ショウエイの事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
(株)ショウエイ 作成者:佐藤 晋治
ITC認定番号:0009062001C
作成年月日:2002年8月26日
1.はじめに
 右肩上がりの成長が止まり、企業には停滞感が広がっている。しかしそのような中においても成長発展している企業はある。 成長発展している企業に見られる特質は何であろうか?その問いかけに一定の解を与えているのがここに取り上げた(株)ショウエイ(以下当社と略称)の事例である。 当社の経営の特質は、常に市場環境の変化を先取りし、顧客ニーズを探索し、自社の強みを発揮できる領域を探索し、その領域で競合優位の条件を明確化し、 それを着実に実践していることである。そして今新しい事業への挑戦が行なわれている。

2.当社成長の要因
 図1に参考資料を元に当社の企業沿革をまとめた。縦軸に年代、横軸に法人形態、新規事業分野、事業形態、新製品、資本金、IT化、IT化目標を項目として取り上げた。 当社30年の歴史を概観し、優良企業として発展成長の要因を分析してみた。
 次の3つの成長要因を挙げることが出来る。
 ・新規事業開拓による挑戦
 ・主製品を中核に周辺開拓
 ・売れる仕掛け作りにITを積極活用
これらは統合化されて新規な事業ドメイン(注1)を形成し当社発展の源泉となった。つまり新規事業ドメインの開拓により成長してきたといえる。 以下、各項目についてみていく。



1)当社成長要因:新規事業開拓による成長
 当社の新規事業開拓を図2のように捉えることが出来る。



第一段階 下請け業
 下請け段階で板金、金属加工の技術をベースに事業を行なう。航空機、遊具、水処理などの機械及びプラントメーカが主要な顧客である。
第二段階 ろ過機メーカ(注2)
 ろ過機部品を中心にメーカとして自立、また水処理プラント工事事業を開始した。FRP(注3)製ろ過機と周辺の機械部品をベースに事業を行なう。 顧客は水処理機械、水処理プラントメーカである。
第三段階 プール・温泉施設工事業
 ろ過機メーカとしてまた施設工事のノウハウの蓄積からプール・温泉を企画から施工運営までトータルとしてコーディネートする。 顧客に旅館・ホテル、学校などの公共施設の施主が加わる。
第四段階 プール・温泉施設サービス業(温泉に関するトータルプロデュース)
 さらにコーディネートの経験から一般消費者向けのオリジナル露天風呂販売を開始した。顧客に一般消費者が加わる。 また、全国に設置した数千台のろ過装置をネットワークにより常時看視するサービスの提供を計画している。

2)当社成長要因:主製品を中核に周辺開拓
 創業以来、自社のコアとなる部分を中核にして事業を展開している。
中核製品を市場に出す上で必要な製品を開発して周辺を固めながら事業を拡大させてきた。すなわち、基幹技術から基幹ハード部品、装置、システム、 システムコンテンツの流れである。
 当社事業の揺籃期においては下請け・金属加工を通じて様々な企業との付き合いがあった。この段階では独自製品を保有しておらず もっぱら加工技術を軸としたものであった。"町工場からメーカーへ"の模索の段階で、自社技術を顧客ニーズに生かせる製品の絶えざる探索があった。 このような状況の中で"腐食しない軽い素材、FRPを使ったタンクの開発"のチャンスをつかんだ。これをきっかけにFRPろ過機シリーズ、 これらを元に環境ろ過装置、水処理ろ過装置を開発した。ろ過装置をベースに温泉・プール施設の工事を行い、その過程でFRPヘアキャッチ、多目的タンク、 EP製電動五方バルブ、耐熱耐食性熱交換器など水処理ろ過施設の基幹部品・機器を製品品目に加えている(図3参照)。
 ろ過装置段階を経てろ過システムの性格を強くする水処理施設建設のノウハウを生かして温泉システムなどのトータルコーディネートなどの コンサルテーションを事業に加えている。
 さらにリラクゼーションを提供するパッケージ型露天風呂販売へと事業を拡大させている。

3)当社成長要因:売れる仕掛け作りにITを積極活用
 IT活用能力が当社のコア・コンピタンス(注4)をなしている。特に販売する上での顧客への接近、競合優位形成に役立てている。
・中核製品のFRP製ろ過機の販売を支援する為の強力なツールとなっている・・・見積もりソフト。
・業態の変化に対応して業務システムを変革させる上でITを上手く活用している・・・提案システム、いつくしみ21。
・ITの可能性、特徴を元に新規業態を創出している・・・いつくしみ21、いつくしみ21CD。
・日常の業務の中に使いこなされ、絶えず改良が施され生きたソフトと成っている・・・見積もりソフト。
・明確な目的意識を持って自社にあった業務ソフトをつくっている。ITベンダーへの的確な仕様要求をおこなっている。
・ITベンダーを自社の有効な経営資源として戦力化している。

3.新しい事業ドメイン
 近年、当社の事業計数に大きな変化が見られる。図4に示す。又、事例で述べられている「いつくしみ21」が姿を現しつつある。 これは、当社が新規な事業領域へ歩を進めているものと捉えられる。すなわち、当社は顧客をメーカや旅館・ホテルの施主から一般消費者へと拡大させていること、 製品にCDコンテンツを加えたことにより、当社自身が温泉環境ろ過機というハードのメーカから「ハードとソフトを併せて提供する」温泉ソリューションサービス業の 性格を帯びてきている。

1)事業計数
 1990年10百万円の資本金は、2001年10月には70百万円と大幅に増加している。1997年25名の人員は、 2001年には74名とこれも大幅に増加している。新人の採用状況は、2002年6名と旺盛な採用を行なっている。又、文系への重点的な採用を行なっている。
 売上については1996年の売上7.8億円から2001年には11.45億円と年平均10%に近い伸びを確保している。 このようにヒト、カネなど経営資源の大幅な投入が見られる。一方、売上に関しては、着実な伸びのなかに人員比に見られるように厳しい面も伺われる。

2)いつくしみ21
 いつくしみ21は、一般消費者にインターネットを通じて露天風呂のパッケージを販売しようとするものである。新しい事業ドメインを (①顧客:一般消費者②顧客ニーズ:自宅で露天風呂を楽しみたい③コンピタンス:高性能循環ろ過装置、ホテル旅館で築いた温泉システムのノウハウ、IT活用能力) と捉えられる。ビジネスプロセスは当社HPによると①イメージ作り(インターネットで露天風呂の購入者が自分の好みの露天風呂選定し見積もりを行なう) ②現場打ち合わせ(設置の現場を下見し、造園・建築設計・建築設備の専門家による打合わせ)③依頼(メールによるやりとり) ④契約⑤施工⑥完成・引渡しというものである。また購入者が好みの露天風呂を楽しみながら設計ができるように「いつくしみ21CD」という 露天風呂創作シミュレーションCDをも併せて販売している。このCDは、露天風呂造りの解説書としてコンテンツそのものとしても楽しめる。

3)BtoCビジネスを推進する上でのポイント
 当社のようなハードメーカがインターネットを活用した一般消費者向けビジネスを展開する場合、留意すべきポイントは何であろうか。以下に若干の考察を加える。

①新規事業の収支ターゲットの明確化
 新規事業を企画する上でどのような事業においても収支ターゲットの明確化は当然のことである。しかし、インターネットを活用したBtoCビジネスにおいては、 インターネット環境の変化スピードが速いこと、一般消費者の顧客範囲を把握することの困難性から特にこのことを強調したい。 本事例の場合"露天風呂の愛好家"という顧客層に対して商品を拡販するのであるが、全国でどの程度の顧客が新規に見込めるか、 それによる収入(付加価値増)がいくら見込めるかが収入計画として明確化されなければならない。一方、顧客獲得の為の仕掛け作りに投資してよい金額が明確化される。 逆にこの投資額で新規顧客増がいくら見込めるか?収支的に勘定が合うか?この収支計算の過程で自ずから実行すべきターゲットが明らかにされる。 収支勘定の厳しいせめぎあいの中に無駄の無い投資が可能になる。また、投資が先行するが短期間内での収支均衡が可能かどうか見ていかねばならない。 環境変化が激しいので長期間での均衡計画は大きなリスク要因となる。
②クリックス・アンド・モルタルへの対応
 多くの成功したインターネットビジネスは、いわゆるクリックス・アンド・モルタル(注5)である。当社のビジネスプロセスモデルにおいても現場打合せ、 施工・引渡しという現実・現場局面がある。インターネットは全国津々浦々へ商談情報を流し、顧客を集めることができるが、 実施局面では全国での現場対応が必要である。仮に商圏を当社の近傍、例えば神奈川・東京に限定すると顧客数は当然少なくなる。 如何にして地域的に広範な顧客に対してビジネスプロセスを実施できる体制を作るかが課題と思われる。
③顧客への接近
 "露天風呂の愛好家"を顧客ターゲットとした場合、この顧客を当社のHPにアクセスしてもらう工夫が必要である。 "露天風呂の愛好家"がインターネットの"愛好家"であるとは限らない。インターネット習熟度が普通の顧客を当社HPまで導く為の仕掛けが必要である。 例えば、"露天風呂の愛好家"がインターネット上で露天風呂の供給者を探すシーンを考えてみよう。まず思いつくのが、ヤフーやニフティなどの検索ページの活用である。 検索ワードに"露天風呂"と入れて探すことが考えられる。この検索ワードで当社HPが一発で見出されることである。 あるいは、インターネット上で掲載されている各種"露天風呂"のHPからリンクされることである。また、温泉旅館、工事業者などからの口コミ、 インターネットのリンクが考えられる。このような、チャンネルを上手く活用することを考える必要がある。 また、当社HPへのアクセス後の顧客あるいは潜在顧客との関係作りが大切である。比較的高額かつ耐久商品なため、 リピート客の確保は困難であるが好意的な顧客を増やし口コミで顧客確保に結びつける方策は有効と思われる。



4.むすび
 成長発展へのキーは、事例に見たように顧客、顧客ニーズ、コンピタンスを適切に組み合わせた事業ドメインの開拓である。 すなわち、市場環境の変化を鋭く捉え、自社の強みを的確に把握し、新規事業領域に大胆かつ堅実に投資を実行してはじめて、 成長発展の果実を得ることができるのである。

[参考資料]
1)事例本文
2)当社HP
  http://www.shoei-roka.co.jp/
3)登竜門企業紹介ページ
  http://www.toryumon.or.jp/
4)2000年80版帝国データバンク会社年鑑
5)2002年帝国データバンク TDB会社情報
6)日本プールアメニティー施設協会HP
  http://www.jpaa.com/
7)日経ベンチャー2002.5 25ページ

[注]
注1:事業ドメイン
 企業の事業活動領域を「顧客・ニーズ・コンピタンス(技術・プロセス能力・人材等)」、という三つの視点から分かりやすく示したものであり、 「組織が事業を営む為に選択し、集中すべき範囲であり領域である」(ITコーディネータ専門知識教材テキスト08 25ページ)。
誰(who)に何(what)を競争優位に奉仕するかという戦略的ターゲットに加え、さらにどのように(how)に競争優位に奉仕すべきかという 戦略上のポジションができ上がるのである。この一貫的なセット策定こそが戦略ドメインにほかならない (現代マーケッティング  198ページ 嶋口充輝・石井淳蔵 )。

注2:ろ過機
 水をろ過して細菌、異物などを除去するものである。当社の事業領域の温泉とかプールを対象したものは、 例えば日本プールアメニティ協会会員企業の各社HPからピックアップすると表1のようになる。


注3:FRP(fiberglass reinforced plastics)
 ガラス繊維・炭素繊維などをプラスチックで固めて成型したもの。軽量で強い。繊維強化プラスチック。
(広辞苑)

注4:コア・コンピタンス(core competence)
 企業が持つ、ライバルが模倣できない自社ならではの価値を創出する重要な能力で、大別して技術ノウハウと事業プロセスにかかわる能力に分けられる。
(知恵蔵2001)

注5:クリックス・アンド・モルタル (clicks and mortar)
 店舗や倉庫などを有するビジネスモデルは「ブリックス・アンド・モルタル(レンガと漆喰)」と呼ばれ、オンラインとは対極の古臭いものと扱われていたが、 オンラインと店舗・倉庫の両方を活用するビジネスモデルが登場し、これが「クリックス・アンド・モルタル」と呼ばれるようになった。
(戦略経営コンセプトブック2002 東洋経済新報社)

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