事例情報

2010.07.05
経営改革・IT化事例
【事例概要】

1.事例報告者
事例題名 中小建設業SWOT・BSCによる重要経営課題の策定
事例報告者 藤原末吉
吉田東良
ITC認定番号 0005412001C
0006472001C
事例キーワード 〔業種〕総合建設業
経営戦略策定 SWOT クロス SWOT BSC

2.事例企業概要
事例企業・団体名 株式会社********* 企業概要調査時点 2004年 6月
URL http://www.********.JP/
代表者 代表取締役社長****** 業種・業態 総合建設業
創業 昭和21年11月 会社設立 昭和33年 7月
資本金 9400万円 年商 32億円 従業員数 45人
本社所在地 近畿
事業所
業界特性 公共事業の減少 営業利益率の低下
競合他社
リード文 公共事業の減少、競争激化による営業利益率の低下を余儀なくされる建設業界にあって、
どのように 生き残り策(経営課題)を決定するか、またIT活用をどのように勧めていけばいいのか、・・・・・

3.コーディネート内容概略
関与経緯 平成14年度の経営者研修に参加ののち、平成16年度のITSSP
(計画書策定コンサルティング事業)事業に参加。
事例対象期間
(執筆時点)
2004年6月 ~ 2004年9月 (2004年11月1日)
事例分野 ■経営戦略  □IT戦略  □経営戦略+IT戦略
事例範囲 ■基礎調査
■経営戦略策定  □戦略情報化企画  □情報化資源調達
□情報システム開発・テスト・導入  □運用サービス・デリバリー
留意したこと 実現性の高い経営課題の策定
主な成果 ・重要経営課題の策定
・重要経営課題のアクションプランの策定
・情報化アクションプランの策定
パッケージソフト情報  

【事例詳細】
 株式会社Z社は昭和21年の創業で、以来地域に根付いた企業を目指し、地域NO1の地元工務店として、お客様から信頼を得ている総合建設業である。 これまで、時代の先進技術で大型公共建築から、商業、産業、医療といった広範な建築工事を手掛けてきた(図表1を参照)。 また、企画・開発、コンサルティングから新築・アフターメンテナンスまで、幅広い範囲でお客様の満足に応えている。
 平成11年度に社会福祉法人を設立し、これまで特別養護老人ホームを運営するなど、新規事業を通じた社会貢献にも積極的であり、また平成13年には、 ISOの認証を取得し、都市基盤整備公団から優良施行業者として表彰を受けるなど、経営状態は良好である。
 しかし、この数年間は公共工事の減少及び民間工事の競争激化から、完工高の減少及び営業利益率の低下を余儀なくされ、将来に向けた経営戦略の立案、 とりわけ実現性があり効果の高い経営課題とそのアクションプランの策定が求められる状況であった。平成16年度のITSSP事業を通して、その実現を図ることとなった。

 図表1 作品例

事務所・店舗

工場・研究所

医療・福祉施設

特別養護老人ホーム

公共施設

土木工事

 図表2 基礎調査の内容
 経営理念 ・真のお客様満足を生み出す企業となる
・地域に根付いた企業となる
・高齢化社会に対応できる新たな建設業を医療・福祉をキーワードに創り上げる
 経営目標 定性目標
・地域NO.1地域を広げる
・新しい分野を3年間で強固なものにする
定量目標
・完工高    50億円
・付加価値額 10億円
・経常利益    5億円

 【基礎調査】
 計画書策定コンサルティング事業に先立ち、IT成熟度診断を実施した。IT成熟度診断は、1)経営基盤に関する ビジネス競争力、2)情報化基盤に関するビジネス競争力、3)業務プロセスに関するビジネス競争力、の3つの分野に おける現状の成熟度を診断し、目指す経営目標を達成する上で、将来必要となる成熟度を定めようとするものである。
 今回の成熟度診断を通して、Z社の現状の成熟度は、3分野とも成熟度レベル2(6段階評価)であり、経営目標を達成 するには、成熟度レベル3に上げるとともに、経営目標をより詳細化するための経営戦略策定の必要性が明確になった。 図表2は、その時把握した経営理念・経営目標である。

 【計画書策定コンサルティング事業の目的と実施スケジュール】
目的: 計画書策定コンサルティング事業(以下、プロジェクトと称す)の第一の目的は、その策定プロセスを 通し
て経営戦略を策定することである。なかでも経営戦略の具体的内容となる、重要経営課題とその アク
ションプランを策定
することである。次に、情報化に関して、重要経営課題を考慮した上 での、情報化の
方向性を示すことが第二の木定となる。
 実施スケジュール:以下は、その実施スケジュールである。

 図表3 プロジェクト実施スケジュール
1日目 経営環境分析(SWOT分析)
2日目 経営課題の抽出(クロスSWOT分析)
3日目 重要経営課題の策定
4日目 重要経営課題のアクションプランの策定(その1)
5日目 情報化の現状把握
6日目 重要経営課題アクションプランの策定(その2)
7日目 情報化課題の抽出、情報化課題の策定
8日目 IT化実施計画書


 【プロジェクトの推進体制】
プロジェクトの推進体制は、社長をリーダーとし、各部門の長をプロジェクトメンバーに選定した。
 

図表4 プロジェクト推進体制

 【経営環境分析】
 経営環境の分析は、SWOT分析手法によって実施。
プロジェクトメンバーが一同に会し、カードを使いながら、自社の内部環境の強み(Strengths)と 弱み(Weaknesses)、外部環境の機会(Opportunities)と脅威(Threats)を列挙した。各自が作成した強み、 弱み、機会、脅威のカード毎に、同じ内容のカードを集約するとともに分析を加えながら、いくつかの内容にまとめあげた。
 尚、SWOTの洗い出しは、プロジェクトメンバー以外の全従業員に対しても作成を求め、提出されたその内容も参考資料とした。
 SWOT分析実施にあたり、カードの書き方(1枚のカードに1件を書く、体言止めでなく主語と述語で書く、抽象的な表現をしない、 事実を書く)やKJ法に基づくカードを利用したグループ討議の進め方(カードのグルーピング方法、他者を批判しない等)を理解して、 企業が独自で実施できるよう指導に留意した。例えば、SWOTの洗い出しの視点(経営資源やBSCの視点)やカードの集約方法について、 "強み"に関して手本を示し、後は企業側の担当者をリーダとして実施する方法を採用した。
 最初のうちは少し戸惑いがみられたが、徐々に慣れてこられるので、こうした方法をとることにより、企業側のリーダ養成にも貢献することができたものと思われる。
 
 図表5 SWOT分析結果 
好影響 悪影響
内部環境 強み(Strengths)

1)財務的基盤が強い
2)地域に密着した信頼性の高い優良顧客
3)信頼できる協力会社が多い
4)社内LAN構築によるコミュニケーション
5)福祉、医療関係のノウハウが高い
6)アフターサービスがしっかりしている
7)官公庁の工事に強い
弱み(Weaknesses)

1)設計企画力が弱い
2)新規の顧客営業力を発揮するシステム
 ができていない
3)戦略的管理会計システムができていない
4)既存顧客に対する顧客管理システムができていない
5)一般地主に対する浸透が不足している
6)資料の一元化が遅れている
外部環境 機会(Opportunities)

1)同業者の数が減っている
2)元請の選別化の時代に入っている
3)リフォーム、リニューアル需要の増大
4)高齢化による住宅ニーズの変化が大
5)医療業界、製薬業界の構造変化
6)銀行による強者企業の支援強化
7)企業効率化による生産工場統合の増大
脅威(Threats)

1)公共工事、賃貸マンションの需要の減少
2)顧客企業のコストダウン要求の増大
3)JV、電子入札などの営業方法多様化に
 よる競争激化
4)元請との関係性がドライになっている
5)投資環境の低迷

 【経営課題の抽出(クロスSWOT分析)】
経営課題の抽出は、前出のSWOT分析によって得られた結果のS,W,O,Tをクロスに 分析することにより、作業を行った。

 図表6 クロスSWOT分析結果
機会(O) 脅威(T)
強み(S) 機会と強みを生かしたビジネスチャンス

リフォーム、リニューアル市場への多様な展開
銀行タイアップによる新商品開発と新事業の推進
アフフターフォローが十分でない同業他社への営業
ノウハウを生かした高齢者住宅の提案
騒音対策事業による営業活動の展開
協力会社の発掘と維持
強みを活用して脅威に対応する

福祉医療関連への営業推進
アフターサービス(リフォーム)の充実による新規開拓
インターネット活用による新商品の提供
優良顧客に対する収益性アップの訴求提案
信頼性向上による優良顧客紹介の増加
弱み(W) 機会を生かすための弱み克服課題

設計企画を含む協力会社とのコラボレーション
提案ツール開発による宣伝力強化
既存顧客維持の為のコミュニケーション強化
若手人材教育の強化による営業の展開
銀行を通じた営業活動の強化
 

 【重要経営課題の策定】
 抽出された十数個の経営課題は、重要度、効果性、実現可能性、経営資源の制約等から、テーマを 絞り込む必要がある。クロスSWOT分析により抽出された経営課題を、BSC(バランススコアカード)の 学習と成長、業務プロセス、顧客、財務の4つの視点で因果関係を考慮しながら、経営課題の関連図を作成 した。
 経営課題の関連図の役割は、戦略のストーリー性を明らかにするものであるが、今回の作業を通して、 因果関係を成立させるうえで不足する部分については、必要な経営課題を追加した(図表7の経営課題のうち、 *がついた経営課題 )。
 重要経営課題の策定は、上記の因果関係を成立させた後、プロジェクトメンバー各自が重要経営課題と思うものを 5つ選択し、得点の高い順から以下の7項目を策定した。

1. 既存顧客とのコミュニケーション
2. 提案ツールの開発
3. 協力業者とのコラボレーション
4. 商品知識充実
5. 工事監理システムの充実
6. 管理会計充実
7. 社員教育

 図表7 BSCを応用した経営課題の因果関係


 【重要経営課題アクションプランの策定】
 重要経営課題のアクションプランの策定に関しては、まず実施する担当責任者を割り当てることから 開始した。担当責任者は、その重要経営課題を実施する観点からさらに内容へとブレークダウンし、方法・ 手段を明確化した上で、プロジェクト会議で自分の考えを発表した。その考えに対して他のプロジェクト メンバーが意見を出し合い、修正しながらアクションプランの精緻化を図った。このようなやり方で全ての 重要経営課題のアクションプランの策定を行った。
 その一例を下記に示す。

 図表8 重要経営課題アクションプランの策定例
重要経営課題 内  容 方法・手段 実施時期 責 任 者
商品知識の充実 新製品、価格、仕様などの情報を全社員からテーマを設定して収集する。 「今月の~」と電子掲示板に掲示し、情報提供を呼びかける。    設計積算担当
収集した情報を管理する責任者を決め発言する。 収集した情報分類をファイリングし、社内LANに公開する。   
第3者との情報の共有化
ホームページに社外情報をリンクし社外に公開する。   


 【後続プロセスの進め方】
 プロジェクトの以降のプロセスは,情報化の現状把握、情報化課題の抽出、情報化課題の策定、情報化 アクションプランの策定である。
 情報化課題の抽出に関しては、二つの視点からその課題を抽出をした。最初の視点は情報化の現状である。 情報化の現状把握から、問題点を分析することにより課題抽出を行った。二つめの視点は今回策定した重要 経営課題である。重要経営課題を実現する上での情報化課題の抽出を行った。このようにして抽出された情報 化課題Nひとつひとつに対して、プロジェクト会議にて検討を加えながら、情報化課題を策定していった。
情報化のアクションプランの策定については、重要経営課題のアクションプランの策定と同じ方法で策定を行った。

 【プロジェクトの総括】
 今回のプロジェクトの狙いは、その策定プロセスを通して経営戦略を策定することであり、実現性の高い経営課題の 策定とそのアクションプランを策定することであった。プロジェクトの実施回数は8回と比較的短期間のプロジェクトで あったが、当初の目的を概ね果たすことができた。
 実現性の高い経営課題ということは、アクションプランに裏打ちされていなければならないが、今回のプロジェクトを 通して、重要経営課題の一つである"協力業者とのコラボレーション"は、アクションプランが作成されなかった。 これは、Z社の成熟度と協力業者(専門工事業者)の成熟度がコラボレーションを可能とするレベルまで達していなかったためと 思われる。このように、アクションプランの作成は、経営課題の実現性を担保するうえで、極めて重要な作業であると改めて認識 することができたことは、ITコーディネータにとっても有益であった。
 一方、プロジェクトメンバー側も、「社長を交えたプロジェクト会議で、このように自分の意見を自由に出して発言する機会を 持てたことは有益であった」という意見が大半であり、自分の意見が考慮されるプロジェクト会議は、経営への参加意欲を高める ものとなった。
 メンバーは、今回のプロジェクトを通して他部門の状況を正確に認識することができ、また外部の経営環境の把握を通じて 、経営情報を共有することができた。今後は、これらを共通の土台として、重要経営課題のアクションプランを実行することとなった。
 情報化に関して言えば、社内LAN、一人一台のインターネット環境、グループウェアの導入等、インフラはかなりの程度進んでいる。 しかし、利用状況をみると、その活用度合いは不十分である。
 IT化実施計画は、こうした点を踏まえた結果、情報化に関する新たな投資は行わず、当面は、各自のITリテラシーの向上をはかりながら、 現状の情報資産の有効活用の徹底を図っていくことを施策とする。そうした段階を経た後、2010年CALSE/ECへの対応に向けて 、顧客情報、原価情報、工程情報の統合及びすべての情報の電子化を見当していく方向性が確認された。

 【用語解説】
用 語 略  用 語
BSC
バランス・スコアカード
Balanced Scorecard ハーバード大学のロバート・キャプラン教授が提唱した、従来の財務の視点のみにかたよることのない 新しい経営評価指標を概念的にまとめた経営手法である。経営指標を下記の4つの視点にまとめている。

財務の視点:株主にどのように対処すべきか。
顧客の視点:顧客の要件にどう対処するか。
業務プロセスの視点:社内プロセスはどうすべきか。
学習と成長の視点:変化と革新にどう対処すべきか。
2010.07.05
経営改革・IT化事例
【事例概要】

1.事例報告者
事例題名 「作って納めるまでのシステム」から「儲けるシステム」へ(J015)
事例報告者 岡田 修一
佐伯 祐司
ITC認定番号 0018372002C
0009102001C
事例キーワード 〔業種〕製造
〔業務〕営業支援、在庫削減
〔IT〕情報共有、Web再構築

2.事例企業概要
事例企業・団体名 東海バネ工業株式会社 企業概要調査時点 2002年12月
URL http://www.tokaibane.com/
代表者 渡辺 良機 業種・業態 バネの製造
創業 1934年 3月 会社設立 1944年 3月
資本金 9645万円 年商 13億円 従業員数 70人
本社所在地 大阪市福島区
事業所 工場 伊丹、豊岡
営業所 大阪、東京、広島
業界特性 大量生産品は海外へシフト進む。特注品はすみわけあり。
競合他社 大企業のバネ製造部門、バネ専業メーカ
リード文 当初は、社長としては情報化に関してはあまり問題を感じていなかったが、他の方のアドバイスも聞いてみたいということで西岡IT塾に応募してみた。 進めて行くにしたがって会社は少しずつ変化しはじめ・・

3.コーディネート内容概略
関与経緯 大阪産業創造館の西岡IT塾(第二期)への応募
事例対象期間
(執筆時点)
2002年7月 ~ 2002年9月(2003年10月17日)
フォロー・フェーズは継続中 2002年10月~
事例分野 □経営戦略  □IT戦略  ■経営戦略+IT戦略
事例範囲 ■基礎調査
■経営戦略策定  ■戦略情報化企画  ■情報化資源調達
□情報システム開発・テスト・導入  □運用サービス・デリバリー
留意したこと ITC間でのそれぞれの強みをいかした役割分担
企業の参加意識の高まり
主な成果 新規顧客の開拓が進む
顧客への対応力が高まる
パッケージソフト情報 グループウェアとしてサイボウズを導入

【事例詳細】
(1)会社の紹介
 昭和9年創業のバネメーカーであり、太物コイルバネを中心に高い技術力を有し、多品種微量生産体制で顧客ニーズに細かく対応できるという強みをもつ。 バネメーカーの多くは大量生産主体で海外へ工場をシフトしているが、東海バネはこの強みを軸に国内でがんばってモノ作りを続けていこうとされている。
 情報化への取り組みも先進的であり、過去の受注情報を管理することで顧客からのリピートオーダーに的確に対応できる仕組みを構築して業績を伸ばしてきた。 営業に関しては過去の経緯から営業コストをさげることを目的に「素人でもできる営業」を基本に進め、その結果、業界でも珍しく女性が営業として活躍している会社である。 また、ISO9001&14001も取得しており、経営計画の策定をはじめ会社としてのマネジメントレベルは高い。

(2)プロジェクトの始まった経緯
 大阪産業創造館で企画された西岡IT塾への応募がきっかけである。
 社長としては、当初は情報化に関してはあまり問題を感じていなかったが、基幹系システムを通じて関係のあったベンダーの薦めもあって関心を持ち、 IT化投資の効果を上げたい、他の方のIT化アドバイスも聞いてみたいということで参加を決められた。
 西岡IT塾からは2名のITCが派遣された。
 ・佐伯ITC(経営系) 経営戦略、Webマーケティング が専門
 ・岡田ITC(情報系) 業務改革、ビジネスモデリング が専門

(3)企業状況(開始時)
○現行事業ドメイン
 特定顧客からの特注品のリピート案件が中心。多品種微量生産体制と高い技術力で、顧客からの高品質のものを必要な分だけ作ってほしいというニーズに対応してきた。
○組織体制
・工場は伊丹と豊岡 周辺の宅地化もあって伊丹から豊岡へシフト中
 工場には技術、生産、原価の各グループがいる。
・営業は大阪本社を中心に、東京、広島などに拠点を設置
 営業は以下のような目的での組織変更の途中であった。
 ・オペレーションのコスト削減ために、拠点の事務を統合する
 ・新規案件への対応のため、技術的な対応の出来るセールスエンジニアを営業に配置する
○商品構成
商品 製品特性 顧客・市場特性
コイルバネ ・オーダーメイド
・安定しており、材料在庫も先行のよみはできる
・技術力も優れている
・大型バネ製造用設備を持つ
・熱間成形(大型)と冷間成形の2つの系統あり
・マーケットには東海バネという名前が浸透
・特定顧客の特注品が中心。特に競合が少なく付加価値の高い太物を中心に展開
・中物は大手量産メーカーが中心となった市場価格で付加価値が低く積極的な展開はしていない
サラバネ ・オーダーメイド。規格品もあるが、受注生産
・i-MCという特殊なオリジナル製品がある
・材料は店売品なので在庫の問題は少ない
・リピート品中心。特定顧客を相手にする
・市場の裾野は広い。既存の拡販と新規顧客も拡げていきたい
・価格的な技術競争がある
板バネ ・オーダーメイド
・付加価値が高い
・特殊材料が必要で、在庫の問題がある
・設備投資動向に左右される
・客先が少ない。大手1社集中型。業界は得意先単位にすみわけ。今のところ競合は少ない

○情報機器の普及状況
 パソコンはほぼ一人一台を実現。
 ネットワークはまだISDNが中心で、本社と工場の接続は64K専用線であまり早くはない。
 メインは三菱のオフコンでパソコンとのデータ共有は難しい。
 技術部門にはCADが導入されている。

(4)取り組み内容
①事前調査・社長ヒアリング(2002年6月)
 正式な開始前に、財務諸表などの基礎情報をいただき、社長をはじめとした経営陣の方々から経営理念や当社を取り巻く最近の動きなどについてお話をうかがった。
 佐伯ITCは、財務諸表から読み取れた情報として、「売上のわりに在庫が多い」と「売上が停滞気味である」ことの2点が問題ではと考え、 この時点での仮説としてWebによるマーケティングと在庫の圧縮を提案した。特に、Webに関しては自身のホームページの運用経験をもとにその有効性を力説した。
 岡田ITCは、今後の進め方の説明にあわせて「IT化と世間は騒いでいるが、ITはあくまでも道具であって、業務をどうしたいかを先ず決めなければない」と唱えたが、 東海バネ様も同じような考えをお持ちであった。

②プロジェクト体制の整備とキックオフ(2002年7月上旬)
○体制の準備
 会社側の体制としては、IT化と業務改革に意欲を持つ取締役をリーダーとして、Webを運用していた担当など営業開発の2名が運営メンバーとして参加し、 既存システムの構築に携わった常務にも強くバックアップしていただいた。
 検討メンバーには技術、生産、営業のマネージャーなど実務担当者も参加し、社長を先頭に全社を挙げての協力体制がしかれた。
○キックオフ
 全社の下期開始イベントの中でITC両名をご紹介いただき、今回の取り組みについて説明し今後の協力をお願いした。 また、参加者を対象にハーマンモデルによる思考スタイルの分析と、コミュニケーションの重要さを説明し、これからの取り組みに関心を寄せてもらうようにした。
 ここで、社長よりプロジェクトに対する思いとして次のような発言がなされた。
 「これまで、わが社のシステムは究極のシステムと思っていた。 ベンダーさんの薦めもあって、西岡IT塾に参加したところ、これまでのシステムは作って納めるまでのもので、今後は、発展するシステム、もうけるシステムにする必要がある、 と思うようになった。」
 これが今後のプロジェクトの基本方針ともなった。
○打ち合わせの設定
 打ち合わせは基本、週1回、曜日を固定しての午前中に開催と決めた。 この毎週の打ち合わせは、参加者も多く勉強会さながらの熱気を帯びたものとなった。 この積極的な参加が、改革に向けて会社全体のベクトルをあわせていくことに役立つこととなった。

③現状分析に着手(2002年7月~8月中旬)
○経営環境分析とCSFの設定
 先ず、参加メンバー全員でSWOT分析を実施。各人がカードを使用して自分の思う会社の強みと弱み、会社を取り巻く脅威や機会について書き出した。 次いで、複数の4~5人グループでそれぞれカードの整理を行い、グループごとに内容を発表してその場にいる全員で共有化した。
 その後、ITCが整理して図1のように全体のSWOT分析をまとめた。
<図1:SWOT分析>
S(強み) O(機会)
・トップのリーダーシップのもと近代経営への邁進
・ブランド名が全国に浸透
・重厚長大型多品種少量生産に特化
・歴史が古く、企業基盤が安定している
・重厚長大型の商品開発力がある
・平均年齢が若く組織が活性化されている
・インターネットの利用でビジネスの拡大
・材料購入の安定供給
・販売チャネルの多様化
・SCM構築のチャンス
W(弱み) T(脅威)
・低収益構造
・人材教育不足
・材料在庫が過剰
・プロダクトアウトの生産体質
・販売チャネルが少ない
・マーケットサイズの縮小
・生産の空洞化
・利益率の減少

 ここから裏カード(強みで弱みと脅威を克服する、機会をとらえる など)を切って各人でCSFと思うものをカードに記入し、全体を集約して以下のようなCSFを設定した。
 1)マーケットイン生産体制
  マーケティング機能のレベルアップによる生産体制強化
  顧客認知度の拡大による受注増を目指す
  (高い製品開発力を生かすための営業体制を構築する)
 2)サプライチェーンマネージメントの構築
  安定かつ迅速な供給体制の構築(生産と販売の流れの一元化を実現する)
 3)新製品開発
  新製品開発による市場拡大 高い技術の横展開
 このうち主要な2テーマである「マーケットイン生産体制」と 「サプライチェーンマネージメントの構築」を軸に生産や営業など業務部署ごとに3ヵ年の行動計画(アクションプラン)を描いてみることをお願いした。
 この際、自分の業務を見るとどうしても短期的なものに目をひかれがちなので、自分の担当外の業務をみて、 3年後はそれにどうなってほしいのかという視点から相互に提案していただくようにしてみた。参考までに営業部門の行動計画を以下の図2にあげる。
<図2:営業の行動計画>


以上の検討結果を整理して、ITCが経営戦略企画のたたき台(経営戦略企画書のドラフト版)を作成した。

~一方、具体的施策を設定する際の基礎資料として、現行の業務プロセスや情報システムの分析もこれに併行して実施した。
○現行業務分析
 既にISO9001&14001認定を取得しており業務の標準化と各種マニュアルも整備されていたので、 それらをもとに現行業務を追加ヒアリングして業務の流れを確認した。
 ヒアリングの中で出てきた現行業務の問題点もフロー上の業務の流れに関連つけて整理した。
 主な問題点としては
 ・営業の技術力不足
  顧客からの技術的な質問にすぐに回答できないケースがある。
  工場への技術的な問い合わせが多く技術担当の業務に支障をきたしている。
 ・営業と工場の間の連携のまずさ
  工場と営業との注文関係書類のやり取りに時間がかかる。
 などがあげられた。
○現行システム分析
 情報システムについては、事前にいただいた資料に加えて基幹系システムの構築にかかわられた常務からもお話をうかがい、 営業系システムについては本社での運用状況を確認した。
 主な問題点としては
 ・データ活用の面で基幹系を使い切れていない部分がある
 ・基幹系と個別システム間の連携ができていない部分がある、などがあげられた。
 これらは、基幹系がオフコンで簡単にパソコンとの情報連携ができないことや、 基幹系システムで保持している情報について現場の理解が十分でなかったことが要因のように思われた。

④経営戦略の策定(2002年8月中旬)
 ITCが作成した経営戦略企画のたたき台をもとに、今後の経営戦略について全員参加で検討を行った。 たたき台とは「経営戦略企画書」のドラフト版のことで、それまでの打ち合わせで決めた事項にITCの仮説を加えて整理したもの。 ここでは、たたき台の内容をプロジェクタで前面に投影し、各ページごとにこれから決めるべきことをメンバーに提示して討議を行った。 そうしてSWOT分析から経営戦略企画までの経営戦略策定の流れを追いながら経営戦略の内容確認を進めた。
 特に、他社との比較を行いながら自社の強み(コアコンピタンス)を再確認し、それを活用した戦略を検討することで内容は明確になっていった。(図3参照)
<図3.コアコンピタンス分析>


 ここではCSFと他社との比較をもとに
 ・製品開発力と商品企画力を強みにして、技術難度の高い製品に取り組むこと
 ・製品の特性から、これまでも基本にしてきた多品種少量への対応が必要になること
 ・この二つは競合との差別化の重要な要素になること
 を確認した。

 これによりCSFはさらに具体化し、合わせて目標達成を客観的に評価するため、 3年後の売上高やシェア、在庫水準についても目標数値を設定して、経営戦略企画書に盛り込んだ。

⑤新業務コンセプトの設定(2002年8月下旬~9月上旬)
 ③で分析された現行の業務プロセスをベースに、④で設定した経営戦略を実現していくための具体的施策を検討した。ねらいとしては以下の3点を提示した。
 1)売上拡大=利益率の高い商品をどう展開するか
  売上を上げないと企業の存続はなりたたない。コアである高い技術と品質も、顧客に認知されないと意味はなく、
  受注をいかに拡大していくかの検討が必要があった。
 2)材料在庫削減=多品種少量生産の中で材料在庫をどう削減するか
  現状も在庫は問題、そのまま多品種少量生産を継続すると利益を圧迫する可能性があった。
 3)効率化・スピード化=顧客対応力を強化するため、どう営業を支援するか
  マーケットインの体制には営業と工場の連携は不可欠。営業の技術面能力を高めないと顧客ニーズを見逃す
  可能性があった。
 これも現行フローと新業務のねらいをプロジェクタで前面に映し出し、現行業務のどの部分が問題であって、どうそこを変えていく必要があるのかについて全員で議論を行った。
 そして、決まった取り組み事項をフロー上に書き出して(図4参照 吹き出し部分が取り組み事項)、あるべき業務の姿を検討した。 そして、ここで出された取り組み課題を新業務の要件として整理した。
<図4:現行業務フローと取り組み事項>
クリックすると拡大画像を参照できます

⑥情報化企画の策定/新業務の設計(2002年9月中旬)
○情報化企画
 先ず、情報化成熟度を調査し、現状の情報化レベルを整理した。情報化成熟度調査からは、インフラは一応整備されており企業文化も高いが、 活用度が個人レベルであることから、情報の共有化の必要性が感じられた。
 次いで、新業務の実現に必要な情報化施策を検討して情報化企画書を作成した。
 主要な情報化施策は
 1)Webを活用したマーケットイン体制(Webの再構築)
 2)生産、販売、技術の情報共有化(在庫、原価情報の提供などの業務支援)
 3)営業の技術情報武装(顧客への対応を早め、技術の負担を軽減する)

○新業務の設計
 営業関係については重要でもあり、見直しが必要な業務でもあるので、個別に詳細業務プロセスを分析して改善すべき点を検討して新業務フローを作成した。 ここでは、模造紙を使い、先ず現行フローを作成して業務の流れを押さえ、 その上に新業務コンセプトで設定された新規要件の実現を盛り込んで、変更すべき部分を確認していった。
 一応のフローが作成されたあと、この業務の流れに無理がないかを実務担当者も交えて確認し、新業務フローを完成(図5参照)。 ここで新たに必要となったシステム機能(図5上で黄色部分)をくくりだしてシステム化機能一覧表に整理した。
クリックすると拡大画像を参照できます

新業務のポイントは
・グループウェアなどを活用して生産と営業で情報を共有することで、営業支援を図ろう
・工場と営業との間での図面のやりとり等の連携を見直し、顧客対応のスピードアップを図ろう

⑦施策の展開とフォーローアップ・検証(2002年10月~)
○各部門の行動計画に展開
・経営戦略の検討結果から、事業ドメインは一部修正された。
 特定顧客から「潜在新規顧客」に顧客の範囲を拡大し、自社の能力をアピールするための「情報発信力」を必要能力に
  加えた。
・これまでの課題を一覧に整理し、それらを解決していくための具体的な行動計画(納期・担当)をまとめ、可能な限り数
  値目標も設定した。 これらは全社の年度経営計画や業務別計画の中に盛り込まれ、各部門の業務目標に展開されて
  いった。

○タスク設定と進捗確認
 具体的計画はさらにタスクに分けて責任者と期限を設定し、ガンチャート(図6参照)に展開した。 これをもとに月次でITCも交えた定例会を開き計画の進捗度合いを継続的にチェックした。 その中で、当初の意図どおりに進んでいない件については参加者で対応策を検討し、状況変化で不要となったタスクは見直しするなどした。 また、進めていくうえで必要なタスク(例えば、経営革新法の取得)があれば追加するようにした。
<図6:進捗管理表>
クリックすると拡大画像を参照できます

(5)各施策への取り組みと効果  2002年10月から現在まで、月次の進捗会で継続的に成果指標のモニタリングや問題解決に取り組んできたが、主なテーマについての進捗状況は以下ようになっている。
①Webの再構築
 数社に見積を行ったが折り合わず、佐伯ITCの指導のもとに自前で再構築を進めることになった。 Webのセオリーにしたがってデザイン、コンテンツの見直を進めたが、このことが逆に自社メンバーのスキルアップには役立った。
 ホームページの見た目を改善し内容を充実させることでリピーターを増やすとともに、SEO1)を活用することで新規アクセスの増加を図った。
 Webのリニューアル後、新規顧客の問い合わせが増加し、新規受注に結びつくケースが増え、また、大学からの技術的な問い合わせが増加し、 新しい技術シーズ開拓のきっかけになりつつある。

②情報の共有化
・先ず、営業にML(メーリングリスト)を設定した。
 営業内容をフリーに記述することで状況の共有化を図った。携帯からも手軽に発信できることもあって活発に運用さ
 れ、現在は生産や技術にも拡大して情報共有を行っている。
・次いで、共有化のツールとしてグループウェアを導入した。
 訪問や会議の予定から適用をはじめて、これも活用されている。さらに共有ファイルの管理まで進め、各種の情報提供
 のツールとしても使用している。 当初は営業日報もこれで登録する予定であったが、利便性から今のところはMLでの
 運用をつづけている。
・常務や取締役など会社幹部がMLなどの内容にきちんとフォローし続けていることが活用されている大きな理由と思わ
  れる。 また、伊丹工場と本社間が光ケーブルで接続されるなど、インフラが整備されたことも情報共有の助けになった。

③在庫の削減
 不動在庫は関連会社などに開示して、転売できるものは売却を進めた。Webにも材料在庫を掲示することで、注文の際に参照するなどし、 それを使った製品の受注を図ることで在庫の活用を図った。その結果、在庫は削減されキャッシュフローがかなり改善された。
 また、今回の取り組みを通じて在庫に対する考え方が変わったこと(「必要なもの」から「削減すべきもの」へ)も効果としてあげたい。

 なによりも、いろんな施策を通じて、営業をはじめとした全社員にさらに活気が出てきたことが大きい。 IT化とは直接の関係はないかもしれないが、全体目標と個別目標を明確にして全社でひとつの方向に進んでいこうという動きが活発になったことが、一番の効果かもしれない。

(6)今後の展開
○Webに関しては、さらに売上拡大につながるような施策を検討中。
 コンテンツの充実を目指して、掲示板やバネの知識紹介ページ、バネのキャラクターの開発(バネットくん)などを進めている。
 WebにメールやFAXなども組み合わせたWebマーケティングを展開中であり、その効果も現れつつある。
○情報共有化については、さらに一歩進めて、蓄積した情報を顧客単位に整理して今後のマーケティングに活用していくことを検討中。
○在庫問題は一段落したが、今後も不動在庫の発生時に対応できるような仕掛けは考える。
 また、購入の小ロット化や共同購入など、そもそも不動在庫が発生しないような仕掛けについても難しくはあるが、取り組みを進めている。

【用語解説】
用語 解説
SEO Search Engine Optimization いかに検索エンジンの検索結果の中で上位に自社サイトを表示させるかという技術
2010.07.05
経営改革・IT化事例
【事例概要】

1.事例報告者
事例題名 とある工具屋さんのお話(J002)
事例報告者 田中 圭子 ITC認定番号 0007242001C
事例キーワード 〔業種〕製造業、工具メーカー
〔業務〕経営再建、経営改革
〔IT〕URL開設、インターネット取引

2.事例企業概要
事例企業・団体名 ○○工具株式会社 企業概要調査時点 2002年3月
URL http://
代表者 業種・業態 製造業・工具メーカー
創業 会社設立 昭和37年3月
資本金 1800万円 年商 3億円 従業員数 20名
本社所在地 大阪市
事業所 大阪市
業界特性  工具業界は商品単位に細分化された製造業であり、特異性も強く他の工具を製造することが設備の関係においても出来にくい業界である。 工具全般において特別な開発もなく低迷状況にあり、特に不況に弱い業態でもある。
競合他社  大手工具メーカー、中堅工具メーカー、零細工具メーカーとある零細の位置にあり零細では上位に位置している。
リード文  ITコーディネータの仕事は、ITを有効に活用して会社経営の改善につなげるということに尽きるが、 それを進める過程では経営者と深く意見を交換して信頼関係を築いていかなければできない仕事といえる。 ある会社の再建を題材にITコーディネータの仕事の一端がみえる話を紹介する。

3.コーディネート内容概略
関与経緯 事例企業創業者の娘である、大学の後輩から相談を持ちかけられた
事例対象期間
(執筆時点)
2001年10月 ~ 2002年3月(2002年5月初旬)
事例分野 ■経営戦略  □IT戦略  □経営戦略+IT戦略
事例範囲 ■基礎調査
■経営戦略策定  □戦略情報化企画  □情報化資源調達
□情報システム開発・テスト・導入  □運用サービス・デリバリー
留意したこと 経営者の奮起を促すことと従業員の協力を得ること
主な成果 ・一時は倒産も覚悟したが持ち直し、売上も計画以上に達成できた。
・従業員は当初の半分になったが売上は以前の水準を達成
パッケージソフト情報 ホールソートパンチカードからURLの開設までを自力で開発させた(ホールソートパンチカードの導入で情報の捕捉方法と重要性を認識させ、今後のIT化につなげた)

【事例詳細】
相談(コンタクト)

 ITコーディネータの研修が終了して間もない日曜日、大学の後輩から電話がかかってきた。「先輩、・・・」(泣いている様子) 「私の父の会社なのですが、・・・業績が悪くて・・・もうだめみたいなのです。私ではどうしていいかわからないのです、 ・・・・とにかく今からすぐ伺ってよろしいですか」と途切れ途切れである。彼女の父親は、工具製造業の創業者社長であった。 学生時代は、立派な会社の様子をよく話していたのにと思い出した。ともかく詳しい話を聞くことにした。
 経理担当者は、あまりの業績の悪さにさっさと辞めてしまい、兄の専務は父親との折り合いが悪く、経営から逃げ出したいようである。 とにかくその後輩が経理を手伝うことにして専務と一緒に事務所にやって来た。
 いきなり「先生、Xデーをいつにしようかと思っているのです」から話は始まった。どうやらお兄さんは本当に逃げ出したい様子である。 経理担当になって数か月というのに、そのような言葉が出るとは、やはり弁護士さんを紹介しなくてはいけないのかなと思いながら、 持ち込まれた決算書と試算表を見て、事業概況をひととおり聞いた。
 「10年ぐらい前から売上高は落ちていくばかりで、法人所有の土地を順次売却して息をつないできました。でも、もうどうしようもありません。 個人破産までしないといけないかと考えているのです」
 「社長さん(お父さん)も覚悟を決めておられるのですか」
 「社長は数年前病気を患ってからは、会社のことはまかせっ放しでよくわかってないのです。閉鎖しようと言うと、何とか続けてくれないものかとだけ、 いつも言うのです」
 「それでは、早速明日会社にお伺いしましょう」と言って、資料を置いて帰ってもらった。

調  査

 2人が帰った後、持参された決算書や試算表をゆっくりと見直した。銀行借入をするために無理に黒字にしているような決算書では、 まったく実態がつかめない。会社に行って徹底的に調べることにした。
 ① 財務
  ・前月の試算表に基づいて、資産・負債科目についての内容と残高確認
  ・売掛金残高・買掛金残高は補助簿まで確認
  ・借入金は個別に返済表を確認
  ・製造経費・販売管理費は総勘定元帳で1年分の内容をチェック
  ・過去5年間の売上一覧表など会計に関連するあらゆる資料の整理
  ・上記以外にリース契約書で残債高の計算
財務諸表(サンプル)

 ② 工場
 製造については、生産工程についての説明を受けてから現場に行って、機械の設置状況を見ながら原材料から製品にいたる状況を聞いた。
 棚卸は、段ボールケースの中身までチェックしながら、不良品や棚ざらしになったものはないか、工場の隅々まで見て歩いた。
 ③ 個人資産
 社長の個人資産は借入担保物件にもなっているので、所有の固定資産を聞いて、不動産業者に時価評価等を依頼した。

 この後、この調査に基づき質問事項・問題点を整理した。また経理担当者には、担当してから間もないということもあるので、 会社経理の1年間の流れを理解してもらい、むだな経費がないか見てもらうために、1年間の月次損益計算書を作成してもらうことにした。

会  議

 1週間後、社長と専務、営業担当役員、そして経理担当になった後輩に集まってもらった。
 ① 3年間の月別売上一覧表
 ② 作成してもらった前1年間の月次損益計算書
をもとに、私から細部にわたって質問していった。
[現状把握]
 まず、現在の組織体制について、役員・従業員すべての人について、担当業務は何か、名前の横に仕事内容を書いてもらった。 従業員については記入できるが、役員については空白状況に近い人もいた。業績が悪くなっているというのに、 役員が週休2日で残業もしないという状況であった。
 次に財務の方向から、例えば製造経費について、こんなやり取りをした。
「修繕費が毎月どうしてこんなに高いのですか」
「プレス機を使うときに、材料の置く位置が少しずれて機械が故障してしまうからです」
「置く位置がずれないようにできないのですか」
「いやぁ、気が緩んでいるから起こるんですよ。いつも注意しろと言っているのですが」
「そうすると、気の緩み料が1か月約20万円、年間240万円、10年で2,400万円流出していたのですか」全員唖然。
 具体的な項目で1か月、1年、10年間のトータルの数字を言うことで説得力をもたせた。
 一般経費では運賃について
「どこの業者を使っていますか。他の業者と見積もりをとって、比較したりしていますか」
「いいえ」
「一度やってみてください。例えば近距離と遠距離に分けて地域別に業者の検討をするとか・・・・」 (結果、交渉をしたり他の業者の見積もりをとったりして、経費の節約につながった)
 私から細かい所まで質問していくと、逆に自分たちの方ではっと気がついて検討していこうという気持ちになるようだ。
 製造工程については、原材料の購入、外注の依頼状況、工程順に、機械の台数・配置、携わる人員数、包装、出荷にいたるまでを、 担当者名も入れて図式化した。そして、もう一度現場に戻って、製造の流れを見直した。
 営業については、国内売上・海外売上の割合、ここ数年の推移、そして今後の市場動向も含めての予想売上高を聞き取った。 売れ筋商品はどれであるかをはっきりさせていった。
 一番の問題である在庫についても、現在の実在庫と、死在庫はないかどうかを徹底的に検討した。 説明があやふやになると、現場に一緒に行って、在庫の棚を見ながら確認した。
 核心部分に触れるとどうしても、責任逃れやあやふやな言葉が飛び出してくるが、そこをしっかりと数字や図などで確認して、現状をはっきり認識させた。
 検討は深夜に及んだ。
 SWOT分析を意識しながら、みんなの本音を聞き出し、整理して問題点を明確にしていった。

再建案作成

 昨日の調査分析をもとに財務の方からも検討していくと、再建の可能性が出てきた。しかし、それにはまず役員全員が、 どんなことをしても再建するという強い意思が必要である。専務はいまだに会社の解散を考えている。従業員の気持ちがわからない。 後輩に従業員の様子を聞くと、賃金カットはもとより、閉鎖や倒産も覚悟しているという。
 とにかく、再建事業計画案を作成することにした。過去や現状にこだわらず、一番経営効率のよい製造業を目標にした。 特に製造原価に関係する部分では、機械を最低の人数で動かしてフル稼働状況を考えた。
 そうして第一案(CSF1))が完成した。
 後は、人事を考えなくてはならなかった。社長は高齢であるし、専務がリーダーになってもらわなくてはならない。従業員にも、 ついてきてもらわないと困るのである。
 しかし、資金繰りの悪い状況にあるためか、専務は、辞めたい気持ちで逃げ腰の状況が続いていた。後輩からは悩みの電話が毎日のようにかかってきた。 私は思いきって専務に弁護士を紹介し、倒産のことや個人破産のことを相談しに行かせた。
 結局、専務自身のやる気ひとつで決まると弁護士にも宣告された。
資金繰りの状況から時間的にも余裕がないので、再建の決意の確認を3日後に行うことに決めた。

決 意 確 認

 3日後、役員に集まってもらった。
 「調査した資料を分析・検討しました。今日は、一番大事なことをお話します。会社の現状はとても悪い状況ですが、 思い切ったリストラや個人資産の処分等を行えば、再建は可能です。しかし、一番大事なことは、ここにいらっしゃる役員の方々の絶対に再建する、 どんなことがあっても会社を続けるという強い決意です。今日はそのお返事を伺いにまいりました。」
 社長が、一番に立ち上がって「やります。ぜひやりますからよろしくお願いします」と言った。
あれほどやめる日をいつにするか検討していた専務が「再建します」と強く一言。 そして同席していた後輩も「ぜひ私からもお願いします。」と立ち上がった。
 全員の気持ちがひとつになった。
 早速、再建計画案(アクションプラン)の最終検討を始めた。
 人件費については、リストラをしなければならないため、特に注意を払った。仕事の流れと担当者を慎重に検討していった。 役員であっても、仕事をしなければ給与は払わないことにした。借入金返済可能な数字が出た。 すべてを細かく見直すことで、いかに甘い経営であったのかがわかったらしく、徹底してスリムな財務となったのには皆驚いていた。
 十分に利益を出せるのになぜできなかったのか、検討が進むにつれて、不思議に感じていたようであった。が、まだ疑心暗鬼の気持ちもあったようだ。
 再建計画表をまとめあげ(後に銀行に提出し交渉していった)、全員で見直し、もう一度意思の統一を図った。 これで従業員に再建計画の発表を10日後にすることが決まった。
 1.社長は退き、従業員に対して業績の悪化をわびる
 2.専務がリーダーとなる
 3.現在の会社の状況を説明し、社長個人の資産を売却して再建する決意を表明する

発  表

 当日、始業の8時に会社の会議室に行く。すでに専務は工場長を呼んで本日の発表を説明している。 初めて工場長を紹介された(この工場長がキーマンとなる)。
(専務)「先生、リストラする従業員のリストを見せて説明しています。一点、問題が起きました。 どうしても現場に○○さんを残して欲しいと言われているのですが・・・・・」
(私)「工場長にとっては、どうしても必要な方なのでしょう。専務、残しましょう。一人分何とかやりくりを考えてみましょうよ」
(工場長)「ところで、先生、突然この計画を聞いたのですが、再建の光はあるのでしょうか。そうでないと、いくら協力してくれと言われても・・・・」
(私)「専務、再建計画表を見せてあげてください。この表のとおりです。借入金の返済については、これ以外に社長個人の土地を処分しますから、 返済は可能になります。もちろん従業員、皆さんの協力があってのことですが」
(専務)「そろそろ発表の時間ですから、行きましょう」

 社内の放送が流れた。「みなさん、工場の2階へ至急集まってください」
 階段を上がる足取りは重かった。
 社長の挨拶が始まった。
 「みなさん、長い間ご苦労をかけました。会社の業績は悪く、私は現役を引退します。これからは、専務に一切を任せますので、皆さんもひとつ、 協力してやってください。ほんとにありがとう。よろしく頼みます」
 社長は深々と頭を下げた。従業員のひとりが大きな声で「ご苦労さまでした」と言った。
 続いて専務から説明があった。「皆さんもご存じのように、数年前から昇給もできていません。会社は債務超過の状態です。 今年の夏もボーナスが出せませんでした。業績は非常に悪い状況です。会社を閉めることも考えました。 しかしいろいろ検討した結果、個人の自宅も全部処分して、再建計画をたて継続することを決めました。 ついては、誠につらいのですが、全員に残留していただくことは無理です。 退職金は退職年金契約を解約して皆さんにお支払いいたします。私もできる限り、何役もの働きをしますし、 "全員現場"をモットーにがんばっていくと決めました。必ず再建させてみせますので、協力してください。 よろしくお願いします。この後、1人ずつ面談して説明します。
 それから、このたびうちの会社の顧問をお願いした税理士の田中先生です」
 「おはようございます。田中圭子です。このなかには、今日お目にかかるのが最初で最後の日になる方もいらっしゃいます。 本当にとても辛い日です。この会社のことを相談されて、一生懸命検討してきました。現在、企業としては非常に悪い状況ですが、 そのなかで社長も専務も、絶対にどんなことがあっても再建するという決断をされました。 もちろんご自身の土地も家も年末までに処分することを覚悟しておられます。他の役員の方々には『働かざる者食うべからず』と強く申し上げています。 また、今までの3倍も4倍も働く覚悟をしてくださいとも言っています。それでもがんばると決意し約束されました。 そして『やりましょう』と会社を継続することが決まりました。私は現場のことはよくわかりません。 皆さんが長年培ってこられた技術と能力と知恵をぜひお貸しください。皆さんの協力がなければ再建はあり得ません。 どうぞよろしくご協力ください。そして、お辞めになる方たちにまた戻って来てもらえるようにがんばって、立派に再建しましょう。」 と私も深々と頭を下げた。
 たった30分の発表であったが、静かに終わった。周囲には凶器になるものが山積みである。そうでなくても、殴られてもおかしくない状況である。 私は昨夜から決めていた。もし殴ってくる人があっても黙って殴られ続けようと。 立場を逆転して考えれば、突然現れた人から30数年勤めてきた会社を辞めてくださいと言われたら、殴ってやろうと思うだろう。
しかし、あれだけ威張っていた社長が、従業員に頭を下げて息子の再建への協力を頼み、 専務の絶対に再建するという強い決意が従業員に十分伝わったことは間違いなかった。

団  結

 翌日、残った従業員一同から会社に申し入れがあった。給与は時間給計算でもよいが、休日の多い月もあるから、 日数の最低保証だけはしてほしいということだった。今まで従業員が一致して何かするということがなかった会社だけに、役員も驚いた。 しかし、給与のこととはいえ、従業員が初めて一致団結したことが、その後の仕事にとても役に立った。

■プロジェクト会議
 その夜、専務、営業担当役員、工場長、技術者そして私で初めて会議を開催した。今までと違って現場の工場長、技術者に入ってもらい、 プロジェクトチームを発足した。現場の人に入ってもらい、よい提案をしてもらうことで、計画をスムーズに進めたかった。
 この会議ではまず、役職にかかわらず発言の重みは同じとすることを取り決めた。
そして、問題点を解決するための前向きな議論をした。以前は、従業員がいくらよい提案をしても役員側から否定的な意見が出されて没にされるため、 提案が出ない環境になっていた。
 それだけに、工場長や技術者は改善案をどんどん出してくれた。また財務内容をオープンにすることで、従業員側の不安もなくなった。

成果報告

 2週間後、専務からの報告があった。一般従業員は、午後7時まで残業し、プロジェクトメンバーは午後9時半まで毎日仕事をしている。 売上も計画の数字以上に達成でき、逆に生産に追われているということであった。
 営業が現場に行って手伝おうとすれば、「現場に来るぐらいなら、しっかり売って来い。このメンバーで生産は間に合わせるから」と大声が響き渡り、 工場は活気いっぱいであるとのことだ。

 年末賞与もないままに、その年の御用納めの日がきた。今までは会社の行事に参加しなかった人もいたのに、今日は全員が参加して飲み会を開催した。
「人員は半分になったのに以前と同じだけの売上が達成できるとは、やればできるんだな」
「今までで一番忙しいけど、仕事はとても楽しい」など、従業員のやる気のある声でいっぱいであった。

全員参加で来年もがんばろうと2001年を終えた。

これから

2002年元旦
 あけましておめでとうございます。
 先生、本当に本当に昨年はお世話になりました。
 先生がいらっしゃらなければ、今、両親とこうして
 おだやかなお正月を迎えることができなかったと思います。
 まだまだ、これからですが私も微力ながら手伝って
 いきたいと思っています、
 今年もよろしくお願いいたします。

 後輩から届いた年賀状。本当にうれしい年の始めになった。
 この会社は、再建計画発表後、半年経過した現在も毎月利益を出し続け、借入金の返済も順調である。 プロジェクト会議も毎月続け、従業員も創意工夫の提案をして仕事に取り組んでいる。
 ITコーディネータは、本来なら企業のIT化を進めることが目的だと研修では習ってきた。 しかし、その前にある企業の業務改革は、すべての企業において必要な事であると思う。 すぐにIT化にはつながらなくても、業務改革を的確に進めることで利益を生む体質にすることが可能であると実感できた。 私の場合、この一件の事案を誠実に対応し成功させたことで、口コミで相談依頼が舞い込むようになった。 中小企業の経営者や個人事業主は、真剣に相談に乗り、解決の方向性を示し、共に考えてくれる人を捜し求めている。 これからも、積極的に支援できるように研鑚し続けていきたいと改めて決意している。

出典 清文社:ITコーディネータの中小企業経営改善実践マニュアル 前川寿住編
          プロローグ 経営改善関与事例より

【用語解説】
  用語 解説
CSF Critical Success Factors 主要成功要因
2010.07.05
経営改革・IT化事例
【事例概要】

1.事例報告者
事例題名 経営改革と戦略ITの刷新(J001)
事例報告者 前川 寿住 ITC認定番号 0001362001C
事例キーワード 〔業種〕環境用品、エコロジー用品製造
〔業務〕基幹業務&支援業務(会計、物流、生産、販売、購買、人事)
〔IT〕Webベースの総合システム

2.事例企業概要
事例企業・団体名 株式会社******* 企業概要調査時点 2002年7月
URL http://www.******.co.jp/
代表者 代表取締役社長 ** *** 業種・業態 製造業・環境美化用品
創業 昭和初期 会社設立 昭和30年代半ば
資本金 9000万円 年商 100億円 従業員数 310名
本社所在地 本社:大阪市
東京本社:千葉県
事業所 営業所:全国主要都市8ヶ所
工場:関西、関東に3ヶ所
物流センター:関西、関東に2ヶ所
業界特性  消耗品的要素と単品受注生産が大部分を占めるために、売上の大幅な増減が発生しにくい商品であり、大手企業の参入の脅威も少ない業界
競合他社  事例企業は、業界においては上位に位置づけられている。
リード文  ある企業が株式公開を目標に業務の標準化と情報装備の高度化を進めていたが、うまくいかなかった。 途中でバトンタッチされた経験豊かなコンサルタントがどのように進めていったか・・・・・・。

3.コーディネート内容概略
関与経緯 監査法人経由で業務改革とIT導入コンサルティングを依頼された。
事例対象期間
(執筆時点)
平成13年8月~平成14年3月(平成14年3月執筆)
事例分野 □経営戦略  □IT戦略  ■経営戦略+IT戦略
事例範囲 ■基礎調査
■経営戦略策定  ■戦略情報化企画  ■情報化資源調達
□情報システム開発・テスト・導入  □運用サービス・デリバリー
留意したこと 組織のあり方(組織構造改革と主要ポストへの人事)
主な成果 【途中段階での実績】
・人員削減 :正社員14名、準社員9名
・経費削減 :9000万円/年
・その他効果:
①物流の改善で、顧客への配送リードタイムが平均2日短縮
②出荷管理が簡素化され、営業事務効率化が実現
③経理の集中管理で日時決算の実現に大きく近づいた
パッケージソフト情報 独自開発

【事例詳細】
 株式会社A社様(以下、(株)A社と敬称等を略す)は昭和2年の創業で、環境美化用品の製造販売会社として現在業界上位の企業である。 関西と関東に本社機能と工場を持ち、北海道から九州まで営業拠点を配置して日本全国をカバーしている。 顧客満足度を上げるために「当日受注の当日出荷」を合言葉に、きめ細かいサービスを提供している。 (株)A社は、株式公開を目標に1999年4月より業務の標準化と統合化情報システムの導入を図っていたが、 プロジェクト全体に遅れが発生していた。2001年8月監査法人経由で業務改革とIT導入のコンサルティングを依頼したいとの申し入れがあり、 (株)A社のホームページや帝国データバンクの情報等で事前の調査を行い、また販売店で(株)A社の商品を自分自身の目で確かめてから訪問した。 現状を調査した上でないと責任を持って引き受けることは出来ないと思い、先方の役員に会った際に、基礎調査を行った後、 それ以降をお引き受けできるか判断したい旨を伝え了承を得た。(図表1、図表2)
また、先方の役員との会談により下記情報を得るとともに依頼内容の確認を行った。(図表3)
・創業以来健全経営をモットーに慎重な経営方針で今日まで躍進してきたが、電子取引や電子政府が出来上がる
 今日に至っては、情報での武装化は絶対必要不可欠との認識から企業統合化情報システム導入を図り、株式公開
 のための業務や規定などの整備を同時に進行させる。
・取扱商品は、清掃用品(ハンドモップからロボットまで)、マット、灰皿、人工芝、傘立て、スノコ及びベンチなど幅広く
 約2000アイテムある。

図表1 事前調査の内容
事業ドメイン ・環境用品(事業用70%、家庭用30%)
商品マーケット ・官公庁、学校、工場、ビルメンテナンス会社等
・業界においては上位に位置付けられている
組織 ・研究開発、営業、製造、物流、総務、経理
財務分析 ・年商100億円、経常利益7%、保有資産十分
本社各部門 ・研究開発、営業、生産管理、総務、経理
工場(関西) ・2ヶ所(金属加工、樹脂加工、繊維加工)
物流センター ・関西物流センターにて輸配送は外部委託
東京本社各部門 ・営業、生産管理、総務、経理
東京工場 ・1ヶ所(樹脂加工、繊維加工)
東京物流センター ・関東物流センターにて輸配送は外部委託
営業所 ・全国主要都市8ヶ所

図表2 (株)A社の商品例

図表3 依頼範囲と内容
■経営と業務改革の支援
・経営管理機能の確立
・業務管理機能の確立
■株式公開に必要な業務整備と情報システムの導入
・販売・生産・物流などの基幹業務整備と情報システムの導入
・本支店会計の廃止(財務会計システムの構築)と支店在庫の廃止(物流センター直送)
■規程・業務マニュアルの作成
・役員規定、人事規定、経理規定等規定の整備
■基幹業務マニュアル、支援業務マニュアルの整備

(基礎調査内容および課題の把握)
 関西・関東両拠点を中心に生産・販売の実態を把握すること、関西・関東の文化の違いによる弊害等を把握することを基礎調査の目標においた。 最初の訪問において「礼節の行き届いた従業員が多く活気のある企業」という第一印象を受けた。会長、社長、専務を含む全役員と面接し、 経営者の捕らえている経営課題や今後の展望をヒアリングした。 経営陣は大阪本社で商品研究開発を担当する会長、東京本社で営業統括を担当する社長と人事・財務など企業管理全体を担当する専務がオーナー的位置づけで、 その他各業務を担当する役員で構成されていた。 その後、営業、研究開発、生産管理(購買兼務)、総務人事と財務部、製造現場、物流、支店営業所などの調査を行った。 販売は本社(大阪)・東京本社、製造は全工場、物流は全物流センターを調査した。 基礎調査で図表4に示す課題が明らかになり、図表5の改善すべき主なポイントをCIO(企業内の情報戦略を統括する役員)の役割を担っている財務担当取締役に報告した。

図表4 基礎調査報告内容
経営計画が売上、経費、商品開発の範囲に留まっている。中長期的な計画が無く、 組織間の課題の把握や数値的把握が弱いために改革の実施に向けて施策案が出てこない。
組織が大阪本社と東京本部に大きく分かれ、管理の統一性がなく、マーケットへの施策も東西で独自に行っており、情報交換も不十分な状況である。
生産計画担当者が購買を兼務しているため、材料ロスや外注管理が甘い。標準原価の設定が行われていないため、各個人の原価意識が薄い。
物流業務は関西のみ情報システムが導入されており、関東は手作業である。東西で管理者の意識が異なり、管理体制の統一が当面の課題となっている。
販売は東西に部長職を置き、関東以北は支店展開で営業している。一方関西以西については九州を除いて本社営業でまかなっており、 地方顧客への訪問が十分に出来ていない。販売計画については役員を含めて経験と感と度胸だけで行い、マーケティング戦略意識が薄い。
研究開発は会長の管理下にあり、社長以下が口出しが出来ない状況にある。開発商品のニーズ調査・分析やマーケットリサーチも行われていない。
製造の金属加工は大阪で一括して行っている。樹脂成型やその他の材料関連は外注に依存し、アセンブリメーカーの形態を取っている。 受注の多くは既存商品のアレンジが多く、受注の都度簡略的な手法で図面作成を行っているため、製造現場の負担が大きく、 品質管理も困難な状況が見受けられる。
財務管理は本支店会計を行っているが廃止の方向で着手されており、各支店の要員削減に向かって動き出している。 財務部門は管理レベルが高く評価できる。人事管理は責任者を入れて2名の体制であり、人事労務等規定やその他の規定の見直しが急がれていた。

図表5 基礎調査結果に基づく分析、改善ポイント
全般的に計画性が低く、経営戦略から戦術企画、運営(実行)、管理のプロセスの確立が急務であり、 PDCA(Plan:計画,Do:実施,Check&Action:評価及び是正処置)サイクルの概念を導入すべきである。
■経営課題
経営戦略が明確でない
業務レベルの計画性が低い
組織体系に無理がある
管理機能が曖昧
■改善すべき主なポイント
基幹業務:
購買部門の独立による製造原価の改革
生産管理業務にITを導入し、製造全般の改善のインフラとすべき
関東の物流業務に関西で使用しているITを導入して物流業務の東西統一を行い、総合(東西)在庫管理でマルチ物流を実現し在庫ロスの削減を図る
営業本部の下に販売企画の専任担当者を配置し、マーケット調査、商品企画、顧客の管理の高度化、計画的な販売活動の実施手法を確立を行わせる。
支援業務:
会社全般の規定の明文化と運用方法の確立

基礎調査は、これ以降の本格的なコンサルティングを実施していく際に、 相手の言葉にまどわされることなく的確なアドバイスをするために必要不可欠と私は考えている。

(プロジェクト目標の設定と推進体制)
 (株)A社は各種規定が古く、現在の社会状況に合わなくなっている部分があることから各種管理体系に曖昧な部分が多く見受けられた。 経営改革を実現できる新しい業務の仕組みを構築すると同時に各種規定の改定を行う必要があり、以下の目標とミッションを設定することを提案し、採用された。
■目標 株式公開のために
■ミッション 経営戦略を見直し、現業業務の改善のために効率的な業務の仕組みを策定し、戦略的に情報を活用する仕組みを構築する。
  担当役員と協議して、プロジェクトの進め方を図表6のようにした。進め方のポイントは
企業全体の意思疎通を良くし、経営改革の方向性を明らかにするため、まず経営者のビジョンを明確にする。
「経営環境分析」として「A社の強み、弱み、機会、脅威」を現場担当者と共に検討し、それにもとづいて課題の洗出しを行う。
その後、「個別改革実施企画」として、どの程度の品質で役務を提供するかのサービスレベル目標設定、それを達成するための課題抽出、 各職務を見直して再整理した業務モデルの作成、それらに優先順位をつけて段階的に実施する3フェーズアクションプラン1)の作成、 達成状況把握のための測定指標の選定を行う。
これらの後、情報戦略企画を行い、段階的に情報システムの調達・導入を計画する。

第2フェーズ(90日) 第3フェーズ(8ヶ月) 第4フェーズ(3ヶ月)
①プロジェクト編成
②経営環境分析の実施
③個別改革実施企画
④情報戦略企画
⑤効果目標
①個別プロジェクト立ち上げ
②個別プロジェクト計画
③プロジェクト実施
④モニタリング・コントロール
⑤完了
効果測定
第二次投資プロジェクト策定
図表6 進め方

 プロジェクト推進体制は、全社あげての取り組みを明示するため、8名の全役員と40名の主要な現業スタッフで構成する全社参画型とした。 また、オーナー企業の特性として、オーナー自身が参加しなければ意思決定が遅れ、ひいてはプロジェクト全体の進行に影響を与えたり、 目的が十分に理解されなかったりすることを防ぐためにオーナーである会長が責任を持つ体制とした。 全社参画型で経営改革を通して業務手順等を再構築することにより、 現場の人たちが経営のPDCAサイクルの構造や自己の職務の位置づけを理解して職務意識が向上することを狙った。 また、プロジェクトに遅れが発生しそうな場合でも、オーナーの決断で合宿等を開催して、全員が集まり集中して短時間で出来うることを想定した。(図表7)

CIO:財務担当取締役、プロジェクトコアメンバー:取締役営業部長、取締役製造部長、姫路物流課長、生産管理課長
図表7 プロジェクト推進体制

(経営環境分析から個別改革実施企画まで)
 経営環境分析は、役員が経営環境を分析し、現業スタッフが現業業務の環境分析を行う分担にし、分析結果の発表を合同で行う方式で実施した。 また、個別改革実施企画(販売、製造等の仕事の大きな機能ごとに改革実施の企画)は、主要成功要因ごとに要員計画、コスト見積、実施スケジュール、 効果予測を企画書にまとめ、オーナーの承認を得た後に実施することとした。

図表8 現業業務の環境分析の一コマ

 分析・検討作業はメンバー間のコミュニケーションの効率性と指導の効率性を考え、 プロジェクトメンバー全員が朝9:00から深夜の22:00まで討議と作業を行う合宿形態で行った。 合宿は経営環境分析から情報戦略企画まで計7回に及んだ。経験上予想はしていたが、役員による経営環境分析の初期では、 各役員が種々の問題点を様々な思いで語るため、方向付けに苦心した。また、現業スタッフによる現業業務の環境分析で行った現行業務の分析では、 各部門に業務フロー等を含む業務内容記述書を書いていただき、それを皆で分析したが、 営業部門が提出したものは普段バラエティーにとんだ形で業務を遂行しているためか、品質が悪く、後で分析するのに苦労した。 第1回合宿の深夜11時にようやく当日の成果物の発表が終わった後、 社長が「経営環境分析を1日かけて実施した結果、わが社がどのような状態にあり、今後何をしなければならないのかが見え始めました。 このような手法があることを初めて知り、これまで3年間出来なかった改革が今回のご指導で"これなら出来る"と確信をもてました。」と語り、 指導の甲斐を実感しました。
 経営環境分析の結果、主流商品は1品仕様に近い多品種少量生産品であるため、大手企業の参入が困難な状況であり、また同業他社との競合も少ない。 しかし、中国等東南アジア圏からの低価格品の輸入増大や営業企画力・生産技術の早期強化の必要性を考えると、 将来は合併などを通してシェアーを確保することが今後の課題として上がった。 経営環境分析結果にもとづき、プロジェクト参画者総意での主要成功要因を導き、以下のアクションプランを策定した。

主要成功要因
・新商品開発で家庭用と業務用の分野を確保
・販売力の強化で売上の増加を図る
・人材の育成で組織強化を図る
・IT化を図る
アクションプラン
物流改善 関西・関東共通の物流情報システムの構築でタイムリーな出荷体制を整備するとともに在庫管理を強化する。
組織改革 経営企画室を新設し、計画に基づく経営を行い経営の強化を図る。購買部門を独立し、原価管理を強化する。 開発部門を強化し、顧客ニーズに合った商品開発を短時間で開発する。
生産改革 仕様変更を含めたタイムリーな生産管理機能の確立。
販売改革 関西関東ともに、販売企画に基づく戦略的販売を行う。
経営改革 IT導入により製造・販売・在庫の基礎情報を正確に早く収集・分析して早期対策が取れる体制を整備することで経営基盤の強化を図る。

図表9 経営環境分析での強み、弱み、機会、脅威分析の一部

(情報戦略企画)
 情報システムは、オフィスコンピュータ上で販売管理、購買管理、会計の各システムが稼動している。導入後約5年が経過していた。 各情報システムは単独でシステム化されていたために連携がなく、 総合的な情報が必要になるごとに担当者各自がコンピュータから出力された情報をもとにEXCEL(表計算ソフト)等を利用して、 集計・加工している状況であった。コンピュータネットワークは、本社(大阪)、東京本社、各工場、各営業所が接続されていたが、 メールシステムはそのネットワークとは別に独立して構築されていた。経営環境分析から個別改革実施企画までを行い、それのIT面での実施計画として、 情報化改善企画を行った。
 情報化改善企画では経営改革を推進するために、「情報の活用を全社的に拡大し、分析・計画・実行・モニタリング仕組みを確立すること」を目標とした。 また、情報システム構築の優先順序を下記のように定めた。
 ①最優先(第3フェーズ第1弾)
  ・会計システムの全社統合
  ・関東の物流業務への情報システム導入
 ②第2優先(第3フェーズ第2弾)
  ・販売、生産、購買、在庫の総合機能を構築
 ③それ以降(第4フェーズ)
  ・経営戦略情報化機能の構築(経営的モニタリング機能の集約)

 情報化改善企画で行った次期情報システムの概要検討には全国から関係者メンバーが集まり、短時間で集中して検討作業を行った。 その中で共有すべき情報の管理構造の設計(データベースの基本設計に当たる)や画面・帳票デザインの作成を行ったが、種々のアイデアや意見が出て、 結果的に徹夜で行うことになった。
 情報化もその一つであるが、改革すべき課題が多い上に、全体の改革に足並みを揃えて情報化の改善がなされなければ効果は得られない。 今回の場合、生産、販売、購買、物流の改革に時間と労力が必要なため、改革の効果が早期に見え、 かつ短期間で行える会計システムの全社統合と関東の物流業務に情報システムを導入することで東西物流業務の統一を図り、 サービスレベルを上げることを最優先した。会計の統一化により支店会計要員の削減を行い、物流システムを統一することで即納体制の確立と在庫削減が狙いである。 第4フェーズで生産・販売・物流の基幹業務の計画及び実績チェック支援機能を強化し、成果が明確に判る仕組み作りを行う計画である。

(情報化の実施)
 情報システムの構築はRFP(ベンダーへの提案依頼書の発行)を行い、4社より提案と見積りを受けた。 検討して2社に絞り込んだ上で経営者が出席する提案趣旨説明会を開催し、その後最終決定を行い、構築を開始した。

図表10 今回の進め方

【用語解説】
  用語 解説
3フェーズアクションプラン 3phase action plan 目的を達成するために段階的に進めることをいい、良い作物を得るためには「土を耕し」「土を肥やし」「種を植え」「収穫」 というように一度に完成できない場合などの手続き踏む手順や、段階的に育てていく場合などの順序を3段階で考えたもの。

2010.07.02
事例情報(業種・適用分野別事例件数)

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事例企業
業種
事例適用分野
経営改革

経営再建

起業
事業領域
の最適化、
転換
経営情報
の強化

俊敏な経営
のための
情報共有
顧客、販売
データの
戦略的
活用
得意分野、
技術の強化
設計、開発
の 効率化
品質、
生産性向上

コスト低減
社内事務の
合理化、
意識改革
BtoB、
BtoC
による
市場拡大、
業務効率化
アウト
ソーシング

ASPの
利用による
業務効率化
IT
リテラシの
向上
IT化に
あたっての提言
製造業 電子・電機
機械・装置
化学・薬品・石油
食品・飲料
繊維
その他製造
非製造業 卸売
小売
金融・保険・証券
不動産
ソフトウェア
その他サービス
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2010.06.17
事例情報
【事例掲載の目的】
 ある分野でNo.1企業になりたい、トップの考えを組織全体に素早く伝えて機敏な企業活動ができるようになりたい、新規顧客の開拓や販路を拡大して業容を大きくしたい、購買・生産・販売の連携を強くしてより効率的な企業運営をしたい等、経営者は日々悶々と思いつつ仕事をしている。これらを他の企業は、どのようにして実現していったのであろうか。また、どのようにして実現の第一歩を踏み出したのであろうか。その場合にITをどのように活用するとうまくゆくのであろうか。ITコーディネータ協会はこれらの参考の一例となることを目指してホームページ上で事例を掲載します。

【事例掲載の構成】
 事例を掲載しているホームーページの構成と内容は下記の構成になっています。
名称 内容
業種・ジャンル別事例
分類表
掲載事例を事例企業の業種と事例の主記載内容で分類した表です。数字は含まれる事例数を示します。数字をクリックすると「業業種・ジャンル別の事例一覧」に進みます。
業種・ジャンル別の
事例一覧
該当する業業種・ジャンル別の事例一覧です。事例企業名をクリックすると事例本文に進みます。また、事例企業名の下に赤文字で「コメント」と表示されている場合は、事例本文の他に事例コメントも掲載されています。
ITSSP講演全事例一覧
ITC投稿全事例一覧
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事例本文 事例の本文です。「コメント」ボタンがついている場合は、クリックすることにより、事例コメントへ進みます。
事例コメント 事例コメントです。ここで言う「事例コメント」とは、事例をさらによく理解していただけるように、「事例の背景や業界の動向」、「関連する知識・資料」、「事例を読んで参考になったこと」等を総称したものです。事例本文を批判するものではなく、異なった視点で補足することを目的にしています。

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 (事例企業名、URLは発表当時のものです)

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