事例情報

2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:5 山本精工(株)   事例発表日:平成11年12月14日
事業内容:アルミ素材の加工、表面処理
売上高:不明 従業員数:26名 資本金:1200万円 設立:1980年9月
キーワード アルミ素材加工、
少量多品種生産、知的作業とルーティン作業の区別、
情報共有
経営効率改善の為の情報化取り組みについて
  
山本精工(株) URL:http://www.joho-kyoto.or.jp/~hilltop/

山本精工(株)常務取締役 山本昌作
プロフィール
昭和52年、立命館大学経営学部卒業後、山本精工(株)に入社。昭和57年に工場長に就任。平成元年から常務取締役となり情報化の要として尽力。また、昭和58年から京都機械金属中小企業青年連絡会の副代表を5期に渡って務める。
~人にしかできない仕事以外は徹底してデジタル化する「高収益体質づくり」~
厳しい経営環境にあえぐ日本の産業の代表例ともされる製造業。利益率の低下にあえぐ上に、3Kと言われる労働環境、従業員の高齢化もあり、将来性を憂える声も少なくない。しかし、そんな状況にITを武器に革命を起こした人物がいる。山本昌作氏である。家業である鉄工所、山本精工において情報化を進めてきたきっかけと道のりは大変興味深い。

■会社概要
設立
昭和55年9月1日
資本金
1,200万円
社員数
26名
事業内容 ・機械加工事業部
精密機器部品、精密機械部品、医療機器部品、科学計測器、真空機器、自工具設備製作、金型製作、ソフト開発
・表面処理事業部
アルマイト処理(白、黒、硬質、硬質黒、テクノマイト)、メッキ処理(無電解ニッケル、テクノフォス)

■利益効率悪化の製造業の現状
今日は製造業の現場の生中継というつもりでお話したいと思います。私たちをとりまく環境は大変厳しいものがあり、特に製造業はバブル崩壊後ずいぶん少量化の苦しみにあえいでいます。要するに数の多いものはどんどん海外にシフトして、国内に残ったものは多変少量、変種変量、多種単品と言われるロットサイズになってきました。人を介在させなくてはできない小ロットの仕事しか残らなくなってきました。極めて経営効率が悪化しているのが製造業の現状です。そのように機械化による効率化が図れないということであれば、人によるスキルを上げ、モチベーションを上げることを考えないと私たちのような中小企業は持ちません。これからの問題点は、人をどう引き立て、能力をどれだけ引き出すかであり、それが企業全体の力の循環になっていくと思います。今まで日本の経済成長、戦後の高度成長を遂げてきた日本というのは人が監視する、中間管理職や経営に携わる人たちが社員を見張るとか、ケツを叩いたりしてきました。それでは水を飲みたくない馬に水を無理矢理飲ませるようなものです。そういった中で100の能力のある人間が60、70の力しか出せませんでした。それを単純に80、90、100という能力を出すだけで簡単に利益構造が改善するという思いがずっとありました。それで10数年前から始めた私たちの取り組みを、今日は皆さんにご披露したいと思います。
当社は社員数30名近く。アルミ素材の加工及び表面処理をやっています。一般的な鉄工所ですが、最近の鉄工所はだいぶ様変わりしまして数値制御がついてNC旋盤だとかマシニングセンターなどの機械を使いながら加工します。半導体製造装置、医療機器部品、分析機器などを手がけています。このようなところに使われるものは精密で軽くて手に持てるもの、付加価値が非常に高いということで、素材によく使われるアルミに事業を絞りました。ただ、この業界は利益が3%、5%、8%くらいしか上がりません。昨今では利益どころか赤字で苦しんでいるのが大半の製造業だろうと思います。
当社も10数年前までは大変な収益の悪化に苦しんでいました。毎月、月を越すのが大変な時期がずっとあり、社長は月末になると朝から集金に走り、手形を割って午後から支払いに回るような忙しさで、辛い思いをしながら会社を維持していました。

■高収益企業へ体質改善したシステムとは
私どもは、今自分たちがやっている作業を細分化することによりおもしろいことができるということを発見しました。人のやるべき知的な仕事と、機械のやるべき仕事を上手に区別することで、非常におもしろいことが起きると悟り、作ったのがHILLTOP(ヒルトップ)システムです。これを始めてから収益構造が改善され、3%、5%、8%だった利益が20%から25%くらいまで上がりました。これはこの業界にしたら驚異的な数字です。私たちの狙うのは、売上を伸ばすことではなく、一人あたりの利益を上げることです。当社が京都で売上高ランキングに載ることは絶対にないでしょうが、一人あたりの利益率ランキングがあったとしたらどんな企業でも上位を狙えるはずです。当社も徹底して高利益の企業を目指そうとやっています。
社内にパソコンは40数台あります。社員の数より多いので、一人1台以上、鉄工所としてはすごい数だと思います。社員全員がプログラマーを目指し、データ化、情報化の入力ができる環境を作っています。他社では不可能とされる特注品もの、つまりオーダー品の無人稼動というものもやり始め、かなり出来上がっています。大手さんが量産もの、計画生産にのっとったものを無人化するのは非常に簡単でしょうが、私たちのような特注品ものは大変です。今コンパックやデルコンピュータなどがオーダー品を1週間ぐらいでお届けするというサプライチェーンマネジメントを徹底していますが、それに近いことができていると自負しています。
このHILLTOPというシステムを作るにあたって、3つの要素を重点として留意しました。
・量産ものはやらない!
・知的労働とルーティン作業を区別
・職人はつくらない
量産ものをやらない理由は、私自身の経験も関与しているのですが、20年ほど前、大学卒業後この会社に入った当時は自動車の部品加工が主で、量産ものの製造の孫請けでした。ある自動車メーカーの子会社から当社に量産のラインをやらないかというお話があり、私が現場の研修に行ったのですが、1日6000個くらい製造する現場の仕事は「これが人間のやる仕事か」と疑問に思うほど時間の経つのが遅かった記憶があります。何故ならまったく頭を使わない単純作業の繰り返しだからです。
現在、私たちは部品加工の仕事していますが、まず図面が来て、どの機械を使うのか、材料は何か、敷き板はどの向きだ、刃物は何を使うのか、ということを一生懸命考えています。これを加工デザイニングと言いますが、これは人間にしかできません。人間らしい、人間のやるべき仕事なのです。ところが、その後のデータを利用して加工するところは全くのルーティン作業になり、2個目からはデザイニングやデータ作成という工程は何もありません。自動車部品をやっていた頃はこの部分しかやっていなかったので、人間のやるべき仕事はひとつもありませんでした。これでは人が育つはずがありませんでした。



本当に大事なことは、知的な作業をどれだけ人にさせて、ルーティン作業をどれだけ効率よく情報化・機械化するかだと思います。いわゆるファーストロット、量産ものに関しては知的な作業はわずかしかありませんが、単品ものには非常に知的な作業が多く、当時売上の約7割を占めていた自動車部品の仕事をやめて、単品もの主体に変えたのです。「単品ものはクリエイティブで楽しいぞ」と言う事で、歌って踊れるような楽しい気分の鉄工所を目指しました。

■いつでも誰でもできる─情報の共有化のもたらす成果
ところが、楽しいはずの単品加工が楽しくありませんでした。なぜか。確かに1回目は単品加工で知的な作業があります。単品加工はそれっきりで終わるのではなく、何カ月に1回というサイクルでまたリピートしてきます。何百点の仕事が順繰り順繰り色々な形で来ます。そうなると知的作業ではなく、前にどうやったのだろうという回顧的作業になってしまうのです。ある製品を受注したらプログラマーAがプログラムを組んでオペレートして完成させ、次にまた同じものが来たらプログラマーAはボタンをポンと押して出来るのかというとそうではないのです。また前のやり方を思いだし、同じようにやり方を考える。その作業が以前の半分に減るかといえばそうならない。無人化などとても無理なのです。また、プログラマーAが休みだからプログラマーBにやらせると、できないのです。「以前のデータもあるのにナゼできないか?」と問うと、「人の作ったプログラムはようわからん。それだったら自分で作り直したほうがいい」ということになってしまうのです。例えで言うと車間距離をたくさん取る人が車間距離をあまり取らない人の車に乗ると恐くて仕方がない、そんなこわい思いをするのだったら自分で運転するというのと同じです。人の記憶に頼るやり方の弊害が出てくるのです。プログラマーAは自分の思いこみの中で曖昧なノウハウで自分の仕事をどんどん積んでいく。だからAさんが1回やったものはその会社の中ではずっとAさんの仕事というのではなくて、いつでも誰にでも同じようにできる仕事のやり方が必要でした。お釜で御飯を炊くと人によって、またはその日によって固くなったり柔らかすぎたりで、おいしくできたり、できなかったりしますが、現代の炊飯器なら指示通りにお米とお水を入れてスイッチを押せば誰にでもいつでも同じようにおいしい御飯が炊けます。私たちの業界の仕事もこうでなくてはダメだと思いデジタル化し、今やっているサブルーティンの部分をもっと事細かにデータとして落としていけば、いつでもおいしい御飯が炊けるのと同じ成果が得られると思ったのです。
つまり、情報の欠落をどこかで防ぐということです。従来型の製造工程の中で、同じ仕事をもう1回やる時になぜ同じことがボタンを押してできないのか、無人化できないのか。情報が欠落したままで次の仕事に移ってしまうところに大きな問題点があると思います。
マクドナルドでは昨日今日入ったばかりのアルバイトでもちゃんとハンバーグが焼けます。温度、時間など徹底したマニュアルの成果です。私たちの業界もそれができないだろうかと考えました。
まず、企業内でやっていることをデジタル情報に変えようということに取り組みました。何百とある段取りの仕方はまず細分化して、似ているもの同士を括って大きな分野ごとに分け、標準化を図りました。加工情報は個人の持っている曖昧な情報を全部捨てさせました。たとえばある製品を作るのに機械を何回転させるかと聞くと、みんな答えが違います。1500とか、3000とか、4000といった具合です。それぞれの言い分を戦わせて、山本精工の真実の値、データを出すようにしたのです。誰が使っても同じデータで違和感なく使えるという情報の共有化です。他の人の作ったプログラムを見ても誰でも使える。それをとりまとめるソフトウエアも社内で作れるようになり、SEもちゃんといます。HILLTOPシステムにあるALMAC(アルマック)、COMxNC(コメックス)など全てオリジナルのソフト名です。人が介在しながらやっている中で繁雑な作業は一連のルーティンになっているものをよく理解するとコンピュータに置き換えられることがわかったので、ところどころでたくさんのソフトを使っています。こうして人の記憶に頼ることなく、できる限りワンシートに作業環境、加工環境を忠実に再現できるようなシステムづくりを行ないました。それがHILLTOPシステムの起こりと内容です。
手配業務は従来と同じです。例えばプログラマーA、B、C、Dでやる場合、通常通り加工しオペレートして完了させますが、加工環境、段取りのポジションや方法、使ったもの、道具......ボルト1本にまで名称がついていますのでこれを全部記録します。光ファイルやパソコンを媒体に全部記録し、これを企業としてのノウハウ、財産に変換させます。そして、同じ注文がきた時に、今度はコントローラが今まできたリピート品を一手に引き受けてやってしまいます。最初にやった時の段取りを忠実に再現できるので誰がやってもボタンを押すだけでモノが出来上がります。



Aが1回やったらその仕事はずっとAのもの、という従来型に対して、この方法では、1回やったものはすでに人間の仕事ではなく、次に注文が来た時には誰でもできる体制が取れるのです。ひとつのエピソードがあり、Xさんが納期をせかされて3日3晩かかってある製品を作りあげ、それを検査の場所に置きましたが3、4日してまた同じ場所に同じものが置いてありました。あれだけせかされて作ったのになんでいつまでも置いてあるのか、とXさんが怒りました。すると、検査の担当者いわく「君の最初に作ったものはもう納品したよ。ここにあるのは、その後すぐにもう一回注文が来たやつだよ」といった話もありました。どれだけ難しい品物も、リピートの時にはそのデジタル情報さえあればいとも簡単にできることがわかりました。

■向上心のある人が育つということは、企業の発展パワーが増すということ
こうしてルーティン作業を徹底して排除する体制ができあがると、昼間の8時間で加工チェックをして、夜にボタンを押して帰ると翌朝来た時には品物があがっています。だから昼間の8時間にどれだけたくさんのチェックができるかが重要で、プログラマーは皆機械の取り合いです。納期の余裕のあるものには土日にシフトして週末ワークと称しています。お正月ワークもあります。
利益率が大幅に改善され、メリットの大きいシステムですが、これを作り上げるためには本当に苦労しました。経営を預かる立場として私は絶対に社員を監視しない、ケツを叩かないことをモットーにしてきましたが、このシステムを定着させる時の1年間は徹底して鬼のように見張り続けたことを今でもよく覚えています。社員に「これが本当に正しいんだ、絶対に自分たちの為になる、自分たちが楽になる」と知ってもらうためには、体験してもらうしかないので実践させながら、間違っていないか、ミスはないかを監視していました。
成果のひとつとして、人の質の向上、技術の向上も得られました。先に職人は作らないと申しましたが、この業界はあまりにも職人さんと言われる人が多すぎます。しかし、今やっていることは少しの訓練でみんな修得できるものがほとんどです。当社に面接に来る人でも20年やってきたという職人さんも、実際にフタを開けてみるとこちらの求めることが何もできない人が多いのです。こうした状況を作った企業の責任は大きいと思いますし、私たちは職人という言葉の中に人を括らないことを前提にやっています。一生かかって同じ作業ばかり繰り返すのがいいことかどうか。企業がその人のできた仕事を20年も30年も引っ張るのが大きな間違いだと思います。1年2年で習得したものを次の世代、若い世代に全部渡して、その人にはさらに新しい技術などを与えていくことが大事なのです。私たちがやった知的作業とルーティン作業を分けることから、人がどうやって育つのかよくわかりましたから、そのことは人材育成に役立てています。当社の人材教育は、「まず自分の持っているノウハウ・能力を全部捨てなさい」ということから始まります。本当に捨てるということではなく、データ化する、企業内にデジタルとして落としていく、マニュアル化するということです。それから人伝えに教えていき、自分の仕事を軽くし、軽くしたところへ新しい技術を習得しようという方針です。新しい技術がその人にとって刺激になり、楽しんで仕事ができ、それが人の向上となります。企業の中にこういった人がたくさんいるということは大変厚みになります。中小企業でもこういった人間がどれだけいるかで、大きく飛躍するかどうか決まるのではないかと思っています。



私たちが標準化、合理化、企業内デジタル、コンピュータ導入などを進めることは、けして人を阻害することではなく、人に新しく創造する時間を与えられることだと思います。コンピュータを導入すると、コンピュータに使われるのではないか、と脅迫概念にかられたような誤解をする人もいますが、知的作業とルーティン作業を区別できないからそうなるのです。人は人にしかできないものをちゃんとやりましょう、そして普段の雑務となっているようなものは全てコンピュータに置き換えられるはずだと意識すると、コンピュータを道具として上手に使っていくことが私たちに最も大事な要素であることがわかるのではないでしょうか。
これからは間違いなくwebの時代になると思います。その時に企業がどれだけデジタル化できているか、これが勝負になるでしょう。是非とも皆さんの会社でも、これからひとつひとつの自分たちのやっている仕事を知的な作業なのか、そうでなければデジタル化できるかどうか、考えながら仕事を進めていかれたらどうかと思います。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:16 (株)山田農園   事例発表日:平成12年2月17日
事業内容:観葉植物の栽培・レンタル・造園
売上高:不明 従業員数:34名
2001年
資本金:4000万円
2001年
設立:1966年7月
キーワード 園芸植物輸出入、造園、鉢植レンタル、
会員登録、園芸モール実証実験、
1to1マーケティング、CRM、e-コマース、ショッピングモール、購入履歴データ活用
サイバーモールの構築事例と情報化への取り組み
 
(株)山田農園 URL:http://rakujan.yamaen.co.jp/

(株)山田農園 専務取締役 定木 納
プロフィール
1988年(株)山田農園に入社。総務部長、常務取締役を経て、1999年専務取締役に就任。
~情報戦略のひとつ、サイバーモール。試行錯誤を繰り返して成長中~

グループウェアやワークフローなどの導入により社内の情報化の推進役を担ってきた定木氏が、時代に即したビジネスの形として始めたのが、WEB上のショッピングモール「楽市らくじゃん」である。始める前と実際に始めてからと、変更、改良した部分も多く、苦労は多いが、着実に育っているようだ。


■消費者との直接取引、情報交換を目指して
当社は、1949年観葉植物の栽培卸を開始し、以後、植物の輸入・鉢物レンタル・造園を手がけ、世界各国より優秀な園芸種苗、ユッカや幸福の木などを輸入しています。世界の園芸生産者と共により良い品質の種苗の供給、生産技術情報を全国の園芸農家に提供しています。
今までの流通としては、こういう観葉植物は、農家さんが市場に物を持っていって買い取ってもらい、市場では競って、それから花屋さんが売り、一般消費者に届いていたわけです。しかし、不景気で農家も大変になり、当社も経営が伸びず、我々から見ると、農家が売った値段を考えても市場の不公平感は強いので、このままでは農家の競争が大変でやっていけなくなってしまうという危機感を持ち、消費者との直接取引を考えました。今のこの時代の環境から、WEB上で何かすることができるのではないかと思い、このサイバーモールを始めたのです。
花と緑のサイバーモール「楽市らくじゃん」というのですが、これは平成9年度の先進的情報システム(電子商取引等)開発実証事業として認可され、事業がスタートしました。
このシステムの特徴としては、相互の情報提供が可能なことです。
今までは決まったルートで生産から消費まで流れていました。つまり生産者は物を市場に持っていく、というのが実際には手っ取り早くて簡単なわけですが、これからは、消費者のニーズを考えて物を生産していかないといけないということで、それが対応できるシステムにしました。
システムの概要は図の通りです。


生産者あるいは小売店がネット上のこの我々の作ったモールで店を開き、消費者から受注する。つまり、生産者から消費者への直接販売、及び、小売店から消費者への販売を可能にしたものです。
これから必要とされていくであろう電子決済の導入もふまえています。まだセキュリティの問題等もあってダイレクト決済はむずかしいのですが、電子決済はこれから広島でも来年にはできるようになるのではないかと思います。
中には情報戦略として、1to1で消費者の購買履歴がありますので、その履歴を元に生産者から情報を送ったり、消費者の方からデータがとれるようになっています。1to1は会員登録をしていただき、サイバーモールにアクセスする際、パスワードの入力が必要なものですが、最近特に増えてきていいますので、皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。
履歴の活用として、「毎度ありがとうございます。この前買っていただいたお花は元気ですか」というようなメッセージを出すこともできます。実際には顔は見えていないのですが、1対1のコミュニケーションができるのです。ただこういうことを作戦では考えていたのですが、実際問題としては、これは会員登録が必要で、色々と課題が出ていたため、もう少し会員数が増えてから活用していきたいと考えています。
そのことも含めて、始める前にこういうこと、ああいうことと作戦を考えていたのですが、この業界のサイクルが早いものですから、モールの仕組みを作っている途中でどんどん環境が変わって、新しいものに変えていくような状況になっています。思いついてから実際に作って1年で始める、などとても無理なことです。だいたいコンピュータ自体がそうですよね。3年くらい前に50万円くらいで買ったコンピュータが、今では同じ性能かそれ以上の性能のものが20万円くらいで買うことができるのです。ソフトも然り。そんな感じでどんどんレベルアップしていることを痛感しています。
我々の出店機能も、当初はパソコンにデータを入れてその中で行おうと考えていたのですが、それではソフトも高いしどうしようもないので、WEB上での出店にした次第です。WEB上というのは普通のインターネットの画面上で出店でき、ASPのアプリケーションをサーバーに入れるという方法をとっています。たぶんこれからはこういうことが主流になっていくのではないでしょうか。
情報戦略支援としては、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)、購買履歴情報のデータベースを元に活用しています。実際にどんな花が売れているか、どういう人たちが買っているかなどの情報を蓄積しています。
セキュリティにおいては、SET準拠のSECEにより電子決済がすでに利用できる状態です。広島の地銀さんはまだやっていませんが、富士銀さんの協力で、郵政省のE-デビットにも対応しています。今後はIモードやコンビニ決済にも対応する予定です。この辺について当初は考えていませんでしたが、Iモードやコンビニ決済がどんどん展開され人気が高まってきたので、これらを盛り込んでいかないと追いつけないということで、対応を進めています。

■小さく産んで大きく育てる
「楽市らくじゃん」の歩みを紹介します。
平成10年10月に案件が認可され、12月から開発を開始しました。開発はやったものの、実際に見て回ったり宣伝したりということを全然やっていなかったので、イベントに参加するなどしてがんばりました。11年7月から園芸モール実証実験を開始し、同年12月に実証実験を終了しました。12年1月から実用開始と同時にトップ画面などをリニューアルしました。12年2月東京にて成果発表を実施したのですが、これは我々が思ったよりもすごい人数が集まり、終始お客さんが途切れることがありませんでした。優秀な案件がたくさんあり、こちらもたいへん勉強になりました。3月に新潟フラワーウエーブ出展予定で、4月には東京フラワーショー(ビッグサイト)出展予定となっています。
現在の開発体制は、当社は売上10億程度の小さな会社であり、とてもこのようなITとかシステムに充分な力を注げるような規模ではないのですが、貿易のほうがあるので、どうしても電子化が必要で、当初は私一人で電子化を進めていました。今回の案件の開発開始には3人くらいで携わってきて、やっていくうちに、とてもじゃないがこれをまともに立ち上げて成功するためにはこの人数では無理だと悟り、情報システム課という部署を立ち上げて現在6名となりました。
その中で、私はウェブマスターとして、全体的なWEBを見て指示します。他にシステムエンジニア、WEBエディター、デザイナー、園芸記事・コンテンツ担当、出店・店舗担当がいます。観葉植物は冬の時期など売れない商品があり、売れない商品だけをインターネットで販売しても誰も買ってくれないですね。ですから、年中売れる切り花などを取り扱う業者の出店の営業に全国を回る者や、記事を書くなどのコンテンツ担当の者もたいへん重要な役割を担っています。技術の方は、㈱日立製作所さんに協力いただいています。
「楽市らくじゃん」の現状は、出店店舗数が25店舗です。目標として、年内に100店舗集まればモールとしても賑やかになりますし、知名度も上がるのではないかと思います。出店費用は月額3万円。サイバーモールの最大手・楽天市場の場合は月額5万円で1500店舗集めています。安いモールでは月額1万円でやるところもあります。今後この出店費用はどんどん安くなって再競争になると思いますので、できるだけ安い業者となって、他の業者さんが入ってきてもこれ以上安くしたら採算が合うかなという程度までがんばりたいと思います。
内容としては、園芸やガーデニング等農産物にテーマを絞り展開中です。主として観葉植物ですが園芸全般に展開したり、フラワースクールなども計画中です。営業推進のためにも、色々な業者が集まってそういうサイトを作っていかないといけないと思います。
メールマガジンでの園芸情報提供も行っています。A4サイズで2ページくらいのもので、月2回発行し、購読者は現在約3000人になりました。色々な流れで知り合ったガーデニングが好きな方とか、展示会で知り合ってアンケートを書いてもらった方等に購読していただいています。興味のある方たちなので、購買予備群として、ささやかな期待を込めているわけです。いつでも解約できる気軽さがあるので、若干増えてきていて、いずれ5000人、10000人くらいになると思っています。

■さまざまな情報やサービスが満載
実際にモールの画面でご説明します。
図「検索画面」参照。これは「楽市らくじゃん」の検索画面ですが、ここには種類別に「観葉植物」「切花」「蘭」「ハーブ」等に区分してあります。また、画像データは重たいので「画像あり/画像なし」を選択できるようになっています。


図「検索画面」
さらに、植物図鑑も作りました。この業界はわりと花の名前がいい加減についていることがありますので、商品として取引しているものですから、名前だけはちゃんとしないと注文があっても実際に一致しないと困りますので、俗名、学名を表したものにしました。いろいろな本や図鑑を参考資料に用いたのですが、著作権の問題があり、各出版元に許可を得る必要があり、大変な労力がいりましたが、今となっては作って本当によかったと思っています。
ギフト用にも対応しています。ギフトカードやラッピング、最初はこれも考えていなかったのですが、いろんなものを試行錯誤し、他のサイトを見ているうちに、こういうことをやったらいいということがわかってきたので、そういう機能も随時追加してきました。送り主登録や、誕生日や、母の日等カードへのメッセージ入力もできます。
いちばん困ったのは、時間指定のある物流です。実際に誕生日に着くように送った方がいたのですが、一日早く届いてしまったのです。物流会社のほうの都合で、早く着く分にはいいのではないかという安易な気持ちがあったのでしょうが、お客さんからはクレームがきました。もっと届ける機能を徹底させていく必要があると思っています。

■まだ発展途上中、評価には時間がかかる
今までに購入した方は会員登録していますが、最初の頃は全て会員登録をしてからポイントサービスなどをつけてやっていこうとしました。ところが、お客様にとっては敷居が高い感じを与えるようで、「いちいち会員登録しないと買えないのならやめた」ということも発生しました。途中で履歴を追ってみたら、サイトを出ていく人もいるので、会員登録しなくても買えるようにしたのです。
実際に購入すると、買った人のところに控えも何も残らないので、不安になりがちです。そこで、機械が自動的に「どうもありがとうございました。確かにこの注文は受けました」とTHANKS MAILを出す機能も取り入れました。
「履歴」「おすすめ商品」「植物の相談」「スタッフの紹介」「事業の規約」などの総合案内所的なものも作っています。
植物図鑑だけでは迫力不足だし、おもしろくないということで、「緑プレイス」も展開しました。これは、植物を好きな者同士で、「こういうことに苦労した」、「花を育てる時にこういう道具を使った」等と自由に会話していただこうというものです。植物相談コーナーもあり、虫がついた、この頃元気がないけどどうしたらいいだろうか、などに答えています。もっと活用して、交流に役立つように工夫していきたいと思います。この方式は、様々な業種で使えるのではないでしょうか。
いちばん人気があるのは、懸賞です。月2、3回コンスタントにやっていて、抽選するだけでも大変なのですが、最初は申込みが少なかったので負担がなかったし、賞品も大判振る舞いでした。それがだんだん人気が出て、申込みが増えるとともに当選者も増やし、今ではAコース、Bコース、Cコースの形で各10名ほど当選となっています。
情報館というものもあるのですが、ここにはまだほとんどアクセスがありません。もう少し時間がかかるものだと思います。
一通り説明しましたが、我々がやっているものはまだ始めたばかりで、事例といっても、まだ成功でもないし失敗でもないと思っています。これから成功に向けて、これをベースにして、もっといろんな使い方をしていただこうと、第2、第3のことを考えています。これがいいか悪いかの判断は、これから先1年か2年はかかるのではないかと思います。通産省など周りの方々の後押しもありますので、がんばっていきたいと思います。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:53 (株)佐倉きのこ園   事例発表日:平成13年9月18日
事業内容:きのこ製造、販売
売上高:不明 従業員数:16名 資本金:300万円 設立:1996年5月
キーワード 産地直送販売、農業、
顧客データベース、ダイレクトメール、リピート客、受注管理、
e-コマース、クリック・アンド・モルタル、ショッピングモール、一斉同報FAX
「電子商取引の紹介と取り組み方の事例」

(有)佐倉きのこ園 URL:http://www.kinokoen.jp/


(有)佐倉きのこ園 代表取締役社長 齋藤勇人氏
プロフィール

1986年 横浜市立大学商学部経営学科卒業
1986年 (株)リクルート入社
1990年 (株)ヨークプランニング入社
1994年 佐倉きのこ園創業

~クリック・アンド・モルタルの強みを活かす~

 佐倉きのこ園の園長さん齋藤勇人氏は平成6年に脱サラしきのこ園を創業。完全無農薬の椎茸栽培に取り組み、現在生椎茸年間45tの生産量を誇るまでになった。通販への販路拡大、観光農園の展開、インターネットモールへの出店により、複数チャネルの相乗効果を活かした、いわばクリック・アンド・モルタルの成功モデルである。園長さんにきのこ園創業からの事業展開と、その中で既存顧客中心のターゲット・マーケティングや新規顧客開拓に、低コストの販促ツールや電子小売店という道具(IT)を何故導入し、どのように活用してきたのかを語っていただいた。

会社概要
企業名 (有)佐倉きのこ園 URL http://www.kinokoen.jp/
代表者 齋藤 勇人 創業 平成6年9月(法人設立平成8年5月)
資本金 300万円 従業員数 16名
生産品目 生椎茸、干し椎茸、米、野菜、有機肥料
生産量 生椎茸年間約45t

生産量による市場価格の変動に疑問、等級別価格の直売に
  平成6年9月からシイタケの栽培をはじめまして、中国産の入りたての頃でありましたので市場では高く売れる時期でありました。いざ始めてみると、同じコストをかけて作っても、毎日値段が変わって高い時と安い時があって、何ともむなしいものを感じる様になりました。
  そこで、市場出荷を止めて、直接自分で値段を付けて売る直売というものをやりました。直売するに当たっては、先ず学校給食とかスーパーに営業をかけて獲得し、今では地元の子供たちは私のところのシイタケを食べて育つと言うところまでになりました。
  私が物を売るという中で考えたのは、これだけのコストが掛かっている物はこれだけの値段で売るべきだという考えが基本にありまして、等級別価格販売という事を始めました。それまではシイタケが多く採れると安く、少ないと高くという市場で変動する値段では、これだけ菌を仕込んで人件費をかけてみても売上が不安定という、今、日本中の農家が抱えている悩みと同じだと思っています。
  そのようなことから、シイタケの一番良いのはAAだから3,000円と自分で値段を付け、一番悪いのは規格外だから800円と約4倍の値段差をつけました。この値段は、学校給食、スーパー、レストラン、ホテル等どこへ行っても同じような営業をしました。
  そうすることにより、特に学校給食の栄養士さんは喜んでくれました。その理由は、一食何百円と決めて献立を作る際、シイタケの値段が決まる事で一部の材料費が確定するからとのことでありました。以後、現在に至ってもこの等級別価格販売を継続しております。
  この6年間、1円の値上げもしていないし、また逆に値下げもしていません。このような状況で値上げができないということは辛いが何とかやっております。

パッケージシステム導入で事務作業を効率化、リピーターの増加にも役立つ
  当社は、コンピューターと言われるものを最初に導入したのは平成7年の6月です。ヤマトシステムによりクール宅急便で全国のお客さんにシイタケを送ることから始め、特に業務用でレストランが多く使っています。
  宅急便の送り状が1年近く経つと700~800通程たまり、その同じ方がまた送ってくれと注文がきたときに、送り状を見ながらまた伝票に書くことが非常に大変で、字が下手であるからなおさらの事でありました。お客様から電話で注文を受けて、自分が一生懸命書いて送り状の控えをお客さんに送ると、郵便振替の振込書記載欄に「もう少し上手な字で書いてくれ」というお客さんもあったくらいです。
  導入したシステムは、ヤマトシステム開発からのお奨めの「産直くん」です。来た注文や送り先をドンドン入れて行き、次に同じ人から注文の電話が来たら、電話番号を入れていくだけで、その前のデータ内容が全部判り、送り状も簡単にできると言う画期的なシステムだと思いました。現在も使用しており、16,000の顧客データを集めております。現在、「産直くん」を受注管理、宅急便の送り出し、請求、最後のダイレクトメールと利用しています。
  物販で販売促進のためのダイレクトメールを手書きで出すことは非常に大変で、100名位は「メールは心だ」と言って宛名は手書きで書けと郵便局のDMセミナーで講師の方が言っていたが、私のように字が下手でものぐさな者は、3,000、5,000だと書く気がしない。書く気がしないと出す気がしないとなり、結局データが死んでしまいます。それで、「産直くん」を活用して宛名ラベルを出して、はがきはコピーし、広告郵便等を利用すると45円掛からない安いコストでDMが出せることになりました。DMは年に4回ほど出します。DMを持参した方は卵または野菜プレゼントと書くと、持参するお客さんも多くなり、リピート客を増やすためにこの「産直くん」は非常に役立っております。
  このように通信販売をしながら、お客さんが来たときにシイタケ狩をしたいとか、どんなところで作っているとかの興味を満たすためにハウスを見学したいとか、更には採取したシイタケを焼いて食べたいとの要望を満たすために、バーベキューガーデンを始めるなどして観光農園を展開して参りました。

電子市場「楽天市場」に出店、リアル店舗との相乗効果で新規顧客を獲得
  やはりお客さんを集めるには広告が必要で、DMによりリピーターは有りますが、企業としては新規のお客さんを開拓しないと死んでしまいますから、広告料として直売の1割ほどを投入しています。
  その中で、効率良くお客さんを集めるには何が良いかと試行錯誤を重ね、ケーブルテレビや新聞に広告を出したり、有効な手段を探していたときに異業種交流会の友人からe-コマースで売れるよアドバイスを頂きネット販売を始めることとなりました。前職の上司にe-コマースで物を売りたいからホームページを作ってくれとお願いしたら、物は売れるところに出店しなければダメだと言われ、楽天市場を紹介されました。昨年3月に出店し、シイタケを出したとたんに、全国から注文が殺到するかと思いきや、まったく注文がありません。毎月5万円の出店料で始めましたが、1年間実施してみて、売れても月5万円ほどであり細々と継続していました。
  普通ならばそれで止めてしまうのですが、きのこ園は観光農園でありますので物を売るのみならずホームページの中にシイタケ狩りやバーベキューガーデン等楽しい状況を写し、リアル店舗が判るとお客さんが来てくれるようになりました。また、ホームページの仕掛けとして、ホームページの写しを持参すると5%割引をするなどして週末にはお客さんの増加となり、売れないけど見に来てくれる客が多くなりました。また、楽天市場を見たと言って来てくれた焼肉屋さんの見学では、「こんなに美味しいシイタケは初めて食べた」とプロの方にも評判を博しました。
  一度、楽天市場を利用して注文が来ると、その後は電話やメールによる注文で来ることとなり、楽天市場の売り上げは伸びないけれど、トータル的には楽天の出店料は十分にペイしており、止めずに続けてきました。
  ある時、楽天の担当者からプレゼントコーナーをやってみたらとのお勧めがあって、プレゼントはただの物貰いだろうとバカにしていましたが、いざ実施してみたら多くの方が来ていただき、余分な買い物までするなどの予想外の反響を得たところであります。

既存顧客はDM・FAX同報サービスできめ細かくフォロー
  お客様の関心を得るためにいろいろな方法を講じてきましたが、封書、はがきによるほか、一斉同報FAX(リクルート社FNX)による安さ・簡便さなどもあり、情報の価値は、紙で送るのが一番であると思っております。
  また、ネットのお客さんの年齢層は20代30代と若く、本当に通販を利用して年代を実感することができました。

  商売を継続していく上で、インターネットは無くてはならない状況で、今後もITを利用した経営をし、お客さんに喜ばれる美味しいシイタケを作っていきますので是非ご利用ください。
インターネット・FNXでの集客フロー図
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:1 (株)高知豊中技研   事例発表日:平成11年12月2日
事業内容:ガス関連機器製造
売上高:4億円 従業員数:44名 資本金:5000万円 設立:1990年
キーワード ガス関連機器製造、電子機器開発、
経営情報、購買、
業務データの利用、社内開発、情報共有、経理システム
情報を活用した経営革新  
株式会社高知豊中技研 URL:http://www1.odn.ne.jp/ktg/

(株)高知豊中技研 取締役 山中邦昭
プロフィール
(株)高知日産サービスを経て、1988年(株)高知豊中技研に入社。工場のセッティング及び工程管理、生産管理に携わる。1997年取締役就任と共に生産管理のシステム構築の推進役となる。社員一丸となって取り組み、現在ほぼ完成させている。
~経営者がリアルタイムに経営分析できることを目指して、情報システムを社内で開発~
ガス関連機器の製造メーカーである高知豊中技研では、製造にあたって各製品ごとの部品をセレクトするのに多大な間接工数が必要だった。情報システムの構築を決断し、業務の特殊性や将来性を考えて、あえて業者に外注せず社内での開発の道を選択した。スタート時には購入したソフトを使える人材さえいなかったが、それから、今日までの歩みはまさに手作り感覚。今後はその達成感とノウハウを強味に、システムのさらなるパワーアップを目指す。

■当社のシステム黎明期
当社は、平成2年6月設立、資本金5000万円、従業員数44名、事業内容としてはガス流量制御器及び関連部品の製造、電子機器等の開発をやっています。
当初、私どもが情報システムを手がけた目的は、作業効率のアップでした。我々受注メーカーは受注した製品の製造工程において、機種や部品の点数が非常に多く、部品展開に多くの複雑な計算を要していました。いろいろ計算するためのデータベースになる多くの資料を元に、電卓を使って人間が計算していかなくてはならない状況でした。この間接業務にコストが非常にかかり、これらをコンピュータにさせよう、業務システムを開発しようということになったのです。
最初のシステムはまだネットワークで結ばれておりませんでしたので、情報システムと呼べるような内容ではありませんでした。むしろ業務システム。現在は完全な生産システムとは言い切れないまでも情報システムとしての考え方が実現していて、この時の業務システムの延長線上にあると考えています。
まず、情報システム構築前の環境について。業務システムには、開発当時のMS-DOS上で動いていたデータベースソフトを使っています。ただし、OSはMS-DOSからWindows3.1、あるいは95と移行しつつあり、市販ソフトのオフィス関係のもの、例えばワープロや表計算などをWindows上でどんどん使っていました。業務システムと切り替えるためにはパソコンの再起動を行っていました。各パソコンはスタンドアロンであったために、パソコン上の情報はフロッピーディスクもしくはプリントアウトさせたペーパーでやりとりしていた、というのが現実です。
■情報システム構築を決断、社内で開発を選択
その頃、お客様から品質についての資料作成、製品のプロセス、請求がどうであったか、データ成績がどうであったか、というようなことを要求されることが増え、また発生した不良についての資料作成などにパソコンを使う機会が非常に増えて来ました。そこで、先ほどお話したようなシステム環境でしたが、1998年4月にOSにWindows95を使用して、ピア・ツー・ピア(サーバーを持たないネットワークで数台のマシンを接続するLAN構築手法)でありますが、ファイル共有型のネットワーク構築を行うことにしました。DOS版のデータベースソフトで使っていたものを全てこのWindows95のOS上で動くようにしました。
その際、この業務システムの開発を社内でするのか、社外に依頼するのか、という選択があり、社内でやろうということになったのです。使用するソフトをどういうものにするかなど問題は出てきましたが、市販ソフトを利用したほうが後々のメンテナンスを考えあわせれば得策ではないか、という判断をしまして、ACCESS(データベース開発用ソフト)というソフトを使用して社内で開発を開始しました。
社内での開発にあたり、使用するソフトについて従業員が習得にかかるコスト時間を懸念しました。しかし、業務内容が特殊なので業者に発注すると融通がきかなくなる、顧客の要求に答えるためには社内で柔軟かつ迅速な対応が必要である、ということを重視し決断しました。さらには、これまで構築している業務システムのノウハウがそのまま利用できる、開発に関わる社員は新しいソフトに対する技術を習得でき、スキルアップが図れる、これにより他業種への展開も可能になるのではないか、などのメリットも考えました。
■情報システム構築の目的
情報システムを構築するにあたって、次のような目的を掲げました。
・業務システムと資料作成を同じ環境(OS)で利用することにより、業務システムのデータを作成する資料に利用できるようにすること
・ネットワーク化により社内メールを利用した回覧、または共有フォルダに回覧文書をファイルしておくことで、情報の共有化を図ること
サーバーはWindows95をOSにした1台、クライアント側はWindows95を8台とした情報システムを構築しました。システムとしては生産及び購買システムを99年4月に稼働、サービス業務のためのサービスシステムは99年6月に稼働しました。
現在(99年12月)の情報システムの構成は、サーバーは同じでWindows95を1台、クライアントはWindows95を8台、Windows98を1台、さらに次の目的があり、そのためにWindowsNTを1台入れて現在開発中です。
■経営者がリアルタイムに経営分析できるように、来期に向けて開発中
現在、開発中ですが、4月以降はこういった形で動かしたいということについて、説明したいと思います。

システム概要

図「システム概要」に示したようなネットワークにするために、WindowsNTで開発を進めています。WindowsNTにする理由は、セキュリティは当然のことで、現状のシステムに経理部門を加えて購買・生産システム上のデータを経理ソフトに接続する考え方に基づいています。業務システム上のデータの有効利用を図り、なおかつ経理上での処理をリアルタイムで行うことによって、経営分析まで行えることを目標としています。経営状態のリアルタイムの把握ということが非常に重要な時代です。現在、当社でも経理はソフトを利用していますが、他の部門と全く接続していませんので、単独で処理しているのが現状です。例えば物を買いますと納入書が回ってきます。納入書に基づいて打ち込みをしていけば日次とまではいかなくても週次決算くらいはできるかと思うのですが、手直しが発生することを考えますと、請求書が回って来た後に確実にデータをインプットして月次計算を出すことで精一杯です。しかし、それでは経営者はリアルタイムの経営分析ができません。予算を組む、中期状況がどうだ、売上がどういうふうになる・・・そういうことが実際のところまだまだリアルタイムにほど遠い。
現在は、図「システム概要」に示す経理部門と経営陣の部分は繋がっていない状況です。生産指示は取引先から電子メール、または郵送、ファックス、宅配等で入って来ます。それらを全てに展開をし、生産・部材部門の管理、CS部門のサービスする情報、購買に繋がっています。また、共有化していかなければならない議事録や書類関連のデータ、こういったものを全部繋げていますので、生産そのものに関わる情報は全て連携しています。必要に応じてインターネットも利用しています。
ですから、現在開発中というのは、経理の部分と経営陣が判断する経営分析に使えるソフトの2つということです。
■導入効果と初期費用~一番かかったのは教育費用~普及には遊び心を入れて
情報システムを導入した効果については、直接売上増をもたらしているとは言えません。導入前と後で経費もたいして変わっていません。
しかし、当初に目的としていた間接工数については効果があったと思います。当初から生産に関わる間接人員はずっと1人ですが、この業務システムがなければ3~4人の増員が必要だったはずですから。(¥300000/月程度の削減)
それに、人間が電卓を叩いて計算をしたり、選択をしたりするのではないため、コンピュータのデータベースさえしっかりしていれば熟練者でなくても全て判断でき、計算ミスがありません。
先にお話しましたように私どもの製品は全て受注生産です。1台1台、流量も違えばガスの種類も違いますので、製品毎に600点くらいの部材から15点くらいをセレクトしますが、その際特殊な計算方式で割り出していかなくてはなりません。ある程度熟練した人間でないとできない仕事です。それがシステム導入により、社員教育の短縮、人件費の削減に効果が出ていると思います。
初期費用は約250万円。
内訳は、コンピュータ購入費、ソフト購入費。これらはそんなにかかりません。
一番大きな支出は教育でした。最初からこういうソフトが使える人材がいませんでしたので、専門学校や講習に行って勉強させました。社内開発を担当させる人材は中堅クラスから選びました。主任、係長等だいたい30歳前後で、生産現場のトップで仕事をしている人たちです。社内全体の普及には、遊び心を入れると若い世代がついてきます。インターネット、Eメールを使わせると非常に興味を示します。興味を示すと、どんどん入り込んできますから、教えなくてもある程度自分で学んで使えるようになります。そうなると、業務システムはリンクされていますから必然的に入ってくる環境になるわけです。年配の人には、上のほうから押しつけるのではなく、遊び心で覚えた若い社員たちに教えさせます。50歳くらいでコンピュータをいじったことのない者にも、20歳くらいの社員に責任を持って教えさせ、うまくいっています。
あとはランニングコスト(¥6000/月)。インターネットや電子メール使用にあたってのプロバイダーとの契約料、光熱費などです。
■来期のシステム構築では経営状態のリアルタイム把握を目指す
来期の情報システム構築による効果について(見込み)お話します。
購買システムのデータを即日で経理ソフトに接続していきますので、日次決算が可能になり、経営状態がまさにリアルタイムで把握、分析できます。サーバーをWindowsNTに移行するので、セキュリティをアップできるという効果もあります。インターネットによるウィルスなどの懸念も増えている現在、予防を含めたセキュリティも考えていかなくてはなりません。
費用としては160万円ほどと考えております。ランニングコストは変わらず、¥6000/月です。
これからさらに発展させた形でのシステム構築を推進していきたいと考えております。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:35 穴織カーボン(株)   事例発表日:平成12年12月19日
事業内容:カーボン製品一般製造
売上高:2億5000万円 従業員数:20名 資本金:4000万円 設立:1962年月
キーワード カーボン製品製造・販売、
商圏の拡大、少量多品種生産、
Webでの情報照会、インターネット販売
製造業におけるインターネットの活用方法
  

穴織カーボン(株) URL:http://www.anaori.co.jp/

穴織カーボン(株)取締役統括本部長 橋本和之氏
プロフィール

 1966年生まれ。京都産業大学法学部法律学科卒業後、㈱大阪銀行(現・近畿大阪銀行)に入社。99年、同行を退職し、穴織カーボン㈱に入社。その後、取締役に就任し現在にいたる。

~多品種少量の仕事を請け負う中小企業のキャパシティをインターネットで拡大~

 こつこつと物造りを行う誠実な中小企業というイメージだった穴織カーボン(株)が、その真摯な姿勢はそのままに、ITのいいところを取り入れてさらに発展を遂げている。大企業とも外国企業とも取引を行い、コンスタントに受注を得られているという。インターネットはツールとはいうものの、穴織カーボン(株)ではそのツールをどのように使いこなしているのだろうか。


■会社概要
代表取締役 穴織 英一
設立 1962年(昭和37年)
資本金 4,000万円
本社所在地 〒569-1131 大阪府高槻市郡家本町51-12TEL.0726-83-1392(代)FAX.0726-83-1397(CARBON BRUSH GROUP)FAX.0726-83-4883(EDM/GR GROUP)
営業品目 カーボンブラシ・自動搬送用集電ブラシ・ブラシホルダー・パンタグラフ・放電加工用グラファイト電極・カーボンシール・パッキン・メタル・ルツボ・耐熱治具・ヒーター・冶金用焼結型・半導体用純度カーボン部品・C/Cコンポジット・カーボンファイバー・他カーボン製品全般

■当社のインターネットへのきっかけ
  当社は、カーボンの製造、販売を行っています。カーボンというとカーボン紙を連想されるのですが、耐熱性の電気用、機械用の用途があり、半導体をはじめあらゆる方面で使われているものです。中でも当社が得意としているのは、モーター等のスリップリングに使うカーボンブラシの部分で、これは先代の社長が立ち上げたものです。来年で創業40周年を迎える、業界では老舗の企業です。10年前に現社長が就任したのですが、ちょうどその時期に金型に使う放電加工用のグラファイトの電極を手がけることになりました。
  現在ではこれらをインターネットで受注できるシステムを構築しています。最近ではゴルフクラブや釣竿に使われるカーボンファイバーも手がけています。
  仕事の形態は、多品種・少量の典型的な大阪の中小企業です。所在地は大阪の高槻で、従業員は20名弱です。このような会社がどのような経緯でインターネットと出会い、活用してきたのかをお話したいと思います。
  今から5年前、大阪のある弱電気メーカーからCADのデータのやりとりを電話回線で送れるようにしてほしいと依頼がありました。CADシステムとお客様のシステムを、専用回線を引いて直結させるというお話でした。ちょうど当社のハードがUNIXでISDN回線とCADを直結させていて、かなり画期的なことではありましたが、当時ではかなりコストがかかりましたので迷いました。しかし、これを導入することで今後安定的に仕事が得られるのなら、と導入を決断したのです。そのうちに、コンピュータ間の通信が世の中に出てきてEメールの走りのようなものが主流になり、やりとりをこれで、という話も出てきましたが、鮮明な画像を送ることができない状態の上、一通何円というコストがかかりましたので普及しませんでした。それから1年もしないうちに巷でもインターネットが話題に上がるようになりました。当社はベースがあったのですぐに取り入れてみました。

■ホームページで商圏がぐんと拡大。太平洋上の外国船からも受注。
  社内でのインターネットの活用法ですが、まず、得意先の調査・新規営業の資料集めです。そして、従業員の間からホームページを作ろうという声が上がり、カーボンの業界では一番になろうということで着手しました。従来の製造業のホームページは非常に堅苦しいものでしたので、私どもはそれを一新させようと思いました。最近では環境問題が騒がれているので製造業の方でも自然をイメージしたホームページのTOPが増えていますが、当時は私どものような業界では珍しいとかなり反響が大きかったものです。
  やがて大手企業、大学、各公共団体等から問い合わせが入りだし、注文に繋がっていきました。
  おもしろかったのは、シンガポールの船が太平洋上から問い合わせてきて、もうすぐ横浜港に着くがそこにモーターのブラシを届けてくれないか、と。これを見た時は社員全員で驚くのと同時に喜びいっぱいでした。今まででは考えられなかった商圏から問い合わせが入るという確信が持て、それが注文に繋がるという自信も持てました。
  そして次のホームページを考えていくにあたり、それほどの抵抗なく皆で話し合うようになりました。こういうものを作っていく時は、上からの一方的な話でなく、下からの作り上げを意識したほうがいいものを作れると思います。その時に従業員からの声で、インターネット上で直接注文のやりとりをしたい、社員が共有できるお客さんのデータベース(工程管理や納期の確認ができるもの)が欲しいという要望があり、それらをまとめて新しいホームページを作りました。要するに難しくて新しいことをすることがIT革命ではない、社内にあるものを一歩でもいいものにしていくことが一番大切なのです。
  当社のホームページを最初に見てアプローチしてきたのが大企業だと言いましたが、通常では大企業からのアプローチなどめったにありません。インターネットならではであり、今でも大企業からの問い合わせはかなりあります。

■インターネットで受注から社内工程管理までを行うシステム
  ホームページは時々変わっていないと2度と見てくれないので、頻繁に更新を行います。うちのシステムで一番評価されているのは受発注システムです。Web上で受発注と工程進捗の確認ができます。1度ご注文いただくとパスワードとCDを与えます。
  例えば、○×(株)様がカーボンブラシと放電加工用の電極グラファイトマスターを発注したとします。カーボンブラシの項目を見ていただくと、受注番号・注文いただいた材質・寸法・単価・数量・送金額・出荷状況・運送会社・運送会社の送り状番号まで記入されていて、もし届いてないということがあったらすぐ問い合わせができるようになっています。初めての方はゲストから始めます。
  2回目からはCDとパスワードを入れていただくと、○×(株)の先月分の注文状況が表示されます。細かい材質選択ができ寸法も自由値で入れられ、その組み合わせは天文学的な数字になるほどです。お客様はまずその細かい選択を決めて「確定」を押し、必要な数量と希望納期を入れて「見積」を押します。後は発注を待つばかりです。こちらでは「機能」で受注明細が見られ、社内では受注が入ると一気に製作伝票が起きるようになっています。「問い合わせ」を押すと、掲示板のように書けるようになっています。
  こうした多品種・少量の注文に対する対応が中心です。逆にいうと10個20個の製品のために営業マンを2人3人もおいておくと赤字になってしまいますから、インターネットといういい営業マンを得たと思っています。

■社内外で得られた成果は大きい
  今、私どもの新規のお客様の90%がWebからの問い合わせです。その入ってきた問い合わせの80%が仕事の成約までこぎ着けています。インターネット上に載せたことにより、世界中から24時間365日確実に仕事を確保できるという中小企業にとっては今まであり得なかったことが可能になりました。
  ただし、インターネットの取引は、極端にいえば顔も合わせないしどこに会社があるかもわからない状況で行うわけですから、信用力が大事です。この信用を1度失うともう2度とネットではやれないというくらい信用は大事です。
  社内工程の作業の成果としては、今まで手作業だったことがコンピュータを利用して簡素化し、作業者の手を煩わせないようになりました。技術者や昔ながらの職人は資料の整理をしてくれと言っても頭の中に入っていることが多く、資料を作ることは苦手という人がほとんどでしたが、コンピュータでアンケートのチェック方式のようにすれば今まで聞けなかったベテランからのノウハウの蓄積ができるメリットもあります。二次的効果として、労働時間やワークも全部できますので、当然、人事評価や給与査定などの作業者管理にも繋がります。当然、対外的には同業他社との差別化も図れます。

■インターネットを使いこなしてこそビジネスチャンスが広がる
  成功の秘訣は、まずインターネットを始めてみることです。ただし、「隣りの会社や取引先がホームページを持っているし、メールもやっているみたいだからやってみよう」というのでは、投資どころかマイナス投資です。そこからいいものは展開できません。何もかもやるのはむずかしいので、お客様を増やしたいとか、コストダウンしたいとか、1つの目標を持ってやっていくと、だんだんそれが物足りなくなって、そのうちに当社と同じレベルかそれを追い越すものができるようになります。よく「投資効果はどれくらいですか」と聞かれますが、これはコンセプトがないのと一緒ですから「そう聞くならもう少し考えてからにしたらどうですか」と応えています。インターネットはあくまでもツールであって、これが会社の主流になるものではありません。即投資効果云々ではなく、インターネットを入れたからには使いこなそう、使いこなしてビジネスにしようというスタンスの方が、やはり入れてよかったなという実感を持てると思います。
  大阪だけでなく近畿が今景気が大変悪いと言われていますが、こういったことをきっかけに躍進することができ、裾野が広がればいいと思いますので、是非ご検討いただき一緒に頑張っていきましょう。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:50 (株)九州システムアカデミー   事例発表日:平成12年10月17日
事業内容:ソフトハウス
売上高:不明 従業員数:76名 資本金:2億円 設立:1989年5月
キーワード ソフトハウス、

IT化の提言
情報技術の活用と企業経営
  

(株)九州システム・アカデミー URL:http://www.ksa-net.co.jp/

(株)九州システム・アカデミー コンサルタント 櫨川敏則氏
プロフィール

 九州大学卒業後、日本IBM入社。技術部門のシステム化、上流工程の業務分析やシステム構築などを手がける。昭和53年、中小企業診断士資格取得。平成12年より現職を兼任。

~自社の強み弱みを分析し、競争力の部分を磨いてIT戦略に活かす~

 九州システム・アカデミーは、九州地区のシステム開発で多数の実績を有する。東京地区に比べて遅れがちな地方のIT化、だが、着実に進めて成功している企業もある。その事例をご紹介いただいた。


■大分県IT化モデル事業、製造業の事例
  私は九州一円で製造業のお客様を中心に担当しています。中堅・中小企業が多いです。
今日はIT化の具体的な事例として、大分県の地域情報経済センターで行われたモデル事業をご紹介します。大分県においてもパソコン等のコンピュータを導入している会社が70%くらいありますが、本当にうまく使いこなしている企業が少ないという状況にあり、何とか活用していけるよう企画されたものです。大分県下の製造業1社、流通業1社を選び、そのうち、私は製造業の企業を担当しました。
  その企業は建築鉄骨業で、売上高25億円くらいの規模です。大手ゼネコンから受注し、見積をとって図面をもらい解析、手配、材料加工、と個別受注生産の体制で、安定した受注が確保されているのですが、利益率が非常に把握しにくい業種でもあります。そこに月2回程度訪問し、半年ほどかけて、お客様の経営分析、業務分析、それをバックアップするための情報システム計画、具体的なコンピュータシステムの発注、受注のお手伝い等、いわゆる情報部門の肩代わりをするような仕事を行いました。
  まずいちばん念頭においたのは、コンピュータは計算機の延長ではなく、経営の道具だということです。この認識が非常に重要で、多くのお客様は事務処理などをいかに省力化するかというところに観点をおきがちですが、それでは会社全体として仕事が繋がりません。この会社でも、個別受注でいったん受注したものをそこから資材手配、加工、外注と色々おこなって、1本の線で見えることはほとんどありませんでした。お客様から「納期はどうなっているんだ」と聞かれてもすぐ答えられないし、全体として売上と経費はわかっても、案件ごとにどれくらい儲かったかがわからないということで、ほとんど経営の情報がなかったのが現状でした。

■コンピュータという道具と、トップの意志が不可欠
  そこへ、コンピュータは道具という認識で、それを使って業務系、経営改善のための分析と実施を行いました。経営分析はもちろんですが、それを基に競合他社と比較して自社の強み弱みを分析し、なおかつその業界がどのように変わっていくかという分析も行いました。それがSWOT(strong weakness opportunity thread)で、業界あるいは企業が3年後、5年後に迎える環境変化をふまえてどのような部分に力点を置くべきかということを明確にし、それを実現するためにITをどのように使っていくかという目標をはっきりさせることです。
  そのためには、現場から上がってきた改善要求だけではなかなか実現できません。やはりトップの意志が重要です。競争力を高めるために業務をこう変える、コンピュータをこう活用するということを決定していただかないと、革新的な情報の使い方はできません。トップダウンとボトムアップの融合といいましょうか。現状業務の流れの分析や改善点の抽出は現場の方々から出てきますが、最終的には企業としての競争力を高めていくのはトップデシジョンが不可欠なのです。
  それから、具体的には参画するメンバーは設計から営業、資材、経理、原価計算などそれぞれの部門の方に入ってもらって、課題を全部出してもらいます。これをやってみると、意外と、営業さんは製造現場を知らない、逆に製造現場の方は営業の状況がわかっていない、経理は業務とどう繋がっているのかわからない、などのことが明らかになります。つまりみんなばらばらに仕事をしているということがわかるのです。これに対してセッション、会議形式を取り入れますと、トップがどういう方向に向かっているかを認識すると同時に、各部門がやっている仕事を理解し、自分のやった仕事が次の工程にどのような影響を与えているかもよくわかります。

■自社の競争力はどこに?
  もうひとつ大事なことは、取り組みの方法です。皆さん課題を持っていて、ITが役立ちそうだとわかっているのに、どういうふうに使えるかという方法論や具体的な案を持っていないケースがよくあります。失礼ながら大企業でもなかなか全体を見渡しながら情報の知識を持って進めていかれている方はいないのが現状です。そこで、外部の人間が入って、客観的な目つきで分析するのが有効な方法論だと思います。
  仕事のやり方は会社ごとに違います。もっといえば社員の数だけ仕事のやり方があるのでばらばらです。しかし、個人のノウハウでしか仕事が回らないというのではなく、できるだけ業界標準にあてはめていくことがポイントです。最近グローバルスタンダードと言われます。そのまま当てはめることはまだ無理があるかもしれませんが、ひとつの雛形として使うことはできるのではないかと思います。
  進め方としては、具体的な業種ごとのやり方と、自社の仕事のやり方を比べてみて、その差が優位性をもたらすものなのかという分析をします。薬品業界を例にしますと、生産管理の仕組みなどはわりと各社が情報を公開し共有しながら使えるところは使ってコストダウンをしていきましょう、という考え方です。では、そこで各企業の差を出すかというと、新製品の開発競争、中身の部分なのです。このようにできるだけ標準的なやり方でできるところはそれでやり、自分の会社の競争力はどこかを見極めてそれに対しては徹底して独自のやり方を追求していくことが必要だといえます。

■標準化できる部分、独自のやり方を追求する部分の見極めを
  各部門の話を聞いていき、例えばここの計算が大変だとか集計がめんどうだということまで、ひとつひとつをシステムに反映させるとなると、これは膨大なシステム機能になるわけです。ですから、営業は営業で、製造は製造で、やっている機能の1個1個についてそれが会社としてどう役だっているのか、付加価値をもたらしているのか、という視点で見直す必要があります。と同時に、今までの経験や先輩から教えられたやり方でやっているだけの独自のやり方なのかも見極め、会社として必要な機能は何かということを決めていくのです。最近話題のERPやサプライチェーンマネジメントにしても、企業全体の資源を有効に活用するためにその最適化を図るということがポイントで、会社として経営戦略のためにどのような機能が必要かを把握することが大事です。
  ERPを導入されているお客様の事例では、宮崎の延岡地区の企業ですが、化学品など各事業部ごとに19ほどあった工場をかなり統合化し、複数の工場でできるだけ機能を標準化し共通化した機能だけをシステム管理しています。そして、競争力を生み出している機能の部分をシステム化すると同時に、そこからはみ出した部分、つまりその事業部や部門が独自でやっているところに関しては、システムの要件を決める部門を設けてそこで要求を全社として取り込むかどうかの判定をします。それでOKになればもちろん全社の予算で開発しますが、事業部独自の要求の場合はその事業部が予算を持って行う、という仕組みになっています。どうぞ参考にしてください。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:48 (株)九州システムアカデミー   事例発表日:平成12年10月16日
事業内容:ソフトハウス
売上高:不明 従業員数:76名 資本金:2億円 設立:1989年5月
キーワード ソフトハウス、

IT化の提言
インターネットを経営に活かす
  

(株)九州システム・アカデミー URL:http://www.ksa-net.co.jp/

(株)九州システム・アカデミー 代表取締役副社長 高野博一氏
プロフィール

 福岡出身。関西大学卒業後、日本IBM(株)に入社。昭和57年より九州にて勤務されている。平成7年、九州システム・アカデミー代表取締役専務に就任後、平成10年に現職の副社長に就任。

~身近なところから始めるインターネット活用術~

 コンピュータに関わる仕事をし、コンピュータを仕事のツールとして使いこなしているIT業界そのものの人物である高野氏に、初歩から取り組めるインターネットの活用方法を語っていただいた。


■インターネットを何に使っているか
  当社は、福岡にあり、社員約70名、ソフトハウス、コンピュータのプログラムを作る会社です。まず、今日の講演にあたり、うちの社員10名をピックアップし、「どういうことにインターネットを利用していますか」というアンケートをEメールで行いました。その結果は次の通りで結構進んだ利用の仕方をしていると思います。
  ・ホテル予約
  ネットで予約すると料金が10~20%割引というところも出てきています。
  ・飛行機の空席紹介や予約
  インターネットなら24時間・年中無休体制
  ・交通機関の時刻表・ニュース、スポーツニュース・オリンピック速報・天気予報・出張時の地図・辞書がわり
  ・オンラインショッピング
  書籍購入(紀ノ国屋など)文具購入(アスクルなど)
  ・オークション・取引先ホームページ紹介・企業の資料取り寄せ
  ・技術情報紹介
  色々なところが無料公開しており、当社でも新しい案件のプログラム作成時などに活用しています。
  ・フリーソフトの情報入手やダウンロード
  ・各試験の情報収集、勉強
  ・インターネットバンキング・クレジットカード 

■従来の不可能を可能にするEビジネスの世界
  Eビジネスとは、リアルタイムに全世界同時に情報を入手できるインターネットを活用したものです。店舗なしでも、在庫なしでも、営業マンなしでも商売ができるメリットがあります。4、5年前までは、コンピュータの活用は、人がやっていたことをコンピュータが管理してスピードアップすることや管理精度を上げることが目的でした。しかし、Eビジネスの世界に入って画期的に違うのは、今まで全くできなかった商売の仕組み、ビジネスの仕組みを作り上げていけるということです。例えばアマゾンドットコムのようなビジネスは、今後もどんどん出てくると思います。
  それに追いつくためには、まずインターネットを自分で使えないとアイデアが浮かびません。そうして得たアイデアと、自分の商売を見ながら、あるいは周りの商売を見ながら色々なことを考えていくことが必要だと思います。
  まずはEメールを使いこなしましょう。もはやEメールはビジネスマナーという位置付けにあります。当社では、Eメールでお客様とのアポイントを取るようにしています。電話をして、詳しいことはあとでメールを見てくださいということもよくあります。Eメールの利用によりビジネスの情報をリアルタイムに共有しながら仕事ができるというわけです。IBMは全世界に約30万人の社員がいますが、アメリカ本社の会長から決算の翌日などに全社員あてに一斉にEメールが飛んできます。昨日発表した決算の数字に対して朝一のメールで会長が自分の言葉で語った内容ですから社員にとって感激があります。
  また、カーボンコピー機能といって、例えば会議録を出席した10人あてにメールで送る時にその部下あてにも写しを送っておけば、会議の状況が伝達できるというものもあります。他にも、転送機能、図面や表も添付して送信できる添付機能、ドラフト機能等も非常に有効な機能です。営業マンがお客様情報をコンピュータに登録して社員全員が共有できるSFA(セールスフォースオートメーション)も盛んです。要するに、色々な意味で情報を瞬時に伝達することによって社内の生産性を高め、同時にお客様や同業者の生産性も高めることができるといえるでしょう。

■インターネット活用でぐんと生産性向上
  私どもの業界では、特にメーカーとは、インターネットを使わないと基本的にはもう取引はしないという状況になっています。すでにファックスで取引している会社は、手間がかかってしょうがないという存在になってしまいます。当社は東京にも出張所があり、私は隔週ぐらいで行くのですが、福岡の本社でも東京でも案件はインターネットでやりとりしてチェックや指示ができます。発注もそこからそのままできます。
  また、情報を共有しながら共同で仕事を進めるグループウエアの形は、社内だけではなく、取引先、仕入先とも組んで行うところが増えています。協力会社とグループウエアを組みますと、顧客から見積依頼を受けた時に「あなたのところは1番と2番の見積を」「あなたのところは5番を」と各協力会社に依頼し、各社から上がったデータをコンピュータ上でソーティングすれば短時間で見積りができてしまいます。社内の提案書の類などはほとんど同じようなものを一部修正して使うケースも少なくありませんから、データベースあるいはサンプルとして持っていれば、何かの提案書を作成するにもスピードアップできます。
  それから、私はいつも携帯端末と携帯電話を持って回っているのですが、これさえあれば会社にいるのとほとんど同じ作業ができます。当社では3年間でパソコンを1人1台体制にしました。デスクトップで10万円前後、ノートPCで20万円前後というところですが、リースならせいぜい月に4,000円くらいのコストで生産性は格段に違います。私が今日ホテルに帰って、会社からのメッセージをすぐに見ることができるし、社員に指示を出すこともできます。
  当社では、社内掲示板も活用しています。掲示板をやっていますと色々な人が毎日見に来て、常時会社の中で仕事をしていない社員でも参加できます。ゼネコンさんなどで現場に1カ月滞在していて会社にいない方でも、掲示板で会社の様子がわかり、上司や同僚ともコミュニケーションがとれるなど、会社への帰属意識が持てます。休暇届け、フリートーク、チャットなどもあり出勤簿も電子化されています。プロジェクト状況表は、営業報告書のようなものです。
  当社では通常20~30のプロジェクトが動いているのですが、それぞれの状況をクリックすればすぐ見ることができます。会議室予約、社員のアドレス、社内規定、出張便利ガイドなど、さまざまな会社における情報が入っています。あるところから急に問い合わせが入って、Aさんがあの情報を持っているはずだという時に、Aさんからデータを送ってもらえばこちらでも対処できる仕組みもできています。つまり、どこででも会社の情報を常に持ち歩いている感じで仕事ができる環境が確立されているということになります。

■インターネットビジネスの好機到来
  インターネットビジネスのすすめについてお話します。こうしたことを行うシステムは今ではパソコン+社内システム(200~300万円)で十分にできます。これを5年前10年前に作ろうとしたら、数千万円、数億円かかったと思います。これほど安くシステムができ、インターネットビジネスを少ない投資で1人ででもできる時代になっているのです。システムはSOHO(Small Office Home Office)などに依頼すると安くやってくれるところがたくさんあります。期間は1カ月もあれば十分です。ということですから、社内でお考えの色々なビジネスを、例えばここから東京に向かって発信することもできる可能性が大いにあります。
  私の友人が行っているインターネットビジネスの事例をご紹介しましょう。魚釣りが好きだったので、釣り船の斡旋業をインターネットビジネスとしてやっています。九州各地の釣り船さんと契約し、インターネットで毎日さまざまな情報を流しています。どこでどういう魚が釣れているか、この船の船長はこういう特徴の人だということまで含めた釣り船紹介、天気予報など。ここ天草でどんな魚が釣れるかという情報も入っています。その情報を見るだけなら無料で、関心のある人は釣り船の予約をできるという仕組みです。会社は資本金1,000万円で株式会社にしましたが、システム投資は200万円程度です。このようなおもしろいビジネスも色々生まれてきていますし、中高年のユーザーも広がっています。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:19 金井度量衡(株)   事例発表日:平成12年9月8日
事業内容:計測機器販売
売上高:19億5000万円 従業員数:37名 資本金:3000万円 設立:1959年6月
キーワード 計測機器販売、
販売管理、
社員コンピュータ能力アップ、情報共有、情報伝達のスピードアップ、
取引先ネットワーク構築
情報ネットワークを活用した業務革新
  

金井度量衡(株) URL:http://www.kanai.co.jp/

金井度量衡(株)取締役 金井利郎氏

プロフィール

 金井度量衡(株)取締役として社内の情報化推進を率いる傍ら、各種のネットワーク研究会などでも活躍中。ファイナンシャルプランナー

~パソコン好きを活かし、試行錯誤を重ね自分たち流に使いやすいシステムづくりを展開~

 ハカリなどの計測機器を販売する企業、金井度量衡(株)は、新潟県内ではいち早くIT化への取り組みを図ってきた。コンピュータにおいてはマニアだと自称する同社取締役の金井氏が、情報化への取り組みの歩みを語る。数々の課題も次へのステップに活かして、使いやすい自社仕様を実現しつつある情報化戦略は興味深い。


■IT化の波は幅広い年齢層に広がっている
  ITという言葉が出てきたのは20年くらい前。確か、79年か80年の通産白書においてだと思います。
  パソコンの創世記といいましょうか、まだ学生だったビル・ゲイツがベーシックプログラムを開発してそれを日本のNECなどの大手コンピュータ企業に売り出した頃、その頃から私自身もコンピュータを模索し始め、ずっといじってきて技術的な面ではかなり詳しいと自負しています。加えて、経営という面においては、父が社長を務める会社で取締役として関わっています。
  まず、日本の現状として、森総理がITの旗振り役をしてくれていることは非常にうれしいことです。首相官邸のホームページによると、高齢者、リタイアした人たちの中にITを使いこなそうという動きがあるとのこと。
もうひとつ、新潟日報のホームページで、高校生が専用の掲示板で色々な情報を共有していくシステムの立ち上げのニュースがありました。これは携帯電話からもアクセスできるような仕組みで、学業、友だち、恋などの悩みを話し合っていけるものだそうです。
現代におけるIT化は着実に進んでいるといえましょう。

■情報化の基盤として、その企業なりの経営設計を
  冒頭、私がファイナンシャルプランナーの資格を取得したと紹介いただきましたが、ファイナンシャルプランナーは人生のライフプラン、お金に関する部分で色々な人生設計を作っていくのが役割です。これは企業においても必要で、企業の人生設計、特にお金の面でそれができていない企業があまりに多いというのが最近の私の感想です。
  こうした状況の中で、情報化を進めていくにあたり、経営者に対してこういうことをできないといけない、とか話してもなかなか受け止めてもらえずに悔しい思いをしまして、私自身が経営の勉強をしなくてはと発奮しました。それには世の中の仕組み、雇用の仕組み、財務の仕組みなどを一通りわからなくてはと考え、ファイナンシャルプランナー以外にも中小企業診断士や社会保険労務士にもチャレンジしています。まだまだ勉強の真っ最中ですが、経営を学んで、あらためて情報化への取り組みを見直していきたいと考えています。
  当社のシステムの紹介をします。サーバーはIBMのPC互換機です。当社は中小企業なのでなるべくお金をかけたくないということがあり、こうした手作りで、どこにでもあるパソコンをサーバーにしています。
  10年前にパソコンを初めて導入し、売上管理を当時はノベル社のNetWareというシステムで行っていました。その頃、出入りのシステム業者さんに、パソコンでLANを組むのは無理だと言われたのですが、私にパソコンの知識がありましたのでパソコンでやってくれと交渉して何とか入れることができました。
  その後、電子メール、インターネット、グループウエアと続けて展開していきました。そのようにパソコンベースで広げていくと安くできます。ベンダーさんなど専門家に言わせると、安かろう悪かろうだと釘をさされましたが、そういうことを試行錯誤しながらやってきました。
  96年に、ノーツでグループウエアを確立し、掲示板やメール、その他色々なワークフローを電子化しました。インターネットのホームページも早い段階から出してきました。
  当社は測量機械の販売・修理調整の部分で、ISO9002認証を全国で初めて取得しました。それには非常にたくさんの書類やマニュアルが要るのですが、そういったものにも電子メールやグループウエアを活用してきました。
  昨年、基幹システムの売上部分をバージョンアップして、ターミナルサーバーを導入しました。これは100台くらいあるパソコンがよく壊れてメンテナンスが大変なので、端末のほうにアクセスするだけのプログラムを入れておいて、売上の入力、入金の結果などを見られるシステムにしたものです。
  今年度からはモバイル化、つまり、携帯電話などに対応したシステムに入り始めているところです。


■情報ネットワークづくりによって目指す3つの向上とは
  当社の、情報ネットワークづくりの目的は次の3つです。
1)情報の共有&伝達のスピードアップ
 中小企業では、e-ビジネスと称してインターネットで売る商品があるか云々を考える前に、まず担当者と担当者の連絡をいかに早くするか、ファーストコンタクトをいかにするかが大切です。そういった意味で、今、携帯電話など色々なツールが出ていますが、それがまだ活かしきれていません。特に当社は商社ですから仕入先であるメーカー、担当者、サポートなど色々な部分が絡み、その連係を図るには情報システムの活用が効率的なのでこれを目指しています。
2)社員のコンピュータ能力のレベルアップ
 当社は5年前、Windows95が出た時に社員1人にパソコン1台の体制にし、グループウエアをやろうと社内一致団結して進めました。40代50代60代の中高年の世代にも高い投資ではありましたがパソコンを配りました。しかし、現在は半分くらいが壊れて埃をかぶっている状態です。しかし、今でも色々なところから新しい発想が生まれてきているので、能力をアップしてパソコン及びシステムを活用できるようにしたいと考えています。
3)取引先との付加価値ネットワークづくり
 97年、KDネットという会員制のネットワークができる仕組みを、ロータスのノーツが当時出たばかりで誰もやっていなかったのでそれを使って、関連会社とインターネットを通じて会員制のやりとりを始めました。最近は無料でできる掲示板や会員制のホームページが出てきているので、今になってフライングだった感はありますが、その経験を活かしネットワークを使って取引先との連係をスムーズにしようと考えています

■3つの拠点で情報共有できるLANシステム
  次に社内システムの紹介ですが、現在の社内システムは3種類あります。

  当社は新潟の他に、長岡と上越にも1店ずつ拠点があり、それらを電話回線によって繋いで全社的にLANを構築しています。各店に情報系のシステムのサーバーとして、ノーツサーバーが稼働しており、ユーザーネットを張り全部繋がっている格好です。
  最初の頃は、モデムでダイヤルアップという形で必要な時だけ繋ぐ方法でしたが、データが増えるにつれて大変になりフレームリレーで常時繋ぎました。これは当時フレームリレーが安かったからですが、安いものだと帯域保証がなく、夕方などのネットが込み合う時間帯になると不便なため、去年、基幹系を入れ替える時にこの回線もデジタルアクセスに置き換えました。
  現在は、上越─新潟間は64キロのデジタルアクセス、長岡─新潟間は128キロのデジタルアクセスを使っています。ノーツは各店常時繋がっている形になり、情報系のメールも全部ノーツで行なっています。
  基幹系は、基本的にデータプログラムとも新潟店のみに置いています。プログラム類は全てここ、SQLサーバーとターミナルサーバーの中にあり、新潟店も同じLANの中ですのでそのまま引っ張ってこれます。他の店は、端末のパ ソコンの中にアクセスプログラムをおき、ネットワーク越しに新潟店のサーバーの中に入って処理をしています。

■問題点をガラス張りにして意見を出し合える、グループウエアのメリット
  グループウエアはロータスノーツのR4.5を導入しています。現在はR5.0というものが出ていますが、機能的には現状のままで十分です。社内のお知らせは掲示板でやっています。例えば、機械の在庫状況、品質管理責任者からクレーム情報、レンタル切れの報告のない人がいます、など、QC的なことをどんどんノーツ上で会社から連絡を入れます。社員は一日一回これを見なくてはなりません。
  今まではお互いの店に対して良いことはともかく、悪いところを指摘したり、ここをこうしろ、などの意見は遠慮してお互いに言いませんでした。報告があっても一部の上司の中でだけ伝わっていました。それが、こうしてグループウエアになりどの部署がどのように悪いということが営業マンでも技術の人でも事務の人でもわかるようになりました。つまり、会社の問題点がある程度ガラス張りになったことがよかったと思います。
  また、当社では、営業、事務、技術、全部が日報を書くことになっていて、日報ページの下の部分に精算、仮受金、日当などの項目ありますが、お金を使ったら必ずここに記入しなければ精算はしません、というルールもつけました。
  電話の伝言メモも電子化しています。このきっかけは、電話の伝言メモを机の上に置いてもそのまま見ないで置かれていることが過去に何回もあったこと。電子化によって、電話がかかって来た時に本人がいなくても、このお客さんだったら自分でも対応できると他の社員が判断して進められる、といったことを可能にしたのです。これは新潟店のものが長岡店でも上越店でも見られるような仕組みになっています。情報のコミュニケーション、スピードアップの推進を補うひとつの簡単な手だてだと思います。
  当社が取得したISOのマニュアルや書類は非常に多く、各担当者に報告書を書かせるのですが、これも全部ノーツの中で書くことに決めています。ペーパーレスもひとつの成果になりますが、それよりも、直接の担当者でなくても見られる、お互いにチェックできる、誰が出してないかがわかる、などの面で大変役立っています。皆さんの会社でも実際の業務で紙の書類にハンコを押していく流れがありますが、それが一覧で見られるというのはよいと思います。
  クレーム処理についても全部電子化でのせました。当社で考えられるクレーム例としては修理に出した量りに誤差があったなどですが、それがクレームかクレームではないか、是正の必要があるかないか、なども全部情報を共有しています。

■まずはやってみなければIT化は何も始まらない
  まず問題点の心構えとして、パソコンのサポートについてお話します。パソコンは壊れやすいものなので、パソコンの台数が増えれば増えるほどサポートが増えるということになります。当社は一時期100台くらいのパソコンがありましたが、システム管理者の仕事ばかり増えて非常に大変でした。パソコンのサポートはひとつの大きな課題です。
  次に、パソコンが1人1台あったほうかいいかについて。これから始めようという人にはそうであったほうがよいと思います。情報リテラシー向上とか色々机上の空論で説明してもわからないので、実際に各自が使えたほうがよいと思います。当社では先ほど話したISOの報告書にしても、打ち込んでいるのはほとんど40代50代の人が主流ですし、中には60代のシルバー人材センターの人にお願いしているものもあります。もはや、昔の読み書き算盤と同じであったほうがいいものでしょう。ただ、うちでは費用的なこともあり、パソコンが壊れた場合のリプレイスは希望者だけにしています。
以上、私どものIT化についてお話してきましたが、言えるのはまず参加しなければ何も始まらないということです。
  そして、効率化か新ビジネスかという方向があるのですが、いくら効率化を進めてリストラをしても、新しいビジネスを始めなければこれから21世紀に生き残っていく企業にはなりえないと思います。新しいビジネスをやるために、パソコンを導入し情報化を進める。リストラばかりやっていたら会社がなくなってしまいます。国の場合でリストラをやってなくなったのがソ連ですから、そんなことにならないように、新しい何かをやるためにパソコン、ITを使っていけたらいいと思います。
  特におすすめは携帯電話とネットトレードです。ネットトレードは株式取引ですが、非常に身近で、かつ最先端のセキュリティシステムなどを駆使しているので、是非やってみるとよいと思います。手数料が営業マンだと1万円かかるものが千円でできたり、e-トレードでは10月から百円にすると言っています。e-ビジネスの最先端がわかるので、まずは体験してみてはいかがでしょうか。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:4 極東産機(株)   事例発表日:平成12年1月27日
事業内容:畳・襖生産機器・内装機器等製造
売上高:94億397万円
1997年9月
従業員数:320名 資本金:4億1500万円 設立:1948年10月
キーワード 自動化機器製造、省力化機器製造
自動倉庫、職人芸の自動化、生産管理、
CAD、CAM、ネットワーク構築
情報を活用した業務革新
  
極東産機株式会社 URL:http://www.kyokuto-sanki.co.jp

極東産機(株)代表取締役 頃安新
プロフィール
1931年1月、兵庫県生まれ。54年姫路工業大学卒。56年極東産機専務、69年より社長。67年日本技術センターを設立、社長を兼務。
龍野商工会議所副会頭、協同組合タツノハイテック理事長などを兼任。
中小企業庁長官賞、科学技術庁長官賞、黄綬褒章、その他各機関より表彰多数。
~情報技術が、熟練・経験の技をカバーし、新しいシステムを生み出す~
極東産機は、畳・襖・内装機器などの産業機械と、その情報システムを合わせて製造販売している。
コンピュータと関わりの深い事業を展開し続けてきた頃安氏は、柔らかな発想で関連業界や地域の活性化のリーダー役を担っている。20年近くに渡る氏のコンピュータとのかかわりと、情報化投資の具体的な事例を話していただいた。

■会社概要
私どもの会社の概要をお話します。極東産機(株)は資本金4億1500万円、従業員数320名、事業内容はインテリア関係の内装、工事用機器、畳や襖の生産機械、カーテン縫製装置等の製造、販売をしています。また、異業種交流融合化で生まれた分野の事業として食品機器、特殊産業機器、コンピュータのハード及びソフトの販売なども手がけています。
関連会社には(株)日本技術センターが姫路にあり、資本金3200万円、従業員数130名で、機械、電気、電子、コンピュータソフトの設計、エンジニアリング、技術者の人材派遣等をやっています。

■コンピュータとの関わり
私がコンピュータに関わったのは約20年前のこと。当時会社の売上が20億くらいで、コンピュータ会社の営業マンから、「これくらいの売上があるのならコンピュータを入れるべきだ」とすすめられてもまだ早いと思っていましたが、コンピュータメーカーに勤める友人の頼みで「断りきれない」という不純な動機でオフコンを入れたのです。最初のオフコンは売上と仕入の処理をする程度の簡単なものでした。
私どもは多角化、ハイテク化、情報化の3つのキーワードでやってきましたが、オフコン導入の2年後くらいに、今度はハイテク化のひとつとして畳を作る作業をコンピュータを使ってCAD、CAMで生産する装置を開発し、IBMのパソコン5550を採用し、顧客管理や経営管理のソフトも開発しました。
その販売を始めて3年もした頃、「日本の伝統的産業である畳業界でIBMのコンピュータを使ってやっている」と、IBMのアメリカ本社から私どものユーザーに5550の取材に来ました。スタッフは当地に20日間ほど滞在してビデオと雑誌掲載用の資料を作り上げました。随分PR費用もかけたようで、効果が大きかったと聞きましたが、これがきっかけとなり私どもはIBMの一次特約店としてコンピュータの販売や畳店業務用パッケージソフトの販売を始めました。
その頃SISという言葉がはやりましたが、IBMからコンピュータ導入をすすめられ、伊豆の研修所で勉強させていただきました。そこで初めてコンピュータを経営戦略にどう使うべきかなどの知識を得て、今度は私なりに勉強して、戦略として使っていこうという目的を持って取り組んだわけです。

■オンライン化で営業所開設が容易に
当時、立石電機さんが出していた「パソコン50作戦」という本にヒントを得て、50台は無理でも12台入れて「パソコン12作戦」でいろんな所で使えるようにしよう。これをきっかけに営業所を全部繋ごうと考えました。
専用回線を引くお金がないので、NTTのパケット回線を使って本社と工場と4つの営業所を繋ぎ、オンライン化を図りました。
オンライン化したメリットは営業所が作りやすいということです。今までは営業所をひとつ作るとなると、簿記のわかる女性を一人と、責任者を置いていましたが、オンライン化となってからはパソコンのキーボードの叩ける女性を1名採用し、後は現地採用で二人もいればOKということになりました。
その後2、3年のうちに6営業所を増やし、現在の10営業所体制ができたのですが、これはパソコン戦略のおかげです。
1カ所、営業所を作ると月3000万円くらいの売上が上がる、という調子で会社は順調に発展を遂げ、売上高は50億円規模になりました。
導入当初のエピソードをひとつ。データの容量が大きくなるとストップしてしまうトラブルが発生し、NTTとIBMで修理にあたったがなかなか直らない。すると、IBMのアメリカ本社からハードのプロとソフトのプロが2人派遣され、これが大学を出て2年という若者達でした。そんな経験の浅い者が難しい修理に派遣されるなど、日本では考えられないことです。やはり大学教育のあり方の違いでしょうか。社会に出てすぐ通用するような教育といいますか。彼等は1週間で見事に直して帰国しました。当時、同じトラブルが日本ではもうひとつ広島で、また西ドイツでも起こったと聞きましたが、原因はよくわかりません。龍野局の機械が古いことも影響したのかもしれません。

■情報化投資の決断
関連会社の日本技術センターでは昭和61年に本社社屋を新築しました。
その時からCAD導入の話が出ていて、いろいろ検討していたのですが、ある会社から3000万円程度のCADシステムが提案されている中で、IBMからは1億8000万円もするロッキード社が開発したCADAM(キャダム)というCADシステムを勧められていました。それで、私なりに熱心に勉強し、大学の信頼できるアメリカ通の恩師に相談したり、社内でも討議したが、とてもそんな高額な投資は無理だという流れだったのを、私が強引に押し切った形で、結局IBMに決めました。
1億6000万円の建物を建てて、その中の1室に入るシステムが1億8000万円、月々のリース料が380万円。誰が考えても無理だというようなことを敢えてやりましたが、みんなが一所懸命やってくれて2年で採算がとれるようになり、4年後には次の機種に取り替え、最初に導入した古いCADは、CADがまだなかった極東産機で活用することにしました。日本技術センターの本社ビルは第1ビル、第2ビルと2つにまたがっているので、それぞれのビルと阪神支店と東京支店、この4カ所をオンライン化しています。社内はLANで直接繋いで、ファイルサーバー、Notesサーバー等を置いて、132台のクライアントが接続されています。阪神支店と東京支店はWANですがインターネットを利用するというシステムで今は稼働しています。
こうしてCADベースで新しい取り引きが大日本スクリーン、森精機、村田機械、神戸製鋼等と始まりました。うちの会社は規模は小さいけれどもCADAMというベースで話ができるということが強みでした。今振り返ると、思い切ったことをやったなと思いますが、やってよかったと実感しています。
今は3次元CADの勉強をしようと、日本技術センターでも取り組んでいます。

■光ファイバーによるデジタル専用回線KS-NET構築
その後、極東産機においては、パケット回線では通信量が少ないということで、光ファイバーでデジタル専用回線を使って極東ネットワークというのを作りました。
工場、営業所、事務部門、研究開発本部、2つの配送センターが各拠点内の構内LAN(事務処理LAN、設計LAN)および拠点間のネットワークで繋がれています。本社と関東事業所にIBMホストコンピュータを分散配置し、不測の事態に備えたデュアルシステムを採用し、拠点間は光ファイバーの専用回線で全部繋いでいます。また、メールサーバー、FAXサーバー、インターネットのドメインサーバーを完備し、自社でホームページを立ち上げるとともに、今200人くらいの社員にメールアドレスを持たせて、社内連絡に使っています。営業マンは、各自ノートパソコンを携帯して、出張先から本社サーバーへアクセスして、営業指示を受けたり営業報告を行ったりしています。
光ファイバーによる専用回線ですから、どこに電話をかけるにもうちの光ファイバーの通っている所、つまり相手先に最寄りの営業所からかければその金額だけで済みます。本社から札幌のお客さんにかける場合でも、本社-札幌間の電話代は高いが、本社から札幌営業所に繋げてそこからかければ市内通話料金で済むよう合理化につなげているのです。
ここまでにするのに、約15年かかっています。
では、15年間でここまでやるのにいくら情報技術投資したかといいますと、リース料、設備をキャッシュで購入したものの償却、社内でソフトを作る人件費など含めて、7億5千万くらいです。
今では、だいたい売上の1%くらいを情報投資にしてやっていけたらいいと思っています。

■自動ラック倉庫による配送体制の確立
こうして当社の情報化の体制を整えてきたわけですが、有効活用はこれからだと思っています。
まず配送関係。平成5年に本社内に自動ラックの立体倉庫を作りました。スタッカークレーンが何台か配置され約2000アイテムの商品をそこに詰めて、全国どこからでも注文があれば即発送します。北海道以外はだいたい翌日到着というシステムを作りました。自動ラックを動かすのは各営業所の女性事務員で、代理店やお客さんから来た注文をパソコンに打ち込むと、スタッカークレーンが自動的に動いて品物を取り出してきて、それを用意しておけば夜、配送業者が来て持っていくわけです。
ところが、平成7年の阪神大震災の時に3日ほど品物が送れない状況になったことから、平成8年に関東にも配送センターを設けました。ミラーリングといって、関西と関東それぞれの配送センターの片方がだめになったらもう片方から自動的に全国へ送れる仕組みになっています。
工場における生産管理は非常にうまいものを作りました。

■生産管理システムCAMCSの構築
生産に対する情報化の取組みとしては、生産現場の稼働状況、機械加工の工場、組立工場、設計など、CAMCS(キャムクス)という端末を置いて、それが現場の状況を全部キャッチして事務所のコンピュータにデータを入れ原価計算から工程管理まで全てができるシステムを構築しています。
これは、自社内だけでなく、その後商品としても好評をいただき、兵庫県内では10数社、他にも大阪、京都などで採用していただいております。

■畳製造業への導入 ~コンピュータが職人の世界を革命~
今、特に力を入れているのは業界への特化です。当社のお得意先である全国の内装業者さん、畳屋さんでは、後継ぎがいなくてやめざるをえないところが出てきています。そういう所にコンピュータをひとつ入れることでがらっと考え方を変えることができます。
まず、コンピュータによって営業、顧客管理をやり、チラシ作成をやり、計画を立てて経営管理もやります。それから、そのコンピュータで部屋の割り付けをして畳の図面を描き(CAD)、そのデータを光ファイバーで送り機械を動かす(CAM)という一環した畳製造のシステムを開発し畳屋さんに導入しています。畳の職人さんは5年10年やらなくては一人前にはなれません。寸法を図るにも何寸、何尺、何分という世界です。このいちばん小さい単位が1分(約3ミリ)、それより小さい目盛りはありません。それで非常に正確な品物を作るのですから大変です。畳は1畳ごとに全部違います。大掃除で畳をあげた時、入れる順番を間違えたら畳が入らなくなったという経験があるかと思います。敷居にあたっている部分が微妙にゆがんでいたりしますから畳職人の技が必要でした。畳がピタッと入るように作るには経験と勘と熟練が必要となるわけです。それを、私どもでは、特種な測定器を使って何畳の部屋でも0.3ミリの単位で測れて、それをコンピュータに差し込んで操作すればCADで図面ができるようにしたのです。このシステムがあれば、たとえば息子さんが高校卒業して後を継ぐと言ったら、1週間研修を受ければもうそれできちんと仕事がこなせるのです。
鉄工所では旋盤工、フライス工のベテラン職人さんが一番給料が高かったものです。それが今では高校を卒業して研修すればNC旋盤、NCフライス、マシニングセンターを3台くらい使ってこなしています。当社がそれと同じシステムを、畳業界で開発したわけで、つまり、今まで経験、熟練、勘がなければできないとされていた部分をコンピュータとメカトロ技術に置き換えていくことを、今私どもがやっているわけです。襖業界、カーテン業界、内装業界、食品業界でも同様のことをやりつつあります。

■新規事業への取組みの一例
龍野市で異業種交流会(14社)を作り、融合化に発展し、(協)龍野ハイテックを作りました。龍野の地場産業は醤油と素麺ですから、それらがどんどん売れるようにということで、うどん・素麺のダシを自動調合するディスペンサー、素麺をゆでる機械を作って、融合化共同事業団で優秀製品賞を受賞しました。この事業化を当社が受け持ってやっています。
更に今では機種が増え、味噌汁を作る機械、コーヒーのディスペンサー、タコヤキが自動的にできる機械、ボタンひとつで3種類のラーメンのスープができる機械などができています。一例ですが、ダイエー、ジャスコでは、今まで人が変わると味が変わって困っていたが、これなら人が変わっても安心だと評価していただいています。

■情報技術の活用はトップの決断が不可欠
情報技術の活用をどのようにしていくか、について当社が取組んでいることを申し上げます。
まず、これまで投資したものが現在どのくらいの経費でどのくらい成果をあげているかを徹底的に計算し、有効活用することが大切です。
当社では現在インターネットと組み合わせた新しいシステムに取り組んでいて、ソフトも完成して、4月から何カ所かで稼働させてみる予定です。こうした新しいビジネスモデル(ネットビジネス手法も含めて)が日本でも特許をとれるよう、特許庁が1月7日に公表しました。私はかねがね、アメリカではビジネスモデルの特許が600くらい取れていると聞いているのに日本はどうしてできないのか不満に思っていました。今回、早速に弁理士に特許申請の手続きを依頼して出願を終りました。
当社のネットビジネスは、一般の消費者から受注する所が受注webという端末を持ち、材料を供給する所が供給webの端末を持ち、施工する業者は施工webを持つという形をとり、その中央にwebサーバーがあってこれらを管理するというものです。3者が寄ってそれぞれの弱点を補いこの管理webで全てをやってしまおうということを考えています。なぜ、私どもがやるかと言ったら、私どものお客さんに仕事をうまく安定的に供給するためなのです。そうすればお客さんがどんどん繁栄していくことになります。私どもの畳店のお客さんは全部コンピュータを持っていますので、インターネットを使用し、極東ネットに繋がせています。そして、至る所でコンピュータのセミナーをやっており、コンピュータを使って商売することをお客さんに身につけてもらっています。このようにして、私どもとお客さんが一緒に発展していける方向を目指しているのです。
情報化により産業構造が大きく変わります。そこで大切なのはリーダーシップ、トップの決断です。私がやってきたパソコン12作戦、CAD導入、ネットワーク構築、ネットワークビジネスを作る、これらは全てトップの決断なくしてできません。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:40 久米繊維工業(株)   事例発表日:平成12年11月29日
事業内容:Tシャツ製造・販売
売上高:12億4151万円
1999年6月
従業員数:59名 資本金:3億円 設立:1960年7月
キーワード Tシャツ製造・販売、
顧客支援広報サービス、
インターネット販売、ネット通信簿社会、メールマガジン
社長がパソコン1台からはじめる企業革新
  

久米繊維工業(株) URL: http://www.t-galaxy.com/

久米繊維工業(株)代表取締役社長 久米信行氏
プロフィール

 慶応大学卒。1991年久米繊維工業(株)へ入社。同年(株)FP総研を設立。94年久米繊維工業(株)の代表取締役に就任。95年にはTシャツギャラクシー(株)(現・Tギャラクシードットコム(株))を設立し、同事業により97年日経インターネットアワード賞を受賞する。

~中小企業の社長だからこそ可能なネットビジネスの時代~

 Tシャツのネット販売を行う会社をはじめ、いくつもの経営を行う久米氏は、ドットコム企業の旗手としても知られ、マスコミ取材を多く受けるほか、講演や原稿執筆も数多くこなしている。大企業より中小企業にチャンスというネット時代の現状、氏の事業の内容、可能性などを語っていただく中に、新しい時代の芽が見いだせる。


■スモールビジネスこそインターネットに適している
  ナスダックの大暴落や、アマゾンドットコムが大赤字で株価を下げ続けるなどの状況の今、ネットビジネスはもう終わったのではないかと言われるほどです。しかし、実はアメリカでも今日の演題に掲げたように、社長一人でパソコンを使ってやっている個人ビジネス、あるいは中小ビジネスは、有名企業ではないし売上規模も小さいですが、その5割以上が黒字、儲かっているということです。私自身もやってみて、そのようなスモールビジネスこそインターネットの真骨頂ではないかと思いますので、今日はそんなお話をしたいと思います。
  当社は、Tシャツ製造販売会社で下図のようなグループで構成されています。


  繊維は不況業種の代名詞で、8~9割が輸入となり、ユニクロという一大勢力が登場して大変なのですが、私どもは今でも国内製造で生き残っています。これは先代である父の功績でもあるのですが、13~15年前にFAXが登場した時点で新しい形で販路が開拓できるのでは、と考えて新会社を作ったのです。そして、10枚という少ないロットでもFAXまたは電話でオーダーをいただければ翌日にはもう届くという、今はやりのアスクルのTシャツ版のような商売をして、お客様を2,000社、2,500社と拡げたおかげで、今日も事業を継続しています。さらに、値段の安い中国製品を扱う会社、プリント会社も持っています。今日の本題に関わるTギャラクシードットコムという会社は、インターネットを使って個人に1枚でもお作りするという事業をしていて、月商は1,200万円程度と当グループ全体から見れば数%ながら、3割4割と伸びているところで、既存の商売とだいぶ違います。今は繊維というだけで銀行では貸し渋りの対象なのですが、ドットコムカンパニーがあればそれを評価してもらえるということもあります。

■ネット通信簿の上位を目指せ
  私が5年来パソコン通信、インターネットにふれてきて、実感しているのは、今後、5年、10年してくると世の中はどうなるかと考えたとき、ネット通信簿社会になるだろうということです。これは、お客様に、作っている人、売っている人の情報が全てガラス張りで筒抜けになる社会です。具体的には、例えば「Tシャツ」で検索するだけである地域におけるTシャツメーカーが全て出てくる。その中で企業間だと信用第一だから帝国バンクデータで高得点順とか、自己資本比率の高い順とか、生産キャパシティが大きい順、ISO14001を取得しているなど、お客様の望む順番で並べて見ることができます。さらには、その上位5社なり10社に印をすると相見積ボタンを押すだけで見積が取れるようになるでしょうし、在庫一覧をのぞけるようにもなるかもしれません。これは中小企業にはメリットが大きいでしょう。ネット通信簿で見つけてもらえることによって、広告をかけなくても、営業をかけなくても、探してもらえる可能性があるわけです。いい商品・サービスを提供している企業には福音となるでしょう。
  ネットで販売というと、個人向けの通販の話ばかり出てきますが、私は企業間の調達こそ本流だと考えています。現に、IBMでは今年中に100%インターネット上で調達を出す、すなわち電話・FAXはもうしないと言っていますし、アメリカの自動車メーカーのビッグ3が一緒に市場を作ることも始められました。ということで、企業間取引はネット通信簿を見ながら取引されることだと思います。そこでおもしろいのは、大企業に不利なところが多々あるということです。今まで財産だと思っていた営業網がインターネット時代には無用の長物どころかお荷物になってしまうような、資産の負債化が起こります。ただし、実業がないネットビジネスはほとんど失敗しているわけで、ほどほどの実業があって基盤があって、それでいてあまり縛られるものがない中小企業は非常にいいポジションにいるといえましょう。

■ホームページ作成の前に、社長がリーダーとなって企業改革をすべき
  ネット対応というとすぐホームページ作成と思いがちですが、その前にやるべきことがあります。それは、ネット通信簿であるジャンルにおいて、いかに上位に表示されるかということです。そのためには、事業領域をかなり絞り込んでいくこと、ニッチを狙うこと、販売経路や調達先も絞り込むことが必要です。全ての人にあまねく何か売ろうというのはインターネットでは非常にむずかしい世界で、これは鳴り物入りで始まったコンビニ系のネット販売がほとんどうまくいっていないのを見てもわかることです。また、インターネット時代には、なんでもかんでも自分たちで持つというよりは、餅は餅屋に任せて自分たちの強みのあるところ以外はやらないのが賢い選択です。そのコスト構造こそがネット通信簿で上位にいくコツだと思います。財務諸表をよくすることも重要なことです。特に法人の場合は与信が厳しいので自己資本比率を高くすることなどが必要になりますが、そうするとキャッシュフロー重視、よけいな負債は持たない、という筋肉質の財務体質にしないとネット通信簿の上には行けません。さらに、ネット時代には、現金即時決済がかなり主流になってくるのでそれに対処すべきです。そこで、私たちは3年かかりましたが、支払手形、割引手形をなくしました。これらは全てリストラということです。
  そして、何よりも中小企業の場合は、社長自身の情報力が決め手になります。失敗例が多いネット通販の中で、成功しているところを見ると、ほとんど優秀な社長、店長自らがメールを出しています。ここでも稟議などが多い組織構造の大企業に比べて身軽な中小企業は有利です。社長は社内組織に向けてでなく、お客様や調達先に向けてメッセージを発信していればいいのです。メールマガジンの発行もおすすめです。ここで重要なのは、深刻なクレームやリクエストがいち早く社長のところに飛ぶ仕組みづくりです。社長自身が血も凍るようなクレームメールがきた時に、すぐ対処できることが大事なのです。つまり、社長や営業部長がお客様への迅速な対応をできる体制にした上で、トップページに社長直通アドレスをつけておけばいいのです。



  また、電子市場やシステム運用を代行してくれるプロを頼んで、自分たちはなるべくお金をかけないこともポイントです。E-○○○とか、という市場が多々ありますから、中小企業はそれを活用すればいいのです。そこに自分たちの商品カタログ、会社案内をうまく載せることで取引ができるかもしれません。私どももホームページを一所懸命に作っていますが、将来的には業種ごとの市場に当社のTシャツのカタログを載せて、そこから飛んでくる見積情報を、在庫を見ながら処理していくような商売の仕方になると思います。これからは中小企業においてはオフコン、パソコンサーバーなどを自社で持つ時代ではなく、データセンターなどを活用すべきです。お金をかけずにPRし、システム運用代行業を用いて、最新鋭のIT技術を使う、その中心になるのが社長なのです。中小企業の社長とは、一人何役もの仕事をこなすものですが、ネットを使えばさらにそのキャパが広がるのです。

■パソコン1台で拡げた可能性の例
  では、私が実際にパソコン1台でやって効果をあげた例をいくつか掲げましょう。
1) ブレーキ - 法人与信データ
繊維業界は倒産が非常に多く、取引先の審査のために作成したものです。ニフティサーブや帝国データバンクのホームページに繋げて、1件1,000円で企業情報をとることもやりました。評点何点以上だったら手形でもいい、何点以上なら掛けでもいい、何点以上なら月商の1割まで与信枠を作る、などコンピュータに全部入れたのです。
2) ハンドル - 一日一通の異業種交流メール
インターネットを5年前ぐらいからやっている人はどの業種でもアンテナが立っている人が多く、そういう人たちと毎日メールで無料の異業種交流会のようなものをやっています。業種も立場もさまざまな人の新鮮な意見を聞くことで、新しい発見、チャンスが得られます。
3) ネットを使ったファイナンシャルプランニングの会社
かつて証券会社にいた経験があり、ネットの中で匿名で本当の情報を流すことをしています。去年のネット証券解禁以来、色々な仕事が舞い込むようになりました。

■Tシャツのネットビジネスから夢は広がるばかり
  では、本業のTシャツの話をしましょう。メーカーなのになぜ面倒な個人向けの情報発信を始めたかというと、お客様は情報が増えれば増えるほどわがままになります。ブランドを着て喜ぶという時代が終わってしまったからです。ブランドでも時代遅れなら千円でも買わない、むしろ自分でオリジナルのTシャツを作ったほうが楽しい、それだったら2千円でも払うよと。さらに、インターネット上で、自分でTシャツの店を作って売る人が出始めました。これを私たちは「生活者革命」と呼んでいるのですが、新しい市場としてできてくるにも関わらず、残念ながら当社も業界も対応していなかったので、インターネットを使って旗振りをしようと考えたのです。また、もともと下請に近い商売でしたから当社のことは知られていませんでしたが、インターネット時代は業界の外の人たちもダイレクトに注文をくださる時代ですから、その人たちに当社はまだ国内でTシャツを作っていますとアピールする必要もあったわけです。そこでホームページを作っておくと、戦略的なパートナーがどんどん見つかったり、新しいTシャツのお店が見つかったりということがありました。
  私がいちばん興味を持っているのは、顧客支援広報サービスです。これは、Tシャツでおもしろいものを作ってくれるお客様の作品をホームページに載せることで、私どもはただの下請屋ではなく情報広告のお手伝いをしているわけですね。もちろん無料でかまいません、私たちのところへ来てくれるきっかけになってくれればよいと思っています。
  よくある会社案内とカタログを載せただけのホームページを作って全くアクセスが来ない時期を体験し、やがて、インターネットの場合は情報を出せば出すほど帰ってくる、何もしないで待っていても誰も来ない、と発見しました。そこで売る前に週刊誌のようなTシャツの専門誌を作り、毎週ちょっとずつ情報を出すようにしました。プレゼント企画も交えたりして、リピーターを増やしています。最初はなかなか売れなくても、本業との相乗効果で考えたら十分ペイすると思います。私どもは取材をされたり、取材したりということも大いに活用しています。ホームページは一度に100万円かけて作っておしまいより、毎月数万円ずつかけて少しずつ作っていって、気が付いたら百科事典になっているようなものを目指したいと考えます。
  実際の運営方法は、自分でシステムを持つ必要はありません。レンタルで安いもの、その時々でいちばん安くて早いものを使えばいいと思います。そして、システムにお金をかけない代わりに、毎月5万、10万でいいからプレゼントにするほうが効果があると思います。物流決済はヤマト運輸さんを使って、代引きもお願いしています。
  今後の展開としては、今までの相乗効果型から、自主販売を充実させていきたいと思っています。グループ企業の久米繊維やサンワプリントもホームページを立ち上げて、新しいサービスをしたいと思います。そして、今はほとんど手作りのホームページですが、ビジネスモデル特許の出願ラッシュが終わって来年秋頃には誰がどんなカードを持っているのかが明らかになりますから、その時期に一番強いカードを持っている人と組んで自動的なシステムを確立したいと考えています。
  お客様が私どもの在庫を見てオーダーできるような仕組みにしたいですね。さらに次のステップとして、Tシャツ屋だと夏だけの商売ですから、文具屋、鞄屋、冬物屋などの在庫を持って自分で生産しているようなメーカーと連合を組み、新しい取り組みを図ろうと思います。他にサードパーティーロジスティクスと言われているような物流専門業者とか決済業者と組めば、大企業にも勝るような仕組みが作れるのではないかと考えています。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:3 (株)喜多屋   事例発表日:平成12年1月25日
事業内容:酒類製造
売上高:18億500万円
1999年6月
従業員数:61名 資本金:2000万円 設立:1951年1月
キーワード 酒造業、
営業支援、給与計算、経理処理の短縮、在庫管理、財務会計、販売管理、
バーコード、パッケージ利用、ハンディターミナル
情報を活用した業務革新
(株)喜多屋 URL:http://www.kitaya.co.jp

(株)喜多屋 代表取締役 木下宏太郎
プロフィール
昭和62年東京大学農学部卒業、宝酒造株式会社を経て、平成4年に喜多屋に入社。平成6年まで国税庁醸造試験所にて2年3ヶ月の研修を受ける。平成11年10月、喜多屋代表取締役に就任。
~伝統と慣習の色の濃い酒造業においてシステム化を推進~
江戸文政年間から酒造業を営む老舗・喜多屋の7代目として創業以来の経営理念や品質に対するこだわりは大切に継承しつつ、経営においては情報化という新しい風を吹き込んでいるのが木下社長である。酒造りは伝統のある世界だけに、蔵の中に今も残る習慣や受け継がれてきたやり方が根を張っている部分が少なくない。一見、システム化とマッチしないようなイメージのある独特の業界において、どのような情報化を進めてこられたのか、興味がわき上がる。

■会社概要
企業名
株式会社 喜多屋
設立
昭和26年1月
代表者
木下宏太郎
資本金
2,000万円
業種
酒造業
従業員数
61人
創業
江戸時代文政年間
(1818~30年)
年間売上高
18億500万円
(平成11年6月)
事業所
本社、福岡営業所、東京営業所、筑後工場、福島酒造(株)(子会社)
製造商品
清酒、焼酎、発酵調味料(酒みりん)、リキュール、甘酒等
URL
http://www.kitaya.co.jp


■取り扱いデータ量
商品点数
通常月 240アイテム Max(12月)270アイテム
顧客数
900社
伝票枚数
売上; 平均80枚/日 Max350枚/日
経理; 平均50枚/日 Max500枚/日
月末在庫
平均20000c/s


■新システム導入の経緯
・オフコンによる販売、財務、給与の管理システムを利用していたが、導入後7年近くになり陳腐化していたので新システムへのリプレースを計画。2000年問題の解決。
・新システムの本稼動開始を平成9年10月(ボトリング・倉庫・出荷事務所が入った新工場が竣功するタイミング)に設定し約15ヶ月前から計画を開始。
・(財)福岡県中小企業振興公社の情報化支援アドバイザー事業を利用。

■老舗を変えるコンピュータ世代の若き経営者
講演をお引き受けするにあたり、優れた情報システムを使いこなしている多くの企業があるの中で、私どものような小さな会社の話でいいのだろうかと思いましたが、みなさんのイメージの中で恐らく造り酒屋は、情報化、コンピュータ化から最も遠いところに位置するのではないか、そういう会社の話というのはある意味では、まだ小さいシンプルなシステムですから多くの方に応用が利き、また参考になる点もあるのではないか、と考えお引き受けしました。
当社は、江戸文政年間の創業で、創業者である初代が酒造業を始めるにあたり、お酒という商品を通して多くの喜びを伝えたい、そういう喜びを分かち合うような仕事をしたい、という理念を打ち出し、喜多屋という屋号をつけました。それが今日でも社名と酒銘になっています。
清酒から始まった会社でありますが、現在の取扱商品は、焼酎、発酵調味料、リキュール、甘酒等幅広く、容量も様々ありますので通常商品は240アイテムほどあります。12月はこれにお歳暮のギフトセットが加わりますので取扱商品は270アイテムほどに増えます。またこの時期は忘年会等の宴会シーズンでもあり一番の繁忙期です。取引先も900社程ありますから、伝票処理及び在庫出荷管理はかなり大変になります。
今回ご紹介する当社のシステムは、平成9年10月に立ち上げたものです。
私は大学ではバイオテクノロジーを学んでおりましたが、技術系ということもあって、多少なりともパソコンには親しんできました。今回の話の本題に入る前に、パソコンを使い、システムを作っていく上で私なりに大切にしているポイントを3つ掲げたいと思います。
・あまり肩肘を張らない。大上段に構えない。
自分が必要と思うことが出来ればいいと考えます。OSも、アプリケーションも、ハードも、ものすごい勢いで進歩していますから、全部把握しようなどと思ったら把握した頃にはもう次のバージョンに上がっている。という状況になってしまいます。ですから、経営者として何が必要か、何が優先か、必要なことがきちんとできていればいい、と考えましょう。
・必要十分なものにする。(1の延長線上)
今はいらないけどこんな機能も将来は使うかもしれないな、などとあまり先を考えないことです。特に中小企業ではコストパフォーマンスが非常に重要ですから、情報システムにいくらでもお金をかけられるわけではありません。今現在何が必要であるか、それを第一に考えましょう。
ハードもソフトも先頭切って一番新しいものを買うより、半歩くらい引いたほうがいい場合もあります。出たてのものはどうしてもトラブルが発生しやすいので安定性という点からも、また価格面からも半歩ぐらい引いたほうがいいと思います。
・ 何でも自分で解決しようと考えるのではなく、わからないことは人に聞く、という方法が問題解決には早道だと思います。
しかし誰にでも聞けばいいというものではありません。ゴルフと同じで教えたがる人は沢山いますが、ヘタな人に聞くとかえって混乱してしまいます。相手を選んで、エキスパートの人に聞くようにしましょう。もちろんある程度まで自分で勉強しておく必要はありますが、自分の専門領域外のこともありますので、そういうところは専門家に聞いたほうが結局は早いのではないかと思います。
以上は学生時代から今日までの私のコンピュータとの関わり方の方針で、これが今回のシステム構築にもベースにになっています。

■従来型システムの問題点
当然のごとく昔はオフコンを使っていましたが、2000年問題もあり新システム稼働のタイミングを、ボトリングや製品倉庫関係の新工場を平成9年10月に竣工させるのに合わせて、およそ15カ月くらい前(平成8年7月)からシステム全てのハード、ソフトをやり直そうということになりました。
それには専門家に聞くという意図で、(財)福岡県中小企業振興公社の情報化支援アドバイザー事業を利用しました。また私は(財)福岡県中小企業振興公社の食品交流プラザという異業種交流の会に以前から参加しておりまして、自分のところの業種だけで考えていますと視野が狭くなりますから、できるだけ異業種の方のお知恵を拝借したい、私たちの業界では全然知らないことでもよその業界では取りあげられていることも多いので、幅広くアドバイスをいただきたいと言う意味でも情報化支援アドバイザー事業を利用しようと考えた次第です。
従来型システムについて一番大きい問題点は在庫管理でした。当社の取扱商品には酒税がかかりますが、蔵出し課税といって当社の敷地から出荷されて出ていく時に初めて税金がかけられます。従って在庫は保税物資であり在庫が狂うことは許されません。そのためにこれまで在庫のチェック、間違いの訂正に膨大な時間がかかっていました。「まあいいや、在庫を合わせておけば」という訳にはいかず、どこで間違ったのか徹底的に調べなくてはなりません。ですから、間違いが多ければ多いほど、バカにならないほどの時間が取られていたのです。
特に12月の繁忙期など大変な状況になります。いくら残業しても追いつかないので、これはもはや人間の力だけに頼るのでは無理です。システムを見直して根本的に解決する必要がありました。それが最も重要なポイントでした。
また、古いシステムではデータの処理能力と記憶容量が十分ではありませんでしたので、主要な情報だけをまとめて紙に出力して、データをシステムの外に出していました。営業マンが、売上情報等を加工しようとしてもいちいちエクセルに入力しなくてはなりませんし、今日は朝からいくら売上があるかということはその日の夕方にコンピュータを締めないとわからない状態でした。
またコンピュータ上の在庫数量は前日夕方閉めた時点のもで、倉庫に行って数えればとりあえず今の在庫はわかりますが、それがもう受注が入っている在庫か、まだこれから売ることができる在庫なのか、リアルタイムではわからないのです。例えば緊急の商談が入り、200ケース必要だという時に、ここにある在庫の200ケースを出していいのかわからないのです。これでは営業はどうすればいいかわかりません。そういう面も改善したいと思いました。
それから経営トップとしては当然、経営の舵取りをするにあたって月次決算が欲しいのですが、その作成に時間がかかっていました。これにもたもた時間がかかっているようでは、経営上よろしくありません。いかに早く月次決算を出せるかが重要なのです。

■新システムは必要十分かつリアルタイムがポイント
こうした問題点の解決を目標に、新システム導入のコンセプトとして、必要十分なシステムを、ということを掲げました。まず今必要なことを実現する。その必要十分であるということは、将来それに付け足すことが容易に出来るよう拡張性に優れたものでもある必要があります。即ちカスタムメイドではなく、広く普及しているOS上で動くパッケージソフトであることが大事です。幸い、長年お付き合いのあるソフト屋さんが、私どもと取り組んできたことをベースにして酒税がきちんと処理できるパッケージソフト「三酒の神器」、「ハイ!こちら経理課」(発売元:株式会社エフ・シー・エス)をすでに発売していましたので、それをベースに多少の手直しでできました。
 新システムの基本コンセプト
今必要としていることを実現出来ればよい。将来に備えた余分な(無駄な)機能は持たない。必要十分なシステムを作る。業務の必要に応じた拡張性に優れたもの。
伝票処理だけのシステムではなく、営業や経理でデータを活用できるシステム。過去のオフコンシステムのように、マシンルームに閉じこめたシステムにはしない。
ペーパーレスシステムを目指したものとする。帳票に出力したものを別の紙に整理し直すことは排除する。
データは生データをデータベース化すること。集計して元データを消すことはしない。
出力帳票、分析図などは、固定プログラムを全て用意するのではなく、定常的に利用するものだけを用意する。分析用は表計算に取り込める形を用意すればよい。
顧客要求に即時対応できるようにする。
在庫管理上のミスを根本的に解決すること。ハンディターミナルの利用。

さらに新システムでは、営業データを戦略的に活用できるものであること、バーコード利用のハンディターミナルで在庫出荷管理を行い、リアルタイムで顧客要求に対応出来るものであることを求めました。
新システム導入時に何よりも大切なのは、どうしたいのか、という経営トップの意志であることは言うまでもありません。しかし、トップダウンのみで進めると現場がついてこないで、システムが宝の持ち腐れになる危険性をはらみます。トップダウンとボトムアップを何度も繰り返すことによって、緻密な青写真を練り上げることが重要ではないかと思います。
(財)福岡県中小企業振興公社の情報化支援アドバイザー制度でご指導いただいたアドバイザーには、青写真づくりの段階から現場に深く入り込んでいただき、大変ありがたく思いました。例えば12月の繁忙期に、わざわざ早朝や夕方の出荷状況を把握に来てもっらたり、その都度問題に応じて現場で共に対処していただいたことにより、非常にスムーズに青写真ができました。
  新システムの概要
(1) 財務会計
酒税法に基づいた企業会計システムとする。
仕訳伝票の登録は複合仕訳可能とする。
仕訳データを集約しないで、そのまま原データとして保管できること。
出力レポートは画面参照が可能であること。
主要出力レポート
日計算、仕訳チェックリスト、総勘定元帳、現金出納帳 等
(2) 販売管理
リアルタイムで売り上げ状況が把握できること。
極力リアルタイムで受注分は出庫指示ができること。
出庫指示の日付の予約が可能であること。
売掛回収については一債権ごとの個別消込とする。
主要出力レポート
売上明細表、売上集計表、売掛残高一覧表 等
(3) 営業支援
販売管理で蓄積されたデータをもとにしたレポーティングシステムである。
販売履歴をデータベースに原データのまま蓄積しておき、非定型処理のためにデータをパソコンの表計算ソフトなどへ転送できるようにする。
(4) 在庫管理
出庫指示をハンディターミナルに受け取る。
出庫指示データにしたがって、出庫すべき瓶またはケースのバーコードをスキャンすることで、間違いをチェックし、同時にハンディターミナルに出庫データを貯える。
出庫済みデータはハンディターミナルから倉庫の端末/PCに接続して、基幹データベースへ出庫済みデータを転送するとともに、出荷伝票と運送会社の荷札(路線便の場合)をプリンターから出力する。
在庫チェック表をシステムから出力して、それと実在庫の整合チェックを行い、結果をデータベースへと転送する。
(5) 給与計算

システムの概要をお話しします。財務会計は当たり前のものが並んでいると思います。主要出力レポートもほとんどの会社で必要なものです。販売管理についてはリアルタイムで売上が把握できる。また、同じくリアルタイムで在庫の把握ができることを求めました。営業支援では、営業マンが自分の全得意先のセールスデータを容易に加工・分析出来ることを求めました。例えば「ある商品の直近3ヶ月の前年対比」等をマウスによる簡便な操作で参照できる。これらも今日多くの企業で当たり前のものでしょう。
在庫管理に関しては、先ほどバーコードを使ってのハンディターミナル管理と申しましたが、これは伝票出力を最後にするというやり方に変えたわけです。ダンボールには、商品と同じJANコードを入れています。通常は、受注データをコンピュータに入力して何らかの形で整理されて伝票が出てくる。何枚複写かの伝票の1枚が在庫係に回りそれを見てピッキングする、というやり方だと思います。これを今回は、ハンディターミナルを用いることよりシステム上で全部チェックし終わって初めて伝票を出力する、そういうシステムに改めた訳です。

■具体的なシステムの流れとメリットの数々
システム構成はご覧のように、大変小さくシンプルなシステムです。



本社と福岡営業所をISDN回線(音声、画像、その他のデータすべてをデジタル信号化し、高度情報通信サービスを可能にするデジタル通信ネットワーク)でつないで、本社のコンピュータ室にサーバーが1台、クライアントは本社(コンピュータ室・事務室・倉庫出荷事務所)と福岡営業所を合わせて8台ありオンライン化されています。倉庫出荷事務所は、整然と商品が並べられた倉庫の一部にあり、クライアントが1台とハンディターミナルとプリンターが繋がっています。
新システムを導入する前のやり方ですと、先に伝票出力して後からピッキングするので、人為的なエラーが起きていました。720ミリリットルと900ミリリットル等の商品のサイズや、バラかケースか、純米吟醸なのか純米酒なのか、など似たようなものもあってさまざまなヒューマンエラーが起こるのです。結果的に在庫を数えるとコンピュータの在庫表と合わないということが起きていました。
バカみたいな話ですが、従来は前日の夕方にトラックごとに正の字を書いて商品の集計していました。朝、追加の注文が入るとまた集計し直さなくてはならないので、その間トラックはいつまでも出られないのです。お得意先もそれがわかっているから、まだ追加注文できるだろうと見越して、朝、当日出荷の注文をしてくるというような悪循環でした。結局、非常に効率の悪い配送のやり方になっていました。




システム導入後には、まずコンピュータの中で、方面ごとにトラック単位で全部集計して出荷指示書が出ます。全ての商品にバーコードが入っていてハンディターミナルによって品種と数量をチェックする。卸店へパレット単位でのまとまった出荷もあれば、小さな単位の出荷もありますので、ハンディの画面上でパレット、ケース、バラを切り換えてスキャンする形にしています。こうしてチェックしてシステム上でOKがでたらそこで初めて伝票が出力されて出荷となります。出庫済みデータは伝票出力される段階でコンピュータ上の在庫表から引き落とされます。



新システムによる改善効果として、まず在庫管理上での違算はほぼ皆無になりました。若干残る出荷上のミスは、電話での受注時の聞き間違いです。この対処方法も考えております。ともかく新システムにより違算がほぼなくなった結果、繁忙期の12月でも、この在庫管理をしている管理部物流課では1日平均2時間の残業が減り人件費的にも大変助かります。社員たちにとっても以前は夜の11時近くまで残業していたので肉体的にも負担が大きかったし、精神的なプレッシャーも大きかったはずです。それが解消されたことはかなりの改善成果であるといえます。
営業データに関しては、現場の営業で必要なもの、課長部長レベルで必要なもの、私のレベルで必要なもの、いずれも全部簡単なマウス操作だけで取り出せますから、営業関係、企画関係の会議が非常に進めやすくスピーディに行えるようになりました。会議にムダな時間をかけたくありませんからこれは非常によい効果でした。
月次決算は管理部の人数を1名減らした上で、稼働日でおよそ7日短縮できました。まだ蔵内での酒造りの酒税事務や半製品の棚卸し等がシステム化されておらず、ネックになっていて、月初から実働10日程かかっていますので、この部分も来期までにOA化するつもりでいます。優れたパッケージソフトがありますので、それを使えばだいたい月初から3,4日ぐらいで月次決算ができると考えています。やはりそれくらいのスピードは必要ですね。

■FAX-OCRを導入
まだ酒税法の制約とか、得意先の都合とかがあり、小売店様との直接取引もある関係でなかなかそこまで行かないのですが、将来的には、インターネット等を使ってe-コマースをと考えています。
今およそ受注の60%がFAX、営業マンが取引先を回る時にもらって来る注文が30%、電話で受ける注文が10%です。FAX-OCR(手書き伝票などをFAX送信するだけでOCR自動認識機能を用いてセンターのコンピュータにデータを登録するシステム。受発注業務を中心に各種業務の省力化に最適)のデモンストレーションを見ると、価格も安くなったし、精度もものすごく上がってきていますので、すでに機器とソフトを導入しまして来月から本稼働させるよう準備中です。得意先にお願いしてゆけば、FAXによる注文は今より増えて75~80%くらいまで上げられるのではないかと思いますので、一層の省力化と、受注段階でのミスを大幅に軽減することが可能となるでしょう。
それら一連のことをやる間に、当社では今、主に管理部門の人員を減らしています。人を減らした上でのシステム化でなければ意味がありません。省力化が進めば、そこで浮いた人員をインターネットweb等を戦略的に使うために配置するなど、より質の高い組織に作り替えていくこともできると思います。限られた人員でいい仕事をしていく上では、やはりこういう情報化投資は欠かせないのではないでしょうか。私どもには間違いなくはっきりと変化が現れてきています。
今後も自分たちだけで考えずに、ITSSPなど公的機関のアドバイザー制度を利用していきたいと思っています。公的な支援を利用することは是非お勧めしたいです。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:25 (株)喜多屋   事例発表日:平成12年10月6日
事業内容:酒類製造
売上高:18億500万円
1999年6月
従業員数:61名 資本金:2000万円 設立:1951年1月
キーワード 酒造業、
営業支援、給与計算、経理処理の短縮、在庫管理、財務会計、販売管理、
バーコード、パッケージ利用、ハンディターミナル
情報を活用した業務革新
  

(株)喜多屋 URL:http://www.kitaya.co.jp/

(株)喜多屋 代表取締役 木下宏太郎氏
プロフィール

 昭和62年東京大学農学部卒業後、宝酒造株式会社を経て、平成4年に喜多屋に入社。平成6年まで国税庁醸造試験所にて研修を受けた後、平成11年10月、喜多屋代表取締役社長に就任。

~複雑な酒税のかかる商品も、IT活用で効率的で確実な販売在庫管理~

 規制緩和が進み新しい価値観が生まれる時代の風を読み取り、IT化の重要性を認識していた木下氏。この若き経営者は、戦略的情報活用の原理ともいえるトップ主導型を遂行し見事に業務改革を推進している。正の字で出荷数を計算していたレベルから端末によるスキャンなど、一新したシステムとその効果を伺ってみた。


■老舗の造り酒屋にもITが必要な時代
  喜多屋は江戸時代創業、180年の歴史を有する造り酒屋で、福岡県八女市にあり、清酒、焼酎、みりんなどの発酵調味料を生産しています。皆さんにとって、造り酒屋とIT、おそらくイメージ的に結びつかないのではないでしょうか。
  今の日本の社会状況は、規制緩和の流れがどんどん進んだ結果、競争が促進されています。それぞれの会社が真の意味でのリストラ、事業内容の再構築を進めて、より強い企業に生まれ変わっていかなければ、21世紀に生き延びることは容易ではありません。したがって、私どものような老舗の造り酒屋であっても、このITを使うことにより、業務内容を革新していく経営判断をより早めていくことが必要なのです。
  IT、ITといっても何をすればいいの?と感じている方が中小企業には多いと思いますが、当たり前の日常業務もよく考察すれば、ITを使って大いに革新していけるものとして当社の事例をお話します。

■トップを中心に進めるIT化
  当社はメーカーですから、流通関係に比べると扱う伝票も商品アイテムも少ないほうですが、それでも、清酒、焼酎、調味料と基本的に3ジャンルを手がけていますので、それなりのデータ量になります。
商品点数: 通常月 240アイテム  最大(12月)270アイテム
顧客数: 900社
伝票枚数: 売上;平均80枚/日  最大350枚/日
経理;平均50枚/日  最大500枚/日
月末在庫: 平均20,000c/s  
取り扱いデータ量

  システム導入のきっかけは、まず、以前から使っていたオフコンがあまりにも陳腐化し、2000年問題もあったので、思い切ってソフトもハードも全部取り替えようと思ったことです。
当時、ボトリング関係、出荷関係、製品倉庫、出荷事務所などに関わる部門の設備投資を、平成9年10月に立ち上げる予定で進めていました。コンピュータ関連もそれにタイミングをあわせようと、その15カ月前から計画をスタートさせました。(財)福岡県中小企業振興公社の情報化支援アドバイザー事業の制度を利用しました。
  当社の創業者以来の家憲に「主人自ら酒造るべし」とあり、私も大学ではバイオを学び、会社では社員と同じような作業服を着て現場によく入っています。同様のことはIT投資にも、営業にも企画にも全ていえることだと思います。トップがどれだけの情熱をもって深く現場に入り込んでいくか。それが中間管理職にも末端の社員の取り組みにも影響を与えます。ですから、私を中心にこのIT投資を進めていきました。

■社内の問題点を把握し、その解決にITを活用する流れで
  まず、当社において問題点がどこにあるのか、中間管理職、現場も含めてヒヤリングをしました。在庫の間違いが多い、これが問題点の最たるものでした。似たような商品があるので間違えてしまうのです。我々が売っている商品は酒税という特別な税金がかけられています。酒税は敷地を出る時にかけられるもので、倉庫の中にある時は国税の保税物資です。在庫が足りないということは国税がどこかに消えてなくなるということで、絶対に許されません。徹底的に究明して合わせなくてはならないのですが、これが実に大変なことでした。まして、12月はいちばんの繁忙期で、通常月の倍くらいの売上があり、こうした中で在庫が狂っていたらえらいことです。また、昔の古いオフコンではデータの記憶容量が不十分で処理速度も遅いため、基本的な諸表を作ったら、それを紙にして出していました。するとデータの加工ができません。売上状況もよく把握できません。1日の、例えば午後2時半の時点で今日はいくら売れているのか、在庫はいくつあるのか、ということがすぐにはわかりません。月次決算も遅く、9月の試算表ができあがるのが10月下旬という状況でした。
  こうした問題点をふまえて、情報化投資の基本コンセプトとして、今必要なことを実現できればよい、将来に備えた無駄な機能はいらない、必要になったら追加すれば良い、つまり、必要十分なシステムを作ることとしました。それには拡張性に優れていなくてはなりませんから、カスタムメイドよりもパッケージソフトの活用を選択しました。酒税のような特殊な税金がついてまわる世界でも、さまざまなパッケージソフトがあります。さらに、いかに顧客要望にリアルタイムに近い形で応えられるか、経営判断を迅速に下せるシステムであり情報を戦略的に活用できるものであるか、などを考慮してコンセプトが煮詰まりました。

■システム的に徹底管理した新・受注出荷体制
  最も大きな問題点であった在庫管理、在庫出荷管理について、以前はどうだったか、また、それをどう克服したかをお話します。
  以前は、受注を入力した伝票が複写になっていて、手元用、在庫係用、得意先の受領書などになります。同時に日時更新の在庫表が出ます。倉庫ではこの複写伝票を見ながらピッキングしてトラックに積みます。こういう状況ではどうしても、純米酒と純米吟醸酒を間違えたり、ケースとバラを間違えたりという、ヒューマンエラーが生じます。さらに、前日の夕方には一応、出荷準備が整っているにも関わらず、お客さんはトラックがすぐ出ないことを知っていて、当日の朝に注文を出すからそこでまた数えなおさなければなりません。これは悪循環でした。



  これをどう改めたかというと、最初にコンピュータの中で全部出荷商品の仕分けをします。得意先も方面も全部コードをつけ、締めの時間をきっちり守り、出荷事務所にオンラインで端末をつないでおきます。端末はハンディターミナルでこの画面上でも全部出荷表示が出ますが、もうひとつ確認のための出荷指示書を一覧表の形で出します。倉庫では、指示に従ってピッキングするたびにスキャンします。つまりハンディターミナルを使って品種、数量をチェックし、ピーとOKが出たらトラックに積みます。システム的に間違いがないことをチェックしてから伝票出力しますので、間違えようがありません。これにより、仕事が非常に楽になり、ミスもなく前向きに回っていけるようになりました。



  こうして在庫管理がきっちりうまくいくようになると、管理部物流課は最繁忙期の12月では1日2時間の残業が減りました。以前は連日午後11時過ぎまでかかっていたことが2時間も早く帰れるようになったので社員は喜び、会社も余分な残業代を払わなくていいので助かります。
販売管理や営業などで必要なデータは、コードの打ち込みとマウス操作だけで簡単に出てくるようになり、それを活用して精度の高い商談ができるようになりました。会議も中身が深まり、おかげさまで業績は好調です。
  月次決算は稼働日で10日ぐらいで出せるようになり、従来に比べて7日ほど短縮できましたが、最低でも稼働日1週間以内に出したいと考えています。実は試算表作成を遅らせるネックは醸造部門にありました。さまざまな原料の棚卸し、中間的なもろみ、発酵途中のもの、原酒、精製途中のものなど、さまざまな段階の半製品があって、しかもこれらは全部酒税法にのっとり国税当局に提出しなければならない記載義務がありますので、どうしても手間がかかるのです。しかし、この点も探してみますと優秀なパッケージがありましたので早速導入しました。

■ファックスOCR、ホームページ、ネット販売など新たな取り組み
  受注から出荷までシステム的に管理できてもまだミスがありました。その原因はファックスの受注時の読み間違い、電話による受注時の聞き間違いです。解決法としていちばん良いのは、インターネットを使ったBtoBですが、まだまだ現状は難しい状況です。そこでファックスOCRを9月から開始したところです。ファックスというアナログデータを、OCRという画像でテキストデータに変換するもので、自動的にコンピュータに取り込むことができます。今、順次、お得意先にご案内して導入を推進しています。
  今後の大きな課題は、ホームページ、BtoB、BtoCにどう取り組んでいくのか、だと思います。ホームページは、特に中小企業にとっては、経営トップのメッセージを発信するのに非常に優れたメディアだと思います。当社のホームページは基本的に私が作成しています。Webマスターは社長の私ということです。お酒は嗜好品、メーカー数もたくさんあるので、特に熱心な方はその蔵がどのような姿勢で取り組んでいるのか、それが酒質にも現れてきますので、そのことに当然関心が高いのです。私は生の言葉で喜多屋の取り組み姿勢を訴えています。蔵人の紹介、原料の米づくりの様子、大吟醸の変化の様子など、さまざまな情報を掲載しています。ホームページ上で田植えから収穫まで見せてきた玄米は清酒、純米焼酎にしていきますし、場合によってはこれをネット上で限定販売することも考えています。一般的なメイン商品についてはネット販売もすでに始めています。
  BtoCは中抜きで流通経費を安くし、良い商品を安く消費者に届けることに効果があると認識されています。今現在のBtoCの市場はわずか3800億円、全消費の0.1%です。向こう4、5年で20倍くらいになると言われますが、それでも2%です。やがては10%にもなりましょうが、自分たちの取扱い商品はそのなかでどうなのか、ここが重要でしょう。諸外国に比べて物流コストが高い日本では、酒類のように重くてかさばり単価が比較的安い商品は、ネット上にのりやすいとは言えません。また、一般的な消費者では、今日飲みたいから今日買うという購買行動が多いことを考えても、酒類ではBtoCでの販売が市場の大部分を占めるようになるとは思えません。そうであれば、既存流通に対する配慮が重要になるだろうと思います。当社では、あえてネット上での注文に対してのマージンを酒販店さんに払っています。酒販店は感激して、喜多屋の商品をさらに売ろうと努力してくれます。また、独自のホームページや電子モール等のネット上で、私どもの商品を売ってくれるようにもなります。喜多屋という社名は、たくさんの喜びを共有しようという理念から始まっているのですから、今後も流通の皆さんとの共存共栄を考えた方がメリットは大きいと考えています。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:49 関西カーゴ軽自動車運送協同組合連合会   事例発表日:平成12年12月14日
事業内容:運送業
売上高:不明 従業員数:47名
(組合員)
資本金:不明 設立:1985年9月
キーワード 運送業、物流子会社の再編成、物流の隙間産業、

カーナビ
運送業界におけるIT戦略化事例

関西カーゴ軽自動車運送協同組合連合会

関西カーゴ軽自動車運送協同組合連合会 代表理事 小川勝生氏
プロフィール
1961年 大谷高校卒業後 電機材料専門商社入社
1981年 軽自動車運送業を開始後、関西を中心に軽自動車運送協同組合を設立
1999年 関西カーゴ軽自動車運送協同組合連合会設立
2000年 中国カーゴ軽自動車運送協同組合設立。現在に至る
~物流はより利便性追求、より柔軟な体制が求められている。だからこそIT活用を~

 軽自動車の赤帽運送サービス業、というと物流の一端を担う定番。しかし、ここにも新しい物流の流れが起こり、大きく変化を遂げている。その現状と未来構想を語っていただいた。


■組織概要
組織名 京都カーゴ軽自動車運送共同組合
住所 京都市下京区中堂寺壬生川町10
TEL:075-344-0881 FAX:075-344-0883
設立 昭和60年9月20日
代表者 理事長 小川 勝生
組合員数 47名(従業員140名 関西250名)
関西カーゴ連合会
参加組合
阪神カーゴ軽自動車運送協同組合滋賀カーゴ軽自動車運送協同組合中国カーゴ、中国カーゴ岡山支部

■軽運送の信用力強化を目指し、組合を発足
  私どもは、インターネットをバリバリやってとか、ITをガンガン使って、という業界ではなく、どちらかというとアナログの業界です。その中で、私どもがやってきたことをお話することがひとつの情報提供になるのかなと思います。
  まず、当社の概要と事業内容をお話します。私は25年前に電気材料の専門商社を脱サラしました。そのきっかけは、電気材料は現場に合わせて届けなければならないので非常に忙しく、注文に対して納期遅れも日常茶飯事でした。ある時、前から頼まれていた品物をメーカーが遅れて大変な問題になった折に、軽運送のパイオニアである赤帽さんがその荷物を持ってきたことです。それで事なきを得たのですが、私が今まで思っていたのとは違う運送というものに気が付きました。その時の会社にずっと勤めていても社長になれるわけでもいないので"運送"というものを勉強して開業したのです。
  当時はお客様に「こういう便利な運送業がありますよ」と言っても「そんな軽自動車で」と全く相手にされずにつらい思いもしました。だんだん軽運送が認知されるようになったものの、私は小川運送という会社をやっていたのですが、受注という面で非常に不安定な部分があり、採算ベースにのせることができない状態が続きました。色々悩んで最終的には徹底的に利便性を提供していこう、必要な時に必要なだけ使ってもらえる軽運送を目指すことになりました。そして、何とか社会的認知をされる形にして信用力の増強に努めなければ営業力に結びつかないと考えて協同組合を作りました。こうして16年前に7人の仲間と共に国の認可を受けるべく、京都カーゴ軽自動車運送協同組合を発足しました。我々には引っ越しや宅配をするだけの力がないために、何か強みとなるサービスを提供しなければならないと考えました。そこで、必要な時に必要なだけ30分以内に伺って商品を運ぶ「緊急配送(スポット)」と、配送業務に限らず、注文、集金などの業務も行う「ビジネス定期」の2つを柱に事業をスタートさせました。

■荷物を3時間以内で東京へ届けられる強み
  始めはビジネス定期が全売上の7割ぐらいを占め、スポットは3割でした。現在では、スポットが9割、ビジネス定期が1割です。全くゼロからのスタートで今では月商5億円にまで成長しました。当初は利便性を徹底的にお客様に提供するというコンセプトに終始しました。その中で「ハンドキャリー」という、飛行機・新幹線等を利用して物を運ぶ方法を関西では私どもが最初に実現しました。これは荷物を預かってから3時間後に東京に届けるもので、これから大手の宅配業者にも勝てる物流の隙間産業の部分です。新幹線に乗るので手で持てる範囲の荷物に限られますが、関東に着いた時は関東の軽運送業者の方とネットを組んで瞬時に配送できる仕組みです。
  また、私どもは協同組合の組織のために国の認可を取得し、信用力を高めました。この信用力が営業力となり、全国屈指のコンビニエンスストアの関西一円の情報を毎日運ばせていただいています。コンビニエンスストアの本部と私どものコンピュータを結んで、出てくる情報を関西にある500店舗に運ぶのです。また、コンピュータメーカーの商品の緊急配送、一部商品の保管・管理を含んだ緊急配送も24時間体制で行っています。
  人材面では、発足当時から営業の芯になる人材を募集していましたがこれという手応えのある人がいません。そこへ入社してきた女性の活用がきっかけで売上が伸びたことから、現在では本部のスタッフは営業も配車も経理もオール女性です。ほとんどがパートですが、それぞれの条件に合った勤務形態にすればかなりいい人材が採用でき、会社としても人件費が安くすみます。

■物流が変わるほどビジネスチャンスが拡大している
  運送業界は完全なアナログ業界で労働集約型といえます。私どもは京都だけでも運送用の軽自動車が180台あり、軽自動車の分野で1番2番といえるのは、大きな情報ネットワークがあるからだと実感しています。去年の11月、あるコンピュータメーカーからコンビニにATMの設置をする話が来ました。ATMは24時間稼働です。私も工場へ見学に行きましたが、お金が出る部分が一番故障しやすいとのことです。データによれば関西なら500店舗で1割の50店舗に故障発生の予測がたつそうです。その分担を京都、神戸、大阪に分け、京都なら10店舗分のATMのストックを私どもが持ち、24時間体制で故障した部分に応じたものを2時間以内に現場に届ける体制を組みました。故障が発生したら我々のところに情報が来ると同時にコンピュータメーカーの技術者にも届き、現場で入れ替え作業をします。このように物流が変われば変わるほど、我々にチャンスが巡ってくると実感しています。
  また、主要得意先であるコンピュータメーカーから、来年度よりペーパーレスの実行を言われています。これに対応しないと取引ができないような状態です。
  通販のメーカーさんからもオファーが来ています。大手企業などからは、アメリカの会社が一部部品を供給しているので、その部品をこちらで預かり、ネット上で指示通りの期日と個数を確実に届けてほしいという話が来ました。これにはびっくりしました。今まででしたら、私どものような零細組織にはこんなお話はこなかったでしょう。そういう意味である種の産業革命に近いものになってきたと思います。便利に安くサービスを提供する体制が整っているところであれば、小企業といえども受注できる事を改めて確信しました。

■より利便性の追求のためネット化を目指したい
  通常の私どもの業務はネットで配車や受注をするのではなく、ファックスや電話のアナログの方法です。しかしいつまでもそれでいいわけではありません。24時間体制年中無休で走るわけですから、車は京都だけではなく6割は府下に出ています。そのうちの半分は関東、東北、九州、中国という広範囲を走っています。納期の問い合わせが非常に多い業態で、携帯電話は全車が持っていますし、カーナビは6割が設置しています。携帯とカーナビの連携により10キロ先の交通情報がわかりますので、渋滞等に対処できますし、道路情報を見ながらお客様に報告して車を進めています。こうした部分をもっとスムーズにネット上で展開できないかと考えているところです。受発注はもちろん、お客様がネット上でカーナビを見ればいちいち問い合わせをしなくても今どこを走っているか把握できるようになれば、顧客満足度の向上につながると思います。
  スポットという仕事柄、京都で400社くらいのお客様と取引していますが、その顧客情報のほとんどを本社が持っています。例えばA社からの依頼でB社から荷物を引き取ってきてくれとか、A社からB社とC社へ行ってくれという受注があると、各社の地図を組合員にファックスで送っているのですが、これも画面上で出せればもっと便利になると思います。費用対効果の関係でなかなか実現がむずかしいのですが、利便性を追求すればするほどお客様に満足を提供しなければいけないので、ネットを最大限に活用する必要があるでしょう。私どもの業種は単純作業なだけに合理化がむずかしい側面ももっていて、だからこそ、カーナビを含めてネット上で少ない配車で最大の効果を発揮することを考えていかなくてはなりません。

■さらに物流業者の真価が問われる時
  私の夢は、全車にカーナビを含めたネット体制を確立し、そこに指示や本部の持っている情報を流せるような体制ができることです。最終的には、京都を出発して全国に拠点を設けたいと考えています。北海道から九州まで主要都市においてはカーゴを作りたいと考えています。
  ここ3、4年ほどで商習慣や物流がかなり大きく変わると思っています。今までは大企業の商品は発送部や業務部がやっていましたが、その部分が分社化しロジスティックスということで、大企業では物流子会社を作りました。その子会社は車を1台も持っていません。我々がそこの下請けとなりますが、今までの料金から10~20%は値引きしろという傾向が強くなってきています。この子会社がここへ来てのたうち回っている状況です。親会社がカンバン方式も含めて日本国内で物を調達していたところから、世界を窓口にするようになったため、無条件に納品させてもらえる状況ではなくなったためです。存続の危機、物流子会社の再編成が起こっています。
  の高速道路と通信技術の発達で考えますと、何も倉庫を建てて管理する必要がない時代になりました。今までの物流とはもう一段変わってくると思います。私ども物流に関わっている者にとってはここらへんがこわいところです。
  アメリカと日本の違いは、通販がどこまで伸びるかというところにもあります。我々はコンビニの情報の配送をしていますが、コンビニが利便性の核になって商品の受け渡しを担い、コンビニの近くの配送は増えていくのではないかと思います。「スポット」「ハンドキャリー」「ビジネス定期」の3つの柱で業務を行ってきた我々がコンビニと組ませてもらえれば、地域配送業務がこれからも増えていくと期待しています。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:10 (株)レンタルのニッケン   事例発表日:平成11年10月19日
事業内容:土木建設関連機械レンタル
売上高:555億円
2001年6月
従業員数:1526名
2001年
資本金:12億2512万円 設立:1967年7月
キーワード 建設機械レンタル、
レンタル機械管理、経営のスピードアップ、ペーパーレス、
情報共有
情報を活用した業務革新

(株)レンタルのニッケン URL:http://www.rental.co.jp/

(株)レンタルのニッケン 取締役 鈴木友之

プロフィール
昭和43年三菱商事株式会社に入社。
以来、情報システム関連の業務を通じて、財務経理等の経営管理や、石油、資材、自動車、生鮮品、情報機器ソフト等、総合商社の取り引きの現場に参加。平成9年に、建設機械レンタルの基幹システム再構築に取り組む。
株式会社レンタルのニッケンに移り、現在に至る。
~情報共有で柔軟なスピード経営を~

レンタルのニッケン、といえば業界屈指の全国ブランド。レンタルの取り扱い商品はおよそ2000アイテム、100万点という規模になり、それに係る業務はかなり繁雑であることが想像できる。今日お招きした講師役の取締役・鈴木氏は「鴎 長太郎(カモメ チョウタロウ)」と自己紹介をされた。それが仕事の場面における氏のビジネスネームだとか。全社員がこうしたビジネスネームを持つという、なかなかクリエイティブな企業経営に取り組まれているようだ。この企業が情報化をどのように使いこなしているのか興味深い。


■会社概要
昭和42年創立、本社は東京ですが足利が発祥の地です。創業社長が足利出身で、そこで兄弟と仲間の3人で2tトラック1台を足にレンタル業をスタートしました。現在の資本金は12億2500万円、売上高は99年6月決算で538億円。事業内容は、土木建築関係の機械を主要商品にしたレンタルを軸に、全国に事業展開しています。オリジナル商品の開発(すでに特許取得数500以上)、製造、販売、修理も行っています。
従業員数は約1700名、事業拠点は約160カ所。経営理念は、創業社長が考え出した言葉である「有料ボランティア」。つまり、ボランティア精神を持ってお客様の声に耳を傾け、商品を提案し、使っていただき、その対価としてそれ相応の報酬をいただく、ということです。
レンタルは単なる機械販売と違って、機械をお貸ししてそれが返ってくる。返ってきた時にその機械の壊れ具合、疲れ具合、お客様のご意見、クレームなどが得られますからそれを参考にして、もともとメーカーの作った機械をベースに新たな特許を持った製品などを開発・発展させます。主力商品の例の中には、富士山7合目にも使われているドライレットという乾燥式トイレがあります。これは、全てを乾燥させて粉にしてしまうトイレで、バキュームが難しい場所で利用していただいています。

■我が社のコンピュータ化の歩み
当社では早くからネットワーク化に取り組み、全社員の情報共有を進めてきており、全社員がメールアドレス上にビジネスネームを持っています。私の本名は鈴木友之ですが、社内ではビジネスネームの「鴎 長太郎」で呼ばれています。これは、公私の区別を明確にすることにより、仕事の場で公に徹することを目指すもので、上下の隔てをなくし、風通しをよくすることにもなっています。社員とパート合わせて2000名を超える人間のビジネスネームは全て違います。ちなみに創業社長は「亀太郎」、2代目社長は「鶴ひみこ」、現在の3代目社長は「スバル 三郎」といった具合です。
コンピュータ化の歩みを振り返りますと、まず76年から84年くらいが第1世代。リコーのペンコールというペンタッチのシステムで、請求処理を各機械ごとにやり、その結果をフロッピーディスクで本社に持ってきて月次集計をしていました。80年代後半が第2世代、NTTのドレスサービスを利用して初めてレンタルシステムを分散オンラインエントリー型で進めました。90年代になって第3世代、IBM製のAS400という分散処理コンピュータを全国の営業拠点に100台おき、拠点主体の分散オンライン処理化。第4世代として、AS400がホストコンピュータ並みにパワーが出たということで足利本社に導入し、集中処理方式の統合システムを構築しています。集中化によりコストダウンも図れました。現在は情報共有の仕組みを「NUT(ナッツ)」というシステムに移行しましたし、また2000年1月をメドに基幹システムの組み直しを進めているところです。

■全てをコンピュータ上で行うペーパーレスのトータルシステムを目指す
情報化において、まずペーパーレスを目指しています。創業社長の強い意志で、「とにかく紙を持つな」と、一般社員の机には引き出しがありません。かつて一時的にですが、実験的な意味を含めてフリーアドレスを本社でやったこともあります。社員は出社したら好きな机に自分の名札をPCの上に立てて、そこから自分のアドレスにアクセスするというものです。そういう流れもあって、紙を持っていると社長に怒られる環境です。2番目に、管理制度の確立を図っています。右肩上がり一筋の時代は売上を一生懸命伸ばして利益は後からついて来ると考えていけばよかった、しかしこれからはリターン・オブ・アセットという観点からより有効な資産活用を考える必要があります。当社の保有する機械は約2000種100万点ありますが、これらひとつひとつの機械のいろいろな原価も押さえた損益を見ながら、ツボを押さえた運営をしていかなくてはなりません。そういった考え方の大きな切り替えを今しているところです。3番目には、情報共有。これは約10年近く、創業社長に始まった経営トップの強いリーダーシップでやってきましたが、この中で経験的に得られたノウハウをベースに、新しい経営体制、スピード経営、稼ぐ仕組みづくりということに展開しようとしています。この3つを統合した形で情報化を進めています。
出社してから退社するまでの業務の出来るだけ多くを、いわば全てをコンピュータ上でやることを目標に徹底しました。メモ的なもの、あるいはいちいちコンピュータを見ている余裕のない現場がどうしてもあるので、紙は存在しますが、できるだけコンピュータ上で仕事をしようという努力をしています。これにより、情報のデジタル化も推進出来ます。たとえば出張時の旅費の精算や支払いも画面で行います。交際費の支払い、会議費の支払いなども領収書だけが紙で、コンピュータに登録した時の確認ナンバーを領収書に書いておき、出納のほうはそれをコンピュータ処理された後に出てくる日計表という台帳に張り付けておくだけです。また仕入・購買ではコンピュータ上で稟議決裁して発注に繋げます。社内通達、上司への報告、皆への連絡、勤怠の届け出なども全てコンピュータで行います。さらに営業日報のコンピュータ処理化を新しい取り組みとして今やっていますが、道具よりもPLAN、DO、CHECK&ACTIONをどういうふうに進めるかが重要な課題です。そこで全国一斉に始めるのではなく、プロセスを重視し、2カ所のモデル店をベースにスタート。そのモデル店では努力が実って前年度比で売上が140%となったので、この成果をテコに地道に展開していこうと考えています。レンタル業務においても全てコンピュータで見積から在庫の問い合わせや納品から返却まで、そして利用いただいている期間の請求書の発行といったことをすべて処理しています。さらには返却いただいた機械の点検、修理・メンテナンスまでを作業日報に記録を始めています。油にまみれて働くような現場ではどうしてもコンピュータに向かって記録をつけることが億劫になりがちで、それが課題のひとつです。
ですから、こういうことを全てコンピュータ上で行うペーパーレスのトータルシステムを目指した取り組みの過程にあるとご認識いただきたいと思います。
また、一方管理制度においては、個別管理によってセグメント別の分析をし、どんなところどのようなに施策をしたらよいのかを考えていく計画です。この管理制度に基づいた情報システム体系を考え、基本要件を定義し、業務プロセス、ルールを作るべく、敢えて優秀な各現場のベテランスタッフを動員しています。これが確立できると、個別損益のみならず、組織としての業績評価、目標管理における個人の業績なども見えてきます。今日のような時代においては人材生産性を的確に把握することも大事です。

■全社員にオープンでこそ情報共有化、新情報システム「NUT(ナッツ)」
今日のメインテーマである情報共有についてですが、先ほども申しましたように創業社長の強いリーダーシップの下、自前で開発した情報システムを利用してきました。このシステムは稼動当初から全ての情報が全社員にオープンです。私の交通費等も誰でも見ることができるし、社長へのメール、社長が出したメールも、稟議も全部見ることができました。人事だけはプライバシーといった特殊な部分があるので全部というわけにはいきませんが、基本的にはコンピュータ上で全部オープンにしています。これは創業社長の強い意志であります。
当初はひとつの仕組みの中で、いろいろな情報が混在するごった煮でやってきましたが、NUTという新情報システムに移行するという中で、情報伝達の部分と提案の部分、議論の部分、稟議決裁の部分、資料蓄積の部分、というように大きく分ける整理を今やっているところです。議論をコンピュータ上でどうやるか、については、ノーツというグループウェアをエンジンに使っています。例えばある機械の導入について議論する場合、関係部署の人間が各地に分散していますのでこのノーツの上でディスカッションの展開をして結論に持っていきます。簡単なものですとそれで結論にしてしまいますし、重要な議題ですと経営会議の方で最終的な判断をすることになります。また資料蓄積においては、いろいろなカタログの情報もあるし、規程集も含まれます。大分類、中分類と分けていますが、従来の情報システムでは中分類ベースでなんと12000にもなっていました。これには過去10年間の中で思いつきで出来て重複している、あるいはそれきりになっているものもたくさんあるので、それらを整理して新しい仕組み「NUT」に移そうとしています。たまっている荷物を整理するには引っ越しがいちばんいいわけで、まさに今その引っ越しをやっているところです。

■業務系と会計系から成る基幹システム「BEANS(ビーンズ)」
情報インフラ整備については、業務効率化と管理制度といった観点から、基幹システムの位置づけでビーンズというネームで取り組んでいまして、大きく業務系と会計系のシステムに分けています。業務系というのは、レンタル業ですから、レンタルする機械を管理する、購買、あるいは部品の在庫管理などがあり、効率化を主眼に進めています。この業務系システムから得られるデータをベースに総合的な資産管理も行っています。レンタル用の100万点の資産、それに自家用の資産を合わせて全部一元管理・運営していく。なぜなら、同じトラック、自動車、フォークリフトなどでもお客様にお貸しするものと自家使用があるからです。勿論、会計上のあつかいも違いますが資産としては、状況に応じて転用が生じますので、一元管理をしているわけです。時にはお客様のほうにお貸しするし、自社用で使っているものでもお客様にお貸しする機械が足りなくなれば、転用手続きをしてこれを優先することもあります。それから一般会計と管理会計、そして勤怠、旅費交通費等を賄う小口現金、給与、こういった一連のものを全部会計系ということで整理しています。
当社で使っているシステム名のビーンズもナッツも豆類。どちらも蒔けば芽が出てまた新しい実がなる、というところに期待を込めているわけです。
営業支援関係については、新たな取り組みとして営業日報からPLAN、DO、CHECK&ACTIONに繋げるもの、企業情報、営業情報を軸にして展開していきます。
これをどのようにコンピュータ・ネットワークではどう展開しているかというと、まず全国100台の分散コンピュータでやっていたものを99年1月から足利にあるコンピュータ室に集中させました。




これはまさに技術の進歩で、10年前の当時できなかったことが今1台のコンピュータで可能です。メインコンピュータとこれをバックアップするホットスタンバイのコンピュータの2台で全体の基本は押さえています。これを足利のコンピュータ室に置き、全国専用回線網をNTTさんのお世話になりながら展開して、それをインターネットで社外にも繋いでいます。当社では海外にアメリック、タイテックという子会社を持っています。世界的にも有力な建設機械メーカーがアメリカにあり、そこの製品を輸入するとか、日本ではなかなか手に入らない大型扇風機などを製造委託して輸入するとか、その窓口の役割をアメリックが行っています。日本各地で中古販売するだけでなく、世界的なオークションにも出品したりしています。一方、タイではもともと新品の需要よりも中古機械が需要の中心。言ってみれば日本の中古機械がタイでまた再度ご奉公として仕事をします。タイテックはその基地の役割を果たしています。これからの、顧客や仕入先をインターネットで繋ぐことも想定しています。実際に大口購入先とは既にコンピュータ間で直接データ伝送をしています。それからモバイルアクセス網ですが、これは営業系でこれからのメインになると思いますが、ネットワークサービスを通じて全国どこからでもアクセスできます。セキュリティを確保して押さえるところは押さえていきます。

■情報共有化によりスピード経営の実現を図る
情報共有のテーマとしては、スピード経営、稼ぐ仕組みづくりを掲げています。今まで自前の開発システムのため利便性に制約のあった世界から、ノーツを内側のエンジンにして、表にはインターネットエクスプローラーのブラウザーをオブラートのようにかぶせるという仕組みを作っていますので、ブラウザーの動くPCからならば、どこからでも随時繋げられるようになっています。利用できる機能としては具体的に、まず、「本社通信」といって毎日会社に全員に見てほしい伝達事項があります。全国160カ所に分散していますからこういう形でメッセージを出しています。その中があまり長い内容だと仕事に差し障りがあるので、だいたい1~2分でざっと読めるようにとどめています。よく見てほしいものは、情報ナンバーを参照してそれを「掲示板」に入れておきます。「情報交換」は、いろいろなできごととか、お断り情報、お客様のこと、機械の紹介、などの情報と意見交換を載せています。「依頼申請」は、単に依頼とか申請だけではなく、稟議に至るレベルのものや提案などもあります。「資料室」は規程からあらゆるカタログまでで、今整理中です。それと、メール、カレンダー、電話帳。「人事事典」には全員の自己紹介と写真も入っています。ちなみに中途入社でも新入社員でも、まず最初の仕事はビジネスネームを自分で考えて申請することが最初にやることです。ビジネスネーム登録をしてみて他の人とだぶらなくて上司が適当だと了解すればそれを正式に登録します。さらに自己紹介を入れないと情報共有環境で社員と認知されません。
いまご説明したとおり情報共有機能は基本的には5つに区分けされています。
具体例として、依頼申請のケースで説明します。(図 「画面サンプル」参照)



これはインターネット関係の仕事をしているビジネスネーム「西戸 健作(サイト ケンサク)」さんの画面です。彼が稟議を上げて、それがどうなっているかということを見ます。「西戸 健作」という名前がついているところは彼が実際にドラフトを作っている、あるいはこれから稟議に出そうという状態です。「楽子 太郎(ラッコ タロウ)」という名前は彼の上司で、「楽子 太郎」のところにその提案が上がっていて今「楽子 太郎」が考え中ということです。このように自分が提出したものの処理ステータスが確認できるのです。また、自分がこれからやらなくてはいけないことは何か、という角度から見ることもできますし、全社員の回覧が見たい時には回覧検索機能があります。
仕組み的には、依頼申請ですと、起案者から決裁されるまでを、「フロー」というデータベースで集中管理します。次に決裁が下りますと稟議ナンバーの台帳管理に入り、「ストック」という情報管理状態に入ります。両方とも基本的には全てオープンです。また、いったん決裁されたものは自動的に起案者のもとに通知がいきますし、人事関係だったら人事のところに流れてしかるべきプロセスに繋げる、という形になっています。このところが新しい仕組みで、従来は総務部が担当し部分的に人が介在していたのですが、今度のシステムでは自動化できるところまで進めました。



情報共有においてはオリジナル製品開発への活用も重要です。例えばドライレットについてお客様の使い勝手を考えると少しスリム化したほうがいいとか、問題を起したことがどういった方法で解決できるか、ということが提案されます。これまでは創業社長の「亀太郎」がその提案を評価する部分をやっていましたが、「亀太郎」がなくなりましたので、今度は組織で運営していこうと「亀太郎」に代わる仕組みにしていくことが今の課題です。その工夫の中でのポイントは一次受付、二次受付を作っていること。ワークフローの上でロールという機能を使い、提案者が提案を入れると一次受付のロールになっている社長室がその提案をみて、内容に応じた二次受付に渡します。たとえば顧客対応の問題なのか、法律関係の問題なのか、商品改善か、こういった内容に応じて適切な役割の部署に橋渡しをすることが第一の役割です。そして二次受付が内容を判断してしかるべき施策・実行に移して行くのです。
(図 「提案の審査)参照)


スピード経営の大きなポイントとして、基幹システムにおいては、BEANSで「業務効率化」を第一にやり、それと共にそこから得られるデータを「管理制度」という確立した中で活かす仕組みにすることです。そして「情報共有」の仕組みがあります。この3つの機能を通して経営課題を速やかに抽出し、意思決定に繋げること、これがスピード経営の大きなポイントと思います。もうひとつは、「有料ボランティア」という創業社長の考え、経営理念のもと、お客様それぞれのニーズを把握して、お客様第一の視点で考え、迅速かつ柔軟なスピード経営を図るということです。柔軟もスピード経営の一環と考えています。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:12 (株)ユニオン   事例発表日:平成11年11月29日
事業内容:ドアハンドル専門メーカー
売上高:130億1600万円
2001年3月
従業員数:175名 資本金:4億4800万円 設立:1958年12月
キーワード ドアハンドル製造、
在庫管理、複雑な流通経路、
インターネット販売、Webでの情報照会、エクストラネット構築、バーコード、
リアルタイム在庫
「情報を活用した業務革新」
  

 (株)ユニオン URL:http://www.artunion.co.jp

 (株)ユニオン 代表取締役 立野純三

プロフィール

昭和22年生まれ。甲南大学卒業後、青木建設入社。昭和48年ユニオンに入社。平成2年に代表取締役社長に就任し、現在に至る。(社)日本建築材料協会理事、(社)関西ニュービジネス協議会理事なども務める。

~革新を求めてシステム導入。その効果を使いこなすうちに実感~

バブル経済崩壊後の不況の中でも、ことに苦しんでいるのが建設業界だ。ドアハンドルメーカーとして圧倒的なシェアを誇るユニオンも、バブル期に210億あった売上が今では150億を割る現状にある。しかし、それほど売上が落ちても経常利益の割合は4.7~4.8%くらいをキープ、立野社長自らが自負する評価の高い数字である。そのカギはやはり情報の活用にあった。


■会社概要
私どもの会社は1958年に先代・立野一郎が興しました。以前は立野商店という建築の金物の卸をやっていましたが、将来性を考え、ドアハンドルの専門メーカーとしてスタートしたのです。資本金は現在4億4800万円、社員数170名。パートは15名。売上高は99年3月期で136億円です。大阪に本社を構えており、支店として大阪、名古屋、東京がございます。その他全国に私どもの代理店があり販売をしております。業務内容は、建設環境金属製品の製造販売メーカー。と申しましても、工場を持たない「ファブレス」いわゆるブランドメーカーです。今日皆さんがこの会場に入ってくる時にさわったドアハンドル、それを専門にやっており、その他にクロゼットドアやアルミパネルなども取り扱っております。取引先としましては全国の建設会社やサッシメーカーに販売をしており、ドアハンドルはアメリカや東南アジアに輸出もしています。

■シェア8~9割、工場を持たない専門メーカー。
設立当時は、それまでドアハンドル専門のメーカーというものがなかったので、設計事務所などから大変かわいがっていただき、伸びてまいりました。ちょうど日本の経済成長にのり、建築ブームでもありました。シェアは当時で80%、今では90%近くではないかと思います。つまり、建物が建ちますとそのドアハンドルの9割は私どもの製品がついていることになります。ただ、ドアハンドルだけでは将来の発展がない、ということで、73年にクロゼットドアをアメリカから持ってきて取り扱いを始めました。スチールの扉で観音開きのものです。ちょうど私がユニオンに入社して何かやりたい、実績を残したいと思っていた時で、アメリカで出会って「これだ!」と思ったのです。その当時アメリカで月10万セットくらい売れていた商品でしたから日本でも将来必ず売れるだろうと。現在でも言えることですが、アメリカで流行したものは何年か遅れて日本でも取り入れられることが多かったものですから。しかし、石油ショックがあり5年間ほど全く売れませんでした。私自身がそのクロゼットドアのサンプルを持って走り回ったことを思い出します。設計事務所などを回っては「これを使って下さい」とお願いしたのです。そんな状態でしたが、石油ショックが終わると同時にやはり新製品を使いたいという世の中の流れが起こり、爆発的な売れ方を見せることになりました。その後、その他にも車止めや消火器ケースなど、多角化を目指して、いろいろなことをやっています。

■時代の荒波を受け、課題が山積み。苦しい経営の中で決意したものは・・・
バブルの頃は我々の業績も非常によく伸び、売上が200億を越えた時期もありました。最高で210億だったでしょうか。それから徐々に売上ダウンとなり、93年ちょうど設立35周年を迎えた時に「このままではダメだ、何か、我々の社員全てが共有するビジョンを持たなければならないだろう」ということで、「アートウエア21」というキャッチフレーズで長期ビジョンを作りました。我々の商品はまだまだ手作りの部分が多いのですが、やはりこれからはもっと一人一人お客様のニーズに合った商品づくりをしていかなければならない、もう一度クラフトマンシップを持って商売をしていこう、という「クラフトマンシップ」。お客様のニーズをくみ取り新しい商品開発をしていこうという「クリエイティビティ」。我々の営業はプロの人に商品を売り込むのですから営業マン一人ひとりがその相談にのれるコンサルタント、プロの営業マンになってほしいという「コンサルタント」。それぞれの頭文字cから3cとして掲げて、これで会社がよくなっていくと思ったが、甘かった。ますます営業成績も非常に厳しい状況になり、ここで大きな業務変革を、プロジェクトチームを作ってやろうと。これが我が社の情報化取り組みのきっかけです。
初めてコンピュータを導入したのは12、3年前でしたが、97年からエクストラネットを稼働させ、99年にはISO9001の取得をいたしました。3年ほど前から営業に行った先で、ISOを取得しているか、あるいはその意志があるか、という声を聞くようになり、今後の商売上どうしても取得せざるを得ないということになりました。21世紀に企業が勝ち残っていくために、全社員でがんばって取得しようと、1年間かけて取ったのです。続けて2000年1月からは14000の環境のものを取得する準備を始めています。
我々のビジネス構造として自社では生産設備を持っていません。我々で商品の企画、開発をして、生産は60社ほどある協力工場がしています。商品は全てユニオンのブランドとして展開。最終ユーザーまでは非常に複雑な流通経路であることも事実です。こちらから設計事務所やオーナーさんのところへ参りましてドアハンドルやクロゼットドアを指定していただくこともあれば、流通である販路においては卸売業、建材メーカー、施工業者などが関わってきます。あるいは全国の代理店が建材メーカーに売るケースもある。これだけ複雑な流通について情報化による対応を考えて効率を上げてほしいというのもプロジェクトのニーズの一つでした。
それと、当時の経営の課題として、バブルが弾けてから建設業は非常に厳しくなっており、当社の売上も悪化しました。平成3年には210億だったものが、平成7年には176億、特に激しく落ちたのは平成10年の161億、それから平成11年の136億と厳しさが増すばかりでした。さらに、最終的に買っていただくサッシメーカーやゼネコンからの価格への要求が非常に厳しくなりました。景気のよい頃はいかに付加価値を高めるかということでデザインや材質を追求した商品開発を行ってきましたが、最近は機能第一で価格にこだわる傾向にあります。併せて市場のお客さんの考えているものが見えにくくなってきましたし、その上短納期が増えたり現場の決定がますます遅くなり在庫がなければ他社に行ってしまうことが増えてきました。又、好景気の時には見えなかった営業マンや資材分野のミスが表面化してきたり在庫の回転率がかなり低下し、これらも何とかしなくてはならない。そんなこんなでこれらの問題点を解決するために情報化をしようと決意したのです。インターネットを利用しながら在庫管理がしたい、いかにお客様のニーズにお応えしていくか、そういうものを構築しようと。

■三者が一気通貫のシステム、エクストラネット

エクストラネットと申しまして、工場、自社、顧客を一気通貫でつなぐのが当社のシステムです。外部の工場で作った製品を我々の倉庫に入れる。そこから代理店やゼネコンに納入する。それをインターネットを利用して外部の人たち、つまり得意先から我々の倉庫を見て在庫があるか確認してもらう仕組みです。協力工場も、自社の各製品の在庫がどれだけあるか見られます。受注から出荷まで確実に対応でき、お客様へのサービス度も上げることができました。こうして長年の懸案であった在庫問題の解決を図りました。現在私どもができているシステムは、受発注、デリバリーの照会機能で、webを通して得意先から受注をいただきます。それを受けて出荷に回す。その時にお得意様からどういう状況でデリバリーがおこなわれているのか、自分が発注したものがどの状態にあるか、倉庫にあるのかあるいはもうすでに出荷されているか等の情報をお客様の方から我々に問い合わせなくても見ることができます。リアルタイムの在庫もわかり、我々の在庫確認が画面の中でデータとして見られるのです。
今後の課題としているのは、在庫が切れた場合に次回の入荷がいつ頃になるのかということまで画面上でわかるようにしたいです。
それと、そういうwebを利用していないお客様にはFAXを利用しながらお互いにやりとりをするFACE(フェース)という仕組みを用いています。お客様からの注文がFAXで流され、在庫があればそのまま出荷情報としてインプットされ、在庫がなければ受注不可ということで即時にお客様に戻す。ですから、この仕組みにおいては、我々の商品をいかに在庫しておくかが大きなポイントです。そのためにも在庫管理に正確な情報が必要であり、かなり改革されたと思います。
我々から協力工場へ発注しますと、それに対して工場から納期回答が即座に来ます。工場では今まで伝票を手書きしていたのが、全く不要になりました。画面上で受発注ができますから、ペーパーレス化ができたのです。今後は在庫の照会機能や工程の進捗状況まで見られるものにしていきたいと思っています。現在webを使っていただいている協力会社は14社。
以前は営業開始時間と同時にお客様からの電話応対に追われていました。ほとんどが「在庫があるか」、というものです。始業から1~2時間はその類の電話が集中し、営業マンも出かけられないような有様でした。それが、webやFACEの利用によって電話の本数が減りました。営業マンも始業時刻の9時から営業に回れるということで、業務効率が上がりました。




■システム導入までの道のり


次に我々が取り組んだプロセスをご紹介しましょう。まず96年にプロジェクトチームを編成しました。それぞれの部署から、日々いろいろな問題を抱えている現場の人でかつ若い人たちに参加してもらうという主旨で10人ほどで編成し、プロジェクトを優先するために日頃の業務からははずしてもらいました。それに併せて組織を大きく変えました。今までどちらかというと順調に業績が伸びていたのであまり個人目標云々とは言わなかったのですが、これを機にそれも変えようと会社の幹部全員に目標管理制度と年俸制を導入したのです。現在では一般社員にも目標を設定してもらい、半年ごとにそれを査定しています。全て私が面接し、その目標に対してどう達成しているかを聞き、次年度の年俸を決めています。
業務も見直そうということで、東京、大阪、名古屋の支店でやっていたことを、3部門制としました。管理本部、営業本部、商品本部という3つの本部制を敷き、それぞれに本部長を任命し、責任を持ってもらいました。
また、プロジェクトチームが考えるシステムをいかにスムーズにやるか、ということのために、96年に全営業マン約100名にノートパソコンを持たせました。今まで営業日報を書いていたものを、これからは私宛てあるいは上司宛てにEメールで送れ、と。システムが稼働した時には各自が使いこなせるように、ということで。97年にまず工場の商品フォームにおいてシステムの部分稼働となり、97年の終わりには全面的にエクストラネットの稼働となりました。

■徐々に現れたシステム導入によるメリットの数々
それから2年たち、情報化の効果は随所に出てまいりました。特に受注の機会喪失が非常に減少しています。やはり在庫が大切、このwebのシステムを活かすために既存品の在庫を切らさないようにしています。ドアハンドルが1800種類、クロゼットドアが1000種類、それにレバーハンドルとかいろいろなものを含めると10000近くの商品がありますが、それらの既製品をいかに切らさないでwebあるいはFACEによる注文に応えていくか。在庫を切らさないことが大きな基本です。
webの情報が生産管理のほうに活かされているのではないか、とも思います。システム導入時にバーコードを利用しました。それまで工場から出荷の際に人の目で商品を選んでいたので出荷ミスが多かった。バーコードによってそれが解消され、業務の標準化と言うのでしょうか、数字的に非常によくなりました。在庫の欠品率は96年に8%くらいあったものが、webやFACE稼働の98年には2%まで下がった。それから、受注ミス、出荷ミスによる返品率は、96年に1.8あったものが、現在では0.3まで下がっています。ちなみに経常利益は、97年には4.9%、売上が176億ですから約9億弱の経常利益を上げています。99年3月の売上は136億で、経常利益が約6.5億ですから4.8%くらいです。売上がこれだけ落ちていながら経常利益がこれだけの率で保てているのも、システム導入の成果です。
先ほど言いましたようにweb利用の協力会社は14社、FACE利用は200社近くとなっていて、社内における受注業務や商品本部の仕入れ担当業務などの人数は減っています。以前は受注担当者が20名強いましたが、今では2割近くの減。商品本部も、やはり20人くらいだったのが今は13名。その分の人員を営業などの重要なところに削くことができた点からも、非常に効果を実感しています。
今後の課題としては、webによる受注の拡大が挙げられます。それに伴ってペーパーレス化も進むといいのですが。私どもが最終的に描いているのは、営業マンがノートパソコンを持ってお客さまのところに行き、それを使って見積もりをしたり、図面の打ち合わせをする姿です。今、KISS(建材情報サービスシステム)あるいは建設CALSという通産省、建設省による建材の標準化などが行われていますが、そういうものにもこのwebで参画していきたいと思います。

■即効性より活用性。インターネットこそ革新のカギ。
振り返ってみて、自社のシステムに取り組もうという時にまずいちばん大きな問題になったのは、私どもの社内にプロがいないということでした。コンピュータのソフトを組む、そういうことがわかる人間がいないということです。どうしても外部に頼らざるを得ない。コンサルタントに頼む時点では、このシステムで何をしたいかが明確になっていないといけません。それには1年くらい十分に時間をかけてやる必要があり、社内でもプロジェクトに対して日頃の業務から抜いてでもそれに取り組ませようという強い姿勢が必要です。それができたのは幸運でもありました。
また、やっとの思いでシステムを構築して導入しても、メンテの問題があります。一度入れたらそれで何年間もシステムが動くとか、そのパソコンの能力が保てるかというとそうではありません。営業マンあるいは管理あるいは商品本部などから「こういうシステムを加えてくれ」「ここを少しこういうふうに改善してくれ」というような声も挙がってきます。それに対して誰か人を使いながらソフトを組んでもらう、それにもお金がかかります。ちょうど3年前に営業マン全員に渡したノートパソコンを昨年秋にバージョンアップをしシステムを少し変えました。その費用が5000万円、大きな額です。
やはりシステムを導入したら、日々使いながら改善していくことが大事です。現場の声を聞きながら改善し、いかに自分のところにとって使いやすいシステムにするか、それなくしては何の役にも立ちません。
私自身新しいもの好きでして、10何年か前に東京、名古屋、大阪の3次元でテレビ電話の会議を取り入れました。出張がいらなくなる、などと考えていましたが、時期尚早、ほとんど利用されませんでした。それが最近になって活用されるようになりました。webも然り。3年、4年たってようやく自社にマッチしたものになった時にこそ、ものすごく大きな効果が出てくるように思います。早急な効果はむずかしい。営業マンにノートパソコンを持たせたことについても、営業のツールとしてお客様のところへ持っていき情報を入れてくる、それをいち早く私が見て経営判断に活かせる、お客様が何を望んでいるか、これからどういうものを求めていくか、を知って商品開発が進められる、ということができるようになってきています。これまではお客様のニーズよりユニオンの考えでモノを開発していました。それが、営業マンが営業先で「ユニオンにこういうものが足りない」「商品にこれからこんなものが出てくるのではないか」など活きた情報を入れてくれるようになったのです。これもエクストラネットを導入した大きなメリットとなっています。
自分の企業を革新するためには、インターネットというものをうまく利用する時代になってきていると実感しています。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:54 (株)ヤマナカゴーキン   事例発表日:平成13年9月18日
事業内容:金型製造
売上高:不明 従業員数:230名 資本金:8000万円 設立:1966年7月
キーワード プレス周辺設備、金型製造業、
KKDからの脱却、受注生産、少量多品種生産、製造リードタイムの短縮、不良率低減、
CAD、CAE
「製造業におけるIT取り組み事例」

(株)ヤマナカゴーキン URL:http://www.yamanaka-eng.co.jp/


(株)ヤマナカゴーキン 常務取締役 山中雅仁氏
プロフィール

1994年 米国オハイオ州立大学機械工学科修士課程修了
同年  (株)ヤマナカゴーキン入社
1997年 常務取締役

~技術で生きる専門メーカー、ITは顧客要望の実現ツール~

 (株)ヤマナカゴーキンは金型技術を基盤とした技術開発型企業である。金型生産には少量多品種・注文生産という特徴があり、高精度な製品を短納期・低コストで生産できる技術と体制が企業の成長を支えてきたと言える。この背景でコンピュータシステムをどう活用し、どんな効果があったのか等、製造業におけるIT活用事例として山中常務にお話しいただいた。


会社概要
企業名 (株)ヤマナカゴーキン 創業 昭和36年2月(設立昭和41年7月)
資本金 8,000万円 代表者 山中 政夫
従業員数 230名(平成13年現在)
取扱品目 精密冷間鍛造金型、温・熱間鍛造金型、粉末燃結金型
複合成型金型鍛造解析シミュレーションソフト、プレス周辺設備
取引産業 自動車、ベアリング、鍛造、伸銅、弱電、建築、鍛圧機械メーカー

はじめに
  当社の本社は、関西の地場産業の一つで金型メーカーです。鉄を扱っていることから硬い会社で、自分の考えていることも硬いなと思っております。
  当社にかかわらず、金型メーカーを取り巻く環境が厳しい中にあって、我々にしてもいろいろな取り組みをしてきました。この取り組みが当を得ているか、今日の西岡先生の話を聞かせていただいて、ものすごく取り組み自体が甘いなと思い、本当に反省しています。
  製造業のITの取り組みと言うことで、皆様方にマッチングしているかどうか分かりませんが、製造業としてのIT関係の話をさせていただきます。

基幹業務系システム導入でリードタイム大幅短縮
  先ず、基幹業務系として、営業から受注、発注までの管理等の紹介をいたします。メインは自動車関係が8割以上で、生産品目は冷間用の金型製作で、常温のまま素材から作る作業であります。鉄に熱を加えて加工する熱間鍛造金型加工より規模が小さいと言えます。国内に3工場で、主力は佐倉で社員は100名程です。また、大型プレス機を所有し、お客様の要望に応じて試作をするテストプレスなども行っています。
  数年前から、海外からの注文も増えてきましたが、これもITの効力かなと思っています。それは、海外からインターネットでホームページを見たよと問い合わせが有り、最近は、欧米、中国、韓国からの試し打ちも行っており、ITを入れた効果というものがございます。
  金型生産の特徴と言うものは、量産ではなく、お客様から図面をいただいてその図面どおり一品一品作り込んでいくこととなりますが、客先の生産工場で設計変更がありますと、一番下流にある当社には、「明日、あさってまでに設計変更の金型を作って下さい」との注文も多くあります。
  基幹系のコンピュータの歩みですが、96年に本格的に導入を始めました。それから順次ホームページを立ち上げ、メールシステムを稼働して、2001年からは携帯のPHSを各社員が持ち、社内電話という形で大阪、佐倉、営業所間で全て内線の感覚で電話ができるようシステムを構築しました。一応リアルタイムでできるようになっております。
  一番の目的は、リードタイムの短縮であり7~8割の削減ができるとともに、バーコードにより管理することにより、営業においては製品が今どこの工程にあり、あと何日ぐらいかかるかとの確認が可能となり、非常に良い結果を得ることができました。
  しかし、デメリットも有りまして、西岡先生に質問しましたようにメールの増加の対応に頭を痛めておりますが、ルールあるいはやり方次第で改善できると思っております。

技術系システムはCAEの導入で短納期、高品質、低コストを実現
  次に技術系の関係でございます。
  先ほど回覧しました製品ですが、実はこの製品を立ち上げるまでにどのくらいかかったかと思いますか? 2年半かかりました。国内の有名な自動車会社の車種に利用されています。これが2年半かかったのですかと言われますが、試行錯誤も多く製品の特徴もいろいろとあり、工期や開発の期間が長く、84年からCADとかに取り組み始めております。
  部品を作るに当たっては、コンサルテーションから始め、工程設計、どのようなレイアウト、手順、金型設計、金型製作、プレス、試作を行なう事となり、その中でCAE(Computer Aided Engineering)の技術を取り入れてきました。
  ここ数年お客様からこれを作りたいとの要望が10倍近く増えましたが、製作スタッフが10倍増えたかと言うと、そうではありません。従前のスタッフで対応していることから非常に負荷が変動し、何とかこれを打破しなければなりませんでした。何かツールがないものかと考え、CAEを導入、設計への進出もしていこうとの動機がありました。
  ソフトの導入に当たって、世界標準と言われるアメリカ製を検討しましたが、6千万円の投資額となり中小企業では無理と判断し、自社で作ることにしました。いざ作って見ると、いろいろとメンテナンスも必要となり、人も取られ、コストもかかり、やっぱり専門会社のソフトを購入することとなりました。
  従前のこの業界の金型設計は、経験と感を頼りにエイヤーと言う感じで作っており、ダメならもう一度作ってみようと言うような繰り返しが多かったと思います。しかし、専門家のソフトでは事前に不具合が予測でき、お客様に余分な金型を作る必要もなくなり、寿命の良いものを早く作ることができるようになりました。

今後のIT活用-付加価値創造のための活動時間を生み出すことに
  当社は、ITはあくまでも道具であり、不良率の減少や原価の低減を達成するための目標を掲げると同時に設計や現場の作業をデジタル化し、データベース化して行こうと考えています。
  日本のある調査によると、働いている人が付加価値を創造している時間あるいは、その人しかできない仕事はどの位あるのかと一日スタディーしたら、それは7%でしかなかったとのことであります。ヨーロッパの同業者の友人は年間30日間も休むのに凄く業績を上げています。我が社は夜遅くまで働いていることから、その友人から生産性が悪いのではと言われる始末、この差は何か?
  今後は、付加価値創造の時間をどれだけ作って行くかが重要であります。
  私は、ITの一つの考え方ですが、簡単な仕事の部分はシステムにやらせて、本当に人間しかできない部分を人間が付加価値を創造して専念できるような状況を作って行きたいと思っています。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:43 (株)ヤマトヤ   事例発表日:平成13年1月17日
事業内容:ファッション専門店
売上高:不明 従業員数:不明 資本金:不明 設立:不明
キーワード ファッション専門店、
ダイレクトメール、
購入履歴データ活用、デジカメ
1人のお客様のために

(株)ヤマトヤ URL:http://island3.matsuronet.ne.jp/yamatoya/

(株)ヤマトヤ 代表取締役社長 江頭紘一氏
プロフィール

 昭和38年 青山学院大学 法学部卒業。同年、株式会社三愛に入社MD(マーチャンダイザー)として3年間勤務。
  昭和42年 株式会社ヤマトヤ入社、現在に至る。
  唐津中央商店街会長、唐津観光協会理事、唐津商工会議所常議員なども就任されている。.

~一人一人のお客様の購買履歴を活用したレジシステムで、コミュニケーションによる販売戦略を展開~

 激動の時代、変化の激しい社会において、繊維業界もまた淘汰の波に洗われている。佐賀、唐津の駅至近の場所に創業90年の専門店を経営する江頭氏は、このまま専門店、小売店の形態で存続できるのかと危機感を募らせる。そして、生き残るには顧客の求めるもの、好みを的確に把握することこそ重要と考え、そこにデータ活用を用いている。


■繊維業界を震撼させるSCM
  私はIT、パソコン、インターネットなどはよくわかりませんが、少しでも皆様のご参考になればとお話させていただきます。
  うちの店は創業90年になります。30年ごとに大きな変化が来ています。厳しい時代であり、企業が生き延びていくためには相当の努力が必要ですが、ここ2、3年ははたして乗り切れるのかなと、私はとても不安で道に迷った状態でした。
  私はソウルの国際見本市に招かれ3日前まで韓国にいました。そこで印象的だったのは見本市よりも、400坪くらいの広さに400台くらいのパソコンがあり若い世代の人々が順番待ちしている光景でした。韓国では2人に1人がインターネットを使っています。日本では10人に1人くらいでしょうか。あのパワーがそのまま進んでくるとすれば日本はやられてしまうと思いましたね。
  その韓国でも日本でも、繊維業は中国にやられて非常に厳しい状況で、企業がどんどん潰れています。アメリカでは、小売店サイドが、SCM(サプライチェーンマネジメント)で工程から上がったものを全部集約して物を生産していこうという状態が起こっています。それが顕著に出ているのがSPA(製造小売)です。つまり自分で作ったものは自分で売る、メーカーが小売店を出すというものです。ユニクロなどもそうですね。
  SCMが出てくると中抜き現象がおきて、卸しや商社などがなくなります。このような枠組みの中で、我々のような専門店も小売りだけの形で生き延びていくのはむずかしいと私は危機感を持っています。
  では、専門店や小売りがどのような形で生き延びていくかと考えると、やはりお客様一人一人の好みを把握して対応していかなくてはならないということになります。メーカーもまたお客様が何を欲しているかという情報を持っていないと物造りができません。

■新人類社員にもできるお客様応対のための方法を求めて
  私は今度60歳になりますが、私たちの世代は「キネマ世代」というのだそうです。50歳前後が「団塊の世代」。35歳くらいは、情報は週刊誌やファッション誌から選ぶという「hanako世代」。27、8歳が、団塊の世代の子どもたち、「団塊ジュニア」。20歳前後が「プリクラ世代」と呼ばれています。
  若い世代はどんどんiモードを利用しています。こうした人たちがこれからは日本の文化を創って日本を引っ張って行くのだから、そういう人たちの気持ちを我々は知らないといけないなと思いました。彼ら、彼女らはものをしゃべらなくても書かなくても意志を伝達する手法を持っています。丸文字もそのひとつでしたし、言葉も独特のものがあり、メールでの伝え方も絵が入ったり色々です。
  うちの店にもそういう若い世代の新入社員が入ってくると、まずお客様の顔を覚えられない、会話ができない、相手が何を言いたいのかその気持ちを理解する力が非常に弱まっているのを感じます。そうかといって、このお客様はこういう方ですよといちいちやっていたら大変な作業です。
  そこで2度目の御来店の時にはお客様のお名前を呼んでさしあげてキチンとした接客とサービスをしようと話しあいました。うちの店ではお客様にコーヒーを出したり、お誕生日に花を送ったりというサービスもしていますが、やはりいちばんのコミュニケーションはお客様をお名前でおよびすることが基本だと思います。そのために何か、彼女たちの世代のゲーム感覚の中でできるいい方法はないだろうかと考えました。

■お客様の好みをデータ化できるレジシステムの構築
  実は20年前に、NCRのPOSを導入したことがあります。その時かなり費用を使いましたが2度失敗しました。というのは、データが上がってきてもメーカー側の商品がもうない、ファッションは常に入れ替わっているのでデータを読む努力をしてもどうしようもない、色で管理したこともありますがそれも失敗してしまいました。それからしばらくはパソコン、POSに対するアレルギーがずっと残ってしまいました。このへんが、私が情報化に若干出遅れた原因かなとも思っています。
  今回はまず、季節を先取りした展示会にデジタルカメラを持参していくことにしました。今ですと今年の夏物の新作商品の展示会が行われています。そこでデジカメで商品を撮ってきて1人のお客様のためのDMにして、「お客様にこのような商品を仕入れてきていますがいかがでしょうか。到着するのは5月くらいになります。連休頃にご来店いただけませんか」というアプローチをするのです。1人のお客様のためにDMを出せるソフトを活用しました。
  そして、それをやっていくには、お客様の好みや属性がわからないとむずかしい、全く的のはずれた商品をお勧めしてもいけない、ということで、バーコードで単品管理をして過去にお客様が買われたもの、好みがわかるシステムを求めたのです。
  バックヤードではなくフロントでやりたい、若い新入社員が入ってもすぐ使えるようなソフト、新入社員でも誰でも同じように接客サービスができるシステム、こんなワガママを取り入れてもらって実現したのが現在活用しているレジシステムです。
  まず代金に関する部分はレジで処理して、伝票が入った段階でバーコードプライスカードが出てきます。後は読み込み機で入れていくというやり方です。仕入れの時点でタグの半券を回収し、残りのタグの半券は購入時に回収しお客様個人個人に対しての売上という形でコンピュータにデータを蓄積していきます。そのお客様が何を買われたかというデータはずっと残っていきます。例えばあるお客様が今回はパンツを買われたとします。次回は何を求められるかと考えると上着のほうを勧めて、パンツとセットアップという形で着こなしを提案するという接客の形ができるようになります。
  今は決められないというお客様には、試着したものをデジタルカメラで写真を撮り、印刷して差し上げています。これにより持ち帰ってから娘さんと相談するとか、ご主人に見せてみるから、というようなことでサービスの一環となっています。
  また、ホームページの作成も考えているところです。お店は唐津駅から1分のところにありますので何かございましたらお出かけください。どうもありがとうございました。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:34 ヒューマングループ佐世保交通産業   事例発表日:平成12年10月27日
事業内容:自動車学校、観光バス
売上高:不明 従業員数:66名 資本金:1600万円 設立:1953年
キーワード 観光事業、自動車学校運営、
経営情報、コールセンター,全員経営全員コンピュータ、
情報共有
全員経営全員コンピュータ

ヒューマングループ佐世保交通産業 URL:http://www.humangroup.co.jp/

ヒューマングループ佐世保交通産業 代表取締役社長 内海和憲氏
プロフィール

 1973年法政大学経済学部卒業。佐世保交通産業入社。1978年専務取締役及び教育部長に就任、1989年ヒューマングループ代表取締役に就任。

~現場スタッフも皆、経営とコンピュータを理解し生産性の高い企業に~

 先代社長である父の急逝で経営者のポジションに立った内海氏は、なかなかのアイデアマン。自動車学校、観光バス運行という事業において現場のスタッフまでも全員がコンピュータで情報を共有し、経営がわかるような企業に育ててきた。失敗は山ほどある、と笑う氏だが、厳しい経営環境の時でもできるだけ教育やコンピュータ導入等をしてきた結果が実を結びつつある。


■社長になったが経理がわからない、それがきっかけの全員経営全員コンピュータ
  ヒューマングループは、昭和28年創立、もともと自動車学校を運営してきました。1989年、社長であった父が心筋梗塞で急逝し、認可制度の事業ですのでその日のうちに長男の私が社長に就任しました。その後、観光事業にも進出し、貸し切りバスなどを運行しています。従業員は、私が社長になった当時は85名、今は69名です。売上はその当時よりも若干上がっていますが、主力の自動車学校は30%落ち込んでいます。
  突然社長になっていちばん困ったことは、経理がわからない、数字が読めない、決算書が読めないということでした。それで、当時の経理主任に全てを聞いて勉強していこうと考え、1年半やってみましたが全然ダメでした。「先代がやっていたように経理をやってくれ」と頼むと「全て先代社長の指示を受けて仕事をしてきました」との返事で愕然としました。
  そこで自分が勉強するしかないと考え、せっかくだから私一人が勉強するのではなく、みんなにも一緒に勉強してもらおうと考えたのです。ネットワークでいつでも情報をオープンにして共有し、いつでも引き出せる環境を目標としました。そのために経営ということ、数字を理解することをみんなに身につけてもらわないといけない。そうか、全員が経営を身につけたらすごい会社になるなと考えたのが1990年のことです。
  しかし、そう簡単にはいきませんでした。原価償却ひとつにしてもややこしく、私自身よくわかりませんでした。それで、マネジメントゲームを開発した西 順一郎先生には面識があったので相談しました。「全員経営をするためにはこのマネジメントゲームがいちばんいいよ」と勧められました。あわせて、「マネジメントを全員でやるんだったら今からはコンピュータだよ」と言われ、さっそく導入しました。しかし、自動車学校の指導員、貸し切りバスのドライバー、整備工など現場のスタッフから、自分たちは経営をするためにこの会社に入ったのではない、コンピュータなんてとんでもない、という声が上がってきました。そんな状況から始めて10年やってきた取り組みをお話します。

■さまざまな部署で活用されているネットワークによるコミュニケーション
  まず、コンピュータを3人で1台くらい設置しましたが、メールを打たない社員に「どうしてやらないのか」と聞くと、他の人が使っていたせいにするので、すぐに台数を増やし、現在ではパソコン保有率は137%にまでなりました。近い将来さらに増やす予定なので、150%近くになるでしょう。若手ほど自腹を切ってコンピュータを購入する傾向もあります。このように自己投資をしたスタッフには、アメリカ研修をはじめ、色々な研修に参加させています。
  では、現在どのように「全員経営全員コンピュータ」が実現されているのか、各分野において紹介しましょう。
1) 自動車学校の指導員が生徒さんと通信した事例
・ 指導員A
  東京で研修中に、受け持ちの生徒が終了検定を受けることになり、まず会社のPCから指導員Aのiモードに、合格したという知らせが入りました。さっそく、Aは「おめでとう、学科もがんばってね」と生徒さんにメールを送信すると、それを受けた生徒さんは、先生は今、東京に行っているけどメールが来た、と感動する。これがまさしくヒューマンコミュニケーションです。
・ 指導員B
  自分の休暇中に受け持ちの生徒が技能検定合格したと会社から報告があった。早速「合格おめでとう」というメールを打ち、その中で学科試験においてのアドバイスをしました。
・ スタッフは学科の教材などもコンピュータを使って自ら作成できる、授業もパワーポイントなどを駆使してできるまでのレベルになっています。
2) アメリカ研修
参加したスタッフは必ず毎日、何を見た、何に感動した、ということをデジカメで撮った写真を添付して送信することが義務づけられています。
3) 東京での研修
講演を聴きながらその内容を入力して、講演終了と同時に会社に送信しています。
4) 経営情報
常に日次決算まで公開され、数字が見られるようになっています。目標値に対して現状はどうなのか、損益分岐点は、など経営情報が読みとれます。私どもの会社に入社しても、マネジメントゲームをやっていないと経営がわからず、せっかく公開してある情報を見てもチンプンカンプンということです。
5) コールセンター
私のところに都合の悪い情報が上がってこないのを苦慮してコールセンターを設けました。自動車学校に入校されたら「入校ありがとう」「仮免合格おめでとう」「卒検合格おめでとう」などのメッセージを送ります。するとお客様から生の声が驚くほど集まって来ます。それをデジタルデータ化して会社にフィードバックし、より顧客満足に向けて活用します。
6) ヒューマントラベルから仕事が入ると、バスは言われたままに動いていたものが、今ではヒューマントラベルの受注、お客様との打合せのプロセスを情報共有で把握できるようになりました。

■マトリックスな組織で、感動を提供する事業をさらに発展させたい
  よく組織は文鎮型かタテ型かと言われますが、私がコンピュータを使ってわかったのは、そのどちらにも自由自在にできるマトリックス組織ができるのだなということです。ありとあらゆるコミュニケーションが自由自在にネットワーク上でできるのです。「全員が経営計画書を作成できるようにしたいね」とやってきましたが、利益だけでも営業利益、経常利益、純利益などがあり、むずかしいです。それが、マネジメントゲームをやることで自然と理解をしていきました。すると利益目標が明確にでき、それに向かってチャレンジするようになりました。
  また、私は常に社員と飲み会などを通じて、何をしたいかを明確に伝えてきたことが成功の一因だと考えています。トップダウンのやり方です。
  私どもの商品は物ではありません、スタッフこそが商品です。お客様に感動を与える、それが当社の目指すものなのです。だからこそ、スタッフの質が向上し、経営のスリム化により人数は減っても生産性があがったのです。
  今後の取り組みも描いていて、すでに準備を進めているものもあります。
  自動車学校の卒業生から「私がお世話になった先生、最近どうしていますか?」とよく聞かれるので、だったら近況報告をインターネットで伝えようということになりました。今は、入校する生徒さん全員にメールアドレスを配り、在学中は指導員や会社のコールセンターとメールでやりとりできるように準備を進めています。佐世保自動車学校では、再来年を目処にパワーマックをずらっと並べて生徒さんに開放する予定です。
  システムについては、情報系から基幹系に入ったのはやりやすかったと思います。事務の効率化、業務の合理化はもっともっとできると思いますので、今後の課題のひとつでもあります。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:26 (株)ニュヒーロー   事例発表日:平成12年10月17日
事業内容:自動車整備、中古車販売
売上高:3億2800万円
1999年度
従業員数:22名 資本金:2150万円 設立:1972年
キーワード 自動車整備中古車販売、

インターネットオークション
IT時代における企業戦略と経営者の役割

(株)ニュヒーロー URL:http://www1.ocn.ne.jp/~hero/


(株)ニュヒーロー 代表取締役 城間勇清氏
プロフィール

 軍雇用員などを経て1972年浦添市内でヒーローモータースを設立。20代で独立し、以来一貫して自動車整備および、中古車販売を手がける。経営者としてのリーダーシップを発揮し、いち早く情報化を推進。平成10年からはインターネットオークションに参加し中古車の買付/販売を行なっている。

~映像とデータで見せるインターネットオークションで、質が不安な中古車販売のネックを解消して、売上アップ。~

 沖縄ではお馴染みのヒーローモータース。城間社長は20代で会社を設立し、今日まで一貫して自動車整備、中古車販売の事業を手がけている。県内ではいち早く自社の情報化とともに、インターネットオークションに参加して中古車の買い付け、販売を行っている。車の状態をいかにチェックするかという点で中古車販売はむずかしい。そこで城間社長が見出した方法とは?


■窮状打開の策として情報化時代への対応を決意
  ITについて専門的な知識など何ひとつない私がここでお話する場を与えられたのは、インターネットオークションに取り組んでいるからだということからですが、実はこれは窮余の策だったのです。5、6年前、会社の経営状態がかなり悪化しました。バブル崩壊後、車検台数も中古車の販売台数も落ち込みました。この危機を何とか乗り越えるか、店をたたむか、という瀬戸際にありました。そこへ、産業振興公社さんに手を差し伸べていただき、経営指導等のアドバイスを受けて大変お世話になりました。そのご縁から、情報関係にくわしい経営コンサルタントをお願いすることになり、毎月1回当社に来ていただきました。これがとても役立ち、半年間の予定を1年に延ばしてもらったほどです。
  その戦略的な経営を考える部分で、これからはパソコンの時代だ、情報の時代だと考え、社内への情報投資を図ることになりました。社内には非常にパソコンに詳しい幹部が何名かいて、私が戦略的にこれからこうしたいのだと話した内容をすぐにキャッチしてくれ、実践面で活躍してくれました。
  その後、また他のコンサルタントの方を何人も活用して、最終的には当社とマッチングしたコンサルタントの方と出会えて、営業戦略、販売戦略を構築することができました。

■情報で車を売る
  「情報とは情(なさけ)に報いる、つまりごまかしがきかない、嘘がつけないことが情報化時代の真髄ではないか」と、何かの講演で聞いたことがあり、その考えを私自身も持っています。当社のインターネットオークションは、ネット上で情報を見て車を売り買いするものですが、中古車は値段があってないようなものです。ブローカーまで含めると1000社くらいある中で、ほとんどその車の仕入れ先、車の履歴、車輌状況などが雲にかかってわかりません。お客さんがいくら安いと思って買っても、本当にその値段が適正だったのかな、ということになります。新車だったら定価があり、値引き幅があり、とちゃんとした規定があります。しかし、中古車の値段はトップの胸三寸のようなところがあって、非常に消費者を惑わしているのです。
  当社も10年間ほど、在庫を100台ほど抱えて新聞、ラジオなどかなり広告宣伝費をかけましたが、最終的に何千万円か目減りしてしまいました。30年近く整備工場もやっているから、まがいものを売ったりしたらすぐにクレームが来るし、整備工場にしわよせが行きます。しかし、たくさんの在庫を抱えて、経費がバカになりませんでした。
  そういう泥沼状態のところに、情報で車を売るオートバンクを知りました。そこで、ネットワークのテレビオークションを活用して、ユーザーに真の情報を流そうと考えました。社内で何度も経営会議を重ねて、納得ずくめでやろうと準備を進めました。社長室には端末機が1台ありましたが、1日1回も使わないような状況でした。せっかくアクセスして色々ビジネス情報とか下見検索に使えるのに、毎月リース代を払っているのがもったいないほどでした。これも何とか活用できないかなと考えました。こうして、平成10年2月から中古車のインターネットオークションを立ち上げて、平成11年の6月頃から非常にお客さんが増えてきました。

■予想外に高額車が売れる
  在庫管理にかかる経費は従来の10分の1程度です。
当初の予測と大きく違ったのは売れる車の価格帯です。沖縄は小さい島ですが通勤、通学などの交通手段として車は必需品で、従来、安い車がたくさん売れていました。県内の中古車店舗では200万円、300万円の車をおいているところはまずありません。ところが、実際にインターネットオークションを立ち上げてみたら高額車が売れるのです。最高で小売価格489万円、だいたい150万円から200万円くらいが多いですね。車に詳しいプロやほんとの車好きの方々が来てくれました。そういう方々はお金も持っている優良なお客さんです。そして、高額車だとクレームがほとんどありません。自社の整備工場側も、今までは社長がかなり使いこなされガタがきたを買ってくるのでこっちを苦しめる云々、文句がありましたがそれもなくなりました。
当社は、2つの業界団体に所属していますが、インターネットオークションを行うにあたり、業界の風当たりは相当なものでした。
  もう同業他社からみたら信じられないことなのです、卸値を見せて商売するのかと。企業の経営バランスからいうと、そういう正規のものも売りながら、かなり使いこなされガタがきたものも売って、その埋め合わせをするというか、リスクの部分を補うやり方をしてきました。当社は整備工場の部分である程度生活できるし、ある意味販売業はプラスアルファ的な部分なので、専業のところと感覚が大変ずれてしまうのです。
  私も自分の持論を持ち出して懸命に説得しました。業界団体の理事会などで私が「これからはこういう時代、IT時代だ」と言うと、みんな「IT時代だというのはよくわかる」と言うのですが、続けて「でも10年後だ」と。まだ早いと言うのです。だから私にもインターネットオークションは10年後にやってくれ、と指摘されたりもしました。
  そうこうしているうちに、中古車販売大手のガリバーは進出してくるし、ドルフィン、アップルなども沖縄に進出してきました。わずか1年半ぐらいの間のことです。私はそれを見て、情報化時代の1年は通常の7倍の早さでというのは本当だなあ、と実感しました。
  さらに、最近はiモード、モバイル時代ということで、私もiモードの携帯を持っていますが、これに甘んじてはいられないと思っています。

■映像文化で育った若い世代にフィットした商法
  当社に来ていただければわかると思いますが、800万円くらいかけてインターネットカフェテラスとしてパソコンを8台入れてあり、東京のビッグスリーと、そのビッグスリーに属するオートバンクとか、カーバンクを全部そこに設置しています。客層は若い世代から40代くらいまでいらっしゃいます。そこでアクセスして見てよく車を買っていただいています。
  テレビショッピングやインターネットショッピングは、注文した物が来てみないと完全にはわからない部分があります。そこが消費者にとってまだ不安なところだと思います。しかし、このネットワークビジネスで、私が手がけているものは会社が全責任を負うということで、1年保証付き等をしています。お客さんがオークションで競り落とした車が、何月何日どこのオークションで出品ナンバー何番とちゃんと記されています。決して嘘のつけない仕組みですから、実際に車が来てから問題が生じることはほとんどありません。映像オークションと呼んでいますが、車を肉眼で見るよりも映像で見たほうがさらによく見えようです。
  ことに若者は小さい時から、ファミコン、パソコンをやってきて映像文化で育ってきていますから、映像を真実として見ています。我々が車を仕入れに行く時はパソコンを使わずに、実際に現場まで見に行きます。ところが、彼らはパソコンをいじって、ボッシュのアルミがついている、ナカミチのカーコンポがついている、これは時価50万円はするとか、こういった情報をぽんぽん仕入れています。映像オークションに対する戦略的なものを持っているという気がします。そういうことで、このインターネットオークションによる中古車販売は今非常に好評を博しています。
  私はパソコンはワードさえ打てないレベルです。しかし、当社の若い社員たちは使いこなせます。パワーポイントで会議もやっていますし、社内LANも1年半前に入れて、IT化は県内の町工場では当社がトップではないかと自負しています。要するにビジネスは儲かるための仕組みですから、どういうことに主眼をおいてこのITなるむずかしいことに挑戦していくかが我々の課題ではないでしょうか。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:37 (有)ニコニコ酒販   事例発表日:平成12年12月9日
事業内容:酒類販売
売上高:不明 従業員数:5名 資本金:300万円 設立:1986年月
キーワード 酒類販売、
焼酎専門Webショプ、ビジネスモデル特許
コンテンツ自作、ショッピングモール
鬼ヶ島焼酎探検隊~インターネットによる焼酎販売~
  

(有)ニコニコ酒販 URL:http://www.hapima.com/sh/nikoniko/shop/

(有)ニコニコ酒販 森永哲夫氏
プロフィール

 佐賀県大町町出身。86年(有)ニコニコ酒販設立。99年8月ネットショップ「鬼ヶ島探検隊」開設。今や、関東、関西からも数多く注文を集める焼酎ネットショップ販売「鬼ヶ島焼酎探検隊」を展開中。

~まずやってみる、そして工夫をしていく。それがインターネットビジネスの成功の秘訣~

 インターネットショッピングはすっかり定着した感があるが、焼酎に特化したところは珍しい。その事例として、マスコミでも取り上げられている鬼ヶ島焼酎探検隊を訪ねてみよう。


■インターネットをやってみようの気運にのって
  私は、インターネットにものすごく興味があり、4、5年前にそろそろインターネットが始まるよという時にホームページを作りました。1万円で作ってもらいました。それをそのまま載せていたのですが、魅力がなかったのか、早すぎたのか、ほとんどアクセスはありませんでした。
  そして、去年の5月くらいに、当社も何とかインターネットを本格的に考えなくてはダメだなということで、どうしようかと苦慮しました。色々考えて、焼酎というカテゴリーだけを持っていこうと決めました。焼酎といっても色々ありまして、インターネットで商品を扱うからには何百種類も必要になります。まずインターネット上で焼酎を扱っているところを検索して見てみると、ほとんどが20~30種類くらいしか扱っていませんでした。これでは欲しい焼酎がない場合もあるだろうと思い、うちは1,000種類出そうと考えました。やるのは決めたものの、インターネット販売って儲かるのかなと危惧しました。実は去年ホームページを作成したのですが、ほとんどアクセスがなかったのです。では、大きいところ(ショッピングモール)に入ればいいのではないかと色々調べてみて、結局、楽天市場に出店することに決めました。「鬼ヶ島探検隊」という名前は、あれこれ名前ばかり考えていた時に女房から「勝手にしなさい!」と怒られた時に浮かんだネーミングです。

■ホームページを自分で作る、失敗からも学べる
  それで、うちのホームページを楽天で作ってもらうことは可能なのですが、20~30万円かかるとのことでした。最初はその程度の金額で作ってくれるのかと思いましたが、よく考えたらホームページというものは常に更新しなくてはいけません。それなら最初に高いお金をかけて作ってもらっても自分が更新できなかったらしょうがないということで、私が自分で作成することになりました。本を片手にハチマキしながら一生懸命やりました。ところが、今もそうですが楽天市場の場合はホームページ作成用サイトへのアクセスが繋がりにくいのです。お客さんのアクセスと作るほうのアクセスの入るところが違うのです。それで楽天の場合は1つの商品を入れる、商品の名前を入れた場合に、それを楽天とアクセスしてその中に入れ込んで、次回に画面に映像を入れるというように1回1回アクセスしなくてはダメなのですが、繋がりにくくて、1つ写真を入れるだけでも時間がかかってしまいます。このように色々と苦労しましたが何とか見れる状態にしました。
  ところがお客さんから「おまえのところのホームページ動かないぞ」と苦情が来ました。こちらも全くわからないものですから、なんで動かないのだろうという状態でした。結局、知らなかったことですが、商品を1ページに30点くらい画像で載せていたので、重くて動かなかったのです。その時すでに商品を200ぐらい載せていましたから、徹夜仕事を重ねて大急ぎで直した記憶があります。

■焼酎のことなら何でもおまかせ
  実は私はインターネットが何かよくわからないような感覚でした。インターネットとは特別なものではなく、ひとつの販売機関だと捉えていました。でも、まずやってみた。よくインターネット販売のことを聞かれますが、自分でやってみればいちばんよくわかるのにと思います。私はまさにまずやってみる、値段は後からというところがありました。福岡のほうで酒のディスカウントを一番に始めたのも私でした。
  当社のホームページで扱っている焼酎は、普段飲むようなレベルのものから地方の名産品まで500種類あります。こちらが商品を選別して載せるのではなく、何でも載せてお客さんに選別して買ってもらおうと考えています。ホームページでは焼酎が98%、後の2%はワインと日本酒ですが、もう焼酎しか売らない、焼酎のことなら何でも聞いてくれ、という気概でやっています。だから、焼酎探検隊なのです。お客さんの希望する焼酎がうちにない場合にはどこからでも探すというふれこみです。
  梱包は面倒です。大きいもの、小さいものがあり、さらにあれを1本、これを2本とバラバラな組み合わせですから、1個口、2個口、3個口というようにケースバイケースで変わっていって送料もまちまちです。ですから、その度にお客さんに、お宅の場合の送料はこうなりますよとメールを送ります。楽天では注文が来たらすぐ御礼メールを送っていますが、それだけでは足りないと思います。遠くからのお客さんというと北海道からも注文が来ます。
  今は店の合間合間にインターネット販売をやっていますが、年末になって店のほうが忙しくなったらどうしようと思っています。しかし、私が思いますのは、健康じゃなくても重労働ができなくても、3~4時間しか仕事ができない方でも、インターネットにより可能になるのではないでしょうか。そういう方々にこそITを活用してほしいと思います。
  私は、今インターネットを使って新しい試みに取り組んでいるところです。離島の漁港やホテルなどに無人のインターネット端末をおいておき、DVDで常時色々な情報を提供しようと考えています。私のところだったら焼酎を流すとか、ホテルだったら地域の物産などを流します。それでお客さんの中でそれに興味がある人はインターネットを通じて注文ができるという仕組です。これにより離島にいて近くの酒屋で買えないものでも買えるようになるということです。酒税法のからみはありますが、特許も出していて、これがうまくいけば酒業界もがらっと変わると思います。近々、大分の温泉地の観光ホテルに設置する予定で、お客さんはホテルに来られてお土産品を注文される、家に着いた時にこちらから商品を送るという海外旅行でよくあるようなお土産品の販売を展開していきます。

■ホームページは毎日更新、メルマガも発行
  インターネットに絶対必要なこと、それはホームページに常にふれているということです。見ていると半年前、1年前の物もある、毎日動かしている物もあります。毎日動いているものは見ますが、1カ月放ったままのホームページなど誰も見に行きません。ですから、うちでも文字を1文字変えるだけでもいいから毎日更新することを心掛けています。アクセス数は月に約15,000~16,000です。8月に週刊誌に「日本一の焼酎探検隊」ということでうちが紹介された時にも、多くのアクセスがあり、やはり毎日更新することが大事だなと実感しました。また、画面は少し華やかなほうがいいと思います。うちは暗め、明るめ、色々やってみて、やっぱり明るいイメージの時のほうがアクセスが多く、購入金額も結構上がるようなデータを持っています。
  メールマガジン、通称メルマガも、月に2~3回は出したほうがいいですね。メルマガを見て何かあるかな、とチェックして購入される方が少なくありません。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:51 トーマツコンサルティング(株)   事例発表日:平成12年10月10日
事業内容:監査法人
売上高:不明 従業員数:126名 資本金:1億1000万円 設立:1993年4月
キーワード 監査法人、

IT化の提言
情報技術の活用と企業経営
  

トーマツコンサルティング(株) URL:http://www.tcc.tohmatsu.co.jp/

トーマツコンサルティング(株) 江藤 洋氏
プロフィール

 1974年鹿児島大学卒業後、民間企業でシステム部門の仕事に関わる。91年、監査法人トーマツに入所、97年からトーマツコンサルティングの常務取締役としてコンサルティングに従事。情報部門の中小企業診断士の認定取得。

~IT化により、時代はこれだけ動いている~

 企業に関する情報システム分野において豊富な実績とノウハウを持つ江藤氏。IT化のもと、今ものすごい勢いで変わりつつあるさまざまな事象を掲げていただき、そこから我々の目指すべき方向、取り組み視点を説いていただいた。


■IT化を感じさせる、3つの逆転
  まず、ここ1年くらいの間に、私自身、個人的には非常にエポックメーキング的だと思った3つの出来事がありました。これを3つの逆転という言葉で表しています。1点目は、携帯電話の加入者が固定電話のそれを逆転しました。携帯電話はすでに電話の機能を突破し、情報端末、つまりコンピュータの機能を持った携帯機器といえます。iモードの加入者は2000年7月末の時点で1,000万人を越え、その後もさらにものすごい勢いで増えています。2点目は、パソコンの出荷額がカラーテレビを逆転しました。高度成長の代表的なフロントランナーであったカラーテレビに代わるものとして、パソコンが成長してきています。3点目は、データ通信の通信料が音声の部分を逆転しました。このように、今まで主流となっていた固定電話、カラーテレビ、音声電話が、新たな機器の登場によって立場が逆転され、がらりと世の中が変わっていくものと思われます。
  他にもいくつかの象徴的な事例を上げてみます。
  インターネットの普及率が2,700万人、世帯普及率は約20%、つまり5世帯に1世帯はインターネットをやっているということです。2005年にはこれが7,650万人になるだろうというNTTの予測が出ています。
  iモードはものすごい勢いで増えています。松下電器産業の中村社長は、ニューエコノミーとオールドエコノミーの捉え方の中でiモード端末を武器にしているそうです。NTTドコモの携帯電話は全てiモード仕様になるということも発表されました。
  デジタル放送は2000年12月にスタートします。都市銀行はパソコンバンキングからテレビバンキングへ拡げ、家庭の中にATMが入ってきます。
  こういったもろもろのことがITという言葉で表せられる事象かもしれません。

■ネット社会がもたらす、さまざまなビジネスの変化
  では、ネット社会とはどのようなものでしょうか。
  ブリタニカは歴史的な百科事典の会社ですが、60何巻かの百科事典事業を止めてしまいました。なぜかというと、マイクロソフトがCD-ROM1枚で百科事典を作り、ブリタニカほどの中身はないにしろ、みんなそちらに行ってしまったからです。一時期700億くらいあった売上がどんどん減ってしまい、ブリタニカ自身もまた電子出版事業に転換してしまいました。
  青空文庫をご存じでしょうか。今、本屋さんに並ぶ本は毎日ものすごい数が出ていますが、10年くらい前に出たあの本が読みたいとか、絶版された本が読みたいというニーズがあります。それをネット上から配信するビジネスです。著作権などの問題はありますが、一般大衆が望むものが、必ずしも紙という媒体を経由しなくてもとれる時代になっているのです。
  オンラインショッピングでは楽天市場が有名ですね。店頭公開してたくさんのキャピタルゲインを得たとして脚光を浴びています。5万円の出店料を出せば、楽天というWebサイトの中の仮想市場が作れます、という商売です。最近は、あまりにも多くの出店がありすぎて、ユーザーサイドからは使いづらいという批判も出てきているようです。
  インターネットモールは色々なところでやっています。地方の非常に伝統のある酒屋さん、小さい企業で、なかなかそれまで売り先がなかったのが、ネット上で販売を始めることにより、ある程度の量がさばけています。
  オンラインの証券取引も、従来の店頭窓口でやる株の売買に比べて100分の1のコストで済むということで、松井証券などが積極的に進めています。
  国境を越えた取引の例では、最高のものを最も低いコストで調達する仕組みができつつあります。"EC"いわゆるエレクトリックコマースといわれるカテゴリーです。電子自治体もEガバメントと言われ、色々な申告手続きや届け出をどんどん電子申告に移していこうという動きが出てきています。2005年くらいにはかなりの部分が電子媒体による受付になっているのではないでしょうか。

■送り手と受け手、勝ち組負け組の法則も変わる
  色々な事象をあげてきましたが、それでも「俺の所は関係ないよ」と言う方はそれで結構です。ただ次のような状況が出ていることは理解していただきたいと思います。
  1)顧客の転換、並びに顧客パワーの拡大
  これまではどちらかといえば生産者主導、送り手側が強い時代でした。いいものをいっぱい作ってどんどん流せばみんなが買うだろうという考え方でした。それが消費者主導、顧客主導に変わりつつあります。あなたが欲しいものを私が提供しましょうという考え方です。代表的なものは、パソコンのデルコンピュータです。あなたの希望のパソコンを1週間以内にお届けしますということで、ハードディスク、ディスプレイ、プリンター、ソフト、などお客様が要望するものを組み合わせて作り上げて提供する仕組みです。ここには、中抜きという現象が出てきています。中間業者の消滅です。これは、日本でも松下電器など家電メーカーがネット販売を始め、従来あった系列店などを飛び越えてダイレクトに顧客に販売する方式を取り入れたことにも見られます。そういった意味では、中間業者はいったいどういった事業で生き残っていくのか考えなくてはなりません。配送、代金決済、アフターメンテナンス、色々考えられると思います。

  2)技術革新がものすごい勢いで進んでいる
  情報の伝達速度と伝達範囲が飛躍的に向上しています。365日24時間、世界中でのサービス提供が可能だということです。大阪証券取引所にナスダックができましたが、ナスダック本体はアメリカにあり、今度はヨーロッパにナスダックユーロも作ります。そうするとナスダックは世界中で24時間回り続けるマーケットになり、そこに株式上場した企業にとっては非常に流通性の高い魅力があることになります。また、勝ち組企業は1人か2人、みんなが勝てる時代はもうありません。3番手、4番手はもうかなり厳しいでしょう。先行者が全てをさらう、先手必勝的なビジネスモデルを作ったところは成功すれば大きな利益を享受できるということです。このビジネスモデルは、ビジネスの仕組みそのものをITと組み合わせることによって特許となるものです。お金の儲け方なり、仕事のやり方なりの独自性、差別性には価値があるということです。目に見えないものも価値を呼ぶ時代です。トヨタ自動車のカンバン方式はジャストインタイムと呼ばれる管理方式ですが、これもビジネスモデル特許となっています。

■新たなビジネスチャンスを見いだすポイント
  次に、ECの具体的なお話をしましょう。
  BtoBとは、企業間のインターネットを活用した電子商取引です。どのくらいの市場規模かというと、通産省(当時)の調査では2003年までに日本で68兆円、全ての商取引の10%以上がBtoBになるとされています。ネット上でこういう機能が出てくると、不特定多数の顔の見えない買い手がある共通のマーケットの中で取引が成立するようになります。特に自動車、電気など重厚長大型の素材産業の中には、まさにこのような動きがあります。Eマーケットプレイスとか、Eプロキュアメント=電子調達といういい方をされますが、まさにBtoBのいちばんおいしい部分であり、従来の考え方を根底から崩すやり方です。これまで強みだった、がっちりした下請を持っているとか強力なチェーン網を持っていることが、逆に弱みになってしまうのです。系列や過去の実績が意味をもたなくなり、従来からおつきあいしているからそのまま取引が続くということはなく、1円でも安いほうがいいとなればそちらから調達するということになります。こうして業界や国境を越えた市場が出てきています。
  それから、ASP(アプリケーションサービスプロバイダー)も出てきています。これはソフトウエアを自分で持つのではなく、必要な時に必要なだけ使えばいいというものをうまくマーケットプレイスの中に折り込んだサービス事業です。
  BtoBによるEC導入の目的としては、調達コストを下げる、取引条件をガラス張りにする、本当に儲けさせてくれるところこそ我々のパートナーだという絞り込みができるということです。例えば部品メーカーは選ばれると同時に、親会社を選ぶ逆選別もありうるということです。お互いに競争力のある関係を実現するのです。
  これに対し、BtoC、消費者向けのコマースはなかなか大変です。成功しているところはあまりありません。従来の取引コストからみると、米国の例では、銀行取引にしても旅行予約にしても株式取引にしても、極端な話、100分の1くらいのコストダウン効果を実現しています。今現在、日本におけるECのビッグプレイヤーとして、大手コンビニエンスチェーン、ソフトバンク、ソニー、トヨタなどがありますが、BtoB、BtoCのマーケットをにらんで、商流と物流、ロジスティックの流れとお金の流れを、ひとつのネットの中でかなりの部分をサポートしようとしていると思われます。日本におけるプラットホームとしては、パソコン、テレビ、携帯電話、ゲーム機、コンビニエンスストア等があげられます。皆様の事業がさまざまでしょうが、どういったものが使えるのかを考えていかなくてはならないと思います。そこにビジネスチャンスが見いだせるといえましょう。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:52 (株)ダン   事例発表日:平成13年8月6日
事業内容:靴下の企画・製造・卸・小売、フランチャイズ・チェーン
売上高:84億円
2000年度
従業員数:88名 資本金:2億272万円 設立:1977年3月
キーワード アパレル、フランチャイズ制、靴下専門店、繊維業界、
顧客中心主義経営、在庫削減、人材開発、売れ筋把握、
POSシステム、SCM
「ダン・ネットワークシステムとマーケティング戦略」

(株)ダン URL:http://www.dansox.co.jp

(株)ダン 常務取締役 丸川博雄氏
プロフィール

昭和18年生まれ。大和証券を経て1967年(株)ダスキンに入社。経営企画室長として、アメリカ、ヨーロッパなどと提携する事業を日本に導入する際のコンピュータ・システムの構築などを手がける。その後関連会社の代表取締役に。1988年(株)ダンに入社、1996年から常務取締役として現在に至る。

~ネットワークが支える顧客中心主義経営~

靴下の卸・製造業の(株)ダンは、全国に「靴下専門店」というユニークなフランチャイズチェーンを展開し小売でも急成長を遂げている。これを支えているのが川上の工場から川下の店舗まで全てをネットワーク化したサプライ・チェーン・マネージメントシステム(SCM)である。豊富な品揃えで若い女性の変化しやすいニーズに的確に応え、しかもどの段階においても無駄な在庫を持たず、売れ筋商品が最適なタイミングでお店に届くという「店の隣に工場があるような」体制をゼロから創り上げた丸川常務にここに至るまでの業務革新への発想からシステム化内容までお話しいただいた。


会社概要
企業名 株式会社ダン 創業 1968年(設立1977年)
代表者 越智 直正 資本金 2億272万円
社員数 88名 売上高 本部売上 84億円(平成13年2月期)
事業内容 靴下の企画・製造・卸・小売、フランチャイズ・チェーン靴下屋の展開
店舗数 214店(直営68、FC146)

株式会社ダンの、ビジネスチャンスを逃さず、利益の阻害要因となる在庫を無くすという考えで構築されたPOSシステムについてのビデオ紹介の後、講演をいただいた。

小売りに業界がなかった靴下業界、情報化に苦労
  私は知人の紹介で14年前に株式会社ダンに入社いたしました。当時の株式会社ダンは、マーケティングカは非常に素晴らしいものを持っているが、システムは何もございませんでした。私は、ダスキンやミスタードーナツ等14の企業のシステム構築や予算化等に携わってきましたので、殆ど、どんな事業でもシステム化、フランチャイズ化はできる自身を持っていましたが、お話を伺っているうちに、この業界の難しさを知り、お断りをしました。しかし、社長より「丸川さん、何もないからやりやすいでしょう。中途半端にあったらやりにくいと思う。私も一緒になって徹底的にやるから、一緒にやりましょう」とお話をいただき、入社いたしました。
  最初に、社長にどんなシステムがいいですかといろいろお話しを伺いましたら、「店の横に工場があるようなシステムを作ってほしい」。これが一番目です。二つ目に、「店頭と同じ呼吸をするメーカーさんという形でつないでほしい」。これは非常に抽象的なんですが、おっしゃっていることは絶対問違っていないという想いがありました。
  当時ダンは卸屋で、全国に小売店がありましたが、営業マンが各店に訪ねていかないと、靴下売り場が減り、マフラーや手袋や帽子が売られたりする。こういう状況では、経営の安定化は絶対に図れない。まして靴下というのは、小売りに業界がないのです。これが情報化で一番苦労しました。アパレルでもメーカーさんには靴下組合という業界がある。卸もレッグニット組合という業界がある。小売りになると最近でこそ電話帳に靴下屋ってありますが、当時はまったくありません。それと同じなのが、ネクタイで、小売りに業界がない。それから、手袋もタオルもない。これ、全部今苦しんでおられる。なぜ苦しむのかというと、情報を集めることができないからです。そうしたら出てくる答えは、自分たちで集める方法しかない。これが出発の原点です。

小売への進出、フランチャイズ制の導入-情報化は人海戦術版POSで
  そこで、社長自らが自分で作った靴下を自分でコントロールできる店が欲しいということで、神戸三宮の三愛さんに約10坪の売り場を出しました。これが私どもの出発です。だから、卸としては延々と続いてきましたが、その10坪の小売りコーナーに、初めて社長が納得できる靴下を並べたわけです。
  それから、フランチャイズ・チェーン1号店として久留米に店ができて、私が入社した頃にはそういう店が30店舗ありました。どう運営がされていたのかというと、靴下のゴム口の所に管理カードというのを付けて、それに自分で5桁の番号とカラー番号を2桁付けていたんです。お店でお客さんが買ってくれると、それをはずして1週問分ためて本部に送る。本部にはアルバイトがたくさんいて、模造紙にそれを種類ごとに貼っているんです。よく考えると、POSの人介戦術版をやっていたわけです。
  全国で30店舗分の情報をつかんでいますから、メーカーさんもその情報に基づいて物を作るということで、情報化をするという土台ができた会社だったのです。これでPOSを入れたらその情報は簡単に引けるのですが、繊維業界においては、取引に関する契約が整理できていない点もありまして、フランチャイズを提案しました。これは結果論になりますが、フランチャイズというのは中問である卸と小売りを契約で結んでいます。
  メーカーに対してはどうしたかというと、実は組合を作り組合法という形でこれも約束事の中に入れる、当時そういうことで進めました。

当初は役に立たなかったPOS情報
  そして、POSの方についてなんですが、最初は15店舗に導入し、本部に情報を集めて、情報に基づいて経営を行う。その15店舗の情報で、300店舗のメンバーズショップのお店に何か役に立つのかというと、基本的に役には立ちません。情報というのは最低何店舗分なければ役に立たないという、これ原理原則です。本当は100店舗分ほしかったのですが、50店舗分作ってから情報として活きてくることができました。
  店側からいえば、情報を本部が利用しているだけで、お店にとって何かメリットがあるのかと言われたら、なかったんですね。しかし、途中でメリットを付加することができます。現在はPOSで本部に発注ができるという所まで持ち込んでいますので、お互いにメリットがある形になった。
  本部に集めた情報をメーカーさんに100%持ち込んで、商品を作ってくださいとお願いをしましたが、いろんな理由があって実際にメーカーさんは情報を見ません。見ているのですが、役に立たないから見ない。なぜかというと、店頭で集めた情報を全部本部にオンラインでつないで、その情報を全部メーカーに渡します。平均的なメーカーさんで、大体50品番扱っています。これをカラー展開していますので、10色展開すると500足になります。500足ということは、コンピュータ画面に500行数字が出てきます。昨日どれだけ売れたのかというのが、5桁の色で昨日29足としますと、29行ダーッと続きます。これが一体何を意味しているのかメーカーさんでは分からない。
  どこに一番問題があったかというと、そのメーカーさんの商品が果たして260店舗全部で展開しているのか、10店舗でしか展開されてないのか、150店舗で展開されているのかが大きな問題なのです。
  二つ目に、売れ出しても、お店に在庫がある靴下とない靴下とで、また違ってくるわけです。そして、本部に在庫がたくさんあったらどうなるのか。お客さんが昨日買ったという情報だけで慌てて物を作ったら大変な目に遭うということが起きたわけです。そうしたら、メーカーさんはどうしたらいいのか、毎日毎日の細かい動きを見てもさっぱり分からない。分からなければ、1週間分ためて見たらどうか、1週問分ためるのだったら手作業でやっていたときと一緒だ。ということで、まったく役に立たないということが分かりました。

メーカーへの発注中止、メーカーは物流センターの在庫の補充で過剰生産を抑制
  現在はメーカーさんに、これだけの靴下を作ってくださいという注文をやめました。注文をやめたら、メーカーさんは何に基づいて商品を作ったらいいのかというのが、先ほどビデオで見ていただいた、物流センターのあそこに棚があります。お店から注文が来たら、棚から商品が減ります。減った分を補充してください。それがメーカーさんの売上ですよ。ということにしたのです。そうしたら、メーカーさんが見に来ないといけない。そこでこの物流センターは、メーカーさん8社全て車で10分で来られる範囲内である広陵町のど真ん中に作りました。ですから、毎日見に来られる。そして、毎日のデータと両方見てやっと分かりだしたというのが今のPOSです。

内見会、展示会、数入れの中止で不良在庫削減
  アパレル業界では、春夏秋冬の前に現在9割までが内見会、展示会というのをやっています。オーナーに来ていただいて、数入れというのをしていただきます。これが注文です。その数入れに基づいてシーズン当初に、お店に商品を送り込みますが、これも止めました。何故かというと、フランチャイズというのはマクドナルド、ミスタードーナツ等々にありますように、成功を売るというのがコンセプトになっています。こういう店を作って、こういう看板を掲げて、作り方はこうで等本部が全部教え、マニュアルで全部徹底されています。その基本は素人でもできるというわけです。脱サラでもできる、これがフランチャイズの非常に大切なところです。
  靴下屋も店頭、店舗はきちんと本部が作ります。それと商品も全部本部から送り込みます。売り方も全部教えます。そうしたら素人でもできますということでやりながら、数入れをオーナーにさせるというのは矛盾しているのではないかと。なぜかというと、3ヵ月目のオーナーさんも15年目のオーナーさんもいる。この靴下が売れる、売れないという判断はなかなか難しい。それから、大体1シーズン700品番の9000アイテムが動き、立ち上がりで350品番の4000アイテム位が店頭に出ます。どの靴下の隣にどの靴下を置いてとか、どのグループをまとめてとか、実際に店頭の棚に商品を並べてみます。そして、40年からやっている社長以下デザイナー、営業マンが見え方というのを全部工夫して、このように置いたらいいという形で店頭に送り込むということを現在はやっています。だから、お店からの注文は受け付けないという形で立ち上がるようにしています。
  内見会では、仮受があります。例えば400品番の6000アイテムを並べるとすると、必ず一番注文の多いものから、一番注文のないものまで6000番の順番がつきます。そうするとメーカーさんは、オーナーが一回も店頭で売れてないのに注文していったのを眺めて、店頭で一つも売れていないのに、注文がきたときにすぐ売れるように、この分を仮生産する。仮受の上に仮生産が乗る。そうしたら何が起きるのか。店頭でオープンし、蓋開けた時に、もうすでに死に筋が発生している。その死に筋自体がとんでもない数量であるということが分かりましたので、この内見会等をやめてから非常に在庫を少なくすることができました。

店舗経営者・スタッフへの研修を義務づけ-作り手の想いを理解し販売に活かす
  靴下屋というのは専門店。専門店の場合、すべて情報は掴んでいますが、一番専門店で大切なのは、結局、店自体が専門店としてふさわしくなくてはならない。それは本部が徹底してやっています。その次に商品。この商品も専門店としてふさわしくなければならない。そして、もう一つ大事な事は人です。専門店を名乗って専門の商品を置いておきながら、こういう商品がありませんかと聞くと、まともに応えられる人が殆どいない。これが専門店が苦しくなっていった理由だろうといつも思っています。私どもダンに関しては、フランチャイズですから、店がオープンする前に本部に研修に一週間来ていただきます。この一週間でほぼこの位のマニュアルを全部覚えていただきます。一番大切なのは、朝一番から女の子に工場に入ってもらい、自分で糸を立てて一足の靴下を作ってもらう。これがだいたい夕方までかかります。その出来上がった靴下を見て、社長が「自分で作った靴下をはいてごらんなさい」と言うのですが、今まで履いた人は一人もいません。これはもう宝物にしています。
  実は私どものお店は、全国でフランチャイズ146店舗、直営店68店舗、一般店等々含めて約300店舗あるんですが、フランチャイズ店、直営店の店長で靴下を片手で触ってる人間がいたら本部に教えてください。ということをはっきりと公言しています。なぜ公言できるのかというと、本当にこれだけ人の手をかけて、これだけの想いで出来上がった商品を片手でぞんざいに扱わないように徹底した教育をしています。

お客様第一主義への意識改革-本部もメーカーも全てお客様のための組織
  私どもの経営理念は「お客様第一主義」。どこの会社にもあると思うのですが、その考え方を改めました。どう改めたかというと、ここに糸商さんがある、ここに染色業者さんがある、そして染め屋さんのお得意さんは糸屋さんです。糸屋さんから染めを頼まれなかったら仕事になりません。糸屋さんのお客はメーカーなのです。メーカーのお客は本部です。本部のお客はお店なのですが、お店のお客様が、どう考えてもそれはおかしい。本当は店頭で一足の靴下を買ってくださるお客様が唯一のお客様であって、ここはそのために存在している組織なんだ。だからこの一足の靴下をお買いあげいただくお客様が、本部から見ても、メーカーから見ても、糸商から見てもお客様なんだ。というふうに社内の教育体制から物の考え方から全部変えました。

本部の売り手都合を廃し、店舗から一足単位の発注を可能に
  それから、レジメの中にシーズンということを書いてありますが、私どものお客様の6割から7割が女子高校生です。女子高校生がどういう特徴を持っているかといいますと、1ヵ月に一回小遣いもらいますから、月に一回来店して店頭を見ます。それで前の月に来たときと同じ店頭だったらダサい店なんです。だから、フェイスを変えなきゃならない。バレンタインデー、ホワイトデー、卒業式、入学式、ゴールデンウィーク、このゴールデンウィークにものすごく売れる。文化祭、運動会、クリスマス。それに全部対応しなきゃならない。その時に、お店にとっても、本部にとっても、メーカーさんにとっても、利益を最大に圧迫するのが在庫です。アパレル業界は最後在庫で泣くのです。シーズンの末にドカーンと返品が戻ってきて、利益がどこかに吹き飛んでしまう。これ今の日本のアパレルの9割がやっています。
  在庫を持たないようにするには何が一番いいのか、POSを置いてオンラインでつないでというのですが、もっと原理原則を守らないといけない。これは何かと言いますと、成績を上げるために売り手理論で店に接してはならない。こういう形にしたのです。立ち上がりは店がきちっと構成できるように本部から送り込みますが、それ以後はお店からの注文しか本部は売らない。これはどういうことかと言うと、営業マンが一足たりともお店に押し売りをしてはならない。ものすごく厳しい規則なんです。押し売りは出来ない、でもノルマはある。お店からの注文も一足単位にした。この一足単位というのはアパレルで本当に少ないのです。せいぜい上代で私どもでも800円前後です。800円前後の下代ゆうたら、300円から400円になるわけです。その下代を一足で注文されたどうなるのか。だから大抵の靴下業界は1デカ(10足)単位です。手袋とかでいいますとダースです。ですから売り手側からすれば、一足の注文は嫌なんです。ダースとかデカで売ったほうが売りやすい。しかし、それをしないで一足から注文できるように切り替えました。

店舗でなければ収集できないマーケティング情報-企画の修正に活用
  もう一つ、絶対に本部のコンピュータからは店頭が見えません。だから、店頭でこの靴下が3足売れた、この靴下が5足売れた、どんなお客様がどういう理由で買いにきてくれたか、本部では見えない。お店の店長しかわからない。この靴下はあるクラブ活動で今回買い切りで6足買いました。という形で買っていってくれたとします。次に、もう6足買ってくれるのかというと買ってくれません。こういう状況が全部店頭で読めます。本当に売り場はお店でしか分からない。だからお客様の声、それはお店に聞けとよく言われるのですが、店頭でお客様の声を聞くというのは非常にしんどいです。なぜかというと、アンケートを取っても、アンケートはまともに書いてくれません。それから調査がありますが、本当のことを言ってくれるかどうか分かりません。だけど、私ども靴下屋ではこういうことがあるのです。女子高校生3人位で買いにきます。この靴下どこがええ、悪いとか色が濃いとか、デザインがあーやこーや、ようこれだけゆうなというくらい喋っている。それが本当の声です。自然に聞こえてくるのがいいんですね。
  じゃ、どうするのか。実は私どもの店長さん、アルバイトさん、同じ位の年代です。制服を着ていません。もう一つ理由があります。お客様は商品を触ります。触った商品を元通りきれいに戻してくれません。きれいに並べているだけに、触られると、ものすごく不細工な店になる。それをそのままほっといたら、見るに耐えかねる。これをどう解決するのか。ダンではそれを分からないように店長さん、アルバイトさんが直しながら、お客様の声を収集しています。

お客様一人ひとりのニーズに応えるための新たな挑戦-ここでもITを活用
  これからは、お客様のことを考えて豊富な種類の商品を提供し、しっかりと売っていく仕組みを作らないとだめだということで東京の吉祥寺と静岡の呉服町で、腰から下を触らずに測定できるシステムを導入しました。あなたはSのJJJですね、あなたはLLのJですと出てくる。それを1週間待ってください。そうしたら本部から取り寄せてお売りしますと。店頭にはMとLとJJ位や一番売れ筋を置いて、全てを置かずに済むシステムです。
  個別対応というのも重要で、売り手理論と本当にお客様が要望されていることは全く違うということがあります。実は今回、経済産業局の3月締めきりの経営支援法で私どもは認可を受けました。何をしたのかといいますと、デジタルカメラで足下をパソコンに取り込みます。そうしたらその日はいている靴と靴下が映ります。どんな靴下がいいですかと聞いて、トラッドと言われたらトラッドの模様になる。花柄がいいといったら花柄にばっとなるんです。色もどんどん入れ替えていけるのです。そこに刺繍の要望があれば、刺繍がぱっと入るのです。今日、私は黒い靴をはいてきたけど、白い靴を希望すると、白に変えるとかピンクに変えられるということで、その情報をすべてオンラインで広陵町につないで、1週間後にお客さんに対応できるかどうか、ということの経営革新をやりました。これには行列ができました。それだけ関心があるということですので、どうも売る側が決めこむのではなく、お客様が望んでおられることを達成してゆくことが重要と思いました。

在庫ゼロで販売チャンスを逃さない仕組みを構築
  それから、もう一つどうしても触れておきたいことがあります。全国の靴下屋の統計をとりますと、月曜から金曜日まででだいたい30%から40%の売りです。1週間に対して、土・日の2日間で60%から70%売るのです。ということは店の在庫を同時に一番しっかりとしておかないとならないのが金曜日です。だから月末在庫がどうなるか、月初め在庫がどうなるかもありますが、小売りをやっている限り在庫で一番きっちりやらなきゃいけないのが金曜日、在庫ががたがたになるのが日曜日の閉店時です。日曜日の閉店後がたがたになるということは、元に戻すためにお店は日曜日の閉店後一番に発注してきます。だから月曜日に注文がたまる。これは仕方ないことです。チェーン展開していますからね。そうしたら、この日曜日閉店後に注文をしてくるのですが、月曜日の9時から本部は発送しないといけない。ピッカーさんがピッキングをして発送するのですが、実はこの日だけは6時に広陵町のあの建物はオープンしているんです。そしてメーカーさんに商品を納入できるようにしています。この7月8月は別なんですが、10月に入りますと12月31日まで、土日祭日、メーカーさんは一日も休みません。平均稼働時問が22時間です。日曜日の夜の12時までにオンラインで商品を棚に入れることが出来る。
  なぜそこまでやるのかというと、お店にとっての命は、頼んだ物がどれだけ来るかが知りたいのです。そしてファッション品ですから、100%来るということはできません。なぜなら一足づつ頼んで在庫ゼロで走っていますから。
  このお店からきた注文に対して何%送ることが出来るのか、この仕組みを作るまでは30%から40%でした。納入する前とか、調達する前になりますと、100足注文来ても30足から40足しか店に送れなかった。これが今どの辺まできているかというと、80%くらいまできている。お店に送ることができない商品を、きちっとこの時問帯に把握をして全店にバックして流す。そうすることで、お店はその商品が来ないんだったら代替品を頼みたい。ここまでの仕組みを組んでおります。

業界商慣習を改革、フランチャイズ店との取引代金は自動引き落としに
  もう一つ画期的なのは、このシステム図の中にもありますが、左の下に売上代金回収会社があります。売上代金回収会社というのは、本部がお店に商品を売ります。売ると20日締めの翌月6日自動引き落としで、加盟店さんの銀行口座から自動的に引き落とします。だから今300店舗ありますと、だいたい6億から7億、よく売れる月には10億、このお金を全国のお店の銀行口座から自動引き落としで持ってきて本部に入れてくれる。そうすると何がいいのかというと、お店にとっては売上が100%で仮に仕入れが60%だったら、この60%でまた商品を仕入れます。経営は40%のお金でしなさい。これキャッシュフロー経営です。それを徹底しています。そうすることによってお店が資金ショートを起こさない。
  もう一つ心理的なことがあります。本部から靴下を仕入れていただく。そのお金を本部が自動引き落としで取りに来たときに、お金を用意してなかった場合銀行がどう思うかというのがある。あの店は、一番中心の靴下の仕入れ代金すら払えない、危ないなと銀行は思うだろうと、お店のオーナーは勝手に思っているのです。だから必ずお金は用意してくれます。でも、300店舗全部回収できますかというとできません。振替え間違いとか、少しお金が足りないとか。そんな店がありますので、例えば数店だけ入らなければできなかったのがどこのお店の何万円という数店だけのリストがあるのです。このリストが売掛金台帳になっています。このため、私ども本部には売掛金を管理する女性がおりません。そういう形で二重にも三重にも得だと。

(株)ダンの情報システムについて
  この仕組みはいつ組んだのかと言いますと、私自身が昭和46年に構築したミスタードーナツのシステムと殆ど一緒です。だからいろんな業種業態をコンピュータで作られるとき、もし小売りがあって本部があってメーカーがあってお客さんがおられてというのを組むのでしたら、基本的な図はこの図になるだけで、所々が違ってくるだけだというふうにお受け取りいただけたらと思います。最後になりますが、この図の左にあります社長宅からも、例えば上海でどんな靴下がどれだけ作られているのかということも分かるシステムとなっています。



2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:6 (株)ダン   事例発表日:平成11年10月14日
事業内容:靴下製造、卸
売上高:73億円
(2000年2月:本部)
従業員数:91名 資本金:1億4700万円 設立:1977年3月
キーワード アパレル、フランチャイズ制、靴下専門店、繊維業界、
顧客中心主義経営、在庫削減、人材開発、売れ筋把握
POSシステム、SCM
情報を活用した業務革新
(株)ダン URL:http://www.dansox.co.jp

(株)ダン 常務取締役 丸川博雄
プロフィール

昭和18年生まれ。大和証券を経て1967年(株)ダスキンに入社。経営企画室長として、アメリカ、ヨーロッパなどと提携する事業を日本に導入する際のコンピュータ・システムの構築などを手がける。その後関連会社の代表取締役に。1988年(株)ダンに入社、1996年から常務取締役として現在に至る。

~ネットワークがアパレルを変える。より無駄なく、よりパーソナルに~

靴下の卸し・製造業の(株)ダンは、全国に専門店「靴下屋」を展開し、靴下の中でも伸び率の高いレディース物を扱い成長を遂げている。製造メーカーから、164のフランチャイズ店や58の直営店(53店舗は百貨店)、84の一般店までを全てネットワーク化し、発注から納品、オーダーシステムまで新しい体制を築いている。システム導入によりこの新生ダンを育ててきた丸川常務に現在までの経緯、特長などを伺った。


■会社概要
企業名
株式会社ダン
設立
昭和52年3月
代表者
越智 直正
資本金
1億4700万円(平成12年3月現在)
社員数
91名
売上高
本部売上 73億円(平成12年2月)
末端売上 101億円(FC売上)
取扱商品
ソックス、タイツ、パンティストッキング
URL
http://www.dansox.co.jp

■ネットワークシステムのコンセプト
  コンシューマー・レスポンス(CR)顧客中心主義
   ・1足からの発注(店在庫の減少) ・全品裸陳列(風合いの良さ)
   ・店からの発注(本部から店は見えない)
   ・オーダーブックの併用(見えない商品の発注)
   ・メーカーから本部に自動補充がメーカー売上
   ・本部はデジタルピッキングで店に配送
   ・本部の全在庫はデジタルピッキングの棚にある分

■旧体制の靴下業界、システムのない会社で始めた人海戦術版POS
私がダンに入社した当時は靴下の卸会社でした。取引先は約1400の小売店です。靴下を扱う業界において、製造、卸には業界がありますが、靴下の小売業には業界がなく情報が全く入ってこない状況でした。デパートで靴下の売場を確保するのは大変で、すぐに帽子や手袋に占領されてしまいます。
ダンの越智社長は中学卒業以来ずっと靴下に関わってきた人物で、何とか自前でコントロールできる売場がほしいと願い、私が入社する3年前の1985年に神戸でサンアイさんの中に10坪程度の店を任せられることになりました。メンバーズショップと呼んでいたその店は思い通りに靴下を並べることができ、充実した品揃えや雰囲気のよさが口コミで評判になり、たちまち全国に30店舗ほどに増えました。
私が友人から「いい会社があるけど、システムが何もない。このままだとパンクする。手伝わへんか」と推されて入社した当時は30店舗ありましたが、システムが何もないというのはこういうことかと身を持って知らされました。というのは、30店が30通りの取引形態になっていたのです。委託あり、掛売あり、現金売りあり、振込あり、ひどいのになると年2回しか入金されないような始末でした。ダスキン時代の経験で業種業態問わず何でもシステム化できるという自信を持っていた私でしたが、靴下業界だけは手に負えないと一度は辞退したほどです。
入社した時のダンでは、全国30店舗で、靴下の上のゴムの部分に品番とカラー番号をつけた管理カードを作って貼っていました。お客様が靴下を買った時に店員が管理カードをはずし、1週間毎にためて本部に送るのです。本部では送られてきたカードを模造紙に貼るのです。それを見ると「この品番のこのカラーが全国で売れているんだな」とよくわかり、生産にも活かせました。つまり現在のPOSシステムの人海戦術版です。これをシステム化することを提案したのですが、会社は今のやり方でいいし、レジスターで間に合っているという理由でPOSを導入してくれませんでした。

■フランチャイズをきっかけにPOSシステム導入を図る
POSシステム導入のために考えたのが、フランチャイズです。「フランチャイズとはこういうことですよ」という案を練りました。靴下屋という看板で店を運営していき、靴下屋をやる人からは加盟金と保証金を預からせていただきますと。まず会社として行うわけですから社員に納得してもらわなければならなかったのですが、社員は全員反対でした。社長が「全員反対とはおもろい。やろう。結局このままやったらうちの会社はどっち向いていいかわからない。だからフランチャイズでやろうじゃないか」と言ってくれてやることになったのです。社長がこう決めると社員全員が「わかった」と、次の日から反対したことを横においてついてきてくれました。すばらしい会社だと思いました。
フランチャイズにするのをきっかけに、POSを導入し、本部にコンピュータを入れるというつもりでしたが、会社にはそんなお金も人材もありませんでした。ところが神風が吹きました。昭和62年から検討して63年2月から導入しようと決めたのですが、63年2月といえばちょうど消費税導入が始まる時で店としてはどっちにしてもレジスターは買い替えなくてはなりませんでした。そこで、本部がそういうんだったら、POSがもし安かったら買ってもいいという話が出たのです。早速NECさんに来ていただき、「靴下屋をフランチャイズにしてこんなシステムを作りたい」と黒板に描いて説明しました。その時の黒板の図は今のシステム図とほとんど一緒です。「システムというのはひとつずつ継ぎ足して作るものではない、最初に完成図をイメージして段階的に作っていくものだ」というのが私の持論です。


前職で、サービスマスター等の組立て、アメリカのシステムの組立て方というのを学んでいましたから、技術としてはわからなくても頭ではどうやったらいいかわかっていました。結局、社員の一人をコンピュータ室の責任者に抜擢し、汎用機を入れて、100%外注でソフトを作ってPOS15台を導入して始めることができました。

■フランチャイズ店との取引代金は自動引き落としで

システム図に三井ファイナンスとありますが、これは自動引落しを専門に請け負う会社です。ダンでは、全国のフランチャイズ店に靴下を納めたら、その取引代金は20日締めの翌月6日払いで自動引落しでいただいています。お店に資金パンクをしてほしくない、現金経営をしていただきたいからです。通常の商売では、まず仕入れが立つから仕入れ代金が必要で、商品を売ってその代金を回収するのです。その期間の1カ月、2カ月、3カ月が小さな商店の経営を苦しくすると思うのです。
ダンでは、靴下屋をやりたいという方にはまずそこまで訪ねていって調査、審査を行います。(ちなみに審査の結果、開店がOKとなる率は10~15%)。その時に
・靴下屋をするには10坪の土地が必要で、それは借地でも所有でも構いません。
・建築費が1坪当たり50万円かかります。これは陳列棚まで全部含めた費用です。
・商品を置いていただくのに、立ち上がり時は1坪当たり50万円用意してください。10坪だったら500万円が仕入代金となります。
ということを説明します。その後は、先ほどの自動引落しで行います。
私がダスキンにいた時にスペシャル取引というシステムを作りました。これはお金を送らないと、商品を送らないという厳しいシステムです。ダンはそれよりもきつくないですが、商品を送ったら自動引落しで現金をいただきますので、当社では売掛管理はしていません。三井ファイナンスがコンピュータ管理で自動引落しを行い、引落しができなかったものの連絡がきます。例えば「2件引落しができませんでした」という場合はそのできなかったリストが売掛金台帳になりますので、ペーパー上での売掛金管理はしていないのです。

■小売店舗の在庫削減をトータルシステムで実現
●POSの利用による小売店舗の在庫適正化
まずフランチャイジーである「お店」にPOSターミナルを設置し、本部で情報を加工利用出来る様にしました。お店の立上時に商品を本部から全部送り込みますので開店時の在庫状況も把握できます。またPOSを通して個々の商品の販売数量(出庫数量)と本部からお店に卸した入庫数量が分かります。従って在庫数量も正確に把握できる為、個々の「お店」の在庫状況に付いて本部から随時適切なアドバイスが出来る訳です。

●在庫状況の把握による効果-万引によるロスのチェック
全国の「お店」の在庫状況把握が出来る様になった為、万引によるロス率が低い店から高い店まで順位が付けられます。実際一番低い店と一番高い店のロス率の差は決定的であり、オーナーのお店の運営姿勢に問題がある事が有ります。その場合は営業マンに「あなたの担当のある店はロス万引率が高いんだ」という注意を与える事が出来る様になりました。

●在庫状況の把握による効果-本部内の仮店舗で全国の店舗の商品陳列をシミュレーション
ファッション業界では店頭商品が「死筋」、「見せ筋」、「売れ筋」、「遊び筋」、「育て筋」の5つに分類されます。問題はどれが「見せ筋」なのかを判断する事です。「売れ筋」が売れるためにはどうしても「見せ筋」が必要になるからです。例えば茶色ばっかり並べてもなかなか売れません。それを目立たせるものがいる訳です。デザインも同様で「見せ筋」がないと「売れ筋」も売れません。従ってPOSから挙がってくるデータからだけでは「お店」に置く商品構成を決定する事が出来ない訳です。そこで当社では本部内に仮店舗を設置してコンピュータに保存している全国の小売店舗の商品陳列状況に基づいてラップで自動的に商品を棚から棚へ移動させ、個々の「お店」と同じ陳列状態を再現出来る様にしました。そしてその仮店舗で社長以下40年以上のキャリアを持つ社員が商品を実際に並べて見て、一番お客様にアピールする「ならべ方」を検討して「お店」にアドバイスする様にしたのです。このシステムのおかげで店を新規にオープンしても本部から人間が応援に行かなくても済むようになりました。

●デジタルピッキングの利用で小口受注を実現。
アパレル業界というのは春夏・秋冬で商品が分かれています。一番の問題は7~11月の毎月収益が上がっていても、12月にドーンと返品される事が有ります。そうすると半年間の利益は一遍に飛んでしまいます。これでは経営が安定しませんから売れる(返品されない)商品をメーカーさんに作って頂く必要がありました。そこでPOSで取得した販売データを本部で加工してメーカーさんに提供したのですがデータの表示の仕方が悪かった為に見てもくれませんでした。「どうしたらいいのやろ」ということで知恵を絞り結局、卸業者である当社のシステムを変更する事に決めました。具体的には全国のPOSから送信される発注情報を物流センターの4000個のランプが付属した装置で表示するのです。つまりランプが点灯した商品の数字が3ならばピッカーが3足ピッキングするという方式です。一番簡単なデジタルピッキングですから出荷されると棚から商品である靴下が減ります。そして減った状況を実際にメーカーさんに見ていただいて補充してもらい、この補充をメーカーさんの売上だと言う事にしています。この仕組は当社の取引メーカー全てから車で10分以内の所に物流センターを建設した為に可能になった事です。

●POSとデジタルピッキングの組み合わせシステムの効果
このPOSとデジタルピッキングの組み合わせシステムのいちばん大きな特徴はお店が売れたものをオーダーブックや現物の靴下に添付されたバーコードをこするだけで1足単位から発注可能にした事です。フランチャイズですから当社だけでなくフランチャイジーである「お店」に利益を挙げてもらわなければ組織として成り立ちません。この為には各店舗の在庫を最小限にしなければなりませんから、売り手の勝手でダースやデカ(10足単位)でしか売らないとか、赤、黒、黄色、全部の色を注文しないと送らないと言う従来の方式ではもはや通用しない訳です。

■システムを活用して専門店展開のノウハウ
当社の社長が専門店というのは3つの条件が揃っていないとダメだといつも言っています。1つ目は店として専門店であること。2つ目は専門店にふさわしい商品が並んでいること。ここまでは大抵の店ができているが3つ目ができていない。それはプロに近い売り手が必要だということ。
ダンでは、店頭で販売する女の子に研修の時1日かけて1足の靴下を自分で作らせます。そうすると靴下を作るのにたくさんの工程があり靴下作りが大変である事がわかのです。研修を終えると店頭ではみな片手でなく、両手で大切に靴下を扱います。店頭の話にはもう1つあり、本当の情報は店頭にあるということです。レジスターに入った情報は既に加工された情報なのです。ダンのお客様の7割が女子高校生で2、3人でやって来てお喋りをしながら靴下を選びます。「この柄がもうちょっとこうだったらいいのにね」「この色きつすぎるよね」「ここがこうなっていたらこれ買うのにな」などと好きなこといっぱい喋りながら買い物をするのです。それが本当の情報なのです。女子高校生は自分のお母さんの年代からは買いたくなく、お姉ちゃんの年代から買いたいようですから、店頭ではお客様とあまり年の変わらない子に店長やアルバイトをさせています。制服は着せずにお喋りしている女子高校生のそばで靴下の並べ方をそっと直したりしながら、彼女たちの話を聞き、それを情報として本部に送るという仕組になっています。

■「顧客中心主義」が経営理念。その実行にもシステムをフル活用。
糸商から見たらメーカーがお得意さん、メーカーから見たらダン本部がお得意さん、本部から見たら「お店」がお得意さん、という考え方は大きな間違いです。本当のお得意さんというのは、店頭で1足の靴下を買ってくださるお客様なのです。このお客様に対してシステムが全部構築されていないといけないのです。その認識を浸透させてからはいろいろな面が変わりました。
ある商品が売れ出すと、シーズンの途中で追いかける商品が出てきます。その追いかける商品は売れている商品の対岸に置きます。その商品はバーコードを特殊にしてあり、メーカーさんが店に行って店員にお願いしないと商品を置けない仕組になっています。なぜそこまでするかと言うと、メーカーさんが店頭を知らない、お客様の事を知らない、ということではいい靴下ができないからです。作る人は売場を知らなくてはならないし、売る人は作る場を知らなくてはいけないのです。ですからメーカーさんの仕事は店頭に行くことなのです。
在庫を持たないように発注するには慎重になります。「売れ筋」になると商品がないということが必ず発生します。メーカーさんが機械を24時間回しても間に合わなくなるほどです。店は売りたい、だからこの商品が「売れ筋」になると本部が品切れを起こすだろうと先読みして在庫を抱えようとします。そのへんの信頼関係がシステムのネックになっているのも事実です。お店はフランチャイズですから仕切率が一定です。100で売っているものは本部では60%で出しています。仕切率が一定だから売れる商品が欲しいわけです。メーカーさんはどの靴下を作ったら粗利がどれだけか原材料とのからみでわかりますから、お店が欲しいものと関係なく粗利の高いものを作りがちなので、そのギャップも課題です。このような課題を完全にまとめられたら、このシステムがさらに活きてくると思います。
このシステムは川下から作ってきました。顧客中心主義は1足の靴下を買うお客様が本当の顧客という概念なわけですから、先にメーカーさんに情報をコンピュータに入れてもらうやり方ではなく、情報はこういう理想像を描いて川下から作っていった方がよかったと振り返っています。
この情報投資についてですが、ハードに関しては全部各々の自己負担です。お店のPOSはお店の負担、本社のハードは本社の負担、メーカーのインフラはメーカーの負担で、ソフトは割り勘にしています。例えば200のお店が使うとしたら、ソフトを入れた時に200分の1で負担してもらいます。メーカーさんも同じく、メーカーさんの数で割算して負担してもらいます。本部のソフトは本部で負担。お金がないところから出た知恵で、みんなでやっていこうというのがこのシステムの特長です。

■靴下のサイズ直しや採寸オーダーもシステム化によって実現
アパレル業界は最終的には個別対応になるでしょう。これだけコンピュータの費用が安くなると、店頭で情報を集めて本部で加工して現在あるネットワークシステムを使って個別に対応していこうと考えています。
既に展開しているのはサイズ直しです。大きな女性をターゲットに考えていましたが、フタを開けてみると、9割以上がサイズを小さくして欲しいというものでした。小学校高学年や中学生が、お姉ちゃんの履いているような靴下を私も履きたい。というのが理由の1つです。また、コンピュータを使って即採寸をしてシステムに乗せて出来上がった靴下をお客様に届けるということも東京の吉祥寺と横浜の店などで展開しています。全く宣伝していないのですが、リピーター客がどんどん増えています。メーカーさんからも「靴下に関して坪効率はやめなさい、コンピュータのメディアを使ってどんなサイズの人にも提供できるものを扱いなさい」と言われて、チャレンジしているのです。システム図に出てくるパンスト販売システム、刺繍システム、捺染システムというのがこれにあたります。
海外に出たメーカーさんは安い人件費で安い靴下を作って失敗しました。当社は上海で靴下の爪先をひとつずつかがった靴下を作りました。安い人件費で若い女の子向けに高級品を作れるから海外に出ようと。店頭に並べたら、2週間で3足千円の商品のトップになりました。女子高校生にはメイド・イン・チャイナでも関係なく、いい商品であれば必ず買ってくれるのです。売り手がいろんな思い違いをしているので原点に戻ったほうが良いと思うし、原点に戻るよう心掛けています。

■システム化改善状況
FC店 ・発注商品に対して納品率アップ
  40% → 60% → 85%
・発注から納品までの日数
  不定 → 3日 → 1~2日
・バックヤードにおける店在庫の減少
  95%減
・掛率のシステム化による経営の安定
  バラバラ → FC契約により一定化、多店舗展開優遇システムの導入
・店頭における商品構成の充実
  ABC分析のフィードバック
  棚割システムの稼動
  季節変動指数の応用
  地域特性情報の構築
・店頭販売員の徹底
  本部研修の徹底
  順回指導の充実
本部 ・営業の計算管理を行う上で予算管理から実績管理をすべてホストで処理。事務作業が大幅に減った。
・担当営業が複数の店を管理、指導する能力がアップした。企画、提案型の営業スタイルに変わる。
・トレンドを先取りする商品企画力がついた。
・品揃えを絞り込む事に成功(1シーズン700品番から350品番に)
・返品商品の激減80%減→95%減)・シーズン末の不良在庫の激減(90%減)
・取引決済を自動引落しの契約にした為、売掛金管理店の激減(一部を除いてゼロ)
製造メーカー ・納品率の向上(50%増)
・残糸、残品の激減(80%減)
・工程管理システムによる生産サイクルの短縮(20%増)
糸商 ・調達リスクの激減(50%減)
・納品までの日数短縮(14日~3日)
染工場 ・計画的な加工が実行されている。加工単位を事前にまとめ、最適の釜を使用するため人件費から見ても一番効率が良い。
・加工日数の短縮(20日から一週間)
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:2 (株)タマル   事例発表日:平成12年2月4日
事業内容:レコードの販売(小売)、中古レコードの販売(小売)
売上高:不明 従業員数:75名
1997年4月現在
資本金:1000万円 創立:1928年
キーワード フランチャイズ制、レコード業界、レンタルビデオ、
プレミアムポイント、在庫管理、
1to1マーケティング、POSシステム、オンライン受発注、顧客データベース、商品データベース
当社における情報化への取組み 過去~現在~未来  
株式会社タマル URL:http://www.tamaru.co.jp

(株)タマル 代表取締役 吉岡哲朗
プロフィール
昭和20年6月高松市に生まれる
昭和43年 慶応義塾大学卒業
同年    株式会社タマル入社
昭和46年 同社常務取締役
平成8年  同社社長
昭和57年度 (社)高松青年会議所理事長
昭和61年~ 民事調停委員
大学卒業後直ちに家業のレコード屋であるタマルに入社。父が創業した会社を「兄弟3人で発展させよう」と頑張ってきた。だんご3兄弟的コンセプトを持ったブラザーカンパニーであるが、その枠を越えたいと社員一丸となって本物の企業(公開企業)を目指している。ITへの取組みは早く、そのことを夢の実現への大きな機動力にしたい。情報は瞬時に世界を駆け巡る。その意味で地方発の本物のシステム構築を目指す。
~One to Oneマーケティングへの展開~
アメリカのアマゾンドットコムが著しく業績を伸ばしているのは、顧客ごとのデータベースを活用し、その人向けの情報を発信している強味が大きいことが勝因となっている。
我が国でもさまざまな業界で情報化を駆使した新業態が生まれているが、香川県内でレコードショップを展開している(株)タマルも注目されている企業のひとつである。顧客の嗜好が年代、ライフスタイルなどにより多様化している商品であるが、情報システムを活用し、顧客へのアプローチ、顧客の選別化などを実現した効率的な経営を行っている。

■ネットワーク構想を描いてコンピュータ導入を決意
当社における省力化、情報化への取り組みについてお話しいたします。
当初は、情報化というよりはEDP(エレクトリック・データ・プロセシング)と言われていました。今から20年ほど前より、我々規模の地域の企業でもコンピュータに手が届くような時代になってきました。当時は経済成長のスピードが早く、小売業、流通業では、地方においてダイエーさんとかジャスコさんなどがどんどん駅前進出を果たしており、現在で言う郊外型の一時代前のショッピングセンターが相次いで出店していました。レコードは在庫管理が難しいことから、各ショッピングセンターでは直営ではなくテナント契約での出店となっていました。
当社でも、タマルという社名を店名として出せる場合と出せない場合はあるものの運営を任せられる店舗の計画が4、5店舗ありました。私はまだ若かったのですが、多店舗化に備えて情報武装しなくてはならないなと考え、1979年にコンピュータを導入しました。予算は2000万円少々。当時であれば1店舗出店できるくらいの金額でした。
まずどのメーカーのどの機種にするか、という選定からスタートしました。9社について数カ月間検討し、その検討過程がコンピュータに関する知識を得させてくれたと思います。最後にNECに決めた時、「SE=コンピュータを保守する専門の人間を一人用意してください」と言われ、「そんなの経費もかかるし無理だ」と答えると、購入していただいてもそのシステムがちゃんと動くかどうかわからないのでこちらとしても売れない、という旨の対応があり、「それなら私がやります」ということになったのです。つまり、コンピュータを買ってしまって人を雇うに雇えないから自分でそれを始めたのがきっかけでした。
どうせコンピュータを使って情報化していくのなら、売れ筋情報や、この商品についてはどの店で売れているのか、どの店で残っているか、などのデータを集めたネットワークを作りたいと考えていました。業務の合理化、給与計算、売掛管理、買掛管理、などは私にとっては2次的目的でした。そういうことはコンピュータが計算して答えが出てくるからです。
第1の夢はネットワークによって商品戦略を得ることだったのです。
■POSレジを駆使したシステムで発展
昭和60年にはPOSレジを導入しました。この年は、通産省がバーコードのソースマーキングというのを進めていた時で、レコードにもソースマーキングされたJANコードが印刷され始めていました。
昔はレコード屋さんでレコードを買うと商品の裏に小さな名刺ほどのカードがあり、そこにいつ出た、いつ仕入れたなどの情報が書いてあったのです。そのカードの記録をパソコンに打ち込んだり、市内の近い店ではそのカード自体を本部に持ってきて事務の女性社員がそのデータを入力して、データ蓄積をする方法をとっていました。
導入以前はお金のやり取りとデータ入力が同時ではなかったので情報の精度が90数%で、98%までは上がらない状態で3~4%の情報がもともと狂っているという前提でものごとを推測していました。そうすると、もともとデータが狂っているという発想が社員にあるものですから、なかなか思うような方向に進みませんでした。
POSレジ導入後は、情報入力と金銭入力が同時進行していきますから、情報精度は100%に近いものになりました。不正やタッチミスがない限り、100%情報が正確に集まってくる環境となりました。
それと、POSレジには通信機能もついていますから、各支店で打ったデータがその日の夜には本部のサーバーに集められ、深夜にコンピュータ処理をし、翌朝には発注書ができて、本部から各レコード会社へ注文するというシステムが1985年にできあがりました。
それが本支店間でうまく使えている状況を見た方から、もう少し広いところで活用してはどうか、というご提案をいただき、タマル以外のお店を私どもの支店と同じような感覚で管理をする、つまり依頼するお店にとってサーバーがなくてもネットワーク情報を活かした品揃えができるデータプロセシングを、RESPONS事業と名付けて1990年に始めました。レスポンスとはレコードショップPOSネットワークシステムを短縮した造語です。
1996年には社内にメールサーバーを導入しました。大企業もどんどん導入しているし便利だから導入したいけどまだまだパソコンの高い時代ですから、1人に1台というわけにはいきませんでした。しかし、メールは1人1つずつ郵便受けがないと不便です。1台のパソコンを5人、10人で使うメールなど考えられない。そこで、シャープのザウルスというコストパフォーマンスのいいマシンがあるので、メールサーバーを導入して、社内メールをザウルスで構築しました。
■情報化によりムダなく商機と商圏が広がる
POSレジシステムはNECの6830POSというものを使っていますが、PTOSというOSで、将来を考えると発展性がないと思い、1996年、WindowsPOSの開発に着手しました。店頭情報端末の開発にも着手しました。これを、タマルのタマとマルチのマルをくっつけて、TaMulti(タマルッチ)と勝手に呼んでいるのです。(図 情報システムのイメージ参照)

情報システムのイメージ

同じ年に、ソニーミュージックエンターテイメントの子会社・ソニーミュージックシステムズから、データベースを統合して1つにしないか、というお話があり、承諾して(株)エプシスという会社を東京に設立しました。社長が私で、副社長はソニーミュージックシステムズの社長が務めています。
1997年、Windows版のPOSが完成しました。ちょうどその時3月21日に太田店がオープンしました。それに合わせて開発を進めていたTaMultiの稼働を開始して、本支店間をINS64による常時接続環境にしました。
そうこうしているうちに、今度は(株)エプシスで発表したPOSシステムが日本レコード販売網という卸し屋さんの評価を受け、そこのシステム端末として使われることになりました。先方のつけたACTRESS(アクトレス)という名前で導入がスタートし、1998年12月にACTRESSの第1号店が稼働しました。
今日、レコード業界も大変な不況で新譜を売っていてもあまり利益が上がりません。かねてより名古屋の親しいレコード屋さんから「中古は儲かるよ、中古をやらなくちゃこれからは伸びていけないよ」と言われてはいましたが、乗り気ではありませんでした。しかし、どんどん売上が落ちていく中、社長の仕事って何だろうと考えたのです。
今は株主のために株式の時価総額を上げることが社長の仕事のように言われていますが、私たちのような地域の零細企業にとっては社員がきちんと食べていける状態を作ってあげることこそ、社長の仕事だと思いました。社長が夢ばかり追ったり、きれいごとばかり言ってはいけない、社員が食える道を探すのが社長だと。そこで、名古屋のレコード屋さんと中古ビジネスを一緒にやることにしたのです。システム開発能力はうちにあり、中古の運営能力は先方にありました。昨年10月に名古屋に(株)マルスという会社を立ち上げ、私どもで20%出資しました。
中古という言葉はあまり使いたくないので、USED(ユーズド)と表現していますが、通常の商品で売れているものは高く買い取り高く売る、通常の商品で今世の中で動いてないものは安く買い取り安くしか売れません。中にはお宝情報、陰での限定商品などはお客様から高額で買い取り、売る時も新品で発売された当時より高い価格を設定しています。
■お客様への個別情報をメールや店頭端末でアプローチ
当社が現在保有しているコンテンツは商品マスターです。国内盤、輸入盤、廃盤そういうものを約80万件処理しています。しかし、その80万件全てが商品として生きるかというとそうではありません。商品別の売上記録のデータは全国のレコード屋さんでどのくらい売れていますという単品ごとの記録ですが、80店舗分くらいを記録したデータを持っています。
もうひとつが顧客データベースです。これについては新しいPOSを昨年8月に導入したのですが、情報の蓄積は古いシステムを使って昨年12月から開始しました。今後、商品情報データベースには、毎月1500~2000のソフト、新商品が出ますが、それらの発売前に全ての情報について選択していきます。
こういうデータベースをいかに活用して私どものビジネスをより効果的にするか、ということが今後の戦略ではないかと思います。
ACTRESSの第1号店が稼動し始めてから8カ月後の1999年夏には社内のPOSシステムをWindowsに入れ替えました。と同時に、One to Oneマーケット情報発信をレシートに印字することを始め、携帯電話にメール発信できるようにも考えました。いろいろと、お客様を巻き込んだ提案を工夫しています。
まずお客様にはバーコードが入った会員カードを持っていただき、レジでそのバーコードをスキャンするとお客様のお買上履歴のデータベースが開きます。

店頭での接客時1to1のイメージ


購入頻度、直近では何を買ったか、ずっと前には何を買ったか、過去にお買上いただいたものが何点あるとか、などがわかります。そして今回お買上になったこの商品にはどんな特典がついているかの商品情報もわかります。

お客様の買上履歴の表示


こうした顧客情報、コメント、アーチスト情報、商品情報など6つの情報が、接客する店員側に向いたレジスターの画面に表示されるので、その表示を見ながらお客様にいろいろな説明ができるわけです。
お客様に対しては、こんな商品がいついつ発売されますというふうな情報がレシートに印字されます。お買上ごとにプレミアムポイントがつきますが、ポイントカードは持たずに会員カードで兼ねています。レシートにポイントが印字されていますから証拠になるし、お客様は情報を載せたレシートを捨てずに大事に持っていてくださって、うまく機能しています。お客様に伝えたい情報を本部のサーバーにセットすれば、支店では任意にそのお客様が来た時にプリントアウトされる仕組みです。

レシートへのコメント印字


もうひとつのOne to Oneは無人化です。これは携帯電話のショートメールを駆使してやっています。お客様履歴を活用し、このお客様にはこんな情報をさしあげたらいい。という内容を商品の発売情報などと照らし合わせて携帯電話にショートメールで送ります。もちろん、事前にお客様にショートメールの契約をしていただきますが、契約に費用はかかりません。お客様にショートメールを発信すると同時にホームページにそれよりももっと詳しい情報のページを作ります。メールの中には「ホームページにもっと詳しい情報が載っていますからそれも見てください」など商品情報を流し、もしメールで注文いただいたら、いつ頃入荷するかをメールで返信します。「今日はお誕生日おめでとうございます」などいろんなことを考えていけると思います。これらが全部無人化できますから、コストがあまりかからないのも大きなメリットです。

無人1to1のイメージ


店頭では、会員さんが会員カードを使ってTaMultiを使うと、その会員さん向けの情報があればカスタマイズされた情報がホームページとしてTaMultiの中で展開されます。
これらが情報系の戦略です。
業務系では、何が売れて、何をどれだけ注文したらいいのかの情報がわかりますので、それにもとづいてメーカーさんへオンラインで商品を発注しています。メーカーさんからは「こういうものを納品しました」という納品データが、オンライン上で自動的にもう一度POSの方へ戻ります。
先ほどのRESPONS(レコードショップPOSネットワークシステム)についてもう少し詳しく話しますと、従来のオフコンが持っていたコンセプトの継承ですが、品揃えのための戦略システムやOne to Oneマーケティングの機能も付加させています。商品データベース、顧客データベースなど多くの情報を抱えています。
レコード店にとって品揃えをしていく時に、その店で売れた売れないだけではダメで、全国ベースで売れているものであればたまたまその店では売れなかったのではないだろうか、というふうに判断していくことが大切です。在庫しておく商品なのか、もうこれはどこででも売れないから在庫はいらない商品なのか、そういう判断をネットワークデータを通じて、大きな枠組みづくりをしておくとシステムが勝手に判断してくれるのです。これにより、店では自動的に日次の補充発注という業務が素早く簡単にできます。
■待つ商売から、情報発信により新しい業態へ
このように情報化が進んでいくと、真のお客様が誰なのかがよくわかります。つまりお客様をいい意味での差別化していけるのです。たくさん買ってくださるお客様にはたくさん買っていただくお客様に対する接客をする。手のひらを返すというと悪い意味で使われますが、いい意味で手のひらを返すのです。私はいつも社員にこう言っています。「お得意様が来た時には手の平を返すのです。今まで、いつもお買上ありがとうございます、と言っていたら、それよりももっと丁寧な接客をするように。もし自分がそういうお客様の立場だったら、気分がいいでしょう。」
丁寧な接客をされて怒る人はいません。でも、その状況がわかる状況を作らないと、それはできないのです。真のお客様を知る、そしてお客様にマッチした情報を差し上げる、これが決め手です。
従来、私たちの業界はお客様が来てくれるのをひたすら待っているやり方でしたが、このようなシステムを使ってそのやり方から脱却を図り、レコードショップの新業態を開発したいと思っています。顧客データベースなどを活用し、インターネットでの情報発信、香川における音楽シーンのポータルサイトになりたいと思っています。e-メールのあるお客様との連携、CS(顧客満足度)の指針によるハイタッチで魅力的なデータなど。
片一方ではハイテク化を進め、IT化を進めていくわけですが、そうやってお客様を呼び込んで、お客様が来店された時には、お客様が本当に喜んでくださる楽しい店舗である工夫をもっともっとやっていかなければならないと思います。きっと楽しい音楽がある、そういう場でありたいと。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:13 ダイカ(株)   事例発表日:平成12年2月25日
事業内容:日用品卸売商社
売上高:1564億8700万円
2001年7月連結
従業員数:1284名
2001年8月
資本金:38億653万円 設立:1969年8月
キーワード 日用品卸売、
粗利管理、原価率コード、物流設備の強化、
社内開発、物流システム、リアルタイム在庫
当社のC&L戦略
 

ダイカ(株) URL:http://www.daika.co.jp

ダイカ(株) 代表取締役社長 大 公一郎

プロフィール

昭和13年4月 函館市に生まれる
昭和32年3月 函館私立東高等学校卒業
昭和36年3月 一橋大学商学部卒業
昭和36年4月 レナウン商事(株)本社入社
昭和38年2月 同社退社
昭和38年3月 大加十全堂(株)入社
昭和42年4月 取締役営業部長に就任
昭和44年8月 7社合併によりダイカ(株)となり専務取締役就任
昭和54年10月 代表取締役社長(現任)
平成元年11月 (株)ヘリオス取締役副社長(現任)
   <団体の役員歴>
昭和55年6月 北海道卸粧業連合会副理事長
昭和58年5月 共同組合札幌総合卸センター理事(現任)
平成2年5月 全国日用雑貨・化粧品卸連合会副会長
平成5年6月 北海道卸粧業連合会理事長
平成9年5月 札幌卸商連盟会長(現任)
平成12年5月 全国化粧品日用品卸連合会会長(現任)

卸にとって物流の戦略化が決め手。コンピュータとの融合で、物流はどこまで進化できるか

資本金36億円、従業員数約1200名、売上高約1300億円強。北海道・札幌に本社を位置するダイカ(株)は、全国各地に営業拠点を有する卸売業者である。扱う商品は細々した日用品や衛生用品など。業界に先駆けて、戦略化を推進してきた大氏は、先進的感覚に優れた経営者である。


■これからの卸は物流が戦略のポイントと感じた
当社は、化粧品、歯磨き、歯ブラシ、石鹸、洗剤、家庭紙、衛生材料、日用雑貨、ファッション用品、小間物、装飾品をはじめとするコスメティック、トイレタリィ、ペットフードなどの卸売商社です。
今から15年くらい前、東京で仕入先のメーカー様に集まってもらった折、私は社長として経営方針等をお話しました。特に当社の物流システムについて少し詳しく話したのですが、後で出席していた同業者の方から「社長が物流の話を長々とするなんて・・・それは部長クラスがやることじゃないか」と批判されました。私は一言、「物流は卸にとって今、戦略だよ」と応えた記憶があります。その頃はまだ問屋にとって売上を稼ぐ営業が花形で、物流は裏方さんというイメージがあり、ただ注文を受けた品を得意先にお届けする作業という認識しかされていませんでした。
私が「これからは物流が卸の競争の要になる」と思った背景には、得意先からの注文がだんだん細かくなってきたことが挙げられます。世の中が進歩して豊かになってくると、消費者の要求も多様化してきました。たとえばシャンプーを例にしてみても、以前は家族皆で使うファミリーユースが1種類あればよかったのが、今は若い女性は香りのあるシャンプー、お父さんはトニック効果のある男性用とか、傷んだ髪用とか、ヘアスタイルに合わせてとか、さまざまなものが出てパーソナルユースへ事情が変わってきました。そのように品種は増えていきますが、小売屋さんの売場面積は限られていますから、1品当たりのフェースも少なくなり、発注が細かくなってきました。1品当たりの発注量が少なくなって頻繁に注文が入ってくるようになったわけです。いわゆる多品種、少量、多頻度納品です。
このことは、問屋の物流コストから見ると、大幅にコストが引き上がる要因になります。今までダンボール単位で取引していたものが、その中の小箱単位になり、さらにその小箱から2個3個と取り出さなくてはならないような少量になってきました。倉庫から品物を出す仕事をピッキングと言っていますが、これはパートさんがやっています。倉庫から出した品物が伝票と合っているかどうかの検品もパートさんの仕事です。こうした仕事がどんどん増えて行くと、パートさんの人数も増えていくわけで、人海作戦ではもうコストが上がりすぎて経営が成り立たないようなことになってきました。

■物流設備とコンピュータ情報を融合させたC&L戦略
そこで考えたのが、倉庫を広げて、いろいろな棚を設置し、コンベアー、垂直搬送機、フォークリフトなどの物流設備の導入を図ることです。また、倉庫から出荷した商品を配送方面別に整然と並べて配送トラックに積み込むためのスペースを我々は「プラットホーム」と呼んでいますが、これを広く取りました。その結果、仕事はやりやすくなりましたが、まだ十分ではありません。これに、コンピュータ情報をうまく組み合わせてやることによって、受注から配送に至る一連の流れがぐんとスピードアップし、ローコストで、しかも正確に仕事を処理できるのです。
具体的に言いますと、お得意先から受けた注文をそのまま倉庫へ流すのではなく、いったんコンピュータの中で倉庫内のロケーションに合わせて並べ変えます。そして打ち出されたピッキングリストを持って倉庫に入ると、床にはこの順路で歩けという矢印がついているので、それに沿ってピッキングリストのロケーションナンバーの棚に行けば必ずその商品があるという仕組みです。これなら今日入ったばかりのパートさんでもちゃんとその商品のある場所にたどり着くことができます。コンピュータのデータによってどのような商品配置をすれば最も効率よく出荷できるかの配慮がされていますが、このシステムを導入する前は、新しく入ったパートさんが倉庫の中のどこにどの商品があるか覚えるまでに3カ月から半年かかっていました。しかも注文はランダムに入ってきますから、受注伝票を手にして、この商品はいちばん奥だったから最後にしよう、これは手前にあったから先に出そう、などと頭の中で考えながらやっていたわけです。
この、ベテランでなくても最も早くピッキングを完了させられるこの仕組みを札幌支店オーダーエントリーシステムの頭文字を取りSOES(ソエス)と名付けました。物流設備とコンピュータ情報をうまく組み合わせて最も効率よく業務を行うのがC&L戦略です。
もうひとつ、SOESの例で、大きく変わったのは配送のやり方です。それまではできあがった納品伝票を手にして配送担当者、つまりトラックの運転手と助手が、自分たちの配送ルートを頭の中で描きながら、この店に先に行って次にこの店というふうに、伝票を調合していました。それが済んでから伝票の束を持ってプラットホームに行き、積み込みをする。当然配達する順序の逆に、いちばん最後に配達する物をいちばん最初に奥に積み込んでいくわけです。トラックの運転手の判断に頼ったやり方でしたから、伝票の調合に時間がかかり、その頃はトラックが会社を出発するのはだいたい10時半から11時という状態でした。これでは配達できる件数が少なくなるし、運転手もトラックもたくさん必要になります。そこで、コンピュータに南方面なら南方面に最適な配送ルートを記憶させて、その日に届ける物について最適ルートの順に沿って配送日報を出しました。運転手はこの配送日報を持ってその通りの順序で回ってくればいいのです。もうひとつ、トラックに積む順序を打ち出した車積リストも出しました。これを元にどんどん積み込めばいいので、専門家でなくても、アルバイトの学生でもできるようになりました。この仕組みによって、トラックの出発時間は1時間半くらい早くなり、大きなコストダウンにつながりました。
この他にも、いくつも仕事のやり方が変わった部分がありました。物流設備とコンピュータ情報を融合させ、卸売業の受注から配送に至る一連の業務を最も効率よくローコストで行う仕組みの実現により、他の同業者との差別化を図り、得意先が要求する多頻度少量の高度な仕事にも応えられたということです。これが当社のC&L戦略の最初の形でした。
今話したようなことは現在では決して珍しくなく、多くの会社でやっていることでしょう。しかし、今から16年前にこのようなシステムを導入したこと、しかもこれをほとんど自前で開発したことは、評価されるものだと自負しています。

■初めてのコンピュータ導入で、粗利管理を実現。原価率コードを考案。
当社が初めてコンピュータを導入したのは昭和46年10月です。北海道内の7社が合併して今のダイカ体制になってから2年ほど経った時期した。このコンピュータ導入の推進役が私でした。内田洋行さんのユーザックという機械を導入したのです。確か毎月のレンタル料が15万円ほどだったと思います。紙テープにパンチをしてそのデータを機械に読み込ませる代物で、記憶容量は今のパソコンに遙かに及ばない貧弱なものでした。それを使って何をやったかというと、粗利管理です。私がこの業界に入って感じたことのひとつに、売上はわかるが粗利がつかめないということがありました。決算時に棚卸しをすると総体の粗利益は出ますが、管理上必要な月次の粗利がつかめない。そして、セールス別、得意先別、商品別にいったいその商売でどのくらい利益が出ているかがわからない状況でした。手作業でできないことはありませんが、膨大な人手を要してしまうので出来ませんでした。結局、売上しか出てないから、安売りでも何でも売上の大きいセールスマンが大きな顔をして、コツコツ回って利益はがっちり取っているものの売上が上がらないセールスマンは小さくなっているようなことも見受けられました。これでは科学的な商売とはいえません。何とか商売の一つひとつについて粗利益を出したいというのが私の願望でした。
しかし、当時でも3000点から4000点の取り扱い商品がありましたから、これだけの商品の粗利計算は大変なことでした。そこで私が考えたのが、原価率コードです。普通は3000点の商品があれば3000の商品コードを用意しなければなりませんが当時は無理でした。しかし、よく考えてみたら、例えば「キスミー」という化粧品には口紅やマニキュアなど色別でいろんな商品があり100アイテムくらいあります。しかし、小売価格(定価)に対して何掛けで当社に入っているか調べると、これは2、3種類しかないのです。6掛け、6.5掛け、7掛けとか、せいぜいそのくらいです。そこで、メーカーコードを2ケタ取り、その後に6掛けであれば60、6.5掛けなら65という数字を置き、最後にチェックデジットを入れて5ケタの商品コードを作りました。メーカーの数が200くらいでしたから、1メーカーで仮に3種類の掛け率があったとしても600の商品コードがあれば一応その原価は計算できることになります。納入価格は得意先によってばらばらですから、納品伝票に1行ごとに商品コードを記入して、定価、納品価格、数量、これを紙テープにパンチします。するとコンピュータの中で定価と掛け率を掛けて、仕入れ価格が出るのです。それと納入価格の差額を計算するというやり方で粗利益を出すことができました。これをセールスマン別、メーカー別、得意先別に出すことで粗利管理ができるようになったわけです。
各セールスマンには売上予算のみならず粗利予算も持たせて、上司がチェックしては「安かったじゃないか」「利益が少ない」などと言わなくても、自分で管理できるようになりました。自律経営という私の考え方に沿ったやり方です。
こんな昔話をしたのは、極めて性能の低いコンピュータでも業務を絞って工夫をこらせば何とかやれるものだという例になれば、と思うからです。

■他社との差別化の武器を得るべく、自社開発にこだわる。
皆さんコンピュータ導入されていると思いますが、あるいはシステムを変更する場合など、あれもこれもと欲張らずに、最も緊急を要する、または成功の可能性のあるものから順次取り組んでいくことが当然なやり方だと思います。私は今、原価率コードの話をしましたが、これでは在庫管理はできないわけですね。在庫管理は後回しにして業務を絞りました。とかくコンピュータメーカーやソフトウェアメーカーは、「これもできますよ、あれもできますよ」と言うのですが、私は彼らの話は5掛けで聞きなさいと言っています。
当社の開発したコンピュータシステムもSOESから「ADONiS」へ、そして「DARWIN」と発展してまいりましたが、それをシステムアップして、昨年2000年問題のクリアということでさらに分散処理を進めました。本体負荷を軽減して柔軟な現場に対応できるシステムとして、「DARWIN2000」に進歩させたのです。いちばん最初のコンピュータ導入時からずっと自社内開発です。もちろんコンピュータメーカーの力は十分借りましたが、あくまで中心は当社の情報システム部員です。外部に委託するとノウハウの蓄積ができないという私の考えで自社開発にこだわってきました。現在はそれがベストかわかりませんが、少なくとも今までは、これにより他社との差別化の武器となり、どんな得意先の要求にも直ちに応えられるので営業活動に大いにプラスとなったと思っています。
得意先からの受注方法は、90%オンライン受注が主です。直接コンピュータに入ってきますから、いちいち人手をかけて受注内容をインプットする必要がないので大きなコストダウンに繋がっています。この業務も、10数年前を振り返れば、電話で注文が入ってきたり、セールスマンが回って注文を取ってくるのがほとんどでした。
当時、こんなことがありました。あるドラッグストアから注文が来ると電話で30分かかるのです。こちらの女性社員は一生懸命電話で聞きながら注文内容を手書きで書き取り、次に商品コードをつけてコンピュータにインプットするので大変な時間がかかる業務でした。そのドラッグストアは販売力が非常にある得意先ですので、何とかしなくては、と考えたのが、ドラッグストアに発注端末機を無償で貸し出し、それを使って発注してもらうことでした。発注の際に端末機で商品の棚札をなぞる方法でした。
そういうことをやっていた時に、札幌の卸業者が集まり、情報化時代の卸は何をすべきかという研究会を開催したのです。私も参加し、その縁でできたのが地域VAN会社、(株)ヘリオスです。ヘリオスで扱うのは、ひとつの端末機でいろいろな取引先に発注できるというものです。先のドラッグストアで当社が単独でやったことを共同で事業として立ち上げたわけです。これにより、小さな店でも非常に簡単にオンライン発注ができ、合理化ができるようになりました。受ける卸ももちろん合理化できます。99年12月にはヘリオスの設置台数が1000台を越えたと新聞記事になりましたが、全国で最も成功している地域VANだそうで、これは北海道の卸が皆で力を合わせてやった成果といえましょう。

■卸機能の進化を追求してやまない
当社は、平成3年に、リアルタイムの単品在庫管理をスタートしました。全部で30000アイテム、その中には紙とか洗剤など非常に出入りの激しい商品も含まれているわけですが、その全アイテムをコンピュータ在庫と実在庫とぴたっと合わせるのは、理屈では簡単ですが、実際は大変むずかしいことです。私もそのむずかしさをよくわかっていましたからしばらく手をつけないでいたのですが、平成4年に株式店頭公開を予定していたこともあって、その前年から実施の運びとなりました。現在は絶対誤差0.61%まで精度が高まり、月次決算はコンピュータ在庫を基にしてやるところまで来ています。当社の仕入先無返品制度も、単品在庫管理がなくては実現しなかったと思います。
また、台車にパソコンをつけてピッキング時に検品を併せて行える「DREAM」という機械や、二人でやっていた検品作業を一人で済ませられるスキャン検品機「アッテル」という物流機器を、機械メーカーと共同で当社が自社開発しました。これらも成果を上げていて、コンピュータと物流のひとつの接点になろうかと思います。
いろいろお話しましたが、卸機能をどこよりも、ローコストで果たすための戦略、C&L戦略を、これからも進歩発展させ、永遠に世の中のお役に立ち続ける卸商社を志向して、がんばっていく考えです。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:42 (株)ショウエイ   事例発表日:平成12年10月19日
事業内容:循環濾過装置製造
売上高:11億4600万円
2001年度
従業員数:74名 資本金:7000万円 設立:1974年5月
キーワード 循環濾過装置製造・販売、
見積精度向上、
BtoC、CAD、iモード
ITの業務革新
  

(株)ショウエイ URL:http://www.shoei-roka.co.jp/

(株)ショウエイ 代表取締役 辻 永氏
プロフィール

 昭和49年設立。環境濾過装置の製造、販売業。
業務OAシステム、3次元CAD設計、インターネットを利用した総合システムなどを積極的に導入し、顧客の要望に応えた質の高い商品とサービスの提供に心がけている。

~町工場からメーカーへ、自社製品に取り組む企業のIT戦略とは~

 温泉の湯をいつでもきれいに保つための循環濾過装置の製造メーカー、(株)ショウエイは、創業直後のオイルショックから今日まで時代の変化の中で、絶えず新たな事業の可能性を見いだそうと努力を重ねてきた。温泉の濾過装置の開発から販売までを行う現事業により、かつての1億5千万円から10億円を超えるまでになったのである。社員数も97年25名、98年33名、99年55名、2000年64名と増加。コンピュータやネットワークを活かしてさらなる発展を目指している。


■業態の変化とともに、IT化によるシステムづくりを徐々に推進
  当社のIT化の現況は、業務の中にITを取り込みながらシステム構築をすすめているところです。
  まず、会社概要についてお話しいたします。昭和49年設立、最初は下請の板金の仕事が主でしたが、オイルショックの影響で仕事が激減したことから、遊園地の遊具機器など金属加工の分野に転換いたしました。遊戯機械のマーケットもパラダイムの変化で将来性が望めないと思っていたところ、ある時、水処理装置のプラント業務を行なっている会社から、非常に温泉成分の強いところに製品を納める仕事がありました。温泉成分によっては鉄製・ステンレス製などの金属製品が腐食して破損してしまいます。そこで、腐食しない軽い素材、つまりFRPを使ったら市場に受け入れられるのではないかと考えて、FRPタンクを開発して製造したのが現在の業務に転換したきっかけです。このように業態を変化させていく中で、"町工場からメーカーへ"という目標を掲げて展開するにあたり、自社製品の開発、製造から販売までのシステムが必要になりました。そこでコンピュータを活用してシステムを少しずつ作り始めたわけです。IT化を進めるにあたり、最初に導入したソフトは、買掛、売掛を見るTKCの販売ソフトです。その後、財務ソフトも導入いたしました。また、手書きで図面や系統図などを書いていたものを全ての図面はCADで一本化され現在はオートCADを使っております。ショウエイオリジナルの見積ソフト「みつもろうVer6」は、今もマイナーチェンジを行い進化させながら使っているのですが、お客様への見積もり提出速度は業界NO1を自負していまして強力な戦力になっているソフトです。また、従来技術者にしかできなかった技術資料や計算書の作成を「プラン96」と言うオリジナルソフトの開発により、誰にでもすぐに資料提出できるように致しました。この計算ソフトの完成により従来1週間くらいかかる技術計算資料が1~2時間で提出することが出来まして、これもお客様に大変喜ばれております
  その後、LAN、ホームページ作成等に着手し、最近では受発注ソフトを作成いたしまして、いよいよ在庫、生産管理用ソフトの製作に入っていこうというところです。
  私共の業務の流れは、まず引き合いがあり、CADによる系統図の作成、技術計算資料の提出が必要になり、その後、見積書を作成いたしまして、ネゴがあり受注となっていきます。この流れによりオリジナル業務ソフトの中で、いちばん活躍しているのは見積ソフトでして現在はバージョン6です。計算ソフトは「プラン96」の他に「スイミングプラン」などのオリジナルソフトがあります。販売促進のために新製品を商品化した時は、その都度、必要に応じて新しいプログラムソフトを開発していきます。
  WANは営業所と九州工場と本社で立ち上げたものの、当社の規模では必要なかったという感じです。九州に工場がありますが、営業所も、ほとんどインターネットを使って業務を済ませています。WANよりもインターネットが使い勝手が良いのではないかと思います。営業マンやメンテナンスサービス担当者は、ノートパソコンを持って仕事をしておりましたが、現在、営業マンはiモードがあればメール送信や資料を得ることができますので、だれもノートパソコンを持っていきません。メンテナンス担当者については、現場に行ってデジタルカメラで写真を撮り、それをパソコンで本社に送り「ここが悪い」「あそこが悪い」とやりとりをするので、今でもパソコンを持って行くことが時々あるようです。

■ IT化の成果と問題点
  見積速度業界第1位の目標を達成。
見積ソフトのバージョン6の開発においては「誰でも簡単に使用できる」「データを管理できる」「見積速度を業界のNO.1にする」などの目標を当初より掲げていました。このソフトを導入すると、見積日、見積番号、物件、品名、金額などのデータが作成できることはもちろんですが、いつからいつまでにいくら誰が見積もったか、その所要時間はどのくらいだったか、などもわかるようになっています。また、データは社長の私と、役員、社員では役職によって見るところが異なります。
  この見積ソフトの作成における問題点として、DOSからWindowsへの変更があります。ちょうどWindowsが出る前にDOSで作っていましたので、後になって切り替えるのに相当なエネルギーを必要としました。その後はWindowsになっていますからこの問題点は解消されました。
  ソフトは、新しい商品を市場に出す、価格変更をするなど、絶えずマイナーチェンジが必要です。現在バージョン6ですが、もっともっと進んでいくと思っております。また、オリジナルソフトの開発でソフトベンダーさんにお願いする場合に、可能、不可能が明瞭ではなくソフトベンダーさんにお願いすると、たいていの場合「それはちょっと無理ですよ」という答えになります。そこを諦めずに、「どうしてもこういうふうに」と訴え、「ここはこういうふうにしたらどうか」など提案を含めて話を進めていくと、だんだん出来上がっていく事が結構あります。このことを念頭において、自社にあった業務ソフトを製作する事が大切でしょう。オリジナルソフトの「プラン96」熱交換器「豊」の選定プログラムソフトでは、製品開発と同時にプログラム開発を進めました。

■インターネットを利用した新規ビジネス
  将来に向かって、インターネットを利用したビジネスを行いたいと考え、2000年11月から始めておりますのが、「いつくしみ21」です。企業間のBtoBではなく、BtoC、いわゆるコンシューマーに向かっての情報提供を行い、ホームページ上で「いつくしみ21」というパッケージ型露天風呂販売を見ることができます。従来、露天風呂を作るとなると、造園業、庭師などにお願いするのですが、ここではそっくり全体をインターネット上で情報提供して、販売につなげることを目的とします。3Dソフトにより、自分がほしいと思っている映像が取り入れられるので、バックが海の露天風呂など自由に描くことができます。そして、各パーツを選択しながら入れ替えていき、その合計金額、つまり積算がわかる仕組みです。3年前からアイデアを練って準備を進めてきて、ようやく公開できるようになりました。モデルプラントを長崎県の平戸や神奈川県の相模原に作っていて、完成致しましたら、Web上で紹介していきます。
  これからの高齢化社会において、福祉を考え、お年寄りが楽しめる施設づくりととして、「いつくしみ21」を立ち上げました。今後はリラクゼーションをテーマにハードとソフトを合わせたものを提供できる企業になっていきたいと考えております。
  最後に、当社がIT化を進めるきかっけとなったひとつは、ここの5階にあります中小企業支援センターに相談に行き、ご指導いただいたことがきっかけです。また、IT化を進める上で大切なこととして、私共は、M2企画と言う良いソフトベンダーさんと知り合えたことがきっかけでしたが、信頼できるソフトベンダーとコンタクトをきちんと、とっていくことが大切だと考えています。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:45 シャボン玉石けん(株)   事例発表日:平成13年1月17日
事業内容:石けん製造・販売
売上高:不明 従業員数:93名 資本金:3億円 設立:1949年5月
キーワード 無添加石けん製造・販売、
コールセンター、
CTI、インターネット販売
無添加石けんと、その販売戦略
 

シャボン玉石けん(株) URL:http://www.shabon.com/

シャボン玉石けん(株)お客様相談室長 平安寿美子氏
プロフィール

 お客様からのクレーム処理のほか、会報の作成、ホームページ作成・更新、工場見学(昨年は約1万人)を担当。また、要望により石けんや環境問題についての講演を各地で行っている。新入社員教育も担当。

~お客様と信頼を結ぶCTIによるコールセンター~

 シャボン玉石けんといえば無添加石けんの製造販売で業績を伸ばしている企業である。売上高の約半分を通信販売が占め、その受注を支えているのがコールセンターだ。全国からひっきりなしにかかってくる電話をいかに効率よく、しかも真心込めたマンツーマンの応対で処理するのがポイント。Webショップの展開も行っている。パソコン導入以前から受注業務の現場に関わってきた平安氏に、CTI導入のいきさつから成果までを伺った。


■前年度比2ケタ台の受注の伸びについにパソコン導入、そしてCTI導入
  以前、当社は合成洗剤の製造販売をしていて順風満帆でしたが、社長自らの湿しんの体験を機に化学物質を使わない無添加石けんの製造販売に切り替え17年間赤字に苦しんできたと聞いています。しかし、徐々にユーザーが増え、平成3年3月に社長が出版した、自然流「せっけん」読本への反響も出てきました。私はちょうどその頃に入社しました。
  当時の状況は、通信販売の受注処理に女性社員が2、3人しかいなくてんてこ舞でした。コンピュータなどまだなくて電卓と算盤を駆使していました。売上がどんどん上がっていくのに人手が足りず、5日前に受けた伝票を処理しているような最悪の時もありました。その対策として、平成3年11月にパソコンを1台入れ、顧客台帳3,000件のデータを移行しました。その後も売上は前年度比2ケタ台、だいたい20%増のペースで増えていったためパソコンは2台、4台、8台と、まるで家の建て増しのように増えていきました。
  しかし、それでも処理が追いつかない状況になったため、平成9年、NTTのナンバーディスプレイを組み込んだCTI(コンピュータテレフォニインテグレーション)を導入したのです。CTIとは、電話とコンピュータを連動させた受注システムのことで、当社にベストなシステムを組むため導入準備には約1年を費やしました。ベテラン社員も新入社員も色々な要望、条件を掲げて、そこからだぶっているもの、要望の強いものというふうにランクづけをして絞り込み、ミーティングを重ねてようやくシステムが完成、コールセンターが稼働したのは平成10年の3月です。20台のパソコンをLANで繋ぎ、情報を共有化できるようにしました。

■電話を受ける時点でお客様の情報が画面で把握できる
  ナンバーディスプレイですから、お客様から電話が来た時点で、今までに1度でも買っていただいたことのある方でしたら、そのお客様に関する情報が画面に立ち上がっています。オペレータはそれを見ながらヘッドフォンで電話を受けます。例えば山口県にお住まいの田中様で、3カ月前に浴用石けん12個入りを何箱と、粉石けん何個購入していて、その入金の状況もわかります。具体的には「はい、シャボン玉石けんの平安でございます。ご注文でいらっしゃいますか、以前ご注文がございますか」と入っていき、電話番号、会員番号などから「山口県にお住まいの田中様ですね」とわかり「では、ご注文をどうぞ」と注文のページに入り、商品コードと数量を打ち、お届け先の確認をして「私、平安が承りました。ご注文どうもありがとうございました」という応対になります。
  当社の製品は特殊であることから原料、包材等に関するお客様からの質問も非常に多く、それに十分答えられるよう各種勉強会を行っています。それで知識をしっかり身につけ、合わせて画面上に商品情報が入って説明できるようになっています。また、「神奈川県の山本だが、いつものところにいつものものを送ってくれ」という注文にもすでにナンバーディスプレイでお客様が確定できていますので履歴情報から速やかに対処できます。実際に画面を見たらお客様から入金がまだされていないことがわかる場合もあり、そのような時にも失礼のないよう電話の応対の中で確認していくことができます。さらによくあるのが、電話で注文いただいて10分くらいしてから再度かかってきて「さっき注文したんだけれど、あれをもうちょっと追加してほしい」という類の電話です。オペレータは20人近くいて誰が受けるかわかりませんが、情報は全て共有化されていますから、瞬時にどのお客様のどの注文の件かわかり、追加注文も受けられます。出荷情報もわかりますし、品切れだった場合でも品切れ情報がすぐ出るのでその商品を何日後に製造、出荷し、いつお客様のもとに着くかをお知らせすることができます。
  このCTIによるコールセンターのオペレータは全員が営業社員だという認識をもって業務にあたっています。そうでなければ、お客様が電話をプッシュして流れるガイダンスの音声に従って、注文個数を入れれば良いというシステムで済んでしまいます。このシステムを利用してご注文をいただくということは、お客様と密接な関係でいられるための運営の方法なのだといえるでしょう。

■顧客15万人に対し、さらにバージョンアップした活用を目指す
  最初は3,000人だった顧客データ数は現在15万人になりました。この15万件の顧客データを持って電話がかかれば瞬時に情報が立ち上がるようになっているわけです。初めてのご注文の方でもオペレータが画面に郵便番号さえ打ち込めば、あとは番地だけ入力すればいいようになっています。
  平成11年1月にはホームページを立ち上げました。当初はまだホームページで利益を生むとという考えではなく、商品の特異性を全国の方々に知ってもらいたいという主旨でした。1日2、3件だったアクセス件数がどんどん更新していくうちに増え、昨年の11月からはさらに新しくホームページをリニューアル致しました。これは、今まであった要望を活かしたもので、Webショップもあります。そこでの受注は1日平均50~60件あります。情報としては、どこで買えるのか、石けんについてのこと、新着情報などです。当社製品の顧客は、北は宗谷岬から南は沖縄の端まで全国に渡っていますので、Webショップが適していると思います。
  一通り、システムができたところで、どんどん自分達にあったシステムにしていくため、工夫をこらしています。CTIでは、伝票発行、入金処理、荷札発行まで別々のセクションでやっていたものが、今では伝票発行と同時に荷札発行までできるようになりました。次のステップとして、当社仕様の形式による注文ハガキで、この注文ハガキがそのまま伝票となるようなものを目指しています。インターネットのWebショップからは、セキュリティがクリアできれば注文即伝票となるものを考えています。ホームページのバージョンアップも積極的に進めていきたいと思います。

■システムはオーダーメイドの洋服のようにフィットしていく
  CTIシステムの導入における初期投資は約6千万円といったところでしょうか。その後、例えば1つの伝票発行に時間がかかる、電話応対の流れと画面の流れが違うなどの課題が発生する部分を変えていっていますので、そこはシステム管理の費用となっています。しかし、費用はかかってもやればやるほどオーダーメイドの洋服のようにフィットしていきますから、必要なことだと思います。
  経営者側からすれば、以前の手作業でやっていた頃は残業がかなりあったものが、現在のシステム導入によりほとんどなくなったという点からも、投資効果は大きいのではないでしょうか。
  おかげさまでこれまで順調すぎるくらい受注が伸びてきました。お客様に対してインバウンドばかりで、会報を1カ月半に1度発行する程度のアウトバウンドしかやっておりませんが、今後は、注文を受けるばかりの応対でなく「先日発送した石けんがもうそろそろ無くなる時期ではございませんか、いかがでしょうか」とか商品の紹介などアウトバウンドしていくことも必要だと思います。そもそも現システムを構築する時にアウトバウンドできるものというのが前提でしたから、半年前、1年前、2年前とデータを瞬時に把握できるようになっていて、そういう意味では武器は持っているけれども使いこなしていない状況です。コストをかけない方法のアウトバウンドとしては、電子メールで新商品の情報などのご案内を始めています。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:31 サンプラス(株)   事例発表日:平成12年10月24日
事業内容:水道機材卸、住宅機器販売・施工
売上高:20億円 従業員数:42名 資本金:5000万円 設立:1947年
キーワード 機械工具・水道機材・住宅機器販売、
営業利益重視、社員の意識改革、人事制度の再構築、評価制度の改善、
情報共有
私はこうして不況打開をIT導入で業務改善した

サンプラス(株)

サンプラス(株) 代表取締役社長 海田孝雄氏
プロフィール

昭和44年大阪立売堀で実家の機械工具関連商社で4年間修行後、出雲機工㈱入社。昭和60年社長に就任。創業50周年の平成9年社名をサンプラス㈱に改め現在に至る。

~ITを活用し、全社一丸となって新生を図ることに成功~

 バブル崩壊で業績が著しく悪化して苦しんでいる企業、経営者は少なくない。サンプラス(株)も然りであった。しかし、海田社長は、このどん底の中で大幅な業務改善を行い、IT導入の経費を絞り出すことを決意した。この英断と努力は、社員の意識とレベルの向上、ひいては利益向上という成果となってあらわれてきている。


■会社概要
創 業 昭和22年
資本金 5千万円
社員数 42名
売上高 20億円
事業内容 機械工具/水道機材卸・住宅機器販売及び施工
営業地域 出雲市・平田市・松江市及び周辺地域

■21世紀に生き残れる企業への再生を目指して
  バブル期の拡大ムードに乗り、売上とともに借入金も増やしていた当社は、バブル崩壊後、このままでは倒産もあり得るようなドン詰まりの事態となってしまいました。そんな時、コンサルタントの指導を受け、トータルな業務改善を進めることを決意したのです。
  まず、言われたのが、基本的に社員の意識改革をやらないと、いくら機械の導入やIT化を図ろうとしても何にもならない、ということでした。そこで、さまざまな部署の若手を中心にプロジェクトチームを結成し、その中で問題点を抽出していくことにしました。役員もまた勉強会などに積極的に参加するなど、自らの意識改革を実践しました。全社一丸となり業務改善に取り組む方向となっていきました。その上で、パソコンサーバーを導入することにより、フレキシブル、かつスピーディな対応を目指し、平成9年からはじめて現在に至っています。投資の決定は平成10年で、投資額は3,000万円です。開発期間に1年を要し、平成11年10月に運用を開始しました。
  部分的なことでは効果がないと判断し、総合的に取り組むことを決意してスタートしました。企業存続が危うい危機感の中で、社員のやる気を喚起し労働意欲を高めたい、今後の市場環境に通用する実務体質を養成したい、厳しい環境下で利益が生めるようにしたい、つまり、21世紀に生き残れる企業体質を目指したのです。

■ステップ1/IT化の前準備、業務改革
(1) これまで計画の立案はトップダウンで行ってきましたが、それは社員の主体性をなくし責任感が非常に薄くなるという、デメリットがありました。売上が上がらなくても、利益が上がらなくても自分には関係ないというような部分が感じられたのです。そこで、部門主体で事業計画を考える体制に変革をしました。上期、通期で事業計画の反省会を行なうようにしました。上期にこれからの新しい事業計画を、各部門ごとに検討したものを発表させ、それを通期に渡って結果発表させました。すると、やはり社員の自覚、責任感に変化が見られるようになりました。
(2) 社員の質を向上させるため、教育の機会も増やし、管理教育、現場教育などを充実させました。
(3) 売上重視から営業利益重視へ考え方をシフトしました。
(4) 担当の常務が引き受けていた部分を、各部門の部門長に責任を持たせ、マネジメント能力を高めるように図りました。
(5) 営業マンの個々の業績評価を変え、営業能力、付加価値能力を高めるようにしました。
(6) 各部門の実態と決算予測が見られるようにしました。
(7) 社員のやる気を喚起するため、人事システムを再構築。成果主義賃金制度、能力主義を導入。また、コンサルタントに賃金の低さを指摘され、まず底上げとして、県内の平均賃金に近づけるよう全社員の昇給を実施しました。
(8) 複雑な職制や名前だけの職位を廃止しました。
(9) 不採算部門の撤退、本社統合などにより大幅なコストダウンを実現。しました

■最新のサポートシステムを構築
  こうした業務改善の結果に基づくサポートの仕組みを情報化したのが当社のIT化です。現場の導入事例を掲げてみますと、
(1) 営業マンが今まで個人化していたお客様のデータや、情報をパソコンサーバー導入により共有化。売上予測、受注計画を進めていくうちに、情報のオープン化につながりました。これにより、担当者の不在時に顧客から電話があった場合でも、アシスタントがパソコンを見ながら「先日の御見積の件でしょうか」などと適格な対応ができるようになりました。
(2) パソコンを1人1台体制にし、業務効率を高めました。
(3) 水道機材部には、毎朝7時50分から9時頃まで、水道設備業者が商品を取りに来ます。従来は、各業者が紙に書いてきたメモを見ながら女子社員が品物を出して伝票を起こし渡していましたが、間違いがあったり業者によっては、伝票の手間が違ったりして時間的ロスが大きい状態でした。これもパソコンサーバー導入により、あらかじめおおかたの品物をインプットした上で、その場で即時に伝票に打ち込んで商品がすぐ出せるようにしました。

■さて、その評価は?
  では、業務改善及びIT化による成果を、改善前と改善後を比較してみてみましょう。売上は、改善前は22億7,700万円、改善後は21億1,300万円で減少してはいるものの、粗利率が15.4%から16.3%にあがっているので、内容的には悪くないと思います。経費は、年間約3億3,900万円から、現在では3億円を切るまでになりました。利益は1,900万円だったものが現在は3,600万円。自己資本率は10.5%から13.9%へ増えていて、30%を目標としています。また、財務体質を高めるために未処分利益の中から別途積立金を多くしようということで、未処分利益中の別途積立金の占める割合が59%から71%にまで増えています。
  社員の評価としては、予算達成者が増加しました。19名の営業マンがいますが、57期にはそのうち4名が予算目標を達成しました。それが58期には19名中10名が達成と伸び、社員の質の向上を実感しています。
  在庫は、年間の在庫がだいたい9,700万円だったものを7,500万円に、つまり2,200万円の圧縮を実現しました。仕入担当者はデータを活用して売れる物はそのまま、あるいはたくさん買うようにし、売れない物はほとんど仕入をしない、というようなメリハリをきかせたやり方ができるようになり、在庫の適性化が図れました。
  また、オフコン時代の指定伝票を書いたり、もう一度書き直してインプットしたりするなどロスの多い作業が解消されたので、3名の間接人員を省力化し、営業へ配置転換を行いました。

■IT導入を振り返って
  こうして4ヶ年のIT化を柱とした業務改革推進を行ってきた中で、結果を恐れず勇気を持って推進することが大切なのだと実感しています。意識の改革というものは、経営者である私、及び社員、特に古い社員の意識を改革していかなければできないと思います。また、能力の開発とともに、社員それぞれが自主的な取り組みを行うような仕掛をやっていくことがポイントです。会社としては具体的な表示をすることです。例えば、「今度から給料をこれだけ上げます」「自己資本比率を30%に上げます」というように。家族手当の見直しまで実施し、明確に表示しました。
  結果的に、IT導入において、目的を明確にして総合的に取り組んだことにより、目に見えて実績が上がったのだと思います。あの時、平成9年に苦しい中でこの導入を決意しなかったら、恐らくもっと事態は悪化していたのではないでしょうか。IT化にはお金がかりますが、やっていかないと時代に取り残されて脱落していくのではないでしょうか。企業の課題を解決するためにはこのITが本当に不可欠なものだと確信しています。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:39 サンエス電気通信(株)   事例発表日:平成12年10月12日
事業内容:電気、通信設備工事
売上高:不明 従業員数:136名
1998年12月
資本金:1億5000万円 設立:1958年4月
キーワード 電気・通信設備工事、

グループウェア導入、情報共有、データベースマーケティング
ネットウエア時代の経営戦略
  

サンエス電気通信(株) URL:http://www.sanesu.co.jp/

サンエス電気通信(株)代表取締役社長 宮田昌利氏
プロフィール

 1984年学習院大学経済学部経済学科卒業。サンエス電気通信(株)及び(株)サンエス・マネジメント・システムズの代表取締役社長。

~グループウエアによる情報の共有化を軸に、データベースマーケティングを図る~

 釧路において電気通信の企業を経営する宮田氏は、青年会議所など地域振興にも注力し、IT時代への対応を図るべく努力を続けている人物。事例講演では、まず前段として、アメリカがリードするIT時代、日本のIT化の現状などについてデータとともにレポート的な内容を述べられた。確実に時代をとらえている宮田氏は早速自社においてIT戦略を推進している。その一例が、グループウエアである。


■情報戦略の第一歩は、社内体制を見直すことから。
  今日、我が国でもIT化がかなり進んできていますが、時流に乗り、eビジネスをやろうとホームページを作ってもなかなかむずかしい状況です。まず、やるべきことは自社内の情報インフラの整備だろうと思います。例えば社内ネットワークの整備が挙げられます。といっても、ただコンピュータをネットワークに繋ぐだけではダメで、トップから全員がパソコンを使うような状況が必要です。
  また、企業の理念や方針を明確にし、それに合わせて組織を変え、意思決定のスピード、行動のスピードが求められる時代に対応できなければなりません。
  顧客満足を収益に変えていくマーケティングも重要になってきます。これは既存顧客中心の1to1マーケティング、あるいはカスタマーリレーションシップマネジメントということですが、決して難しいことではなく、今買っていただいているお客さんの管理をちゃんとしてあげているかどうかがベースとなります。
  それから企業にとって、いま会社が持っているリソース、優秀な営業マンの経験や知恵など、損益計算や貸借表には出てこない部分も重要なポイントであり、こうした情報の共有化も大切です。
  当社ではこうした状況をふまえて、グループウエア導入を図りました。まだ途中段階ではありますが、事例として皆さんにご説明します。

■自社を見つめ、ビジョンを掲げて、今年の重点目標をたてる
  まず、変革の時代において会社の新しい方針を作るために、中心メンバーを選定し、2000年4月期に社内でのプロトコルを作り上げました。自分たちのルール、自分たちのビジョンという意識を形にしたのです。会社組織はピラミッド型になっていますが、カンパニー制を導入し、責任や役割を明確にしました。
  当社、サンエス電気通信も子会社のサンエス・マネジメント・システムズも社名にサンエスがついています。サンエス=3Sとは、サービス、スピーディ、セイフティ、というお客さんを大事にする基本理念に基づいています。そしてまた、我々が目指すべき3つのSという意味では、サクセス(業績をあげて成功する)、セルフリアライゼイション(自己実現をする)、ソーシャルコントリビューション(税金を払ったり、地域に何か貢献したりする)。営業マンに大切な3Sは、スマイル、スピーディ、シンセリティ(誠実さ)です。
  こうしたことを確認しながら今年の重要点目標を作成しました。私たちがやろうとすることは、利益の出る事業、顧客の要望を先取りする、現在の事業を核としてはずれない、成長事業を行なうということです。高いクオリティの高成長企業を作って地域に貢献しようというものです。
  そのためにはどうしたらよいか。旧来の管理方法から新しい管理方法を社内で作ることが必要です。
  再編成の目的と重要点目標は何か。役割、責任、権限の明確化、利益主義。
  これらを徹底することでアクションプランもたてました。役職員研修も行いました。また、顧客との関係も見直しました。
  これらのことをしっかりとかためてから、いよいよグループウエア導入となりました。

■社内連絡から顧客情報まで、幅広く活用できるグループウエア
  うちのメンバーだけが入れるグループウエアで、ブラウザー上で使うものにしました。社内の情報共有を図るため、自社内にメールサーバーを置き、各自メールアドレスをもち、メーリングリストも作って活用しています。
  例えば、「社屋の塗装があります」という連絡がある部長から入ってきます。それから「演奏会が近々あります」「来週講演会があります」等々の連絡事項が回ってきます。カンパニーごとに分かれて行っていて、来春、ISO取得予定のサンエス電気通信では、それにあわせて社内に勉強会を設ける予定などもここで知らせています。グループ内で情報交換を進める重要な役割を果たしています。
  取引先の情報は、クリックすると、内容が出てきます。会社の理念、2000年度の方針、会社のカタログなどもここに入っています。
  また、新聞記事でおもしろいものがあった場合も、ここで見ることができます。今までの紙媒体だと誰かのところにだけ新聞、雑誌があって見逃しているものもありますが、この方法ではみんなで共有していくことができます。業界のニュースなども興味深いものがあれば、リンクをはって見られるようにしています。こうした仕事を行うサーバー管理者が社内にいるのです。
  顧客データベースは、社内のイントラだけでパスワードで管理されていて、お取引の状況が確認できます。当社の各部門ごとに、携帯電話やパソコンを売ったことなどがわかります。PCネットワークで何を売った、ドキュメントシステムでこういうものを売った、いつ頃リースが終わるか、まで顧客データベースに入れてあります。こういった情報が戦略には非常に大事になってきます。これがデータベースマーケティングです。
  データベースマーケティングについて説明します。例えば顧客別売上の順位表が作れます。お客さんが何千とあったらその中でいちばん多く買っていただいているお客さんは誰か。また、社内で扱っている商品別の売上額の順位はどうか。このようにしてわかる本当のお得意様にも、今まではほとんど一般のお客さんと同じように、年賀状を送るくらいのことしかしていませんでした。あとはたまに営業に行く程度でした。これからは、こういったお客さんを逃さないで、がっちりとフォローしなくてはなりません。売上20%を占めるお客さんはゴールド、などとクラスを設定して、ここには役員が半年に1回は必ず伺ってヒアリングをするとか、それなりのフォローをすることが大切な戦略なのです。

■時代に勝つための道具、インターネットをうまく使いこなそう
  皆さんの会社にも会計ソフト、販売管理ソフト、給与計算ソフトがあることでしょう。これらの基幹系あるいは勘定系のシステムからデータをうまく抽出しています。販売管理や会計ソフトからでも売上、売掛があがりますから、お客さんのデータを分析できます。こうして作成した顧客データベース上で色々な分析に応用していきます。そうすると、自社にとって、本当のお客さんは誰なのかが見えてきます。大事にしなければならないお客さんはどこか。どういうニーズがあるのか。それに応えてさらに顧客との絆を強くしていきます。
  新規のお客さんに対するアプローチは、インターネットのホームページでアンケート、クイズなどを行い、まだお客さんになっていない人を引き込むために色々な戦略をとることが必要です。
  コンピュータとかインターネットは道具という位置付けです。今、日曜日に大河ドラマで徳川三代をやっていますが、それを見て思うのは、やっぱり時代を制していくのは意志決定の早さであり、その時にいちばん強いもの、鉄砲とか、早い馬とか、を持っていかに使いこなしていくかということだと思います。国を治めてからもうまく生き残っていくために戦略をたてています。私たちにとってコンピュータやインターネットは、鉄砲や馬と同じように時代の道具なのです。ですから、これをうまく活用して、いまの会社の強みを活かしていく。そして、新規の強みとなるeコマースやASP等を活用して販売に結びつけていき、プラスアルファにしていけばいいのではないでしょうか。
2010.07.08
出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:55 (株)カヤバ   事例発表日:平成13年10月11日
事業内容:ガソリンスタンド、アスファルト・石油製品卸
売上高:13億円
2000年度
従業員数:30名 資本金:6500万円 設立:1963年10月
キーワード アスファルト・石油製品卸、ガソリンスタンド、
トップダウンでの情報化、
ITコーディネータの活用、顧客データベース、車両管理システム、プロジェクト成功の要因
「ガソリンスタンドをカービジネスの拠点にする経営情報戦略」

(株)カヤバ URL:http://www.kayaba.co.jp/


(株)カヤバ 代表取締役社長 萱場 和彰氏
~人中心のサービスを支える統合データベース~

 安売り、規制緩和と厳しい経営環境にあるガソリンスタンド業界。その中で、新潟県のカヤバは、1990年代半ばでガソリンスタンドから、カービジネス全体を扱う「町の車の診療所」として変身を遂げ成長を続けている。しかし、この変身は初めから順調にいった訳ではない。経営上の問題を的確に捉えた萱場社長は、いち早くITの重要性に気づき、お客様を大切にするという経営理念を貫く手段としてITを活用した。また、ここで萱場社長が語るプロジェクト成功のためのポイントは、これからIT化を推進しようとしている中小企業の経営者には示唆に富む。


■会社概要
企業名 (株)カヤバ  設 立 1963年10月 
代表者 萱場 和彰  資本金 6,500万円 
社員数 30名  売上高 13億円(平成12年度) 
営業内容 ガソリンスタンド、アスファルト・石油製品卸 
営業エリア 新潟県内 

■ガソリンスタンド多角化の流れの中で、車検事業に参入
  まず、会社概要を説明させていただきます。1963年10月の設立で私が2代目の社長をやっております。売上高13億円ということでガソリンスタンドとそれから道路舗装用のアスファルト及び石油製品の卸を中心にやっております。
  まず最初にガソリンスタンドの多角化の経緯を説明させていただきます。1996年ガソリンスタンドといいますか、石油製品の輸入の規制が解除されました。これによりまして、本当はそんなに安くなってはいないのですが、我々の中で「たくさん売らなくてはいけない」「そのためには安売りをしてボリュームを増やさなくてはいけない」ということで、価格競争が発生いたしました。時を同じくして、当時の運輸省のほうでユーザー車検の部分で点検項目が非常に少なくなって、一般の人達が参入しやすいような規制の緩和が行われ、全国でガソリンスタンドが一気に車検の分野に参入して参りました。勿論、この規制緩和の中で「ボリュームを増やさなくてはいけない」ということと、もう一つは「付加価値を増やさなくてはいけない」という目的があってのことです。そのために車検を選択したり、あるいは簡易塗装のようなものを行ったり、あるいはガリバーのような中古車の仲介をやったりとかという事業に参入していったわけです。当社も1996年から車検を始めました。あるフランチャイズに入りまして、その当時はガソリンの販売量のボリュームでは全国でもっとも車検をたくさん取っているというところになりました。

■多角化に当たっての壁-低い車検のリターン率、活かしていない顧客接点
  しかし、何年か繰り返しているうちに問題が出てまいりました。車検のリターン率というのがあるわけです。通常2年前に受けたお客様を顧客とし受けていただくことに相当力を入れてやっているわけですが、カーディラーの場合はこれが80%あるそうです。その80%の内訳というのは、廃車ですとか、あるいは転居ですとかということによって自然に減っていくわけです。殆どカーディラーの場合は前回の車検のお客様を取り込んでいるわけですね。ところが当社の場合は僅か50%、半分のリターン率しかなかったわけです。この上がらない車検のリターン率の原因といたしましては、アフターフォローをしていない、車検を取ったあとにガソリンスタンドというのは他のカービジネスと違いましてお客様に接する頻度というのは非常に高いわけです。ですから車検を受けていただく、その2年の間にしょっちゅう給油に来ているわけですね。ところがその接点をうまく使っていなかったということがあります。それは何かというと、顧客データ、せっかく取っていたのにそれを活用していなかったのです。これが大きな反省でした。その結果としまして、従来はこの50%のリターン率ですが、車検をやっている台数は前年よりも多かったわけです。どこにお金を使っていたかと申しますと、販促費。チラシを新聞に折り込んだり、あるいはDM、それからいろんな物をあげたりしてお客様の再来店、再受注というものに使っていたわけです。ですからいつまで経ってもコストが安くならなかったんですね。

■「人中心のサービス」への転換を決意、投資対象を販促費から顧客管理の徹底に

  ここでうちの会社が気が付いたのは、もっとそういうチラシだとかそういう販促にこだわるのではなくて、「人中心のサービスに推移するべきだろう」と考えを展開いたしました。当社は昭和シェルの特約店をやっておりますので、「昭和シェル標準のPOSの後方データ」というのがあったわけです。その後方データから持ってくる履歴を、富士通FIPさんが出しているイーザスという後方データの管理システムがあるのですが、それにうまく利用できていなかったということ。それからうち独自でやっている「車検データ」。それから「ミラーリングデータ」。ミラーリングといいますとIT関係の方々はバックアップのことかなと思いますが、車検の到来が来る、例えば今10月ですが、12月までのお客様に対して車のミラーにチラシを引っかけていくわけです。それによって車番と車検の到来時期をメモしましてそれをデータにしていきます。この3つがうまく関連できていなかったんですね。ですから何が必要かというと複数のDBをリンクして人に配慮した総合データベースというものを構築する必要があったわけです。
  また、接客時の顧客ケアというものも増していかなくてはならないと考えておりました。いわゆる予約管理表というものを、ポストイットみたいなものを使って、事前点検から入庫、それから車検の通検、それから引き渡しというようにしてやっているわけですが、これをシステム化して、車検の受注センター、これは本社側になりますが、そういったところともその情報の共有化をする必要というものに迫られていたわけです。

■バラバラの業務システムを繋ぎ、統合データベースを構築
  今回のシステムに取り組む前の状況は、「車検の見積システム」というものがありまして、全くこれは他と連動されておりません。「昭和シェルの表示のPOS」は、富士通の事務処理センターから当社の本社の給油システムにきます。その下に「車両管理システム」というものがあるんですが、本社と、販売を担当する出先、店頭ですね、全く情報が繋がっていなかったわけです。この辺を改善する必要がありまして、当初は、簡単なシステムでトライし、投資リスクを最少にしました。しかし、顧客データがバラバラだったのが難点だったわけです。
  改善後ですが、先程言った、繋がっていなかった部分を繋げました。POSから事務処理センター、給油履歴システムを経て統一顧客DB、そして車両管理システムに入る、それを車検見積システムのほうにフィードバックする、ということを実は経済産業省の助成金を獲得して、より総合的なデータベースを構築し、マーケティングの効率を向上していこうというふうに狙ったわけです。

■プロジェクト成功の要因-ITCの活用、要件定義を重視、経営者の参画
  この取り組みで成功した要因というのが以下の3つだというように考えられます。まず、
①助成金申請からITコーディネータと係わっていたということ。それから
②要件定義、中小企業はなかなかこの部分に時間とお金を費やすことは出来ません。でもこの部分には時間をかなり費やしました。そして
③プロジェクトオーナーとして私自身が、経営者が責任を持ってやる
ことに留意したということです。
  まず1番目。『助成金申請からITコーディネータと係わる』という部分です。ちょうどこの助成金の公募が今年の1月17日に公募されたわけです。この日が、ITSSPの経営者交流会というものに私参加しておりまして、その最後の会議だったわけです。その日にこれが公募されて非常にタイムリーにその情報を得ることができました。それからITSSPの経営戦略者交流会でビジネスモデルとして私も出しておりましたので、非常に申請する中身を作りやすかったということがあります。そして1月17日から2月16日までがその期間だったのですが、ITコーディネータやコンサルタントの方々、いろんな人達の協力を得まして、この申請書を作成することが出来たということがあると思います。
  それから、『要件定義に手を抜かない』。経営的視点に関してITコーディネータからいろんなアドバイスを受けました。普通中小企業ですとこういう要件定義をするときにそんなに大勢の人数を入れて会議を持つことは出来ないと思うのですが、今回当社の場合は、毎回8人ぐらいの人数で80時間使いました。そういうことに時間とお金を費やす。勿論時間の中にはその知識というものもあるわけで、それが一番大きいのですが、そういったものを使うことが出来た、そしてそこに経営的視点で人というものから視点を外すことがなかったということが言えると思います。何か問題に突き当たると、「人に対して顧客に対する思考でこのシステムを開発していく」のだからここから絶対に逃れることが出来ないわけです。そういう理念みたいなものがあったということが一つ手を抜かない原因にもなったと思います。その中には例えばデータベースの速度を優先するのか、あるいは我々が欲しいものを優先するのか、ということで結構もめたこともありました。あるいは分析データをどのようにするか、今必要な分析データをシステム化してしまうと、暫くすると、こうではなかったということが結構あるわけです。ですから今この部分でお金を使うよりはCSVデータ(注:MS-Excelで扱えるデータ形式)のような形で、自分でそれを、取り回しを良くするというような方法を使って、今回これに関してお金を使うべきではないだろうという結論にも到りました。
  3つ目といたしまして、『プロジェクトオーナーとして経営者が責任を持つ』ということ。まず経営者自ら変わるということが大切だと思います。私も以前のシステムの開発を担当者に任せてしまって、出来上がったらどこに一番注目したかというと現状の専用請求書を作るのに一番お金を使ってしまったというまずい経験がありました。ですから今回に関してはもう絶対に自ら携わろうと考えておりました。
  それから、「専従の担当者を置く」ということが必要だと思います。担当者のことをヨイショするわけではないですが、非常にその専従の担当者は良くやってくれまして、私も自分の経営理念というものを落としていくのは非常に効果的に楽であったと考えております。
  それから、「ノウハウに関して積極的にアウトソースをする」ということが必要だと思います。先程言いました8人の人材を80時間かけて要件定義にかけていくという、この辺はうちにとっても今デモ版、あるいは11月から試験運用に入るわけですが、この辺にいくスムーズさというのは非常にあったと思います。
  そして、あともう一つは「ミッションステートメントを全ての人に理解させる」ということです。これに関してはただシステムを開発してもそのシステムがうまくいくのではなくて、私達の考えていること、会社のミッションステートメント、経営理念というものをどういうふうにしていかなくてはならないか。同時にこの部分も社員に啓蒙していく必要があるわけです。
  以上の3つが、まだ成功はしていないですが、成功の選択として必要だったのではないかと考えております。

■今後の課題
  今後の課題といたしましては、「企画調査」、それから「導入」、この他に「運用」というものがあるわけです。当社もこれから試験運用を始めて行く中で、社員に仕様を落とし込んでいかなくてはならないわけですけれど、今までの私の考え方でITコーディネータが運用まできちんとやってくれたかというと、その辺は非常に疑問な部分だと思います。我々もその部分に関してお金を費やしていたかというと費やしていなかった、というような気がします。ですからこの部分に関しては、今後検討する必要が我が社もありますし、業界としてもあるのではないかな、という気がします。

■開発スケジュール-人材研修も同時に実施
  企画書作成で今年の1月17日から2月16日まで。要件定義で4月の初めから7月一杯、設計も入れますとかかっております。プログラム開発を今、11月の試験運用を目指してやっているところです。これと同時に人に関して注目したシステムを作っていこうということをITコーディネータから指摘されたのが4月の中間でしたので、4月の末に人材研修を始めました。これはワタビフードサービスという新潟の方はあまりご存じないかと思いますが、東京にそういうフードチェーンがあるわけですが、そこのコンサルタントを入れまして人に対するサービス、「顧客満足度をどういうふうに得たらいいのか」という研修をやりました。
  以上が私が取り組んできたことの説明になります。ここでちょっと皆様に今開発しているシステムのデモ版を紹介したいと思います。

≪開発中のカーケアナビゲーションシステムのデモと概要説明≫


デモ担当者(株)カヤバ吉田氏の説明より一部紹介
『最後にお車をお引き渡しする際に必ず精算書を出力するのですが、当社のお客様に対する精算書の考え方といたしまして、会社理念の一部にあるのですが、「お客様に心地よい環境を提供する」という会社理念を念頭におきまして、それはどういうことかと考えた結果、お客様に安心と信頼をいただけるよう見積書イコール精算書という考えを持っておりますので、精算書についても受注確認書に出ました金額と同じ金額、作業内容が自動出力されるようになっております。』

  それでは以上で事例発表を終わらせていただきます。この製作物に関してはオープンソースを考えております。オープンソースの考え方にはいろいろと議論があろうかと思いますが、POSの後方データの接点の部分、ちょっと言い方が難しいのですが、それ以降はオープンソースというような考え方で、これが完成した暁には使えるところにはどんどん使っていただこうと考えておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

前の30件 1  2  3  4  5  6  7

このページのトップへ