新妻精機/ニイズマックス事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
新妻精機(株)/ニイズマックス 作成者:正木総合コンサル事務所
     正木 博夫
ITC認定番号:0005682001C
作成年月日:2002年5月13日
1.周囲環境
 2001年中小企業白書(資料1)によると、中小製造業の経営上の問題点として、「需要の停滞」、「製品ニーズの変化への対応」が挙げられ、「製品ニーズの変化への対応」に取り組むためには、製品自体の「品質の一層の向上」を前提に、取引先に対する様々な「サービス機能を向上する」ことが重要であるとしている。
 また、大企業は人員の削減や部門のアウトソーシング化を進める傾向があり、大企業の発注先である中小製造業は独自の技術を磨くだけでなく、大企業のニーズを汲み取ってコーディネーター的な機能を発揮することが重要であるとされている。その方法として、キーとなる技術を持つ中小製造業が率先して「マーチャンダイジング機能(注1)を発揮すること」、「取引先との融合を前提とした在庫管理を徹底すること」、「潜在ニーズを掘り起こすための小ロット化への対応力を向上すること」が重要であると述べている。
 金属部品加工業は下請けが多く、取引企業からの価格、納期、品質に対する要求が強く、見積依頼があっても単価が安すぎて受注まで至らなかったり、受注できても収益が悪い。また、発展途上国の追い上げがあり、同様の物が海外から低価格で手に入り、大量生産部品では勝負にならない。さらに、品質についても海外製品は国内品とほぼ同等のレベルまで追い上げてきていると述べている。

2.新妻精機の取組
 このような環境の中で、新妻精機は、技術で勝負の信念を貫き、日頃から情報収集につとめ、機敏で果敢な行動力を発揮して、最新鋭の機器やシステムを活用することにより数々の成果を挙げることに成功している。
①CADの導入
 ファックスでの図面のやり取りでは、図面の端が切れたり、数字が不鮮明になる。その結果、ファクスを受けてから電話で何度も打ち合わせしなければならなかった状況を改善するために、CADを導入した。その結果、打ち合わせ時間がカットされ、伝達ミスや見間違いがなくなり、作業効率の向上と精度の向上の効果があった。
②試作加工メーカへの転換
 景気動向に影響されない仕事を追及し、あえて人の嫌がるものや、単品物にチャレンジした。試作のプロフェッショナルを目指し、客先の難しい要求(技術・納期・加工精度)にも答えられる設計技術を開発し、技術力を磨いた。超短納期ものや超高精度ものへ積極的にチャレンジし、高速・高精度のMC機械の導入と3次元CADとの連携により超短納期と超高精度を実現して、他社との差別化に成功した。
③職人芸の共有化
 職人芸は個人のノウハウで、一人でできる仕事には限界があると考え、これを打開するために、簡単には使いこなせないと考えられていたMCをあえて導入した。 MCこそ、職人芸の共有化を可能にする手段と考え、これを何とかしなければならないという信念を持って、幹部自ら何回も何回も動かすことを試みてやっと使いこなした。それを、自らマニュアル作りをし、社員に根気よく教育した。その結果、職人芸の共有化ができた。
④コストダウンに対する対応
 部品の精度を落とさずに、どうしたら早く仕事を進めることができるかを追及したとき、姑息な手段を取らずに、思い切って、大胆とも思える高価な最新鋭機械(高速制御MC)を導入した。結果的に、作業効率が向上し、加工精度も向上した。
⑤3Dデータの支給への対応
 顧客から3Dデータが支給されるようになり、手持ち機械とのデータの互換性が悪く、苦労して3次元の面を張ってCAMへ持ち込んでいたのを、思い切って、最新鋭のCADに買い換えて作業の効率化を図った。
⑥年々高まる品質保証に対する要求への対応
 高まる品質保証に対する顧客の要求を、時代の流れとして前向きに捉えて、加工・検査設備を整え、品質保証体制の確立を図った。その結果、不具合製品が減少し、客先との信頼関係が強まり受注が増加した。
⑦継続的な設備投資の実施
 金属加工業の中では驚異的な年間1億円にも上る設備投資を継続し、機械設備の更新と拡充を実践した。
S50年 試作部品加工に参入
S53年 MC導入
S59年 三次元測定機、工場顕微鏡の導入
S61年 CAD導入
 H9年 3D CAD 投下
H10年 CNC三次元測定機、CNC画像測定機、
歯車の噛み合い試験機導入
ソリッドワークス、アイデアズ、ソリッドデザイナー、

キャテア等のCAD導入
その結果、製品の高精度化と高品質化が可能になり、人件費の削減と短納期が実現できた。

3.新妻精機のIT化の取組
 新妻精機はIT化への取組も積極的である。CADを導入し、インターネットを利用して客先とCADデータのやりとりを行い、CAD/CAMは製造工程と有機的に連動させている。また、社内データの移動はLANや無線通信で行い、ネットワークを構築している。ホームページも制作し、それを通じてうまく、加工や技術に対する顧客ニーズを把握して受注に結び付けている。
 新妻精機の情報の流れの体系図を図1に示す。


4.新妻精機の望まれる新たなIT化の取組
 しかし、下表(資料2)中の太字で示すように、新妻精機のIT化は生産活動の技術分野に集中している。企業活動にはITを行かせる部分が多く、少ない情報化投資でも大きな経済的効果があがる部分がある。今後は、生産活動の技術分野のみならず、顧客管理、原価管理、生産管理、人材・財務・販売実績・加工実績などのデータベース化にもITの活用が望まれる。一例として、インターネットから入手する顧客の質問や疑問および営業が収集してくる情報を分類・整理してデータベース化し、需要動向を分析して見込み顧客の積極的な開拓や次の戦略的投資に生かすことは効果的である。



〈参考文献〉
資料1:2001年版中小企業白書(中小企業庁編)
資料2:中小企業IT活用診断(社団法人中小企業診断協会発行)

〈用語解説〉

注1:マーチャンダイジング機能
マーチャンダイジングは商品化計画のことであるが、セールス・プロモーション、広告宣伝活動までを含めた意味に解釈されることもある。

注2:(表中の用語説明)
IDカード:
人間コードを自動化することにより、手入力作業を出来るだけ減らし、2重入力などの手間をなくす。データ入力を効率化できる。
OCR:(Optical Character Reader)
光学式文字読みとり装置で、手書きまたは印刷された文字を読みとり、文字として認識する装置。
SCM:(Supply Chain Management)
サプライチェーンマネジメントのことで、設備ではなく、企業間で取引データを相互利用する仕組みである。工場や販売店が発信したデータが、協力工場・原材料卸業者・商社などで利用される。
ICプレート:
商品コードを自動化することにより、手入力作業を出来るだけ減らし、2重入力などの手間をなくす。データ入力を効率化できる。
MRP:(Material Requirements Planning)
資材所用量計画のことで、生産計画に基づいて製品の部品展開から資材の所要量を計算し、在庫と照らし合わせて購買量を決める
POSレジ:
店頭販売における精算業務の効率化を目指す。
POP:(Point of Production)
生産時点情報管理のことで、生産や物流の現場でデータを集める方法で、販売活動では単品のバーコードを読みとるスキャナーの導入があり、経営管理活動では、LAN上のパソコンから担当者が直接データを入力する仕組みがある。
SIS:(Strategic Information System)
戦略的情報システムのことで、企業間競争の優位性を獲得するための情報システムで、コンピュータと通信ネットワークを利用し、最新の情報技術を経営活動に利用する。
CIM:(Computer Integrated Manufacturing)
統合生産情報システムのことで、生産の各段階をコンピュータを用いて、共通のデータベースに基づき情報の流れを統合的に管理・実施する。
VAN:(Value Added Network)
付加価値通信網のことで、通信網にコンピュータなどを使用して各種のサービスを付加して提供する。
EOS:(Electric Ordering System)
オンライン受発注システムのこと。
WEB技術:
インターネットの技術を生かすこと。
JANコード:
個々の商品にマーキングされる日本の共通商品コードのこと。
PDA:(Personal Digital Assistance)
携帯端末やパームトップコンピュータのこと。最近では携帯電話もPDAになりつつある。
MC:(Machining Center)
マシニングセンターことで、1台の機械に数十本の工具を保有できる自動工具交換および選択装置を1台~数台備え、穴あけ、フライス削り、中ぐり作業などを、入力された仕様にしたがって1台で連続加工する工作機械のこと。
NC:(Numerical Contorol)
NC工作機械のことで、切削条件や加工条件をテープに記憶させた数値情報を数値制御装置に入れ、機械速度と位置を同時に制御して自動的に切削加工する工作機械のこと。
CTI:(Computer Telephony Integration)
パソコン電話融合のことで、電話とコンピュータが一体となり、顧客からの電話に自動回答するシステムである。
ディジタルピッキング:(Degital Picking)
パソコンなどで作成されたディジタル情報であるバーコードを読みとること。
DTP:(DeskTop Publishing)
IT機器を使用して印刷すること。

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