ダイカ事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
ダイカ(株) 作成者:メリットブース
     加藤 雅友
ITC認定番号:0019252002A
作成年月日:2002年5月10日
1.事例の背景
 ダイカ(株)が属する卸売業界においても経営環境は厳しく、生き残りの条件を模索する動きが急である。象徴的な事象として、メーカーに対する総合スーパーや大型専門店チェーン店等の力が強くなり、卸売業を介さない「中抜き」の増加がみられ、販売段階における流通経路の短縮が進んでいる。《図1》

 一方では、卸売業、小売業さらには製造業まで含めて共有すべき課題が増え、協業が活動の前提になりつつある。卸売業に対しても、リテールサポート(小売支援)の強化や、メーカーと小売業の中間にあるポジションを利用した情報のマッチング機能の充実が求められている。今後、企業・業種を超えた情報の共有化をベースに、企業の連携による社会的な付加価値の創出が基本的な使命になると考えられる。《図2》


 このような背景を念頭においてダイカ(株)の事例を読むと、同社が経営環境の変化に対して問題の本質を明らかにし、合理的な対策を立て、着実に実行していることに感心する。同社社長の大氏の視野の広いビジョン、先進的感覚、優れた戦略とそれを具現化する戦術は、企業や業界といった枠を超えて評価される内容である。

2.顧客ニーズに対応するダイカ(株)の取り組み(参考:ダイカ(株) HP http://www.daika.co.jp
 ダイカ(株)のホームページをみると 『私たちの目的は「永遠に世の中のお役に立ち続ける」ことです。家庭を明るく豊かにする商品をいつでもどこでも安く消費者が手に入れられるよう小売店頭へお届けする。』 とある。そして、これらを実現するために同社が実施している取り組みとして、「株式会社あらたの設立」、「仕入先無返品取引」、「店頭技術研究所」、「アッテル・ドリーム」などについても親切に説明されている。(同社 HPコンテンツ"ダイカブランド"を参照)
同社の取り組みを理解するのに参考となる資料として、中小企業庁による「卸売業の販売支援活動、物流活動に対する、小売業の今後の意向」のアンケート結果がある。《図4》《図5》


 リテールサポートの強化と小売業の物流コスト削減を可能にするための卸売業の効率的物流活動への期待の大きさがわかる。これらの事項にダイカ(株)の取り組みの機能的要素をつき合わせてみると、ダイカ(株)が顧客(小売業)のニーズを的確に把握し、着実に対応し、さらに前に進もうとしていることが明らかになる。また、各取り組みが経営戦略の示すベクトル上に、実にバランスよく構成されていることが分かる。《表1》

3.事例にみる今後の方向性と課題
 流通業において、今後の方向性を示す考え方にECR(注1)がある。ECRは日本でも話題になって10年程たつが、実質的な合理化会的にどれほど進んだかは疑問である。進まない要因としては、標準化の未整備やコラボレーションに抵抗する日本的慣習、それと経営者の危機感の不足などがあげられる。しかし、近年の著しい景況の低迷により、企業や業界が生き残りをかけた経営的意思決定を迫られることになり、状況は大きく変わることになるだろう。
 そのような目でもう一度ダイカ(株)の事例を読み返すと、ECRという言葉を前面には出していないが、同社は既にその本質を実行している。そして、課題は自社の利益追求だけでなく社会的な貢献を重視し、具体的には環境問題への対応や流通経路におけるトータル在庫リスクの軽減などである。このような同社の姿勢が、将来のあるべき企業像を連想させる。
 全国的なスケールで社会的ロスを徹底して排除しようとする同社の経営を示す取り組みを3つあげる。一つは「株式会社あらたの設立」、二つ目は「仕入先無返品取引」、三つ目は「リアルタイム単品在庫管理」である。これらが相互に連携して、同社の経営を支えている。
(1)株式会社あらたの設立(同社HPコンテンツ"トピックス"を参照)
  最も安いコストで、最も高度な卸機能を果たせる体制をつくり、「永遠に世の中の役に立つ存在でありつづける」ということであります。そのために経営統合をして全国をカバーするネットワークとスケールを実現いたしました。マーチャンダイジング、ロジスティクス、情報支援の3つの機能を充実させ、生産から消費までの流通全体の最適化を実現させるSCMのスペシャリストをめざします。 とホームページで宣言している。
(2)仕入先無返品取引
 返品を、交通渋滞、大気汚染、資源の浪費、ゴミ公害などの環境問題を引き起こす根源と考え、企業の社会的責任を果たすための取り組みである。この取り組みは、同社の在庫リスクを増やすのではないかと心配するのだが、そのようなことはなく10年間の活動で確実な成果をあげている。これは、次項の「リアルタイム単品在庫管理」をベースに組織的な活動による成果であると推測できる。《図表》

(3)リアルタイム単品在庫管理
 リアルタイムでの単品在庫管理は、高度な需要予測で小売業を支え、仕入先との無返品取引を維持し、本格的なECRを実現するための前提条件となる。事例本文にもあったが、在庫データの精度維持は大変難しい。それも、リアルタイムでの単品レベルとなれば、その難易度は並大抵ではない。しかし、コミュニケーションや意思決定の基礎単位として、今後各社がそれを求めることになるだろう。

 以上、ダイカ(株)の経営はかなり進んでいて、将来的な課題を考えるときに大変参考になると思う。また、これから日本が"失われた10年"をどのように取り戻すか、ハードや技術の導入の前に"人"の思いや構想、さらに信念と情熱が重要であることを実証した事例として、大変勇気づけられた。

注1:ECR(Efficient Consumer Response)
 "モノ"の生産から消費者の手に渡るまでの過程で、ネットワークやデータベースを基盤に徹底した無駄を排除し、消費者利益の最大限化を図ろうとする考え方。
 米国において、世界最大の小売業ウォルマートがスーパーセンターという業態を作り出し、食料品売り場の展開を始めた。これに危機感を感じた食品スーパーマーケット業界がとった対抗手段がECRであった。米国ではFMI(米国食品マーケティング協会)、GMA(食品雑貨工業界)等が中心となって広まった。

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