事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
北海道エニコム(株) 作成者:山口 正一郎
ITC認定番号:0018892002C
作成年月日:2002年9月12日
 ITSSP講演事例「IT化をどう進めるか」の内容に沿って、現在のインターネットを中心としたITの普及状況や動向と、 中小企業におけるIT活用のアドバイス的な内容を以下に述べます。

1.インターネットを中心としたITの普及状況および動向
 日本のインターネットの利用者数は、ここ数年で急速な増加を続けています。総務省が行った通信利用動向調査によれば、 平成13年末における利用者数は5593万人(人口普及率44.0%)で、1年間で885万人(前年比18.8%)の増加を示しており、 平成17年には8720万人(人口普及率68.3%)に達するものと見込まれています。また、図1に示すように企業(300人以上)ではほぼ普及が終わり、 事業所(従業員5人以上)と世帯の普及が急速に進んできています。



 インターネット関連で注目されているのが、ブロードバンドネットワーク(インターネットへの高速の通信回線)と携帯電話や 携帯端末、携帯パソコンといったモバイル機器の普及です。図2に示すように、ブロードバンドネットワークの利用世帯数は、今後急速に増加すると予想されています。 また、平成11年2月に開始された携帯インターネットサービスの加入者数は、平成13年度末時点で5193万人(携帯電話加入率の75.1%)となり、 世界でも高い普及率を示しています。



 ブロードバンドネットワークを利用すると、電話回線(56Kbps)では2時間半以上かかる音楽CD(60MB)のデータを、 一般電話回線を使用したADSL(8Mbps)では1~2分程度、光ファイバ(100Mbps)では5~数十秒程度で送ることができるようになります。 ブロードバンドネットワークの利用分野としては、映像などのコンテンツ配信サービスなどが期待されていますが、 企業内でも大容量のために扱いづらかった設計図面や高精細写真、モニタ映像が扱えるようになり、映像を使った商品説明やテレビ会議なども安価に 実現できるようになります。モバイル機器も新規格(IMT-2000)の高速伝送サービスが利用できるようになってきています。 更にインターネットの番地に相当するIPアドレスの桁数を増やしたIPv6を利用して身の回りのあらゆる機器(モバイル機器や家電など)が インターネットに接続され「いつでも・どこでも・誰でも」情報をやりとりできるユビキタス環境の実現に向けた開発が進められています。
 また、インターネットを利用した電子商取引も高い成長率で拡大を続け、IDCジャパンの調査によると企業間電子商取引の市場規模は図3に示すように 平成13年の9兆8千億円から平成17年にはその約5.5倍の54兆4000億円規模になると予測されています。



 このように、インターネットを中心としたITの普及の速度は凄まじく、固定電話が6千万台普及するまでに約100年かかったことと比較すると十倍以上です。 この速度の表現に人間が年をとるスピードと比較したドッグイヤー(7倍)やマウスイヤー(18倍)という言葉が使われています。 デジタル産業革命時代とも呼ばれるこの状況を中小企業の経営者自らが理解することが重要です。

2.中小企業におけるインターネットを中心としたIT活用について
 こうした状況においては、中小企業もインターネットを中心としたITの活用を図ることが大変重要です。 電子メールが使えない、ホームページがないといった企業は、企業の能力そのものを疑われるようになってきていますし、 今後企業間電子商取引に対応できない中小企業は取引自体に影響が出てくる可能性があります。
 では、どのようにITを活用していったら良いのでしょうか。課題は何でしょうか。
企業におけるITの利用目的は以下の2つに大別されます。

①経営の能率や生産性の向上
 従来から主に利用目的とされてきたもので、情報を活用することによって経営や業務の効率化を図るものです。 この例として製造業界を中心に導入されているSCM(Supply Chain Management)があります。 SCMは、企業横断的に物と情報の流れを整理し、商品の製造や調達、流通、販売の物の流れ(サプライ・チェーン)を 取引先と連携して管理することによって、在庫コストや流通コストを減らし、納期短縮を図るためのものです。
②新たな事業の創出やビジネス機会の増大
 インターネットの普及によって増えてきた利用目的で、ITを利用して事業の拡大や新規事業の創出を図るものです。 この例としては、インターネットビジネスの成功例として知られるアマゾン・ドット・コムのオンライン書籍販売があります。 インターネットを利用して販売方法を抜本的に変えることによって事業規模を大幅に拡大しました。しかし、この例では商品そのものは変わっていません。

 これだけの内容から各企業においてITをどう活用できるかと考えてもピンとこないと思います。それはITが高い柔軟性を持った道具である良さと、 それゆえの難しさを持ったものだからです。
また、中小企業でITの活用が進まない理由として、「効果がわからない」、「IT化を推進できる人材がいない」、「中小企業にとってコスト負担が大きい」、 「ITベンダの手が回らない」といった点が指摘されています。利用の側面では「利用する必要を感じない」、 「必要だと思うが機器を使えない」といった情報リテラシー(リテラシーとは読み書き能力のこと)面の課題が挙げられ、 組織や個人の情報リテラシーの差が経済格差につながるデジタルデバイド(情報格差)の拡大が懸念されています。
 これらの中小企業がもつIT活用上の課題を解決し、費用対効果を高める方法を以下に挙げます。

①インターネットを利用したASPサービスの利用
 ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービスとは、業務アプリケーションの利用に必要なソフトウェアおよびハードウェアを サービス事業者が用意し、複数の企業ユーザーがこれらを共同利用する形態です。企業ユーザーはインターネットを利用する環境を準備すれば、 「利用料」を支払うことで業務アプリケーションシステムを利用することができます。ASPサービスを利用するメリットとして、 サービス事業者が所有する専門の施設や機器、技術、運用管理などを共同利用することによって「コストが低くなる」、「専門の要員がいらない」、 「導入期間が短い」、「セキュリティ対策が容易に行える」といった点があります。コスト的には、ホームページやグループウェア、 会計や給与計算といった汎用性が高いものは、初期費用:数万円~、月額利用料:数千円~です。製造業、建設業、小売業向けといった業種対応システムは、 初期費用:数十万円~、月額利用料:数万円~です。中小企業向けのASPサービスはまだ熟した状況にはありませんが、 中小企業のニーズに即したサービスですので有力な選択肢として検討する必要があります。
②政府や自治体などの支援施策の活用
 中小企業のIT化の支援施策として「専門家派遣事業」や「情報化投資融資制度」などが実施されています。 「専門家派遣事業」を利用すると政府や地方公共団体から専門家派遣費用の3分の2の補助が受けられます。 「情報化投資融資制度」を利用すると、政府系金融機関から特別金利で貸し付けを受けることができます。 また、「IT基礎技能講習事業」を中心とした国・県・市町村が推進する一般成人を対象とした「IT講習会」が全国で実施されており、 中小企業向けには地域中小企業支援センターなどが実施する講習会が開催されています。 中小企業のIT化支援やデジタルデバイド問題の解決を図るための施策ですから、地域中小企業支援センターなどに相談して積極的に活用するのが得策です。
③ITコーディネータの活用
 ITコーディネータは、経営者の立場に立って経営とITの間の橋渡しを行い、真に経営に役立つIT投資を推進・支援するプロフェッショナルであり、 ITのホームドクターとして、ちょっとした相談からIT顧問、 専任アドバイザー、導入マネージャーなど実現に至るまで一貫したサポートを実践する 人材とされています。地域のシステムインテグレータの主な役割がシステムの導入であるのに対し、ITコーディネータの役割は経営の視点で 経営戦略策定からシステム導入後の効果確認や改善まで、中堅・中小企業のCSO(情報化戦略担当役員)を支援することです。 中小企業の経営者自らがITを理解し、自社の経営にどうITを活用していくかを考えることは重要ですが、 現実的には難しい面がありますので地域のITコーディネータを積極的に活用するのが良いでしょう。

 これらの内容をイメージ化すると図4のようになります。



 以上、中小企業におけるIT活用のアドバイス的な内容を述べましたが、ITは経営を支援するための道具ですから、 経営戦略や企業体力、能力に合った効果的な活用を図ることが重要であり、経営の視点からITの活用を支援するITコーディネータの活用をお勧めします。

[参考資料]
「情報化白書2002」
  財団法人 日本情報処理開発協会

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