事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
不二精機(株) 作成者:古家後 啓太
ITC認定番号:0003222001C
作成年月日:2002年9月5日
 不二精機(株)殿は、金型メーカーでありながらいち早く機械化、コンピュータ化を行い、精密金型のみならず、顧客の要望により、成形機から、 成形周辺機器、取り出し機、組立機にいたるまで、システムでの提案、販売等を行い、国内市場から海外への進出を図り世界3位の位置づけを確保している。 本事例は、不二精機(株)のアナログ時代からIT時代への成長の過程を報告したものである。
 本事例コメントでは、「事例の背景や業界の動向」、「関連する知識・資料」等に関して述べるとともに、不二精機が成功した要因と今後の展開について考察した。

(1)金型業界の動向
 経済産業省の工業統計によると金型業界の事業者状況としては、約80%が従業員9人以下の小規模事業者であり不二精機(株)は 金型業界では大手企業といえる。1)
 一方、金型業界の生産動向は、経済産業省から提供されている機械統計年報・機械統計月報の過去13年間の推移をまとめた日本金型工業会の資料によると、 海外からの輸入品の増加や国内産業の海外移転等の影響で、生産量・生産金額ともに減少の傾向にある。2)
 また、2001年金型製造業実態《緊急》調査アンケート集計結果(社団法人日本金型工業会東部支部)によると、 価格競争の激化により受注単価が採算ラインを確保できている会社は5%に過ぎず、57%の企業が30%以上低い単価で受注している。 また、60%の企業が受注能力の70%以下の受注量しかなく、さらに35%の企業が受注能力の60%以下の受注量となっている。 また、得意先から発注されていた仕事が2年前に比べて海外に流出している比率が30%以上あると考えている企業が約3分の2あり、 その主な流出先としては中国(74.7%)、韓国(25.3%)、タイ(11.1%)、台湾(11.5%)と答えている。3)
 このような中で、他社と差別化して生き残るためには多様化する顧客ニーズに対して迅速に対応できる金型設計含めた生産技術や販売管理が重要であり、 特にCAD/CAM等の情報技術の活用した企業でないと競争に生き残れない状況にあるといえる。

(2)自社開発の思想からの新事業展開
 不二精機(株)の情報化の歩みは、昭和50年のシャープのMZという組み立てキットを計算尺の代わりに使ったことから始まるが、 このときから誰でも簡単にできる仕組みを自社で開発している。 その後、NC機(*1)、CAD/CAM(*2)さらにはDNC(*3)導入と 全て伊井現社長がリーダーシップを取りながら自社で開発してきていることが不二精機(株)の最大の強みといえる。
 また、パソコンの活用は、設計・製造にとどまらず、20年前の昭和57、8年から製品ごとの原価計算に使うようになり、 顧客別の利益率管理を行い顧客別の問題点を明確にして利益率向上を図っている。 さらに、工程管理についても4-5万工程をリアルタイムに管理できる仕組みを自社で段階的に進めてきている。
 これらの自社開発のノウハウの蓄積が、東南アジア等のグローバル競争に対抗するために導入したロボットの自社開発に繋がり、 現在の成形システム、製造システム販売事業の礎になったものと思われる。
 このように20年以上にわたって効果的な情報化の推進が図れた要因としては、
  ①伊井社長の強力なリーダーシップ
  ②目的を明確にした段階的なITの導入
  ③業務を熟知した自社社員による開発
等があったものと思われる。このことは、図-1に示す情報化投資効果を発現させるための必要な条件(平成14年度情報通信白書)4) の上位の条件と合致している。


(3)自社に最適なIT環境整備
 不二精機(株)では、従業員238名に対しパソコン台数は300台を超えており、ひとり1台以上を確保している。 また、この多台持ち作業を可能とするため、従業員には構内PHSを携帯させ、機械と人間の手待ちの発生を最小限としている。 さらに、導入パソコンはできるだけ汎用パソコンを使うように設計し、故障によるロスも最小限としている。 EWS(*4)を活用せずにパソコンを多数台活用していることなどは、その典型的な事例といえる。 このようにして、自社の背丈にあった環境作りを行いながら段階的にIT化を図っていることが、 IT導入の効果を最大限に引き出している大きな要因の一つと考えられる。
 また、海外のユーザー対応に関しては、海外拠点のない自社の弱みに対して少ないパーツ数で対応可能とする自社の設計技術と、 世界最大の総合航空貨物輸送会社フェデックスの活用で対応するなど、自社の弱みに対しても他社の経営資源を補完することで柔軟に対応している。 このような伊井社長の考え方も不二精機(株)が成功している大きな秘訣と言えよう。

(4)今後の展開
 不二精機(株)は、情報を活用した業務革新の成果により平成13年8月にJASDAQ(店頭)市場上場を果たした。 しかしながら、直近の日本の金型業界の環境は、グローバルな競争がさらに激しくなり、 不二精機(株)においても厳しい経営環境に直面する状況となっている。5)  特に、海外市場への対応としての海外事業展開が今後の大きな課題と推察される。 平成13年からは、タイ、米国及び中国に設計・製造及び販売子会社を5社設立する等、新たな局面を迎えている。 このようなグローバルな事業展開においても、海外ユーザー含めたユーザーニーズの移り変わりやスピードに対応することが 金型業界における重要な成功要因と考えられる。そのためには、海外各拠点をインターネット等のITの活用により、情報・知識の共有化を図り、 さらには設計・開発の連携を強化し、グローバルな拠点をあたかもひとつの工場のように運営するような体制が必要である。
 今後の事業展開においても自社の強みである伊井社長のリーダーシップと現在までに培われた目的を明確にしたIT活用等で、 難局を乗り切っていくことを期待したい。


[参考資料]
1)社団法人日本金型工業会ホームページ
  http://www.jdma.net/toukei/kogyo/jyokyo.html

2)社団法人日本金型工業会ホームページ
  http://www.mold-if.com/t-siryo/t-siryo.html

3)社団法人日本金型工業会ホームページ
  http://www.mold-if.com/index_a.html

4)情報通信白書(総務省ホームページ)
  http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h14/index.html

5)不二精機ホームページ
  http://www.fujiseiki.com/ir/zaim.html


[用語解説]
*1:NC機(numerically controlled machine
 数値制御工作機械のこと。従来の手で操作する工作機械に対して、数値情報(coded data) で操縦される工作機械のことをいう。

*2:CAD(Computer Aided Design
 「コンピュータ支援設計」の略。建築物や工業製品の設計にコンピュータを用いること。「Computer Assisted Design」の 略だとする説もあるが、大きく意味が変わるわけではないので、どちらも容認すべきであろう。

*2:CAM(Computer Aided Manufacturing
 「コンピュータ支援製造」の略。工場の生産ラインの制御にコンピュータを応用すること。「Computer Assisted Manufacturing」 の略だとする説もあるが、大きく意味が変わるわけではないので、どちらも容認すべきであろう。

*3:DNC(Direct Numerical Control
 DNCとは、各種NC工作機械の生産性アップ、あるいはそれら生産設備を運営するマンパワーをサポートしてゆくために開発された、工場内支援システムである。 従来、紙テープやフロッピーディスクで工作機械に送られていたCAD/CAMデータを、コンピュータを使って直接オンラインで工作機械の制御装置に転送する。

*4:EWS(Engineering WorkStation
 ワークステーションのうち、グラフィックス機能や演算機能を強化し、ソフトウェア開発や科学技術計算、CADによる大規模設計など特定の用途に特化した コンピュータのこと。UNIXで動作する、RISC型プロセッサを搭載したコンピュータが主流。

*5:フェデックス(FedEx)
 世界最大の総合航空貨物輸送会社フェデラルエクスプレス。全世界210カ国以上、12万都市に広がるネットワークと、650機以上の自社運航機で、 スピーディーで確実な航空輸送 サービスを提供している。その最大の特徴が、前輸送行程を自社で管理する一貫輸送システム。 集荷と同時に、スーパートラッカーと呼ばれる小型端末で、それぞれの貨物に付いたバーコードを読みとり、 そのデータが衛星データ通信網によってメインコンピュータに送られる。そして、貨物が移動する全ての段階でデータが更新されるため、 配送状況がリアルタイムで把握できる。また、通関作業も集荷と同時に始めるため、スムーズでスピーディーな輸送が実現できる。
 フェデックスホームページ:http://www.fedex.com/jp/

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