事例本文(住友電装)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:17 住友電装(株)   事例発表日:平成12年2月23日
事業内容:自動車部品メーカー
売上高:1953億円
1999年3月
従業員数:4590名
2001年9月
資本金:50億3400万円 設立:1917年12月
キーワード 自動車部品製造、
ジャストインタイム生産の柔軟性、設計リードタイム短縮戦略的情報化投資、
EDI、GPS、SCM、エンドユーザ主体の開発体制
戦略的情報化投資への決断 我が社のあゆみと課題
  
住友電装(株) URL:http://www.sws.co.jp

住友電装(株) 会長 村田 茂
情報システム部長 伊藤 仁志
プロフィール
村田氏/1990年に同社代表取締役社長、95年に会長に就任。その間、住友電装グループのトップリーダーとして企業情報の高度化による経営改善を推進。
伊藤氏/村田会長から呼を受けて同社の戦略的情報化の第一線を指揮。その奮闘ぶりが日経ストラテジー2月号にて取り上げられている。
~グローバリゼーション最前線の自動車業界で世界最適調達メーカーを指向する~

激変する産業構造の中でも、自動車業界の変化は目覚ましい。グローバリゼーションの波が容赦なく襲い、自動車メーカー各社はたくさんの課題に懸命に取り組んでいる。そしてまた、共存共栄してきた部品メーカーも同様の環境のもと、自動車メーカーからの厳しい要求にいかに対応できるかが生き残れるかどうかの分岐点となっているのである。たくさんの苦しい課題を抱えながら戦略的な情報化投資に取り組み、売上増加にまで効果を結びつけた住友電装の事例に学ぶことは多い。


■会社概要
設立 1917年12月
資本金 50億3,400万円
売上高 1,953億円(99年3月期)
従業員 5,000名
事業内容 ワイヤーハーネス電装品並びに電線類の製造販売
国内関係会社 22社(5,000名)
海外関係会社 43社(22,000名 19カ国)
主要取引先 トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、三菱、GM、FORD、FIAT、VW、BMW等

■主要製品
・自動車用のワイヤーハーネス
  自動車の中の電気回路、電子回路をそれぞれ機器、或いは動力源と結んでいろいろな情報やエネルギーを伝達する役割を持つ、自動車全体の走行を補助するもの
・ コネクター
・ ジャンクション・ボックス
・ センタークラスター

■旧システムの限界、新システムの早急な構築が必要となった
ここ10年の売上高と経常利益をグラフにしてみますと、バブル崩壊の寸前まで右肩上がりでずっと売上が伸びてきていましたが、93年から右肩下がりになり、96年からまた若干取り戻して、現在では2000億円前後の売上となっています。特に96年に売上が増えたあたりは、新しい車の注文を得たこともありますが、それに結びつくような形で情報システムの改革が実現し効果をもたらしたと思っています。
私は住友電工で長らく営業を担当し、90年にこちらに来ました。その当時は好景気で増産対応に苦労していました。自動車メーカーからは商品力の強化、高品質化、低コスト化を大変厳しく要求され、マルチパーパスな車を増やそうと各社が検討し車種のバリエーションがどんどん増えていました。85年に3000点くらいだった品番の点数が90年には5000点に増え、設計の手間も大変増えて参りました。自動車メーカーも海外生産拡大に走り、特に円高による海外シフトが進みつつある時代でありました。
その頃の当社の経営課題は、増大するハーネスの注文にどう対応していくかということでした。工場の方は残業や臨時工の人を増やすことで増産対応を図っていましたが、残業が増えることに不満を持った若いエンジニアが入社2、3年でどんどん辞めていくような負の影響も出てきました。また、工場の新増設計画が決定し、6工場を増設することにもなりました。今後のことを考えると生産革新、企業体質の強化なくして乗り切れないと思いました。既存システムは、1980年頃に作ったシステムを数回により改善して付加的なものをつけたシステムなので、これ以上の拡大拡張は無理だと判断しました。新しいハーネスCIM構築の必要性が、特に情報システムのグループの中で検討されていました。設計開発部門の幹部からは、その時の人員の倍近い人員を確保して組まないと設計の対応ができないので、設計要員としてあと200人増やしてほしいという要求が出る始末でした。早急に社内の方向性を話し合った結果、時代のニーズに即した新システムを3年間で創らないともはや対応できないとの結論に達しました。

■課題は山積み、それを乗り越えて大きな成果を実現
社長としては、まず情報化の資金が心配でした。その当時で、当初80億必要だと言われていました。これはピーク時は3年ほどですが、5年くらいの間に完成させるということでしたから、年平均16億円のインフラ的な情報化投資が必要になる計算です。IHS(インテグレイテッド・ハーネス・システム)......設計、生産、経理まで全事業活動に関わる総合的な情報処理システムを開発する原資が80億かかるというのが大変なことでありました。他の投資も入れると年間30億円くらいは情報化としてやらなくてはならないので売上が約2000億ですから、年間1.5%の情報化投資ということです。しかも、工場の新増設の案件も目白押しで、91年にバブルが崩壊し、景気が後退し、お客様からはさらなる値引き、新車開発に要する期間短縮のために我々にもっと設計精度を上げて欲しいとか、相互のコミュニケーションができるように先方のコンピュータとの連結も含めてシステムを高度化して欲しいなど、要求が相次ぎました。こちらは、お客様のスピードが上がるのに対応しきれない、アプリケーションが不足しているのに急には賄えないなどジレンマばかりで、まさに課題が山積みでした。
開発投資に必要なお金ですが、いくつかの工場進出を半分の規模に減らすなどしてから、3回の社債を発行しました。同時に借入金の借り換えをして金利負担を減らし、このシステム全体の開発投資も60億まで圧縮しました。開発内容については、特にIHSの開発期間を短縮することで設計のリードタイムを短縮しようと考えました。競合見積対策も課題として組み入れました。お客様が「売れる車しか作らない」、「在庫を持たない」という方向になり、我々のワイヤーハーネスも大変変動が激しくなり、それに対応できる生産の柔軟性も課題の1つでした。新しく構築すべきIHSというシステムは、共用化設計、共用化生産が連動した統合システムを目指し、最終的にはジャストインタイムの納入による物流コストの低減、輸送時間の短縮、と合わせて仕掛を含む在庫の削減により、資金効率を向上させ、浮いたお金が情報システム投資の効果だと考えました。
93年4月から設計システムが一部稼働に入り、94年にはお客様との間でCADデータの授受ができるようになりました。その年の7月には生産管理システムも一部稼動し弾力性が出てきました。95年には、設計、生産管理システムが全面的に稼働し、軌道に乗るにつれ、当社が今までできなかったことが色々できるようになりました。ちょうどその頃、カーメーカーが車種を増やしつつあったので、我々の新ハーネスシステムを駆使し、受注コンペに臨み、売上復活に効果を上げました。システムを使いこなすために、実際に使う人たちの参画において苦労はありましたが、設計開発力の向上、決算日程短縮などどんどんスピードが上がり、お客様へのレスポンスが早く、かつ、質もアップしたということで信頼性も向上しました。子会社とも連結経営、連結決算が比較的容易に他のパッケージも活用しながらできるようになりました。
こうしたシステム改革を実現する条件としては、何と言ってもトップの強力なリーダーシップであり、戦略的情報化を推進しようとする時には「人」が中心になります。単なる情報の共有化ではなく、情報の共感化が大切で、分散型でなく、ここは絶対はずせないというところには全力を上げて人も金も集中的に投資をしてその結果を早く出して経営効率の改善に役立てることです。情報システム分野には社内にしろ社外からにしろプロ集団が必要で、それを機動的にかつ効果的に投入することが戦略的経営の中でも極めて重要なのです。また、仕事の仕組みや業務の環境整備も大事なことで、いずれにしても、やはりトップの強固な意志、実行力、説得力にかかってくると思います。
具体的な展開について説明します。

■開発推進の具体例と成果
IHS開発の3つの基本方針
システム利用部門主体の開発体制それまでは情報システム部主体の開発でお任せのシステムでしたが、IHSにおいては、業務の仕組みと課題に精通したシステム利用部門が主体にならないと成功しないと考えました。
業務機能と情報の大幅な改善と統一化を促進
IHSの早期開発、早期稼働、費用圧縮これだけのシステムですと従来のやり方だと約5年かかりますが、それでは出来上がった頃には既にシステムが陳腐化してしまうので、最低でも3年の間に一部のシステムでも稼働させていくことが目標でした。
具体的には、システム機能と情報の統一を図る必要があり、コード体系、データ項目、事務ルール、事務フロー、組織、要員、設備、など現状の業務の全てにおいて課題を確信して、新しい仕組みに置き直すということです。現場では現状の業務を運営しているなかでこういう新しい仕組みを持ち込みますと、やはり強烈な抵抗が出てきます。その解決のために、新システムに共感してもらおうと、システム利用部門主体の開発体制を敷きました。
IHSの開発体制は、売上の80%を占めるハーネス事業の基幹システムとして開発することから、全社の英知を結集して開発する必要があります。そこで、IHS委員会を発足し、設計分科会と生産管理分科会に分けて開発を進めました。実行部隊については、ワーキンググループという形で全社からメンバーを選抜し、100名を越す大きな委員会となりました。このうちの10人は業務に精通した専従メンバーです。システム開発については、情報システム部が主体的に行い、社内78名を投入、さらに開発のスピードアップを図るため外部のソフト開発を85名投入しました。投資配分は、設計が40億円、生産管理が20億円、合計60億円です。開発本数は約1万本の枠で構成されています。
では、IHSシステムでどのような効果があったのかお話します。いちばんの効果は、設計の省人化でした。開発を始めた90年当時、CADのオペレータは350名、設計件数4000点くらいでした。今ではオペレータは170名に、設計件数は6000点になっています。従来はMARKⅡクラスの車でだいたい150枚くらいの図面がありますが、IHSシステムの中で捉えてみると半分くらいが共通的な回路で、残りの半分がオプション的回路となります。そこに注目して図面の共有化を図り、5分の1の図面枚数にした結果、設計変更の数も激減し、設計の自動化も随分図れました。設計のコストが減り、質が向上したということです。約300名のCAD要員の省力化というのは、金額にして年額20億円以上になる計算です。
当社の情報化投資は、IHSに60億円かけて行うのと併行して、他に40億円かけてシステム開発を行ってきました。その後もだいたい年平均30億円の情報化投資をしています。95年にIHSの開発がほぼ収束し、その後はOA化の対応を行い約10億円投入しました。また部品システムに5億円投入、その他連結決算管理も先行的に開発しています。GPSを活用した物流管理、インターネットEDIなども進めています。
情報システム部門の開発体制は、200名で運営しています。内訳は企画及び予算管理を行う情報システム部が48名、SWICS(スイックス=90年8月に分社化したソフト開発専門会社で、住友電装コンピュータシステムの略称)が80名、外部のソフト会社から72名活用しています。やはり開発のスピードが上がるということと、当社にない専門技術を早期に導入するということから、アウトソーシングを積極的に活用しています。ただ、アウトソーシングを活用すると、新しい技術が社内に残らないとか、開発情報が外部に流出する問題もありますので、情報システム部門を分社化し、その部分を内部利用という形にしています。また、開発をSWICSに集中することから開発の効率化を図り、費用削減を行っています。外部スタッフにも社員と同じ環境で業務を行ってもらい、成果優先主義を適用しました。要員配置は、IHSが78名、その他のシステムで122名となっています。

生き残りをかけて自動車業界各社は必死。情報化が大きなカギとなる。
最近の自動車業界は、ご承知の通り、21世紀に生き残りをかけた熾烈な国際競争を繰り広げていて、部品メーカーを含めた自動車業界全体が大きく変わろうとしています。自動車メーカーから部品メーカーへの要求として、急速な海外展開に伴うグローバル化対応、継続的かつ強烈なコストダウンがあります。つまり、自動車メーカーは世界最適調達によるコスト低減を図るために、グローバル対応ができない部品メーカーを選別し切り捨てようとしており、従来の自動車メーカーとの系列構造は徐々に崩れつつあります。反対に柔軟な対応ができる部品メーカーとは、部品のモジュール化推進、リードタイムの短縮化とコスト低減のために、コンカレント開発とアライアンスの確保を積極的に推進しております。ここで重要になるのが情報戦略です。自動車メーカーは部品メーカーとの設計生産販売情報の電子化を推進し、コンピュータシステムの投資とグローバルネットワークによる情報データベースの共有化を図り、強固なサプライチェーンマネジメントを構築しようとしているのです。
当社としては、生き残りのために、世界最適調達を実現しなければならない状況です。具体的な対策ですが、まず海外戦略では、日本、アジア、米州、欧州の世界四極体制を敷き、海外に製造会社27社の関係会社を持っています。開発拠点は6社、販売会社は10社を有し、あわせて情報ネットワークの構築も行っています。新しい電装部品を投入するシステムインテグレーション対応については、テクニカルセンターの強化、当社が有していない技術や製品については異業種、同業との連携強化を推進しています。ハーネスの生産比率は、国内46%、海外54%と、完全に海外生産が高く、この傾向が強くなってきています。グローバルな生産・販売ネットワークとして、海外43社、国内については22社で運営し、北は岩手から南は九州まで各地に点在しています。
市場ニーズに見合ったコストと品質が提供できる生産体制を構築中で、具体的には、自動車メーカーとのコンカレント開発だけでなく、自動車部品のモジュール化の進展に合わせて他社との共同開発も行い、開発リードタイムの短縮とコスト削減を図っています。また現地生産だけでなく、コストメリットのある海外への生産委託など、より有利な生産方法や生産場所を選択する生産体制をとっています。このように、情報と機能の統一と共用化を図ることは非常に重要なポイントです。

■単一企業内の情報システムからグローバル情報システムへ
現在、グローバル情報システムを構築中で、それを効率的に運営するサプライ・チェーン・マネージメントは、図「当社のサプライ・チェーン・マネージメント」の通りです。関係する自動車メーカー、親会社の住友電工、当社、関係会社、協力会社、仕入先等、かなり複雑な構造のシステムとなりますが、これにより情報と機能の共通化が図れます。設計、生産管理、販売、調達、物流、経営管理、それぞれの具体的なパッケージを構築し、システムは共通データベースに全て結合し、ここに集約的データを集めている仕組みです。自動車メーカー、仕入先、協力会社とは、最近ではインターネットEDIを使っています。

業務の連携強化とコミュニケーションのスピードアップを図るために、専用回線化、電子メール、電話会議、テレビ会議などを導入し、こうした情報インフラについては2000年1月に完了しています。
グローバルなシステムサポート体制については、現在は国内160名、海外140名のシステム要員で対応し、情報システム部が関係会社を出張ベースでサポートしています。しかし出張ベースでは不十分なこともあり、各拠点(アジア、米州、欧州)にISセンターを構築し、きめ細かな対応をしていきます。まずは4月に米州、夏に欧州、に立ち上げる予定です。関係会社のシステムについては関係会社のローカルスタッフが対応していますが、そこでオーバーフローしたものについては関係会社であるSWICSやインドのソフト会社なども活用しながら運営しているところです。
グローバル情報システムを円滑に運営していくためには、グローバル化に対応したシステム要員の育成が最優先課題となります。グループ全体において、各社間のシステム機能とスキル格差を認識するとともに、優秀な海外システム機能及び要員の活用を図っていかなくてはなりません。1999年12月にタイでアジアの情報システム会議を開催し、9カ国、20名が集まりました。2000年は9月頃に北米で行う予定です。その他国内では情報システム研修会、情報システム連絡会などを徹底的に行い、レベル合わせをしています。
いずれにしても、従来の企業内の情報システム化から、グローバルな企業間での情報システム化へと、スピーディに対応していく必要があり、生き残りをかけて、全力で取り組んでいるところです。

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