アラコ事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
アラコ(株) 作成者:青野 博喜
ITC認定番号:0001572001C
作成年月日:2002年5月7日
1. はじめに
 アラコは、資本や売上のほとんどをトヨタ自動車が占める独特の企業形態である。こうした環境下であっても、自社に適した情報システムの追求が行われている。「経営判断へのタイムリーな情報提供を目指して」という目標を掲げ、ERPパッケージソフト (Oracle Applications) (注1)を活用した経営管理(会計)システム構築を、わずか2年という短期間に完遂した。また、自動車産業の国内市場のパイ縮小もあって、トヨタ自動車以外の自社独自ブランドの確立がなければ、21世紀のアラコはないとの危機認識のもと、新規事業へも取り組み初めている。
 経営管理(会計)システム構築のプロジェクトを、1995年2月にスタートし、将来を担う若いパワーを中心にBPR(注2)による業務革新を推進し、2年後の1997年には運用を開始した。このようなIT化への積極的な取り組みは、大企業だけではなく中小企業にも参考になると考えられ、アラコのERP化とそれらを取り巻く動向について考察する。

2. 業務革新...経営管理(会計)システム...ERPパッケージソフトの適用
 業務革新の着眼点として、「下流工程が上流工程からデータを入手して進む」いわゆる後工程引取り方式(トヨタカンバン方式)の考え方を適用している点、さらには「トヨタ自動車がこうやれと言っているからアラコもやらねばならないのだ」など、上手に外圧を活用されている点等は特筆すべきポイントかと考えられる。
 業務革新の結果、①会計処理に関わる人員を50人から30人に削減できたこと、②約2年間という短期間に開発を完遂したこと、③データベース統合化への基礎作りができたこと、④一流企業レベルの情報提供ができるようになったことなど、ERPを適用しつつある企業、あるいは今後ERP化を考えている企業にとっては、ある種の方向性なりヒントを示唆しているように思われる。
 また、ERPを導入する場合、下記の2つの議論がある。
(1) BPR(業務革新)を先に実施し、わが社のあるべき姿を描いてからそれに合致するERPパッケージソフトを導入する方法。
(2) 自社に合うERPパッケージソフトを導入し、それに合わせた形で仕事のやり方を替えていくことで結果的に業務革新を行なう方法。
 これまで、ERPを導入している企業を概観した場合、上記(1)、(2)のいずれが適切かということは断言できにくく、それぞれの導入企業の事情によって異なっている。ただ、ERPを導入すれば、結果的に自ずから業務革新を実施することとなり、その導入期間もERP型(プロトタイプ)(注3)は、従来開発型 (Waterfall) (注4)に較べて大幅に短縮され、1~2年程度で完了する事例が多く見うけられる。このようにERPパッケージソフトを活用した場合、システム開発期間、並びにシステム開発工数がそれぞれ約50%削減できると報告されている。
 Dog-Year(注5)と呼ばれる変化のスピードが、加速している現状を勘案すればケースバイケースではあるももの、世界標準のERPパッケージソフトを導入し、ベストプラクティスと呼ばれるビジネスモデルに合わせた業務革新を進める方法が妥当のように思われる。

3. ERPパッケージソフト
 業務革新あるいは経営のスピードアップ化に有効といわれているERPパッケージソフトにはどんなものがあるのだろうか。良く話題にあがっているいくつかのERPパッケージソフトのそれぞれの導入実績、特徴、適用業務範囲等を参考までに整理してみた。(表1)


4.部分最適から全体最適へ...SCM(注6)とBtoB(注7)
 自動車業界では、新車開発期間の短縮、調達コストの削減、システム開発/運用コストの削減、通信関連コストの削減、ジャスト・イン・タイムの更なる追求などの厳しい取り組みが続けられている。当然ながら、アラコでもその取り組みは求められることとなろう。 1997年からERPによる経営管理(会計)システムが稼動し、データベース統合化への基礎が出来上がって来ている。しかしながら、ERP導入の本来の目的は、①受注から生産・販売・納品・アフターサービスまでの業務全体の統合化を図るとともに、②業務プロセスの革新、顧客満足度の向上、財務的側面並びに人材育成面という4つの視点から、バランス良く戦略的な企業経営をも図るという全体最適化ツールとして活用することにある。
 また、企業内の部分最適から全体最適への動きは、顧客、ベンダー/サプライヤーを含めた、業界全体としてのSCMやBtoB等を含めた全体最適化も追求されて行くことになろう。そこには、企業独自のアプリケーションやネットワークで競争しようとする意識は薄れ、業界共通のアプリケーションやデータフォーマット、さらにはネットワークの共通化が図られることとなる。ネットワークの共通化で言えば、自動車業界のJNX(注8)がその典型である。 JNXは、自動車業界が要求する高いセキュリティや信頼性を保ちつつ、コスト的にも専用線に較べ比較的安価に使用できるインターネットを活用したネットワーク(IP-VPN(注9))である。また、業界こそ異なるものの、航空機製造業界で活用されている航空機業界標準EDIシステム(注10)もその1つである。こうした動きは、自動車業界のみならずあらゆる業界とその構成企業が、21世紀を生き抜いていくために目指すべきIT化の1つの姿ではなかろうか。(図1)


参照したWeb-サイト
・ERPパッケージソフト関係;
http://www.sap.co.jp/, http://www.oracle.co.jp/, http://www.peoplesoft.com/, http://www.baan.co.jp/,
http://www.jdedwards.co.jp/, http://www.itssp.gr.jp/, https://www.itc.or.jp/
・アラコ;
http://www.araco.co.jp/

注1:ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)
 企業全体の経営資源(人、物、金、情報)を、有効且つ総合的に計画・管理し、経営の効率化、最適化を図るための概念。ERPパッケージソフトとは、ERPを実現するためのツールで、企業の基幹業務である会計・販売・在庫・生産管理・購買管理といった業務システムを統合化したパッケージソフトであり、企業全体の経営資源の計画的な活用をサポートするツールである。
(出典;ITC下流ケース研修テキスト)
 Oracle Applicationsは、Oracle社のERPパッケージソフトの1つであるが、現在ではOracle E-Business Suiteと呼ばれているようだ。

注2:BPR(Business Process Reengineering)
 収益率や顧客満足度向上などの目標を達成するために、業務内容やビジネス・プロセスを分析し最適になるように再設計し、実際に業務内容や組織等の変更したり事業分野の再構築を実施したりすること。
(出典;日経BP 情報通信新語辞典)

注3:プロトタイプ
 ERP型等のソフトウェア開発の一手法であり、ユーザーの要求仕様を決める段階で実際に動作する大まかなシステムを作ってしまい、それを動かしてみる事によりユーザーの意見をダイレクトに反映する開発手法。
(出典;ITC下流ケース研修テキスト)

注4:Waterfall
 従来型のソフトウェア開発手法であり、要件定義、設計、プログラミング、テスト、運用と作業工程を順を追って進め、後戻りをしない開発手法。
(出典;ITC下流ケース研修テキスト)

注5:Dog-Year
 1ドッグイヤー=52日=450万秒。人間よりずっと寿命の短いイヌにとって、人間の1年はイヌの52日に相当する。イヌの感覚では人間の7倍のスピードで時間が過ぎていく。長足の進歩をとげるパソコン業界やIT産業界で、一年一昔の進歩ぶりを表すために最近使われ始めた言葉。
(出典;http://www2.justnet.ne.jp/

注6:SCM(Supply Chain Management)
 企業間や企業内を流れるモノや情報の流れを管理すること。部品や原材料を供給するサプライヤーやメーカー、販売店などを結ぶ企業間SCMと、社内における調達、生産、物流、販売の各部門を結ぶ企業内SCMがある。

注7:BtoB(business to Business)
 BtoBは、電子商取引の1つの形態で、企業と企業で行われる電子商取引をいう。これに対し、BtoC(business to Consumer)は、企業と一般消費者間で行われる電子商取引をいう。

注8:JNX(Japanese automotive network eXchange)
 日本国内の自動車業界向けBtoBネットワークのこと。
(出典;NIKKEI COMPUTER 2000,6,19

注9:IP-VPN(Internet Protocol-Virtual Private Network)
 インターネットを活用した閉域ネットワークのこと。インターネット・プロトコルのネットワーク上に仮想的な専用線網を構築する。不特定多数な企業や個人が利用するインターネットとは異なり、限られた企業だけが利用できるようにする。通信コストはインターネットと較べて割高になるがセキュリティを確保しやすいというメリットがある。
(出典;NIKKEI COMPUTER 2000,6,19

注10:航空機業界標準EDI(Electric Data Interchange)システム
 航空宇宙工業会のメンバー、並びに賛同する企業間で機体、部品、装備品等を設計・製造・運用する場合において、発注会社と受注会社での受発注情報を電子情報化し、インターネットを活用してやり取りする電子商取引の仕組み(BtoB)をいう。システムの維持管理は、航空宇宙工業会に設置されているEDIセンターにおいて行われている。
(出典;第19回ECOMセミナー「航空機業界標準EDIシステムの運用状況」)   

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