経営改革・IT化事例

経営改革・IT化事例
【事例概要】

1.事例報告者
事例題名 小規模旅館のITを使った団体予約獲得への挑戦(J007)
事例報告者 高橋 寿人 ITC認定番号 0010462001C
事例キーワード 〔業種〕旅館
〔業務〕接客
〔IT〕団体客予約システム

2.事例企業概要
事例企業・団体名 (株)大弥 企業概要調査時点 2002年12月
URL http://daiyainn.gooside.com
代表者 稲田 美智子 業種・業態 サービス業
創業 昭和28年10月 会社設立 昭和31年1月
資本金 1000万円 年商 3000万円 従業員数 2人
本社所在地 京都府京都市
事業所 本社所在地に同じ
業界特性 旅館業についは、観光シーズンの繁閑に業績が左右される。飲食業については、地域密着の商売を行っている。
競合他社 近隣地区にビジネスホテルや旅館が点在している。
リード文  経営資源の脆弱な中小零細企業が、どのようにIT化推進のアプローチを行うか、短期、中長期の経営戦略を策定しながら進めて行った。

3.コーディネート内容概略
関与経緯  経営診断の結果を踏まえ、IT化推進を実施した。
事例対象期間
(執筆時点)
2002年4月 ~ 2002年12月(2003年1月25日)
事例分野 □経営戦略  □IT戦略  ■経営戦略+IT戦略
事例範囲 □基礎調査
□経営戦略策定  ■戦略情報化企画  □情報化資源調達
□情報システム開発・テスト・導入  □運用サービス・デリバリー
留意したこと 情報化に対する成熟度が低い状況に鑑み、情報を意識しない現状の経営課題の対応を中心にアプローチを試みた。
主な成果 『初期フェーズでの実績』
 ・予約業務のアウトソーシング
 ・外国人顧客の増加 ・団体客の増加・旅館サービスの見直しと標準化
パッケージソフト情報 特になし

【事例詳細】
1.企業概要

(1)店舗立地
 株式会社大弥は、京都市内で料理旅館、飲食店(食堂・喫茶店)(図1参照)を営んでいる。 旅館の規模は、部屋数15程度の小規模な老舗旅館で、同旅館に隣接する場所に飲食店(食堂及び喫茶店)がある。


                     だいや旅館 旅館看板 食堂・喫茶(図1)

(2)主な取扱商品・サービス
 同社の「売り」は、旅館ではペットの宿泊が可能という点、また、食堂(うどん店)では早朝営業を挙げることができる。 前者については、京都市内でのペット宿泊が可能な宿は少ないため、ペットを飼う観光客には便利な宿となっている。 後者については、夜行バスで早朝入洛する観光客の間の口コミにより評判となっている。

2.IT化支援に至った背景・経緯

(1)環境調査・分析

1)業界動向
 京都の旅館業の状況は、大規模(100室以上)、中規模(31~99室)、小規模(30室以上)ともに、 月平均売上高は、ここ数年、連続低下傾向にあり、厳しい状況が続いている。この傾向は、全国的な傾向とも一致している。
 また、1年間の宿泊状況では、春(桜のお花見シーズン)、夏(祇園祭り・大文字送り火)、秋(紅葉シーズン)、冬(初詣出) に宿泊客が集中する季節変動が激しいことも特徴としている。

2)立地・競合関係
 京都駅ビルがリニューアルしたことやデパートの参入、業態変更などもあり、新たな観光、ショッピング・スポットとして、従前と比べて、 近隣商圏の集客は増加していた。同旅館は、京都駅から徒歩5分と比較的近く、東本願寺や同寺別邸の渉成園もあり、観光コースの一つにもなっている。
 宿泊施設では、京都駅周辺には、大型ホテルやビジネスホテルが点在し、一方、同旅館が立地する地域には、東本願寺の宿坊、 寺街として発展してきた経緯から創業が比較的古い中規模、小規模旅館が集中している。 近年、東本願寺への参拝者の高齢化が進み、固定客の足も遠のいていた。高度成長期は、修学旅行生も多く受け入れてきたが、 最近では、修学旅行生のニーズも多様化し、個の時代背景や高級志向ニーズなどからホテルでの宿泊も増加している。 また、一般旅行者の傾向では、国内旅行よりむしろ海外旅行ニーズが勝っている状況にある。 観光都市をPRする京都の知名度や人気は、国内より、国内外の外国人観光客に高くなっている。

 このような環境下、最近のインターネットの普及、特に本年度に入ってブロードバンドの普及により、 旅館宿泊客や食堂利用者から「インターネットの掲示板に、同社のサービスの評判が掲載されている」との話題がしばしば聞かされていた。 一方、京都への旅行客も従来と比べて減少していた点など経営環境に危機感を覚えた旅館女将は、コンサルタントの経営診断を受け、 策定した「経営戦略企画書」の中で、以下の経営方針を立てた。

 <宿泊顧客の確保>
 ・平日の女性宿泊客の確保
 ・受験生や各種会議出席者などの宿泊者獲得
 ・団体宿泊者を取り扱うことができる同業者間コラボレーションの構築
 <業態開発>
 ・喫茶店、飲食の業態開発

 そこで、平成13年4月からコンサルタントの協力、支援の下、「戦略情報化企画書」(図2参照)を策定し、その初期フェーズとして、 同社のホームページ立上げと団体客の受け入れなどを目的とした同業の小規模な旅館を巻き込んだコラボレーション・ビジネスの検討を開始、実施した。 なお、本事例報告は、旅館のコラボレーション・ビジネスの展開に焦点を当てたものである。



3.IT化支援の実施手順
 前章の「経営戦略企画書」の中で挙げた経営方針の実現に向けた取組みを行うため、次の手順に沿って進めていった。 その手順概要(図3.IT化支援の手順)の説明とその留意点などを述べる。



(1)IT化提案(IT化の動機、運用方針)

1)IT化の動機
 同業他社の中小旅館が、先駆けてホームページを開設し、外国人の宿泊客を中心に、予約客を獲得していたこともあり、 同社もホームページの立上げについては興味を持っていた。 しかし、ホームページ立上げの直接的な効果(例えば、売上高の増加など)については、未だ不明確な部分もあり、 試験的に費用負担の少ない方向でホームページを立上げることにした。

2)ホームページ運用方針
 同社の経営上の強みである女将が、永年来、築き上げた信用や接客上の知恵などを前面に出したホームページ・コンテンツの充実を目指すことを基本方針とした。 また、同社は、旅館、食堂、喫茶店の各店舗が一体感のない運営を行っていることが、経営効率上の課題として挙がっており、 まずはホームページ上の仮想空間の店舗では、出来る限り、同社経営の3店舗間の連携をPRすることにした。

(2)企画支援(コラボレーション確立、サイト運用体制、業務フロー)

1)コラボレーション確立の経緯
 「経営戦略策定」のための旅館女将とのインタビュー調査で、「日頃から知合いの周辺旅館では、特に繁忙期になると、 ダブルブッキングの対応として、顧客の相互紹介を行うことが慣例」としてあったことを把握していた。 そこで、このような旅館相互の関係を活用して、特にオフシーズンを中心に、団体客を受け入れるシステムを企画、提案し、同意を得た。
 そこで、団体客を獲得するための旅館間のコラボレーションを実現するため、日頃から懇親関係にある同業旅館(4旅館)向けに、 「戦略情報化企画書」の初期フェーズである「緩やかな協業関係システム」を提案し、その理解と同意を得た。 「緩やかなコラボレーション展開」については、現状のダブルブッキング時の対応に見られる相互の顧客紹介の延長線であり、 特に異論もなく受け入れられたが、以降の中期フェーズ(3年):「各旅館の強みを生かしたコラボレーション展開」 (各旅館の特徴を前面に出した共同ホームページ(予約システム)の運用)や長期フェーズ(5年):「各旅館の情報化武装」 (各旅館での情報化投資の推進による顧客管理の効率化)については、一応の理解を得たが、各旅館の反応には「積極的同意組み」と「無反応組み」に分かれた。 「無反応組み」にある背景は、後継者がいないことやコンピュータのことはよく分からないこと等々のことなどが考えられる。

2)サイト運用体制
 「経営戦略企画書」を策定するための旅館女将とのWebサイトの運用は、経営診断により策定した「経営戦略企画書」や「戦略情報化企画書」などの実現を目指し、 経営者の思いや今まで培った知恵を代弁、反映する形で、コンサルタント自らがサイトの運用を行っている。

3)標準業務フロー
 ホームページ上にある予約システムから、パソコンに予約が入る仕組み(図4.システム概念図)となっている。以下にその流れを説明する。
a. 団体客は、「だいや旅館」、あるいは「C旅館」のホームページの予約システムを通じて、問合せや予約申込みを行う。
b. 上記の問合せや予約申込みの情報はパソコンの電子メールで受けた旅館が受信する。当該旅館が、お客様との条件、要望などの交渉を電子メール、 あるいは電話などで行う。
c. 単独の旅館で受け入れ不可能な場合、協業先の旅館へお客様の条件等をパソコンの電子メールで同報配信 (電子メールで対応できない旅館向けには、ファックスなどで情報伝達)する。
d. 旅館側の受入許諾を受けた後、予約を受けた旅館が、調整(許諾を早く回答した順が基本)の上、団体客と条件などの提示を行う。
e. 予約成立、あるいは不成立の場合ともに、その内容を協業先の旅館へ、電子メールなどを通じて通知する。



(3)開発支援
 Webサイトは、同社へのコンサルタント支援の中で把握している同社の企業成熟度や強み・弱み・機会・脅威(SWOTの視点)を考慮に入れ、 コンサルタントが企画した。同社のWeb構築については、導入レベルと位置付け、投資コストを極力避けた構築、運用を心掛けた。

(4)運用支援
 予約システムの立上当初は、標準業務フローを各旅館で運営するため、携帯電話メールの習得に向けた研修を行ってきたが、接客業務が多忙であり、 また携帯メールでの業務効率性の問題や同社を含む提携旅館のIT成熟度の低さなどもあり、このシステムを継続することが困難と判断した。 提携旅館の中には、積極的に業務効率を考え、パソコンを導入した旅館もあったが、新たに外国人とのメール交信の課題なども出ていた。
 そこで、ホームページからの団体顧客を含む予約受付業務については、提携旅館の合意を得て、コンテンツ更新を中心としたホームページの運営も含め、 女将などに向けたパソコン勉強会などを兼ねて、代行業者へアウトソーシングすることになった。 アウトソーシング導入後は、導入前に発生していた顧客に対する回答や対応の遅れなどの課題については、的確、迅速にできるようになった。

(5)効果測定(事業評価)
 ホームページを立上げ後の予約状況をまとめると以下の結果(図5.媒体別予約者内訳)となった。
この図は予約をする際の情報源として利用した直近3箇月間の媒体別割合である。



この図から見ても、ホームページからの予約者割合が最も多いことが分かるが、他の宣伝媒体と異なる特徴がある。
 ・予約人数は、その大半が2名以下の少人数が圧倒的に多い。
 ・予約時間は、その大半がPM10時以降の夜間となっている。
 ・他の予約媒体と比較して、キャンセル率の割合が高くなっていることは注意を要する点である。

 予約者数は平日も含めホームページ立上げ以前と比較して増加した分、従来から雑誌予約や固定客予約などにほぼ上乗せする形で増えている。 特に、ホームページの立上げ以降、外国人観光客の増加が目立っている。 また、経営方針にある「団体客を取り扱うことができる同業者間コラボレーションの構築」の効果についても、徐々にではあるが引き合い件数も増えてきている。 個人予約と同様、繁忙期に団体客予約が集中する傾向にあるが、オフシーズンに予約が入ることは、今までになかったことであり、年間の予約件数としては、 本システム立上前に比べて、増加している。
 提携先旅館のサービス面の標準化については、客室のアメニティ関係や食事内容については、団体客向けの内容で統一を図ることができた。

4.今後の課題
 すべての協業先旅館業者のホームページを立上げると同時に、よりダイナミックな経営革新を行うためには、 経営者および従業員のITスキルの向上を図る必要があるが、初期フェーズとしては、まず、パソコンをある程度使いこなせるスキルを習得した上で、 自らの経営上の強みを情報発信できる体制の確保を目指している。 これが、経営基盤の強化に向けた基本と位置付けているが、そのため、以下の内容の「情報交換・研修会」を継続開催していく。
1) パソコン習得のための研修
   提携先旅館では、市主催のインターネット講習会に参加してきたが、今後も継続して、月1回程度、情報交換の場を兼ねて、 パソコン習得のための研修を継続していく。
2) 情報発信のためのコンテンツ企画
   業者へアウトソーシング委託しているホームページのコンテンツについては、顧客ニーズを反映することが基本であるため、 業者にコンテンツ内容の作成を含め、委託するのではなく、地域に密着した情報発信ができるよう情報交換を行いつつ、独自コンテンツを企画して、 その作成を業者へ依頼していく仕組みを目指している。

 その後、中・長期フェーズでは、同社を核としたコラボレーション事業へと本格的に発展、充実させていくべく、 ITガバナンスの強化、充実を目指していきたい。
 現在、戦略情報化企画書にある中期フェーズに向けた施策の具現化も視野に入れて、以下の課題に対応にも着手している。
1) 協業先でのホームページの立上げとオンライン予約の促進
   オンライン予約件数を増加させるためには、協業先旅館の特徴を生かしたPRを促進する必要があり、 そのためにも、まずは協業先すべてのホームページの立上げを行う。
2) ハード面でのサービスの標準化の推進と各旅館の特徴(ソフト面)の強化
   サービスを享受する顧客の満足を充足するためにも、旅館施設などハード面の均一化を可能な限り推進すると同時に、 各旅館が有するサービスなどのソフト面での強みの充実を行う。
3) 大口顧客に対する営業活動の強化
   大口顧客などに対する人的な営業活動を積極的に展開する。
4) イベント案内の強化
   地域に密着した情報発信を強化して、シーズンオフの顧客獲得に努め、シーズンの平準化を図る。

このページのトップへ