函館カネニ事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
(有)函館カネニ 作成者:松本 眞由美
ITC認定番号:0009082001C
作成年月日:2002年5月21日
 (有)函館カネニは創業40年余。函館港で水揚げされた「カニ」を中心とした水産物加工および販売業として、北海道函館市の「函館朝市」に3店舗、「中島廉売」に1店舗、計4店舗を有する。函館港で水揚げされ、茅部郡森町の自社工場内の専用大釜でゆでたカニ等の魚介類を店舗で販売している。
 独自の塩加減とゆであげるタイミングをもとに完成させた、家庭では出すことのできない「浜ゆでの味」を全国に広めたいという藤田社長の意気込みのもと、1996年からネットビジネスへの取り組みを始めた。翌1997年から立ち上げたショッピングモール楽天市場(注1)内での本格的なネットショップ(注2)では、 「商品を売る前に心を売る」という藤田社長のやる気とアイデアを、新しい販売手法への取り組みや日々の更新によって実現し、現在は年間1000万円以上の売上を確実に得ている。
 以下に、当該企業をとりまく環境と楽天市場で行っているネットビジネスへの取り組み方、および、今後への期待について述べる。


1. (有)函館カネニを取り巻く経営環境
 (有)函館カネニが店舗を構える函館市は、日本最初の貿易港として開港して以来、街並みに欧米文化の面影を残し、例年多くの観光客を迎えている。その中で、戦後の闇市から始まった「函館朝市」は現在店舗数200余。函館市民の台所であり、観光名所としても全国的に有名である。
 しかし、現在の北海道全体の景気動向は依然極めて厳しい水準であり、函館商工会議所の直近の調査結果においても、漁獲水揚げ高の減少の一方で、個人消費の低迷等、水産加工を中心とした製造業全体において今後も楽観できない見通しであると推定されている。 また、総務省統計局による全国の世帯における直近の家計調査においても、個人消費支出額全体の低迷に加え、支出の内訳の中でも魚介類のうち魚介加工品の支出割合は低下し、当該企業の属する業界全体の今後の経営の厳しさが予想される。


2. インターネットを利用した販路拡大の実践
 当該企業は函館朝市に実店舗を構える100余の同業店舗の中で、いち早くインターネットの可能性に着目し、楽天市場への出店により販路拡大戦略を実践、十分な成果を上げている。
  
(1)当該企業のインターネットへの取り組みの経緯
  1957年:函館朝市にて、販売を始める。
  1996年:レンタルサーバーにて、ネットショップを開店する。
  1997年:楽天市場に移転し、ネットショップを開店する。
  1998年:自社ホームページ「函館カネニの活き活き新聞」を開設する。
  2000年:函館朝市ショッピングモール開設と同時に、「ネットショップカネニ藤田水産」を出店する。

(2)当該企業のビジネスモデル
 当該企業は事例本文で紹介されている楽天市場内および、函館朝市ショッピングモール内の2店のネットショップを有する。
 後者は事例本文中で藤田社長が今後の展望として語っておられるショッピングモールを2000年に実現されたものだが、函館朝市の実店舗200余のうち、インターネット上での販売が可能な水産加工品店は当該企業を含めた2社のみ。他店はすべて店舗紹介および電話での受注受付であり、 また、2001年6月以降に更新がなされていないため、全体に函館朝市および函館の紹介ページと見受けられる。
 そのような状況において、当該企業はネットビジネスの基盤を楽天市場ととらえ、函館朝市ショッピングモール内のネットショップでも独自に商品情報の更新および販売を行いながら、楽天市場の提供する共同購入システム(注3)や、プレゼント企画等へとスムーズな来店誘導を行っている。
 また、実店舗および地元函館市および函館朝市の紹介を、自社ホームページ「函館カネニの活き活き新聞」で行うとともに、楽天市場のネットショップへの来店誘導を行っている。

それぞれのホームページの構成およびコンテンツは下記の通りである。


   (3)楽天市場におけるネットショップ
 楽天市場出店には、出店料月額5万円と売上に比例した手数料(数%程度、2002年度より実施)を要するが、楽天市場の簡易なホームページ作成機能および受注管理、顧客管理、自動受信確認メール送信等々、充実したバックヤードシステムの活用により、出店企業がリアルタイムに容易に商品情報の更新や受注確認や個別メール配信等の顧客対応を行うことが可能である。
 ただし、楽天市場の提供する機能をどの程度活用し、創意工夫を加えるかは、出店企業により取り組み方が異なるため、実績に大きな差が出ているのが現状である。
 当該企業は楽天市場の提供する機能をフルに活用し、さまざまな顧客の要望に対応しようという意気込みが感じられる。商品情報の更新は日々行われており、1点1点丁寧な説明文や注意事項が書き込まれ、初めて購入を検討する場合には特に安心感・信頼感を与えられるようなページ作りがなされ、また、全体にわかりやすいページ構成となっている。
 販売方法においては、通常購入方法に加えて、低価格の共同購入、オークション(注4)、さらに、まとめ買いで送料一律購入方法を「スーパーマーケット」と独自に命名し展開している。また、近年市場の伸びが顕著なモバイルコマース(注5)にも対応済みである。
 しかし、楽天市場に出店している水産物・水産加工品取り扱いショップは14,000余、主力商品であるカニを販売しているショップは全220店余、毛ガニだけでも43店にのぼる。この競合の多い中で差別化をはかるための仕掛けとして、当該企業は次のような取り組みを行っている。
 まず、未購入者への販売促進として特に効果的なプレゼント企画の実施、既存購入者に対してはポイントシステムやメールマガジン「活き活き新聞/お買い得情報」によりリピート購入を促進することで固定客化を図っている。また、顧客からの掲示板(注6)のへの書き込みに対する担当者の確実な返信は、顧客との大事なコミュニケーションの場であり、顧客の喜びの声を公開することは、購入を検討している未購入者に対する販売促進ともなっている。
 また、ネットショップでの購入確定の判断材料として欠かせない支払条件については、商品代金に送料および代引き手数料を含んだ価格提示を行っており、遠隔地からの注文の際に送料の負担を感じさせないよう配慮がなされている。決済方法もクレジットカード・代金引換・銀行、郵便振替、現金書留と、顧客の選択肢を多く提示していることも売上増加の一因となっている。
 最後に、遠隔地の顧客も気軽に問い合わせることができるように、問い合わせ電話およびFAXにフリーダイヤルを導入した。さらに当該企業にアクセスした初めての顧客に声で安心感を与えるようになっている。
 以上のように、「商品を売る前に心を売る」という藤田社長のやる気とアイデアを具現化したのが、現在の楽天市場でのネットショップであるといえる。

3. 今後の事業展開への期待
  
(1)今後の最終消費者向け電子商取引の市場規模
 中小企業庁発表の中小企業白書によれば、平成12年度の最終消費者向け電子商取引は6,233億円、うち、モバイルコマースは541億円と、インターネットユーザー、携帯電話の普及と共に年々増加基調にあり、今後もブロードバンド(注7)の普及により加速することが期待されている。
  

    さらに同調査によると、b)品目別市場規模のうち、食料品・酒類は245億円と、コンピュータおよび周辺機器、航空・旅行業、ホテル予約、有料デジタルコンテンツに次ぐ上位5位の市場規模である。
 また、日経ネットビジネス誌第12回インターネット・アクティブ・ユーザ調査によれば(2001年6月実施)、いずれも複数回答だが、「オンライン・ショッピングで購入したことがあるすべての商品」の中で、 食料品購入者は13.4%(2000年12月:10.2%、2000年6月:9.9%)、「一番最近のオンライン・ショッピングで購入した商品」としての食料品購入者は34.6%(2000年12月:27.2%、2000年6月:24.8%)、と増加傾向にあり、鮮度や味、安全性が求められる食料品をインターネットで注文することがごく日常的に受け入れられていることが見受けられる。今後も電子商取引市場全体の伸びと共に、食料品分野の市場の伸びが期待される。

(2)当該企業の今後の展開への期待
 当該企業の業界は自然環境・天候に左右される事業だけに、今後、確実にネットショップで利益を得るためには、既存顧客のリピート率の向上が重要なポイントである。現状では、ポイントシステム、メールマガジンでのお買い得情報提供、お得意様限定の代金後払いと、固定客作りの取り組みはなされているが、今まで蓄積した顧客の購買データを活用した顧客一人ひとり個別の商品提案など、さらなる工夫が期待される。
 また、実店舗の既存の取引先(例えば飲食店等)との企業間取引、或いは新規取引先の開拓の場としてのネットショップも検討・研究の余地はあるだろう。
 一方では、地元経済活性化のために、今まで楽天市場のネットショップで培ったノウハウと知名度を元に、函館朝市ショッピングモール全体のボトムアップを図る新たなる取り組みに期待したい。


《参考URL》
・(有)カネニ藤田水産~函館カネニの活き活き新聞
ttp://www.asaichi.ne.jp/hakodate/kaneni/
・はこだて朝市!カネニ藤田水産直売所
http://www.hakodate-asaichi.com/fujita/
・日本一の朝市!函館朝市がショッピングモールになりました。
http://www.hakodate-asaichi.com/
・朝市ネットワークサービス
http://www.asaichi.ne.jp/
・楽天市場
http://www.rakuten.co.jp/
・北海道庁経済企画室参事
http://www.pref.hokkaido.jp/skikaku/sk-kcsnj/doukou/doukou.htm
・函館商工会議所ホームページ
http://www.hakodate.cci.or.jp/
・総務省統計局 統計センターホームページ
http://www.stat.go.jp/
・中小企業庁 2001年版 中小企業白書(2001年6月発表)
http://www.chusho.meti.go.jp/hakusyo/h13/index.html
・日経ネットビジネス「第12回インターネット・アクティブ・ユーザー調査」
http://nnb.nikkeibp.co.jp/nnb/200107/f_nmmq12.html


《用語解説》

注1:楽天市場
日本国内最大のショッピングモール。出店料月額5万という低価格と簡便なホームページ作成機能、受発注管理機能の提供で、1997年3月のオープン以来、出店企業を伸ばし、現在は5,000店以上の出店がる。2002年から実施される従量課金制(売上の数%)の導入により、今後の出店企業の動向が注目されているが、一方で、モバイルコマース・テレビコマース・ブックショップ、ホテル予約、ビジネスノウハウ交換の場の提供と、常に新たな取り組みを行っている。

注2:ネットショップ
インターネット上で商品を販売するWebサイトのこと。オンラインショップ・電子商店とも言う。
1つのWebサイトにいくつもの電子商店を集めたものをショッピングモールと言う。

注3:共同購入システム
顧客が商品を購入することにより、その販売数量に応じて販売価格が下がっていく販売方法。これにより、顧客が安価に商品を購入できる可能性を提供している。

注4:オークション
ネットオークション、オンラインオークションとも呼ばれる電子商取引の一種。
Webサイト上に出品された商品に対して期限内に最も高値を提示した入札者が商品を落札し、購入する仕組み。一般消費者同士が直接取引を行なう形式もある。

注5:モバイルコマース
iモード・Jsky・Ezwebといったインターネット接続機能を内蔵した携帯電話による物品・サービスの購入や、金融取引のこと。

注6:掲示板
「電子掲示板」の略。ビービーエス(Bulletin Board System)とも言う。参加者全員が読み書き(書き込み、投稿)できる電子的な掲示板サービスのこと。インターネット上にWebサイトの形態で提供されている。

注7:ブロードバンド
xDSLやケーブルテレビなど高速な通信回線を用いたインターネット接続サービス、および、ネットワーク上に提供される大容量データ送信を活用したサービスのこと。

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