高知豊中技研事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
(株)高知豊中技研 作成者:村山 賢誌
ITC認定番号:0006062001C
作成年月日:2002年5月21日
(株)高知豊中技研は、資本金5000万円、従業員45名、売上高4.8億円、ガス関連機器製造及び電子機器開発を行う企業である。設備の保守・メンテナンスと温度制御用放射温度計の販売を始め、蓄積された技術を活かしたグリーンレーザー・モジュール及びグリーンレーザーポインターの製造・販売も行っている。既に生産管理システムを構築しており、一層の経営効率化を目指し、リアルタイムな経営分析を行うための情報システムを自社開発するなど、経営革新を進めている。
高知工科大学との産学協同開発やIE(注1)に関する研究グループに参加し、単なる下請企業からの脱却を図っている。技術レベルの向上を図り、独自製品の開発・販売による飛躍を目指している。
(株)高知豊中技研の情報システム構築過程は、中堅・中小企業の参考となると考える。その取組みについて以下に述べる。

〔経営者の姿勢〕
(株)高知豊中技研では、顧客の要求に答える(注2)ための柔軟かつ迅速な対応とリアルタイムな経営分析を目的に、1997年に就任し生産管理システムの構築を推進した取締役がリーダーとなって、情報システムの自社開発に成功した。
経営者には、プロジェクトへの参加をアピールし、プロジェクト実現への「意思」を社員に伝えることが求められている。取締役がリーダーとなったことで、社員に経営者の積極的な姿勢を示すことになり、プロジェクトを成功に導いたものと考えられる。生産管理システムの構築を通じて、社員の信頼を得ていたこと、取締役が有能なプロジェクト・マネージャーであったことなども成功要因であろうと考えられる。
経営革新を進めるために、様々なプロジェクトが実施される。中堅・中小企業ではプロジェクトの成否が会社の命運を左右することもある。その為、経営者には、明確な目標・目的を挙げ陣頭指揮をするなど、リーダーシップを発揮してプロジェクトを推進することが求められている。
プロジェクトの成功要因として、①明確に定義した目標、②有能なプロジェクト・マネージャーの存在があり、失敗要因として、①コミュニケーション不足、②メンバーの能力不足、③メンバーの意識が低いことなどが挙げられる。
(小西喜明 「PMとは何か?なぜ今PMか?」より(注3)

〔社員の育成と能力向上〕
IT化での重要な留意点は人材育成とされる(図①)。
(1)教育(注4)
一般的に年配社員はパソコンの操作を覚えることを苦手とし、パソコンを導入しても上手く活用していないという例も少なくない。一方、若い社員はパソコン操作の呑みこみは早く、情報機器活用への抵抗感は少ない。(株)高知豊中技研では、若い社員に年配社員のパソコン操作の教育を担当させた。年配社員への配慮や丁寧な対応が、否応無しの押し付けという印象を取り除き、抵抗感を和らげたものと思われる。この社内教育により、年配社員の理解と意欲を高め、パソコン操作能力を向上させ、落ちこぼれを防ぐことになった。同時に若い社員との間に良好なコミュニケーションによる信頼関係を創りあげたものと考えられる。
(2)システム開発担当者の選任
システム開発にあたった担当者には、主任・係長クラスの生産現場でトップとして仕事をしている30代の人材をあてた。外部教育を受講させ、技能向上への意欲も引き出し、能力を向上させた。この人材の登用と育成が、システム開発を成功に導くとともに、取締役を支えプロジェクトを推進するリーダーの育成・強化にもなったものと考えられる。
(3)情報の共有化
パソコンの導入状況は、2人に1台という状況にある。パソコンを活用することで、業務文書作成や内外製品・技術情報収集等の通常業務に関る情報の共有を容易にしている。
また、情報システムの構築による技術情報のデータベース化により、受注生産での製品毎に対応した数百点の部材の選択、特殊な計算による割当てなど、熟練者を必要とした判断・作業を一般社員でもできるようにした。(ナレッジマネジメント:注5)。
情報共有化の効果は、業務・生産作業、情報伝達の効率化に留まらない。社内他部門や社員の活動・経験、過去の事例など会社の活動に加え社員個人の考え方なども共有できるようになる。その為、企業活動への理解と参加意識、社員の連帯感を高めることも可能にする。
(株)高知豊中技研では、人材育成並びに情報の共有化を通じて、情報リテラシー(注6)を向上させたものと考えられる。

〔システム開発の方法〕
システムの開発には、目的や内容、自社の経営資源、求められる稼動時期に応じて、自社での開発、外部委託、外部との共同開発、パッケージ・ソフト導入などの選択肢がある。
(株)高知豊中技研では、製造・開発型企業であったため技術系人材がいたこと、生産管理システムを構築していたことで社員の能力・素養も一定レベル以上であったことなどから、自社開発を選択したものと思われる。また、開発に要した費用は、コンピュータ購入費、ソフト購入費、その他の費用として外部教育機関での教育費、ランニングコスト(プロバイダー契約料等)であった。選択する開発方法や企業規模により必要とされる費用は異なる。社内のインフラ整備費やシステム委託開発費、導入費など少なからず資金を必要とする場合がある。その為、開発の失敗は、経営に悪影響を与える。経営者には、自社の経営資源(人、もの、金、情報)を把握した上での慎重な判断が求められる。

〔これからの取組みと支援制度〕
今後、(株)高知豊中技研は、業務統合システムの構築と独自製品の開発・販売により、自立した企業への飛躍を目指す。
業務統合システムの構築の実現は、一層のリードタイム削減、IT費用削減、製品在庫削減の実現、意思決定の迅速化・的確化などが期待できる。その為、早期の業務統合システム構築が課題となる。
製品の開発・販売は、競争での勝ち残りと自立に必要な取組みとされている。(株)高知豊中技研は、製品開発において高知工科大学等との共同開発を進めおり、着実に取組みを進めているものと思われる。
顧客情報や業界動向など市場ニーズを製品開発に活かし競争力を高めること、製品の早期市場投入と販売体制の充実・強化が課題となるものと考えられる。


参考となる支援施策には次のような制度がある。
経営戦略策定やシステム開発方法の選択には、経営相談制度や専門家派遣制度(注7)。技術や品質の向上を図るためには、公設試験研究機関等の活用(注4・注8)が可能であり、産学連携支援制度の充実も図られている。販売力強化には、商工会議所等のセミナー・フェア、ビジネスマッチング、人材雇用への助成制度(注9)がある。資金調達では、戦略的情報技術活用促進融資や都道府県の中小企業制度融資など公的制度融資等が利用(注10)できる。各施策を組み合わせて利用するなど、積極的な活用が望まれる。

(株)高知豊中技研は、生産管理システム構築に続く情報システム構築により、社員の育成期間・費用の削減、事務作業時間等の短縮やシステム担当人員の抑制(専任は現在1人である)も実現した。これにより、社員を共同開発や営業などに充てることができるようになった。つまり、限られた経営資源を製品開発や販売力強化等他部門に振り向け、更なる経営革新への取組みを可能にしたのである。
経営革新への取組みでは、本事例のように段階的にシステム構築を進めることも有効な方法といえる(図②)。自社の現状と目標に合わせ、入念な計画に基づき経営革新を推進することが望まれる。


参考にしたURL:
ITコーディネータ協会 : https://www.itc.or.jp
中小企業庁 : http://www.chusho.meti.go.jp
中小企業金融公庫 : http://www.jfs.go.jp/jpn/bussiness/nw/index.html
中小企業診断協会東京支部 : http://www.t-smeca.com
日経BP社 : http://biztech.nikkeibp.co.jp
中小企業総合事業団 : http://partner.sme.ne.jp/index.html
(ビジネスマッチングデータベース)
J-net21 : http://j-net21.jasmec.go.jp/
ITSSP : http://www.itssp.gr.jp






注1:IE(Industrial Engineering)
 生産システム全般にわたって設計改善を進め、生産性の向上を図る技術で、①製造の全工程に対しては製造工程分析経絡図、②向上配置には流れ線図、工程図表、③作業区域の配線にはサイモチャート、PTS(文末を参照)、④組作業または自動機械作業には、ワークサンプリング、メモ・モーション、⑤作業員の動作分析にはフィルム分析、PTS、動作研究等の手法を活用する。
(中小企業診断士 情報科目キーワード 経林書房)

PTS(Predetermined Time Standards)
『一定の条件下では熟練した作業者の行う基本動作は一定の時間値である』というSegurの原則によって成り立っている,標準的作業時間算出の手法である。この手法を用いると作業を構成する基本動作と、基本動作の性質と条件さえ前もって分析できれば時間算出が可能である


注2:顧客満足(CS:Customer Satisfaction)
 ピーター・F・ドラッカーにより打ち出された概念、顧客との間において1回1回の断続的な取引ではなく、既存顧客を対象に長期にわたる継続的な取引関係の構築をテーマとした、顧客との関係においてキーとなる要因。購買体験を元にして形成される態度と感情であり、顧客の製品やサービスに対する評価や企業に対する態度の形成に重要な影響を与える要因として位置づけられている。
(企業診断 同友館 佐藤和代:佐野国際情報短期大学教授:顧客満足と顧客維持の関係性)


注3:プロジェクト・マネジメント(PM:Project Management)
 経験・勘・度胸に頼らずに、定められた期限と予算の成約の下で、プロジェクトの目標を予算通りに達成する技術
(プロジェクト・マネジメント 小西喜明 日本プラントメンテナンス協会)

プロジェクトを成功させるための、やり繰り、管理・推進はプロジェクト・マネジメントである。

注4:技術者研修等の利用
 中小企業の第一線を担う技術者を育成するために都道府県、中小企業総合事業団が行っている。
(問い合わせ先は、中小企業総合事業団・中小企業大学校など)

注5:ナレッジマネジメント(knowledge management)
 個人の持つ知識やノウハウを企業の資産として管理し、社員が共有できるようにすること。労働力の流動化の加速、競争の激化等昨今の環境変化を背景に今後の企業経営のキーを握る。
(企業診断 同友館)


注6:情報リテラシー
 情報化社会に対応するための様々な能力のこと。リテラシーとは教養があること、読み書き能力等の意味で、①キーボードへの文字入力等、基本操作能力、②インターネットを効果的に活用する能力、③蓄積されたデータを用いた売れ筋分析や顧客分析等コンピュータから得られる情報を効果的に活用する能力、などである。
(企業診断 同友館)


注7:アドバイザーの活用
 中小企業総合事業団によるIT推進アドバイザー派遣事業があり、ITとはなにか、ITへの取組みは、現在のシステムでよいのか、新システムをつくるにはどうしたらよいか等に応えるため、コンサルタント等の実績を持った専門家を派遣する。
ITコーディネータは、IT推進アドバイザーとして登録されている。
(問合せ先は、各都道府県の中小企業支援センター等)

注8:公設試験研究機関等の活用
 公的機関によるセミナー・フェア等中小企業の技術的な課題や問題を解決できるよう、都道府県に設置されている公設試験研究機関による技術相談・技術支援、開放試験室装置の中小企業者への開放等がある。他に、技術移転や依頼試験、情報技術の提供等の事業がある。
(問合せ先は、各都道府県商工担当課等)


注9:社員の雇用についての公的助成
 一定の要件があるが、労働者や公共職業訓練等受講者を雇用する場合、又は、能力開発を実施する場合に、新規・成長分野雇用奨励金や新規・成長分野能力開発奨励金が支給される。
(問合せは、ハローワーク等)


注10:公的制度融資等の利用
 中小企業金融公庫による戦略的情報技術活用促進融資等がある。また、都道府県の制度融資(東京都では、技術・事業革新等支援資金融資)なども利用が可能である。他に小規模企業者等設備導入資金助成制度がある。
(問い合わせは、各地の商工会・商工会議所、中小企業金融公庫の各支店等)

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