事例本文(久米繊維工業)

出典:ITSSP講演事例 IT Coordinators Association
事例本文
事例番号:40 久米繊維工業(株)   事例発表日:平成12年11月29日
事業内容:Tシャツ製造・販売
売上高:12億4151万円
1999年6月
従業員数:59名 資本金:3億円 設立:1960年7月
キーワード Tシャツ製造・販売、
顧客支援広報サービス、
インターネット販売、ネット通信簿社会、メールマガジン
社長がパソコン1台からはじめる企業革新
  

久米繊維工業(株) URL: http://www.t-galaxy.com/

久米繊維工業(株)代表取締役社長 久米信行氏
プロフィール

 慶応大学卒。1991年久米繊維工業(株)へ入社。同年(株)FP総研を設立。94年久米繊維工業(株)の代表取締役に就任。95年にはTシャツギャラクシー(株)(現・Tギャラクシードットコム(株))を設立し、同事業により97年日経インターネットアワード賞を受賞する。

~中小企業の社長だからこそ可能なネットビジネスの時代~

 Tシャツのネット販売を行う会社をはじめ、いくつもの経営を行う久米氏は、ドットコム企業の旗手としても知られ、マスコミ取材を多く受けるほか、講演や原稿執筆も数多くこなしている。大企業より中小企業にチャンスというネット時代の現状、氏の事業の内容、可能性などを語っていただく中に、新しい時代の芽が見いだせる。


■スモールビジネスこそインターネットに適している
  ナスダックの大暴落や、アマゾンドットコムが大赤字で株価を下げ続けるなどの状況の今、ネットビジネスはもう終わったのではないかと言われるほどです。しかし、実はアメリカでも今日の演題に掲げたように、社長一人でパソコンを使ってやっている個人ビジネス、あるいは中小ビジネスは、有名企業ではないし売上規模も小さいですが、その5割以上が黒字、儲かっているということです。私自身もやってみて、そのようなスモールビジネスこそインターネットの真骨頂ではないかと思いますので、今日はそんなお話をしたいと思います。
  当社は、Tシャツ製造販売会社で下図のようなグループで構成されています。


  繊維は不況業種の代名詞で、8~9割が輸入となり、ユニクロという一大勢力が登場して大変なのですが、私どもは今でも国内製造で生き残っています。これは先代である父の功績でもあるのですが、13~15年前にFAXが登場した時点で新しい形で販路が開拓できるのでは、と考えて新会社を作ったのです。そして、10枚という少ないロットでもFAXまたは電話でオーダーをいただければ翌日にはもう届くという、今はやりのアスクルのTシャツ版のような商売をして、お客様を2,000社、2,500社と拡げたおかげで、今日も事業を継続しています。さらに、値段の安い中国製品を扱う会社、プリント会社も持っています。今日の本題に関わるTギャラクシードットコムという会社は、インターネットを使って個人に1枚でもお作りするという事業をしていて、月商は1,200万円程度と当グループ全体から見れば数%ながら、3割4割と伸びているところで、既存の商売とだいぶ違います。今は繊維というだけで銀行では貸し渋りの対象なのですが、ドットコムカンパニーがあればそれを評価してもらえるということもあります。

■ネット通信簿の上位を目指せ
  私が5年来パソコン通信、インターネットにふれてきて、実感しているのは、今後、5年、10年してくると世の中はどうなるかと考えたとき、ネット通信簿社会になるだろうということです。これは、お客様に、作っている人、売っている人の情報が全てガラス張りで筒抜けになる社会です。具体的には、例えば「Tシャツ」で検索するだけである地域におけるTシャツメーカーが全て出てくる。その中で企業間だと信用第一だから帝国バンクデータで高得点順とか、自己資本比率の高い順とか、生産キャパシティが大きい順、ISO14001を取得しているなど、お客様の望む順番で並べて見ることができます。さらには、その上位5社なり10社に印をすると相見積ボタンを押すだけで見積が取れるようになるでしょうし、在庫一覧をのぞけるようにもなるかもしれません。これは中小企業にはメリットが大きいでしょう。ネット通信簿で見つけてもらえることによって、広告をかけなくても、営業をかけなくても、探してもらえる可能性があるわけです。いい商品・サービスを提供している企業には福音となるでしょう。
  ネットで販売というと、個人向けの通販の話ばかり出てきますが、私は企業間の調達こそ本流だと考えています。現に、IBMでは今年中に100%インターネット上で調達を出す、すなわち電話・FAXはもうしないと言っていますし、アメリカの自動車メーカーのビッグ3が一緒に市場を作ることも始められました。ということで、企業間取引はネット通信簿を見ながら取引されることだと思います。そこでおもしろいのは、大企業に不利なところが多々あるということです。今まで財産だと思っていた営業網がインターネット時代には無用の長物どころかお荷物になってしまうような、資産の負債化が起こります。ただし、実業がないネットビジネスはほとんど失敗しているわけで、ほどほどの実業があって基盤があって、それでいてあまり縛られるものがない中小企業は非常にいいポジションにいるといえましょう。

■ホームページ作成の前に、社長がリーダーとなって企業改革をすべき
  ネット対応というとすぐホームページ作成と思いがちですが、その前にやるべきことがあります。それは、ネット通信簿であるジャンルにおいて、いかに上位に表示されるかということです。そのためには、事業領域をかなり絞り込んでいくこと、ニッチを狙うこと、販売経路や調達先も絞り込むことが必要です。全ての人にあまねく何か売ろうというのはインターネットでは非常にむずかしい世界で、これは鳴り物入りで始まったコンビニ系のネット販売がほとんどうまくいっていないのを見てもわかることです。また、インターネット時代には、なんでもかんでも自分たちで持つというよりは、餅は餅屋に任せて自分たちの強みのあるところ以外はやらないのが賢い選択です。そのコスト構造こそがネット通信簿で上位にいくコツだと思います。財務諸表をよくすることも重要なことです。特に法人の場合は与信が厳しいので自己資本比率を高くすることなどが必要になりますが、そうするとキャッシュフロー重視、よけいな負債は持たない、という筋肉質の財務体質にしないとネット通信簿の上には行けません。さらに、ネット時代には、現金即時決済がかなり主流になってくるのでそれに対処すべきです。そこで、私たちは3年かかりましたが、支払手形、割引手形をなくしました。これらは全てリストラということです。
  そして、何よりも中小企業の場合は、社長自身の情報力が決め手になります。失敗例が多いネット通販の中で、成功しているところを見ると、ほとんど優秀な社長、店長自らがメールを出しています。ここでも稟議などが多い組織構造の大企業に比べて身軽な中小企業は有利です。社長は社内組織に向けてでなく、お客様や調達先に向けてメッセージを発信していればいいのです。メールマガジンの発行もおすすめです。ここで重要なのは、深刻なクレームやリクエストがいち早く社長のところに飛ぶ仕組みづくりです。社長自身が血も凍るようなクレームメールがきた時に、すぐ対処できることが大事なのです。つまり、社長や営業部長がお客様への迅速な対応をできる体制にした上で、トップページに社長直通アドレスをつけておけばいいのです。



  また、電子市場やシステム運用を代行してくれるプロを頼んで、自分たちはなるべくお金をかけないこともポイントです。E-○○○とか、という市場が多々ありますから、中小企業はそれを活用すればいいのです。そこに自分たちの商品カタログ、会社案内をうまく載せることで取引ができるかもしれません。私どももホームページを一所懸命に作っていますが、将来的には業種ごとの市場に当社のTシャツのカタログを載せて、そこから飛んでくる見積情報を、在庫を見ながら処理していくような商売の仕方になると思います。これからは中小企業においてはオフコン、パソコンサーバーなどを自社で持つ時代ではなく、データセンターなどを活用すべきです。お金をかけずにPRし、システム運用代行業を用いて、最新鋭のIT技術を使う、その中心になるのが社長なのです。中小企業の社長とは、一人何役もの仕事をこなすものですが、ネットを使えばさらにそのキャパが広がるのです。

■パソコン1台で拡げた可能性の例
  では、私が実際にパソコン1台でやって効果をあげた例をいくつか掲げましょう。
1) ブレーキ - 法人与信データ
繊維業界は倒産が非常に多く、取引先の審査のために作成したものです。ニフティサーブや帝国データバンクのホームページに繋げて、1件1,000円で企業情報をとることもやりました。評点何点以上だったら手形でもいい、何点以上なら掛けでもいい、何点以上なら月商の1割まで与信枠を作る、などコンピュータに全部入れたのです。
2) ハンドル - 一日一通の異業種交流メール
インターネットを5年前ぐらいからやっている人はどの業種でもアンテナが立っている人が多く、そういう人たちと毎日メールで無料の異業種交流会のようなものをやっています。業種も立場もさまざまな人の新鮮な意見を聞くことで、新しい発見、チャンスが得られます。
3) ネットを使ったファイナンシャルプランニングの会社
かつて証券会社にいた経験があり、ネットの中で匿名で本当の情報を流すことをしています。去年のネット証券解禁以来、色々な仕事が舞い込むようになりました。

■Tシャツのネットビジネスから夢は広がるばかり
  では、本業のTシャツの話をしましょう。メーカーなのになぜ面倒な個人向けの情報発信を始めたかというと、お客様は情報が増えれば増えるほどわがままになります。ブランドを着て喜ぶという時代が終わってしまったからです。ブランドでも時代遅れなら千円でも買わない、むしろ自分でオリジナルのTシャツを作ったほうが楽しい、それだったら2千円でも払うよと。さらに、インターネット上で、自分でTシャツの店を作って売る人が出始めました。これを私たちは「生活者革命」と呼んでいるのですが、新しい市場としてできてくるにも関わらず、残念ながら当社も業界も対応していなかったので、インターネットを使って旗振りをしようと考えたのです。また、もともと下請に近い商売でしたから当社のことは知られていませんでしたが、インターネット時代は業界の外の人たちもダイレクトに注文をくださる時代ですから、その人たちに当社はまだ国内でTシャツを作っていますとアピールする必要もあったわけです。そこでホームページを作っておくと、戦略的なパートナーがどんどん見つかったり、新しいTシャツのお店が見つかったりということがありました。
  私がいちばん興味を持っているのは、顧客支援広報サービスです。これは、Tシャツでおもしろいものを作ってくれるお客様の作品をホームページに載せることで、私どもはただの下請屋ではなく情報広告のお手伝いをしているわけですね。もちろん無料でかまいません、私たちのところへ来てくれるきっかけになってくれればよいと思っています。
  よくある会社案内とカタログを載せただけのホームページを作って全くアクセスが来ない時期を体験し、やがて、インターネットの場合は情報を出せば出すほど帰ってくる、何もしないで待っていても誰も来ない、と発見しました。そこで売る前に週刊誌のようなTシャツの専門誌を作り、毎週ちょっとずつ情報を出すようにしました。プレゼント企画も交えたりして、リピーターを増やしています。最初はなかなか売れなくても、本業との相乗効果で考えたら十分ペイすると思います。私どもは取材をされたり、取材したりということも大いに活用しています。ホームページは一度に100万円かけて作っておしまいより、毎月数万円ずつかけて少しずつ作っていって、気が付いたら百科事典になっているようなものを目指したいと考えます。
  実際の運営方法は、自分でシステムを持つ必要はありません。レンタルで安いもの、その時々でいちばん安くて早いものを使えばいいと思います。そして、システムにお金をかけない代わりに、毎月5万、10万でいいからプレゼントにするほうが効果があると思います。物流決済はヤマト運輸さんを使って、代引きもお願いしています。
  今後の展開としては、今までの相乗効果型から、自主販売を充実させていきたいと思っています。グループ企業の久米繊維やサンワプリントもホームページを立ち上げて、新しいサービスをしたいと思います。そして、今はほとんど手作りのホームページですが、ビジネスモデル特許の出願ラッシュが終わって来年秋頃には誰がどんなカードを持っているのかが明らかになりますから、その時期に一番強いカードを持っている人と組んで自動的なシステムを確立したいと考えています。
  お客様が私どもの在庫を見てオーダーできるような仕組みにしたいですね。さらに次のステップとして、Tシャツ屋だと夏だけの商売ですから、文具屋、鞄屋、冬物屋などの在庫を持って自分で生産しているようなメーカーと連合を組み、新しい取り組みを図ろうと思います。他にサードパーティーロジスティクスと言われているような物流専門業者とか決済業者と組めば、大企業にも勝るような仕組みが作れるのではないかと考えています。

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