池内タオル事例コメント

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事例コメント
(株)池内タオル 作成者:春名 恭一
ITC認定番号:0005122001C
作成年月日:2003年1月8日
地域のタオル製造工程の情報共有化によるバーチャルファクトリーの構築
~クイックレスポンス(QR)の成功要因をコメントする~
 需要の後退、輸入品の急増や環境問題といった課題に果敢にチャレンジする企業が 本事例の池内タオル株式会社である。

1.タオル市場の特性
 タオルは一般に贈答品需要が大半となっているが、近年自家消費用が増加しつつあり、消費者のニーズが多品種・小口化・ファッション化の傾向にある。
産地は地域的に集中しており、四国の愛媛県今治地区が全国生産量の約6割を占めており、次いで大阪府泉州地区が全国生産量の3割弱を占め、その他の地区で1割となっている。

2.タオルの市場環境
 タオルの生産数量は、平成3年をピークに減少が続いており、景気低迷によるタオル需要の落ち込みと輸入品の急増がその原因となっている。 一方、生産能力の高い革新織機の導入により生産能力が向上していること、加えて海外生産工場からの販売能力を上回るタオル製品の還流により メーカー在庫が増加傾向にあるため、厳しい市場環境となっている。
3.タオル業界の動向
 タオル業界には3つの大きな特徴がある。
 (1)産地の地域的集中的分布(愛媛県今治地区、大阪府泉州地区)
 (2)織機20台以下の企業が全体の7割を占めており、小規模企業が多い
 (3)経営形態により大きな企業格差


4.タオルの製造工程と市場環境への対応策
 今治においては分業化が進んで家庭用タオルの場合13から14の分業による工程を通じて市場に出ていくことになるが、 隣の工程(隣の工場)でどんな糊を使っているかといったことなどが必ずしも把握できず、情報の共有化ができていなかった。

5.「今治バーチャルファクトリー」
 業界を取り巻く環境がきびしいなか、この13から14の工程に45日間(今治の生産リードタイム)を要していたものを、 情報を共有化することで30日(QR;クイックレスポンスにおける目標リードタイム)に短縮しようとしたのが「今治バーチャルファクトリー」の発想である。

 生産には非常に多くの工程を通るので、注文を受けたという情報を全社全工程で共有することによって、全体の生産加工計画を円滑に進めるという発想で、 自社が受けた受注をどれだけ早く、確実に全加工工程に伝えるかに主眼をおいている。
 受注窓口は「池内タオル㈱」となっていても、当社が受け持っている部分は企画と製織と検品のみで、それ以外の糸の先染めとか、 製織後の染色整理、捺染、刺繍、縫製などの工程は外注化(工程担当企業が実施)しており、最後の検品工程が池内タオルに戻ってくる形である。

6.クイックレスポンス(QR)とサプライ・チェーン・マネジメント(SCM)
 QRを目標にすると13から14の工程を束ねた工程管理が必須で、情報の共有化の実践がサプライ・チェーン・マネジメント(SCM)戦略に深くかかわることになる。 QRの実践は、当初の「商品のリードタイムを短くすること(15日間短縮)」という顧客指向の目標に対して、約13日間の短縮ができている。 「池内タオル㈱」及び工程担当企業を含めた今治バーチャルファクトリーが情報の共有化を実現し、そうした取組みの結果として、 全体最適というサプライ・チェーン・マネジメント(SCM)の経営戦略を確立することになった。

7.QRプロジェクトの成功要因
 QRプロジェクトの成功要因は以下の5つに集約できる。


・トップ(経営層)のリーダーシップの発揮
 QRプロジェクトは会社間を越えた立場から、在庫圧縮、欠品防止、物流コスト削減などに向かって、「全体最適」のしくみを追求する業務改革であり、 プロジェクトの局面において、トップの適切な判断、全面的な支援が不可欠。
 ここでは受注・企画・検品・全体工程の管理をリードした池内タオル株式会社池内計司社長のリーダーシップ。
・目的・目標の明確な設定
 QRプロジェクトのスタートにあたって、メンバー全員が同じゴールに向かって進めるように、現状の重点課題を認識し、 なるべくわかりやすい明確な目標設定が必要。
 ここでは「商品のリードタイムを短くすること」を明確に設定。
・タオルに関連する工程担当企業によるプロジェクトメンバーの構成
 各社の論理を超えて新業務のしくみを具現化するために、さまざまな局面において、工程(部門)を代表した判断が求められ、 業務に精通し、迅速で適切な判断ができる企業がメンバーに求められる。
 ここでは池内タオル株式会社をはじめとするが各工程担当企業。
・情報基盤の確立
 計画の迅速な意思決定、関連部署・担当者間の情報の伝達・共有化を可能にするための情報基盤の構築が不可欠。
 ここでは情報武装化計画の推進;(1)バーチャルファクトリーシステム構築、(2)実運用に耐えられるシステムの開発(約50社実証実験参加)、 (3)情報リテラシー向上(20社パソコン新規購入)、(4)情報の共有化による協調関係の確立。
・SCM機能を統合した新組織の発足
 「全体最適」のしくみをうまく機能させるために、SCMの機能を統合しした役割・責任を負う組織を発足することが効果的。
 ここでは池内タオル株式会社が主要な役割を果たす「今治バーチャルファクトリー」。


8.新たな展開
 QRプロジェクトにより工程担当企業との情報共有化が成し遂げられ、当初の「商品のリードタイムを短くすること(約13日間短縮)」で一定の成果をあげた。 また、QRプロジェクトは、さらなる成果につながっている。情報共有の考えが従業員に行き渡り、経営改善がより進行すること、 経営改善が新たなチャレンジを生みだしていること(アメリカのニューヨークで当社のタオルが注目を集めることなど)等はその一例である。


参考資料

池内タオル株式会社ホームページ
http://www.ikeuchitowel.com/

四国タオル工業組合ホームページ
http://www.stia.jp/

中小企業総合事業団ホームページ
http://www.jasmec.go.jp/tira/INDEX.htm
 ・情報活用の先進事例
 ・QRについて
 ・テレビ東京「企業チャレンジ21未来」

日本タオル工業組合連合会
 「タオル業界構造改善ビジョン」
  ~消費者視点に立ったタオル産業の再生に向けて~ 平成13年8月

NHKホームページ
http://www.nhk.or.jp/

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