【事例概要】 
  
1.事例報告者 
| 事例題名 | 
ITユニフォーム販売(J011) | 
 
| 事例報告者 | 
寺田 邦光 | 
ITC認定番号 | 
0007752001C | 
 
| 事例キーワード | 
 〔業種〕ユニフォームの受注生産 
〔業務〕販売促進業務、受注生産業務 
〔IT〕ユニフォームのネット販売  | 
 
 
  
2.事例企業概要 
| 事例企業・団体名 | 
有限会社できるネット | 
企業概要調査時点 | 
2002年07月 | 
 
| URL | 
http:///www.dekiru-net.com/store/index.htm | 
 
| 代表者 | 
田中 勝久 | 
業種・業態 | 
ユニフォームの受注生産 | 
 
| 創業 | 
2000年10月 | 
会社設立 | 
2000年10月 | 
 
| 資本金 | 
550万円 | 
年商 | 
1,000万円 | 
従業員数 | 
2人 | 
 
| 本社所在地 | 
 兵庫県神崎郡  | 
 
| 事業所 | 
 兵庫県神崎郡  | 
 
| 業界特性 | 
 多品種小ロット生産  | 
 
| 競合他社 | 
    | 
 
| リード文 | 
  パソコンを利用して販売促進につなげたい、と考える企業は多いが、なかなか思い通りにうまくいかないのが現状である。
                  この事例は、コンサルタントと協力して問題点の抽出と解決に成功した企業の事例である。  | 
 
 
  
3.コーディネート内容概略 
| 関与経緯 | 
  社長から知人を介して相談を受けた  | 
 
事例対象期間 
(執筆時点) | 
 2002年07月~2002年11月(2003年02月27日)  | 
 
| 事例分野 | 
 □経営戦略  □IT戦略  ■経営戦略+IT戦略  | 
 
| 事例範囲 | 
 ■基礎調査 
■経営戦略策定  □戦略情報化企画  □情報化資源調達 
□情報システム開発・テスト・導入  □運用サービス・デリバリー  | 
 
| 留意したこと | 
 すでに形になっていたものがあったので、対症療法的なアプローチとなった  | 
 
| 主な成果 | 
 提携店の拡大、ネット受注の拡大、リードタイムの短縮  | 
 
| パッケージソフト情報 | 
    | 
 
 
 
【事例詳細】 
 有限会社できるネットは3年前に設立された会社である。
同社の田中社長は、以前から別会社で、スポーツ用やイベント用のユニフォームの受注生産、小学校等で使用する布教材の受注生産を手がけていたが、
スポーツ用ユニフォームは各地のスポーツ用品店や洋装店と提携して、それらの店を経由して同好者らからオリジナルユニフォームの製作の注文を受け、
イベント用ユニフォームは洋装店と提携して、イベントへの出展企業や人材会社からユニフォームの製作注文を受ける、という形態であった。
受発注はファックスを何回も介して手書きのデザインを起こし、また色を決めるのにも部材の一部を送って決めてもらうなど、決定までかなりの期間を要していた。(図1) 
 
  
 
 このような受発注のやり方に疑問を持ち、また、以前からパソコンの可能性に着目していた田中社長は、以前からの別会社はメーカーと位置付けて、
新たに受発注の期間短縮とオリジナルユニフォーム販売のフランチャイズ展開の構想のもと、3年前に「できるネット社」を立ち上げたのである。 
 
1.	従来のIT手法 
 
 従来チームウェアの分野では、出来上がりの商品にただチーム名を入れる程度のものをオリジナルウェアと称していた。
しかしオリジナルという本来の意味からしても、色やデザインも含めて、顧客の多様な要望に対応できないものはオリジナルウェアと呼ぶべきではない、
というのが田中社長の考えだった。そしてできるネット社では、オリジナルウェアとしての顧客の多様な要望に対応できるように、
通常なら対応が困難なこまかなデザインや縫製の変更に耐えうる生産体制を構築し、また生地の色や柄等の豊富な品揃えを実現して、多様な選択が可能になる仕組みを整えた。
後はその強みをユーザーにどう伝え、どう生かすかだった。 
 当初、パソコンを活用すれば、新たな需要の掘り起こしや受注から納品までのリードタイムが短縮されると考え、できるネット社で販売支援システムを自主開発した。
販売提携店は、神奈川から鹿児島までの5店でスタートした。
いずれも従来からの取引先であったが、これらの5店舗の経営者に集まってもらい、県内の中小企業大学校の教室を借りて宿泊を伴った操作研修を行った。
操作マニュアルも分かりやすさを心がけて整備し、5店舗が同時にそれぞれの店頭において、
パソコン利用によるバスフィッシングウェアやキャンペーンガールウェアのシミュレーション販売を開始した。
このシステムは、パソコン内に登録された基本的なユニフォームのデザイン群から自由に気に入ったデザインを選び出し、
そのデザインに基づいて、その生地や色や柄を変えてみたり、陰影やしわまでもシミュレーション出来る。
また好みの場所にチーム独自のマークやチーム名をプリントできる、というものだった。(図2) 
 
  
 
 しかし、思いに反してこのシステムを導入してもさして売上は上がらず、システム開発費の回収さえままならなかった。
全てのシステム開発をできるネット社のスタッフが担当していたが、開発費は数百万円にのぼっていた。 
 2002年7月に田中社長より、これまでのシステム開発の経緯と現在抱えている問題点やその解決方法について相談を受け、田中社長と私との2名体制で、
まず現状の調査を開始した。
調査は2店については実際に店舗へ出向いて聞き取り調査を実施し、他の3店については電話による調査とし、さらに全店にアンケート調査も加えた。
実際に出向いての調査は、ほとんど実績の上がっていない兵庫県内の提携店と、5店の中では実績上位の岡山県内の提携店だった。
実績が上位の岡山と神奈川の提携店に共通していたのは、デザイン面やパソコンの操作に熟練したスタッフがいるという点であり、店全体も比較的積極的な姿勢が感じられた。
アンケート調査をした項目でも、タウン誌への投稿・広告の有無や回数、DM発送の有無や回数、来店者へのアプローチ等、実績があがっていない提携店とは相違があった。 
 この調査では、提携店でシミュレーションシステムにうまく誘導できたエンドユーザーは、抵抗無く発注に至っており、
提携店の姿勢の違いで、実績の差が出ているということが分かった。
一方では、その実績も大きなものとはなっておらず、全体として次のような問題点があると思われた。 
 
①パソコン利用によるユニフォームのシミュレーション販売は、各提携店でパソコンの操作スキル格差に左右されることが多く、充分な指導をしたつもりだったが、
操作に未熟な提携店もあった。パソコン利用の顧客への説明等がほとんどされていないケースが見受けられ、最下位提携店ではパソコン利用分の売上がゼロだった。 
 
②操作に習熟している提携店では、エンドユーザーよりも主導的にパソコンを操作・シミュレーションをして受注したケースも多く、
こういう場合には納品後キャンセルになることがあった(実績上位店のケース)。 
 
③できるネット社が提携店とデザインやカラー等をメールでやり取りし、提携店はエンドユーザーに来店してもらって店頭でその内容の確認作業をするが、
最終決定まで時間がかかり、シミュレーション販売がリードタイムの短縮には貢献していなかった。
さらにエンドユーザーは手書きのデザイン書がなくなったことでデザインへの参加意識が薄れ、やり取りの最中に購買意欲がなえてしまうケースがあった。 
 
④何よりも提携店そのものに、あまりシステム利用のメリットを感じてもらうことが出来なかった。(全提携店) 
 
2.改革の方向性 
 
 上記のような問題点のうち、①から③までなら、提携店を経由せずに、ネット上でエンドユーザーとの直接の受注と販売に改める、という方法で解決しそうだった。
メーカー~問屋~小売店~ユーザー、という従来の流通経路を変える、という発想で何とかなるのかも知れなかった。 
 しかし、特にスポーツ系のユニフォーム等の販売は、地域密着であることが多く、それぞれの種目に応じて同好会等があり、また仲良しグループが存在する。
そしてその同好会等が中心になって、親しいスポーツ用品店で運道具やユニフォーム等を調達することが多く見受けられる。
それらのユーザーをネット上に誘うには、やはり地域販売店を排除するのではなく、地域販売店を巻き込んでの発想が不可欠と考えられ、④も避けては通れない問題点だった。 
 地域の販売店に大きなメリットを感じさせながら、エンドユーザーとも直接取引をする、ということを実現する必要があるように思われた。
つまり、メーカーや問屋とユーザー間だけの中抜きのWinWinの関係ではなく、それに小売店も含めたWinWinの関係が求められる、という結論に達した。 
 
3.もう1歩踏み込んだITの活用策 
 
①まず、できるネット社のホームページを刷新し、スタンドアロンでの使用を想定して製作していたシミュレーションソフトを、
できるネット社のホームページ上で使用出来るように改めた。
この変更もできるネット社単独で行った。IT化のための作業は、実際は全て手作りだった。
これで、ネット上でそのソフトを使ってデザインやカラーを自由に選択し、また思い思いのマークやロゴを差し込んだり出来るようになった。
さらに気に入った形が出来上がった段階で、ホームページ上でユーザー自らが発注出来るようになった。(図3)
これにより、注文段階から納品までの日数が一気に短縮され、また一部には画面上と実際の出来上がりとの多少の差異の問題点もあったが、
最終的に自分で発注しているために、製作後のキャンセルは全く無くなった。さらに、販売店に属さない新たな一般の顧客からも受注できるようになった。 
 
②提携店もホームページを持っているところが4店、調査時点で持っていない提携店が1店あった。
既に持っている4店もただ持っている、というだけに見受けられた。
ホームページを持っていない提携店に対しては、ホームページの作成を薦め、すでにホームページを持っている提携店に対しては、できるネット社との相互リンクを推進した。
さらに各提携店に対して、ユーザーにこれまで以上に自店のホームページを積極的にアピールしてもらうよう促し、
そのページからできるネット社のホームページへも入ってもらうようお願いした。ここでは2つのステップを設定した。 
| a) | 
 まず最初のステップは、実績が上位だった2店をターゲットとし、営業用パンフレットの作成や受発注の仕組みを解説して、事業推進にあたった。
    特に近隣の岡山の提携店には何度も足を運び、シミュレーションソフトを使うメリットを充分に理解してもらい、
    ユーザーにどんどんオリジナルなユニフォームをデザインしてもらって、画面からの直接発注の実績を作っていった。  | 
 
| b) | 
 次のステップとしては、先行の提携店の実績を他の提携店に説明して、参加意欲を刺激し理解を得ることだった。
    この段階では、先行の2店の実績は素直に評価され、全店が積極的に関わるという体制が出来上がった。  | 
 
 
  
 
 受発注の仕組みとしては、できるネット社には、製作のための情報がユーザーから直接入るが、形としては提携店からの発注の形態を取ることとした。
できるネット社はユニフォーム製作後にはリンク先の提携店に送付し、ユーザーへは提携店での受け渡しとした。
もともとユーザーと提携店とは信頼関係が構築されているので、ユーザーも提携店のホームページ経由でサイトへ入っている場合は、
安心して発注することが出来るようになるし、また、できるネット社も代金の回収等に不安を持たずに製作に着手できるようになった。 
 
③各提携店のホームページ上の商品は、できるネット社のホームページでも掲載されるようになった。
これにより、それまで各提携店において閉ざされていたユーザーが、他の提携店に相互に乗り入れることになり、顧客数も一気に拡大することとなった。
取り扱う商品もバスフィッシングウェア、キャンペーンガールウェア、フライトスーツ、チームブルゾンウェア、名刺等へと拡大し、できるネット社の売上高はほぼ倍増となった。
当初は提携店サイドには、相互に乗り入れるということは、ユーザーが思い思いに他店のホームページにアクセスすることになり、客離れにつながるのではないか、
との懸念もあったが、これは杞憂に終わりそうである。
提携店では、一歩進んだサービスをしないとだめだ、という緊張感が生まれ、これまでの待ちの姿勢や馴れ合いの関係から、
攻めの姿勢や他店との差別化を指向する考えが芽生えてきており、各販売員の意識改革にもつながっている。 
 
④上記①~③での成功を武器に、提携店の獲得がこれまでより容易になり、岐阜、埼玉、京都で新たに3店との提携が実現し、提携店が拡大した。
また、ホームページのグレードアップの相談やIT化を踏まえた店舗経営の相談も増えて、既存提携店との関係も深まってきている。 
 
最後に、これまでの流れをまとめると図4のようになる。 
 
  
 
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