ヤマトヤ事例コメント

IT Coordinators Association
事例コメント
(株)ヤマトヤ 作成者:メリットブース
     加藤 雅友
ITC認定番号:0019252002A
作成年月日:2002年5月14日
1.事例の背景
 (株)ヤマトヤの事例をみると、一般消費者をビジネスの対象とする小売業の現状がよく理解できる。すなわち高度化、多様化する顧客ニーズに対応することが生き残りの条件となっているが、現在の小売業の多くは自社の過去の成功体験が障害となり、問題の本質や解決の糸口を見出せないままでいるのが実態のようだ。
 小売業の状況を示すデータとして、経済産業省「商業統計表」による『(従業者規模別)小売業の商店数、従業員数、販売額』の資料がある。《表1》 昭和63年と平成11年を比較すると、全体傾向では"商店数"が90%を割っているが、"従業者数"、"年間販売額"が堅実に増加している。また、"1人当たり販売額"も改善されている。 しかし、従業者規模別の内容をみると、"商店数"、"従業者数"、"年間販売額"は規模の大きい商店の構成比が高くなり、"1人当たり販売額"は規模の小さい商店ほど上昇傾向にある。このことから、商店が大型化しながら集約される傾向にあり、片や淘汰されながら小さくても独自に効率を高めている商店が生き残っているようにもみえる。

《図1》小売業の商店数、従業員数、販売額(中小企業白書2001年版より)





 同社が属する繊維・服飾の業界では、大手企業が製造から販売までを自ら行い、高品質・低価格の商品提供を実現している。結果、業界全体に淘汰の波が押し寄せ、とくに小規模店舗にとって存続の危機が迫っている。一方、同社のように業績を着実に伸ばしている企業もある。 このような状況は、顧客の要求が一律的ではなく、ライフステージや用途により使い分けられるものであるため、営業の手法もさまざまな形で構築され、時代変化に合わせてそれぞれに進化する必要のあることを意味している。
 同社も徹底して顧客満足度の向上を図るために、自店のターゲット顧客を明らかにし、自らの強みをベースに独自の商売を進めている。当事例では、同社の江頭社長がPOSレジを中心にITを活用し、個々の顧客の好みとニーズに相応しい商品を提供しようと精力的に活動されている様子が大変参考になる。

2.(株)ヤマトヤの強みと方向性
   ~参考~ヤマトヤ URL:http://island3.matsuronet.ne.jp/yamatoya/
 事例本文と(株)ヤマトヤのホームページをみると、同社江頭社長の人柄や顧客にやさしい経営理念がよく伝わってくる。フランクにコメントすると、"スマート"や"最新"といった言葉は思い浮かばなかったが、顧客に対する関心の大きさと、顧客を思いやる"心"がよく見えた。
 同社が最初に行ったのは、バーコードを用いた顧客ごとの単品管理であった。過去の購買履歴から当該顧客の好みを把握し、顧客の好みに応じたダイレクトメールの発送を試みた。そのダイレクトメールは江頭社長が、取引先や展示会などで得た情報をデジタルカメラでビジュアル化し、一人一人の顧客へ発送するものであった。さらには、購入を迷う顧客には、デジタルカメラで試着した姿を撮って渡すなど、常に顧客の立場にたって活動している。 それと合わせて、顧客とのコミュニケーションを大切に考えて実施したのは、新入社員に対する接客の教育であった。新入社員でも簡単に実行できることに重点を置かれているのが特徴的であり、江頭社長の合理性と優しさがうかがえる。
 江頭社長の顧客と従業員に対する深い思いやりをベースに営まれる経営に、同社の強みと魅力があるのではと推測しながら、以下のような整理を行ってみた。
 (1)SWOT分析
 まず、ヤマトヤの経営を客観的にみるために、事例内容をベースにSWOT分析を行ってみる。強みとして際立つのはヤマトヤの長い歴史に培われた信用と、江頭社長の誠実で積極的な経営である。また、厳しい外部環境に危機感を持ちながら、的確に弱みの改善に取り組む姿勢も感じ取られる。≪図1≫


 (2)ポジショニング分析
 次に、ヤマトヤの営業の特徴を他企業との関係でみてみる。顧客との関係を重視し、1人1人の顧客に最も相応しい商品を見つけ出し、提供できることが同社の魅力である。従来からの同社の商売であるが、それらの特徴がシステムの構築やデータの活用によってさらに磨きがかけられることと思う。≪図2≫


 (3)CSF(重要成功要因)の構成イメージ
 事例本文と同社ホームページの内容から"ヤマトヤのCSF"を探ってみると、ファッションを好み、生活を楽しもうとする性別や世代を越えた幅広い客層をターゲットにした、「 お客様が喜ぶ商品とサービスの提供による、一人一人のお客様との良好な関係の構築 」であると思う。そして、事例にあるような情報を活用した顧客とのコミュニケーション、接客サービスの充実、魅力あるファッション商品の調達など、このCSFを実現するための一貫した活動であることがわかる。≪図3≫


3.事例にみるCRMの実現
 当事例は、顧客を愛しながら科学的・システム的に顧客を理解し、考え、行動することの実例を示してくれた。基本的なアプローチは"①お客さまを知る②お客さまを理解する③お客様に喜んでいただく"となるが、江頭社長はそれを実に自然体で自らの行動に組み込んでいる。具体的には、顧客に喜んでいただくために商品調達を国内に限定せずグローバルに行い、 IT活用を手段として技術的なことより効果を優先していることなどである。また、同社の場合は長い歴史の中で顧客との強い友好関係を築き、顧客を基点にビジネスモデルを作りあげていることも経営の基盤になっている。このことは、顧客を思いやるというCRM(注1)の本質は共通でも、それを実行するやり方は各社それぞれに存在することを実証している。
 同社の事例より、CRMの実現を顧客との関係で描くことができる。それは、店舗と顧客との信頼関係が、取引を重ねながら進化していくプロセスでもある。≪図4≫


 業種や企業が違っても、顧客との関係が経営の基本である。"顧客第一主義"を方針に掲げる企業は多いが、自社独自のビジネスモデルをもっていることが成功の条件のようである。

注1:CRM(カスタマ・リレーションシップ・マネジメント)
 顧客との長期的な関係を緊密に築くことで、販売・利益の拡大を図る手法である。顧客一人一人の好みやニーズに対応した商品・サービスを提供するための、業務プロセスやデータベースを顧客中心に組み直すことが求められる。CRMを効果的に実現するためには、インターネットへの対応や顧客データベース、情報システムを統合的に整備することが必要となる。

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