事例本文(喜多屋)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:25 (株)喜多屋   事例発表日:平成12年10月6日
事業内容:酒類製造
売上高:18億500万円
1999年6月
従業員数:61名 資本金:2000万円 設立:1951年1月
キーワード 酒造業、
営業支援、給与計算、経理処理の短縮、在庫管理、財務会計、販売管理、
バーコード、パッケージ利用、ハンディターミナル
情報を活用した業務革新
  

(株)喜多屋 URL:http://www.kitaya.co.jp/

(株)喜多屋 代表取締役 木下宏太郎氏
プロフィール

 昭和62年東京大学農学部卒業後、宝酒造株式会社を経て、平成4年に喜多屋に入社。平成6年まで国税庁醸造試験所にて研修を受けた後、平成11年10月、喜多屋代表取締役社長に就任。

~複雑な酒税のかかる商品も、IT活用で効率的で確実な販売在庫管理~

 規制緩和が進み新しい価値観が生まれる時代の風を読み取り、IT化の重要性を認識していた木下氏。この若き経営者は、戦略的情報活用の原理ともいえるトップ主導型を遂行し見事に業務改革を推進している。正の字で出荷数を計算していたレベルから端末によるスキャンなど、一新したシステムとその効果を伺ってみた。


■老舗の造り酒屋にもITが必要な時代
  喜多屋は江戸時代創業、180年の歴史を有する造り酒屋で、福岡県八女市にあり、清酒、焼酎、みりんなどの発酵調味料を生産しています。皆さんにとって、造り酒屋とIT、おそらくイメージ的に結びつかないのではないでしょうか。
  今の日本の社会状況は、規制緩和の流れがどんどん進んだ結果、競争が促進されています。それぞれの会社が真の意味でのリストラ、事業内容の再構築を進めて、より強い企業に生まれ変わっていかなければ、21世紀に生き延びることは容易ではありません。したがって、私どものような老舗の造り酒屋であっても、このITを使うことにより、業務内容を革新していく経営判断をより早めていくことが必要なのです。
  IT、ITといっても何をすればいいの?と感じている方が中小企業には多いと思いますが、当たり前の日常業務もよく考察すれば、ITを使って大いに革新していけるものとして当社の事例をお話します。

■トップを中心に進めるIT化
  当社はメーカーですから、流通関係に比べると扱う伝票も商品アイテムも少ないほうですが、それでも、清酒、焼酎、調味料と基本的に3ジャンルを手がけていますので、それなりのデータ量になります。
商品点数: 通常月 240アイテム  最大(12月)270アイテム
顧客数: 900社
伝票枚数: 売上;平均80枚/日  最大350枚/日
経理;平均50枚/日  最大500枚/日
月末在庫: 平均20,000c/s  
取り扱いデータ量

  システム導入のきっかけは、まず、以前から使っていたオフコンがあまりにも陳腐化し、2000年問題もあったので、思い切ってソフトもハードも全部取り替えようと思ったことです。
当時、ボトリング関係、出荷関係、製品倉庫、出荷事務所などに関わる部門の設備投資を、平成9年10月に立ち上げる予定で進めていました。コンピュータ関連もそれにタイミングをあわせようと、その15カ月前から計画をスタートさせました。(財)福岡県中小企業振興公社の情報化支援アドバイザー事業の制度を利用しました。
  当社の創業者以来の家憲に「主人自ら酒造るべし」とあり、私も大学ではバイオを学び、会社では社員と同じような作業服を着て現場によく入っています。同様のことはIT投資にも、営業にも企画にも全ていえることだと思います。トップがどれだけの情熱をもって深く現場に入り込んでいくか。それが中間管理職にも末端の社員の取り組みにも影響を与えます。ですから、私を中心にこのIT投資を進めていきました。

■社内の問題点を把握し、その解決にITを活用する流れで
  まず、当社において問題点がどこにあるのか、中間管理職、現場も含めてヒヤリングをしました。在庫の間違いが多い、これが問題点の最たるものでした。似たような商品があるので間違えてしまうのです。我々が売っている商品は酒税という特別な税金がかけられています。酒税は敷地を出る時にかけられるもので、倉庫の中にある時は国税の保税物資です。在庫が足りないということは国税がどこかに消えてなくなるということで、絶対に許されません。徹底的に究明して合わせなくてはならないのですが、これが実に大変なことでした。まして、12月はいちばんの繁忙期で、通常月の倍くらいの売上があり、こうした中で在庫が狂っていたらえらいことです。また、昔の古いオフコンではデータの記憶容量が不十分で処理速度も遅いため、基本的な諸表を作ったら、それを紙にして出していました。するとデータの加工ができません。売上状況もよく把握できません。1日の、例えば午後2時半の時点で今日はいくら売れているのか、在庫はいくつあるのか、ということがすぐにはわかりません。月次決算も遅く、9月の試算表ができあがるのが10月下旬という状況でした。
  こうした問題点をふまえて、情報化投資の基本コンセプトとして、今必要なことを実現できればよい、将来に備えた無駄な機能はいらない、必要になったら追加すれば良い、つまり、必要十分なシステムを作ることとしました。それには拡張性に優れていなくてはなりませんから、カスタムメイドよりもパッケージソフトの活用を選択しました。酒税のような特殊な税金がついてまわる世界でも、さまざまなパッケージソフトがあります。さらに、いかに顧客要望にリアルタイムに近い形で応えられるか、経営判断を迅速に下せるシステムであり情報を戦略的に活用できるものであるか、などを考慮してコンセプトが煮詰まりました。

■システム的に徹底管理した新・受注出荷体制
  最も大きな問題点であった在庫管理、在庫出荷管理について、以前はどうだったか、また、それをどう克服したかをお話します。
  以前は、受注を入力した伝票が複写になっていて、手元用、在庫係用、得意先の受領書などになります。同時に日時更新の在庫表が出ます。倉庫ではこの複写伝票を見ながらピッキングしてトラックに積みます。こういう状況ではどうしても、純米酒と純米吟醸酒を間違えたり、ケースとバラを間違えたりという、ヒューマンエラーが生じます。さらに、前日の夕方には一応、出荷準備が整っているにも関わらず、お客さんはトラックがすぐ出ないことを知っていて、当日の朝に注文を出すからそこでまた数えなおさなければなりません。これは悪循環でした。



  これをどう改めたかというと、最初にコンピュータの中で全部出荷商品の仕分けをします。得意先も方面も全部コードをつけ、締めの時間をきっちり守り、出荷事務所にオンラインで端末をつないでおきます。端末はハンディターミナルでこの画面上でも全部出荷表示が出ますが、もうひとつ確認のための出荷指示書を一覧表の形で出します。倉庫では、指示に従ってピッキングするたびにスキャンします。つまりハンディターミナルを使って品種、数量をチェックし、ピーとOKが出たらトラックに積みます。システム的に間違いがないことをチェックしてから伝票出力しますので、間違えようがありません。これにより、仕事が非常に楽になり、ミスもなく前向きに回っていけるようになりました。



  こうして在庫管理がきっちりうまくいくようになると、管理部物流課は最繁忙期の12月では1日2時間の残業が減りました。以前は連日午後11時過ぎまでかかっていたことが2時間も早く帰れるようになったので社員は喜び、会社も余分な残業代を払わなくていいので助かります。
販売管理や営業などで必要なデータは、コードの打ち込みとマウス操作だけで簡単に出てくるようになり、それを活用して精度の高い商談ができるようになりました。会議も中身が深まり、おかげさまで業績は好調です。
  月次決算は稼働日で10日ぐらいで出せるようになり、従来に比べて7日ほど短縮できましたが、最低でも稼働日1週間以内に出したいと考えています。実は試算表作成を遅らせるネックは醸造部門にありました。さまざまな原料の棚卸し、中間的なもろみ、発酵途中のもの、原酒、精製途中のものなど、さまざまな段階の半製品があって、しかもこれらは全部酒税法にのっとり国税当局に提出しなければならない記載義務がありますので、どうしても手間がかかるのです。しかし、この点も探してみますと優秀なパッケージがありましたので早速導入しました。

■ファックスOCR、ホームページ、ネット販売など新たな取り組み
  受注から出荷までシステム的に管理できてもまだミスがありました。その原因はファックスの受注時の読み間違い、電話による受注時の聞き間違いです。解決法としていちばん良いのは、インターネットを使ったBtoBですが、まだまだ現状は難しい状況です。そこでファックスOCRを9月から開始したところです。ファックスというアナログデータを、OCRという画像でテキストデータに変換するもので、自動的にコンピュータに取り込むことができます。今、順次、お得意先にご案内して導入を推進しています。
  今後の大きな課題は、ホームページ、BtoB、BtoCにどう取り組んでいくのか、だと思います。ホームページは、特に中小企業にとっては、経営トップのメッセージを発信するのに非常に優れたメディアだと思います。当社のホームページは基本的に私が作成しています。Webマスターは社長の私ということです。お酒は嗜好品、メーカー数もたくさんあるので、特に熱心な方はその蔵がどのような姿勢で取り組んでいるのか、それが酒質にも現れてきますので、そのことに当然関心が高いのです。私は生の言葉で喜多屋の取り組み姿勢を訴えています。蔵人の紹介、原料の米づくりの様子、大吟醸の変化の様子など、さまざまな情報を掲載しています。ホームページ上で田植えから収穫まで見せてきた玄米は清酒、純米焼酎にしていきますし、場合によってはこれをネット上で限定販売することも考えています。一般的なメイン商品についてはネット販売もすでに始めています。
  BtoCは中抜きで流通経費を安くし、良い商品を安く消費者に届けることに効果があると認識されています。今現在のBtoCの市場はわずか3800億円、全消費の0.1%です。向こう4、5年で20倍くらいになると言われますが、それでも2%です。やがては10%にもなりましょうが、自分たちの取扱い商品はそのなかでどうなのか、ここが重要でしょう。諸外国に比べて物流コストが高い日本では、酒類のように重くてかさばり単価が比較的安い商品は、ネット上にのりやすいとは言えません。また、一般的な消費者では、今日飲みたいから今日買うという購買行動が多いことを考えても、酒類ではBtoCでの販売が市場の大部分を占めるようになるとは思えません。そうであれば、既存流通に対する配慮が重要になるだろうと思います。当社では、あえてネット上での注文に対してのマージンを酒販店さんに払っています。酒販店は感激して、喜多屋の商品をさらに売ろうと努力してくれます。また、独自のホームページや電子モール等のネット上で、私どもの商品を売ってくれるようにもなります。喜多屋という社名は、たくさんの喜びを共有しようという理念から始まっているのですから、今後も流通の皆さんとの共存共栄を考えた方がメリットは大きいと考えています。

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