経営改革・IT化事例

経営改革・IT化事例
【事例概要】

1.事例報告者
事例題名 店舗販売のトータルシステム構築に成功したラピタ(J003)
事例報告者 小林 勇治 ITC認定番号 0014082001C
事例キーワード 〔業種〕スーパーマーケット、A-coop
〔業務〕顧客管理、発注・買掛、売上・売掛、商品・棚卸・酒管理、宅配
〔IT〕ECR、POS・EOS、SCM、VAN、FSP、CPFR、CRM、CM

2.事例企業概要
事例企業・団体名 いずも農業協同組合 企業概要調査時点 平成14年11月
URL http://www.jaizumo.or.jp/
代表者 石飛 博 業種・業態 スーパーマーケット、A-coop
創業 平成8年4月 会社設立 平成8年4月
資本金 59億9900万円 年商 367億円
  内店舗販売114億円
従業員数 1、187人
本社所在地 島根県出雲市
事業所 出雲市内本社以外に126ヶ所 内店舗販売9店舗
業界特性 JA内の小売店舗管理
競合他社 ジャスコ、パラオ
リード文  7JAがバラバラのシステムを使っていたものを、合併に伴ってその効果を出すために、考え方、やり方、約束事、ソフト、 ハードを統合しながら支援するコンサルタント独自の「ミーコッシュ手法」を用いてIT・経営間のギャップや矛盾をなくすることで、大きな成果を挙げた。

3.コーディネート内容概略
関与経緯  バラバラのJAをいかにして統合してメリットを出していくかに困っていたのを、コンペ方式でコンサルタントを選択された。 その後6年間にわたってコンサルティングを行った。
事例対象期間
(執筆時点)
コンサルティング期間:平成6年4月~平成11年4月(システム完成平成8年4月1日)
(執筆時点の内容は平成9年4月から11年3月時点)
事例分野 □経営戦略  □IT戦略  ■経営戦略+IT戦略
事例範囲 ■基礎調査
■経営戦略策定  ■戦略情報化企画  ■情報化資源調達
■情報システム開発・テスト・導入  ■運用サービス・デリバリー
留意したこと (1)ITコーディネータとしてIT投資に失敗しないこと。
(2)IT投資効果が確実に出ること。
主な成果 (1)売価変更ロスを3.1%引き下げることができた。
(2)売価を0.7%引き下げたが、粗利益は1.6%向上した。
パッケージソフト情報 パッケージは使用していない

【事例詳細】
1. 企業概要
 当組合は、生産資材、精米、生活用品、金融と幅広く事業を営んでいる。特に、本事例では、生活用品のうちの店舗購買品についての情報システムを説明する。
 店舗購買事業(店名ラピタ)は、本店は写真のような旗艦店としてSM、衣料・家電を直営で、アパレル、玩具、薬局、飲食店等テナントが入居している。 店舗販売9店舗のトータルシステム構築に成功した組合である。



2. 内部・外部環境との関連
 島根県においても、ナショナルチェーンのGMS、ホームセンター、大型家電の進出が活発で、競争が激化していた。
 一方全国JAの方針としても、各単協の合併促進がなされており、当組合もその渦中にあった。 そのような環境下にあり、7JA合併効果をいかに上げるかが大きな課題として上がっていたのである。

3. システム導入の経緯
 当時、当組合では以下のような課題があげられていた。
 ・ 使用していたシステムが10年余りになり、老朽化していたこと。
 ・ 7JA合併に伴って、各単協がバラバラのシステムを使用していたものを統一したシステムにする必要があった。
 ・ 合併を機会に戦略的な小売業総合システムを構築したいとの要望が上がっていたこと。
 そのようなことからITコンサルタントの協力を仰ぎながらシステムの導入することになった。 ITコンサルのコンペをやり、もっとも適正と思われるITコーディネータ(中小企業診断士)を選定した。

4. 導入の目的
 合併にあたっては、以下のような目的があった。
 ・ 7JA合併による店舗販売のマスメリットを出すためのIT投資にしたいこと。
 ・ IT投資効果を確実なものにすること。
 ・ そして劇的な利益の改善を目指すこと。

5. システム導入した際の組織体制
 新システム構築にあたっては、ITコーディネータを含めて、以下のような組織体制と進め方で取り組んだ。
 ・ 経営戦略・情報化企画・IT資源調達、開発まで業務をITコーディネータ(中小企業診断士)が中心になって プロジェクトリーダー・現場・情報システム担当とサブプロジェクトリーダーの強力なリーダーシップのもとに推進した。
 ・ サブプロジェクトリーダーの下に、業務改革と合わせてデータ活用コンテストを実施する等、活用の定着を図るべく教育を実施した。
 ・ ITコーディネータ(中小企業診断士)はすべてのプロセスに深く関与し、常に反対意見に対して解決案を出して論破し、説得し続けた。

6. ITCとしてIT導入の成功率を高める工夫
 一般的にIT投資の失敗の要因には、以下のギャップが考えられる。(図表1下段参照)
 ・ 経営戦略をIT戦略に落とし込めないための戦略間のギャップ。
 ・ 経営戦略・情報化企画・調達・開発・運用までブレイクダウンする際のプロセス間のギャップ。
 ・ 経営トップからミドル・現場へのコミュニケーションをブレイクダウンする際の組織面からくる意識のギャップ。
 またIT投資の成功率を高めるためにはいくつかの工夫が求められる。
経営系とIT系間、各プロセス間、経営組織のトップ層・中間層・現場層間の意識等、のいくつかのギャップを埋めるために、 「ITミーコッシュ・シールド工法」(注:用語解説)を用いて、 フェーズごとに経営系とIT系をシールド工法のように5つのウェアを回しながら進めることとした。 又、各フェーズでは必要に応じて経営系・IT系の打ち合わせ会を設け、両系間のギャップを埋めながら、プロセスを掘り進んだ。 必要に応じてトップ・中間管理職現場担当者を入れて議論をして問題解決案を示しながら進めた。(図表1下段参照)








7. ITミーコッシュ(MiHCoSH)手法の概要
 IT投資を成功に導くために開発されたITミーコッシュ手法について概要を以下に述べる。

(1) 5つのウェアに分けて成熟度を評価する。
 図表2のように、経営系・IT系の構成要素を5つのウェアに分けて成熟度をモニタリングしながら、進めて行く。 この考え方を5つのウェアのごろ合わせとして、ミーコッシュ(MiHCoSH)と呼んでいる。

(2) ITミーコッシュ(MiHCoSH)革新コンサルティングの全体構成
 図表3のように、ITCプロセスガイドラインにのっとって進める場合でも、経営系とIT系のギャップが発生しないように同時並行的に掘り進んで行く。 (これをITミーコッシュ・シールド工法と呼んでいる)

(3) ITミーコッシュ・シールド工法のモニタリング
 5つのウェアをレベル1のモニタリングでは40項目、レベル2のモニタリング項目は200項目、レベル3は1,000項目から構成されている。

8. 成熟度評価
 いずも農業協同組合に関して、当初のレベル1の成熟度評価をチャートで示すと、図表4のようになった。



 即ち、当組合の成熟度に関して、ハードウェア、ソフトウェアの成熟度は高いが、マインドウェア、ヒューマンウェア、 コミュニケーションウェアの成熟度が低いことが分かる。

9. IT導入・支援経過
 いずも農業協同組合の経営改革をすすめるにあたり、IT導入に関して以下のように進めた。

(1) ITコーディネータの選定と契約
 複数のITコーディネータを候補に上げて、講演会のコンペを行った。その中から流通経営実務と流通ITに明るく、 かつIT投資効果が期待できると思われるITコーディネータを選定し、平成6年4月1日にコンサルティング契約を行った。

(2) ITミーコッシュ成熟度分析結果(図表4参照)
 ハードウェア、ソフトウェアの成熟度はかなり高いが、マインドウェア(考え方)、ヒューマンウェア(やり方・使い方)、 コミュニケーションウェア(約束ごと)の成熟度が低いことが判明した。よって、ハードウェア・ソフトウェア(IT) 革新とともに経営系の革新がより重要であるとの認識に立って改革を進めた。

(3) 経営戦略・情報化企画作成支援(平成6年4月1日より平成7年1月31日)
 プロジェクトメンバーと一緒になって作成した。ここでは、考え方(マインドウェア)、やり方(ヒューマンウェア)、 約束事(コミュニケーションウェア)、プログラム(ソフトウェア)、 機器(ハードウェア)の5つのウェアを同時並行的に行うITミーコッシュ・シールド工法を用いて進めた。

(4) 資源調達・RFP・開発支援(平成7年2月1日から平成8年2月28日)
 経営戦略・情報システム企画を作成し、経営トップの承諾の後、RFP(プロポーザル要求書)をもとに4社のコンペを行った。 2回の予選の後に、1社に絞り込んだ。契約形態はFFP(完全定額契約)方式を採用している。
 開発の段階においてもITミーコッシュ・シールド工法の延長線上で行った。よって、経営戦略で立案した戦略が、そのままシステムの開発に実現している。

(5) 運用・データ活用支援(平成8年4月1日より平成12年4月30日)
 ここでは、当初の情報化企画どおりのシステムを稼働させても必ずしも情報活用が有効に行われているとは限らない。
 当初のIT投資期待効果を実現するために、現場でのデータ活用の実務支援を行っている。

10. IT導入時に生じた問題点と対応策

(1) ソフト・ハードのトラブル
 稼働当初はOS(WindowsNT3.1)の不具合等もあり、原因不明のダウンに悩まされた。 これら原因は究明することがソフトハウスでは困難で、マイクロソフトに依頼するしかなかったが、それは満足するものではなかった。

(2) POSスキャニングのレスポンスの低さ
 POSのスキャニングから価格検索までのレスポンスが悪く、当初使い物にならなかった。メーカーとその対策を協議し、 価格検索の仕方を変えて、スピードを上げるための工夫が必要であった。

(3) ソフトウェアの追加料金
 ソフトウェアの詳細を詰める段階にあって、ソフトウェアの追加料金の要求があったが、 RFP時のベンダー説明会にて説明したようにFFP(完全定額契約)方式を採用しているので、 RFPの中にある仕様書どおり作成してもらえば良いのであって、追加料金の対象にはならないということで、了解してもらった。

(4) 現場の反対勢力に対する説得
 業務革新を全面的に行ったために、現場からの現状の業務変更の反対意見が山積した。 しかし、それ一つ一つ現状の業務プロセスの矛盾や問題点を指摘して、革新経営・IT統合ビジネスモデルを示して、 革新による期待される改善の効果を示し、説得した。しかし、そのことは簡単には定着することは無く、マインドウェア(意識)革新をやる必要があった。

11. システムの概要

(1) ハードウェアの全体構成


(2) ソフトウェア
 顧客サブシステム、発注・返品サブシステム、ECR(効率的な消費者対応)発注サブシステム、特売発注サブシステム、 検収・仕入れサブシステム、買掛サブシステム、売上サブシステム、商管サブシステム、棚卸サブシステム、テナントサブシステムからなっている。

(3) システム運用手順
 新システムの考え方の革新(マインドウェア革新と呼んでいる)、業務プロセスの革新(ヒューマンウェア革新)、 約務革新(コミュニケーションウェア革新)を図って、ソフトウェア、ハードウェアの導入を行った。

12. 投資金額と資金調達先
 POS120台、発注端末26台、サーバー6台、クライアント42台等情報機器、付帯設備、付属品等を含めて約3億円の投資である。
 資金調達は、組合内の資金を利用した。

13. データの活用
 システムが稼働後も、ビルドアップシート(発注台帳)の活用法、カテゴリー・マネジメントの実践、 ロス管理と値入ミックス等をITコーディネータ(中小企業診断士)の支援を得て行った。 その後も活用レベルに合わせたデータ活用のための教育を4年間に亘って行った。

14. IT活用の成果

(1) 定量的効果(情報システムが稼働1年後)
・売価変更ロスが売上対比3.1%減少できた。
・当初売価を売上対比平均0.7%引き下げが、粗利益率が1.6%向上できた。

(2) 定性的効果
・職員が売上志向から、データ活用によって利益志向に変革できた。 よって粗利益向上策の基礎的知識を身につけた。
・データによる商談を身につけることができたので、仕入原価を引き下げることができた。

15. 成功の要因または情報システムに対する評価
 革新後の成熟度の評価をすると、図表5のように改善されている。 合併による寄り合い所帯にも拘らず、 サブプロジェクトリーダーとプロジェクトメンバー・ITコーディネータの意思統一が図れたことが成功の要因であると考えられる。
 システムの評価としても、JAの中にあっても屈指の情報システムと運用が行われているということができよう。



16. 顧客とITコーディネータの満足度
 ITコーディネータに対するクライアントの満足度はどのようなものであったのであろうか。プロジェクトが6年間という長い年月を要したが、 解散時には、組合長・常務理事・プロジェクトメンバーの参加のもと送別会を挙行してくれるほど親密となり、 苦楽をともにした十分な信頼関係構築の賜物であった。そして、苦労談を酒宴とともに喜びの思い出として心行くまで語り合った。 感謝感激の気持ちでお別れをしたことを昨日のように思い出す。
 後日金一封とともに感謝状を持って我が事務所を訪れてくれた。山陰地方の義理堅い気質に驚きと感動を禁じえなかったのである。 限りない感謝とともに、ITコーディネータとして最高の生きがいを感じた瞬間でもあった。




【用語解説】
  用語 解説
ミーコッシュ (MiHCoSH) IT投資を成功させるためのIT統合問題解決手法。マインドウェア(考え方)、ヒューマンウェア(やり方)、コミュニケーションウェア(約束ごと)、 ソフトウェア(プログラム)、ハードウェア(機器)の5つのウェアをシールド工法によって、経営系とIT系のギャップが起きないように回しながら、 成熟度をモニタリングして行くやり方で小林勇治の商標登録
ビルドアップシート   オーダーブックをより高度に活用しようとするもの
シールド工法   トンネル掘削工法のように5つのウェアを回しながらIT構築を進めて行く方法
ECR Efficient Consumer Response
(効率的な
消費者対応)
製造・卸・小売が協働で効率的な消費者対応を進めようとするともの。
POS Point Of Sales
(販売時点情報管理)
販売時点における商品情報を単品に把握して、消費者動向等を管理すること。
OS Operating System
(基本ソフト)
業務ソフトを動かすための基本となるソフトウェア。

このページのトップへ