事例企業 |
井上畳店(Z002) |
事例発表日 |
平成15年3月 |
事業内容 |
畳製造・販売 |
売上高 |
- |
従業員数 |
3名 |
資本金 |
- |
設立 |
明治44年創業 |
キーワード |
畳製造・販売、ITリテラシ向上 |

パソコンを使って家業をサポート。
今年から教室の先生になりました。
脱サラして畳店の3代目を継いだご主人をサポートしようと、パソコンを始めた井上彩香さん。
今では経理や在庫管理、宣伝用のチラシやDMまでパソコンで自作。
今年マイクロソフトの「MOUS検定」にも合格し、4月からインストラクターとしても活躍している。
井上畳店 井上 采香さん(32歳)
岡山県出身。ご主人は、元自動車部品メーカー勤務。6年前に脱サラして、子どもの頃からの憧れだった畳職人の道を選んだ。
「今はその選択が間違っていなかったんだと思っています」 |
やってきたパソコン、でも使い方がわからない
明治44年に創業、95年の歴史をもつ井上畳店に、最新鋭のパソコンがやってきたのは今から6年前のことだった。
「それまで、店の経理は私の母親と家内が、算盤や電卓を片手に帳簿をつけていたんです。でも手書きですから、古い伝票があとで見つかったりすると大騒ぎ。
ぜんぶ書き換えないといけません。高齢の母親もさすがに根をあげてしまって、パソコンさえあればなんとか改善できるだろうと思ったんです」(井上功次)
もっとも、とりあえず導入してはみたものの、パソコンの詳しい操作方法をまだ誰も知らない。これから勉強するとしてもご両親は、還暦が近づいている。
井上さんは毎日の仕事に忙しい。お鉢は当然のことながら、奥さんの采香さんにまわってきた。
「主人はスグにおぼえられるだろうって、すごく簡単に考えていたみたいなんです。でも、実はこれが大変で・・・」
采香さんのパソコンとの格闘が、このときから始まった。
「まず会計ソフトを買ってきて、試してみました。でも市販の会計ソフトの多くは会社用につくってあって、私たちのような小規模の自営業者には使いにくいんです。
しかたなく、お店にいちばんあったテンプレートを自作するしかないということになって、パソコン教室で本格的に勉強することになったんです」
誤った操作でソフトが破損、独学には限界がある
井上さんは、何も分からないままに、商工会議所が主催するパソコン教室に通ってみることにした。
「でもいざ始まってみると、授業にまったくついていけない。一日で辞めてしまいました。
それからしばらくは、書店でテキストを買ってきて独学で勉強することにしました」
だが、見よう見まねで練習を始めたものの、過った操作で今度はパソコン自身が悲鳴をあげてしまった。
「繰り返し「強制終了」を使っている間に、パソコンの中に入っているソフトウエアが壊れてしまったようなんです。
当然、それまで数カ月間毎日コツコツ入力していた帳簿のデータもすべて消えてしまいました。
すぐに修理に出して一応復旧はしたんですが、いまだに調子がよくないんです」
井上さんは、独学の限界を感じないわけにはいかなかった。
そして数カ月後、新しいノート型パソコンを購入すると同時に、今度は近くにある民間のパソコン教室の生徒募集に応募した。
「この時は私も必死です。教室の先生には、お店の仕事で使いたいからと最初にお話しして、人より早いペースで教えていただくことにしました」
井上さんは遅れを取り戻そうと、週に2回教室に通うこともあった。ようやくトンネルの向こうに明かりが見えるようになってきた。
スグに仕事で使える実践的なテクニックを学ぶ
1年間の"特訓"が実って、采香さんは見違えるほどに腕をあげた。市販誌には書かれていない、さまざまなテクニックをたのしく勉強できた。
「簡単なやり方、新しいやり方、仕事で使えそうなテクニックをたくさん教えてもらいました。毎週教室に通うのが、いつの間にか楽しくなっていました」
それらはさっそく実際の仕事でも使われている。例えば店の普段の帳面は、「Excel」でつくったオリジナルのテンプレートを使用。
試算表もラクにできるようになった。
「単にお金の出入りが書かれているものではなく、いま在庫がいくつあって、どれくらいの原価が発生し利益が出ているのか、材料のストックは十分にあるのか、
主人にいつ聞かれても、今はパソコンの画面を見ながら即答できるようになりました」
これにはご主人も大助かりだ。
「畳職人の多くは現在量を在庫するという感覚がなくて、目の前にある材料が切れたら注文するという人がほとんどです。
でも畳の原料のい草は、農作物で収穫によって相場も違ってきます。計画性をもって材料を仕入れていかないと、価格や利益にも影響がでてしまう。
結局お客さまに迷惑をかけてしまうことにもなりかねないんです。きちんと材料や原価を管理できるシステムが必要なんです」(井上功次)
また確定申告にあたっては、税務署への提出前に毎年書類を税理士にチェックしてもらっていたが、今年はパソコンで作成したものを届けるだけで完了した。
「この頃は、税務署も厳しくなっていますから、バランスシートもしっかりつくらないといけません。だからすごく助かっているんです」
「Word」を使ってチラシやDMも
経理を一通りパソコン上で処理できるようになった采香さんは、最近になって宣伝用のチラシやダイレクトメールもパソコンで作るようになった。
「教室で習ったことを参考にしながら「Word」で作りました。まだまだ完成度も低くて、恥ずかしいんですけれど、待っていても仕事は来ませんから。
出来上がったチラシやビラは、自分で目星をつけて県営住宅やマンションにポスティングしています」
近いうちには、メールを使ってユーザーからの問合せを受け付けるような販促活動も試してみるつもりという。
「この街に、真面目で良心的な畳店があるっていうことを、もっとたくさんの人に知ってもらいたいんです。
他の店とは違うんだということを、どうやってアピールすればいいのか、これからはそんなことも考えながらパソコンをうまくビジネスに役立てていきたいですね」
パソコンと出会い、畳店の仕事に深く関わっていく間に、采香さんの意識も考え方も大きく変わってきたようだ。
「以前は、私自身も畳のよさをまったく知らずにいました。でも主人の脱サラをキッカケにして、義父がこれまで必死に守り抜いてきたものが見えたような気がします。
畳が実は日本人にはいちばん落ち着く空間なんだってこともあらためて知りました。パソコンを使って、私なりに主人をサポートしていきたいと思っています」
パソコンを通じて、井上さんはご主人のよきビジネスパートナーになった。

【強制終了(きょうせいしゅうりょう)】
ソフトウエアがフリーズしてしまった時、特別なキーボード操作でそのソフトウエアを強制的に終了してしまうこと。
Windowsの場合は、「Alt+Ctrl+delete」が一般的。ただし頻繁に使用すると、ソフトウエアが破損する場合がある。あくまで非常手段。
【MOUS検定】
米・マイクロソフトが認定する民間資格。「Word」、「Excel」など、アプリケーションごとに設定され、一般試験・上級試験の2段階に分かれている。
<出典>
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
2003年3月発行 IT活用奮闘記(ITなんてこわくない)
筆者:六田 伸彦氏(ろくだ のぶひこ)
(株)ジェイ・シー・エヌ 代表取締役
ITコーディネータ(0006652001C)・ITCA公認インストラクター、
ITSSPアドバイザー、中小企業事業団登録IT推進アドバイザー
本事例のお問合せ先:
財団法人ひょうご中小企業活性化センター
産業情報部 情報推進課 八木課長様(078-291-8503) |
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