山田農園事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
(株)山田農園 作成者:古家後 啓太
ITC認定番号:0003222001C
作成年月日:2002年4月25日
 株式会社山田農園は、資本金4000万円、従業員34名の規模であるが、いち早く社内情報化を図るとともに、平成9年からは先進的情報システム(電子商取引等)開発実証事業 (*1) を活用してサイバーモール「楽市らくじゃん」を始める等、積極的に情報戦略を展開し成果をあげている。
 本事例は、観葉植物の栽培、レンタル、造園、輸入等を行っている株式会社山田農園殿が、従来からの流通機能の限界を感じ、新たにWebを活用したサイバーモール
(*2) を開発した経緯を報告したものである。

(1)花き市場動向
 経済産業省「商業統計」によれば、花・植木小売業の市場規模は平成11年で約9千億円となっている。 また、総務省「家計調査」によると、切花の消費については、長期的(昭和55~平成12年)には、総じて増加傾向で推移していたが、 景気の谷であった平成5年以降、伸びに鈍化がみられ、平成9年を境に減少に転じている(図1)。 一方、園芸品・同用品の消費動向は、平成2年以降、増加傾向で推移していたが、平成12年は減少に転じている(図2)1) 。このように山田農園殿の市場は長期的には拡大されてきたものの頭打ちの状況になっている。
 しかし、(社)自由時間デザイン協会「レジャー白書」によると、「園芸・庭いじり」の参加人口は微増傾向で推移し、10年間で、約2割の増加となっており(図3)
1) 、マーケットニーズを確実に取り組むことによりさらに潜在需要の掘り起こしが可能な市場と言える。

図1 切花の購入頻度及び支出金額の推移(名目、全世帯、1世帯1年間当たり)1)


図2 園芸品・同用品の購入頻度及び支出金額の推移(名目、全世帯、1世帯1年間当たり)1)


図3 余暇活動(園芸・庭いじり)参加人口の年次推移 1)

(2)サイバーモールの動向
 サイバーモールとはインターネット上の商業集積のことでインターネットを利用したオンラインショッピングのひとつである。 サイバーモール協議会のホームページに以下のような現況と課題を挙げている。
「インターネットを利用したオンラインショッピングは、近年急速に普及拡大している。また、最近になって決済手段の発達や、認証サービスが実用化され、ビジネスの環境は徐々に整ってきている。 しかしながら、問題がないわけではない。オンラインショッピング市場の拡大にともなって、さまざまな商品が販売されるようになっているが、①売上は一部の有名仮想店舗に偏っている。 コンピュータ(とその関連)、書籍、予約ビジネス等を除くと、仮想店舗の経営状況はかなり厳しいのが現実である。 また、残念ながら依然として②最低限のルール(例えば訪問販売法の表示義務)も守っていない店舗もまだ多く見られる。さらに、③消費者向け電子商取引は歴史が浅いこともあり、 法律や取引慣行が確立していない点があるなどの問題も多く見られる。サイバーモールについても、実験的な段階から実用段階に移るにつれ、その役割が問われている。 現在では、サイバーモールを利用しなくても、比較的低価格でレンタルサーバーを借り、SSL
(*3) でセキュリティを確保した取引も個人レベルでも可能になってきた。しかし、①仮想店舗の増加により、単に仮想店舗を開設しただけではアクセスしてもらうこさえ難しく、 モールの役割は大きくなってきている。また、②決済の代行などのサービスを充実させるモールが出てきたり、特定の商品や、地域密着などの特徴を活かしたモールが出てきている。 今後ともサイバーモールは、①電子商取引についてのノウハウを活かしたサービスやコンサルティング等、また②信頼性の確保により一定の地位を占めるものと考えている。」 2)
 このような中で、本事例のサイバーモール「楽市らくじゃん」の特徴は、生産者と消費者を直接結びつけることを目的としており、顧客の要求を満足することにより大きく発展する可能性を持ったモールと言える。

(3)楽市らくじゃんの特徴
 楽市らくじゃんは、単なる生産者と消費者を結ぶサイバーモールというよりも、園芸やガーデニング等の農産物をテーマに様々な情報提供を行う交流の場としての機能も有している。 事例に紹介された植物図鑑の他にもコンテナで楽しむハーブ、グリーンボール、掲示板等利用者参加型の情報提供を行っている。 4)
 また、日々進化するモールを支える体制としてECビジネス開発室に専務であるウェブマスターを筆頭にシステムエンジニア、Webエディター、デザイナー、園芸記事・コンテンツ担当、出店・店舗担当の陣容を構えている。 この自社を主体とした開発体制も、山田農園殿の情報戦略や楽市らくじゃんに対する意気込みを感じることができるものである。

(4)今後の可能性
 日経ネットビジネスの第12回インターネット・アクティブ・ユーザー調査によると花・観葉植物のオンラインショッピング利用は、年々増えてきている。3) また、農林水産省の平成13年度下期花きの需給・価格見通しの年齢階層により異なる切花の消費動向によると、昭和55~平成2年については、各年齢層とも加齢とともに全体的な支出金額の増加がみられ、 特に55年に49歳であった年齢層が大きな増加となっている(図4)。平成2~12年についても、各年齢層で支出金額の増加がみられるものの、増加の大きい年齢層は、2年で40~49歳であった層となっている。 同様に園芸品・同用品の1世帯当たり年間支出金額を、世帯主の年齢階層別に平成2年、12年についてみると、平成2年に40~49歳層であった年齢層(12年では50~59歳の層)の増加が顕著である (図5)。この世代は、いわゆる団塊の世代であり、消費を支えてきた世代の一つである。1)
 一方、総務省の平成13年度情報通信白書のインターネット利用における個人属性別格差の現状によると、インターネット利用は、20歳代が79.4%であるのに対し、50歳代は33.7%と低くなっている。
 すなわち、本市場におけるサイバーモールの可能性は非常に大きいものであるとともに、中高年者や女性の活用しやすいコンテンツの開発が発展への重要な鍵となるものと言える。

図4 世帯主の年齢階層別にみた切花の1世帯当たりの支出金額(実質)1)


図5 世帯主の年齢階層別にみた園芸品・同用品の1世帯当たりの支出金額(名目)1)

(*1) 先進的情報システム(電子商取引等)開発実証事業:情報処理振興事業協会(IPA)は、平成7年度及び8年度の補正予算に基づいて企業間及び企業消費者間の電子商取引に関する実証プロジェクトを実施し、システム構築や管理、課金・決済、セキュリティ確保等に関する共通基盤技術開発とその実証を行ってきました。
 先進的情報システム開発実証事業(電子商取引の実用化等)では、これまでの蓄積を生かし、さらなる技術開発の推進や地域等のニーズに基づいた、或いは、より実用に近い電子商取引システムの構築と実証実験を行うことにより、電子商取引の本格的実用化を促進し、我が国経済の構造改革、景気浮揚を図ることを目的としている。

(*2) サイバーモール:サイバーモールとは、その名の通りインターネット上の商業集積で、サイバー空間のショッピングモールです。わかりやすく「インターネット上の商店街」と紹介されることもありますが、これは必ずしも正確ではありません。ショッピングモールとは、我が国の商店街にみられるような自然発生的な商業集積ではなく、 計画的に物販、飲食・サービス、娯楽施設を配し、消費者のニーズに応えるように作られた商業施設の事です。米国ではこのような施設が一般的になっており、郊外にディベロッパーによって多くのショッピングモールが作られています。サイバーモールは新しい形態だけに、いろいろなものがありますが、自然発生的な集積ではなく、 モールマスターによって計画的に出店を行っているものであると考えた方が良いと思います。
モール毎に、総合的な品揃えを行うモール(総合モール)、専門分野に特化したモール(専門モール)、地域の特産物を中心に扱うモール(地域モール)などがあります。
(出展:サイバーモール協議会 http://www.cybermall.org/index.html

(*3) SSL: Secure Socket Layer の略であり、暗号と電子認証を用いてインターネット上のデータ交換を安全に行うための通信プロトコルである。
(出展:ビジネスマンのためのIT用語ハンドブック2001


参考文献

1) 農林水産省ホームページ:
    http://www.maff.go.jp
2) サイバーモール協議会ホームページ:
    http://www.cybermall.org/index.html
3) 日経ネットビジネス第12回インターネット・アクティブ・ユーザー調査:
    http://nnb.nikkeibp.co.jp/nnb/200107/f_nmmq12.html
4) 山田農園ホームページ:
    http://rakujan.yamaen.co.jp/
  

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