ダン事例コメント

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事例コメント
(株)ダン 作成者:日本電気(株)
     小嶋 龍輔
ITC認定番号:0001052001C
作成年月日:2002年1月29日
 (株)ダンはフランチャイズ展開を中心とした主力ブランドである「靴下屋」、美しいカラーバリエーションをメインにシーズントレンドを中心とした「靴下屋フレンズ」、広域商圏に大型靴下専門店を展開する「靴下屋インターナショナル」、ローティーンがメインターゲットの「マイソックス」、百貨店を中心に展開する「ショセット」の各業態での店舗展開を行っている。㈱ダンの経営戦略はバランス・スコアカードの視点でみても戦略・ビジョンと組織行動との整合性がとれたモデルとして大変注目される。
 バランススコアカードは近年わが国でも大変注目されており、導入する企業(組織)が広がっている経営管理手法である。一言で言うと、今日の変化の激しい経営環境において財務的な観点(例えば売上高など)だけで経営をとらえると、経営全体の方向性を見誤らせる可能性があり、財務的視点に加えて顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長(人材育成と革新)の視点といった幅広い視点で経営をとらえることが重要であるという考え方である。バランス・スコアカードの活用は、戦略・ビジョンやミッションと組織行動との整合性を検証しながら全社的な活動の方向性を合わせる目的で行われる戦略マップの策定と、活動の業績評価の指標を部門や個人まて落し込みモニタリングする業績評価ツールとしての要素を含む。本事例から㈱ダンの経営戦略をバランス・スコアカードの四つの視点にもとづいて考えてみた。

■バランス・スコアカード経営の視点でみた㈱ダンのビジョンと組織行動の目標
(株)ダンの事例においてはPOSシステム(注1)やSCM(注2)に基づく情報インフラ等の情報システム面にスポットが当てられがちであるように思われるが、丸川常務の講演を聴くと、それがしっかりとした経営理念、経営戦略に裏打ちされたものであることがわかる。
 (株)ダンは「お客様にとって良い靴下を最高の条件で提供する」という明確なミッションに基づいて同社が企業として推進すべき行動を明確化している。まず顧客の視点ではミッションを実現するために顧客に対してどのように行動すべきなのかという観点から顧客のニーズを迅速かつ的確に把握する仕組みをつくりあげている。それはPOSに代表される情報インフラだけではなく、組織全体が顧客のニーズを収集し共有化し活動に反映させる組織的な活動である。内部プロセスの視点では顧客を満足させるためにどのような業務プロセスに秀でるべきかという面から店舗での品切れを無くし且つ店舗在庫を持たない仕組み、すなわち「店の横に工場があるようなシステム」を実現している。学習と成長の視点ではミッションを達成するためにどのように変化と改善ができる能力を維持するかという面から、専門店としてふさわしい知識、ノウハウを身につけるための店舗経営者や店舗スタッフへの研修の義務付け等を推進している。
 このように(株)ダンは顧客中心主義という一本の明確な経営方針のもとに全ての活動が推進されているのである。このような(株)ダンの事例は変化が激しく先が見えにくい昨今の経営環境の中においてビジネスモデルを考える上で大変参考になる事例である。


 最後に私も実際に自宅近くのショッピングモールにある(株)ダンの店舗(靴下屋)を覗いてみた。女子中高生をターゲットとした店舗らしく広くはないがファッション性豊かな暖かく優しい雰囲気に包まれており、店員さんと少しお話をしたが大変丁寧な受け答えで好感が持てた。

■活動の関係マップ(講演録から丸川常務の言葉を抜き出したもの)


注1:POSシステム
 販売時点情報管理。小売業において、どの商品がいつ、何個売れたかを把握するために、商品を販売した時に1品単位で情報を収集し、コンピュータで管理するシステム。販売時点でデータを収集するため、POS対応のレジスタ(金銭登録機)が必要。最近ではパソコン・ベースのレジスタも登場している。

注2:SCM(Supply Chain Management)
 情報ネットワークを活用した経営手法の一つ。SCMと略される。部品供給会社(サプライヤー)から製造会社、卸や小売りなど顧客に至るまでのサプライチェーン全体をネットワークで結び、生産や在庫、購買、販売、物流などすべての情報をリアルタイムに交換することで、チェーン全体の効率を大幅に向上させることを目指す。複数の企業や組織の壁を越え、一つのビジネス・プロセスとして経営資源や情報を共有し、チェーン全体の最適化を目指してプロセスの無駄を徹底的に削減することが狙い。国内でも電子商取引推進協議会(ECOM)が2000年度から日本型サプライチェーン・マネジメントの具体的なビジネス・モデルを検討するなど、採用が広まりつつある。
   

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