事例本文(穴織カーボン)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:35 穴織カーボン(株)   事例発表日:平成12年12月19日
事業内容:カーボン製品一般製造
売上高:2億5000万円 従業員数:20名 資本金:4000万円 設立:1962年月
キーワード カーボン製品製造・販売、
商圏の拡大、少量多品種生産、
Webでの情報照会、インターネット販売
製造業におけるインターネットの活用方法
  

穴織カーボン(株) URL:http://www.anaori.co.jp/

穴織カーボン(株)取締役統括本部長 橋本和之氏
プロフィール

 1966年生まれ。京都産業大学法学部法律学科卒業後、㈱大阪銀行(現・近畿大阪銀行)に入社。99年、同行を退職し、穴織カーボン㈱に入社。その後、取締役に就任し現在にいたる。

~多品種少量の仕事を請け負う中小企業のキャパシティをインターネットで拡大~

 こつこつと物造りを行う誠実な中小企業というイメージだった穴織カーボン(株)が、その真摯な姿勢はそのままに、ITのいいところを取り入れてさらに発展を遂げている。大企業とも外国企業とも取引を行い、コンスタントに受注を得られているという。インターネットはツールとはいうものの、穴織カーボン(株)ではそのツールをどのように使いこなしているのだろうか。


■会社概要
代表取締役 穴織 英一
設立 1962年(昭和37年)
資本金 4,000万円
本社所在地 〒569-1131 大阪府高槻市郡家本町51-12TEL.0726-83-1392(代)FAX.0726-83-1397(CARBON BRUSH GROUP)FAX.0726-83-4883(EDM/GR GROUP)
営業品目 カーボンブラシ・自動搬送用集電ブラシ・ブラシホルダー・パンタグラフ・放電加工用グラファイト電極・カーボンシール・パッキン・メタル・ルツボ・耐熱治具・ヒーター・冶金用焼結型・半導体用純度カーボン部品・C/Cコンポジット・カーボンファイバー・他カーボン製品全般

■当社のインターネットへのきっかけ
  当社は、カーボンの製造、販売を行っています。カーボンというとカーボン紙を連想されるのですが、耐熱性の電気用、機械用の用途があり、半導体をはじめあらゆる方面で使われているものです。中でも当社が得意としているのは、モーター等のスリップリングに使うカーボンブラシの部分で、これは先代の社長が立ち上げたものです。来年で創業40周年を迎える、業界では老舗の企業です。10年前に現社長が就任したのですが、ちょうどその時期に金型に使う放電加工用のグラファイトの電極を手がけることになりました。
  現在ではこれらをインターネットで受注できるシステムを構築しています。最近ではゴルフクラブや釣竿に使われるカーボンファイバーも手がけています。
  仕事の形態は、多品種・少量の典型的な大阪の中小企業です。所在地は大阪の高槻で、従業員は20名弱です。このような会社がどのような経緯でインターネットと出会い、活用してきたのかをお話したいと思います。
  今から5年前、大阪のある弱電気メーカーからCADのデータのやりとりを電話回線で送れるようにしてほしいと依頼がありました。CADシステムとお客様のシステムを、専用回線を引いて直結させるというお話でした。ちょうど当社のハードがUNIXでISDN回線とCADを直結させていて、かなり画期的なことではありましたが、当時ではかなりコストがかかりましたので迷いました。しかし、これを導入することで今後安定的に仕事が得られるのなら、と導入を決断したのです。そのうちに、コンピュータ間の通信が世の中に出てきてEメールの走りのようなものが主流になり、やりとりをこれで、という話も出てきましたが、鮮明な画像を送ることができない状態の上、一通何円というコストがかかりましたので普及しませんでした。それから1年もしないうちに巷でもインターネットが話題に上がるようになりました。当社はベースがあったのですぐに取り入れてみました。

■ホームページで商圏がぐんと拡大。太平洋上の外国船からも受注。
  社内でのインターネットの活用法ですが、まず、得意先の調査・新規営業の資料集めです。そして、従業員の間からホームページを作ろうという声が上がり、カーボンの業界では一番になろうということで着手しました。従来の製造業のホームページは非常に堅苦しいものでしたので、私どもはそれを一新させようと思いました。最近では環境問題が騒がれているので製造業の方でも自然をイメージしたホームページのTOPが増えていますが、当時は私どものような業界では珍しいとかなり反響が大きかったものです。
  やがて大手企業、大学、各公共団体等から問い合わせが入りだし、注文に繋がっていきました。
  おもしろかったのは、シンガポールの船が太平洋上から問い合わせてきて、もうすぐ横浜港に着くがそこにモーターのブラシを届けてくれないか、と。これを見た時は社員全員で驚くのと同時に喜びいっぱいでした。今まででは考えられなかった商圏から問い合わせが入るという確信が持て、それが注文に繋がるという自信も持てました。
  そして次のホームページを考えていくにあたり、それほどの抵抗なく皆で話し合うようになりました。こういうものを作っていく時は、上からの一方的な話でなく、下からの作り上げを意識したほうがいいものを作れると思います。その時に従業員からの声で、インターネット上で直接注文のやりとりをしたい、社員が共有できるお客さんのデータベース(工程管理や納期の確認ができるもの)が欲しいという要望があり、それらをまとめて新しいホームページを作りました。要するに難しくて新しいことをすることがIT革命ではない、社内にあるものを一歩でもいいものにしていくことが一番大切なのです。
  当社のホームページを最初に見てアプローチしてきたのが大企業だと言いましたが、通常では大企業からのアプローチなどめったにありません。インターネットならではであり、今でも大企業からの問い合わせはかなりあります。

■インターネットで受注から社内工程管理までを行うシステム
  ホームページは時々変わっていないと2度と見てくれないので、頻繁に更新を行います。うちのシステムで一番評価されているのは受発注システムです。Web上で受発注と工程進捗の確認ができます。1度ご注文いただくとパスワードとCDを与えます。
  例えば、○×(株)様がカーボンブラシと放電加工用の電極グラファイトマスターを発注したとします。カーボンブラシの項目を見ていただくと、受注番号・注文いただいた材質・寸法・単価・数量・送金額・出荷状況・運送会社・運送会社の送り状番号まで記入されていて、もし届いてないということがあったらすぐ問い合わせができるようになっています。初めての方はゲストから始めます。
  2回目からはCDとパスワードを入れていただくと、○×(株)の先月分の注文状況が表示されます。細かい材質選択ができ寸法も自由値で入れられ、その組み合わせは天文学的な数字になるほどです。お客様はまずその細かい選択を決めて「確定」を押し、必要な数量と希望納期を入れて「見積」を押します。後は発注を待つばかりです。こちらでは「機能」で受注明細が見られ、社内では受注が入ると一気に製作伝票が起きるようになっています。「問い合わせ」を押すと、掲示板のように書けるようになっています。
  こうした多品種・少量の注文に対する対応が中心です。逆にいうと10個20個の製品のために営業マンを2人3人もおいておくと赤字になってしまいますから、インターネットといういい営業マンを得たと思っています。

■社内外で得られた成果は大きい
  今、私どもの新規のお客様の90%がWebからの問い合わせです。その入ってきた問い合わせの80%が仕事の成約までこぎ着けています。インターネット上に載せたことにより、世界中から24時間365日確実に仕事を確保できるという中小企業にとっては今まであり得なかったことが可能になりました。
  ただし、インターネットの取引は、極端にいえば顔も合わせないしどこに会社があるかもわからない状況で行うわけですから、信用力が大事です。この信用を1度失うともう2度とネットではやれないというくらい信用は大事です。
  社内工程の作業の成果としては、今まで手作業だったことがコンピュータを利用して簡素化し、作業者の手を煩わせないようになりました。技術者や昔ながらの職人は資料の整理をしてくれと言っても頭の中に入っていることが多く、資料を作ることは苦手という人がほとんどでしたが、コンピュータでアンケートのチェック方式のようにすれば今まで聞けなかったベテランからのノウハウの蓄積ができるメリットもあります。二次的効果として、労働時間やワークも全部できますので、当然、人事評価や給与査定などの作業者管理にも繋がります。当然、対外的には同業他社との差別化も図れます。

■インターネットを使いこなしてこそビジネスチャンスが広がる
  成功の秘訣は、まずインターネットを始めてみることです。ただし、「隣りの会社や取引先がホームページを持っているし、メールもやっているみたいだからやってみよう」というのでは、投資どころかマイナス投資です。そこからいいものは展開できません。何もかもやるのはむずかしいので、お客様を増やしたいとか、コストダウンしたいとか、1つの目標を持ってやっていくと、だんだんそれが物足りなくなって、そのうちに当社と同じレベルかそれを追い越すものができるようになります。よく「投資効果はどれくらいですか」と聞かれますが、これはコンセプトがないのと一緒ですから「そう聞くならもう少し考えてからにしたらどうですか」と応えています。インターネットはあくまでもツールであって、これが会社の主流になるものではありません。即投資効果云々ではなく、インターネットを入れたからには使いこなそう、使いこなしてビジネスにしようというスタンスの方が、やはり入れてよかったなという実感を持てると思います。
  大阪だけでなく近畿が今景気が大変悪いと言われていますが、こういったことをきっかけに躍進することができ、裾野が広がればいいと思いますので、是非ご検討いただき一緒に頑張っていきましょう。

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