事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
ヒューマングループ佐世保交通産業 作成者:(有)ビジネス情報戦略研究所
       福田 有利
ITC認定番号:0014462001A
作成年月日:2002年10月16日
 企業がITを活用したシステムを構築し、運用していく上で、さまざまな乗り越えなければならない場面が生じてきます。 この場面は、経営者に依存する原因、社員に依存する原因、企業風土に依存する原因、外的環境による原因、突発的な事象による原因などさまざま存在します。 また、このような原因を回避することを考慮しながら、ITを導入・運用していくことが大切です。
 特に、IT導入は、経営者のビジョン(経営戦略)に基づいたものでなければならないこと、ITを使うことへのメリットを社員が理解し、 じょうずに利用していくことへの賛同と参画を得るということは、非常に大切です。
 今回の私のコメントは、経営品質の目からみて、経営戦略とITがどのように連携されているかについて検討しました。 経営品質の目としては、日本経営品質賞のアセスメント基準を採用しました。



 経営戦略を策定していく上で、企業の「経営の成熟度」を推量して、身の丈に合ったものを作らなければ、 企業が経営戦略を実行できないというジレンマに陥ってしまいます。
 「経営の成熟度」を測り表彰するという、日本経営品質賞の仕組みができたのは1995年ですが、この「ヒューマングループ佐世保交通産業」殿の事例では、 そのカテゴリーからポイントを示してみます。さらに、日本経営品質賞「アセスメント基準書」が明文化された現在、それに則ってもう一度自企業を見直せば、 「経営の成熟度」をさらに高めることができます。
というのも、「ヒューマングループ佐世保交通産業」殿が携わる、車に関する事業(自動車教習所、観光バス、タクシーなど)は、まさしく「冬の時代」だからです。

◆日本経営品質賞アセスメント基準-概観-
 日本経営品質賞が目指す方向は、顧客本位に基づく卓越した業績を生み出す仕組み――パフォーマンス・エクセレンス――を追求する企業づくりです。 パフォーマンス・エクセレンスとは、顧客・競争・変革の3つの視点でバランスよく最高水準を維持し、さらにそれを向上するための活動や結果を言います。
 基本理念は、企業の「あるべき姿」を明確にし、それに基づいて意思決定を行うという「価値前提」に立つということです。 (一方、「事実」に基づいての意思決定を「事実前提」と言います)
 日本経営品質賞アセスメント基準では図1にありますように、企業は、社員一人ひとりの尊厳を守り、その独創性と知の創造により独自能力を追及し、 お客さまに対する価値を創造することによって、社会に貢献し、調和するということです。 そして11個の基本的考え方に基づいて、組織プロフィールと8つのカテゴリーから、つまり、「組織プロフィール」をベースにして、 顧客・市場のニーズや動向を的確に捉え、進むべき方向を具体的に示し、さらに、戦略に沿った人材を育成し、 製品・サービスを顧客に提供するプロセスを構築するということです。

◆「ヒューマングループ佐世保産業」殿の組織プロフィール
 社長が社員に、「何をしたいか明確に伝えてきたことが成功の一因」と語られています。この部分は、非常に重要です。 社員の独自性発揮と企業風土に大いに関係するのですが、事細かに伝えていくと逆効果の場合もあります。
 日本経営品質賞のアセスメント基準の先頭にあり、最も大切な「組織プロフィール」では、企業の目指すべき方向、ビジネスパートナーとの関係、 外部環境変化、競争状況の変化などを記述します。
 社長は、「価値前提に基づいた企業として目指すべき方向」を、企業の視点で捉え、社員と共にその方向と力を結集することが使命です。 この成功を糧に、社員に伝える内容を広く深く吟味して、継続することが肝要です。

◆個人と組織の能力向上
 社長は、バブル期に家庭の事情で急遽社長に就任しました。その当時、経理が全くわからなかったと述懐されております。 経営者が、経理指標を解読できないということは致命傷になってしまいます。先代社長時代の経理責任者から、自社の経理ノウハウを得られないということを認識し、 これを契機として、社長が習得すると同時に「経理指標の読めるような社員の育成」に取組まれてきました。 このような取り組みは、社員への権限委譲という面からも、企業として必ずプラスの方向に作用すると思います。
 自動車学校の指導員、貸し切りバスのドライバー、整備工など現場スタッフからは、「コンピュータなんてとんでもない」、 「自分たちは経営をするためにこの会社にはいったのではない」という声が、あがっており、今後ともあがると思います。 特に、交通関係のドライバーはどこも同じようです。個々人への権限委譲に取組むと同時に、組織への権限委譲に取組むことによって、 このような声が出ないようにすることも大切なことです。
 権限委譲を推進するという意味で、日本経営品質賞アセスメント基準のカテゴリー5.「個人と組織の能力向上」の考え方をご紹介します:
①組織に対しては、組織編制の方法、組織に求められる能力を明らかにする方法と能力を高める方法、②個人に対しては、潜在能力を引き出し、 組織としての能力を高める方法、自律を促すための支援方法、③外部組織を含めた組織横断での協力方法、そして、 ④社員や組織に対する評価方法、フィードバック方法と処遇方法、についての基本的考え方を記述します。
 組織とこれを構成する個人という両面から、能力向上を行えば、個人への権限委譲も克服できると思います。

◆顧客・市場の理解と対応
 社長は、自動車学校に通学された生徒さんとの相互会話、自動車学校や観光バスの利用者の中で不満を持つ人の声の聞き取りをやるために、 「生徒とのメール通信インフラ整備による会話、顧客の苦情を聞くコールセンターの設置」と立ち上げてきました。 顧客からは苦情だけでなく、感謝の連絡もあります。
 顧客・市場をさらに理解するという意味で、日本経営品質賞アセスメント基準のカテゴリー3.「顧客・市場の理解と対応」の考え方をご紹介します:
 ①組織内・外の知識や情報、顧客接点から得られる情報を把握・分析し、
  現在および将来にわたる顧客・市場の要求・期待を理解し、
  顧客・市場に対する知識を高める、
 ことによって価値ある製品・サービスの創出や新たな事業機会の開発、
 ②顧客の要求・期待に根ざした顧客対応の基準やルールに基づいて、
  顧客の意見・要望や苦情の収集と対応、
  問い合わせへの回答、
  顧客の意見に基づいた問題解決
 などの活動が行われ、それによって顧客からの信頼や満足を獲得し長期的な信頼関係の強化や新たな関係の構築、についての基本的考え方を記述します。
 ①苦情は迅速に解決する、②予測される苦情は事前に察知し解決する、③お褒めは標準プロセスとして取り入れる、 など顧客の声をどのように聴き、どのように取り入れるのかという面で大きな方針を掲げることを期待したいと思います。

◆情報マネジメント
 ITの導入には非常に積極的で、過剰投資ではないかと思われるくらいです。「企業内における情報の開示と共有、 企業外とのコミュニケーション」を、ネットワークを通じて行っています。また、「お客さまとの商談プロセスの情報共有」、 「企業外部で得た知識の、迅速な社内への展開」と非常に熱心で、 ITを経営に生かそうということが読み取れます。
 経営戦略面でもう少し生かすという意味で、日本経営品質賞アセスメント基準7.「情報マネジメント」の考え方をご紹介します:
 ①組織全体および組織を構成する各部門の業務能力を的確に把握する、
 ②それら業務能力から新たな意味を発見する、
 ③重要な意思決定や戦略策定に活用する、
 ④顧客満足、競争の優位性確保、生産性の向上、効率化推進など重要な経営課題を改善する、
 ⑤業務やプロセスの改善に活用する、
など、経営や生産性を高めるための情報活用の仕組みを企画・設計、提供し、その活用のしやすさ、どのように効果を高めているか、 についての基本的考え方を記述します。
 企業としての経営戦略の面で、広く深くITを生かしていけば、さらに前途は洋々となるものと思えます。

◆まとめ
 「ヒューマングループ佐世保産業」殿は、経営にいかにITを利用しているかということは非常によくわかり、 同規模の企業には参考になる部分が多々あります。 次回、発表される機会があれば、日本経営品質賞のカテゴリー2.「経営における社会的責任」、 4.「戦略の策定と展開」、6.「価値創造とプロセス」、 とりわけ「組織プロフィール」について語って欲しい。
 組織プロフィールから、その企業の姿やビジネスモデルが浮かび上がってきます。したがって、企業としての戦略が見えてきます。 また、今回は紙面の都合でありましょうが、価値創造とプロセスが残念ながら見えてきませんでした。特に、観光バスは地域の観光事業とも密接な絡みがあり、 その事業をみながら戦略を練り、さらに、ITをいかに整備していくかということが重要だからです。
 最後に、日本経営品質賞「アセスメント基準書」に基づいて自社について記述し、セルフアセスメント(自己評価)してみることを提案いたします。

◆参考資料
 日本経営品質賞「アセスメント基準書」(日本経営品質賞委員会)
 日本経営品質賞とは何か(社会経済生産性本部)
 経営の質を高める8つの基準(かんき出版)
 観光事業論(ミネルヴァ書房)

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