らかにされる。 収支勘定の厳しいせめぎあいの中に無駄の無い投資が可能になる。また、投資が先行するが短期間内での収支均衡が可能かどうか見ていかねばならない。 環境変化が激しいので長期間での均衡計画は大きなリスク要因となる。
②クリックス・アンド・モルタルへの対応
 多くの成功したインターネットビジネスは、いわゆるクリックス・アンド・モルタル(注5)である。当社のビジネスプロセスモデルにおいても現場打合せ、 施工・引渡しという現実・現場局面がある。インターネットは全国津々浦々へ商談情報を流し、顧客を集めることができるが、 実施局面では全国での現場対応が必要である。仮に商圏を当社の近傍、例えば神奈川・東京に限定すると顧客数は当然少なくなる。 如何にして地域的に広範な顧客に対してビジネスプロセスを実施できる体制を作るかが課題と思われる。
③顧客への接近
 "露天風呂の愛好家"を顧客ターゲットとした場合、この顧客を当社のHPにアクセスしてもらう工夫が必要である。 "露天風呂の愛好家"がインターネットの"愛好家"であるとは限らない。インターネット習熟度が普通の顧客を当社HPまで導く為の仕掛けが必要である。 例えば、"露天風呂の愛好家"がインターネット上で露天風呂の供給者を探すシーンを考えてみよう。まず思いつくのが、ヤフーやニフティなどの検索ページの活用である。 検索ワードに"露天風呂"と入れて探すことが考えられる。この検索ワードで当社HPが一発で見出されることである。 あるいは、インターネット上で掲載されている各種"露天風呂"のHPからリンクされることである。また、温泉旅館、工事業者などからの口コミ、 インターネットのリンクが考えられる。このような、チャンネルを上手く活用することを考える必要がある。 また、当社HPへのアクセス後の顧客あるいは潜在顧客との関係作りが大切である。比較的高額かつ耐久商品なため、 リピート客の確保は困難であるが好意的な顧客を増やし口コミで顧客確保に結びつける方策は有効と思われる。



4.むすび
 成長発展へのキーは、事例に見たように顧客、顧客ニーズ、コンピタンスを適切に組み合わせた事業ドメインの開拓である。 すなわち、市場環境の変化を鋭く捉え、自社の強みを的確に把握し、新規事業領域に大胆かつ堅実に投資を実行してはじめて、 成長発展の果実を得ることができるのである。

[参考資料]
1)事例本文
2)当社HP
  http://www.shoei-roka.co.jp/
3)登竜門企業紹介ページ
  http://www.toryumon.or.jp/
4)2000年80版帝国データバンク会社年鑑
5)2002年帝国データバンク TDB会社情報
6)日本プールアメニティー施設協会HP
  http://www.jpaa.com/
7)日経ベンチャー2002.5 25ページ

[注]
注1:事業ドメイン
 企業の事業活動領域を「顧客・ニーズ・コンピタンス(技術・プロセス能力・人材等)」、という三つの視点から分かりやすく示したものであり、 「組織が事業を営む為に選択し、集中すべき範囲であり領域である」(ITコーディネータ専門知識教材テキスト08 25ページ)。
誰(who)に何(what)を競争優位に奉仕するかという戦略的ターゲットに加え、さらにどのように(how)に競争優位に奉仕すべきかという 戦略上のポジションができ上がるのである。この一貫的なセット策定こそが戦略ドメインにほかならない (現代マーケッティング  198ページ 嶋口充輝・石井淳蔵 )。

注2:ろ過機
 水をろ過して細菌、異物などを除去するものである。当社の事業領域の温泉とかプールを対象したものは、 例えば日本プールアメニティ協会会員企業の各社HPからピックアップすると表1のようになる。


注3:FRP(fiberglass reinforced plastics)
 ガラス繊維・炭素繊維などをプラスチックで固めて成型したもの。軽量で強い。繊維強化プラスチック。
(広辞苑)

注4:コア・コンピタンス(core competence)
 企業が持つ、ライバルが模倣できない自社ならではの価値を創出する重要な能力で、大別して技術ノウハウと事業プロセスにかかわる能力に分けられる。
(知恵蔵2001)

注5:クリックス・アンド・モルタル (clicks and mortar)
 店舗や倉庫などを有するビジネスモデルは「ブリックス・アンド・モルタル(レンガと漆喰)」と呼ばれ、オンラインとは対極の古臭いものと扱われていたが、 オンラインと店舗・倉庫の両方を活用するビジネスモデルが登場し、これが「クリックス・アンド・モルタル」と呼ばれるようになった。
(戦略経営コンセプトブック2002 東洋経済新報社)
2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
ダイカ(株) 作成者:メリットブース
     加藤 雅友
ITC認定番号:0019252002A
作成年月日:2002年5月10日
1.事例の背景
 ダイカ(株)が属する卸売業界においても経営環境は厳しく、生き残りの条件を模索する動きが急である。象徴的な事象として、メーカーに対する総合スーパーや大型専門店チェーン店等の力が強くなり、卸売業を介さない「中抜き」の増加がみられ、販売段階における流通経路の短縮が進んでいる。《図1》

 一方では、卸売業、小売業さらには製造業まで含めて共有すべき課題が増え、協業が活動の前提になりつつある。卸売業に対しても、リテールサポート(小売支援)の強化や、メーカーと小売業の中間にあるポジションを利用した情報のマッチング機能の充実が求められている。今後、企業・業種を超えた情報の共有化をベースに、企業の連携による社会的な付加価値の創出が基本的な使命になると考えられる。《図2》


 このような背景を念頭においてダイカ(株)の事例を読むと、同社が経営環境の変化に対して問題の本質を明らかにし、合理的な対策を立て、着実に実行していることに感心する。同社社長の大氏の視野の広いビジョン、先進的感覚、優れた戦略とそれを具現化する戦術は、企業や業界といった枠を超えて評価される内容である。

2.顧客ニーズに対応するダイカ(株)の取り組み(参考:ダイカ(株) HP http://www.daika.co.jp
 ダイカ(株)のホームページをみると 『私たちの目的は「永遠に世の中のお役に立ち続ける」ことです。家庭を明るく豊かにする商品をいつでもどこでも安く消費者が手に入れられるよう小売店頭へお届けする。』 とある。そして、これらを実現するために同社が実施している取り組みとして、「株式会社あらたの設立」、「仕入先無返品取引」、「店頭技術研究所」、「アッテル・ドリーム」などについても親切に説明されている。(同社 HPコンテンツ"ダイカブランド"を参照)
同社の取り組みを理解するのに参考となる資料として、中小企業庁による「卸売業の販売支援活動、物流活動に対する、小売業の今後の意向」のアンケート結果がある。《図4》《図5》


 リテールサポートの強化と小売業の物流コスト削減を可能にするための卸売業の効率的物流活動への期待の大きさがわかる。これらの事項にダイカ(株)の取り組みの機能的要素をつき合わせてみると、ダイカ(株)が顧客(小売業)のニーズを的確に把握し、着実に対応し、さらに前に進もうとしていることが明らかになる。また、各取り組みが経営戦略の示すベクトル上に、実にバランスよく構成されていることが分かる。《表1》

3.事例にみる今後の方向性と課題
 流通業において、今後の方向性を示す考え方にECR(注1)がある。ECRは日本でも話題になって10年程たつが、実質的な合理化会的にどれほど進んだかは疑問である。進まない要因としては、標準化の未整備やコラボレーションに抵抗する日本的慣習、それと経営者の危機感の不足などがあげられる。しかし、近年の著しい景況の低迷により、企業や業界が生き残りをかけた経営的意思決定を迫られることになり、状況は大きく変わることになるだろう。
 そのような目でもう一度ダイカ(株)の事例を読み返すと、ECRという言葉を前面には出していないが、同社は既にその本質を実行している。そして、課題は自社の利益追求だけでなく社会的な貢献を重視し、具体的には環境問題への対応や流通経路におけるトータル在庫リスクの軽減などである。このような同社の姿勢が、将来のあるべき企業像を連想させる。
 全国的なスケールで社会的ロスを徹底して排除しようとする同社の経営を示す取り組みを3つあげる。一つは「株式会社あらたの設立」、二つ目は「仕入先無返品取引」、三つ目は「リアルタイム単品在庫管理」である。これらが相互に連携して、同社の経営を支えている。
(1)株式会社あらたの設立(同社HPコンテンツ"トピックス"を参照)
  最も安いコストで、最も高度な卸機能を果たせる体制をつくり、「永遠に世の中の役に立つ存在でありつづける」ということであります。そのために経営統合をして全国をカバーするネットワークとスケールを実現いたしました。マーチャンダイジング、ロジスティクス、情報支援の3つの機能を充実させ、生産から消費までの流通全体の最適化を実現させるSCMのスペシャリストをめざします。 とホームページで宣言している。
(2)仕入先無返品取引
 返品を、交通渋滞、大気汚染、資源の浪費、ゴミ公害などの環境問題を引き起こす根源と考え、企業の社会的責任を果たすための取り組みである。この取り組みは、同社の在庫リスクを増やすのではないかと心配するのだが、そのようなことはなく10年間の活動で確実な成果をあげている。これは、次項の「リアルタイム単品在庫管理」をベースに組織的な活動による成果であると推測できる。《図表》

(3)リアルタイム単品在庫管理
 リアルタイムでの単品在庫管理は、高度な需要予測で小売業を支え、仕入先との無返品取引を維持し、本格的なECRを実現するための前提条件となる。事例本文にもあったが、在庫データの精度維持は大変難しい。それも、リアルタイムでの単品レベルとなれば、その難易度は並大抵ではない。しかし、コミュニケーションや意思決定の基礎単位として、今後各社がそれを求めることになるだろう。

 以上、ダイカ(株)の経営はかなり進んでいて、将来的な課題を考えるときに大変参考になると思う。また、これから日本が"失われた10年"をどのように取り戻すか、ハードや技術の導入の前に"人"の思いや構想、さらに信念と情熱が重要であることを実証した事例として、大変勇気づけられた。

注1:ECR(Efficient Consumer Response)
 "モノ"の生産から消費者の手に渡るまでの過程で、ネットワークやデータベースを基盤に徹底した無駄を排除し、消費者利益の最大限化を図ろうとする考え方。
 米国において、世界最大の小売業ウォルマートがスーパーセンターという業態を作り出し、食料品売り場の展開を始めた。これに危機感を感じた食品スーパーマーケット業界がとった対抗手段がECRであった。米国ではFMI(米国食品マーケティング協会)、GMA(食品雑貨工業界)等が中心となって広まった。
2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
アラコ(株) 作成者:青野 博喜
ITC認定番号:0001572001C
作成年月日:2002年5月7日
1. はじめに
 アラコは、資本や売上のほとんどをトヨタ自動車が占める独特の企業形態である。こうした環境下であっても、自社に適した情報システムの追求が行われている。「経営判断へのタイムリーな情報提供を目指して」という目標を掲げ、ERPパッケージソフト (Oracle Applications) (注1)を活用した経営管理(会計)システム構築を、わずか2年という短期間に完遂した。また、自動車産業の国内市場のパイ縮小もあって、トヨタ自動車以外の自社独自ブランドの確立がなければ、21世紀のアラコはないとの危機認識のもと、新規事業へも取り組み初めている。
 経営管理(会計)システム構築のプロジェクトを、1995年2月にスタートし、将来を担う若いパワーを中心にBPR(注2)による業務革新を推進し、2年後の1997年には運用を開始した。このようなIT化への積極的な取り組みは、大企業だけではなく中小企業にも参考になると考えられ、アラコのERP化とそれらを取り巻く動向について考察する。

2. 業務革新...経営管理(会計)システム...ERPパッケージソフトの適用
 業務革新の着眼点として、「下流工程が上流工程からデータを入手して進む」いわゆる後工程引取り方式(トヨタカンバン方式)の考え方を適用している点、さらには「トヨタ自動車がこうやれと言っているからアラコもやらねばならないのだ」など、上手に外圧を活用されている点等は特筆すべきポイントかと考えられる。
 業務革新の結果、①会計処理に関わる人員を50人から30人に削減できたこと、②約2年間という短期間に開発を完遂したこと、③データベース統合化への基礎作りができたこと、④一流企業レベルの情報提供ができるようになったことなど、ERPを適用しつつある企業、あるいは今後ERP化を考えている企業にとっては、ある種の方向性なりヒントを示唆しているように思われる。
 また、ERPを導入する場合、下記の2つの議論がある。
(1) BPR(業務革新)を先に実施し、わが社のあるべき姿を描いてからそれに合致するERPパッケージソフトを導入する方法。
(2) 自社に合うERPパッケージソフトを導入し、それに合わせた形で仕事のやり方を替えていくことで結果的に業務革新を行なう方法。
 これまで、ERPを導入している企業を概観した場合、上記(1)、(2)のいずれが適切かということは断言できにくく、それぞれの導入企業の事情によって異なっている。ただ、ERPを導入すれば、結果的に自ずから業務革新を実施することとなり、その導入期間もERP型(プロトタイプ)(注3)は、従来開発型 (Waterfall) (注4)に較べて大幅に短縮され、1~2年程度で完了する事例が多く見うけられる。このようにERPパッケージソフトを活用した場合、システム開発期間、並びにシステム開発工数がそれぞれ約50%削減できると報告されている。
 Dog-Year(注5)と呼ばれる変化のスピードが、加速している現状を勘案すればケースバイケースではあるももの、世界標準のERPパッケージソフトを導入し、ベストプラクティスと呼ばれるビジネスモデルに合わせた業務革新を進める方法が妥当のように思われる。

3. ERPパッケージソフト
 業務革新あるいは経営のスピードアップ化に有効といわれているERPパッケージソフトにはどんなものがあるのだろうか。良く話題にあがっているいくつかのERPパッケージソフトのそれぞれの導入実績、特徴、適用業務範囲等を参考までに整理してみた。(表1)


4.部分最適から全体最適へ...SCM(注6)とBtoB(注7)
 自動車業界では、新車開発期間の短縮、調達コストの削減、システム開発/運用コストの削減、通信関連コストの削減、ジャスト・イン・タイムの更なる追求などの厳しい取り組みが続けられている。当然ながら、アラコでもその取り組みは求められることとなろう。 1997年からERPによる経営管理(会計)システムが稼動し、データベース統合化への基礎が出来上がって来ている。しかしながら、ERP導入の本来の目的は、①受注から生産・販売・納品・アフターサービスまでの業務全体の統合化を図るとともに、②業務プロセスの革新、顧客満足度の向上、財務的側面並びに人材育成面という4つの視点から、バランス良く戦略的な企業経営をも図るという全体最適化ツールとして活用することにある。
 また、企業内の部分最適から全体最適への動きは、顧客、ベンダー/サプライヤーを含めた、業界全体としてのSCMやBtoB等を含めた全体最適化も追求されて行くことになろう。そこには、企業独自のアプリケーションやネットワークで競争しようとする意識は薄れ、業界共通のアプリケーションやデータフォーマット、さらにはネットワークの共通化が図られることとなる。ネットワークの共通化で言えば、自動車業界のJNX(注8)がその典型である。 JNXは、自動車業界が要求する高いセキュリティや信頼性を保ちつつ、コスト的にも専用線に較べ比較的安価に使用できるインターネットを活用したネットワーク(IP-VPN(注9))である。また、業界こそ異なるものの、航空機製造業界で活用されている航空機業界標準EDIシステム(注10)もその1つである。こうした動きは、自動車業界のみならずあらゆる業界とその構成企業が、21世紀を生き抜いていくために目指すべきIT化の1つの姿ではなかろうか。(図1)


参照したWeb-サイト
・ERPパッケージソフト関係;
http://www.sap.co.jp/, http://www.oracle.co.jp/, http://www.peoplesoft.com/, http://www.baan.co.jp/,
http://www.jdedwards.co.jp/, http://www.itssp.gr.jp/, https://www.itc.or.jp/
・アラコ;
http://www.araco.co.jp/

注1:ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)
 企業全体の経営資源(人、物、金、情報)を、有効且つ総合的に計画・管理し、経営の効率化、最適化を図るための概念。ERPパッケージソフトとは、ERPを実現するためのツールで、企業の基幹業務である会計・販売・在庫・生産管理・購買管理といった業務システムを統合化したパッケージソフトであり、企業全体の経営資源の計画的な活用をサポートするツールである。
(出典;ITC下流ケース研修テキスト)
 Oracle Applicationsは、Oracle社のERPパッケージソフトの1つであるが、現在ではOracle E-Business Suiteと呼ばれているようだ。

注2:BPR(Business Process Reengineering)
 収益率や顧客満足度向上などの目標を達成するために、業務内容やビジネス・プロセスを分析し最適になるように再設計し、実際に業務内容や組織等の変更したり事業分野の再構築を実施したりすること。
(出典;日経BP 情報通信新語辞典)

注3:プロトタイプ
 ERP型等のソフトウェア開発の一手法であり、ユーザーの要求仕様を決める段階で実際に動作する大まかなシステムを作ってしまい、それを動かしてみる事によりユーザーの意見をダイレクトに反映する開発手法。
(出典;ITC下流ケース研修テキスト)

注4:Waterfall
 従来型のソフトウェア開発手法であり、要件定義、設計、プログラミング、テスト、運用と作業工程を順を追って進め、後戻りをしない開発手法。
(出典;ITC下流ケース研修テキスト)

注5:Dog-Year
 1ドッグイヤー=52日=450万秒。人間よりずっと寿命の短いイヌにとって、人間の1年はイヌの52日に相当する。イヌの感覚では人間の7倍のスピードで時間が過ぎていく。長足の進歩をとげるパソコン業界やIT産業界で、一年一昔の進歩ぶりを表すために最近使われ始めた言葉。
(出典;http://www2.justnet.ne.jp/

注6:SCM(Supply Chain Management)
 企業間や企業内を流れるモノや情報の流れを管理すること。部品や原材料を供給するサプライヤーやメーカー、販売店などを結ぶ企業間SCMと、社内における調達、生産、物流、販売の各部門を結ぶ企業内SCMがある。

注7:BtoB(business to Business)
 BtoBは、電子商取引の1つの形態で、企業と企業で行われる電子商取引をいう。これに対し、BtoC(business to Consumer)は、企業と一般消費者間で行われる電子商取引をいう。

注8:JNX(Japanese automotive network eXchange)
 日本国内の自動車業界向けBtoBネットワークのこと。
(出典;NIKKEI COMPUTER 2000,6,19

注9:IP-VPN(Internet Protocol-Virtual Private Network)
 インターネットを活用した閉域ネットワークのこと。インターネット・プロトコルのネットワーク上に仮想的な専用線網を構築する。不特定多数な企業や個人が利用するインターネットとは異なり、限られた企業だけが利用できるようにする。通信コストはインターネットと較べて割高になるがセキュリティを確保しやすいというメリットがある。
(出典;NIKKEI COMPUTER 2000,6,19

注10:航空機業界標準EDI(Electric Data Interchange)システム
 航空宇宙工業会のメンバー、並びに賛同する企業間で機体、部品、装備品等を設計・製造・運用する場合において、発注会社と受注会社での受発注情報を電子情報化し、インターネットを活用してやり取りする電子商取引の仕組み(BtoB)をいう。システムの維持管理は、航空宇宙工業会に設置されているEDIセンターにおいて行われている。
(出典;第19回ECOMセミナー「航空機業界標準EDIシステムの運用状況」)   
2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
(株)タマル 作成者:(株)アイネス
     真木 徹
ITC認定番号:0006782001C
作成年月日:2002年01月29日

日本における暦年のレコード生産額の推移の中で㈱タマルの情報化の歴史を見てみると情報化の目的が明確になる。1980~1985年はレコードの売上が停滞したため、売れ筋・死に筋を把握して不良在庫を減少させていると思われる。また、1980~1990年はビデオテープ・レコードのレンタルショップが台頭し、急激に拡大しており、それらの対抗策としても詳細な売れ筋・死に筋を把握した上での顧客サービスが求められていた。1997年以降レコードの全国の販売は減少している。また、年齢別人口推計で明らかなように、レコードの主購買層である10代、20代の人口は今後横ばいであり、その層の購買の伸びは期待出来ない。今後のブローバンド(注1)等ITの進展により、ネットワークを経由した音楽配信・販売が拡大してゆく中で、30代、40代等を顧客としたユーズド(中古)レコード販売に乗り出し、かつ顧客1人1人へのサービスの質を高める情報化を行なっている。時代、時代の経営目的に合わせた情報化が行なわれている。

参考資料

・(社)日本レコード協会ホームページ
  http://www.riaj.or.jp/













注1:ブロードバンド(broadband)
ADSLやケーブルTVによるインターネット接続などを用いた、高速なインターネット接続サービス

注2:One to One market
D.ペパーズが唱えた、一人一人の顧客(個客)対応のマーケティング手法。十把一絡げマス・マーケティングを否定し、購入頻度の高い優良顧客に個別対応することで収益向上を図る。インターネット上で顧客ごとに情報発信するシステムが代表例

2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
(株)ダン 作成者:日本電気(株)
     小嶋 龍輔
ITC認定番号:0001052001C
作成年月日:2002年1月29日
 (株)ダンはフランチャイズ展開を中心とした主力ブランドである「靴下屋」、美しいカラーバリエーションをメインにシーズントレンドを中心とした「靴下屋フレンズ」、広域商圏に大型靴下専門店を展開する「靴下屋インターナショナル」、ローティーンがメインターゲットの「マイソックス」、百貨店を中心に展開する「ショセット」の各業態での店舗展開を行っている。㈱ダンの経営戦略はバランス・スコアカードの視点でみても戦略・ビジョンと組織行動との整合性がとれたモデルとして大変注目される。
 バランススコアカードは近年わが国でも大変注目されており、導入する企業(組織)が広がっている経営管理手法である。一言で言うと、今日の変化の激しい経営環境において財務的な観点(例えば売上高など)だけで経営をとらえると、経営全体の方向性を見誤らせる可能性があり、財務的視点に加えて顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長(人材育成と革新)の視点といった幅広い視点で経営をとらえることが重要であるという考え方である。バランス・スコアカードの活用は、戦略・ビジョンやミッションと組織行動との整合性を検証しながら全社的な活動の方向性を合わせる目的で行われる戦略マップの策定と、活動の業績評価の指標を部門や個人まて落し込みモニタリングする業績評価ツールとしての要素を含む。本事例から㈱ダンの経営戦略をバランス・スコアカードの四つの視点にもとづいて考えてみた。

■バランス・スコアカード経営の視点でみた㈱ダンのビジョンと組織行動の目標
(株)ダンの事例においてはPOSシステム(注1)やSCM(注2)に基づく情報インフラ等の情報システム面にスポットが当てられがちであるように思われるが、丸川常務の講演を聴くと、それがしっかりとした経営理念、経営戦略に裏打ちされたものであることがわかる。
 (株)ダンは「お客様にとって良い靴下を最高の条件で提供する」という明確なミッションに基づいて同社が企業として推進すべき行動を明確化している。まず顧客の視点ではミッションを実現するために顧客に対してどのように行動すべきなのかという観点から顧客のニーズを迅速かつ的確に把握する仕組みをつくりあげている。それはPOSに代表される情報インフラだけではなく、組織全体が顧客のニーズを収集し共有化し活動に反映させる組織的な活動である。内部プロセスの視点では顧客を満足させるためにどのような業務プロセスに秀でるべきかという面から店舗での品切れを無くし且つ店舗在庫を持たない仕組み、すなわち「店の横に工場があるようなシステム」を実現している。学習と成長の視点ではミッションを達成するためにどのように変化と改善ができる能力を維持するかという面から、専門店としてふさわしい知識、ノウハウを身につけるための店舗経営者や店舗スタッフへの研修の義務付け等を推進している。
 このように(株)ダンは顧客中心主義という一本の明確な経営方針のもとに全ての活動が推進されているのである。このような(株)ダンの事例は変化が激しく先が見えにくい昨今の経営環境の中においてビジネスモデルを考える上で大変参考になる事例である。


 最後に私も実際に自宅近くのショッピングモールにある(株)ダンの店舗(靴下屋)を覗いてみた。女子中高生をターゲットとした店舗らしく広くはないがファッション性豊かな暖かく優しい雰囲気に包まれており、店員さんと少しお話をしたが大変丁寧な受け答えで好感が持てた。

■活動の関係マップ(講演録から丸川常務の言葉を抜き出したもの)


注1:POSシステム
 販売時点情報管理。小売業において、どの商品がいつ、何個売れたかを把握するために、商品を販売した時に1品単位で情報を収集し、コンピュータで管理するシステム。販売時点でデータを収集するため、POS対応のレジスタ(金銭登録機)が必要。最近ではパソコン・ベースのレジスタも登場している。

注2:SCM(Supply Chain Management)
 情報ネットワークを活用した経営手法の一つ。SCMと略される。部品供給会社(サプライヤー)から製造会社、卸や小売りなど顧客に至るまでのサプライチェーン全体をネットワークで結び、生産や在庫、購買、販売、物流などすべての情報をリアルタイムに交換することで、チェーン全体の効率を大幅に向上させることを目指す。複数の企業や組織の壁を越え、一つのビジネス・プロセスとして経営資源や情報を共有し、チェーン全体の最適化を目指してプロセスの無駄を徹底的に削減することが狙い。国内でも電子商取引推進協議会(ECOM)が2000年度から日本型サプライチェーン・マネジメントの具体的なビジネス・モデルを検討するなど、採用が広まりつつある。
   
2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
(株)ヤマトヤ 作成者:メリットブース
     加藤 雅友
ITC認定番号:0019252002A
作成年月日:2002年5月14日
1.事例の背景
 (株)ヤマトヤの事例をみると、一般消費者をビジネスの対象とする小売業の現状がよく理解できる。すなわち高度化、多様化する顧客ニーズに対応することが生き残りの条件となっているが、現在の小売業の多くは自社の過去の成功体験が障害となり、問題の本質や解決の糸口を見出せないままでいるのが実態のようだ。
 小売業の状況を示すデータとして、経済産業省「商業統計表」による『(従業者規模別)小売業の商店数、従業員数、販売額』の資料がある。《表1》 昭和63年と平成11年を比較すると、全体傾向では"商店数"が90%を割っているが、"従業者数"、"年間販売額"が堅実に増加している。また、"1人当たり販売額"も改善されている。 しかし、従業者規模別の内容をみると、"商店数"、"従業者数"、"年間販売額"は規模の大きい商店の構成比が高くなり、"1人当たり販売額"は規模の小さい商店ほど上昇傾向にある。このことから、商店が大型化しながら集約される傾向にあり、片や淘汰されながら小さくても独自に効率を高めている商店が生き残っているようにもみえる。

《図1》小売業の商店数、従業員数、販売額(中小企業白書2001年版より)





 同社が属する繊維・服飾の業界では、大手企業が製造から販売までを自ら行い、高品質・低価格の商品提供を実現している。結果、業界全体に淘汰の波が押し寄せ、とくに小規模店舗にとって存続の危機が迫っている。一方、同社のように業績を着実に伸ばしている企業もある。 このような状況は、顧客の要求が一律的ではなく、ライフステージや用途により使い分けられるものであるため、営業の手法もさまざまな形で構築され、時代変化に合わせてそれぞれに進化する必要のあることを意味している。
 同社も徹底して顧客満足度の向上を図るために、自店のターゲット顧客を明らかにし、自らの強みをベースに独自の商売を進めている。当事例では、同社の江頭社長がPOSレジを中心にITを活用し、個々の顧客の好みとニーズに相応しい商品を提供しようと精力的に活動されている様子が大変参考になる。

2.(株)ヤマトヤの強みと方向性
   ~参考~ヤマトヤ URL:http://island3.matsuronet.ne.jp/yamatoya/
 事例本文と(株)ヤマトヤのホームページをみると、同社江頭社長の人柄や顧客にやさしい経営理念がよく伝わってくる。フランクにコメントすると、"スマート"や"最新"といった言葉は思い浮かばなかったが、顧客に対する関心の大きさと、顧客を思いやる"心"がよく見えた。
 同社が最初に行ったのは、バーコードを用いた顧客ごとの単品管理であった。過去の購買履歴から当該顧客の好みを把握し、顧客の好みに応じたダイレクトメールの発送を試みた。そのダイレクトメールは江頭社長が、取引先や展示会などで得た情報をデジタルカメラでビジュアル化し、一人一人の顧客へ発送するものであった。さらには、購入を迷う顧客には、デジタルカメラで試着した姿を撮って渡すなど、常に顧客の立場にたって活動している。 それと合わせて、顧客とのコミュニケーションを大切に考えて実施したのは、新入社員に対する接客の教育であった。新入社員でも簡単に実行できることに重点を置かれているのが特徴的であり、江頭社長の合理性と優しさがうかがえる。
 江頭社長の顧客と従業員に対する深い思いやりをベースに営まれる経営に、同社の強みと魅力があるのではと推測しながら、以下のような整理を行ってみた。
 (1)SWOT分析
 まず、ヤマトヤの経営を客観的にみるために、事例内容をベースにSWOT分析を行ってみる。強みとして際立つのはヤマトヤの長い歴史に培われた信用と、江頭社長の誠実で積極的な経営である。また、厳しい外部環境に危機感を持ちながら、的確に弱みの改善に取り組む姿勢も感じ取られる。≪図1≫


 (2)ポジショニング分析
 次に、ヤマトヤの営業の特徴を他企業との関係でみてみる。顧客との関係を重視し、1人1人の顧客に最も相応しい商品を見つけ出し、提供できることが同社の魅力である。従来からの同社の商売であるが、それらの特徴がシステムの構築やデータの活用によってさらに磨きがかけられることと思う。≪図2≫


 (3)CSF(重要成功要因)の構成イメージ
 事例本文と同社ホームページの内容から"ヤマトヤのCSF"を探ってみると、ファッションを好み、生活を楽しもうとする性別や世代を越えた幅広い客層をターゲットにした、「 お客様が喜ぶ商品とサービスの提供による、一人一人のお客様との良好な関係の構築 」であると思う。そして、事例にあるような情報を活用した顧客とのコミュニケーション、接客サービスの充実、魅力あるファッション商品の調達など、このCSFを実現するための一貫した活動であることがわかる。≪図3≫


3.事例にみるCRMの実現
 当事例は、顧客を愛しながら科学的・システム的に顧客を理解し、考え、行動することの実例を示してくれた。基本的なアプローチは"①お客さまを知る②お客さまを理解する③お客様に喜んでいただく"となるが、江頭社長はそれを実に自然体で自らの行動に組み込んでいる。具体的には、顧客に喜んでいただくために商品調達を国内に限定せずグローバルに行い、 IT活用を手段として技術的なことより効果を優先していることなどである。また、同社の場合は長い歴史の中で顧客との強い友好関係を築き、顧客を基点にビジネスモデルを作りあげていることも経営の基盤になっている。このことは、顧客を思いやるというCRM(注1)の本質は共通でも、それを実行するやり方は各社それぞれに存在することを実証している。
 同社の事例より、CRMの実現を顧客との関係で描くことができる。それは、店舗と顧客との信頼関係が、取引を重ねながら進化していくプロセスでもある。≪図4≫


 業種や企業が違っても、顧客との関係が経営の基本である。"顧客第一主義"を方針に掲げる企業は多いが、自社独自のビジネスモデルをもっていることが成功の条件のようである。

注1:CRM(カスタマ・リレーションシップ・マネジメント)
 顧客との長期的な関係を緊密に築くことで、販売・利益の拡大を図る手法である。顧客一人一人の好みやニーズに対応した商品・サービスを提供するための、業務プロセスやデータベースを顧客中心に組み直すことが求められる。CRMを効果的に実現するためには、インターネットへの対応や顧客データベース、情報システムを統合的に整備することが必要となる。
2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
(株)ヤマナカゴーキン 作成者:NTTデータ先端技術(株)
     村上 憲也
ITC認定番号:0013562001C
作成年月日:2002年1月29日

金型業界は世界的な同時不況のもと、製造業全般に大きな影響を与えており、韓国企業に押され気味である。経済産業省が発表している過去12年間の統計情報(参考文献:金型業界統計)からも分かるように、特に金型の単価が減少しており、生産高が向上しても利益が上がらないというジレンマがある。
 東南アジア諸国が急速に実力をつけ始め、自動車、パソコンといった世界のビッグビジネスは生産基地をこれら諸国にシフトしている。我が国の大企業も同じように生産のフィールドを今まで以上に移し始めている。労働賃金の低い東南アジア諸国での生産が主流になりつつあり、日本の得意産業と云われている金型製造業界でさえ、国内の生産技術の空洞化が始まっている。製造工程の出発原点である金型製造に十分な技術力を蓄えていることはある種の強みではあるが、その後の製造生産工程で低コスト化が進み、最終製品が低価格になれば、自ずと金型価格へその影響が及ぶ。その結果、金型製造までもが海外での生産に移行してしまう結果となる。日本の中部地区のように金型生産の国内出荷額が日本一であっても、価格の低下、受注の減少を止めることは出来ない。
 このような状況を打破するために、金型工業会では、グローバル化やネットワーク化を進めている。日本金型工業会西部支部のように新しいプロジェクトを起こして元気を出そうとしている地域もある。
また新しい生産拠点を海外に求めた企業も出始めている。

このような厳しい経営環境の中で、ヤマナカゴーキン(株)では、社内のIT化を進めることにより、生産効率を高め、時間的ゆとりを見出すことにした。このゆとりをもって金型に付加価値を付け、競争力のある製品を開発することを模索している。
 ヤマナカゴーキンにおける問題点は、以下の2点であった。
(1)受注金型の製造工程管理がリアルタイムに出来ない。(基幹業務系の問題点)
(2)受注した試作金型の開発は経験と勘に頼っていたため、駄目なら再作するという繰り返しでリードタイムが大きかった。(技術系の問題点)

金型製造業という業種ゆえに最下流の企業であり、顧客要望が厳しく、受注した製品開発のリードタイムの短縮と高品質化、がヤマナカゴーキンの企業存続の命題であった。IT化を進めるに当たり、基幹系業務としての営業、受注、発注までの管理業務をIT化の対象とした。

 ヤマナカゴーキンでは、第1の問題解決の為に、製品にはバーコードを付与し管理することとした。これにより、製品の開発工程がオンラインで管理可能となり、どの製品がどの製造工程にあるかが容易に把握出来るようになって、お客様対応がスムーズに進むようになった。またリードタイムが70~80%削減出来た。
 第2の問題解決の為に、CAE(注1)を導入した。お客様要望に基づく試作テストプレスを行うなど、少量多品種の商品をお客様要望に基づいて個別に開発・販売してきた。従来は社員の経験と勘を頼りに試作品を作り、試行錯誤を繰り返していた。CAEの導入により、試作開始前に、事前に不具合が予測でき、無駄な試作を繰り返す必要が無くなったことから、開発コストが削減でき、開発時間が短縮できた。


 金型製造業というお客様要望の厳しい、最下流の業界でありながら、お客様要望に答えつつ、コストの削減と開発リードタイムの削減を図り、自社の強みを伸ばす努力をしている。お客様要望に答えるために、企業自ら情報発信することが取引の拡大につながること、IT化を進め適切なパッケージを導入することにより、情報管理の徹底と設計・開発の効率化につながり、コスト削減が実現できることを示した。製造業界における長年の慣習である、設計開発工程におけるKKD(経験・勘・度胸)を廃し、CAD(注2)、CAM(注3)を導入した。その結果、原価が低減し、開発リードタイムが削減されて、高品質の製品を実現することができることを実証した。

 今後は、ITを道具として捉え、不良率の削減原価の低減を達成するための目標管理手法の導入を検討中であり、設計データや作業データのディジタル化を進める予定である。また付加価値創造のための時間の確保が出来る環境作りを進めている。
 ITの活用が効率化を生み、社員へのゆとりとなれば、このゆとりが付加価値創造の意欲をかきたてるために利用され、それが実現されるとすれば、真のIT化の効果であり、究極の成果であると考えられる。


参考文献
(1)金型業界統計

(2)国際金型協会(ISTMA)各国業況報告
       http://www.mold-if.com/close-up/istma-00.html


(3)日本の金型工業会は、地区ごとに支部(東部支部、中部支部、西部支部)設置されており、各支部や所属企業の活動に関しては、以下のURLを参照してください。

   日本金型工業会 西部支部  http://www.moldassociation.com/
   日本金型工業会 中部支部  http://www.cosmonet.co.jp/~eagle/

   日本金型工業会 東部支部  http://www.east.jdmia.or.jp/

(4)金型業界に関して多くの情報を発信している双方向情報サイト。経済産業省から発表された統計情報などもここから入手できます。無料の個人会員登録もあります。
    金型情報Factory       http://www.mold-if.com/






経済産業省(旧:通産省)から提供されている機械統計年報・機械統計月報を掲示しています
































注1:CAE(Computer Aided Engineering
 コンピューターを使って、開発工程の管理やデータの整理、構造の解析など製品開発に必要な業務をコンピューターで実現することをいう。顧客情報の管理や情報共有など、企業の活動助けるツール類も含めていう場合もある。使用するツールの中にはCADツールも含まれる。

注2:CAD(Computer Aided Design
 コンピューターを使って、機械設計やLSI設計、プラント設計などを行う事であり、設計結果のデータを他のCADソフトによって読み込み、次の工程の設計に使う事ができる。最近では、X軸、Y軸を使って平面データを扱う2次元CADに加えて、縦軸(Z軸)を併せて使う3次元CADが使われ出している。3次元CADでは、設計物の立体視や回転のシミュレーションが出来ることから、モックアップを開発・試作して形状を確認するという作業が不用になり、製品の開発期間の短縮に大きく寄与している。

注3:CAM(Computer Aided Manufacturing
 コンピューターを使って機械製作を行うもので、単純なものは数値制御のコンピューターによる製作である。細かい軸合わせや、厚さの調整など、自動的に機械が作業を進める。一部CADデータを使って、それに従って製作を進めることもあるが、メーカの異なるCADツールを使う場合、CADによる設計データを読み込む事が出来ない場合があり、変換が必要になる。このような事が起こらないようにデータフォーマットの標準化が進められている。

2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
(株)レンタルのニッケン 作成者:富士通(株)
     浜口 和己
ITC認定番号:0005032001C
作成年月日:2002年6月7日
[業界の状況]
 建設業界は、景気の低迷により平成2年をピークに建設投資額が抑えられ、建設機械の購入台数は伸びていない(図1)。それに伴い建設機械をゼネコンは自社で購入せず、リースする傾向になってきており、リース業の建設機械の購入台数は年々増加傾向にある(図2)。
 建設リース業界の特徴として、①取扱商品がトイレ、オフィス用品などの日用品や工具類、電機設備類からダンプ、ショベル、クレーン、ブルドーザなどの大型建設機械まで幅広く、多岐多様にわたっており品目数が多い、②建設スケジュールが天候などに左右されやすいため、 貸し出し予定と実績が大幅に狂うことがあり、リース品のスケジュール管理をリアルに実施し利用率を上げることが重要である、③リース品を現場から他の現場に直接配送することが多く、在庫場所の的確な管理と、効率よく配送を実施することが重要である、などがあげられるであろう。


[当社の状況]
 当社は、建設関連器具のリース業の中で業界屈指の全国ブランドの会社である。取引先は、清水建設、竹中工務店、鹿島、大林組などのゼネコンがメインである。
 取扱商品は2000アイテム、100万点と多く、事業所は全国約160ヶ所に分散しており、従業員は約1700人である。また、他社との差別化をはかるために、クレーム、要望など顧客ニーズを取り入れたユニークな新商品開発が盛んであり、それに伴う特許も累積500件以上と数多く出願していることが特徴である。


[IT化の要件と成果]
 このような状況において企業の情報システムに求められる要件は、①商品に関するリアルタイムな情報提供、②社員全員での情報共有化、③現場からのクレームなど、リアルタイムな情報の収集、④そしてこれらを実現するために全国の拠点を結ぶネットワーク網の整備などが考えられる。
 本事例において、当社はこれらの要件を満たすべくIT化を進め、課題を解決することにより、スピード経営を実現した。結果、2001年度はこの不況下、多くの企業が売上低迷のなか、逆に売上を伸ばしている。(図3)


[IT化が効果的な業務]
 この事例で見られるブラウザ(注1)を利用したWebシステムの効果が活かされる業務としては、
  ・リアルタイム性や機動力が必要となる業務
  ・広範囲にわたり情報共有が必要となる業務
  ・商品などのデータの変更頻度が高い業務
  ・均一の情報を広範囲に提供する必要がある業務
  ・取引先、外注先、関連企業、顧客など外部連携が必要(有効)となる業務
  ・将来にわたり拡張の可能性が高いと判断される業務
などが考えられる。IT化を推進するにあたっては、これらの業務を中心にIT化を進めることが、費用対効果面から考えると効率的であろう。


[IT化を阻害する要因とその解決策]
 中小企業庁によると、IT化を阻害する要因として、「社内で使いこなせない」があげられている。(図4)
 本事例においては、この点を社員全員が持つビジネスネームと、徹底したペーパレスにより解決している。ビジネスネームは、社員全員がユニークな名前を付けて、自分をアピールすると同時に、その名前を登録することによる参加意識が芽生えるという利点がある。 また、ペーパレスも徹底して実施されており、パソコンの画面を見ないと日々の仕事が進まないような仕組みになっており、全員がパソコン操作を必然的に覚え、利用するようになっている。


[グループウェア利用のメリット]
 全員がグループウェア(注2)を使用して情報共有するメリットは、
  ・実際に顧客と接している現場から、顧客のクレームや要望、意見などを取り入れて
  ・即座に社員全員が把握し
  ・それぞれの個人が問題意識を持ち必要なアクションをとることが可能になる
 これにより顧客満足度が向上し、ビジネスに活かすことができることであると考える。
 結果、会社の業績向上につながるメリットがある。


[IT化を成功に導くポイント]
 最後にこの事例を踏まえて、IT化を成功に導くための留意点を述べる。
一点目は、「今までにとらわれない柔軟な発想」
 IT技術の利用により、ベンチャーの台頭にみられるように、これまでの経験やノウハウ、企業規模、地域の優位性があまり意味をもたなくなってきている。自社の強みを生かして他が実施していないビジネスモデルを考え、他社に先駆け実施することが必要であろう。
二点目は、「トップダウンによる強力なリーダーシップ」
 IT化の推進を情報システム部門だけに任せないで、パソコンの利用などトップ自らが先頭に立って実践し、掛け声だけに終わらないよう目標を決め、短期間でIT化を実現することが必要であろう。










参考にしたサイト

「レンタルのニッケン」ホームページ
http://www.rental.co.jp

注1:ブラウザ(browser
 利用者が、インターネットでWWWサーバに接続し、主にホームページの情報を画面上に表示する閲覧専用ソフトのこと。
ホームページのデータや文書、画像、動画などの情報は、サーバ内にHTML(Hyper Text Markup Language)などの言語で記述され蓄積されている。これを決められた手順でインターネットを通してパソコンに取り込み、画面に表示する。 Internet ExplorerNetscapeが有名である。

注2:グループウェア(groupware
 チームや組織的な活動を支援し、その生産性を高めるためのパソコンソフト。 LAN(構内情報通信網)を使った電子会議システムや電子メールソフトもその1種で本事例にでてくるノーツはロータス社製の商品でこの代表的なもの。
2010.07.21
IT Coordinators Association
事例コメント
関西カーゴ軽自動車運送
協同組合連合会
作成者:前澤 三恵
ITC認定番号:0010052001C
作成年月日:2003年1月20日
■貨物自動車運送業の概況
 関西カーゴ軽自動車運送協同組合連合会は、軽配送を行う協同組合の連合会です。軽配送は俗称で、法律(貨物自動車運送事業法)で定められた正式名称は、 貨物軽自動車運送事業といいます。
 自動車運送業は、その輸送対象により貨物運送事業と旅客運送事業に大別され、一読しておわかりのごとく、前者は、宅配便のような貨物を運送する事業であり、 後者は、バス、タクシーなど人を運送する事業です。
 さらに、その貨物自動車運送事業は、一般貨物自動車運送事業と特定貨物自動車運送事業と貨物軽自動車運送事業に分けられます。 一般に有名なヤマト運輸や西濃運輸は、このすべてを行っていますが、当協同組合は、このうちの貨物軽自動車運送事業に特化して事業を行っています。
 貨物自動車運送事業は、第二次世界大戦中に戦時貨物輸送の需要に対応するため、鉄道事業とともに、政府により管理されておりました。 戦後になって、戦時中の酷使により鉄道網が麻痺状態に陥ったこともあり、トラック輸送の需要が増え、貨物自動車運送事業者がこの統合会社から離脱し、 発展し始めました。
 昭和30年代に入ると、日本経済は高度成長期を迎え、特に重化学工業化や工業の広域化が進行しました。 これに伴い、石油製品、鋼材等素材の輸送などに大口の需要が喚起され、貨物自動車運送事業は、特定の大口荷主に専属化される傾向にありました。 特定の貨物を大量に効率よく運送することによる低コスト化が、市場からの要望であったのです。
 昭和50年代に入ると日本経済は安定性長期を迎え、第二次産業から第三次産業へのウエートの転換により、特定荷主からの大型輸送需要が停滞しました。 他の業種と同じように付加価値やサービスに重きが置かれることなり、貨物自動車運送業も新しいサービスを開発しなくてはならなくなりました。
 宅配便という不特定多数の荷物つまり「大衆市場」をターゲットとしたサービスがヤマト運輸で開発されたのが、昭和51年のことです。 このサービスは、大成功を収め、昭和56年には、月間の取扱高が1000万個を突破いたしました。
 又、軽貨物自動車運送最大手である「赤帽軽自動車運送協同組合」は昭和51年に設立されており、昭和56年当時、全国にわたり、 44の赤帽軽自動車運送協同組合が設立されていました。
 このような流れの中で、昭和56年、理事長である小川氏が軽自動車運送業を開業されました。

■当協同組合のビジネスの特徴
 当協同組合のビジネスの特徴としては、ニッチマーケティング戦略の成功と協同組合による同業者の組織化が挙げられるでしょう。
(1)ニッチマーケティング戦略の成功
 同理事が軽配送広くはトラック事業に参入した当時は、上述のごとく、高いマーケットシェアを有する先行企業がありました。 このような状況下でとりうる戦略は、地域、サービスを絞り込み一点に集中するというニッチ市場戦略であるというのは、自明であります。
 物流サービスの方向性には、次のようなものがあげられます。(教育社:「陸運業界」より抜粋)
 1.迅速化 即集配、納期短縮など
 2.利便化 集配頻度の増加、緊急対応、営業時間の延長
 3.付帯サービス化 商品の据付、返品取扱、代引、受注
 4.特殊・専門サービス化 冷凍食品、高級品、引越荷物
 5.情報サービス化 荷物追跡サービス、荷主企業の在庫管理、経理処理代行
 6.総合物流サービス化 荷主企業の物流アウトソーサー化

同組合のサービスを上記に当てはめると下記のようになります。
・24時間体制の緊急配送(スポット)-迅速化、利便化
・必要なときに30分以内に集配する緊急配送(スポット)-迅速化、利便化
・注文や集金も行うビジネス定期-付帯サービス
・荷物をあずかってから3時間以内に関西から東京に届ける「ハンドキャリー」-利便性、迅速化

 また、マーケットは大きく分けると、一般消費者と事業者に分けることが出来ます。
先行企業は、高いマーケットシェアと全国展開のメリットを活かし、一般消費者と事業所の両方に等しく力を入れています。 特に引越しなどの一般消費者向け事業に力をいれております。
 一方当協同組合は事業者向けに注力し、一般消費者向けの事業はほとんど行っておりません。 当協同組合の主力サービスである必要な時に必要なだけ30分以内に伺って商品を運ぶ「緊急配送(スポット)」と、配送業務に限らず、 注文、集金などの業務も行う「ビジネス定期」、飛行機・新幹線等を利用して荷物を預かってから3時間後に東京に届ける大手の宅配業者にも勝てる 物流の隙間産業の部分である「ハンドキャリー」の3本柱はすべて事業者向けのサービスであり、この部分で高いシェアを有しています。 特に、ハンドキャリーは、事業者からのニーズは高いが、 標準化しがたい業務でありこの仕組みづくりは規模が大きい競合他社には手が出しがたく同社にとっての強みであります。

(2)協同組合による同業者の組織化
 同組合のビジネスの特徴としてもう一点あげられるのは、組合組織を選択したことにあると思います。
 貨物自動車運送事業者は、99%が中小企業者であり、信用力、規模の経済等のメリットを享受することが出来ません。 また、単独の事業者では、情報化などの投資にかける費用も難しいでしょう。 かといって、個々の独立した事業主が行っている事業を完全に統合し、一企業とすることは、困難です。 協同組合化はスケールメリットと独立性の両方のメリットを活かす良い方法です。組合といっても色々種類がありますが、 代表的なものを下記に記載いたしました。

組合制度の比較
組合の名称 事業協同組合 企業組合 協業組合
目的 組合員の経営の近代化、合理化、経済活動の機会の確保 働く場の確保、経営の合理化 組合員の事業を統合、規模を適正化し生産性向上、共同利益の増進
設立要件 4人以上の事業者が参加すること 4人以上の個人が参加すること 4人以上の事業者が参加すること
組合員資格 地区内の小規模事業者 個人 中小企業者及び定款で定めたときは、4分の1以内の中小企業者以外の者
設立発起人 有限責任4人以上
1組合員の出資限度 100分の25 100分の25 100分の50
法人税率の軽減 軽減あり 一般法人と同じ

■情報化への取り組み
 近年の多品種多頻度配送へのニーズ、SCMによる物流の変革は、同協同組合にとってチャンスといえるでしょう。 受発注システムや少ない配車で最大の効果を生み出すことが可能なような配車システムの構築が望まれます。 しかしながら、配車システムのようなアプリケーション・ソフトウエアの開発には、コストと時間がかかるため容易に導入できるものでなく、 これらはまだ同協同組合には導入されていません。現在、経済産業省、全国中小企業団体中央会、中小企業庁等ITの導入に対し数多くの助成が行われています。 こういった助成金には、ハードウェアやソフトウェアの導入費用の助成のみならずITコーディネータに業務を委託する場合の費用の助成もありますので、 積極的な利用が望まれます。

 競合組合である赤帽軽自動車運送協同組合連合会は、平成13年度情報技術活用型経営革新支援事業の、 業務アプリケーション・ソフトウエア開発事業の助成制度を活用し、配車システム、貨物追跡システム等の受注支援ネットワークシステムの構築を行っています。
 これは、全国に組合員を持つ赤帽が、自社の弱みである全国組織であるが故のサービスの不均一、情報伝達の遅さを克服するために導入されるものです。 商品販売管理システムなどの一般的管理システムも導入されますが、下記のシステムをメインとして導入されたようです。
① 配車業務システム
 組合員への配車指示(発地・着地・担当者・電話番号)を移動中の組合員に対し行う際、携帯電話・無線にて指示を行う代わりに、 携帯電話にE-mailで指示が行えることにより運転中でも正確な配車指示を受けることが可能になるというものです。
② 貨物追跡システム
 通販商品等の宅配業務における荷物の状況管理を行う。
配送センターにおいて荷物の入出荷時にハンディーターミナルによりデータ入力を行い配達完了時に組合員がiモード携帯にて完了データ入力を行う。
この荷物状況データをインターネットにて、荷主に対して公開することにより荷物状況のリアルタイムの提供が可能になります。

 こうした荷物追跡システムや配車システムは、大手の宅配事業者では既に標準的に導入されているようですし、 同業の赤帽でも導入されていることから今後運送業では標準的に導入されるシステムになることが予想されます。
 しかしながら、競合他社が一般消費者も含めた広いマーケットに対応するシステムを必要とするのに対し, 同協同組合では事業者を顧客とした場合のシステム作りが必要となるため競合他社とは注力すべきシステムが異なると考えられます。 また、同協同組合の主力サービスの一つである「ハンドキャリー」は、他地域の他社との提携が必須であるため、提携会社とのシステムの共通化が難しいと思われます。 業務に精通した外部専門家のアドバイスを受けながらのシステムの導入により、業務に生きるシステム導入が可能になるのではないでしょうか。


参考URL

ヤマト運輸株式会社
http://www.kuronekoyamato.co.jp/

全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会
http://www.akabou.jp/

社団法人全日本トラック協会
http://www.jta.or.jp/

全国中小企業団体中央会
http://www.chuokai.or.jp/index.html
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:11 矢橋林業(株)   事例発表日:平成11年11月15日
事業内容:建設関連事業全般
売上高:95億円
1998年4月
従業員数:200名 資本金:4500万円 設立:1953年2月
キーワード 建設・建設材料製造・販売、コンピュータディーラー、
トップダウンでの情報化、
CAD、イントラネット構築、営業支援システム、情報共有
矢橋グループイントラネット構築事例/グループ全体の情報提供および情報共有を目指して
矢橋林業(株) URL:http://www.yabashi.co.jp

矢橋林業(株) 代表取締役社長 矢橋龍宜
プロフィール

昭和59年に矢橋林業(株)に入社。以後、矢橋グループの要職を経て、平成10年7月以降、現職。

~異分野多岐に亘る事業グループに、イントラネットによる情報共有化を実現~

矢橋グループは、従業員数など規模的には中小企業の範疇だが、手がけている事業の数の多さから見れば大企業並みといえる。異なる事業を柱とする3グループに加えて海外に子会社も有し、繁雑さが増すばかりであった経営環境を改革したのがイントラネットであった。自らが、習うより慣れろ、でパソコンを使いこなすようになった矢橋社長は、社員にも何とかパソコンを使う機会が増えるように、とISO取得にも取り組んだ。こうして社員の志気が高揚し、全体の活力が向上したひとつの事例を見てみよう。



■広範囲な業務内容の中、浮いていたコンピュータ部門を活用しよう、と
私ども矢橋グループは、まず矢橋林業のグループが約250人、矢橋三星砿業グループが約100人、矢橋工業グループが約200人、全体で約550人ほどのいわゆる中小企業でございます。業務内容としては、矢橋林業グループは建設、建設材料販売、建設材料の製造、それからコンピュータソフトの開発とハードの販売ですが、建設関連事業を主たる業務としています。三星砿業グループでは、鉱山の採掘業がメインで、それと同時に掘った鉱山の復元をしなくてはなりませんから土木工事等、造園事業などもやっています。矢橋工業グループは、三星砿業グループで出た石灰石を使って石灰を作る焼成加工、石灰の販売をやっています。このように、非常に繁雑な業務をやっていて、なかなか効率が上がらずに苦しんでおりました。
私どもがイントラネットを導入したきっかけについてお話しますと、先に述べた矢橋林業グループの業務内容の中にコンピュータソフト事業がありましたが、これは富士通さんのディーラーをしていて、ソフトの開発とハードの販売に参画させていただいています。しかしながら、矢橋林業は建設関連の、建設資材供給を主とする会社で、この部門だけ非常に異質であり、社内の位置づけも本業から遊離しています。そんな中で、このコンピュータ部門がどうやってコンピュータ業界において展開していくかを考えた時、通常のソフトハウスとして販売するのではなく、むしろ社内の業務の中にいかにコンピュータを導入するかということに方針を転換いたしました。私どものような中小企業が抱えている問題は、同様の業種の方、同規模の企業の方が抱えているものと同じではないか、という観点に立ってシステム化を進め、弊社に使いやすいシステムは他でも有効に利用していただけるのではないかと、新たな展開を図ることにしました。そして、矢橋林業のみならず、全グループ内のFA、OA両面の役割を担うこととなり、社内システムあるいは社内で使うソフトの育成をしていく方向に向けてスタートしたのです。こうして、遊離していたコンピュータ部門が、やっと社内にとけ込んでまいりました。

■トップダウンで情報化のスタートを素早くGO!
実は、私自身、それまでコンピュータにあまり興味があるほうではありませんでした。しかし、ある会合で運営役を任されたことがあり、県内及び全国の関連団体あるいは協議団体との連絡だとか、資料の集配等、パソコンを使って電子メールでやりとりもしました。まだインターネットも普及していない時代でしたのでPC-VANを使いました。その時、事務局の運営及び会議をペーパーレス化しようと思い立って提案したのです。とはいえ、当時の私は何とかワープロが打てる程度だったのですが、言い出しっぺなものですからコンピュータのわかる人に一生懸命教えてもらって勉強しました。「学ぶより慣れろ」とはまさしくその通りで、使えるようになるとコンピュータは本当に便利なものかよくわかりました。資料の回収とか編集、あるいはコンピュータ上に送られてくる資料も加工がしやすく、情報が共有化できる便利さも実感しました。
この経験があったものですから、遅まきながら我が社でも取り入れようと、年配の役員の方々にもコンピュータ導入によるメリットを必死で説明し、判断が早くできる、データの整理や管理が便利、など理解していただき、ある時「次の役員会から紙はやめます」と宣言したのです。そうして、役員皆さんにパソコンを持ってもらい、プロバイダと契約して、資料を書いた人からメールで集める方法にしました。約1~2カ月で最低限のインフラを揃えまして、課長以上にまでパソコンを持たせました。
私が思うに、この段階でいちばん重要なことは、私自身が言い出して始めたことがよかったのではないかと思います。下から汲み上げてやるとなるとなかなか時間がかかってしまう。やるか、やらないか、使うか、使わないか、という決断の意味ではトップダウンがいいと思います。また、コンピュータに強い人材が若い社員などに必ずいますので、その中から抜擢して、推進役のポジションにおくことが必要だと思います。個人レベルでいえば、とにかく「習うより慣れろ」。わからないことは人に聞くのがいちばんの近道であり、マニュアルを見てわざわざ勉強しようとするとよけいにわからなくなってしまう。まずは使ってしまうのが早道かな、と実感しています。
それぞれの部門が如何に詳細な情報を持つかが、今日の経営判断のポイントになります。イントラネットによって連絡が密になれば判断が早くできますから、硬化した組織を軟化する事もできる。そういう意味では情報量が増えるということは業務の透明度が増すことになると思います。又情報をいかに活用するかという点、ことにインターネットの世界ではモラルが必要だと思います。

■市場規模は国境を超えつつある。将来に向けて、グループ全体を統括する経営システムづくりを
私どもの矢橋林業グループでは、造林、伐採、工事に伴う伐採、伐採物の産業廃棄処理、製材業、木材建材の販売、木造住宅などの設計施工、分譲住宅の設計施工販売、不動産仲介、鋼材販売、鋼材加工、鉄骨建築、保護柵などの設計施工販売、土木工事、それとコンピュータのソフトの開発とハードの販売等など、小さな商売をいくつもやっていますので、非常に繁雑で情報が混在しています。しかも、各事業が相似性に欠け、流れとして別の運営になりがちで、統括した経営をするにはむずかしい状況といえましょう。
そこで、まずイントラネットの課題として、情報の共有を図ろうということを掲げました。やはり情報を集約しないと経営判断が遅れたり曖昧な対応になったりしますから、きちんと情報を把握したいと切望したからです。とにかく、各課の連絡や報告、相談、散分化していく情報をイントラネット上に引き上げて、多くの社員に共有させるようにしました。
また、ただコンピュータを配っただけではなかなか実践とならないものですから、すぐ使うために、ISO9001の取得に取り組むことにしました。ISOを取るにはかなりコンピュータを駆使することになるからです。
次に、三星砿業グループですが、石灰石の採掘をし、選別を経て、矢橋工業へ原石供給をしています。それから土木事業の運営、展開です。また、三星砿業の土木部門と、矢橋林業の住宅部門は営業において協調して、お互いに連絡、相談がたやすくできることが課題とされています。
矢橋工業グループは、三星砿業で採れた原石を、いくつかの特色ある企業を使って焼成加工し、石灰として出荷しています。こちらも、他の2グループと一連の流れの中で事業の拡大を図るべく、情報の共有と情報密度の向上が必要です。
ベトナムに初めての海外における子会社設立も果たしました。我々のような中小企業は海外で事業をするのは大変なことですが、いかに国内と国外の情報差をなくすかがテーマであり、インターネットのメールを使って距離の短縮を考えています。ベトナムに出向した者も日本に戻って来る時に浦島太郎になっているのではなく、帰国後そのまますぐ現場で通用するような役立つ情報交換に努めています。
矢橋グループ全体の経営方針としては、基本テーマは「技術」。日本の中小企業として、世界に誇れるような技術を持って、生産管理ノウハウも蓄積するという気持ちで取り組んでいるのです。それにおいて、情報管理をどうするか、がイントラネットの目的といえましょう。先端技術の結集されたコンピュータを日常的に使って仕事に取り込む環境を作ることによって、社員の志気改革が図れる。新しいものに対しての適応性も身につけ、抵抗感をなくすことで可能性を広げる。また、情報の収集、分類、整理を行うことで、自らの業務を拡張し、全体として協調する課題を考えるようになる。ある情報に対してグループ全体で共有することにより、各部門間での評価、判断、情報の価値への適正など有効な活用が図れる。インターネットを通じて情報発信することは、統一した認識を醸し出す。小さい会社ながらも、世界におけるチャンスがこれからもきっとあると思いますので、工期短縮化の意味でも、インターネットによる情報の受発信が距離を超えるものと期待しています。
このように、イントラネットによる情報化推進により、たくさんのメリットが考えられました。

■さまざまな事業の場面で成果が芽生えてきた
私どものイントラネットの構築は、決して計画だててきとんとやったわけではありません。まずOA対策として、オフコンからパソコンへの転換。事業所間のネットワークづくり。そして、イントラネットの立ち上げ。現在のパソコン台数はおよそ200台です。必要な情報の共有、各部の選択・整理・保存による各部のデータベースの集積が図られ、役立つというプランが徐々に実現しつつあります。
積極的な活用としては、経営営業支援システムということで「戦略箱」の導入が挙げられます。これは営業支援の管理ツールで、顧客情報管理、物件情報管理、顧客訪問計画、日報などに利用でき、営業担当者は計画、実績、分析を容易に行うことができます。
3つのグループがあり、個別のグループでイントラネットを導入するのではなく、グループ全体として情報の共有化を図りたい、というのが弊社のイントラネットの大きな特徴ですから、利用度を高めて活用しないと成果が出ない、ということもいえると思います。私をはじめ中枢の幹部はグループ内でいくつかの役員を兼任していますが、いずれにおいても情報収集は経営に欠かせない重要な業務であり、速やかな判断や指示を要求される状況ばかりです。こうした状況では、イントラネットは経営に有効なツールとして非常に意義があるものと考えています。
電子会議にして、必要な資料は全部パソコン上におき、紙をなくしましたので、省資源の効果もあったといえましょう。


1.社内業務システムの刷新
    ・オフコンからパソコンでのネットワーク化
    ・ネットワークによる事業所間のデータの一元管理
2.矢橋イントラネットの立ち上げ
    ・役職者へのノートパソコン配布
    ・電子会議による役員会の実施
3.グループウェアの導入
    ・電子メールによる文書交換/ペーパーレス化
    ・掲示板(パブリックフォルダ)による社内文書の共有
4.経営営業支援システム(戦略箱)の導入
    ・社員の営業日報/業務日報の共有及び公開
           矢橋イントラネット構築手順

また、ISOの活動への適用も大きな成果でした。矢橋林業におきましてはISO9001、矢橋プロスティール、矢橋巧務店の2社は9002の取得に向けて取り組んでいます。この承認取得のため、ISOの要求に対して多くの資料が必要であり、全体としてとりまとめるためにはパソコンの導入、イントラネットの需要は不可欠です。社員らのパソコンを使う技術も飛躍的に進歩しています。
今後の展開としては、私どもの業務の中で計算データを使うことが多いので、そこでシステム活用が図れたら、と考えています。たとえば、木造の軸組工法、昔だったら手で書き計算し手で作っていたものを、今ではCADで入力しそのデータによって工場で加工できる。こうしたデータ活用を広げて、住宅の基礎から屋根、フェンスガイドの取り付けなどの部分まで行えるようにし、付加価値づけを行っていきたい。
また、プレカット工場のデータ管理システムの開発を行いまして、CADのデータの入力から加工、現場の搬入までできるような、データのイントラネット版をやりたいと思っています。
鉱山管理のシステムにおいても、鉱山の状況を完全にデジタルデータにして、そこから位置決定による採掘場所を指示し、入口を想定し、機械の工程管理まで一連の採掘管理のデータをイントラネット上で行えるように開発しています。
営業展開の場面では、お客様とのCADの共有。つまり、CADデータをそのまま私どもにメールでいただき、加工するというもの。かつてはFAXでしたが、それがデータ化しつつあります。これにより、コストダウン、工期短縮などのメリットが期待できます。最近では、モバイルを駆使した営業推進も活発になり、受発注をはじめ営業に必要な情報展開をどこにいても速やかに図っていけるよう、取り組んでいきます。
分譲住宅の事業においては、オンライン設定によって、ホームページの中に住宅のページを設け、そこで新聞折り込みチラシにはない細かな部分のデータまで発表したいと考えています。住宅は最終的には現場で実際に見ていただいて購入を決断してもらうものですから、まずは現場へ足を運んでいただけるような、見に行ってみたいと思わせるような情報をコンピュータ上で流したいと思います。

■有効利用の実感をベースに、夢はさらに膨らむ
イントラネット導入の効果について、私の感想としては、社員との距離がぐんと縮まりました。社員のことがよくわかるようになり、社員の個性が明確に把握できるようになりました。それがいいのか、悪いのか、両面があると思いますが、評価に繋がるという点ではいいことだと思います。
私自身の経営方針も具体的に指示ができ、適切な対応が図れるようになりました。現場の状況がタイムリーに把握でき、判断も迅速に効率よく行える。と同時に、以前は途中で止まっていたような問題が止まらなくなる。曖昧にされてきた問題がだんだん少なくなってきたのです。
どこにいてもきちっと報告が受けられ、距離、時間に左右されない経営ができるようになり、経営の透明性も増したと思いますね。
こうして考えてみると、もはや私にとってパソコンは必需品となっています。時代の要求することは我々への課題として認識し、これからは情報に付加価値づけをして将来に繋げていきたい。まだまだ私どもがやっていることは最低限のことでしょうが、なんとか努力をして、イントラネットを活用した商売を展開していきたいと思います。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:56 (株)鳴海屋紙店   事例発表日:平成13年11月14日
事業内容:紙類及び紙加工品に関する製品の卸、販売
売上高:8億円
2000年度
従業員数:22名 資本金:1000万円 設立:1955年7月
キーワード 紙類・紙加工品卸・販売、
トップダウンでの情報化、顧客・仕入先・社員満足度達成、
「我が社の経営戦略とIT革命」
  

(株)鳴海屋紙店

(株)鳴海屋紙店 代表取締役社長 鳴海幸一郎氏
プロフィール

平成2年 大永紙通商株式会社(現国際紙パルプ商事株式会社)入社
平成5年 株式会社鳴海屋紙店入社
平成6年 同社専務取締役を経て 平成9年より代表取締役社長に就任

~サッカー型組織と情報化促進で「満足度100%達成」の実現へ~

鳴海屋紙店は、明治16年創業の仙台で120年続く紙類卸・販売業の老舗である。老舗にありがちな組織面の問題、小規模紙卸売業の厳しい市場環境という経営課題を克服するために、社長の鳴海氏の打った手は何か?


■会社概要
企業名 (株)鳴海屋紙店  設 立 昭和30年7月 (明治16年創業) 
代表者 鳴海 幸一郎  資本金 10,000千円
社員数 22名 売上高 8億円 (2000年2月期) 
業 種 紙類および紙加工品に関する製品の卸、販売業
事業内容 紙器用板紙、印刷用紙、家庭用紙製品、七夕製品、和紙卸業

■突然の社長交代、まずは経営者自らITを知り、経営改革に活用
  鳴海屋紙店は、明治16年(1883年)創業の、仙台で120年続く、紙類卸・販売業である。現社長の鳴海幸一郎氏は、平成9年、先代の急逝により、突然の社長就任を余儀なくされ、準備の間もなく経営を引き継いだ。
  幸一郎氏は、着任と同時に、従業員30名弱という自社の組織力拡大を図るため、競合他社に先駆けた戦略的な情報化による経営改革の着手を全社員に宣言し徹底した。
  まず、情報化によって、各人の業務を複合的にスピーディにこなせる体制を整備するため、経営者自らがITに触れ、使いこなせる準備をした。中小企業における情報化推進では、専任者の設置が難しいため、どうしても社外の専門家の力が必要となる。パートナーとしてそれら専門家を活用するには、発注者である経営者にも、対等に彼らと話せて価値評価できる目が求められる。そこで、鳴海氏は、1台のパソコンを購入して、それが壊れるまで試行錯誤を繰り返し、そのメリット、デメリットを探った。
  並行して、戦略として掲げた「サッカー型組織による経営」(各自が、メイン業務だけでなく、情報共有しながら、状況に応じ他者の業務も支援し、共通目標実現に最善なフォーメーションでフレキシブルに対応する)の具現化に必要な情報化構想を、地元のコンサルタントSEに相談しながら進めていった。この際、コンサルタントには、自分と同じ視点に立って、情報収集や提案することを要求し、鳴海氏の方は、不明な点は恥ずかしがらず「わからない」と表明し理解を深め、より効果の高い情報化構想を構築した。

■「満足度100%達成理念」を掲げ、業務指標を設定し、情報化推進
  2003年の創業120周年という節目に向け、「社員の満足度100%達成」をスローガンに掲げ、社員1人1人に、考え方や気質、発想を転換させ、目標を数値化して、「顧客」「仕入先」「自社」の満足度達成率がわかるよう計画をたてさせた。
  また、コンピュータ西暦2000年問題を好機として捉え、そのクリアのためのデータ移行に全社員を関与させた。コンピュータの経験により、入力効率に大きな差が生じたが、年齢差を越えて、リテラシの高い社員が不慣れな者に教育を施し、全社としてのレベルアップを図った。
  これらの地道で着実な、次代への準備を踏まえ、迫り来る2000年への対応のため、業界標準パッケージを選択し、その導入には、ユーザの言葉でコミュニケーションがとれるSEを選んだ。これで、仕入れから販売までの工程を管理し、顧客にも社員にとっても、自社業務の状況が即時に把握が出来るようになった。

■コミュニケーションがあって初めて活きるIT
  鳴海氏は、特に情報化における失敗は、その解決のための経験を、バージョンアップと捉える。また、どんなにIT化が進展しても、商売は対面が基本、と言い切る。
  情報化が浸透するに従い、当社の経営はオープン化され、顧客には正確な情報がデジタル的に提供できるようになった。一方、社内の情報交換は、あえて手書き日報への社長書き込みの仕組みを残すなど、アナログ部分も大切にし、コミュニケーションにメリハリを持たせるよう工夫した。
  そして、情報化で省力化され、発生した余裕を、日常のランニング業務から将来を築くためのチェインジング業務(CD-ROMを用いた企画型提案による販路拡大等)へと転換し、顧客/仕入先/自社、3者の満足度100%達成実現を目指す。
  最後に鳴海氏は、IT=人であり、ITは、Information&Communication Technology(ICT) となってこそ、機能するものだ、とまとめた。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:30 北海道地図(株)   事例発表日:平成12年8月5日
事業内容:地図調製・印刷・出版
売上高:不明 従業員数:270名
2001年4月
資本金:7000万円 設立:1957年8月
キーワード 地図調製・印刷・出版、
地図の電子化、
GIS、GPS、コンピュータマッピング
情報革命時代の地図づくり~地図屋から空間情報ソリューションへ

北海道地図(株) URL:http://www.hcc.co.jp/

北海道地図(株)代表取締役副社長 朝日 守氏
プロフィール

 昭和42年、北海道地図(株)入社。札幌支店を経て、45年東京支店開設に携わり平成3年まで東京勤務。その後、市場開拓と合わせてコンピュータマッピングシステムの開発、カーナビゲーション地図のデータベース事業などに参画。旭川情報産業事業共同組合の副理事長として活躍されている。

~地理情報システムがこれからの社会を大きく変える~

 紙媒体の地図から電子媒体の地図への変化は、地図にさまざまな情報を付加することになった。北海道地図、という社名から連想する範囲にとどまらず幅広く、業界において屈指の地位を築いている同社は、IT革命の中でも注目されている地理情報システム(GIS)の担い手として大きな使命を果たしつつある。もはや地図屋にとどまらず、空間情報ソリューション企業と名乗る同社の事業を紹介していただいた。


■干物から活魚へ、地図が変わった20世紀末
  最初に、「20世紀末、地図に何が起きたか」とセンセーショナルなことを言いましょう。一言で言うと「"干物"から"活魚"へ」ということです。今まで地図というのは大部分が紙地図、つまり"干物"のようなものでした。紙ですから、書き込むにしても限度があるし、コンピュータにそのまま入るわけではありません。それが電子地図になることにより、乾きものから生ものの"活魚"になり、新鮮な素材になったのです。それにより、誰でもその素材を使い、自分の料理が出来る時代になりました。こうした流れで、当社は最近では、ただ単に地図を納品するだけではなく、納品した電子地図について、お客様がどのような使い方ができるのか、と、色々ご相談に応じるというソリューションの段階になってきています。
  紙地図だと折り畳んでポケットに入れるにしても、携帯性に問題がありましたが、電子化によりカーナビゲーションや携帯電話とも合体するようになりました。ダウンサイジング化の実現です。
  また、我々の業務においても、これまで納品といえば重い荷物を担いでお客様のところまで伺っていたものです。書店では地図を並べてお客さんを待つというスタイルでした。しかし、これから21世紀に入りますと、ネットワークで地図が配信されることも本格化すると思います。

■地図の基本的な分類
  まず地図には、大きく分けて次の3種類があります。
1)基本測量図
 これは皆さんに特に馴染みの深い地図でしょう。測量法に基づいて、国土地理院が作成するものです。2万5千分の1、5万分の1の地形図があり、道路、鉄道、河川、住宅密集地、公共施設などを記号化してプロットしてあります。ちなみに、カーナビゲーションなどで使われているオリジナル地図は2万5千分の1の地形図で、日本全国が4400面で構成されています。
2)公共測量図
 測量法に基づき、公共団体が測量をして図面を作っているものです。代表的なものでは、土地登記簿関係で使われる公図、地籍図などがあります。
都市計画を行っている自治体は全て2千5百分の1の地図を所有しています。特徴的なのは、道路真幅があり個々の家の形まで出ていることです。用途地域などを策定していくための大事な図面です。
3)官公庁の調整図
各官庁が色々な分野にわたって行政を行っていくための目的別の図面です。例えば、農村整備、道路計画など100種類以上あります。もともと当社はこの行政用地図オーダメイドの専門業者で、全国の2割くらいは当社で請け負っているといえます。
この中でも、タイムリーなものとして、3)官公庁の調整図に分類されるものですが、ハザードマップを紹介しましょう。



  有珠山や三宅島の噴火が続き、住民たちがハザードマップを見て避難した、という報道を耳にされたかと思います。ここ数年、全国的に、その町にあったハザードマップの作成が進められてきました。ハザードマップの利用方法の例としまして、過去の洪水履歴からこのくらいの河川氾濫があるだろうという想定のもとで、地区別に色分けして避難場所を明記してあります。当然、そこには災害の復旧活動もありますので、ライフラインといって主要道路が着色されていますが、ここを使って避難をしたり救援物資を運んだりということがあらかじめ地図化されているわけです。
  また、民間の出版地図では、代表的な道路マップや住宅地図があります。

■コンピュータによる地図の作成が、新技術を構築させた
  では、地図作成のコンピュータ化についてお話します。当社は地図屋ですが、最近では情報の分野で熱い視線を注がれています。なぜ地図が高度情報化時代とかIT産業の一角に入れていただいているか、これはやはりコンピュータで地図を作成するようになったからだと思います。
  先にも言いましたように、紙媒体の地図では、それ以上の加工が難しくなかなか高度情報化に馴染みませんでした。ところが、地図をコンピュータで作るようになると、電子媒体で電子成果の原図が出来上がります。次に電子原図を画像処理をして印刷成果でお客様に納品いたしますが、その過程で出来上がった電子媒体の電子原図を、お客様自身が使ってみたいという要望も多く、地図が高度情報化の中に取り入れられていると実感しています。
  しかし、電子地図を作るには、オペレータだけ集めてもできません。品質管理、工程管理を担う人が必要です。
我々は、コンピュータで地図を作るという流れの中で新技術を構築してきました。ここに代表的な3つを紹介します。
1)シームレス
国土地理院の2万5千分の1、この代表的な地図は全国を4400面で構成しております。簡単にいえば座布団を4400枚並べて、はじめて日本をカバーする切り図ということです。4400枚のフィルム紙の地形図をつなぎ合わせることは絶対に不可能です。コンピュータマッピングで電子的に繋ぐことができ、初めてカーナビゲーションの目的地への最効率的ルートを示す経路誘導などが可能となりました。
2)スケールレス
 地図は2千5百分の1、2万5千分の1、5万分の1など色々なスケールがあります。従来の紙地図の場合は、紙の伸縮の影響があり、ことに梅雨時などは3ミリ~5ミリ程度のずれが生じます。電子の世界ではそれが許されません。当社は、他社に先駆けて、各スケールのオリジナル地図に経緯度座標を高い精度で埋め込んであります。これにより、スケールがどう違っていようと、当社の電子地図は正確に重ね合わせが出来ます。
3)10m格子の標高データ
全国2万5千分の1地形図の10m等高線をデータとして取得し、電子的に10m格子のメッシュ方眼をかけて、格子の交わした点の高さをコンピュータで計算し、標高データがられております。毛利さんがスペースシャトルで立体地図を作るための作業を行なっておりましたが、あの時のデータは30メートルの格子データです。当社の格子データは10メートルですからぐっと高い精度になります。これを使うと立体地図が垂直にも俯瞰しても見ることができます。谷筋の傾斜角度までわかりますから、ここに地質、土壌のデータを入れて降雨量も入れると日本のどこで土石流が発生する可能性が高いか等がわかってきます。

■情報革命とコンピュータマッピング
  当社では1970年代からコンピュータを使い地図づくりに挑戦していました。当時、ほとんどの官公庁は行政のデータを、磁気テープに入れて収録していました。総理府統計局では国勢統計調査のデータから人口分布図を作っていました。現場の職員の方々が手作業で色分けしようとしているのを見て、当社が地図専用の画像処理システムを提案してコンピュータマッピングを実現しました。それが日本で初めて画像処理で地図づくりをした第1号機です。このソフトは国土地理院のその後のCCPS(コンピュータ地図処理システム)というシステムの基本ソフトにも採用いただいています。
  1980年になって、GPS(Global Positioning System)という技術が大きなキーワードになりました。これは、軍事用の全地球測位システムの電波で、アメリカが冷戦構造が終わってGPSを開示したことにより、カーナビゲーションの商品化が可能となりました。
  次に、1990年代の大きなできごとは阪神淡路大震災でした。神戸市役所の庁舎の5階に都市計画課があり、マップロッカーに2万5千分の1の都市計画図が保管されていたのですが、そのフロアが潰れて取り出せませんでした。その時に反省したのは、日本にも地理情報システムがあったら、大震災の復興活動にかかる時間ももうちょっと違ったのではないか、救援隊ももっと早く出すことができたのではないかということです。地理情報システム(GIS:Geographic Information System)とは地図を紙媒体ではなく電子化しコンピュータシステムで地図情報を有効する利用システムで、当時アメリカやカナダではすでに本格的な運用が始まっておりました。わが国は大震災が契機となり官民一体となって国土基本図のデジタルの推進協議会を作って、今日に至っています。
  すでに世界的にGISを使う地理情報や電子地図は空間データベースという言葉を使っています。つまり、三次元で座標値をとらえるという意味です。我々はそういう時代に対応すべく、GISへの空間データベースの提供を行っています。
  そこには、社業を傾注すべく相当な投資を行っています。あわせて、お客様からも、GISを作りたいがどんなデータベースを作ったらよいのか、どんな地理情報を整理したらよいのかなど問い合わせが多くあり、それに対して地図づくりのシステムコンサルティング、つまりソリューションということで色々なお手伝いをさせていただいています。
  GISを理解していただく簡単な例として、旭川市の水道局の図面を例にお話しましょう。従来は、2千5百分の1の水道の図面と、さまざまな帳票を付き合わせて漏水などの対処をして多くの時間を費やしていました。ところが、GISにより、地図と帳票が連動し、市内の水道管が材質別とか年代別とかで検索が可能になりました。これからの日本の世の中は新しいインフラ整備よりも、今まで構築して行なったインフラの改善やメンテナンスが大きな事業量になってくると思いますので、さらなる活用が期待されます。

■有珠山の噴火に対応した避難用のGIS
  先頃、有珠山の噴火がありました。実は当社は2000年3月納期で、北海道庁から、有珠山周辺地域の民有林の治山情報システム作成を受注し、進めていました。有珠山は地質的にも土壌的にも大変雨に弱いところで、民有林を守るため、さらには人命を守るためにも構造物を造って大きな洪水の時に泥流が起こらないようにしています。また、急峻な地形では構造物が作れない代わりに、空から植物の種を蒔いて緑化を進めているところもあります。地図を拡大すると、コンクリートの遮蔽がたくさん出来ているのですが、これもひとつひとつ写真にまで撮られてデータベース化しています。
  こうしたGISの製作作業の過程で例の噴火が発生し、早急に避難のためのGISを立ち上げて欲しいと言われて作りました。
  避難所のGISは、まず避難所が色で示され、クリックすると避難所のリストが出てきます。そこに収容人数、所在地などがあり、さらにクリックすると、例えば虻田小学校の場合は1500人収容できるので、もし700人しかいなければあと800人収容できることがわかります。これに個人リストをつけると、誰が今どこの避難所にいるかもたちどころにわかります。
  これからGISについては行政もずいぶん投資を行い、活用を図っていくと思われます。
当社ではGISに対して、全国レベル11種類の地図データベースの提供を開始しています。

■GIS(地理情報システム)の可能性はさらに広がっていく
  政府のIT化推進政策がGISの普及を加速させることは確かです。今後、行政にしても民間企業にしても、情報管理処理の中で、いつどこで、という位置座標を持ったデータを持つことが大変有効だからです。ほとんどの役所はまもなくこういったGISを何らかの形で整備すると思います。
  次に、行政、企業に共通して、経営の効率化が急務な局面にあり、GISは必要不可欠となってきています。特に1つ1つの課がGISを立ち上げるよりも、共通の空間データベースサーバーを持ち、データを投入していき、その共通データから各課が必要に応じてデータを使う、いわゆる情報の共有化が有効といえます。
  縦割りの社会、今まで縦線だけだった企業や行政の組織が、GISによりネットワーク化されます。そこから、組織が活性化していくことは間違いないでしょう。また、GISのシステム構築は、多くの情報関連業種がかかわり合いを持つことにもなります。我々地図屋だけの仕事ではなく、大きな光ケーブルなどのインフラ整備も必要ですし、コンピュータなどのハードの分野、大手の力によるシステム開発も必要になります。GISエンジンは中小企業のユニークな技術を持っているところで数多く作られていきます。
  さらには地域の雇用増大にも繋がります。これは当社が身を持って実感していることです。つまり、どうしても現在の技術では緻密な作業は手作業でデータベースを完成させていくしかないのです。そこで当社は、別会社を作り年間百数十人をオペレータとして採用しています。もう4、5年になります。この町で、140、150人の人を採用できるということは、少しは雇用促進に関与できているかなとも思います。これは情報処理業務の拡大で地図以外でも全国的な傾向になっていくのではないでしょうか。
  GISは帳票のデータと地図を連動することにより、今まで眠っていた情報を活性化して使える仕組みですから、産業、観光などの振興にも大きく貢献すると確証しています。通信回線での情報交流により、地方にあっても全国レベルの知名度、さらには国際化も夢ではありません。今すでにインターネットやwebによって相当な情報がやりとりされていますが、そこにGIS的な発想を入れると、一層情報がわかりやすく有効に伝達できると考えます。
  どうか皆様のお仕事にGIS(地理情報システム)がお役に立てていただけますように、一緒に考えさせていただければ幸と存じます。ご清聴ありがとうございました。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:38 北海道エニコム(株)   事例発表日:平成12年12月8日
事業内容:ソフトハウス
売上高:40億円 従業員数:295名 資本金:8000万円 設立:1985年11月
キーワード ソフトハウス、

IT化の提言
IT化をどう進めるか  

北海道エニコム(株) URL:http://www.hokkaido.enicom.co.jp/

北海道エニコム(株) 代表取締役社長 山本輝之氏
プロフィール

 1941年北海道函館市生まれ。1963年東京工業大学経営工学科卒業。
同年 富士製鉄(現在の新日本製鉄)に入社。1993年北海道エニコム常務取締役就任。1997年同社代表取締役社長に就任、現在に至る。
2000年北海道情報処理産業懇談会代表幹事就任。

~システムインテグレータとして、IT社会における企業のあり方を提案~

 北海道エニコムは、室蘭のIT化のリーダー役として期待されるところ。その企業の社長である山本氏に、今の時代のポイント、IT化へのアドバイス等をわかりやすく語っていただいた。


■もはやインターネットを無視して生き残れない
  当社は、本社を室蘭に構え、札幌と東京に支店があり、社員数300人、売上高40億円の企業です。もともとは新日鉄の室蘭製鉄所のシステム部門が鉄だけではない利益体質を求めて分社してできたもので、室蘭製鉄所のコンピュータ関係のアウトソーシング先として委託されています。
  それ以外に、さまざまな企業のシステムの受託開発も請け負っています。お客様のニーズに合わせて最適なシステムとソフトウエアを組み合わせて納めるシステムインテグレータということです。現況は東京のクライアントが中心ですが、北海道あるいはこの室蘭地区での仕事を増やしていきたいと思っています。
  こうしたIT業界の仕事を行っている私の目から、IT社会とは何かということからお話します。4、5年前からインターネットが急激に増え、グローバルに通信できるものが出来上がりました。このインターネットの上に立って社会のほとんどの活動が行われるようになるということです。例えば電子商取引、BtoBやBtoCです。BtoBは企業間取引ですが、トヨタ自動車が部品発注を世界に向けてインターネットで行なえば、世界中でいちばん安いところが見つかる。そのような取引がどんどん増えていくことでしょう。そうなると、当然それに応じない企業は商売ができなくなります。そういう社会が目前なのです。BtoCは企業が消費者に商品販売をネットを通じて行なうものですが、これもまた消費者向けの商売をなさっている方などは時代の流れとして取り組んでいかざるをえないでしょう。
  電子決済も定着しつつあります。ネット上で決済をやってしまうもので、銀行関係も力を入れています。
  また、政府が4、5年後には電子政府をやると言っています。当然自治体も巻き込んだものになるので、情報処理産業に関わる企業は日夜勉強しているところです。電子政府で想定されるのは、許認可を全てネット上で行うとか、国の入札もここで行うなど、まさにインターネットのもたらすネットワークとつき合っていかなくてはならない世の中だということです。

■インターネット端末としての携帯電話
  インターネットの普及は、日本はアメリカ、韓国より遅れています。しかし、携帯電話によるインターネットは圧倒的に日本で普及するのではないかと思います。NTTドコモのiモードには、1年の内に1,000万台の加入がありましたし、今でも毎月130~150万台くらい加入しているそうです。携帯電話の技術は日本がいちばん進んでいて、さらに使いやすく進化していくでしょう。2002年くらいには、おそらく通話よりも、データ転送のために携帯電話が使われることが増えるのではないでしょうか。そうすると電話じゃない、携帯情報端末と呼ぶほうがいいという話があります。パソコンよりも安いし、パソコンほど扱い方がむずかしくない。安いし、手軽だし、持って歩けるというメリットを考えると、インターネットの端末として携帯電話を使ったソリューションにもっと取り組んでいくべきだと考えています。
  例えば、社内メールや勤怠管理も携帯電話で行うといったことも考えられます。営業の現場では、セールスマンがお客様のところで商談中に「50個欲しいけど在庫あるか」と聞かれたら、携帯電話で社内システムに接続して在庫状況が即確認でき、「在庫が100あるから大丈夫ですよ」と答えられる。「じゃあ50個発注するわ」と言われたら、その場で携帯電話に受注を入力するということも実現されるでしょう。
  おそらく、21世紀は、携帯電話とインターネットがソリューションのキーワードになると思います。

■さあ、IT化に積極的に取り組もう
  では、このような世の中において企業はどうしたらよいのでしょうか。
  まずは何と言ってもインターネットを始めなさいということです。プロバイダのコストは、入会料と使用料に加えてプロバイダまでの電話料がかかるので、室蘭の企業なら当社のような室蘭のプロバイダを利用するとか、市内電話でかかるプロバイダにつなぐのがコツです。そして、情報発信のために、ホームページを作成するなど、インターネットと自分の会社が繋がるようなことから始めてみましょう。
  また、インターネットで外部とやりとりしていても、社内システムがないと競争力、経営革新という意味では効果がありません。社内システムの構築に努めることも重要ポイントです。現在請け負っている事例を紹介しますと、ある土建会社ですが、本社にLANが構築されていてグループウエアサーバーがあり、アプリケーションとしては工事管理と財務管理用のサーバーがあり、当然本社の全員にパソコンが配布されています。また道内に何カ所もある拠点とも回線で繋がっています。
  業務システムについては、もはやアプリケーションを作っているようではダメ、作らないとならない特殊な仕事の仕方をしていること自体、もう競争に負けるということです。パッケージでできている仕事の仕方が標準だと思って合わせていくようにしなくてはいけません。できるだけパッケージソフトを使うことが大事です。
  インターネットについては、まずは繋ぐこと、そして、どこまでやるかは各企業の事情によりますが、インフラを作ってアプリケーションをだんだん増やしていく方法で対応していかないと生き残っていけません。

■否応なしにIT化は進む、上手に専門家を活用して
  「俺は社長だからパソコンは触らない」と言っている方は、とにかくまずパソコンに触れることから始めてください。社員も含めて全員がパソコンに親しむようにしましょう。それから携帯電話も必需品です。
  社内インフラの整備は、「餅は餅屋」の発想で、専門家に頼むことをお勧めします。ネットワークを作ると今度はセキュリティの問題への対応、データベースのデータの重要度によって二重に持つなど技術的な知恵が必要ですが、そこまで社内で技術者を養成して行う必要はないと思います。システムインテグレータにお任せ下さい。また、大量のデータを自社に置いておかなくても、専門的な倉庫に預けたほうが安心ということでデータセンターへのニーズも高まっています。
  ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)もポイントです。専門的なものよりも誰が考えてもこういうシステムだというようなものが先に普及すると思われますから、業務システムよりCADなどのソフトウエアを使いたいというニーズがあるかと思いますが、そこでASPを活用するとよいでしょう。
 このように確実にIT社会が来ていますし、否応なしに対応していかなくてはなりません。当社は地元の皆様方のIT化のお手伝いをさせていただきたいと考えておりますので、何かありましたらお気軽にご相談下さい。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:32 不二精機(株)   事例発表日:平成12年10月25日
事業内容:金型製作
売上高:94億7200万円
2001年12月(連結)
従業員数:223名
2001年12月
資本金:9億2400万円
2001年8月
設立:1965年7月
キーワード 金型製造業、
原価管理、
CAD、CAM、構内PHS、ロボット化
情報を活用した業務革新

不二精機(株) URL:http://www.fujiseiki.com


不二精機(株) 代表取締役社長 伊井 稔氏
プロフィール

 1953年生まれ。明星学園高等学校卒業後、大阪厚生年金会館勤務を経て、1971年不二精機㈱入社。1985年常務取締役、1996年社長に就任し現在に至る。

~現場の無人化と情報活用をポイントに、国内から海外へ市場展開~

 昔は職人的要素の濃かった金型産業も、今日では機械化、コンピュータ化の波にのり進化してきている。伊井氏の率いる不二精機㈱もまた、アナログ時代からIT時代へと、幾多の試行錯誤を経験しながら成長してきた企業のひとつである。国内市場の冷え込みにより、海外へ市場確保を図ってきた同社にとって、成功の武器となったIT化のステップをお話いただいた。


■会社概要
創 業 昭和30年3月
設立年月日 昭和40年7月1日
資本金 499百万円
社員数 238名
生産品目 プラスチック超精密金型

■当社のコンピュータ黎明期
  当社は私の父が始めた会社で、金型製作を行っています。昔は完全なアナログのやり方で、図面を書くには色々と計算が必要で、計算機と計算尺を使ってやっていました。昭和50年頃にシャープのMZという組立キットができたので購入したところ、誰でも簡単に計算ができるようになり「パソコンって便利だな」と思ったものです。そのうちにわが社でもNC機を購入することになり、小さい頃からラジオの組立などが得意だった私が担当になりました。これがまた大変な代物で、紙テープに穿孔されるのですが、いちいち交点を計算して打たなくてはならないようなものでした。いつも手元には三角関数表、電卓が必要でした。
  やがて従業員が増え、書かなくてはならない図面も増えていき、NC機もだんだん増えたのですが、いちいちパソコンで計算していては、らちがあかないということで、CAD/CAMを入れたのが昭和58年のことです。当時買ったのはVAXの750です。その時にデータ量の増加に伴い、紙テープ量の膨大さに頭を痛めていたので自己流で、70~80メートルほどの電線で機械の口につないで、1個ずつプロセスを発生させてぐんぐん回す乱暴なやり方で、7台くらいのNC機をDNCで動かすことに成功しました。これは昭和60年のことでした。

■業界特有のいい加減な見積体質から脱却、原価計算管理を
  金型の見積はずいぶんラフで、製品モデルと図面を見ながら手の上にのせてみて、「まあ、このくらいやったら200万かな。ちょっと高いんやったら180万にしときましょ」というやり方が通っていました。図面を書き上げてからでないと工数分解ができないため、図面を書き上げる前の段階では確度の高い見積ができないという状況でした。当時は当社でもかなり忙しく、残業や休日出勤も含めてバンバン仕事をこなしても、後から後から注文がきて、うれしい悲鳴を上げるような時代でした。とにかく1カ月、一所懸命働いたら結果として儲かっているのだからいいじゃないかと考えがちでした。しかし、「そうじゃない、儲かっているやつも、儲かっていないやつもある」。工数で見ますと、だいたい1つの金型に50~60枚の部品図を書いていて、その1つの図面につき7~10工程あるわけですから工程数にすると非常に多いものになります。
  作業日報を書いて集計もしますが、こうした集計もパソコンを使ってやろうということになりました。原価計算ということです。しばらくするとデータが溜まってきて、あそこのお客さんから受けた金型はどうも儲からない、その受注を控えてこちらの儲けのいいところの注文を受注展開しましょうなど、儲かる仕事、儲からない仕事が見えてきました。これが昭和57、8年です。
  そうするとやはり利益率が上がってきました。ちょうどアルビン・トフラー著の「未来の衝撃」という本を読んでかなりものの考え方に影響を受けまして、これからはまさにコンピュータの時代だと実感しました。しかし、コンピュータそのものはまだまだ高価でしたので、大阪の日本橋でよく中古を買ったものです。最近ですと20万円もあればプリンター付でフル装備のパソコンが買えます。5年リースだと月々4,000円くらいでしょうか。

■1人1台以上のパソコン環境を整備
  結果的に当社はどうなっているかというと、現在、従業員数238名でパソコン台数は300台を越えています。1人1台以上です。それとCADの端末が約40台あります。社内のほとんどは構内PHSです。据え付けの電話だと相手が不在勝ちで、なかなかつかまりませんから管理職は必ず1人1機持っています。一般職でもキーになる人間には持たせています。新規契約にしても据え付けの電話に比べてPHSのほうがぐんと安いのです。5年前に奈良工場ができた時、カテゴリー5のインターネットネットケーブルを300本くらい引き、今は電話もパソコンも同じケーブルを使っています。コンピュータ室にPBXとサーバーがあり、巨大なパッチパネラーがあり、そこで電話とパソコンを切り替えています。それでももう空きがなくなってきました。
  なぜ、そんなにたくさんパソコンを使うのかと言いますと、事務系の合理化は遅かったのですが、現場では工作機械の管理などにたくさんのパソコンを活用しています。いちばんたくさんパソコンを使っている人間は1人で6台を使っています。EWSだったら1台でできてしまうことですが、壊れると修理に3日から1週間くらいかかってしまいます。パソコンだとストックがあるから大丈夫です。つまりリスク回避のために汎用品をはめているという展開を選択しているのです。

■人と工作機を増やさずに売上をぐんと増やせた
  今、本社の工場でロボットが7台、松山では5台動いています。だいたい人が1時間働くと10時間動いてくれます。なぜこういうことを考えたかというと、日本の人件費が高いからです。同じ金型でも中級品、低級品は東南アジアにとられてしまっています。彼らの人件費は我々の20分の1です。ですから、東南アジアの人件費で日本の技術を利用する。これしか生き残る途はないということでロボット化を考えたのですが、工作機メーカーに話を持っていってもペイできないとして、乗ってくれませんでした。それじゃ社内でやってみるかとやってみたら結構できてしまったのです。できてしまうと現金なもので、見学にきたり、分けてくれないかと言われました。今後、金型以外の部分の事業として展開していこうと考えています。
  コンピュータの台数が増えだしたのは昭和58年、つまり1983年あたりからです。ソフトの開発やロボットが軌道に乗り始めたのが1992、3年です。この間、人員は200人から220人ベースで変わっていません。

  期末従業員数推移
事業年度 92 93 94 95 96 97 98
期末従業員数(人) 208 220 218 216 218 218 232

  売上高は98年が76億円、99年が90億円(12ヶ月換算値。当期は9ヵ月の変則決算で、実績は67億円)、今期が112億円です。工作機械の総台数は少し減っています。というのは、今まで月に200時間しか動かないところを400、500時間動く機械が年々増えているからです。人員も工作機も増やさずに売上を上げていけるというわけです。
  最近では主力商品として、CDのケースなどの金型をやらせていただいています。さらに、我々が成形機も入れましょう、周辺機器も揃えましょう、ロボットも仕入れましょう、とフルターン機で提供して製品の品質ギャランティをしましょう、という商売を5年前から始めました。これが非常に当たり、去年CDのケースを1社からまとめて70セットを買っていただきました。
 
■海外市場への戦略とは
  金型屋にはあまり大きな規模のところはありません。世界1位がカナダのハスキー社で、ペットボトルの市場で過半数の占有率を誇ります。2位が新潟のキョウワさん、ここは自動車の金型をやっています。3位が当社です。金型屋は規模が大きくなると潰れるともいわれます。我々のようなところでも本社工場で半分くらいの生産量を持っていますが、工程管理の登録されている工程数は4万から5万工程で、常に工程管理の中に入っていて、それが滑った、転んだ、失敗した、という情報が毎日リアルタイムで変わりますからもう大変です。担当者は3カ月で胃に穴があくという状況が続いていました。これのコンピュータ化も、少しずつ階段状に進めて行いました。
  現在、輸出が売上金額のウエートで65%、国内需要がどんどんやせていくので、海外に販路を求めるのです。でも、おもしろいことに海外には製造拠点がひとつもありません。故障したという場合、フェデックスで部品を現地に送ります。現地のそれを技術熟練度の低い方や、現地のオペレータが交換しても大丈夫ですよ、という戦略を5、6年前からやっています。部品の互換性に着目し、例えば50の型があれば50のスペアパーツがいるところを部品の精度がよければ、50型分でも1型か2型のパーツで対応できる仕組みを確立していて、好評を得て輸出が増加しているところです。
  今後、金型屋として生き残っていくには、ロボットとコンピュータの組合せによる無人化を進めるしかないと考えています。ロボットのシステム、工程管理、CAD/CAM、この3つの要素が無人化のキー的要素です。そうして現場で余った人間は首を切るのではなく、設計、営業、技術、お客さんとのフロントの部分に活用していきます。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:20 (有)函館カネニ   事例発表日:平成12年9月7日
事業内容:海産物の加工・販売
売上高:不明 従業員数:不明 資本金:不明 設立:不明
キーワード 海産物加工・販売、
荷物問合せ、
情報の発信、ショッピングモール
ネットショッピングはこれからだ

(有)函館カネニ URL:http://www.rakuten.co.jp/kaneni/ 

(有)函館カネニ 代表取締役 藤田公人氏

プロフィール

 海産物の加工、販売、企画を手掛ける藤田社長は、カネニグループの中核を成す函館カネニの2代目社長である。

~「感動」あり「ドラマ」あり。それが函館カネニのネットビジネス~

 インターネットを利用して販路拡大を実践しているが、『商品を売る前に心を売る』という心情を持つ藤田社長にまだまだ未知数の可能性を持つネットビジネスについて伺った。


■インターネットとの出会い
  私がインターネットと出会ったのは、1996年、平成8年4月でした。ある四国の業者さんよりショッピングモールへの誘いがあったのが始めでした。この時の参加業者は、インターネットの接続はおろかパソコンすら持たなくてもインターネットビジネスに参加できるということでした。その業者のページに商品の写真1点が数千円という内容で当店も数点ほどこのページに掲載しました。初めてのネットビジネスへの挑戦でした。しかし、挑戦と申しましても注文はその業者さんがインターネットで注文が入った時点でその注文をファックスで参加業者に送信するというものでした。要するにインターネット委託販売とでもいったところです。このときの注文は確か数個くらいで本当に数えるほどでした。

■ネットショッピングに対する疑問
  その2ヶ月後に初めて当店のホームページをホームページ制作会社のサーバーに開設し会社の情報を発信しました。内容は会社の所在地や商品販売のページです。当初は商品点数が15点ほどで、Eメールとファックスフォームでの受注が直接できる内容でした。本格的インターネットショッピングのできる環境を構築した訳ですが、ここでも注文は数個でした。しかし、その当時はまだまだ時間がかかると思っていましたので売れなくてもあまり気にしませんでした。
  この頃の当店のホームページ利用法ときたら、まだまだインターネットで買い物をする人も少なく、先ほど申しましたが注文も何個かでした。そこで名刺にホームページのURLを印刷して朝市に来たお客様に「当店のホームページです。是非見てください。」と言うと結構お客様からの受けは良かったです。それもお客様の大半の方はインターネットという言葉は聞いたことがあってもそのページを見る環境がほとんどないはずなのですが、新しい事に取り組んでいる姿勢がお客様に伝わったのだと思います。フリーダイヤルの時も同じようなことをしていた記憶があります。
  しかし「本来のインターネットの良さとは?」と疑問をもったのは平成9年明頃でした。やはりインターネットの最大の強みはリアルタイム性であります。我々のような海産物等の販売はなんといっても新鮮さが大切です。店頭での対面販売と同じ感覚でいつでも販台にはその日その日のドラマがあるのです。これは、インターネット店でも同じ事だと思っていました。しかし、ほとんどの会社もそうであるように自前のサーバーなどなく自社のページをプロバイダーやホームページ制作会社のサーバーに預けていました。情報発信用のページであれば多少はよいのですが、ネットショッピングのページであれば商品画像を入れ替える度にお願いしなければならないので時間がかかるのがネックでした。しかし、この頃のホームページ作りは私達素人ではかなり難しくどうすることもできませんでしたので、一度ホームページを作ると結構そのままというケースが多くありました。お客様が店頭に来られて、もし毎日毎日が同じ商品だったら3日目からは来て頂けないと思います。これはホームページも一緒だと思います。ちょうどその時でした。

■楽天市場さんとの出会い
  1997年、平成9年4月に立ち上がった今やショッピングモールでは話題に事欠かない㈱エム・ディー・エムの本城さんが、現在は㈱楽天市場の副社長さんが、営業で函館に来られたときでした。その本城さんから楽天市場に出店してみませんか、とのお誘いの電話を頂き大変興味のある内容でしたので早速会社に来ていただき詳しく内容を聞かせていただき、二つ返事でOKしました。
  5月には楽天市場カネニ店としてオープンしました。それはまさにしく私の願っていた内容でした。それはホームページ作りが私のような素人でも、多少ワープロさえできればそれなりのページになるという内容だったのです。制作は会社からでも自宅からでも、パソコンとインターネットのできる環境さえあればリアルタイムにページができあがるのですから絶対でした。インターネットは簡単に言えば、ありとあらゆるデータをやり取りできる電話のようなもの、もしくは回線を使用した自社のミニ放送局のようなツールでした。もし放送局だとしたら、その内容は「感動」あり「ドラマ」あり「ニュース」ありのさまざまな情報を発信できるのだとしたら、と考えると私達の夢は膨らむ一方でした。
  あまり難しく考えるのは専門家にお任せして私達はあくまでも難しく考えずに、単に便利なツール、いわゆる「道具」を便利に使うということでした。話を戻せば、楽天方式は画像や情報等をリアルタイムにページに反映できるということで一気にインターネットが身近になった訳です。本来商品を売るはずのショッピングモール楽天市場のページに、遊び感覚で、先ほどの「感動」ではないですが、「思い出のコーナー」を設けて函館朝市に来るお客さんの写真をデジタルカメラで写しすぐさま楽天市場のページに載せました。それが大変に受け、修学旅行の生徒さんなどは当日の朝市に居るみんなの元気な様子がインターネットで各地の学校や生徒さん宅まで、当日見ていただけるということで本当に喜んでいただきました。その1年後にまた同じ学校の後輩が「思い出のコーナー」に載っている先輩の写真をプリントアウトして、わざわざ、私達も写してくださいと訪ねてきたこともありました。そのような内容からもおわかりになると思いますが、この楽天市場さんでも1,2年はたいして売上はありませんでした。だからこそ色々なことができたのだと思います。現在では写真もどんどん増えてきましたのでこのサイトも別の場所へ引越しました。そのようなことで楽天市場さんのおかげで当店としましてもかなり勉強させていただきました。その楽天市場さんも開設当時の出店数は当店を入れて14店舗でしたから、楽天市場さんのトップページに常に当店の店舗名がありました。それが今や2年5ヶ月あまりで、その数は4,100店舗以上です。この数字からでもおわかりのように楽天市場さんの出店企業の数だけでも、いかにショッピングモールへの参加店が急激な勢いで増えているかがおわかりだと思います。

■では、売上はいったい・・・。本格的ショッピングモールへの参加
売上のほうはというと徐々にではありますが伸びていきました。最初の四国のショッピングモールはまったくでしたとお話いたしましたが、インターネットが取り持つご縁でこの業者の親会社さんからは毎年注文を頂いています。特に12月などは800万円から1,000万円位の注文がございます。その他にも多少ございます。この売上は完全に業者間での取引です。見積りもEメールなので大変に便利です。
2年目にしてようやく見えてきた数字、これから申し上げる数字は楽天市場カネニ店での売上です。出店当時の平成9年の売上は8ヶ月で362,000円弱と各月が二桁の数万円程度の売上でした。翌年の平成10年度は2,514,000円とここへ来てようやく各月の売上も二桁、三桁と少し上向きになり、12月には待望の四桁売上の11,492,000円とこの月で、ショッピングモールでの売れる「コツ」の手応えを感じました。そして平成11年度は各月の売上も二桁台の月がなくなり三桁、四桁の月が6ヶ月づつで、12月は4,264,260円と良い感触でした。昨年の楽天市場カネニ店での売上が14,223,813円と、私といたしましてはまずまずの成績をあげたと思っています。売上高だけを見ていましたら大した事のない数字かも知れませんが、この数字と先ほどの出店数を「伸び率」という視点で見ていただくとこれは本当に驚異だと思います。しかしこの驚異も、なにもしないでいると驚異ですが、このインターネットを上手に使えば全然驚異ではなく、むしろ使ってこそチャンスなのかもしれません。またネットビジネス全体の売上等の伸び率も、これからもまだすごい勢いで伸びるでしょうし、このインターネットの活用法にはまだまだたくさんの未知数があると思います。

■便利なインターネット
ネットショッピングだけのツールとしてばかりではなく企業のオリジナル情報の発信局として活用するのも一つの方法かもしれません。これくらい便利でかつ利用価値のあるツール(道具)はないと思っています。当店の一つの例として、当店のパソコン受注システムではお客様よりご注文いただいたお荷物に対する問い合わせなどで、お荷物所在や到着時間の問い合わせなどの時は、一回一回運送会社へ電話をしてその返事を確認してからお客様にその内容を連絡していました。現在のシステムではそのお客様の受注画面に発注伝票の問い合わせ番号が反映されていますので、パソコンのマウス操作1つで簡単に運送会社「インターネットお荷物問い合わせ画面」にアクセスできるようなシステムになっています。今ではお客様からお電話をいただいたまま、そのお荷物の情報を直ぐにお伝えできるようになりましたので、結構お客様の方が驚いたりします。また、電話やファックスでの注文をいただいたデータは、すべて手作業で打ち込み発送伝票や納品請求書を発行していますが、インターネットの場合はデータの打ち込み作業はお客様自ら自分のパソコンを使ってインターネットで注文してくれる訳ですから、発送伝票や納品請求書の発行は少ない作業で反映されます。時間の短縮、いわゆる人件費のコストダウンにつながっています。今までは社員が会社の端末で打っていた作業が、インターネットではお客様自身が自分の伝票等を打ち込みしてくれる訳ですから、コストダウンの分、商品単価も少し安く設定しています。そのようなことでインターネットビジネスの可能性は「やる気とアイデア」次第で未知数のごとくまだまだあると思っています。

■ネットショッピングはこれからだ
  私はネットショッピングはこれからだと思っています。是非「函館ブランドのショッピングモール」を立ち上げたいと考えて、ただ今制作中です。そのようなことで、全国的にもそれなりに名前が知られています函館朝市のショッピングモールを作って、函館市や朝市情報の発信ができるサイトにして、もちろん朝市以外の業者さんにも是非参加いただきたいと考えています。アドレス名は「はこだて朝市ドットコム」でスタートし、また、2年前に立ち上げたもう一つのサーバー、これは全国の朝市や朝市の情報交換の場に使用していただきたいと思っています。そのアドレス名は「朝市ネットワークサービス」です。ということでここでも「やる気とアイデア」で頑張っていきたいと思っていますので宜しくお願いいたします。
 最後に、この様にして売上に繋がったのもショッピングモールに出店したからではなく、スタート時点で自社のホームページを立ち上げ、情報を発信したからこそこの様なチャンスにも、もちろん楽天さんもそうですが、大勢の方と出会えたと思います。本日もまた皆様とお会いできましたことに感謝申し上げます。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:46 (株)南野産業   事例発表日:平成13年2月15日
事業内容:鋳物製造
売上高:不明 従業員数:35名 資本金:不明 設立:1950年2月
キーワード 鋳物鋳造、
トップダウンでの情報化、ペーパーレス、
インターネット販売、工程シミュレーション
情報を活用した業務革新

(株)南野産業 URL:http://web.inet-osaka.or.jp/~nannoind/

(株)南野産業 代表取締役社長 南野 隆弘氏
プロフィール

昭和29年 大阪生まれ
昭和51年 近畿大学卒業

~鋳物業の現場においてIT化により業務革新~

 鋳物鋳造業というと熟練工が不可欠なイメージである。2代目社長の南野氏は、自らIT化に取り組み、ニーズの多様化・高度化・スピード化の進む時代にニーズに適応できる業務改革を実現した。できるところから始めた、最低の投資で最大効果をあげる。謙遜がちなお話の中に、中小企業にも参考となるIT化のヒントがあるようだ。


■導入前の問題点の数々
  当社は、東大阪で鋳物鋳造業を営んでいます。設立は昭和25年、私は2代目社長です。従業員は38名です。鋳物鋳造業というのは、熔解、造型、グラインダー処理などの作業工程があり、当社では複雑な中空形状を要する鋳物の製作を得意とし、特に油圧コントロールバルブ、油圧ポンプ、油圧モーター等の鋳物品が生産の約85%を占めています。
  従来は業務進行において紙の上での作業が中心でした。受注が来たらどういう条件で、どういう製作方法で、いつまでに納品、ということを手で書いてやっていました。つまり、記帳、修正、転記、整理したものを人に見せて仕事をしていました。この作業を繰り返すことによって社内の情報伝達を行ってきたわけです。
  しかし、部品点数だけでも約3,000点あり、作業は非常に繁雑です。受注を受けて生産ラインに仕事の割り振りをする、製品ごとの材料の数量や重量の計算、熔湯の出湯量の計算、造型に必要な時間、などの作業プロセスに関わるものも、入出金や資金繰りなどの経理に関わるものも大変めんどうでした。このような作業のデメリットは、遅い、データとして残らない、あとで引っぱり出すのが大変、並べ替えができない、修正がむずかしい、比較がしにくいなど、あげればきりがありませんでした。現場ではその日に紙を渡されてそこに書かれた分の仕事はするものの、それ以外は情報もないし、わからないからやらないという状態でした。こちらではあれもしておいて欲しかったというものがある、というすれ違いも多々ありました。

■トップダウンでやらなければ、と決意。できるところからスタート
  こうした現状をふまえ、当社では、工程能力を考慮しながらシミュレーションできるシステムを目指し、IT化に取り組んでいきました。開発にあたってはトップダウンでやらなければどうしようもないだろうと考え、自分が開発責任者として強い意志を持って進めることを決意した次第です。
  とはいえ私自身パソコンに詳しいわけではありません。IT化しなくてはいけないことはわかっているけれどもどこから手をつけたらいいかわからない、という声をよく聞きますが、まさにその一人でした。パソコンショップで店員さんに質問しても、説明を受けながら宇宙語を聞いているような状態です。とにかく自分のレベルでコツコツできるところからやるしかないと考えたのです。
  そこで、当社のIT化の基本路線は、紙の上の仕事から現場のノウハウをパソコンの上へと忠実に置き換えることとしました。まず業務分析を行い、現状を変えるためにこうありたいという目標を定めます。システムは段階的にできるところから進めていこうとしました。例えば受注ですと、Eメールやインターネットで入ってくるもの、口頭、電話、ファックスで入ってくるものがありますが、リピート受注、新規受注などそれぞれにフローチャートを作って1個ずつプログラムを開発していきました。こうして受注登録し、製作図を決定、工程ごとの展開を日程計画します。外注に出すものはそこで注文書を発行してそれが納入されたらいつでも内作はOKという形になります。作業がどんどん進んでいって納品、納品書・請求書発行、台帳記帳まで行えます。今取り組んでいるのは財務関係です。市販のソフトを活用して経理の仕事が助かるよう何とかデータ処理できるよう考えているところです。
  現場では、技術情報管理、品質情報管理、保証管理、材料管理があります。ある製品を作るための作業標準の情報が、現場の人間がぽんと押せば出てくる仕組みになっています。こうした当社のIT化においては、システムエンジニアの知人の協力を得ました。
  私は説明の中でシステムと偉そうに言っていますが、今は本当にいい道具があり、マイクロソフトのアクセスというデータベースのソフトを利用し、手書きの書類をコンピュータに書き換えていきました。例えば部品台帳には3,000件ほど登録してあり、品名、単価、工程、そして今受注が何個きているかという処理がパソコン上で行えます。情報は全て共有しているため、いつ出荷予定かなどのお客さんからの問合せに対して、事務所の誰でもデータを見れば答えることができます。

■IT化によるメリットが実に大きい
  こうしたIT化実現を進める中で有利な時代背景として、コンピュータの値段が下がってきたことがあげられます。性能のいいものが安く得られるようになり、当社では現場を含めて12台のパソコンを導入し、ネットで繋いでいます。LANの接続も100メートルくらいのケーブルを買っても1万円程度です。最低投資で最大効果をあげていると思います。
  IT化によるメリットをあげてみますと、
・ 受注・納品・在庫情報・工程表をもとにした部品発注ができるようになりました。
・ 受注負荷生産能力をもとに実績を考慮したリアルタイムの日程計画及び進捗管理ができるようになりました。
・ 各種帳票発行から請求検収処理までがスムーズになりました。
・ 外注先ともメールでやりとりし、お互いの情報をリアルタイムで交換できるようになりました。
・ 作業標準の表示ができるようになりました。
・ 報告書作成などの集計業務が迅速かつ正確にできるようになりました。
・ お客さんに対しての納期計画の信頼性が向上しました。
・ LANで繋ぐことにより各業務のシームレス化による間接業務の生産性が向上しました。
・ 技術情報の整備により品質管理等のコストが低減されました。
  そして、どうやってソフトを開発していくかという考え方、鋳造現場のデータをどのようにソフト化していくかというノウハウを得られたことは会社にとって非常に大きなメリットだったと思います。

■ベテラン社員が率先して取り組んでくれたことに敬意を持っている
  今、実感しているのは、ITを導入することは業務のしかたを変えることだということです。従来はいちいち集まってミーティングを行い口伝えで伝えていた受発注情報をIT化により社員が誰でもたちどころに把握できる、これは業務の改革、ひいては経営の改革そのものになります。この決断を社長自らトップダウンで行い、導入を進めていったのが成功の理由だといえましょう。
  また、開発責任者は業務に精通していなければ、ツボをおさえたシステム開発はできません。私どもは日々の業務でニーズを実感していましたから、スムーズに進行しました。たたき台を作って現場に提示してその反応を何よりの教科書として活かせました。こうして現場の意見を反映したことにより、独りよがりのシステムにならなかったのが良かったのでは思います。
  IT化というと高齢の社員ほど尻込みする傾向にあるようですが、当社の場合は、ベテラン社員のシステム化に対する要求が高かったことも状況として恵まれていました。変わらなくてはならないという意識で率先してシステム導入に取り組んでくれたことには敬意を持っています。
  今後の予定としては、社内のIT化から外部とのITをどんどん進めていかなくてはいけないと考えています。ホームページをさらに充実させ、活用すること、そして、モバイル端末によりどこにいても社内の情報が見られるようにすることから、国際的な部品調達にまで可能性を見いだしているところです。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:8 東北リコー(株)   事例発表日:平成11年7月21日
事業内容:事務機器製造
売上高:754億7700万円
2000年度
従業員数:1419名
2001年3月
資本金:22億7200万円 設立:1967年7月
キーワード 事務機器製造・販売、
間接部門の生産性向上、事業計画策定業務の変革、低コスト体質づくり、営業利益重視、
ITキーマン、情報共有
IT/Sを利用した間接部門の生産性向上
  

東北リコー(株)URL:http://www.ricoh.co.jp/tohoku/

東北リコー(株) 常務取締役 小川隆秀

プロフィール

リコーに入社後、1986年に東北リコー(株)へ移る。現在、常務取締役を務める。

~全員参加のIT/Sを推進して厳しい時代でも売上利益を伸長させる経営~

長引く不況の時代は、見方を変えれば企業の本質が問われる淘汰の時代でもある。経営におけるクオリティの高い企業は、生存し、発展していくのは当然の論理。ここにもその好例となる企業がある。東北リコー(株)。時代の流れに迅速に対応、低コスト体質づくりに取り組み、その大きなベースとしてIT/S活用を推進してきた。その効果は売上高推移のデータが如実に物語る。売上低迷に苦しむ企業が多い時代においても、確実な伸びを示している。2000年3月15日、東証2部に上場を果たしたばかり。21世紀に向けてますます発展が期待される。


■会社概要
所在地は、宮城県南部にある柴田町。従業員数1482名(2000年1月)、年間売上高は634億円。印刷機、複写機など事務機器の製造、販売会社ですが、販売の大半は親会社の(株)リコーが行い、私どもはモノを作るほうが専門でした。最近はバーコード機器や周辺機器を独自に開発したり他の大手メーカーへ販売するなど、自社展開もしています。大変厳しい経営環境にあるが、その中にあって売上高は順調に伸びてきています。

■売上志向から利益志向へ、時代が著しく変化
講演のテーマに掲げたIT/S(Information Technology/System)は、社内的にパソコンを中心に仕事を進めていくことをIT/Sと称しています。
私どもは、94年からIT/Sに取り組み始めたのですが、それまでは汎用コンピュータを使い、事務処理の機械化を実現していました。さらに経営拡大を図り、それに対応できるような機械システムを、というのが当時の課題でした。
しかし、時代が変わり世の中の仕組みも変わってきました。バブルの崩壊もあり経営環境が非常に厳しくなり、売上志向から利益志向へ変わってきたのです。こういう流れの中でいちばんの問題は、間接部門の生産性をどうしたら良いかということでした。そこで、今日の講演テーマでもあるように、「IT/Sを使って間接部門の生産性を何とか向上できないか」に取り組むことになりました。

■IT/Sを使って、低コスト体質づくりに挑戦する
IT/S導入にあたって、3つのポイントを掲げました。
従来の高度成長の考え方である「とにかく売上を上げればいい」というような考えを変えなくてはならない。
生産性向上を求めて直接部門はそれなりにコストを下げてきたが、一方では間接部門の生産性は変化が見られなかった。そこで間接部門に着目し、そこを改善しようと考えた。
環境の変化、お客様の変化があり、今までのようにただ単にモノを作れば売れる時代ではなくなりました。簡単にモノが売れない時代、お客様がモノを選ぶ時代に変わり、市場も成熟し、それによって競合が激化してきました。となると、お客様に提供する製品は、良いものをより安く、より早く、というのが当然になってきます。つまり、どうしても低コスト体質づくりに挑戦しないといけないのです。
今まではとにかく汎用コンピュータを中心に仕事を進め、そのコンピュータを使う専任のオペレータがいて、システムを作るのも専門のSEでした。ところがパソコンの時代になりますと「普通の人が使う」事になります。つまりシステムを作るのも、使うのも今までのような専門家に任せるのではなく、実際に業務を知っている人がやらなければならないと考えたのです。しかもパソコンでは「処理コストが汎用コンピュータの600分の1になることがわかり、パソコンでやれ」ということにしました。
まず、着目したのは、データを何度も何度も使うことです。最初のデータを徹底して使おうということを掲げました。それまではこれを転記したり加工したりしていましたが、それを止めようということで、我々はこれを「一貫化」と呼び、情報の電子化に取り組みました。
業務を行う場合に、情報が個人レベルにとどまり、組織活動としてのスピードが上がらなかった。そこで情報の共有化をキーワードとして、組織的コンカレントな仕事の進め方にして、それを「統合化」と呼びました。

■4つの導入方針
どのような導入方針をたてたかですが、これには4つあります。
間接部門は全員参加する。
取り組む期間は2年間とする。
いちばん仕事を知っている人たちが、自分たちでやれるようにする。
お金をかけない。
そしてこれをトップ自らが推進するということで、最初にトップにパソコンを導入しました。
従来、ハードウエアはホスト専用端末、ソフトウエアは購入したものを使い、情報システム部門はシステム開発に、となっていたところを、新しく全社統一ツールを使って推進し、全社のIT/S推進体制を作ろうということです。
そのIT/Sを推進していく為には、いちばん仕事を知っている人たちが自分でやらなくてはなりませんので、ITキーマンという推進体制を作りました。そしてITキーマン91人が中心になって各部門の人々にIT技術を教えるということにしました。
さらに、お金をかけない為に、今まで機械はベンダーから購入していましたが、これからはパソコンの一部とLAN設置も内製化していこう、ということで取り組みました。
現在のIT/Sの環境は、いろいろなサーバを持ち、データベースのどこからでもそれぞれの情報が取れる形になっています。国内はもとより、海外とも繋がる環境が構築されています。
推進体制は、各部門にデータベース管理者をおき、その下に部門単位のITマネージャー、さらにその下にITキーマンをおきました。実際にはITキーマンがIT教育、その他を全てやり業務改革もやりました。ITマネージャーはセキュリティの問題に対応し、情報システム部門はITインフラと、ITキーマンへの教育を担当しました。

■改革の主役は社員、自分たちに使えるものを自分たちの手で改革を進めて
いく中で実にいろいろな事例が出てきた。
IT/S化されたデータベースが441あり(97年度)、その中でも事業計画の改革などをしたり、商品開発期間の短縮、商品企画の編成方法の支援システム、あるいは販売活動におけるホームページ作成等々、たくさんあるのですが、こうした種々の事例に取り組み、それぞれ効果を上げています。
それでは資料に基づいて、事業計画策定業務の変革をどのように実施していったかを説明します。
私どもはIT/Sで低コスト体質を確立し、会社の構造改革に取り組もうとしました。
ではその為にどうするか。
一つは生産改革でモノを作るほうの改革です。もう一つは、それを支援する業務を改革する組織改革です。その中で、特に間接部門には業務改革ということで取り組んできました。各部門が色々な情報を早く提供しなくてはいけない。スタッフの負荷を軽減しなくてはいけない。これらを背景とし、このテーマに取り組むことにしました。
事業計画を策定する場合、経費がかなりの項目で発生します。これを各部門からいろんな情報を集めて最終的に財務で集計して、またフィードバックする形を取りました。具体的な作業としては、各事業部は経費の細目を作り、科目ごとに集計してそれをフロッピー化して財務に渡します。財務部ではそれらを集計します。各事業部で4日、財務でも4日、合計8日間かかります。
そこで、事業計画策定システム経費編ということで、「ブラッドシステム」と称して効率化を図りました。ブラッドは血液、要するに生命の源だという意味づけをして各事業部で取り組みました。作業負荷の軽減化にはパソコン上で行う、というニーズからロータス ノーツ(グループウェア)を徹底して活用し、何よりも自分たちで管理できるシステムを自分たちの手で開発しようということになりました。これが大事なポイントです。
8日間かかっていた作業を3日間に短縮するという目標を掲げ、4月にスタートして、8月にカットオーバー、という5カ月間の勝負でした。
課題としては業務改革です。システムを変える前に今ある業務をどう変えるか、「ヤメル・キル・ステル」ということが必要でした。担当者は、ノーツ開発の経験もあまりありませんから、実際に有効利用できる様に教育も受けました。システム開発は財務部門が実施しました。ノーツというソフトを使うことが前提で、この時にオラクルというD/Bの情報があり、これを何とかうまくノーツとリンクできないかということで、データ活用研究もここで実施しました。
この財務で開発し完成したデータベースに各部門が次々入力していき、最終的には皆が分析できるようにしました。計画ができると、前年度実績に対してどうなるか、予算に対して実績はどうだったか、ということも出てきて、今では分析もできます。
短期間でしたが、97年7月にテストを初め、8月から稼動しました。効果は、各部門でかかる4日間はほとんど変わりませんでしたが、入力が楽になったという付帯効果が出ました。財務のほうでは4日間かかっていたものが1日に短縮できました。また、財務担当はノーツの開発技術の習得ができたので、自部門での新たな開発も可能になりました。しかも、自分たちが欲しい情報をタイムリーに扱えることを、身をもって体験できたことも貴重なことでした。
それ以外に、スピーディーな情報の活用を通じて企業採算意識の高揚が図れるという大きな効果もありました。

■売上は伸びても間接部門の人数は増加しない
IT/S推進をした効果と、これからどういうふうにしていくか、についてお話します。
現在パソコンは、間接部門につきだいたい1人1台で、約900台あります。これは間接部門と設計、営業を含めて稼働していて、全営業所及び国内外の関連会社を全てLANで接続してあります。
先ほど共有データベースは441あると申し上げましたが、これを機能単位で見ますと、やはりいちばん多いのは設計生産技術関連で140、生産関連が70、営業関連が50、という状況です。
その結果、売上が伸長しましたが、間接部門の人数についてはやや上がる程度でそれほど増加していない、ということになります。
定性的にまとめると3つのことが言えます。
間接業務の円滑化。仕事をする時のスピードアップのツールとしてこのIT/Sが非常に役立ちました。「業務改革」「一貫化」「統合化」を推進し、間接業務の生産性向上に努めました。そして向上した分を、今まで人手が足りなくてなかなか進まなかった新規事業や戦略的な仕事などに活用し、間接部門の3分の1くらいの人数がそちらに投入できるようになりました。業務を最初にしっかり直して、それからIT/Sに移し変えたのが良かったと思います。
情報の価値を高めれば利益に繋がることを実感しました。具体的にいうと、情報化を進めていっても、スキルの高い人は必ず追いついていけます。ですから情報化が進むとスキルも上がり、生産性も向上します。このサイクルをうまく利用していくと必ず利益に結びつきます。
社員に期待する能力が明確になりました。今頃明確になったというのもおかしな話ですが、従来は情報の受け渡し役となる管理職もおりましたが、「一貫化」「統合化」により情報の受け渡し役は必要なくなりました。では、管理職は何をするのかということですが、書類を何枚処理したとかではなく、自分たちの提案でどこに会社の利益を上げるのかを考えることが要求されますから、その提案力と効果を図る役割を担います。これこそ本来の管理職のあるべき役割ではないでしょうか。
これからは、今までやってきた部門のIT/S活用を、全社更にはお客様、お取引先も全部巻き込み、全業務のプロセス改革への展開を進め、2000年には事業所の統合なども考えられるので、さらに効果拡大を図っていきたいと思っております。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:15 東京鋼鐵工業(株)   事例発表日:平成12年3月1日
事業内容:オフィス家具製造
売上高:45億円 従業員数:130名 資本金:1億2768万円 設立:1953年8月
キーワード オフィス家具製造、
在庫管理、在宅勤務、
オフコンからパソコンへ、情報共有
CSOによる我が社の情報化戦略

東京鋼鐡工業(株) URL:http://www.dragon-net.co.jp

東京鋼鐡工業(株) 代表取締役社長 田辺恵一郎

プロフィール

昭和32年生れ。昭和59年入社後平成7年代表取締役社長就任。二代目。オフィス家具
のメーカーであるが、早くからオフィスプラニングを含めた「提案販売」に着手。入社
当初より精力的に異業種交流に取り組み、現在はネットワークも活用した交流を行って
いる。

~17年余かけて情報化を推進。そこから学んだこととは・・・~

現在42歳の若い経営者である田辺氏は、かつて大学卒業後入社したばかりの時から会社の問題点を把握し、解決に取り組んできた。そのツールがコンピュータだ。自社の営業マンが「自社の在庫表は当てにならない」と言う会社をどのように変えてきたのか。



■多品種少量生産の時代の波、コンピュータを使って業務改革に着手
先日、子供のためにソニーのプレステ2を入手したのですが、最初デパートへ行ったら抽選だというので、インターネットを利用しました。私自身コンピュータは好きでも嫌いでもなく電子メールやインターネットは仕方なしに使っています。基本的には人と会って顔をつき合わせていろいろ情報交換をするアナログ人間で、会社の歴史は47年ありますが、負の資産も引き継いできているよくある中小製造業であり、ネットワークビジネスとかベンチャービジネスを起こしている会社ではありません。それを頭に入れて、これから話をお聞きいただきたいと思います。
今から17、8年前、私が入社した当時、社会のキーワードは、情報化、国際化、そしてメカトロニクス=機械にどのようにコンピュータを繋げて柔軟に生産するか、という言葉が非常に流行っていました。その頃当社では「ズッコケ損ゼロ運動」というのをやっていました。かなりズッコケ損が多かったわけです。なぜ多かったか。かつては少ない品種の大量生産で済んでいたのですが、だんだん多品種少量へ時代のニーズが移っていきました。そうなると、今まで人間の勘でやっていたこと、あの辺にあれがあるぞ、というようなことでは工場が動かないし、営業もしっかりしたデータなしでは商売ができません。お客様から注文を貰ったものの物がない、工場が商品を作ろうと思ったら部品がない、そんなことを繰り返していたとんでもない状況の会社でありました。
私が会社に入ってまずやったことは、パソコンの導入です。当時、8ビット高速8インチのフロッピーを使うもので非常に遅いパソコンでしたが、180万円くらいしました。それで給与計算の仕組みを作り省力化を図りました。経理業務、売上集計、在庫管理など計算機の類の仕事をコンピュータにやらせるだけでも結構効果がありました。
次に在庫管理が問題でした。大量に在庫をしていて物を売っている時代と違いましたから、ルールがしっかり確立されないと、思うように物を動かせないのです。ある時、当社の営業が在庫表を見ないので何故かと聞いたところ、「在庫表はあてにならないから」と言うのです。あると思ったらない、ないと思っていたものがいっぱいある、そんなずさんな管理をしていたのが理由です。先ずはコンピュータ化の前に、業務改革に取り組まなくては、と思いました。業務改革をサポートするのがパソコン、あるいはコンピュータであると位置づけ、在庫99%の信頼性を目標に掲げて着手しました。

■我が社の情報化取り組みの経緯
83年 パソコン購入/主に集計業務、帳票印刷として活用。自家製ソフト。
91年 オフコン稼働/生産、販売を含めた定型業務に活用。オーダーメイド。
92年 パソコン購入/非定型業務に活用。自家製ソフト。パソコン通信開始/パソコン通信によるコミュニケーション。
97年 パソコンネットワークの稼働/定型、非定型業務ともパソコン。OCN回線。
98年 ホームページ開設。
99年 取引先とインターネットを介しての受発注を開始。

情報化取り組み時に、社内にプロフェッショナルを育てるのはやめようと思いました。理由は2つあります。1つは、中小企業ですから、能力があるからといって一人だけ突出した待遇にすることがむずかしい。2つめは、この先コンピュータ化が進む社会になるとそういったプログラマーやソフトが作れる人間は引っ張りだこになるだろう、その時に引き抜きにあうのでは、と危惧したのです。それよりも、社内に情報のプロフェッショナルを育てようと考えました。とにかく経理から工場から倉庫から営業から全ての業務に精通させようと考えました。
91年にオフコン稼働とありますが、部品の共通化、在庫がリアルタイムでわかる、そんなことをできるだけ費用をかけないでずっと取り組んできましたが、
パソコンでは限界がありオフコンを導入しました。
92年、ニフティでパソコン通信を始めた時は「こんな便利なものがあるのか」と実感しました。きっかけは、偶々コンピュータ会社から「おもしろいものがあるから、やってみたほうがいい」と勧められて、手ほどきを受けながらやってみることにしたのです。私の入ったグループは15人くらいいたのですが、いっぺんに連絡が取れるのです。それまでのやり方だったら、どこどこで会おうと約束するためには15人に個別に電話かファックスで知らせてしかも確認を取る必要がありました。ニフティのパソコン通信ですと、パティオという掲示板があり、インターネットと違ってクローズドされた世界で登録している人だけが使えるのです。その掲示板に「何時にどこそこで会いましょう。」と書き込むと、みんなが返事を書き込みますので、すぐ約束が成立するのです。たぶんゴルフに行く時など大変便利だと思いますが、こんな便利なものを会社で使わない手はないと思ったのが、いろいろなネットワークへ取り組んできた理由ともなっています。

■失敗が次へのステップとなって
個人的なインターネット体験は1994年からでした。航空券を買ったりパソコンを買ったりするのに、価格の比較が簡単にでき安くものが買えます。それまで海外に行くのに航空券は決まったところに頼んで決まった値段で買っていたのですが、インターネットで検索してみたら、安売り航空券を扱う会社は何社もあるので、価格比較していちばん安いところから買うことができるのです。こんな便利なものはない、と思ったのと同時に、大変な時代になってしまう予感がしました。というのは、私どもはオフィス家具のメーカーであり、ドラゴンというブランドで販売をしているのですが、差別化されていない商品はきっとネット上で価格比較されて価格だけが一人歩きしていく、そんな時代になってしまうのでは、と脅威を感じたのです。
インターネットは物を探したりするのに非常に便利で、時間が短縮できます。Eメールもいろんな人に連絡を取るのに便利です。社会の生産性が非常に向上するものです。この生産性向上のツールを自分の会社がもし持っていないとしたら、それだけで競争に負けてしまうかもしれない、という意識が生まれてきたのもこの頃でした。
こうしてコンピュータ導入に取り組んできたわけですが、この間たくさん失敗をしてきました。たとえば私は図面が描けません。CADに関して自分が適正なジャッジができなかったことを大変後悔しています。今考えたら大したことがないものに、当時で1500万、2000万くらいのお金をポンと投資してしまいました。その失敗を繰り返してはいけないという自責の念をこめて、その当時、ほとんど使わなかったCADを自分の席のそばにおいてあります。細かいところはわからなくても、方向性だけはしっかりと自分でつかんでいかないと、莫大な投資をしても成果が上がらないで終わってしまう、という勉強をしました。
80年代後半オフコンの導入を検討していたところ、コンピュータメーカーさんはSISということをさかんに言ってきました。『ストラテジック・インフォメーション・システム』のことだと思います。つまり、「オフコンを導入して会社の全データを経営者として分析できる、こんな便利なものはないから是非導入すべきだ」というお話でした。私もそれを信じたのですが、実際に購入してみたら、ほとんど経営者にとっては使えない、単なる数字の羅列に過ぎませんでした。
しかしながら、今回起きているIT革命というのは、その時とちょっと状況が違うような気がします。本当に経営者が必要な情報が、必要なタイミングで獲得できます。今、コンピュータ会社さんが言うことはけして大袈裟ではない、と実感しているわけです。

■オフコンとパソコンのリレーか、オフコンだけで行くか
93年から94年頃、オフコンからパソコンへのリプレイスを考えていました。それで、オフコンとパソコンをリレーさせていくのか、もうパソコンだけでいくのか、比較検討しました。コストの比較はもちろんですが、メリット、デメリットを徹底的に分析しました。一番の問題は、これまで多額の金額をかけて築き上げてきたソフトです。もしパソコンを選ぶとなると、そのソフトを捨てることになります。かなりしっかりしたソフトを作り上げていたので、これを捨てるのはもったいないな、という思いがありました。工場の機械は陳腐化してくると、「この機械はだんだん性能が悪くなってきた」とか、「そろそろ買い換え時だ」とか目に見えてわかるのですが、コンピュータのソフトは見ていてもわからない。これは困ったことだと思います。
とにかくメリット、デメリットの比較をし、社会変化の激しさを予測して特に柔軟性を重視しました。今日決めて明日から一部のソフトが変更できるくらいの柔軟性を求めました。また文字情報だけでなく映像情報も一緒に取り込めないだろうか、と考えました。特に工場では職人がだんだん減っているので、素人でも生産できるような機械にしたのですが、できれば図面が読めなくても機械が動かせて生産ができたらいいなと思ったのです。図面に完成図が映像として入っていたら初めて経験する人にもどんなふうに作ったらいいのかイメージがしやすい。そうして、費用も項目を全部リストアップしました。1次から4次までの4段階で進めていくに当たり、各段階でどのくらいのお金がかかるのか、ハード、ソフトの全てと通信費まで考えてコスト比較をしたところ、パソコンで行ったほうが3割くらい安くできそうだという結果が出たのです。さらに実際に進めてからは、予定していた金額よりも2割以上安くできるようになりました。
初期投資が多くかかっているのは、それまでリースにしていたものを買い取りにしたからです。20万円までは経費として計上できるとわかっていたので、パソコンの価格の推移を見ていたところ、ちょうどそこそこの性能を持ったパソコンが20万円をきって購入できることをキャッチしたので、経費で買ってしまおうという事になりました。なおかついっぺんに買うのはやめました。ネット上で「あ、ここで2台安いのが出ている」と探したりして買い揃えていきました。それで、平行稼働の時がいちばん大変でした。今回の2000年問題もそうでしたが、いざという時は中小企業なのだからみんなで出社して手書きでやるくらいの覚悟をしてやろうという意気込みで進めていきました。
当初の検討課題から漏れていたものとして情報セキュリティがあります。予算に組んでいなかったので、ハッカー対策としてはファイヤーウォールにして、そんなにお金がかけられないので最低限のレベルで良しとしました。もうひとつ、内部からの情報漏洩については今のところ社員を信じるしかなく、いずれいい対策方法が出てくることを期待しています。

■情報化がもたらした効用の数々
ネットワークを組んでいるとそこから何か新しいビジネスが生まれるのではないか、と頭をひねってはいるのですが、むずかしいですね。これはいける、と思ったものが、ビジネスモデル特許に触れるとわかって落胆したこともあります。また、ホームページを作れば何とかなるという話を聞いてすぐに作ったところ、最初は結構話題性があったものの、最近ではほとんどどこの会社で作っているのであまり効果を期待していません。もっと着目してもらう仕組みを考えないとだめだと思います。ただ、ホームページはリクルート用には大きく役立っています。会社で求人を出すと、以前は学生さんから資料請求の電話が来て、会社案内を封筒に入れて郵送していました。たぶん人件費を除いても1名当たり500円以上のコストがかかっていたと思います。今では、学生さんもインターネットを利用して会社を検索して調べていますし、電話での問い合わせが来ても「ホームページをご覧下さい」と言えるのです。ネット上で学生さんからの質問にも答えています。
予測しなかった効果は、パソコンが高機能化して低価格化したことです。また、こういう厳しい時代であり、当社も営業所を一部閉鎖しましたが、お客様を失わないように、スタッフを営業所勤務から在宅勤務に切替えました。ネットワークが出来上がっていたので、営業所勤務とほとんど変わらず対応できています。そういう意味では、ネットワークを組んでおくと、柔軟に会社の組織もいじれるということを実感しました。
印刷機やコピー機のコストの大幅削減もできています。今まで色々な商品や提案のチラシをたくさん作ってPRしていました。それを全部サーバーに入れて、各出先が必要な時に必要なデータを取り出して自分のところのプリンターで印刷する方法にしたのです。そうすると、お客様に向けて宛名も入れられるし、ニーズに応じて中身もアレンジできるなどオリジナル性が出せるようになり、とても営業効果の高いツールとなっています。
レイアウトや予想パースなども、ペーパーレス化しています。今までは本社のデザイナーが作ってプリントアウトしたものを宅急便で出先へ送っていたのですが、それも全部ネット上で送るようになりました。営業情報も、納入事例も、工場のアピールも、どんどんサーバーの中に入れ、活発に情報交換が行われて
います。

■今後の目標とキーファクター
情報化の今後の目標としては、
・Eメールによる外部への情報提供
すでに一部の仕入先やお客様とは低コストでネット上でのやりとりがきるようになりました。今後はEメールを活用して、1対1の情報提供をお客様にしていこうと、進めているところです。
・Eコマースの可能性の追求
これは仕組みづくりがたいへん大切だと考えています。
・ 情報セキュリティの向上
特に内部からの情報流出の抑制が課題です。
益々進化する情報化社会のキーファクターとして、webを使った仕事が海外で行われています。私の友人の設計事務所では、中国とネットワークを組んでやっていますが、海外の安い賃金の人たちと競争していかなくてはならないのかな、と考えさせられます。実際に海外に進出しなくてもネット上でできてしまうのは怖い事です。また、消費者視点がものすごく大きくなってくると思います。以前、某家電メーカーのサービスセンターでの対応が問題視され、それがネット上で公開されて大きな話題となりました。消費者が意見を言う場がインターネットです。メールマガジンというのがあり、情報や意見のやりとりがものすごい勢いで若者を中心にはびこっています。「どこそこの会社のどの製品の性能が悪い」、とか平気で書かれています。こういった現象は中小メーカーにとっても、とても脅威です。
最後に、私の考えていることは、「デジタルの時代ですが、私自身はアナログ感覚でやっていきたい」ということです。それから、当社はメーカーですので、「メーカーは物づくりの原点に帰って、技術力の向上と商品開発、サービスの向上で勝負して行こう」と考えています。それをサポートするのがこのITだと思います。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:9 田中精密工業(株)   事例発表日:平成11年8月24日
事業内容:2輪・4輪エンジン部品製造
売上高:167億7700万円
1998年度
従業員数:705名
2001年3月
資本金:5億円
2001年
設立:1948年3月
キーワード 自動車部品製造、
間接業務の生産性向上、グローバルな挑戦、ペーパーレス、経営のスピードアップ、
情報共有、取引先ネットワーク構築、ネットワーク構築
ビジネススピード向上による体質改善事例
田中精密工業(株) URL:http://www.tanasei.co.jp

田中精密工業(株) 常務取締役 杉木康之
プロフィール

1942年10月 富山市にて出生
1966年03月 富山大学工学部機械工学科卒
1968年02月 田中精密工業(株)入社
1989年06月 取締役就任(製造部門,開発部門担当)
1997年06月 常務取締役就任(品質保証部門,総務部門担当)

~情報化はグローバル、リアルタイム、スピードが決め手~

富山県内の本社及び工場を中心に国内外で自動車関連製造事業を展開する田中精密工業(株)は、厳しい競争市場、淘汰の時代において、ネットワーク構築を進めることにより、体質改善を図り経営力を強化することに成功し、店頭公開を射程距離におく元気な企業である。その成功のコツは、小さく産んで大きく育てること。自分の尺度にあったシステムづくりを時代の流れに対処しながら進めてきた今日までのストーリーとは・・・。


田中精密グループの概要
1948年3月設立、今年で51年目です。資本金は2億979万円、売上高は約167億7700万円(98年度)、従業員数は737人(98年度末)。
主な製品は、4輪、2輪のモータサイクル関係でほぼ100%を占めています。中でもエンジン製品、特にホンダ車に使われているVTECエンジンのロッカーアームAssyを大量生産していて売上高の35%を占めています。その他にはレジェンド(ホンダ車)に使われている油圧タペットAssyや、ピン類も大量生産しています。シンクロセットなどのミッション機器も売上の12~13%くらいあり、その他にはギヤ類、シャーシ製品などの生産をしています。
富山県内に田中精密グループを形成していて、特に日本における生産工場は富山県にしかないので本当に地場の企業と言えます。本社・工場は富山市新庄町に、エンジン部品を作っている主力工場は婦負郡婦中町に、鍛造関係の部品工場を富山市水橋町に、それから色物のシンクロ専門の工場は滑川市の方にあり、この4つの工場が製造拠点となっています。
子会社には、自動車関連部品を作っている田中自動車部品工業が大沢野町の方にございます。板金関係の製品を作っている田中プレス工業は水橋町に、それから、新庄町の本社の近くには技術開発部門と金型の加工関係をやっているタナカエンジニアリングがあります。ちょっと毛色の変わったところでは、今年から仲間入りをした北陸鉄塔工業は、北陸電力さんやセルラーの鉄塔をやらせていただいている会社があります。
以上、田中精密グループは合計9社、資本金約30億、売上は全部合わせて320億ほど、従業員1300人くらいで事業を展開しています。

また、ホンダ車の販売を行っているホンダプリモタナカが富山市内に4拠点あり、毎年だいたい1600台くらいのホンダ車を販売しています。
さらには、自動車部品を作っている会社が海外に2社あります。その1社は、アメリカ・オハイオ州の州都コロンバスから北へ車で約1時間ほど行ったフレデリックタウンという小さな田舎町にあり、FTPと呼んでいます。F.T.Precision.Incという従業員約130名ほどの会社で、今アメリカで好調のV6のVTECエンジンロッカーアームAssyを生産しています。
海外のもう1社はタイのチェンマイのすぐ隣のランプーン市にあります。私どもTPTと呼んでいますが、Tanaka Precision Thailand Co.,Ltd.という従業員約60名ほどの会社で、主にオートバイの部品を生産しています。

■グローバルな競争市場に勝つためのビジネススピード向上による体質改善
当社は今年から新しい中期に入り、3カ年計画を組んでいます。新世紀「オンリーワン」に向けて、先程中尾社長が5年以内にe-ビジネスの必要性を提言されましたが、当社でもその方向で頑張ってまいります。
重点施策としては、以下の5項目があります。

1. 俊敏で簡素・柔軟な経営体質の確立
・3極(日、米、タイ)利益体質の確立
・投入資源効率ビジネススピード向上による体質改革
・上場体質の確立
2. 世界トップレベルの品質・コスト・納期体質の確立
3. 先進、革新技術の商品、生産への仕込み
4. 環境、安全への対応強化
5. グローバル化に対応できる人材教育

中でも、1項目の俊敏で簡素・柔軟な経営体質の確立ですが、具体的には投入資源効率ビジネススピード向上による体質改善などをテーマに掲げて取り組んでいます。この「ビジネススピード向上による体質改革」は以下の4つの考えにより推進しています。
・情報の共有化/同時化による時間の短縮
田中精密グループは国内・海外と広く拠点があります。これらがきちんと情報の共有ができることが重要なことなのです。自動車部品を製造する企業グループということでは同じような製品をグループ各社で作っていますので、情報の共有化、能率化、時間の短縮というものが向上された時の効果は図り知れません。その効果を狙い、生産市場においていかに素早く対処できるようシステムを作るかということが、今後、重要なことであると考えています。
・間接部門の合理化、スリム化による生産性の向上
当社の特徴で、昭和35年頃から生産部門で秒管理というものを行っています。1秒一人当たりの付加価値をいくらあげられるかということを経営のひとつの指標にして、ずっと続けてまいりました。間接部門の合理化はなかなか進まないし、スリム化も生産性の尺度を上げるのも大変難しいことですが、当社では、2000年店頭公開を目指していることもあり間接部門の事務の増大がこのところ大きな問題で、現在合理化に取り組んでいるところです。
・ネットワークを経営のツールとして自己革新を加速
上記2項目は共にネットワークを利用しないと実現できません。色々とスピードアップをしていこうと考えています。
・グローバルな自由競争市場に挑戦できる体質づくり
自動車業界というのは、なかなか官の支援が得られない競争の厳しい世界です。今まで日本の技術力は大変強いという定評がありましたが、今日では日本に海外のメーカーがどんどん売り込みに来るなど、グローバルな自由競争になっています。これに対応できる体質づくりができないと将来性はありません。逆に言えば、これがきちっとできればビジネスチャンスは拡大すると捕らえています。

■小さなネットワークを作り大きく統合していく

システム化の推進は、1987年にできた生産企画室で事業計画のシステム化、というよりもシステムを作れるような事業計画を考えて欲しいということで、当時、電卓を使ってやりました。できた!と思うとすぐに修正があり、徹夜仕事の繰り返しでギブアップしそうな時に、社長の友人がパソコン販売を始めてデモに来ました。それを見てツールに使えるかもしれないと早速1台購入し、その年の事業計画と事業推進をリコーのマイツール(表計算ソフト)を使って行いました。
その後メーカーさんとやり取りしていくうちにパソコンの色々な可能性が把握でき、自分がやる仕事とコンピュータに任せたほうがいい仕事の区分けができてきました。
1990年になって、生産管理系の受発注、納入などは汎用機(ACOS)の専用端末(N5200)を使ったシステムで、同時に、経理系の業務はオフコン(S7100)とその専用端末を使いました。それとマイツールがありますから、各部門に3つの端末があるということになりました。
1998年に一気にPCに切り替えを行いました。専用端末だけではすでに厳しくなりPCを導入し、生産管理系、経理系、人事・総務系など全部ネットワークで繋ぎました。小さく産んで大きく育てるというポリシーの基に、専用端末からネットワークへ切り替えました。実際にどうしたかというと、97年5月からネットワーク再構築とそれにあわせてOA教育をしようとスタートしました。電子メールの利用は10月からにして情報のスピードアップを目的に立ち上げました。
現在ではお得意先と私どもの本社工場とは専用回線あるいは公衆回線を通じてつながっています。当社の売上の主力を占める本田技研工業さんとは単に受発注だけでなく、見積は全部メールで行い、開発情報も3次元データでやり取りしています。
グループ各社及びその中の各部門とはネットワークを構成して情報の共有化、同時化を図っています。国内がやっと整理がついたので、今ようやくアメリカ、タイの海外拠点と専用回線あるいは、公衆回線を使ってインターネットを介して情報のやり取りをするための準備を進めているところです。
このようにいろいろとインフラ整備をやっているわけですが、オープンなネットワークの構築、小さなネットワークを作ってそれを大きく統合していくというやり方をしています。経理系及び生産管理系を全部まとめてひとつのネットワークに集約するのです。加えて、必ずグローバル化できる形であることが必要です。


■ISO取得にもシステム利用、経営情報はペーパーレス
99年2月にはISO9001の認証を田中精密一体で取得しました。その準備には、インテックさんの協力を得て、イソロジーという文書管理システムを導入し、全部の文書をこれでやろうとしたら端末の数が少なくてできませんでした。やはり小さく産んで大きく育てないとだめだと反省しました。
現在はISO14001の取得に取り組んでいます。イソロジーのドキュメントライフスタイル(図 「文書管理」参照)がありますが、決済は全部電子決済で行っています。それから文書システム上で配布して各部門に周知させ、受領確認をもらって初めて文書登録するという仕組みです。改訂した文書を登録した途端に旧文書はシステムから消え、システム上には常に最新の文書しかないという管理をしています。

生産管理システムの再構築が98年10月に完了し、99年1月からはそれと経理システムをドッキングして、原価管理システムを再構築してスタートしました。今年に入ってからは経営情報をペーパーレスでやれないかと取り入れました。今まで経理が毎月の損益計算書を1600枚コピーしていて配布作業まで含めて一人の人間が一日かかった仕事でしたが、これを経理から情報を受け取り加工して各役員及び部課長にメールで送る形にしました。その結果、紙の枚数は0枚になり作業時間も1時間程度になりました。

99年の12月に向けてかなりの情報交換、情報の共有化に向けて進んでいます。
電子メールの活用は、田中グループの情報伝達の活用ということで、ブロックリーダー(課長クラス)以上の間で始め、下に下りてきて現在チームリーダー(係長クラス)まで展開しています。電子掲示板で現在利用しているのは、社報、厚生活動の情報、車の販売情報、品質の情報等でどこがどういうトラブルを起こしているか全員が瞬時にわかるようになっています。ISO関係の情報も全部掲示板に蓄積され、会議室の予約管理もパソコンで行っています。
コンピュータの保守については、システム上にワンポイントレッスンを設け、基礎的なトラブルでシステムエンジニアが頻繁に呼び出されるようなことがないように対処しています。
どんなに立派なハード、ソフトを完備してもそれを使う人材の教育を徹底しないとインフラは完備されません。私も含めていちばん頭の固い役員クラスからスタートし、下に下りていくような形で教育を進めてきました。現在まで延べ300人、Windows,Word,Excel,Notesなどの教育を行っています。
2000年対応については、お客様の要望もあり3年ほど前から準備を進め、1999年9月末でほぼ99%完了し、セキュリティの面ではどんなトラブルが発生したとしても4時間以内に必ず復旧できるシステム保守も整備しております。
データのバックアップは毎日自動で行っています。インターネット等を利用する中で、セキュリティの面の問題やウイルス対応にもアンチウイルスソフトを導入して対処しています。

■情報利用こそビジネスチャンスのカギ
情報化の時代とずっと言われてきていますが、お客様の方から情報の取り扱いや処理のスキルに大変厳しい要求がきています。情報が入ると活用できる者がチャンスを掴むということで、情報化の時代というよりも情報そのものの時代だと思います。特に企業としては、例えばこちらから「見積を入れさせていただくだけでも」と言っても「そんな見積いらないよ」と大変厳しい反応や「対応しないんだったら開発は参画しないでいいですよ」など待ったなしの対応をせまられることが多く、それに対応できないともう取引していけない状況があります。グローバル化を含めてそういう情報をうまく利用するものに新しいビジネスチャンスが生まれるのではないかと信じて、今後も進んでいきたいと思います。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:23 池内タオル(株)   事例発表日:平成12年9月21日
事業内容:タオル製造
売上高:8億4000万円
1998年度
従業員数:32名 資本金:1000万円 設立:1953年2月
キーワード TIIP事業、タオル製造業、衣服・その他の繊維製品製造業、、
製造リードタイム短縮、地場産業、
QR、SCM、バーチャルファクトリ、情報共有
愛媛県内の中小企業における情報化戦略

池内タオル(株) URL:http://www.ikeuchitowel.com/


池内タオル(株)代表取締役社長 池内計司氏
プロフィール

 昭和46年一橋大学商学部卒業後、松下電器産業に入社。昭和58年、池内タオルに入社、同年、代表取締役社長に就任。四国タオル工業組合IT担当の副理事長としても活躍されている。

~繊維業界の成功例として知られるQR(クイックレスポンス)。よりいいものをより速く提供できる生産システムを構築~

 発注から納品までの時間を短縮する方法として、生産工程に関わる企業同士の情報共有を図って成功したのがQRである。今日でいうSCMと相違ない。日本屈指のタオルの生産地、今治における業界のIT担当者として池内社長が取り組んできたQRのドラマには、IT革命によってあらゆる業界に起きている従来の流れから新しい流れへの潮流が渦巻いている。


■アメリカの不景気時代に生まれたQRの発想
  これまで我々がQR(クイックレスポンス)としてきたものが、今ではSCM(サプライチェーンマネジメント)という難しい名前に変わってしまいましたが、全く同じことなのでQRとしてお話いたします。
  QRについては、糸偏の業界の方だったらよくわかると思います。1985年から1990年、アメリカは非常に景気が悪く、デパートがバタバタと倒産していきました。日本と違い、米国の繊維業界はデパートそのもので、デパート業界と繊維業界が何とか日本のような勢いを持たせたい、それにはどうしたらよいか、というので出てきたのがQRです。QRというのは、非常に日本的なお客様は神様だというベースと、アメリカで唯一元気のよかったコンビニの発想をうまくコンピュータ的に理論武装したものだと私は解釈しています。
  これが日本へ上陸したのが1995年頃です。当時、通産省が提案した繊維業界のQRの実証実験のソフト開発に対して予算をいただけるという話がありました。しかし、我々組合は手を上げなかったのです。なぜだ、と組合の幹部に噛み付いたら、それならお前がやれ、と言われてIT担当になっている次第です。私は、ITなんて最新のものでも何でもない、情報を共有して我々繊維業界自身が持っている生産から販売までの無駄を省いてコストを下げていこうと考えました。その過程で、お客さんの動向を探る、つまりお客さんが一番だという価値基準を持つことが大事なことです。そこで得られた情報を皆で共有し、利益を分かち合っていこうと考え、現在QRによって今治が生き抜いていく方法を模索している最中です。
  日本のタオルの約60%を今治で作っていますが、タオル業界もご多分にもれず輸入の荒波にもまれ、去年の実績で52%が輸入品、48%が国産品の割合。今年は62~63%が輸入品、国産は38%ぐらいです。先進国の中でも繊維の輸入規制のないのは日本だけです。いくら我々のようにQRでがんばっている産地でも、これだけ規制がなければ安い人件費の中国などからどんどん入ってきますので厳しい状況です。アメリカ、ヨーロッパ並の輸入規制を日本の繊維にもかけてくれるようお願いしているところです。今治のタオル産地において今は220社くらいありますが、このまま政府の輸入規制がなければ、3年後に60社になるだろうと予測されています。

■求む、QRに加わる今治のタオル業者、条件は「メールが使えること」のみ
  では、我々の取り組むQRについて説明します。
  日本の場合、タオルが完成するまでには代表的な商品で13工程くらいあります。元々が原糸であり、それが染められ、タオル工場で織られ、染色工場で再び後処理され、染色整理、縫製、刺繍......と進行し、これらの工程に全体で45日かかります。
  市場ではタオルは180日ぐらいの販売期間で売られています。180日間の販売期間の中45日くらいで作っていきますから、よほどうまくしないと期間発注はできません。基本的には見込み生産をして、売れた売れないの結果が出ることになります。
  この45日を分析すると、実際の工程に要する日数は15日です。残りの30日は何をしているかというと、工程の順番が来るのを待っているだけです。これは日本独特の、産地形態の物の作り方なのかもしれません。この待ち時間をせめて15日にして、工程に必要な15日と合わせても30日にしようと考えでQRがスタートしたのは3年前のことです。
  まず、QRという形で新しいソフトを組む時に、これからQRにより今治でタオルで生きていこうと思う人は集まってくれと呼びかけました。条件はただひとつ、電子メールが使えるということです。タオル会社はどこも小規模で、余計な人員がいないので、社長は営業責任者としても大忙しです。そういう人達を集めて情報共有の話をしようというのはなかなか難しいので、せめて途中の決めごとは電子メールで連絡していくことで効率化を図るためです。
  私がメールを高く評価しているのは、実際に自分の会社で使いこなしているからです。情報共有を外部に言う前にまず社内の情報共有、それにはメールシステム以上に勝るものはないと思います。当社でも皆忙しく、机についている人などほんの数人です。そこで起こった問題に対してこうしろ、と指示を出しても、その場にいた人にしか伝わらず、そのためにまたトラブルを起こすことの繰り返しでした。それが全部メールでやりとりを始めたら非常にスムーズに仕事が運ぶのです。私は社員からすると怖い社長らしいのですが、社員たちはメールだと顔を見なくていいので割とストレートに色々と言ってくれて、風通しもよくなりました。私の会社は平均年齢は45歳くらいで充分高齢化していますが、やろうと思えば使いこなせます。どうしてもメールができない人はFAXを使って情報を共有化しています。
  当社はメインの売り先を失ってしばらく経営が苦しい時期があり、明日の支払いに金がないという状態が続いていたのですが、その頃にメール上で会社の資金繰り表と個別原価表を全て見えるようにしました。すると、社員は今月これを売らないと自分の来月の給料がないとはっきりわかるので、必死で生産・営業をします。原価管理表を見て、利益のない会社からの注文は優先して作らなくなるからそこへの納期が延びて注文が来なくなっていく、利益のあるところの物は早く作るから注文がまた増えていく。そうやってどんどん取引先が変わっていきました。また、タオルはタオル問屋という専門の流通を通じてデパートなどに出ていきますが、当社は引き取り計画のない発注書は生産しないという方針を決めており、引き取り計画優先で取引先を決めています。大変残念なことに、この方針の結果、異業種との取引が大多数になってしまいました。こうした取り決めの中で、メールをフルに活用してきました。

■伝票の一本化&納期優先の生産工程のシステム
  ソフト開発のスタートにおいて、まず伝票の一本化に取り組みました。13工程もあるとものすごい伝票の数になります。例えば池内タオルは自分のところのコンピュータで発注を切る、それをもらったほうはその発注書では自分のところのコンピュータに入らないのでまた打ち換える、納品の時もまたその繰り返しという無駄なことが行われていました。やっていることの中身は同じで、品名と、入り、と出を書いているだけです。250社あったら250通りの伝票が出ていました。それを統一しようと、通産省の決めていたTIIPの中の規則に従って全ての伝票を作りました。
  タオルはタオル会社が注文を受け、販売しますから、発注を受けた段階でタオル会社の納期を優先した生産工程を組むようにしています。それを組んだら、何回もシミュレーションを行い、問題なしとなったら関連の企業に全部情報を流します。発注が来た段階でこの計画を組みますから、たとえば最終工程に近い縫製を受け持つ会社には、1ヵ月前に仕事の予定が入っているという具合です。加工を請け負う会社はそのために日程を決めて待っていても、予定通りに商品が入ってこないとまるまる仕事がなくなってしまう。そのために待ち時間の多いのが今までのやり方でした。万が一予定が遅れても遅れている状態が把握できるように組んだシステムです。
  この結果、当社の例でいいますと、リードタイムが28日くらいになりました。当社は1日の扱い高が300万円くらいの小さな規模ですが、ここで今まで45日かかっていたものが28日になった、つまり17日間縮まるとその間途中で寝ていた資金が浮くことになります。単純計算で5100万のキャッシュフロー的効果があり会社には非常に大きなメリットとなりました。私はQRをやる前は、QRというのは漢方薬のように効くだろうと思っていましたが、やった結果カンフル剤のように効きました。この生産工程を17日縮めたキャッシュフローで次の投資を行うこともできました。この発想でやれば、1日500万円のところでしたら7500万円、1千万のところだと1億5千万というお金が出てきます。中小企業の生産側で活かすには非常に価値のある経営手法だと思います。

■産地と販売店で情報を共有、店頭情報を活かして利益率をアップ
  次に、時代の変化に対応すべく産地だけでなく、デパートと情報を繋ぐ方法をやりましょうというのがSCMシステムです。これは去年、商品と取引先を限定して実証実験を行ったのですが、これこそサプライチェーンマネジメントそのものです。小売店側は我々生産側に対して店頭の売れた情報をリアルタイムに送ってくる。我々はそこを介している卸商に対して、発注を受けている生産状況をオープンにする。卸商はいちいち取引先の生産担当者を呼んで「今これどうなっている?」などと聞かなくてもコンピュータを繋げば画面上で、自分のところの商品がまだ糸を染めている段階なのか、最後の縫製段階なのかがわかる。卸商には必ず納期を書いた発注書を切ってくれるようにお願いしています。というのは、従来、タオル業界は納期のある発注書はありませんでした。注文し放題、売れたら引き取るという業界でした。それではとてもQRはできません。必ず引き取る、換金できるとわかってこそ我々作る側は最終計まで持っていけるのであって、引き取り計画がなければ半製品で在庫する方がはるかに製造コストが安いことになります。
  こうして店頭実験を行いました。店は伊勢丹。去年の秋冬で売ったDというブランドの商品においてです。だいたいタオルや繊維製品は、発売前にお得意さん、デパート、量販店に内覧会に来てもらい、その結果としての仮発注が出ることになっています。その時の手応えではブランドDの1も2も3もほぼ平均して売れるという発注状況でした。それに従って我々は生産にかかりました。たしか去年7月15日頃に市場に出しまして、その後、伊勢丹のデータをみると、D2が全然売れていない。D1とD3が売れているから辻褄は合っているのですが、これはまずい、と発売後1週間でD2の製造を止めました。その段階では糸染めは終わってもう織機の上にのっていましたが、ほぼ半分作ったところでストップしました。そして、そこで空いたキャパでD1とD3の穴埋め分を製造しました。
  結果として、総数はおおむね販売計画通りにこの商品は1億1千万円売れました。たぶん従来のやり方でいっていたら、D2が売れていないなと思っても、伊勢丹では売れなくてもきっと他店では売れると考えてズルズル製造を続けたでしょう。そうしてD1とD3は品切れになって売りたい時に商品はない、D2は売れ残り、たぶん9300万円くらいの売上で終わり、20%はダウンしていたと思います。店頭情報を共有し、売れないものを速やかに途中で生産ストップしたから販売計画は一応クリアできたのです。
  これがもし売れ残って不良在庫を抱えると、それが翌シーズンのコストとなって跳ね返ってきます。こういう無駄を除いていけば、我々がいいものを作っていっても確実に安くなっていくはずです。また当社の例で見ると、QRがコストを下げている裏付けとして、当社のメイン商品はQRをやって在庫はお互いにゼロに近い状態で消化してきていますので、ほぼ2年の間に工場出荷価格を15%下げることができています。

■ネットビジネスで得られる新たな手応え
  こうしたQRのポイントは、お互いに信頼できるかどうかということです。信頼できる相手にうまく巡り会えれば成功することでしょう。それには、会社の方針として打ち出さない限り相手とは巡り会えず良い関係が結べません。
  当社が引き取り計画のない会社とは一切取引はしないと明確化したように、はっきりした態度が重要です。
  この当社の体質も、メールによる社内の風通しのよさがもたらしたものだと思います。
  日本のお客さんは贅沢でわがままですから、管理コストがかかります。その管理コストを下げるには、コンピュータを活用すべきですが、在庫管理などをするよりも、メールで情報を管理するほうがよほど効果的だと私は確信しています。今、お客さんとの間で何が問題でどうなっているということを、社長や営業だけでなく、商品を検品するパートさんまで伝えることが会社をいちばんよくします。
  経験に基づく私の持論は、情報を共有すれば楽になる、メールを使えば楽になるということです。
  当社はメールを主流にして仕事をしていますから、よほどのことでない限り電話はあまり使いません。メールを活用しているからこそ仕事がはかどります。
  最近では、インターネットにもかなり時間を費やしていて、実際にWeb上に池内タオルのショップも出しています。具体的な実績はというと、売上が月10万円、それにかかる経費が担当者の工数とサイトを借りているので約30~40万円。これは、現状として、3千円の商品を買っていただくと、配送料で600円くらい、カード決済は怖いといって代引きにする方が多いからその手数料が500円くらい、つまり商品の代金以外に1100円のコストが上乗せされてお客様は4100円も支払わなければなりません。宅配業者も競争が激化しているので、コストダウンは見込めますが、今はまだ様子を見ているところです。
  しかし、ネット上で店を見て、池内タオルの考え方が気に入ったから取引をしたい、というお話はよくあります。話をしてみたいから出張の際に寄ってくれとか、今治に行くとか、申し出がくるのです。こうしたご縁で新たなビジネス、新たなお取引が始まることを考えればネット商売も十分ペイしていると考えています。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:18 太洋産業(株)   事例発表日:平成11年7月21日
事業内容:食品製造
売上高:不明 従業員数:875名 資本金:2億7500万円 設立:1944年10月
キーワード 食品製造、
本支店会計、購買、固定資産、在庫管理、製造原価計算の即時化、販売管理、
ERPパッケージ
情報を活用した業務革新

太洋産業(株)

太洋産業(株) 専務取締役 内藤敏男

プロフィール

1991年、岩手銀行取締役資金証券部長を退任、同年、太洋産業(株)に顧問として入社。95年、専務取締役。99年、取締役副社長に就任する。同社では一貫して財務を担当している。

~リアルタイムかつコストダウン、のERP導入によりリストラ効果も実現~

銀行畑から食品製造の財務及びコンピュータシステム担当へ、数字のプロとして業績を築いてきた内藤氏。SAPのR/3を導入し、製造業に伴う材料入荷から原価計算、出庫までをシステム化する業務革新により、即時性を高め、コストを大幅に削減することに成功した。その手腕を語っていただく。


■2億円の情報化投資をスタート
私は太洋産業のメインバンクである岩手銀行からこの会社にまいりまして、CIOというような立場で、コンピュータのシステムを手がけるようになりました。
当社は、登記簿上の本社は、岩手県大船渡市です。今日は東北の会社として、是非こういう場でお話させていただきたいと思います。「情報を活用した業務革新」という演題ですが、どういう情報を活用したのか、結局は「安くて早くて正確な情報を活用して経営に役立て、ある程度の成果を上げたよ」というお話になろうかと思います。
年商は96年度で落ちていますが、これは事業所を統合したことが影響しています。また、従業員数もご多分にもれずリストラによって削減いたしました。
私どもで使っているERPのパッケージは、ドイツのSAP社が開発したR/3というソフトウエアです。このRとは、REALTIMEのRです。当社のものは、ERPとしては規模の小さいシステムだろうと思いますが、規模の大小に関わらずこのERPの中身は同じです。去年三菱商事さんがこれと同じR/3を使って連結決算のシステム等を作り上げました。そのように何万台規模でも、当社のようにわずか80台程度の規模でも、本体の中身は同じなのです。
情報化への投資費用としては約2億円をかけました。だいたいハード、ソフト半分ずつとお考えいただけたらいいと思います。約1年間かけ、96年5月にカットオーバーし、現在3年以上経ちました。
ネットワークのイメージをご覧いただきますと、4工場、5営業所が64Kの専用線で繋がっており、一方では1工場、2営業所がINS64で繋がっています。



東京本社はもともと築地にありましたが、リストラの一環として借りていた本社を返し、越谷に移転しました。その越谷にある工場は現在、関東支社所属になっています。それと本社が今ではひとつの敷地内にありますので、これらはLANで繋がっています。サーバは2台、この中にR/3のデータベース、アプリケーションが入っています。ハードディスクの容量は100ギガ。100ギガと言いますと、フロッピーディスク10万枚分ですね。そのくらいの数量のものがこのサーバの中に仕組まれています。アプリケーション部分というのは、R/3のいわゆるシステム本体が入っていて、この容量はだいたい14ギガですから、フロッピーディスクにしまして1万枚分くらい入っています。その中から我々の必要な部分だけを取り出して活用しています。

■リアルタイムな在庫把握


システム図の中で上のほうにある、購買、在庫管理というようなものをR/3ではMMというモジュールで、製品を作るまでの部分もMMのモジュール、販売はSDという販売管理のモジュールを使っています。下のほうの、会計に関するものでは、一般会計のFI、管理会計のCOと、固定資産を管理するAA、そういうものがいろいろな形で複雑に絡み合いながら、モノと金が常に一体化するような仕掛けになっています。
たとえば購買のところで、購買発注伝票を機械に入力します。その購買発注したものが、入荷して来た時には、入庫請求仮勘定を計上します。これはたぶん皆様方の勘定の中にはない名前だろうと思います。在庫金額と在庫数量が即加算となり、後ほど仕入れ先から請求書が送られてきますが、請求書と照合して数量と単価が違っていなければそこでOKという形で初めて買掛の勘定が仕入先名でたつような仕組みとなっています。

■ビジネスプロセスが先か、ERP導入が先か
「ビジネスプロセスをしっかりと決めてからこういうERPを導入したほうがいい」と言う方も多くよく議論になります。
しかし、私どもはあまりそこまで考えませんでした。というのは、R/3そのものが世界的に著名なきちんとしたソフトであるからです。ベストプラクティスであるならば、それを導入すればビジネス・プロセス・リエンジニアリングが達成できるんだな、とそんなふうに考えまして、我々は黙ってR/3にのっかれば間違いないんだとR/3の採用を決定しました。
私どもでやった業務の中で大事なのは、製造原価計算の即時化です。R/3ではマイナスの在庫は認められません。つまり在庫がないと出荷できないということになり、当日作ったものの製造原価を計算して製品として入庫しないとそこから出荷ができないので、いかに原価計算の即時性を高めるかには苦心しました。
以前の原価計算は翌日の午後にならないと出ない、というのが普通の状態でした。いかにしてその即時性を高めるかに尽きましたが、これはビジュアルベーシックというものを使って外づけで作り、最終的にはR/3にのっけていくというシステムにしました。
簡単にいえば、まず「やきいか」の原料ということで、原料のイカを出庫します。それを「やきいか」という製造指図書に原料の原価で落としていく。その後生産となり、出来高報告がきます。この報告書には、このくらいの数量が出来上がってそれを作るのにどれくらいの時間がかかったのか、などが書いてあります。この数量に基づいて各種のテーブルからエネルギー費、補助材料費、資材費が算出され、引落とせるようになっています。それから人件費テーブルによって、例えば時給1000円のパートが何人かかって何時間必要だったのか、その人数と時間を入力すれば自然とそのラインの直接労務費が計算され、それに間接費を配賦すれば、「やきいか」なら「やきいか」の製造原価計算が出来るわけです。
受注処理の際は、受注メモで受注伝票を入力しますと、1回入力したデータは出庫、請求、売掛計上、回収までのデータとして最後まで引き継ぎます。
又本支店会計を廃止しました。この問題は当初社内でもかなり抵抗があった部分ですが、今では本社一本の勘定に統合されています。また、社内売買制度というものがありました。これは工場で作ったものを営業所が仕入れるという仕組みです。本来なら外に向けてやるべき駆け引きが中で行われていたムダな部分でした。売買の部分がダブってきますので、社内売買の部分を引いて売上をださなくてはならないということがありましたので全廃しました。

■使ううちに実感した優れた機能

情報化への取組みとしては、従来のシステムはホストコンピュータがあり、各事業所にオフコンがあって、前日のデータをほとんどオフコンで処理しながら、翌日の正午までにホストコンピュータへデータを送るという流れでした。これはリアルタイムのデータではく、ある程度時間が経った後のデータとなってしまいます。やはりクライアントでオンライン化によるリアルタイムの情報を送信して、そのデータの変更はサーバでやる。これが本当のリエンジニアリングなのかなと思います。
ERPの評価としては、電子伝票検索が容易なことが挙げられます。最初に入れた伝票、これは誰が何月何日の何時何分に入力したものか、ということは決してこのシステムの中で消えることがありません。1回入力した伝票は消すことができないのです。訂正はできますが、真っ白な状態に、最初から入れなかったよという形には絶対にできない仕掛けになっています。その伝票1枚1枚が100ギガのデータベースに、半分の50ギガくらいに3年分全部残っています。ですから、いつでもその電子伝票を開きたいと思ったら見ることができるのです。どこの営業所分か、いつ誰が入力した伝票なのか。というところまで行き着く事が容易にできるのです。このブラウズ機能はこのシステムの持つ非常に優れたものだと思います。
加工の自由については、これを使うのはほとんどが本社の部長級、あるいは常務級となります。当社では専務、常務クラスも皆パソコンを叩いてR/3を動かしていて、何でも見たいものは即座に見られますし、マイクロソフトのACCESSで加工して自由に見たいものを作ることができます。これは本部の人たちから感謝されている部分です。

■大幅なコストダウンを実現

コストはどうかということについて。
以前はユニシスさんの2200の200という小型のホストに、11台のオフコンがぶらさがってシステムが出来上がっていましたが、その当時のコストはだいたいリース料だとか保守料だとか紙代まで含めて年間8000万円ほどかかっていました。その他に、システムに必要な人が8名いましたから、人件費も結構かかっていたと思います。一人年間500万円としても8人で4000万円。一切合わせて年間1億2000万円くらいのコストがかかっていたことになります。
この新システム導入にあたって2億を投資しましたが、稼働から5年で償却しますと年間4000万円ですから、以前の8000万円の半分になりました。しかも、8人いた人が1人でやれていますから、人件費は8分の1です。かなりコストパフォーマンスは高いと言えます。
では、このリストラによる経費削減はどうだったのかと言うと、96年対98年で比較すると、合計で約9億6000万円の成果がありました。
それから、ERP導入について経営者が考えるのは、それによりどのような経営が可能なのか、そして、トラブルはどうか、という点でしょう。しかし、私自身が使った経験から、パッケージに黙ってのっかれば間違いない。と、自信を持って申し上げたいと思います。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:24 太洋工業(株)   事例発表日:平成12年9月20日
事業内容:プリント基板、及び検査装置製造
売上高:不明 従業員数:219名 資本金:2億4452万円 設立:1960年12月
キーワード 業種転換、プリント基板製造、プリント基板用検査装置製造、
生産管理、短納期生産、部品在庫管理、
iモード
地場産業を近代化した!

太洋工業(株) URL:http://www.taiyo-xelcom.co.jp/

太洋工業(株)代表取締役専務 細江美則氏
プロフィール

 昭和49年早稲田大学大学院理工学研究科を修了、同年、沖電気工業(株)に入社。その後、オリエントリース(現・オリックス(株))を経て、昭和55年に太洋工業(株)へ入社し、捺染(なっせん)用ロール彫刻製版事業を引き継ぐ。その後、時代の変化に対応して、保有技術を活かしながら異分野に参入。現在ではプリント基板及びプリント基板用検査機のメーカーとして事業を展開されている。

~捺染用製版から電子部品業界へ。IT化で厳しいユーザーニーズに対応する。~

 繊維業界の中で布に色や模様を染める捺染は、和歌山の地場産業として知られている。しかし、時代の波は容赦なくこの業界に関わる企業を揺るがせた。そのうちの一社、太洋工業は、これまで培った捺染用彫刻製版の技術を活かしてプリント基板設計・製造事業に転換を図った。そして、努力を重ねて、現在ではフレキシブル基板製作、及び基板の検査機の開発・製造メーカーに発展を遂げている。父の会社を受け継ぐ細江専務の若いパワーが、事業転換に成功したといえよう。


■捺染用彫刻製版の技術と基板製作の技術に共通するもの
  当社は、1960年に和歌山で父がそれまで勤務していた会社から、一部の業務を引き継ぐという形でスタートしました。和歌山において捺染(布に色を染めたり色々な模様を染めたりするもの)は地場産業の一つで、当社は、大量生産に向くロータリースクリーンや、ローラー捺染用に色々なパターンを形成する事業を手がけていました。例えば、花模様のプリント布を作るとすると、花の赤い部分は赤い花のパターンが要る、葉の部分は緑の葉のパターンが要る、地の部分は地の色のパターンが要る、というように、3色であれば3つの色を分解して染める分色作業が必要となります。わかりやすくいえば、プリントゴッコで年賀状を刷るような仕組みです。それぞれフィルムを作り、そのフィルムを使ってエッチングしたりメッキの手法を使ったりして版を作っていきます。かなり職人的な技能を要求される仕事です。
  しかし、中国、東南アジア、アフリカなどの海外からの追い上げなどを考えると、業界における当社の存続への明るい展望は得られず、業種転換を模索するに至りました。当社は今年で創業40年ですが、その危機はちょうど20年くらいたった頃のことでした。そんな時、大手電機メーカーさんのご紹介をいただいて、その会社の協力工場として、プリント基板の仕事をいただけることになりました。もともとの捺染事業で培ってきたフィルム作成、エッチング、メッキなどの技術を活かしてできるのではないか、と考えプリント基板の製作を始めました。
  最初は片面のみにパターンのある片面板を製作していましたが、メーカーから受け取るフィルムの通りにエッチングするような仕事で、これでは電子関係の仕事とはいえません。せめて基板のパターン設計ができるくらいにならなくては、という気持ちが強くなりました。ところが、設計したいと思っても社内に設計技術者は一人もいませんでしたので、そういう人材を積極的に採用し設計の仕事を請け負うようになりました。
  次に、片面板よりずっと付加価値の高い両面板の仕事を目指しましたが、それが加工可能な機械はありませんでした。そこで、両面板が作れる外注先を確保し、当社で設計したものを製作してもらいました。
  しかし、後発組の当社にとって、それほど美味しい仕事が得られるはずもなく、やってもやっても利益がなかなか出ない状況でした。もうプリント基板の仕事を止めたいとメーカーに伝えたところ、フレキシブル基板の仕事をやらせてもらえることになりました。硬質の基板と違って曲がる基板です。まだ出たばかりのものであるから、がんばってやっていけば徐々に力がついてくる、そうすれば仕事も増えていくだろうと考え、取り組むことにしました。
  その一方で、いずれにしても基板は非常に原価コストが厳しいため、もうひとつの柱が必要と考え、プリント基板用検査機の開発構想も進めるようになりました。それにはマイクロチップの技術者や、ソフトの開発技術者が必要になりますので人材を採用し、また、時間をかけて社内でも育成し、準備を進めました。それが平成になるくらいの頃です。こうして、フレキシブル基板を作る電子部品メーカー、及び基板検査機メーカーの2本立てでここまでやってきました。

■納期死守の基板の納期短縮化にIT活用
  フレキシブル基板の一貫生産ができる体制にこぎつけたものの、もうひとつの大きな課題として納期がありました。電子関係の仕事をしている方ならおわかりでしょうが、基板と言うものは、例えば外形などは設計の最後に決まりますが、生産にかかる時には最初に必要となります。つまりかなり厳しい納期が宿命なのです。金曜日の夕方に図面が入り、納期は月曜日の朝一番などというケースも珍しくありません。当然、納期は厳守です。しかし、いくらがんばっても1日は24時間しかありません。納期短縮にはコンピュータを使わなくては、という考えに至りました。
  フレキシブル基板の工程は両面だと数十工程あります。例えば工程の5番目と6番目の間に15分間放置され、次に6番目と7番目の間に20分放置されていたら、合計で35分のロスとなります。まず、こうしたロスを解消することが課題として挙げられました。
  また、基板は設計仕様が頻繁に変わるので、受注後もメーカーサイドから設計変更や数量変更が相次ぎます。それでいて短納期、高品質は当たり前のこととなっていますし、又納期の希望優先順位もころころ変わります。しかも沢山のお客様から多くの基板点数を受注していますので、もはや人間には管理しきれない状態でした。そこで、基板工場でのコンピュータ導入により、こうした課題を解消し納期短縮化を図りました。

■検査機においては情報の共有化のためにIT活用
  基板の検査機は、人材不足や開発資金不足など苦労の中で、何とかようやく立ち上げ、5、6年前から売り出すことができました。しかし、検査機においては部品の在庫が非常に重要なのですが、私どものような中小企業には、部品がなかなか回ってきません。基板の検査機へのお客様のニーズは多様化する一方ですから、部品在庫の管理が決め手となります。これには開発部門と営業部門、あるいは、お客様と当社において情報の共有化が必要で、ここでもコンピュータ活用のニーズに直面した次第です。
  検査機は、プリント基板の出荷直前に使われるという特殊性を持っています。つまり、製品が完成して検査機をかければ、もう出荷できる段階なわけですから、万が一検査機が壊れた時はお客様から待った無しでクレームをつけられます。この特殊性については阪神大震災の時に肌で感じました。神戸のお客様が3社ほどあったのですが、「地震で機械などはほとんど壊れたけれども、前日に作った基板が山積みになっているから検査さえすればすぐ出荷できて売上になる。当座の資金になるから何とかしてくれ」と言われ、何とか駆け回って3社のお客様の検査機の修理を行いました。その時に、検査機というものはいちばん売上に近いところにある機械なのだとつくづく痛感しました。
  ですから、故障したらすぐ対処しなければなりません。そのためには、故障の履歴を保管しておき、同じような故障が起きたらどこが悪いのかすぐわかり、部品はすぐ取り替えられるか在庫も照らし合わせて、お客様に即答できるシステムづくりが大切です。
  さらには、基板が使われている身近な例である携帯電話を見ても、どんどん小型化して機能が増えています。つまり、内蔵されているデバイスも高機能化していて、それを実装する基板はもっともっと細かいパターンになっていくということです。当然、検査機に対しても厳しいスペックが要求されますから、コンピュータ活用の効果はかなり大きいといえます。
  競合他社との勝負では、当社は資金力ではかないませんが、IT化で知恵を集めていけば何とかがんばっていけると考えているところです。

■IT化とともにフェイスtoフェイスが大事
  当社のような一般向きではない企業のホームページにも結構アクセスがあり、色々なレスポンスが返ってきています。海外からも来ることがあり驚いています。
  今日、インターネットを使ってBtoB、BtoCというビジネスが広く宣伝されていますが、私どもはやっぱりFtoF、即ちフェイスtoフェイスを重要視していて、インターネットはあくまでも補完的道具だと思っています。お客様のところへ行くことは非常に大切なコミュニケーションです。当社では東京の出先に営業マンを常駐させていますが、FAXやインターネットでのやりとりができるようになっても、先方から電話がかかってきて、会って打ち合わせをすることがかなりあります。営業マンには、全員にiモードを持たせています。私用に使う部分もあるかもしれませんが、あえてiモードを使い慣れてもらうことを目的と考えています。というのは、従来20くらいあるフレキシブル基板の加工工程について、新しい構想にiモードを活用しようと考えているからです。
  現況においては、お客様は発注したら納品までの間に、頻繁に電話してきて「どこまで進んだか」を聞いてきます。その度に、工程を担当している社員はその製品の進捗状況を調べて「ここまで進みましたから3日後には出せるでしょう」などと応対しなくてはなりません。この時間のロスがあるのです。そこで、お客様から製品コードナンバー、社名、パスワードを入れてもらえば、該当の発注物がどの工程にあるか一目瞭然にわかるシステムにしようと考えています。宅配便大手会社などでやっている、荷物がどこにあるかの発想です。このシステムは近々に構築したいと思っています。
  これが実現すると、例えば土日に家族旅行に行っている取引先のエンジニアの方が、家族サービスをしながらも「太洋工業に頼んでいる基板大丈夫かな、月曜日の朝ちゃんと送ってくれるかな」と気になったら、自分のiモードの携帯電話から現在の進捗状況を知り、納期を確認できるようになります。

■社員間のデジタルディバイド解消にiモードに着目
  ITは時間と空間を克服するといわれ、確かにそれは実感しています。先日テレビで観たある金型メーカーさんは、設計はオフィス街の高層ビルのきれいなオフィスでやっていて、それを回線で蒲田の工場に送っていました。金型工場といえば汗と油にまみれたイメージでしたが、設計のオフィスは清潔そのものですし、蒲田の工場も無人化が進んでいました。これもITのなせる技だと思います。当社も、和歌山にありながら、フレキシブル基板の取引先は関東圏が多いため、ITを活用して設計は東京で、加工は和歌山でできたら、と考えています。
  その一方で、やはりお客様と仕事の話をするための出張などは大切なコミュニケーションです。ITを使って時間と空間は克服できますが、匂いや雰囲気などはなかなか伝わるものではありませんから。例えば渋谷、原宿、代官山などに地方にはない都会独特の街の匂いをかぎに行く、こうしたことはITに置き換えられない大事なものではないでしょうか。ですから、IT化とともに、出張や旅行が減るということは考えられません。
  私自身についていえば、インターネットが主流になってきた頃、自分ではできないので、それに詳しい社員に頼んでインターネットにアクセスできる環境をセットアップしてもらいました。自分で実際にインターネットの世界をのぞいて見て、色々なことが瞬時にわかってすごいなと感心し、そこから少しずつパソコンへのアレルギーが薄れていったように思います。
  ここ和歌山のリサーチラボ内にあります社団法人和歌山情報サービス産業協会の会員になっていますが、会員は電子メールのアドレスをとらないと会員同士のやりとりができないし、協会事務局からの伝達なども受けられません。それでメールに慣れ、そのうちキーボードにも慣れてきたというわけです。
  最近、インターネットショッピングを試してみようと思い、本を買いました。数千円の本を買うのに自分の情報が全部ネットの向こう側へいってしまったような感じで結構勇気が必要でした。それでもようやく注文した本は2日後に届き、感激しました。
  当社のようなメーカーの場合、社員間で情報受発信の格差、即ちデジタルディバイドがあります。例えば製造部門の無い銀行や商社ですと、パソコンを使うのが仕事みたいな部分がありますから社員間の格差がありませんが、当社では圧倒的に現場の要員が多く、その現場では頻繁にパソコンを使うということがありません。だからコンピュータに慣れていない社員も少なくなく、電子メールを社内全員でやろうとしても、そのような環境はなかなか揃えられません。工程管理のためにパソコンを使っている程度ですから、社員のデジタル志向を飛躍的に伸ばすまでに至っていません。
  しかし、いつまでもそれではすまなくなってくると思いますし、将来さらに納期が短くなってきた場合の対応などを考えなくてはなりません。納期短縮の見通しは、企業間の開発競争が激化していることから、試作の納期がものすごく短くなっているということがあります。そうした場合に、社員各自の情報受信や情報発信も必要となってくるでしょうから、こうした問題への取り組みをどうやって行けばよいのか悩んでいるところです。
  とはいえ、現場の社員もプライベート用には皆、iモードを持って使っているわけですから、これを活用していけばいいのかなとも思います。私が心配する以上に、若い人たちはiモード、ITというものを自分の生活の中に取り入れているなと実感しています。
 ITは今後も非常におもしろいツールだということは間違いありません。これをどんどん使って、何とかこの厳しい時代を乗り切って行けたらと思っています。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:41 誠新産業(株)   事例発表日:平成12年11月21日
事業内容:電力・電設・通信・制御機材販売
売上高:不明 従業員数:約200名
(関連含む)
資本金:2億円 設立:1951年5月
キーワード 産業用資材販売、
営業支援、経営情報、
営業支援システム、情報共有、モバイル端末
中小企業の生き残りをかけたITへの取り組み

誠新産業(株) URL:http://www.bcc-net.co.jp/kigyo/seishin/

誠新産業(株)代表取締役社長 坂本悦夫氏
プロフィール

 昭和11年生 熊本市出身。誠新産業株式会社 代表取締役社長。
元 電力会社 理事資材部長。電力会社時代はEDI、電子資材調達・決済などを推進。趣味はテニス、ゴルフ、囲碁。

~ITを活用することで、新時代を勝ち抜く企業体質へ改革しよう~

 中抜きの時代、電設建設関連の資材及び機器工具の商社である誠新産業も新たな展開を図るべき時を迎えていた。その局面において、坂本社長の選択した方法がIT活用による企業体質の改善、物を仲介する商社から情報を仲介する商社(情報エージェント)への転換である。まずはどこから着手し、どのように進んでいるのか、現場の声を届けていただいた。


■会社概要
本社所在地 福岡市中央区薬院2丁目19番28号
営業所 札幌、仙台、新潟、東京、名古屋、大阪、広島、北九州、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島
関係会社 誠新物流株式会社、沖縄誠新株式会社
資本金 200,000千円
社員数 約200名(関連会社含む)
業務内容 電力・電設・建設及び通信・制御用資材・機器工具の仕入、販売
その他 ISO9002認証取得(CI/1749、2000年8月10日)

■システム構築の前に会社の抱える課題を洗い出してみたら・・・
  誠新産業(株)は昭和12年創業。業務内容は、電力、電設、建設及び通信制御用資材、機器工具の販売をしています。北は北海道から南は沖縄まで営業所や関連会社を開設しています。我々は商社であり中抜きが進んでいく中で、いくつもの課題を抱えていました。商社として生き残りをかけるにはどういったことが必要なのか。トップの経営判断を求められております。では先ず第一に、トップの経営判断に必要な情報は何なのか。第二に、従来の馴れ合いの中で仕事が確保できる時代は過ぎ、情報や提案力を持ち合わせた者が仕事を得られる時代において、営業マンに必要な情報は何なのか。この解決のために営業支援システムを開発しました。システム屋に作らせるのではなく、あくまでも我々が求めるニーズに対応したものを作ることで、そのシステムを活用しています。
  基本的には社内の情報を多面的に利用、活用することで構築されており、当社では社長、役員以下全員が携帯パソコンとPHSを持ち、何時、何処でも情報の発受信がされ、インターネットができ、情報の共有化が図られています。
  このシステム構築に取り組む前に、まず現状の経営面、営業サイド面での問題点を徹底的に洗い出しました。
[経営の問題点]
  ①営業マンの動きが見えない
  ②売掛金の管理が行き届いていない
  ③実績が出るのが遅い
  ④部門を超えた情報の流れがない
  ⑤現場の声が届かない
  ⑥最終的な物件ごとの収支がよくわからない
等が洗い出されました。
[営業サイドの問題点]
  ①見積・受注・手配・納品・請求・入金の管理が必ずしも連携されていない
  ②業務日誌・報告書が書きにくくて活かされていない
  ③売り上げ状況がタイムリーにわかっていない
  ④データを自由に見に行くことができない
  ⑤取引先に対する営業の実際の経緯がわからない
  ⑥引き継ぎがうまくない
  ⑦仕入先からの請求書の照合が大変、売掛金の情報がタイムリーでない
  ⑧売れ筋商品が見えない
  ⑨報告業務が迅速にできない
等問題点がたくさん出てきました。これらをどういった形でITで支援しているかということが今日のお話です。

■計画的・効率的に業務を推進するシステムづくりの実際
  では、具体的にどのように問題解決していったのかお話します。
  基幹システムとして、人事、総務、労務から一般的な情報処理システム、会計処理システムまで可能な範囲カバーリングできるような形を確立しております。営業マンへの情報提供のツールとしては「件名管理」で、全国の建設件名情報などの把握、提供、営業活動中の物件などについては「見積支援」「販売状況管理」システムに加えた会計システムで業務を網羅し、グループウエアとして全体のシステムが出来上がっています。私どものシステムが最終的にどのようにネットワーク化が進められているのかといいますと、福岡市にホストコンピュータがあり、PCのサーバーがあり、社員全員がモバイルを持ち、活用しています。極端な言い方ですが、モバイルですから、会社に出て来なくて何処に行ってもゴルフに行っていてもいいよ、その代わり直行直帰で目標を全部達成しなさいと言っております。東京のスタッフは車に乗っている移動時間のロスが多く、なぜかというと客先からいちいち営業所に帰って書類を書いているのです。それをPCから落とせるようにしたことでホテルでもどこでも書類作成ができ、効率よい業務が進行できます。
全体的に計画的な業務を支援すること目的とした、「スケジュール管理」があります。これには営業全員の訪問活動などの行動計画を入れ、実動面は業務日誌とリンクしており、訪問予実が管理されております。「取引先管理」は、取引条件、取引実績等、お客様の状況を把握できます。「売掛金管理」は、得意先別、部門別、担当者別に入金の遅れがないかなどを把握できます。
全体的な「営業支援」システムとしては、業務日誌、受注支援、見積支援、リテールサポート機能があります。日誌から色々な切り口で見えるようにし、スピン、リンクができるようになっています。日誌に敬語なし、3行以下とし、3行以上のものは添付ファイルにせよ、とできるだけ短く入力することにしております。
「受注支援」は受注状況の把握、「見積支援」は見積書の比較、過去の見積とのデータベースの比較、「リテールサポート」とはメーカー、小売各社間のネットワークなどサポートしております。

■情報提供業務で営業力を強化
  こうした計画的業務、支援業務と並んでもうひとつの柱が情報提供業務です。これは経営者、営業マンにとって必要な情報を定量的・定性的に提供しております。定量的には受注明細、受注から入金までの販売の得意先別・商品別・部門別・担当者別・月別等の販売実績の確認、見積の状況の把握、定性的なものとしては、件名情報、工事概要、取り組み状況、行動計画、行動予定、活動状況、業務日誌、取引先情報の会社概要、キーマン情報などがあります。非常に盛りだくさんのようですが、これはみんな必要な情報であります。今まではこういうものがなくても会社はやってこれましたが、これからはITを利用することによって非常にスピードアップし、効率よく活用できるようになっております。
  そこで我社は、需要減、競争減に対する営業力強化を図るために、仕事のやり方を改革しようと立ち上げました。今までは会社に来てマジメにやっていればよかったが、今後は就社から就業という意識の変化が求められ、営業が営業という業務に一層注力をこらすべきであります。これからは会社にいなくても業務が遂行できるモバイル態勢を展開しております。当社がシステム確立を図った要因の一番大きなことなのです。現在ではペーパーレス化も着々と定着しております。

■ISO取得、国際会計基準にもIT活用、そして新時代の企業へと変化を目指す
  このように会社の仕組みを再構築し、今年ISO認証を取得することができました。世界に通用する企業として会社の品質の向上を目指すなか、このISO取得に取り組んできたのですが、審査を受ける時にIT技術が大変功を奏しました。あの資料はありますか、この記録は残っていますか、会議のこれはどうなっていますか、と言われた時に、全部このパソコン上で、これです、あれです、と言えます。必要な情報が大部分データベース化されたものが活用されております。
また、いよいよ来年から始まる時価会計に伴う国際会計基準に対応できる会計システムの導入も図っています。現金幌馬車隊のような古い体質ではもうダメであり、連結などの税務会計、時価会計基準に対応した企業でなくてはなりません。
  最後に、ITの活用はISO取得、国際会計基準導入を容易に実現でき、これにより業務効率化、企業の体質改善を図り、ビジネスチャンスをさらに拡大できるものと実感しています。
  現在は未だ不況の中にあり厳しい経営環境ですが、私は今の時点で、会社の仕組みを21世紀のIT時代に向けた構築を図るということで進めております。将来的には電子カタログ、当社のホームページからメーカー様、NECさん、東芝さん、松下さんなどのホームページに行けるとか、動画を使って過去にあった色々な作業条件(雪、風雨の中での作業状況など)情報を提供し、商社の生き残りをかけております。
  仮想ショッピングも早くやらなくてはと思います。さらに商社として、我々のシステムを、アプリケーションプロバイダ的に売るのではなく、それぞれの切り口を使いませんかという事業展開も考えています。最初からこれだけのものを作るのは大変お金のかかることですから、我々が作り上げたものを上手に活用してくださいとアピールしています。
 今後は新商品、新製品のニーズをお客様、メーカーに提案していくリテール機能業務に変換していく必要があると思っています。つまり、物を売る仲介業から、情報エージェント、情報仲介業へと変化するところに生き残る道を見出し、そのためにもITは欠かせないツールとなっているのです。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:22 新妻精機(株)   事例発表日:平成12年9月2日
事業内容:開発試作加工メーカー
売上高:不明 従業員数:48名 資本金:1000万円 設立:1970年4月
キーワード 試作部品加工、受託型の加工業、
品質保証体制の確立、
CAD、CAM、情報の発信
情報と活用と業務の改革
 

新妻精機(株)/(株)ニイヅマックス

新妻精機(株)取締役営業部長/(株)ニイヅマックス 代表取締役 片桐士朗氏
プロフィール

 昭和47年新妻精機㈱に入社後、工場長、取締役営業部長を歴任。平成2年、(株)ニイヅマックス代表取締役に就任されている。

~中小企業のIT化は情報収集と行動力が決め手~

 日本の製造技術が集約していると言われる東京都大田区。新妻精機㈱はその中でも、大田区を代表する試作の企業として、かなり早くからITに取り組んできたことで知られる。頑固な職人による技術が、売り物のイメージが強い中小企業において、IT化はどのように進み、どのような成果をあげているのか。日本産業界のひとつの縮図のごとく、新妻精機㈱における実例を見てみたい。


■課題が山積している業界において、オンリーワン企業を志向する
  当社は物造りにおける開発、設計領域の設計製作の部品メーカーとして25年の歴史を持っています。
  この分野は新技術、スピード、サービス、コスト等、さまざまな要求に応えるための課題が山積みになっています。さらに、時代の変化に伴うデジタル化への対応なども早急に求められているのが現状です。今後の企業の発展を促すためには、技術的な裏付けや情報技術の取り込みも必要なことはいうまでもありません。また、従来の受託型の加工業には不足がちであった営業促進活動も、大きな鍵を握るものと考えています。産業の枠組みが大きく変わろうとしている今、業界の意識改革のみならず、取引の形態そのものも大きく変わりつつあります。当社は、このような新局面に対して、当社ならではの強味、技術、情報、設備、この最適な組み合わせを実現することにより、開発試作加工メーカーとして、オンリーワン企業を目指して日夜努力しています。
  会社の創業は、昭和40年です。現社長が旋盤たった1台をもとに、この蒲田にて独立して始めました。45年に法人として設立。48年にはオイルショックの荒波も経験し、50年に今の企業の基盤になる試作部門の、試作部品加工の分野に着手することになりました。53年にはMC第1号機を導入。この頃は、新妻精機として、MC導入により機械化がうまく図れるかどうかという節目でもありました。この年から62年くらいまで、年間1億円近くの設備投資を続け、機械設備の拡充に力を注いできました。
  また、61年には二次元CADを導入し、CAD化も図っていきました。CAD導入前は、FAXで図面をやりとりをしていましたが、FAXですとどうしても図面の端が切れたり数字が不鮮明なことがあり、FAXを受け取ってからも、電話で何度も打ち合わせをしなければならない状況が多々ありました。CAD化によりこうした無駄な時間がカットされ、効率化に大きく繋がったと共に、データがそのまま通信で伝わってくるので伝達のミスや見間違いがなく精度の向上にも大きな効果があげられました。

■時代の波に強くなるために設備投資に注力
  現在は、東京と長野に工場があり、合わせてマシニングセンターが40台、NCフライスが8台、放電ワイヤーカット各2台などを完備しています。こうした各種の機械を揃えながら試作部門に専念しています。
  昔から職人は人の技を見て覚えろ、というのが当たり前のように言われてきましたが、そうやって身につけた技術を駆使しても、一人でできる仕事はどんなにがんばってもやれる範囲に限度があるものです。そこで、私はMCの活用により、もっと効率アップが図れるのではないかと考え、取り組んできました。そこで、自分のわかる範囲で、まず新人教育用のマニュアル書の作成を53年から行い、一人前とみなすまでそのマニュアル書を基本として社員教育を実施してきました。
  また、CAD化に伴い、フロッピー、電話回線とのやりとりは平成4年より実施し、平成9年にはパソコンの活用も一層進めました。
  当社が試作加工メーカーに転じたのは、48年のオイルショックからひとつ学んだこととして、景気動向に影響のない仕事はないものだろうか、と考えたことから始まりました。それには人の嫌がるもの、かつ単品ものをやればいいのではないかと、50年より試作部門の仕事へと流れを変えたのです。
  また、先ほど話しましたように、53年からMCを導入した時もかなり大変な状況で、MCというものがそんなに簡単に動くものではないことを現実に突きつけられました。しかし、これを何とか動かさなくてはならなく、今思えば、自分で動かすことを何回も試みた結果として動かせたのだと思いますし、社長があせらず寛大に見守ってくれたことがよい結果を導いたのでしょう。せっつかれずに「そんなにすぐに動かなくてもよい」と言われると、逆に「早くこの機械を動かしてやるぞ」と思いますから。この後に展開するCAD/CAMについても同様のことがいえると思います。
  こうした一連の過程において、プログラムを覚える時に、何かトラブルがあると自分を疑うよりまず機械を疑うことが多いです。これは皆さんにもある経験ではないでしょうか。動かないと機械が悪い、と。しかし、機械はけして嘘をつきません。人間の考え方次第で機械は動くのだということを学びました。
  それを教訓に自分なりのマニュアル書を作成し、より早く技術者を育成し、社内の戦力になるように努めました。技術者が増えれば会社の戦力は倍増していくと確信したのです。もちろん、MCだけ揃えていってもそれだけではなかなか仕事の効率化に繋がりません。

■品質保証及びコストダウン化を実現し、顧客との信頼関係を強化
  ひとつの製品に対する品質保証に対して、お客様の要求が年々強くなっていることを実感しています。当社では、これを大きな時代の流れの柱ととらえ、品質保証体制の確立を図りました。まず、昭和59年に、三次元測定機、工場顕微鏡を導入し、これらによる実験検査体制を確立しました。平成10年には、CNC三次元測定機、CNC画像測定機、歯車の噛み合い試験機等を新規導入しました。その結果、不具合の製品が社外に露出する確率が非常に減少し、製品の品質保証が確立された手応えを得ました。これにより、顧客との信頼関係がより強まり、受注に還元されたことはいうまでもありません。
  さらに、コストダウン化も激しくなっているなか、その対応として、高速制御のMCを導入しました。いかに早く仕事を進めるかの追求と、部品の精度への追求を同時に行うことで加工時間の短縮を図り、時代のニーズに対応できる体制を整えられたと自負しています。
  こうしたマシンの高速化に伴い、3DCADの投下も図りました。3年ほど前から当社には3Dデータで支給されることが増えていましたが、現状として、データの互換性が非常に悪く、苦労して三次元の面を張りながらCAMのほうに持ち込む方法で対処していました。当社では日立造船のグレードというタイプを使用しており、これにデータを取り込み、修正を重ねながらマシンを動かす仕事を本当に四苦八苦しながらやっていました。これではどんなにがんばっても効率化が望めないため、平成10年、新たな設備投資として、ソリッドワークス、アイデアズ、ソリッドデザイナー、キャテア等のCADを導入することにより、3Dデータの受け入れ体制を完備しました。こうして、仕事の流れがプラスの方向に進行している状況にあります。

■電子メールやホームページもおおいに活用
  社内データについては、3年前までは、フロッピーでの受け渡しが主流でしたが、これは無駄が多いため、NTTのINS64の回線を利用して社内におけるデータ通信を行う形にしました。さらにいいものがどんどん出てきて、今では無線通信を使って速度を20分の1に短縮できるまでになりました。
  当社が無線通信を採用した理由としては、大田区の下丸子に工場が6つあり、その6工場に早く正確にデータ送信を行うためです。加えて長野県佐久市にも工場があり、そことは当初モデムを使って1対1のパソコン通信でやりとりしていたのですが、現在はISDNによるメールで送受信してデータ通信の時間を短縮しています。色々やってきて思うのは、年々ハードもソフトもバージョンアップされるため、どれを選ぶかその選択とタイミングが非常にむずかしくなっていることです。
  ホームページも活用し、情報の収集に役立てています。当社のホームページにアクセスしてくるメーカーさんは、技術の情報、または加工について困っている状態のところが多いようです。それに対してお話をさせていただくと受注に結びつきやすいということがあります。つまり、受注の確率はホームページによって極めて高まってきているといえます。しかし、すんなり自社のホームページを開設できたわけではありませんでした。最初は、日経メカニカルという雑誌に会社案内を掲載していましたが、その結果、設計者からの依頼が非常に増加しました。さらに仕事の幅を広げようと考えて、同じ雑誌の中に加工ポータルサイトからの検索で、当社のホームページに接続できる形をとりました。そうして、2000年2月に自社のホームページを開設しました。以前に増して早い検索が可能となり、多くのお客様からの問い合わせや依頼が急増しているところです。
  ホームページのもうひとつの効用として、営業方式への影響があげられます。今までは自分たちから取っていたアポイントが、逆にお客様の方からアポイントを求めてくるようになりました。また、そうして対面した時にも、あらかじめホームページで当社についての概要や、PRポイントなどの情報を得ていただいているので、初めて会ったような気がしない形でお客様とお話ができるメリットもあります。

■厳しい時代にこそ、あえて設備投資で対応する
  当社のある東京大田区は中小企業の工場が集中している地域ですが、営業の拠点としても便利なところだと実感しています。私自身、営業として、茨城、栃木、群馬、長野、山梨と広範囲に車で飛び回っていますが、大田区から都内や地方に出るのは渋滞と逆の流れらしく大変スムーズなのです。
  先ほど、当社の工場が大田区下丸子に6カ所に分かれていると言いましたが、どこか1カ所に集結するという考えを持ちながらも、その場所としてはやはりこの大田区内にすべきだと思っています。
  来年にかけて、さらに設備投資を行う予定であり、この厳しい時代にあえて設備投資を行うことにより、より早く、且つコストダウンが実現できる事業体系を蓄積していきたいと考えています。
  これからも試作のプロフェッショナルとして設計開発に関わり続け、お客様の要求をクリアすること、技術のアドバイザーの態勢を整えそれを発注先へアピールしていくことに重点をおき、「困った時の新妻精機」としてのアイデンティティをもって前進していきます。私どもの経験から得た実感として、中小企業にとって情報化とは、機器や設備を導入すれば情報が入って仕事が効率よくなるというものではありません。日頃から情報収集の気持ちを持ち、機敏な行動力があってこそ、初めて機器やシステムを活用できるものではないかと思います。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:17 住友電装(株)   事例発表日:平成12年2月23日
事業内容:自動車部品メーカー
売上高:1953億円
1999年3月
従業員数:4590名
2001年9月
資本金:50億3400万円 設立:1917年12月
キーワード 自動車部品製造、
ジャストインタイム生産の柔軟性、設計リードタイム短縮戦略的情報化投資、
EDI、GPS、SCM、エンドユーザ主体の開発体制
戦略的情報化投資への決断 我が社のあゆみと課題
  
住友電装(株) URL:http://www.sws.co.jp

住友電装(株) 会長 村田 茂
情報システム部長 伊藤 仁志
プロフィール
村田氏/1990年に同社代表取締役社長、95年に会長に就任。その間、住友電装グループのトップリーダーとして企業情報の高度化による経営改善を推進。
伊藤氏/村田会長から呼を受けて同社の戦略的情報化の第一線を指揮。その奮闘ぶりが日経ストラテジー2月号にて取り上げられている。
~グローバリゼーション最前線の自動車業界で世界最適調達メーカーを指向する~

激変する産業構造の中でも、自動車業界の変化は目覚ましい。グローバリゼーションの波が容赦なく襲い、自動車メーカー各社はたくさんの課題に懸命に取り組んでいる。そしてまた、共存共栄してきた部品メーカーも同様の環境のもと、自動車メーカーからの厳しい要求にいかに対応できるかが生き残れるかどうかの分岐点となっているのである。たくさんの苦しい課題を抱えながら戦略的な情報化投資に取り組み、売上増加にまで効果を結びつけた住友電装の事例に学ぶことは多い。


■会社概要
設立 1917年12月
資本金 50億3,400万円
売上高 1,953億円(99年3月期)
従業員 5,000名
事業内容 ワイヤーハーネス電装品並びに電線類の製造販売
国内関係会社 22社(5,000名)
海外関係会社 43社(22,000名 19カ国)
主要取引先 トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、三菱、GM、FORD、FIAT、VW、BMW等

■主要製品
・自動車用のワイヤーハーネス
  自動車の中の電気回路、電子回路をそれぞれ機器、或いは動力源と結んでいろいろな情報やエネルギーを伝達する役割を持つ、自動車全体の走行を補助するもの
・ コネクター
・ ジャンクション・ボックス
・ センタークラスター

■旧システムの限界、新システムの早急な構築が必要となった
ここ10年の売上高と経常利益をグラフにしてみますと、バブル崩壊の寸前まで右肩上がりでずっと売上が伸びてきていましたが、93年から右肩下がりになり、96年からまた若干取り戻して、現在では2000億円前後の売上となっています。特に96年に売上が増えたあたりは、新しい車の注文を得たこともありますが、それに結びつくような形で情報システムの改革が実現し効果をもたらしたと思っています。
私は住友電工で長らく営業を担当し、90年にこちらに来ました。その当時は好景気で増産対応に苦労していました。自動車メーカーからは商品力の強化、高品質化、低コスト化を大変厳しく要求され、マルチパーパスな車を増やそうと各社が検討し車種のバリエーションがどんどん増えていました。85年に3000点くらいだった品番の点数が90年には5000点に増え、設計の手間も大変増えて参りました。自動車メーカーも海外生産拡大に走り、特に円高による海外シフトが進みつつある時代でありました。
その頃の当社の経営課題は、増大するハーネスの注文にどう対応していくかということでした。工場の方は残業や臨時工の人を増やすことで増産対応を図っていましたが、残業が増えることに不満を持った若いエンジニアが入社2、3年でどんどん辞めていくような負の影響も出てきました。また、工場の新増設計画が決定し、6工場を増設することにもなりました。今後のことを考えると生産革新、企業体質の強化なくして乗り切れないと思いました。既存システムは、1980年頃に作ったシステムを数回により改善して付加的なものをつけたシステムなので、これ以上の拡大拡張は無理だと判断しました。新しいハーネスCIM構築の必要性が、特に情報システムのグループの中で検討されていました。設計開発部門の幹部からは、その時の人員の倍近い人員を確保して組まないと設計の対応ができないので、設計要員としてあと200人増やしてほしいという要求が出る始末でした。早急に社内の方向性を話し合った結果、時代のニーズに即した新システムを3年間で創らないともはや対応できないとの結論に達しました。

■課題は山積み、それを乗り越えて大きな成果を実現
社長としては、まず情報化の資金が心配でした。その当時で、当初80億必要だと言われていました。これはピーク時は3年ほどですが、5年くらいの間に完成させるということでしたから、年平均16億円のインフラ的な情報化投資が必要になる計算です。IHS(インテグレイテッド・ハーネス・システム)......設計、生産、経理まで全事業活動に関わる総合的な情報処理システムを開発する原資が80億かかるというのが大変なことでありました。他の投資も入れると年間30億円くらいは情報化としてやらなくてはならないので売上が約2000億ですから、年間1.5%の情報化投資ということです。しかも、工場の新増設の案件も目白押しで、91年にバブルが崩壊し、景気が後退し、お客様からはさらなる値引き、新車開発に要する期間短縮のために我々にもっと設計精度を上げて欲しいとか、相互のコミュニケーションができるように先方のコンピュータとの連結も含めてシステムを高度化して欲しいなど、要求が相次ぎました。こちらは、お客様のスピードが上がるのに対応しきれない、アプリケーションが不足しているのに急には賄えないなどジレンマばかりで、まさに課題が山積みでした。
開発投資に必要なお金ですが、いくつかの工場進出を半分の規模に減らすなどしてから、3回の社債を発行しました。同時に借入金の借り換えをして金利負担を減らし、このシステム全体の開発投資も60億まで圧縮しました。開発内容については、特にIHSの開発期間を短縮することで設計のリードタイムを短縮しようと考えました。競合見積対策も課題として組み入れました。お客様が「売れる車しか作らない」、「在庫を持たない」という方向になり、我々のワイヤーハーネスも大変変動が激しくなり、それに対応できる生産の柔軟性も課題の1つでした。新しく構築すべきIHSというシステムは、共用化設計、共用化生産が連動した統合システムを目指し、最終的にはジャストインタイムの納入による物流コストの低減、輸送時間の短縮、と合わせて仕掛を含む在庫の削減により、資金効率を向上させ、浮いたお金が情報システム投資の効果だと考えました。
93年4月から設計システムが一部稼働に入り、94年にはお客様との間でCADデータの授受ができるようになりました。その年の7月には生産管理システムも一部稼動し弾力性が出てきました。95年には、設計、生産管理システムが全面的に稼働し、軌道に乗るにつれ、当社が今までできなかったことが色々できるようになりました。ちょうどその頃、カーメーカーが車種を増やしつつあったので、我々の新ハーネスシステムを駆使し、受注コンペに臨み、売上復活に効果を上げました。システムを使いこなすために、実際に使う人たちの参画において苦労はありましたが、設計開発力の向上、決算日程短縮などどんどんスピードが上がり、お客様へのレスポンスが早く、かつ、質もアップしたということで信頼性も向上しました。子会社とも連結経営、連結決算が比較的容易に他のパッケージも活用しながらできるようになりました。
こうしたシステム改革を実現する条件としては、何と言ってもトップの強力なリーダーシップであり、戦略的情報化を推進しようとする時には「人」が中心になります。単なる情報の共有化ではなく、情報の共感化が大切で、分散型でなく、ここは絶対はずせないというところには全力を上げて人も金も集中的に投資をしてその結果を早く出して経営効率の改善に役立てることです。情報システム分野には社内にしろ社外からにしろプロ集団が必要で、それを機動的にかつ効果的に投入することが戦略的経営の中でも極めて重要なのです。また、仕事の仕組みや業務の環境整備も大事なことで、いずれにしても、やはりトップの強固な意志、実行力、説得力にかかってくると思います。
具体的な展開について説明します。

■開発推進の具体例と成果
IHS開発の3つの基本方針
システム利用部門主体の開発体制それまでは情報システム部主体の開発でお任せのシステムでしたが、IHSにおいては、業務の仕組みと課題に精通したシステム利用部門が主体にならないと成功しないと考えました。
業務機能と情報の大幅な改善と統一化を促進
IHSの早期開発、早期稼働、費用圧縮これだけのシステムですと従来のやり方だと約5年かかりますが、それでは出来上がった頃には既にシステムが陳腐化してしまうので、最低でも3年の間に一部のシステムでも稼働させていくことが目標でした。
具体的には、システム機能と情報の統一を図る必要があり、コード体系、データ項目、事務ルール、事務フロー、組織、要員、設備、など現状の業務の全てにおいて課題を確信して、新しい仕組みに置き直すということです。現場では現状の業務を運営しているなかでこういう新しい仕組みを持ち込みますと、やはり強烈な抵抗が出てきます。その解決のために、新システムに共感してもらおうと、システム利用部門主体の開発体制を敷きました。
IHSの開発体制は、売上の80%を占めるハーネス事業の基幹システムとして開発することから、全社の英知を結集して開発する必要があります。そこで、IHS委員会を発足し、設計分科会と生産管理分科会に分けて開発を進めました。実行部隊については、ワーキンググループという形で全社からメンバーを選抜し、100名を越す大きな委員会となりました。このうちの10人は業務に精通した専従メンバーです。システム開発については、情報システム部が主体的に行い、社内78名を投入、さらに開発のスピードアップを図るため外部のソフト開発を85名投入しました。投資配分は、設計が40億円、生産管理が20億円、合計60億円です。開発本数は約1万本の枠で構成されています。
では、IHSシステムでどのような効果があったのかお話します。いちばんの効果は、設計の省人化でした。開発を始めた90年当時、CADのオペレータは350名、設計件数4000点くらいでした。今ではオペレータは170名に、設計件数は6000点になっています。従来はMARKⅡクラスの車でだいたい150枚くらいの図面がありますが、IHSシステムの中で捉えてみると半分くらいが共通的な回路で、残りの半分がオプション的回路となります。そこに注目して図面の共有化を図り、5分の1の図面枚数にした結果、設計変更の数も激減し、設計の自動化も随分図れました。設計のコストが減り、質が向上したということです。約300名のCAD要員の省力化というのは、金額にして年額20億円以上になる計算です。
当社の情報化投資は、IHSに60億円かけて行うのと併行して、他に40億円かけてシステム開発を行ってきました。その後もだいたい年平均30億円の情報化投資をしています。95年にIHSの開発がほぼ収束し、その後はOA化の対応を行い約10億円投入しました。また部品システムに5億円投入、その他連結決算管理も先行的に開発しています。GPSを活用した物流管理、インターネットEDIなども進めています。
情報システム部門の開発体制は、200名で運営しています。内訳は企画及び予算管理を行う情報システム部が48名、SWICS(スイックス=90年8月に分社化したソフト開発専門会社で、住友電装コンピュータシステムの略称)が80名、外部のソフト会社から72名活用しています。やはり開発のスピードが上がるということと、当社にない専門技術を早期に導入するということから、アウトソーシングを積極的に活用しています。ただ、アウトソーシングを活用すると、新しい技術が社内に残らないとか、開発情報が外部に流出する問題もありますので、情報システム部門を分社化し、その部分を内部利用という形にしています。また、開発をSWICSに集中することから開発の効率化を図り、費用削減を行っています。外部スタッフにも社員と同じ環境で業務を行ってもらい、成果優先主義を適用しました。要員配置は、IHSが78名、その他のシステムで122名となっています。

生き残りをかけて自動車業界各社は必死。情報化が大きなカギとなる。
最近の自動車業界は、ご承知の通り、21世紀に生き残りをかけた熾烈な国際競争を繰り広げていて、部品メーカーを含めた自動車業界全体が大きく変わろうとしています。自動車メーカーから部品メーカーへの要求として、急速な海外展開に伴うグローバル化対応、継続的かつ強烈なコストダウンがあります。つまり、自動車メーカーは世界最適調達によるコスト低減を図るために、グローバル対応ができない部品メーカーを選別し切り捨てようとしており、従来の自動車メーカーとの系列構造は徐々に崩れつつあります。反対に柔軟な対応ができる部品メーカーとは、部品のモジュール化推進、リードタイムの短縮化とコスト低減のために、コンカレント開発とアライアンスの確保を積極的に推進しております。ここで重要になるのが情報戦略です。自動車メーカーは部品メーカーとの設計生産販売情報の電子化を推進し、コンピュータシステムの投資とグローバルネットワークによる情報データベースの共有化を図り、強固なサプライチェーンマネジメントを構築しようとしているのです。
当社としては、生き残りのために、世界最適調達を実現しなければならない状況です。具体的な対策ですが、まず海外戦略では、日本、アジア、米州、欧州の世界四極体制を敷き、海外に製造会社27社の関係会社を持っています。開発拠点は6社、販売会社は10社を有し、あわせて情報ネットワークの構築も行っています。新しい電装部品を投入するシステムインテグレーション対応については、テクニカルセンターの強化、当社が有していない技術や製品については異業種、同業との連携強化を推進しています。ハーネスの生産比率は、国内46%、海外54%と、完全に海外生産が高く、この傾向が強くなってきています。グローバルな生産・販売ネットワークとして、海外43社、国内については22社で運営し、北は岩手から南は九州まで各地に点在しています。
市場ニーズに見合ったコストと品質が提供できる生産体制を構築中で、具体的には、自動車メーカーとのコンカレント開発だけでなく、自動車部品のモジュール化の進展に合わせて他社との共同開発も行い、開発リードタイムの短縮とコスト削減を図っています。また現地生産だけでなく、コストメリットのある海外への生産委託など、より有利な生産方法や生産場所を選択する生産体制をとっています。このように、情報と機能の統一と共用化を図ることは非常に重要なポイントです。

■単一企業内の情報システムからグローバル情報システムへ
現在、グローバル情報システムを構築中で、それを効率的に運営するサプライ・チェーン・マネージメントは、図「当社のサプライ・チェーン・マネージメント」の通りです。関係する自動車メーカー、親会社の住友電工、当社、関係会社、協力会社、仕入先等、かなり複雑な構造のシステムとなりますが、これにより情報と機能の共通化が図れます。設計、生産管理、販売、調達、物流、経営管理、それぞれの具体的なパッケージを構築し、システムは共通データベースに全て結合し、ここに集約的データを集めている仕組みです。自動車メーカー、仕入先、協力会社とは、最近ではインターネットEDIを使っています。

業務の連携強化とコミュニケーションのスピードアップを図るために、専用回線化、電子メール、電話会議、テレビ会議などを導入し、こうした情報インフラについては2000年1月に完了しています。
グローバルなシステムサポート体制については、現在は国内160名、海外140名のシステム要員で対応し、情報システム部が関係会社を出張ベースでサポートしています。しかし出張ベースでは不十分なこともあり、各拠点(アジア、米州、欧州)にISセンターを構築し、きめ細かな対応をしていきます。まずは4月に米州、夏に欧州、に立ち上げる予定です。関係会社のシステムについては関係会社のローカルスタッフが対応していますが、そこでオーバーフローしたものについては関係会社であるSWICSやインドのソフト会社なども活用しながら運営しているところです。
グローバル情報システムを円滑に運営していくためには、グローバル化に対応したシステム要員の育成が最優先課題となります。グループ全体において、各社間のシステム機能とスキル格差を認識するとともに、優秀な海外システム機能及び要員の活用を図っていかなくてはなりません。1999年12月にタイでアジアの情報システム会議を開催し、9カ国、20名が集まりました。2000年は9月頃に北米で行う予定です。その他国内では情報システム研修会、情報システム連絡会などを徹底的に行い、レベル合わせをしています。
いずれにしても、従来の企業内の情報システム化から、グローバルな企業間での情報システム化へと、スピーディに対応していく必要があり、生き残りをかけて、全力で取り組んでいるところです。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:33 志満や運送(株)   事例発表日:平成12年10月27日
事業内容:運送業
売上高:不明 従業員数:82名 資本金:1000万円 設立:1964年4月
キーワード 運送業、協同組合
帰り便の利用、協同配送、地域中小企業物流効率化推進事業、物流効率化、
求荷求車情報、物流ネットワーク
わが社の情報化の取り組み

志満や運送(株)


志満や運送(株) 代表取締役社長 湯浅恭介氏
プロフィール

 1960年生まれ、徳島県出身、東海大学文学部卒業。徳島県トラック協会理事。協同組合「物流ネットワーク徳島」理事。徳島グランドワーク研究会会長。全国パートナーシップまちづくり連絡会議発起人。1998年度(社)日本青年会議所副会頭などを務める。

~弱者に強者と競合できる力を-「物流ネットワーク徳島」~

 厳しい経営環境が続く時代、物流業界もまた、淘汰の波を受けている。IT化による産業界の変化が進むにつれ、物流へのニーズはますます高度化している。物流そのものの変化、地方の中小零細業者の生き残りのための競争力、を考えて湯浅氏らが取り組んだのが、情報化を活用したネットワーク構想であった。そのネットワーク事業、「物流ネットワーク徳島」の誕生のきっかけから今日までの取り組みを伺った。


■競争力をつけるためにネットワーク化を構想。当初の手段は電話中心。
  私は父の会社に入って15年、社長になって9年経ちました。当社は運送業を行い法人化して36年、従業員82名、車輌数73台、営業倉庫が2カ所、配送エリアは北海道・沖縄・東北(宮城を除く)以外の日本全国をカバーしています。バブル崩壊後からずっと右肩下がりの状況で、どうやって競争力をつけるか、と考えた時にネットワーク化のプランが上がってきました。長距離運送という物流をいかに効率化するかをテーマに情報化を推進してきました。
  運送業務とは、お客様からお預かりした荷物を安全かつ確実にお約束した時刻にお届けすることです。生産地から生産加工する拠点、販売する拠点、もしくは消費者に直接届けるのが仕事です。インターネットによりいくら情報の伝達が発達しても、物流はなくなることはないでしょう。
  10数年前、やはり物流をもっと効率化しなくてはならない、それには自社のみで情報や物流の流れを変えるのはむずかしいと思案していた時、まず問題点を情報公開することにより物流の効率化を図ろうと考えました。また、競争力を強化したいというのが地域の同業者の声でしたので、規制緩和が進んでいた時流もあって、ネットワーク化による連携の強化をプランしたのです。
  当時は大手パソコンメーカーのニフティのようなものはありましたが、今のインターネットのような動画や画像、大量のデータを扱えるようなものはありませんでした。うちの社内ではワードプロセッサやオフコンで、売上管理や請求書発行を行うのが主なOA化という程度でした。連携の情報交換の手段は電話が主流です。現場ではできるだけ多くの荷物を運びたい、そこで、例えばうちの会社で荷物がなくて車が空いているという情報を伝えて荷物を回してもらったり、逆に荷物があるが車が足りない時には荷物を回したり、求荷求車情報を電話でやりとりしていました。しかし、電話ですと、今まで関わりのある業者さんとしかつながりが持てない、時間的な手間がかかるなど、お客様のニーズに十分に対応できないという課題がありました。

■情報ネットワーク化の推進、「物流ネットワーク徳島」誕生
  この状況に着目し、お客様のニーズに対応できるような業務態勢を作るために情報化推進に着手しました。しかし情報ネットワーク化といっても、自社だけで行うのは資金面、設備面、人材面で非常にむずかしいことです。そこで同じ業界の比較的若手の経営者の会社8社くらいで集まって勉強会を始め、組合を作りました。それが「物流ネットワーク徳島」です。
  まず、大阪・神戸のほうで新しい物流の動きがあると聞き、視察に行きました。そこで行われていたことは、自社の荷物や車の状況をコンピュータにデータ入力すると、ネットワークの加盟企業のデータ一覧が見られ、ちょうどニーズが符号した業者と仕事を組み合わせていくというものでした。
  早速、当組合も取り入れていきました。それがローカルネットワークシステムです。コンピュータの画面で、加盟企業の荷物情報、車輌情報を検索、契約ができます。具体的には、荷物情報ですと、荷物を何月何日にどこそこまで運んでほしいという時に、クリックして日時、積込地、目的地を入力して、完了を押せば契約画面に変わります。車輌情報も同様の手続きで、"四国"などのように大枠のエリアを入力すれば、「どこどこで空いています」という情報を得ることが出来ます。
  この「物流ネットワーク徳島」は現在15社で運営し、1社ではできない業務を連携することでキャパシティを高め、弱者が力を結集することにより大手との競争力をつけることが可能になっています。組合の設立においては、各企業の経営状態、売上などの情報公開をどこまでするのかを躊躇しましたが、結局は同業種同規模の会社がたまたま集まっていたこともあり、比較的スムーズに進めることができました。

■全国を網羅する広域ネットワークを実現
  当ネットワークは、平成12年度に徳島県地域中小企業物流効率化推進事業の認定を受け、インターネットや通信衛星を活用したEビジネスにおける物流の効率化を進めているところです。同様のシステムで、トラック業界にも「システムキット」がありますが、こちらも利用しています。
こうしたローカルネットは、私どもが始めた当初は全国に協同組合がまだ7つほどしかなく、全体で200台程度のネットワークに過ぎませんでした。それが、現在では、徳島県で15社、全国で127の協同組合、1500社のネットワークにまで成長しました。これほど急速に進んだのは、現場のニーズにマッチしていたのが一番の理由だと思います。そして、お互いの顔が見える、という信頼性があるからだと思います。ネット社会というのは、通信回線を通じたおつき合いになってしまいますが、情報化時代の前の時代を知っている人間にとっては、安心感や、信頼感に不安を感じるものです。
  当ネットワーク自体の立ち上げには1年もかかりませんでしたが、成熟するまでには3年ほどかかりました。費用としては、組合設立時の資金として60万円ほど、システムはハードとソフトで約300万円かかったと記憶しています。リース料はあまり高いものではなく、毎月3つくらい仕事を取れば捻出できる程度だったと思います。
  物流の流れもずいぶん変化し、新しい変化にいかに対応していくかが当ネットワークでも課題となっています。資金面では導入した設備のコストパフォーマンス、どこまで稼げるかという情報公開を、グループ同士で図っていくことが大事なことです。顧客のトータルコストダウンにつながる共同配送のような仕組みを考えて、配車情報システム、配送支援システム、安全運行支援システム等の基本設計を進めているところです。

■ITは弱者を強くし、目的達成をサポートするもの
  要は、IT化や情報化が目的ではなく、お客様へのサービスのためにいかに情報を有効にコントロールして効率化を進めていくか、ということです。産業界ではITも行き詰まっている感がありますが、IT、ITと言って飛びつくのは疑問があります。生活関連消費財が行き渡っている今日の社会において、新しい需要を拡大することはかなり困難だと思われます。
  我々も、ITを通じて産業界をしっかりと見据え、これからの物流がどうあるべきかを考えていかなくてはなりません。自社の利益も大事ですが、共同の利益、業界の利益を考えるところに、ITの効果は見えやすくなると思います。
  ことに、地方の中小零細の運送業者にとって、この景気の厳しい時代において、ネットワーク化、連携は必要なことです。「物流ネットワーク徳島」へのニーズもますます高まるばかりです。
  私は、情報化は弱者を強くし、目的達成をサポートするものだと考えています。私自身、現在、中小企業物流化研究会で、Eビジネスなどさまざまな取り組みを進めています。グループのメリットを上手に活かしながら、仲間の顔の見えるおつき合いから始まる情報化が中小企業にとって大事ではないでしょうか。
  今後、「物流ネットワーク徳島」としては、お互いのメリットがあれば大手と組む可能性もないことはないのですが、大手のパッケージ化されたサービスと、我々中小零細の特性とでは違う部分があります。融通がきくのが中小零細のよさだと思いますので、地域の物流サービスにできるだけ貢献していきたいと考えています。

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