事例コメント

事例コメント
(株)タマル 作成者:松本 真由美
ITC認定番号:0009082001C
作成年月日:2002年11月20日
 1930年創業した(株)タマルは、現在、香川県高松市に4店舗、丸亀市に2店舗をかまえる音楽・映像ソフト(CD・DVDその他)、 ゲームソフト販売、および、中古CD販売の専門店である。

1)(株)タマルの情報化の歴史
1979年:コンピュータ導入。(ネットワーク構築による各支店の売れ筋データ収集)
1985年:POSレジ導入。(支店データを本部で収集、各レコードメーカーへ発注処理)
1990年:RESPONS事業にて、同システムを他社に提供。
1996年:社内メールサーバー導入。
      (シャープのPDAザウルスを社員に配布。社内の情報共有化)
1996年:WindowsPC OSでの開発に着手。
      店頭情報端末の開発に着手。(音楽情報発信システムTaMulti(タマルッチ))
      ソニーミュージックシステムズと共同でデータベース関連企業(株)エプシス設立(東京)。
1997年:Windows版のPOS完成。
      店頭にて、音楽情報発信システムTaMulti稼働スタート。
      本支店間をINS64による常時接続環境を整える。
1998年:ACTRESS第1号店が稼働。
      (ACTRESS(アクトレス)とは、(株)エプシスで発表し、日本レコード販売網の
       システム端末として採用されたPOSシステム)
1999年:新POSシステム導入。
      同システムで、「お客様の買上履歴の表示」、「レシートへのコメント印字」を可能とした。
      携帯電話のショートメールで、商品情報提供。Webサイトへ誘導。

 以上、事例本文を元に、現在までの当該企業の情報化の歩みをまとめてみると、まず、POSレジ導入による売れ筋商品は何か、 音楽情報発信システムの導入による顧客への提案、さらには、POSレジでの買い上げ履歴の表示によるきめ細かな接客により、 顧客が何を望んでいるか、専門店として顧客に何を提供できるかという視点で取り組んできた様子がうかがえる。
 当該企業のWebサイトでの吉岡社長のコメント、「感性とIT(インフォメーションテクノロジー)の融合を図り、 商品知識ばかりでなく日本の先端を行くシステム統合力を駆使して、フランチャイズチェーン及び直営での全国展開を視野に入れている。 また、データベース活用のノウハウを自社開発し、様々な分野への進出を模索しています。」というメッセージからも、同社の理念が汲み取られる。 このようなシステムを構築してきたのも、 「お客様が本当に喜んでくださる楽しい店舗を作りたい。きっと楽しい音楽がある、そういう場でありたい」という基本理念があればこそと推察される。

2)現在の(株)タマルの取り組み

(1)Webサイトコンテンツ
 現在の当該企業のコンテンツは、「音楽情報発信 TaMulti」、「CD販売」、「GAME販売」、「タマルメンバーズクラブ(TMC会員)」、 「会社案内」「リクルート情報」に大別される。
 さらに、このうちの「音楽情報発信 TaMulti」ページにて、「イベント&セールのご案内」、「USEDCD高価買取り情報」、「今月の新譜情報」、 「週間売上ベスト10」、「とっておきの情報を、あなただけに!」と分類されており、当該企業各支店にて申し込むTMC会員ナンバーを元に、 専用ページにログインし、個別の情報提供や、先行予約受付可能な仕組みとなっている。(図1)

(2)来店における取り組み
 当該企業に来店した顧客には、ポイント制のTMC会員入会を提案し、メールサービス申込み受付を行い、Webサイトと連携して、顧客に情報提供を行っている。
 また、POSレジにて過去の購入履歴を表示することで、接客時に個々の顧客の嗜好に沿った話題の提供することに加え、 レシートに顧客の好みに合わせたアーティスト情報や新譜案内を行っている。(図1)



3)現在の(株)タマルを取り巻く経営環境

(1)国内の同業他社の動向
 CCC(カルチャー・コンビニエンス・クラブ)が運営する全国規模のFCチェーン店TSUTAYAは、携帯端末を活用して顧客にきめ細かな情報提供を行い、 店舗へと顧客を誘導するCRM(注1)戦略の成功例として今や最も有名となり、急成長を遂げている (店舗数、2002年9月現在:店舗数1071店、有効会員数1700万人達成)。同社では、(株)タマルの実施してきた携帯端末による情報提供をさらにきめ細かに行っている。 音楽ソフト・映像ソフト・ゲームソフト・書籍等、幅広い取扱商品について、それぞれ毎週メール送信という高頻度、かつ豊富な情報量で、 期間限定のクーポン提供等もあわせて行っている。店においても、舗数で業界第2位のゲオも同じく、AV(音楽・映像ソフト)のレンタル・販売、とりわけ、 本業である中古商品の分野で売上を伸ばしている。

(2)外資系企業の動向
 書籍のオンラインショップの先駆者であり、現在はAVソフトも主力商品となっているアメリカ・Amazonの日本法人アマゾン・ジャパンは、 2002年7月より再販のはずれた国内盤CDの割引価格商品点数を拡大させ、また、配送料金の低価格戦略により、国内の顧客数は100万人に達した。 2002年7月のプレスリリースでは、年内の推定売上高は1億ドルに達すると発表されている。 さらに、本国アメリカ同様、音楽・映像ソフト販売店舗「ヴァージンメガストア」を運営する株式会社ヴァージン・メガストアーズ・ジャパンとも、 オンライン販売分野で2002年9月に提携した。
 アマゾンのオンラインショップでは、早くからリコメンデーション・サービス(注2)を実施しており、顧客はサイトにアクセスしたり、商品を購入するたびに、 自分の興味のある分野において、より精度の高い情報を得られるようになっている。(株)タマルでも顧客の購入履歴を店頭POSレジで表示することはできるが、 これは販売員の接客用に用いられ、アマゾンのように自動的に類似の嗜好に関する商品提供されるまでは至っていない。

(3)音楽ソフト卸の動向
 業界大手のライラック商事は、小売店支援策を強化し、来年春をめどに、POSとネット通販の連携したシステム「アクティブ・ネット」を提供する予定である。 このシステムでは、顧客の購入履歴に応じた販売促進メールの配信が組み込まれる予定である。 また、業界最大手の星光堂も以前から小売店向けに各種のシステム支援を提供しており、同様の動きが進められている。

(4)ユーザーの動向
①CD市場規模とユーザーの実態
 1998年をピークに、CDの出荷額は3年連続減少し、現在の市場規模は約5000億円である。 さらに、今年度の出荷額も前年比20%と音楽不況は依然、深刻である。この原因の一つとして、情報通信機器・携帯電話の登場が上げられる。 AVソフト購入費用は、パソコンや携帯電話での情報収集費用へと取って代わり、さらに、わずかずつ売上を伸ばしているネット配信市場の伸びも一因である。
 日本レコード協会の2001年度音楽パッケージソフトユーザー実態調査によれば、中高年層マーケットが拡大する傾向にあるものの、 CD購入経験率は前年比72%、シングルCD購入経験率は前年比38%、一方、過去一年間にレンタルCDを利用したダビング行為が63%と最も多く、 録音先メディアはMD(54%)、カセットテープ(55%)、CD-Rも24%へと急激に増加している。 コピー不可能なコピーコントロールCDが2002年より発売され始めたが、旧譜には対応しておらず、今後も音楽コピーの流れは続くと推測される。
 一方、音楽情報ポータルサイトOngakuNET.comによる、音楽の情報源に関するユーザーアンケート(2002年6月実施)によると、 よく見るホームページとしては、「TSUTAYA online」、2位は大型CDショップとして認知度が高い「HMV」、 3位は日本最大級のアクセスを誇る「Yahoo! JAPAN」が運営する音楽情報サイト「Yahoo music」、 4位も大手外資系CDショップ「タワーレコード」が運営する「@TOWER.JP」等、大手企業に集中している。 また、利用頻度が増えたという点で目立ったメディアは、「パソコンで音楽関連のホームページを見る頻度」であり、約45%の人が「増えた」と回答している。
②オンラインショップ動向
 中小企業庁発表の中小企業白書によれば、平成13年度の最終消費者向け電子商取引は14,840億円と、インターネットユーザー、携帯電話の普及と共に年々増加基調にある。
 また、日経ネットビジネス誌第14回インターネット・アクティブ・ユーザ調査によれば(2002年6月実施)、いずれも複数回答だが、 「オンライン・ショッピングで購入したことがあるすべての商品」の中で、CD、ビデオソフト、 ゲームソフトは30.5%(2000年12月:30.3%、2000年6月:26.1%)、 「最近のオンライン・ショッピングで購入した商品」としての購入者は全体の6.9%と増加傾向にある。
 このような状況から、今後、ブロードバンド(注3)の普及により、ネット上で試聴・試写後に、 音楽・映像ソフトをファイルとしてダウンロード購入する傾向が増加することも推測される。 ちなみに、2002年6月に実施された第14回日経インターネット・アクティブ・ユーザー調査でも、音楽配信を含むデジタルデータの購入経験は全体の9.1%、 携帯電話の場合では9.8%であり、また、ブロードバンドの利用によるインターネットの利用状況の変化については、 音楽や動画などデジタルコンテンツの利用が増えたとする人の割合は無料コンテンツの場合は、66.7%、有料でも5.3%という回答が得られている。

(5)地域経済
 当該企業が本社・支店をおく香川県は、風光明媚な土地柄で、面積が全国で最も狭いことから、土地利用度や人口密度は高く、 県都高松市を中心として県内全域が一日生活圏を形成し、四国を統括する国の出先機関や主要企業の支社・支店の設置、さらには地域企業の集積などにより、 四国の中枢拠点地域としての役割を担ってきた。しかし、瀬戸大橋等の開通により、今後は広域交流や連携が活発化する一方で、 これまで以上に地域間競争の激化が予想される地域である。地元商業の景気も停滞している中、音楽業界では、すでにTSUTAYAが5店舗進出を果たしている。

4)今後の事業展開への期待

 当該企業は、情報システムの活用に早くから取り組み、顧客データベースやインターネット、携帯端末による情報発信と、地域はもとより国内でも先駆者的なIT活用企業であった。
しかし、上記のように多くの企業がCRMに注目している現在では、同程度の取り組みを行っている同業他社も増加し、 顧客にとっておすすめ情報が企業から届くのは当たり前の時代となり、他社との差別化ができなくなっている現状である。
 CD市場が減少傾向にある中、同地域の同業他社、また、オンラインショップ等に、顧客を奪われないように、当該企業には、次の一手・戦略が求められる。
 まず考えられるのは、商圏の拡大・新規顧客獲得をめざして、オンラインショップの拡大が一般的である。 また、逆に、「香川における音楽シーンのポータルサイトになりたい」という経営者のビジョンを確実に実現し、自社の顧客を他社に奪われないように、 よりきめ細かな情報提供、新しい顧客サービスを構築する方向である。
 たとえば、ここで、試みとして提案したいのは、地元・香川県発の技術「スペースタグ」の導入である。これは、携帯電話の位置測定機能を利用し、 場所や時間を限定して、特定の人にプレミア情報を配信する次世代モバイル情報システムである。「ある地域に入ったときだけ、情報を受信できる」、 「ある時間だけ、情報を受信できる」、「先着数名だけ、情報を受信できる」。この技術は、香川大学工学部の垂水浩幸教授が開発したもので、 2001年9月(株)スペースタグを設立し、事業化をめざしているものである。
 たとえば、この技術を(株)タマルのTMC会員向けサービスとして導入し、当該企業の実店舗の近くにいる顧客向けの限定お買い得サービスの企画や、 地元の季節イベントに合わせたタイムサービスの企画など、今までの会員向けメール配信サービスから、地域限定・時間限定・高頻度の情報提供を繰り返し実施することで、 進出する全国チェーンと一線を画し、長年にわたる地域の顧客とのコミュニケーションが図れるのではないだろうか。
 このような地元での産学連携の実験的試みから、新しいビジネスチャンスが見えてくると思われる。

参考にしたサイト

・株式会社タマル
http://www.tamaru.co.jp
・CCC(Culture Convenience Club)
http://www.ccc.co.jp/
・TSUTAYA online
http://www.tsutaya.co.jp/index.zhtml
・ライラック商事
http://www.lilac-net.com/
・香川県ホームページ
http://www.pref.kagawa.jp
・音楽情報ポータルサイトOngakuNET.com
http://www.ongakunet.com/
・コピーコントロールCD関連リンク集
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/link/cccdlink.htm
・日本レコード協会記事「CD-Rへのコピーが増加 音楽ソフト白書」
http://www.riaj.or.jp/cgi-bin/press_release.cgi?id=30
・音楽パッケージソフトユーザー白書(PDFファイル)
http://www.riaj.or.jp/news/pdf/press_020305.pdf
・総務省統計局 統計センターホームページ
http://www.stat.go.jp/
・中小企業庁 2002年版 中小企業白書(2002年6月発表)
http://www.chusho.meti.go.jp/hakusyo/h13/index.html
・日経ネットビジネス「第14回インターネット・アクティブ・ユーザー調査」
http://nnb.nikkeibp.co.jp/nnb/200107/f_nmmq12.html
・スペースタグ
http://www.spacetag.jp/

用語解説

注1:CRM(Customer Relationship Managemanet
  ・情報システムを応用して、企業が顧客と長期的な関係を築く手法のこと。詳細な顧客データベースを元に、商品の売買から保守サービス、問い合わせやクレームへの対応など、 個々顧客とのすべてのやり取りを一貫して管理することにより実現する。顧客のニーズにきめ細かく対応することで、顧客の利便性と満足度を高め、 顧客を常連客として囲い込んで収益率の極大化をはかることを目的としている。
注2:リコメンデーション・サービス(recommendation searvice
・ユーザの購買履歴やあらかじめ登録してもらった趣味などの情報から、ユーザの好みを分析し、各ユーザごとに興味のありそうな情報を選択して表示するサービス
注3:ブロードバンド(Broadband
・xDSLやケーブルテレビなど高速な通信回線を用いたインタネット接続サービス、および、ネットワーク上に提供される大容量データ送信を活用したサービスのこと。

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