北海道地図事例コメント

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事例コメント
北海道地図(株) 作成者:勝野 直樹
ITC認定番号:0007582001C
作成年月日:2002年6月3日
 北海道地図は、北海道地区を拠点として、資本金7000万円、従業員270名の地図調製・印刷事業(注1)、コンピュータマッピング事業(注2)、出版事業(注3)を営む企業である。紙媒体の地図から電子媒体の地図への変化に伴い、空間情報ソリューション企業(注4)として着実に実績を積み上げている。
 1970年代からコンピュータを使った地図づくりに挑戦しており、地図専用の画像処理システムを開発してコンピュータマッピングを実現し、1980年代には、GPS( Global Positioning System )を活用したカーナビゲーションの商品化にも参画している。阪神淡路大震災でGIS( Geographic Information System )の有効性が着目されて以来、官民一体となった地図の電子化が進められる中で、北海道地図はその担い手として確固たる地位を築いている。
 北海道地図の「"干物"から"活魚"へ」すなわち、「"紙地図"から"電子地図"へ」の経営戦略は、地図を扱う多くの企業にとって参考になるものである。本事例コメントでは、北海道地図の経営戦略とGISを取り巻く市場の動向について述べる。

<コンピュータによる地図の作成>
 もともと行政用地図のオーダーメイド専門業者であったが、コンピュータマッピング画像処理システムの開発を契機として、本格的な電子地図作成事業を推進した。その結果、紙地図の場合、「加工が困難」なことがの大きな弱点であったが、地図をコンピュータで処理することを可能とし、顧客の要求に合わせた地図づくりを効率的に行えるようになった。
 1970年代後半から80年代前半には、航空測量業界においても地図を効率的に作成するための手法として、コンピュータを使用した自動図化システムの開発が活発に進められていた。そんな状況下において、地図調製・印刷を事業の柱とする企業として電子地図への対応・転換を図ったことは賢明な判断であったと考えられる。

<GISへの取り組み>
 電子地図、衛星画像、地域統計など各種の空間情報は、我々の生活・社会に不可欠なコンテンツとしての社会基盤である。これを活用するGISは、現在では公共機関や民間において積極的な取り組みが進められている。
 北海道地図では、紙地図を作成する過程で出来上がった電子地図を、まずは顧客の要求に合わせて提供することから始めた。このためには、データ作成のためのオペレータだけでなく、入念な品質管理と工程管理を必要とした。この間に北海道地図では、シームレス、スケールレス、10mメッシュの標高データ等のGISに関する技術を修得し、電子地図市場への参入を果たした。特に、10mメッシュの標高データの作成技術は、そのデータを使った精細な地形表現を可能としただけでなく、防災や環境分野で利用する各種地形解析図面が効率的に作成できるようになり、業界の中でも大きく注目されることになった。こうした独自性・特徴のある技術開発を推進する企業力は特筆すべき点であると思われる。

<空間情報ソリューション事業への展開>
 IT時代を迎えた今日、GISをはじめとする空間情報を扱う業務は着実に拡がりを見せている。北海道地図では空間情報データベースを提供する企業として、社業を傾注すべく相当な投資を行っている。その結果、顧客から地図づくりのシステムコンサルティング企業、空間情報ソリューション企業として期待されるようになった。
 有珠山の噴火時には、有珠山周辺地域の治山情報システムを受注していたことから、早急に避難のためのGIS立ち上げたいという要請に対応し、避難所の収容人数、所在地などの情報と地図とをコンピュータ上でリンクさせて、緊急時の避難計画を効率的に進めるのに大きく貢献した。

(北海道地図ホームページより)



 GISは、広義には 「実世界を空間的に管理することにより、より合理的な意思決定を行おうとするアプローチ全般」を意味する。狭義には、「空間情報を作成、加工、管理、分析、表現、共有するための情報テクノロジ」を意味している。GISを活用することで、地図の表示や検索だけでなく、位置を表す情報をベースとして管理された多種多様な情報を組み合せて、高度な検索や解析ができ、より広い視野で情報を捉えなおす事ができる。すなわち、GISは、情報の統合、関連性の分析、情報の効率的な伝達、合理的な意思決定を支援するツールである。

 政府のIT戦略本部においても「GISアクションプログラム2002-2005」に関する話題が取り上げられており、GISは国レベルの重要な施策の一つとなっている。空間データを社会的基盤として整備することによって、次のような直接・間接にさまざまな効果が生み出されるものと期待されている。

 ・空間データ整備に関する経費の効率的利用
 ・空間データをプラットフォームとした、行政情報管理の体系化
 ・透明性の高い行政情報公開の実現への寄与
 ・民間等における空間データ整備コストの最適化
 ・空間データを利用した新しいビジネスの創生

 地方公共団体では、各担当部署別に個別のGISを導入してきたが、最近では総務省が推進する統合型GISの整備に力点を置いている。具体的には、これまで「下水道管理システム」、「固定資産管理システム」といった個別業務向けのアプリケーションを導入してきたが、2001年7月に総務省が策定した「統合型の地理情報システム(統合型GIS)に関する指針」をうけて、現在は複数の部局が利用するデータ(たとえば道路、街区、建物、河川など)を各部局が共用できる形で整備・利用していく庁内横断的なシステムの構築を進めている。統合型GISを導入することにより、データの重複整備の防止、各部署の情報交換のスピード化、行政の効率化、住民サービスの向上などを図ることができる。

 民間企業においては、物流やマーケティング分野でGISが活用されている事例が多く見られる。たとえば運輸業においては、車輌に装備したGPS(測位システム)とGISを組み合わせて、正確な運行実績の記録や、安全管理を実現している企業がある。運航中の全ての車両位置や作業情報をほぼリアルタイムにGIS上で把握し、運行管理の効率化と作業性の向上、顧客サービスの向上を図っている。特に、GISの特徴である地理的解析機能により、過去の運行記録から将来の車両の最適配置をシミュレートすることで、最も効率的な運航計画をたてることができ、他社との差別化や顧客サービスの向上を図ることができる。
 また、マーケティングへの活用では、国勢調査データ、商業統計、事業所統計などの基礎情報を地図上で統合することにより、商圏内の統計情報集計、店舗を中心とした任意距離の円/道路に沿った一定幅/任意の多角形で居住人口、事業所従業員数、店舗床面積などの統計指標の集計結果をビジュアルに表現することができる。GISは、地域に根差した営業戦略に欠かせないエリアマーケティング支援ツールとして効果を発揮している。

 一方、GISを専門とした学会として地理情報システム学会があり、そこでは空間IT、森林計画、医療福祉環境、ビジネスGIS、自治体、モバイルGIS・ナビゲーション、土地利用・地価、農政経済GIS、バイオリージョン、防災GIS、用語・教育、マルチメディアGISなどの各専門の分科会が設置され、活発な研究活動が進められている。
 また、1998年には東京大学に「空間情報科学研究センター」が設立され、東京大学内のさまざまな研究者との研究の他、より広く他大学や民間企業の研究者、国の機関とも積極的に共同研究が進められている。

 国土空間データ基盤推進協議会(NSDIPA)が実施した国内のGIS市場規模に関する推計では、1999年に6800億円であった市場が2005年には3兆6100億円、2010年には6兆1400億円へと急速に伸びるというものとなっている。この推計結果で特徴的なのは、特に「民間業務におけるGISの市場」の分野でGISの利用が著しい増大を見せ、全体の市場の伸びを牽引する点である。
 北海道地図もそうであるように、地図業界、測量業界、情報システム業界等、地図コンテンツに係わる民間企業により、データ面ならびに技術面、制度面、基盤面が一体となった環境作りによって、「民間業務における市場」はいっそう拡大するものと推測されている。身近なところでは、「携帯端末による地図情報サービス」と「カーナビ関連のGIS」などは、既に我々の生活の中にも急速に浸透してきたところである。

 このように、北海道地図が推進するGISおよび空間情報ソリューション事業の市場は今後も大きく成長するが、それを取り巻く関連企業も多種多様であり、競合環境としては決して楽とは言えない。近年まで、GISの活用領域は、ガスや電気等の専門的企業、研究所・大学で利用されていた。しかし、ITの進展により、これまでスタンドアロンで使われていたGISソフトも情報システムのコンポーネントとして組み込まれるようになり、地図・地理といった枠を超えて企業システムの一部分として使われるようになってきている。その中で、顧客の要求への的確な対応力や他社との差別化を図る独自性のある技術開発が今後のさらなる飛躍への必要条件となると考えられる。

(NSDIPAホームページより)


参考にしたサイト
国土交通省国土計画局・GISホームページ
http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/gis/
国土交通省国土計画局・「GISアクションプログラム2002-2005」の決定について
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha02/02/020220_.html
総務省自治行政局・統合型の地理情報システムに関する指針
http://www.lasdec.nippon-net.ne.jp/rdd/gis.htm
国土地理院・地理情報システム
http://www.gsi.go.jp/REPORT/GIS-ISO/gisindex.html
地理情報システム学会
http://www.gisa.t.u-tokyo.ac.jp/home-j.html
東京大学空間情報科学研究センター(CSIS)
http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/japanese/
国土空間データ基盤推進協議会(NSDIPA)
http://www.nsdipa.gr.jp/
ESRIジャパン(株)
http://www.esrij.com/
(株)富士通ビジネスシステム「3Dマップ・ネットワーク・システム」
http://www.fjb.co.jp/back/1104_13.html
GeoPress[地図専門ニュースサイト]
http://www.mapgarden.ne.jp/geopress/index.asp
てくてくGIS
http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/~akuri/


注1:地図調製・印刷事業
国及び地方自治体等の官公庁からの受託による事業計画用公共地図の製作

注2:コンピュータマッピング事業
GIS(地理情報システム)を利用した地図データ及びシステムの作成、販売

注3:出版事業
豊かな立体表現を用いた登山用地図や山岳地図等の作成、販売

注4:空間情報ソリューション企業
GIS単体のシステムを売るのではなく、地理情報データベースやシステムの構築を含むトータルな視点に立った問題解決が可能な企業

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