事例本文(アスクル)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:36 アスクル(株)   事例発表日:平成12年11月21日
事業内容:オフィス用品通販
売上高:752億万円
2001年5月
従業員数:161名
2001年5月
資本金:31億1550万円 設立:1977年5月
キーワード オフィス用品通販、
時間を約束したサービス、コールセンター、ワンストップショッピング、
Webでの情報照会、インターネット販売、情報共有、予算管理サポート
アスクルモデルにおけるIT活用
  

アスクル(株) URL:https://club.askul.co.jp/html/index_www_top.html

アスクル(株)マーケティング&マーチャンダイジングマネジャー 天沼英雄氏
プロフィール

 1989年プラス(株)入社、アスクル事業部のWebシステム等を担当。現在は、アスクル(株)の経営戦略マネジャーとしてECや顧客対応業務の戦略立案等に携わっている。

~お客様の満足を追求したらEビジネスになった~

 プラス(株)の社内ベンチャーから独立、ぐんぐんと目覚ましい発展を遂げ、ついに店頭上場にまで至ったアスクル。IT戦略をメインに、この元気印の企業がいかに成功したか、そのヒミツを知りたい。


■お客様のために進化するアスクル、だから・・・
  おかげさまで、本日、アスクルは株式市場への店頭公開を果たしました。ただ、社長も言っていますが、店頭公開はひとつのステップであってこれを目標にしてきたのではない、我々の目標はいつも、いかにお客様に満足していただけるか、ということです。
  アスクルはもともとプラス(株)という大手文具メーカーのいち事業部からスタートしました。最初はスタッフ4人。売上高の推移は、94年の2億円から、6億円、19億円、56億円、100億円と伸び、先期が471億とほぼ毎年倍々という形で伸びてきました。ご利用登録数は、オフィスに対する通販ですので、会社の数ではなくオフィスの数で計りますが、2000年5月期で約106万オフスあります。インターネットでの売上は2000年5月期で77億円くらいで、利用するお客様は13万オフスまで急激に伸びてきました。現在の取扱商品は約11,000アイテムです。
  アスクルの理念は「お客様のために進化するアスクル」、お客様第一です。オフィスのためのワンストップショッピングとして、明日来るからアスクル、と時間を約束したサービスを提供しています。アスクルで扱っている商品は90数%が通常のメーカー品で、それ自体では付加価値のつけようがないし、価格でも限界があります。当社ではお客様に満足いただけるサービスを提供することによってそれが付加価値となり、お客様に満足いただけるのではないかと考えています。
  Eビジネスにしても、それをしようと思って始めたわけではなく、お客様の満足を追求していくと、Eビジネスがあったのです。お客様からのご意見がきっかけでインターネットで受注に取り組むべきではないかという話になり、やっていくうちに、我々の限られた体力の中でいちばんいいサービスを提供できるツールじゃないかと実感し、ますますEビジネスに注力しています。ファックスやインターネットで24時間ご注文OK、翌日にはお届けいたします。というのがアスクルのお客様へのお約束です。現在では、午前11時までにご注文いただくと当日配送可能なエリアも、都内23区、大阪市内、神戸エリア、仙台市内、福岡市内と増えています。登録料金、カタログは一切無料です。お支払いは月1回のまとめ払いで昔ながらの掛け売りです。配送料は300円ですが、2,500円以上の注文ですと無料です。

■小規模な企業にフルサービスを提供したい
  文具マーケットは1兆4千億円あるといわれており、そのうちの75%が法人のお客様向けです。民間事業所数は620万ありますが、そのうち従業員30人以上の事業所は全体の5%しかなく、ほとんどが30人未満、10人以下の小規模な事業所です。そういうところにも大企業並のサービスを提供していこう、というのが当社の狙いです。アスクルはカタログ販売ですが、通常の通販と違って、エージェント(文具店が多い)を通じて販売しています。エージェントは顧客開拓、与信、回収機能に特化した代理店で、その他の、例えば商品に対するお問い合せ、在庫、配送、請求書の発行などは全てアスクルが一元化して行うことで無駄を省き、流通の最適化を図っています。商品の注文はお客様とアスクルが1対1で行いますが、請求書はアスクルがエージェントの代行で行います。お支払いは、お客様からエージェントに支払われ、エージェントがとりまとめてアスクルに支払うという構造になっています。
  要望やクレームなどのお客様からの生の声をメーカー、商社、協力会社などにフィードバックして、新製品や新技術の開発、新サービスなどの新しい価値に置き換えてお客様に還元すること、このひとつのぐるりと回るような情報の共有が大切です。こうした情報共有の具体的な事例としては、インスタントコーヒーの詰め替え用をネスカフェさんと共同企画したことがあげられます。これはゴミ問題にも対処できる上、価格も安価に押さえることができるものです。また、オフィス用の足元暖房機を松下さんと開発しました。従来の家庭用では大きすぎるという声からオフィス用の食器乾燥機も生まれました。
  お客様の声より、タブーに挑戦したのもアスクルの進化の過程です。最初はプラス(株)のいち事業部でしたからプラスの商品しか扱っていなかったのですが、お客様のご要望に応える形で他社のものも扱うようになりました。今ではプラスのものは全商品アイテムの10数%程度です。お客様にとって必要なもの、ニーズのあるものが第一です。また、価格にしても、やはりお客様からの強いご要望とご指摘から引き下げるという決断をし、業界のお叱りの声や反発を受けることになりました。

■インターネットによる双方向性を活かして
  1997年5月、プラス(株)からアスクル(株)として分社しました。現在では、単なる流通業ではなく我々は情報サービス業だと自負しています。リレーションシップセンター(お問い合わせセンター)では、1日に6千から8千件くらいお客様からの声が寄せられます。それは電話、ファックス、インターネットとさまざまな形ですが、そこにコミュニケーションチャンネル統合システムを入れて、顧客対話支援システムを確立し、お客様の声をきちんと反映させています。
  アスクルモデルを支える最新テクノロジーとして、ファックスOCRとWebサーバーが上げられます。また、仙台、東京、大阪、福岡の4箇所の物流センターに完備されたロジスティクスシステムによって、1日に全国数万の事業所からくる受注を、正確かつ迅速に対応できるようになりました。注文を受けてから最短ですと、20分くらいで最終工程まで進みますので、キャンセルのご連絡が20分後にあっても、すでに物が出てしまっているということもあり、早いが故に、今度は止める方も何とか考えなくてはなりません。
  一部の地域で実施している当日お届けや、翌日のお届けに関しては、それぞれ締め時間を設定しているのですが、その締め時間前に注文が集中します。ピーク時にシステムを合わせるというのは辛いのですが、それが当社の仕組ではきちんと処理ができるようにハードウェアを装備しています。
  インターネットの受注がふえていますが、95年にアンケートを取った時には「インターネットで発注したい」というお客様は2%、それが96年には44%にまで増えていました。先期末のインターネット受注による月商は約13億円です。Eビジネスの流通経路としてのメリットは、情報の双方向性だと思います。実店舗を持たないでやるので、双方向性によりお客様が増えたり商品が増えたりするのも容易に対応できます。当社で工夫していることとして、ネット上でいつも注文するものを登録しておいて、いちいちカタログを見なくても注文できる「Webマイカタログ」、月ごとのオフィス用品などの購買予算をオーバーしそうな時に知らせる「予算管理サポート」、オフィス用品の購買に上司の承認が必要な方には、発注担当者と管理者(上司)へのリプライメールで「承認申請サポート」、「購買履歴をダウンロード」などがあります。このように、インターネットを利用することで、お客様の購買のプロセスのサポートも可能になりました。

■しっかりしたビジネスモデルをインターネットでよりいいものに
  手書き文字のファックスによる注文に比べ、インターネットによる注文はミスがありません。時間にしばられたサービスをやっているのでインターネットからご利用いただくことは時間短縮の面からも当社にとっても大変メリットがあります。そういった意味からもインターネットでのサービスの内容をより充実させています。お客様の声を知る場として、アスクルのサイト内にあり、「みんなの広場」という掲示板的なコミュニティの場をお客様にオープンしています。お題は、「オフィスの知恵袋」「口コミオフィスグッズ」「オフィスグルメ」など。また、お客様とアスクルを結ぶWeb連動型の情報誌として「dreamers」も始めています。さらに、現在の取扱商品は文具、事務用品、生活雑貨などですが、カタログで扱えないものもあります。例えばパソコンや周辺機器は非常に値動きが激しいので、6カ月に1回発行する紙媒体のカタログでは無理、ということで、ビジネス機器購買の「パソコンショップB2Bマート」という専用サイトを展開しています。2000年7月からは、ビジネス書籍を注文できるサイト「アスクルブックカフェ」もあります。その他にも軽印刷のサービス「プリントオンデマンド」も行っています。
  インターネットによる事業展開を図ってきてわかったことは、まず、インターネットによる可能性は、参加してみなければわからないということです。そして、一人ではできないので、信頼できるパートナーを選ぶことが大事です。技術屋、システム屋にしても踊らされずにパートナーシップ的な関係でやっていけるところを選びましょう。
  ビジネスモデルの確立も重要な要素です。やはり基本的な考え方、モデルの段階できちんとしたものをインターネットに載せることでいいものができると思います。例えばアスクルの場合もそうですが、インターネットが明日なくなっても生きていける、というぐらいのものがあって、それをインターネットでやると、相乗効果ですばらしいものができるのだと思います。
  ビジネスモデルを立ち上げる際に大切なのは、普通の会社、一般のお客様にとって何が便利なのかを考えなければならないということです。インターネットをマニアやサーファーと呼ばれるような一部の人たちでなく、普通の会社員などから本当に便利だなと言われるようなサービスを我々は常に提供していきたいと考えています。2000年6月に発行された雑誌「THE21」(PHP刊)の「感動のサービスランキング」でアスクルが3位に入っていたので社員一同たいへん感動した次第です。

このページのトップへ