カナジュウ・コーポレーション事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
(株)カナジュウ・コーポレーション 作成者:SCMシステムサービス(株)
     新野 昭夫
ITC認定番号:0004762001C
作成年月日:2002年4月30日
1.業界の概観
 カナジュウのコアビジネスであるプロパンガス販売はエネルギー供給の一端を担っている。エネルギー供給では電力業界、石油業界、都市ガス業界という大企業が占める業界と競合関係にある。一方プロパンガス販売業界は中小企業が大多数を占める。
 平成11年度版総合エネルギー統計によれば日本で使われるエネルギーの内天然ガスは12%を占めている。石油52%、石炭16%、原子力14%に次いで第四位である。(*1)
 ガスの販売量は図1に見られるように全体では伸びが著しいが主として工業用と商業用とがリード役であり、家庭用は横這い状態である。(*2)

 家庭用については市場が成熟状況にある上に都市ガス業界との競合にもさらされている。
更にエネルギー供給業界としては供給保証、需要開拓、保安確保の三要素が必須項目であり、中小業者といえども保安確保を疎かにはできない。業界全体の信用向上の為に日本LPガス連合会は料金適正化や保安向上に業界を挙げて取組んでおり、 日本LPガス団体協議会は平成9年7月に「LPガス産業行動憲章」を公布してプロパンガス販売業者のビジネスの規範としている。(*3)

2.カナジュウのビジネスの特色
 主要顧客層には個人の持ち家、借家を据え、きめ細かいサービスを行って来た。どちらかというと大量消費と共にディスカウント率の高い大企業法人向けよりも個人に重点が置かれ、例えばタクシー用プロパンのガスステーション営業などは行っていない。 営業地域の神奈川県西部及び町田は人口増加率、住宅増加率の全国平均に対して大きい地域であり、都市ガス業者との競合も厳しい地域でもある。
 カナジュウの営業目的は上記の会社紹介にある通りガス販売と密接な関係があり、ガス販売から派生するサービスを充実させるビジネスとなっている。「情報システムのソフトウェア、サービスの企画開発」はガス販売からはかなり離れた関係に見える。 ソフトウェアが営業目的となったのは、自社の経営ノウハウを公開してでも同業他社の経営向上を支援したいというトップの思いによるものである。電力・石油・都市ガス業界との競合にさらされているプロパンガス業界の信用向上は自社単独では不可能である為である。 基本的には自社で苦労して創造し、実践してきたビジネスモデルの結晶としてのソフトウェアである。ITツールとして広くガス販売業者に応用可能であり、顧客満足度向上と企業体質強化とを実現するソフトウェアである。東京都・神奈川県の同業社に導入されている。 各社では、各社の経営形態に合わせたチューニングがカナジュウとカナジュウ提携先ソフトハウスの手によって行われ使い勝手の良いツールとなっている。(*4)

3.カナジュウのITの展開
 カナジュウはアウトソーシングとIT活用によってガス販売関連のコアビジネスに経営資源を集中して少数精鋭の会社を経営している。バランススコアカードの各視点を切り口として見る場合、顧客の視点に最重点に置き、 外部の経営コンサルタントやITコンサルタントの智恵を活用して社内ビジネス・プロセス改革の視点から改革を実現し、学習と成長の視点では社員がコアビジネスに専念して時流に合った営業活動が行える態勢を築き上げている。
 IT化に当っては社内に情報システム専門家を置く代わりに社外のIT専門家をコンサルタントとして起用して、同時期に契約していた経営コンサルタントとも連携を取りながらPCによるIT化を進めた。
 カナジュウのIT化の歴史はオフコンによる基幹系システムの導入から始まった。その後、経営トップ自ら情報共有化をペーパーレスで実現したいという強い意思で、OA化のツールとして当時ワード・エクセルが使えて、 マウスによるドラッグができるMACを導入して先進的な社員の間で試行された。一方、経営者はインターネットの将来性に早くから着目して、ホームページを開設して、お客様に広く情報提供を行った。 その後ウィンドウズが広く世間的に普及したところで、ウィンドウズにPC環境を切り替えて、徹底的なペーパーレスを行い且つ社員の情報共有を進めている。又、お客様との情報の共有化はSFA(注1)の観点からCRM(注2)の構築の段階に入っている。 更には、前項で述べた通り自社の情報処理を実践した結果のノウハウの結晶であるソフトの外販に踏み切り、同業他社の経営向上にも寄与している。
 自社のビジネスモデルとも言うべきソフトウェア販売ができるのは経営のコアの部分について他人の真似できない絶対の自信もあってのことと推察される。 これは多分経営者と社員の間の情報共有や合意形成について学習と成長の視点に卓抜した優位性をもっているので社内ビジネス・プロセスの視点のノウハウを開示できるのだと考える。
 PC展開時期にITコンサルタントを外部へ依存するのに不便だと感じたのはIT専門家が何れかのメーカー或いはメーカー代理店に属していて中立的存在を求めることが困難であったことである。 トップがITコーディネータ制度の創設に当って関係機関に積極的に支援を惜しまなかったのはこの体験に基づくものと推察される。

4.将来の商品戦略
 カナジュウはガス販売のコアビジネスに経営資源を集中して今日を築き上げている。既にガス検針、ガス配送、など個別のビジネスユニットについて自社幹部をヘッドとする分社にアウトソーシングして、プロフィットセンターの独立性と意思決定の迅速性を高めており、 商品の形態が変化しても対応可能な体制を整えていると思える。ビジネスの担い手としては少数精鋭の社員が学習と成長の視点から見て絶えず専門知識を身につけて存在する。今後もガス販売にこだわりをもってビジネスを展開されるという前提で近未来に経済的優位性を確立しそうな商品について付言する。
・燃料電池
 エネルギー源としてのガスは単なる燃料から今や自動車会社始め産業界で激烈な開発競争を繰り広げている燃料電池原料の選択肢として焦点が当っている。家庭用の発電ユニットの技術が経済性優位を確立するのは自動車用より時期が遅れるといわれているが分散型発電装置としての決定打となる。 ガス需要量については電力にとって代わる分だけ、従来の量以上に増大する。(*5)
・GHP(ガスヒートポンプ)
 家庭用としては燃料電池に先行してGHP(ガスヒートポンプ)のシステムが経済優位性を確立して商品化して行くのかも知れない。(*6)
・天然ガスハイドレート
 場合によっては、日本が世界に先駆けて技術を完成させた天然ガスハイドレート製造及び運搬技術の応用によって、ガスをキーワードに最上流の原料調達(製造)過程から消費までの一貫体制を確立して行けるのではないだろうか。(*7)

5.参考資料
*1 日本のエネルギー事情 茨城県 総合エネルギー統計 図2-1
   
http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/seikan/gentai/chishiki/02ima/01.htm
*2 財団法人 日本エネルギー経済研究所 都市ガス需給統計
   
http://eneken.ieej.or.jp/statistics/index.html
*3 LPガス業界の軌跡をたどる20世紀物語 小売編
   
http://www.sekiyukagaku.co.jp/20thstory.htm
*4 中小企業ITフェア カナジュウ
   
http://www.h-wired.com/itfair/jiturei/page11.html
*5 燃料電池 (サイトの一例)
   
http://www.nissekigas.co.jp/fc/index.htm
*6 GHP(ガスヒートポンプ、ガス冷暖房) (サイトの一例)
   
http://www2.aisin.co.jp/life/ghp/
*7 三井造船2002/01/15ニュース 世界初天然ガスハイドレートペレット製造
   
http://www.mes.co.jp/news/20020115.html

注1:SFA(Sales Force Automation)
お客様との直接の接点である営業部門、および営業担当者の情報武装化のこと。最先端のIT(情報技術)を利用して営業生産性を大幅に向上させることが、その目的である。
従来の営業部門向けシステムとの違いは、単なる実績管理や顧客分析にとどまらず、他部門との連携も視野に入れた「営業活動全体」を支援することにある。
総合的な営業活動の強化により、顧客満足度(CS)および従業員満足度(ES)の向上を図り、それが売上・利益の拡大に結びつくのである。

注2:CRM(Customer Relationship Management)
顧客関係性のマネジメント:顧客に接するマーケティング、セールス、サービスの活動を、顧客戦略、インサイト(知恵)の下に統合的に活動・運用しようとするもの。
店舗、直接営業、代理店、電話、インターネットなど様々な販売チャネルを通じた顧客のコンタクト(接触)や取引の履歴情報を一元管理し、個々の顧客に最適な対応を実施することにより、顧客維持率を高めるという概念である。

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